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* タイトル『怒っていますん』 登場キャラ:[[菅野隻蔵>石]]、[[網渡愛海]]、[[最高最速の魔人ヒーロー『サーティファイブ』]]、[[でゆら・ハーン!]] 「……また随分と派手なことになってますね」 「あいつら滅茶苦茶やるなぁ……開戦前からこれじゃ、ハルマゲドンが始まったら校舎ごと吹き飛ばしかねないぞ」 二人の男女が、無残にも崩れ落ちた渡り廊下を眺めながらやれやれといった表情を作る。 ハルマゲドン開始まで48時間を切り、徐々にピリピリとした空気が張り詰めていくこの戦場予定地において、今この瞬間の二人の心中はシンプルな思いで満たされていた。 すなわち、「本当迷惑だなぁ古参の人たち……」である。 渡り廊下で新参魔人が古参魔人に絡まれてるらしい──そのような情報を入手した新参陣営はすぐさま二人の魔人を現場へ走らせた。 一人は強力な防衛能力を持つ菅野隻蔵、もう一人は比類なき十徳ナイフ使い網渡愛海である。 「仲間の救出を第一目標としつつ、出来れば穏便に話し合いで済ませて欲しい」 リーダーからの指示は概ねこのようなものであったが、無論後半の内容は望み薄だ。 古参陣営が話して分かる連中ならばそもそもハルマゲドンなど開催する必要がない。奴らはとにかく新参者に難癖がつけたいだけなのだ。 そんなことはリーダーも分かっているのだが、現実問題として開戦直前の今無駄に負傷者を増やすわけにはいかない。まあやるだけやってみて、駄目そうだったらすぐ帰ってきていいよといった具合である。 だが、結果としてそれらの心配は杞憂に終わる。菅野隻蔵と網渡愛海の二人が現場に着いた時点で、すでに戦闘は終わっていたからだ。 現場に残されたのは……否、残された現場は、ただの瓦礫の山であった。 「こう言っちゃなんだけど、喧嘩ふっかけられたのがゴミさんで良かったよ。あの人異常に打たれ強いからなぁ」 そう言って、菅野は苦笑した。すでに彼らはこの辺りの生徒から一通りの情報収集を済ませ、今回の件の全貌を掴んでいた。仲間の無事を知っているからこその冗談である。 今回の件、どうやら本当に突発的なものだったらしい。 2年生ながら新参陣営に所属する三五三が渡り廊下を歩いていると、ある女子生徒と肩がぶつかった。それだけならよくある学園風景だが、不運なことにこの女子生徒は3年生にして恐怖の古参魔人、でゆら・ハーン!であったのだ。 でゆらは当然先輩として生意気な新参魔人に礼儀を叩き込んでやらねばならない。その場で立ち止まって五三に向かって『なんだテメー』『舐めてんのかこら』など威圧的な言葉を繰り返し、顔を覗き込んでまで罵声を浴びせるのだが如何せん五三はそれどころではない。 いくら首から上がないといってもでゆらは健康的な女子高生であり、そのでゆらと肩と肩で接触しあまつさえこうして顔(にあたる部分)を近づけられるなど童貞の五三には刺激が強すぎたのだ! いやその、えっと……などと呟きながら顔を赤らめる五三はしかし、勇気を出してでゆらの目(が本来有るであろう空間)を見た。童貞が非童貞への一歩を踏み出した感動的瞬間だ! 冗談抜きで、この一歩は彼の命を救う一歩となった。 五三が正面を向いたその瞬間、あろうことかでゆらは愛用の竹刀を抜き、そのまま五三に向けて振り下ろしている最中だったのだから。 これには流石の五三も驚き、自慢の脚力を駆使して竹刀の間合いからどうにか逃れることに成功した。 如何に校内で権力を持つ古参魔人といえど、これは新参への可愛がりの域を超えている。童貞が肩に触れたぐらいでそんなに怒らなくてもいいじゃないか。もしやこれが彼女なりの照れ隠しなのか。五三がこんなことを考えた矢先に異変が訪れた。 地面が、傾いている。 「は?」という言葉と共に五三は崩れ行く渡り廊下諸共地面へ落下。瓦礫の山に埋もれることとなった。 でゆらはそれを見届けてから踵を返し、多少気まずそうに帰っていった…… 以上が目撃情報をもとに推測される今回の顛末であるが、喧嘩の仲裁役を覚悟して駆けつけた二人にとってはあまりにもアホらしい話であった。 どうして肩がぶつかっただけで渡り廊下が崩壊するようなことになるのか。 でゆらは短慮過ぎるし、五三も童貞過ぎる。もう少しお互い冷静になって欲しい……そう願うのも仕方ないことだろう。 なお、瓦礫の下敷きになったはずの五三は二人が駆けつけた直後に 「ピンチの時は……イッツミィィィ!!俺に助けを求めなァ!!」などと叫びながら瓦礫の外に出現して盛大にすっ転んだ。 どうやら近くの女子生徒が瓦礫を踏んで転びそうだったのを能力によって肩代わりしたようだが、突然目の前に傷だらけの男が現れて叫びながらすっ転んだとあっては助けられた女子生徒もドン引きである。 さらに、仲間の無事に安心してとりあえず保健室へ連れて行こうとする菅野と網渡に対して「いや、俺は五三じゃなくてサーティファイブだから」などと言いながらこの場を立ち去ろうとするのだから面倒くさい。 いくらマスクを被っていても仲間から見れば中身が五三なのはバレバレなのだが、本人なりに譲れないものがあるのだろう。仕方ないので網渡が十徳ナイフで消毒・止血等の応急処置を済ませて、「ゴミ先輩を見かけたらちゃんと保健室へ行くように言っておいてくださいね」と言い含めて解放したのだった。 「まあゴミ先輩はあれだけ叫べて走れるなら大丈夫でしょう。それより目の前のこれですが……」 網渡は改めて瓦礫の山に視線を移し、それから菅野に向かって言った。 「やっぱり、このままは良くないですよね」 菅野も質問の意図を悟り、正直に答えた。 「んー……まあ、そうだね」 彼らはなにも学生生活における渡り廊下の重要性を確かめ合っているわけではない。間近に迫るハルマゲドンにおいて、渡り廊下が無いとこちらの作戦が成り立たないという話をしているのだ。 今ある防衛作戦は全て渡り廊下の存在を前提としている。開戦まであと僅かの今、一から作戦を練り直すのは極力避けたいところだった。 菅野はその強力な魔人能力により今回のハルマゲドンにおける守備の要として期待されているが、それも渡り廊下あっての話である。 「そうなると、ここは私が直すしかないですね」 全く仕方ないなぁといった口調で話す網渡は、言葉とは裏腹に徐々に口角を吊り上げている。右手に持った十徳ナイフがギラリと輝き、なにやら只ならぬ雰囲気を醸し出す。 「……あのさ、渡り廊下を直してくれるのは有り難いけど、別に余計な機能付けなくていいからね」 「えっ空間を捻じ曲げて端と端をつなげたりとか」 「不可能を可能にする系禁止で」 「事前にパターンを覚えてないと絶対避けられない連続ビームが襲ってくるとか」 「他の生徒に迷惑かける系も禁止で」 「……せめて、動く歩道だけでも」 「いやほんと、頼むから元のままにして……」 五分後、そこには見事に元のままの姿を取り戻した渡り廊下があった。その辺に散らばっていた瓦礫を材料に使ったので騒ぎの証拠隠滅も出来、さらに耐久力も崩れる以前より高いというまさに文句無しの出来栄えである。 が、それを十徳ナイフ1本で成し遂げた網渡はまるで面白くないといった表情でぶつぶつと文句を言っていた。 「こんなの十徳ナイフじゃなくても出来ますよー……せっかく十徳ナイフのポテンシャルを見せつけられるチャンスだったのに」 「いや、普通は十徳ナイフじゃ渡り廊下は作れないんだけどね……」 菅野は冷や汗をかきながら返事をする。網渡は変人揃いの新参陣営の中では比較的常識人なのだが、隙あらば十徳ナイフで常識を捻じ曲げようとするので心臓に悪いのだ。 「とにかく、これで万事オーケーだ。ゴミ先輩は無事、渡り廊下も元通り。あとはハルマゲドンを待つばかりだな!」 「また分かりやすいフラグを……開戦まで何があるか分からないんですから、気を抜かないでくださいね」 「わ、分かってるって……やっぱり、歩く歩道まで禁止にしたの、まだ怒ってる?」 「もう怒っていますん」 「やっぱりちょっと怒ってるじゃないか……」 くだらない会話に興じつつ、網渡は今回の件に軽い違和感を覚えていた。 怒ってるといえば、今回のでゆらの行動はやはり少し不自然ではないか? いくら古参と新参の関係といっても、ハルマゲドンも始まっていないのに肩がぶつかっただけで五味を即殺しようとするのはなかなかイカれている。もしかしたら古参側で何かが起こっているのかも──そこまで考えた時点で網渡は頭を振った。 どうせ古参の連中の考えることはよく分からない。それよりも、昨今の十徳ナイフの多様性について考えよう。まずは人類と十徳ナイフが共に進化してきたことを象徴するようなイカしたあいつ、USBメモリ内蔵型十徳ナイフについて…… **おまけ&br()「でゆらさん視点では何が起きてたのか」 今回の件は、本当に突発的なものだった。 3年生にして古参陣営に所属するでゆら・ハーン!が渡り廊下を歩いていると、ある男子生徒と肩がぶつかった。それだけならよくある学園風景だが、不運なことにこの男子生徒は2年生ながら3年を目の敵にする新参魔人、三五三であったのだ。 でゆらは当然年長者として後輩に思いやりを持ってやらねばならない。すぐに立ち止まって五味に向かって「ごめんなさい!」「怪我はない?」など謝罪の言葉を繰り返すのだが、何故か五三から反応がない。 もしや本当にどこか痛めたのかもしれないと思い、「ねぇ、どこか痛かったら言って?」と言いながら五三の顔を覗き込むようにしてみれば、そこには怒りで真っ赤に染まった憤怒の形相が浮かび上がっているではないか! 「ひぇぇぇ!?そ、そんなに怒らなくても…!」 『潰す…ぐちゃぐちゃのミンチにしてやる…』などと呟きながら怒り狂う五三は突然でゆらと目線を合わせ、悪魔のような眼光で睨みつけてきた!もはや一刻の猶予もない! 恐怖で我を忘れたでゆらは、半ば無意識のうちに抜刀していた。殺らなきゃ殺られる──本能がそう言っていたのだ。 だが五三は恐るべき身のこなしでこの一撃を避けた。ああ、もはやでゆらの命はここまでなのか……否、いかに戦いを好まない性格といえど、彼女もまたこの希望崎学園で3年間生き抜いた実力者である。 次の瞬間、渡り廊下が真っ二つに割れた。ここまでが彼女の狙いだったのだ。 先の一撃はただの一振りにあらず。異次元を経由して本来なら竹刀が届かない位置まで問答無用で斬りつけるでゆらの魔人能力、「ディストーション・メーン!」である。 これにより、『許さない』という言葉と共に五三は崩れ行く廊下共々地面へ落下。瓦礫の山に埋もれることとなった。 でゆらはそれを見届けてから、 (し、死んでないよね…?とにかく今は逃げないと…っ、今度会った時ちゃんと謝ろう!) そう決意しながらも、なんでこんなことになっちゃったんだろうと後悔しながら足早にその場を後にした… 補足 でゆらからはこちら側は(歪んではいるが)見えている。 会話はお互いに(歪んで聞こえるが)できる。 魔人になる前は心優しく世間の評判の良い娘だったのに 魔人覚醒後はまるで人が変わったかのような極悪人になってしまったとの噂だが……? ※「向こう側」 でゆらだけが認識している異世界。でゆらの能力は、この異世界に行き来したりさせたりできる能力。 しかしその際に、あらゆる性質が変化しまったくの別物になってしまうのだという。 これを、でゆらは「歪む」と表現している。 (でゆら・ハーン!のキャラクター説明より一部引用)
* タイトル『怒っていますん』 登場キャラ:[[菅野隻蔵>石]]、[[網渡愛海>網渡 愛海]]、[[最高最速の魔人ヒーロー『サーティファイブ』]]、[[でゆら・ハーン!]] 「……また随分と派手なことになってますね」 「あいつら滅茶苦茶やるなぁ……開戦前からこれじゃ、ハルマゲドンが始まったら校舎ごと吹き飛ばしかねないぞ」 二人の男女が、無残にも崩れ落ちた渡り廊下を眺めながらやれやれといった表情を作る。 ハルマゲドン開始まで48時間を切り、徐々にピリピリとした空気が張り詰めていくこの戦場予定地において、今この瞬間の二人の心中はシンプルな思いで満たされていた。 すなわち、「本当迷惑だなぁ古参の人たち……」である。 渡り廊下で新参魔人が古参魔人に絡まれてるらしい──そのような情報を入手した新参陣営はすぐさま二人の魔人を現場へ走らせた。 一人は強力な防衛能力を持つ菅野隻蔵、もう一人は比類なき十徳ナイフ使い網渡愛海である。 「仲間の救出を第一目標としつつ、出来れば穏便に話し合いで済ませて欲しい」 リーダーからの指示は概ねこのようなものであったが、無論後半の内容は望み薄だ。 古参陣営が話して分かる連中ならばそもそもハルマゲドンなど開催する必要がない。奴らはとにかく新参者に難癖がつけたいだけなのだ。 そんなことはリーダーも分かっているのだが、現実問題として開戦直前の今無駄に負傷者を増やすわけにはいかない。まあやるだけやってみて、駄目そうだったらすぐ帰ってきていいよといった具合である。 だが、結果としてそれらの心配は杞憂に終わる。菅野隻蔵と網渡愛海の二人が現場に着いた時点で、すでに戦闘は終わっていたからだ。 現場に残されたのは……否、残された現場は、ただの瓦礫の山であった。 「こう言っちゃなんだけど、喧嘩ふっかけられたのがゴミさんで良かったよ。あの人異常に打たれ強いからなぁ」 そう言って、菅野は苦笑した。すでに彼らはこの辺りの生徒から一通りの情報収集を済ませ、今回の件の全貌を掴んでいた。仲間の無事を知っているからこその冗談である。 今回の件、どうやら本当に突発的なものだったらしい。 2年生ながら新参陣営に所属する三五三が渡り廊下を歩いていると、ある女子生徒と肩がぶつかった。それだけならよくある学園風景だが、不運なことにこの女子生徒は3年生にして恐怖の古参魔人、でゆら・ハーン!であったのだ。 でゆらは当然先輩として生意気な新参魔人に礼儀を叩き込んでやらねばならない。その場で立ち止まって五三に向かって『なんだテメー』『舐めてんのかこら』など威圧的な言葉を繰り返し、顔を覗き込んでまで罵声を浴びせるのだが如何せん五三はそれどころではない。 いくら首から上がないといってもでゆらは健康的な女子高生であり、そのでゆらと肩と肩で接触しあまつさえこうして顔(にあたる部分)を近づけられるなど童貞の五三には刺激が強すぎたのだ! いやその、えっと……などと呟きながら顔を赤らめる五三はしかし、勇気を出してでゆらの目(が本来有るであろう空間)を見た。童貞が非童貞への一歩を踏み出した感動的瞬間だ! 冗談抜きで、この一歩は彼の命を救う一歩となった。 五三が正面を向いたその瞬間、あろうことかでゆらは愛用の竹刀を抜き、そのまま五三に向けて振り下ろしている最中だったのだから。 これには流石の五三も驚き、自慢の脚力を駆使して竹刀の間合いからどうにか逃れることに成功した。 如何に校内で権力を持つ古参魔人といえど、これは新参への可愛がりの域を超えている。童貞が肩に触れたぐらいでそんなに怒らなくてもいいじゃないか。もしやこれが彼女なりの照れ隠しなのか。五三がこんなことを考えた矢先に異変が訪れた。 地面が、傾いている。 「は?」という言葉と共に五三は崩れ行く渡り廊下諸共地面へ落下。瓦礫の山に埋もれることとなった。 でゆらはそれを見届けてから踵を返し、多少気まずそうに帰っていった…… 以上が目撃情報をもとに推測される今回の顛末であるが、喧嘩の仲裁役を覚悟して駆けつけた二人にとってはあまりにもアホらしい話であった。 どうして肩がぶつかっただけで渡り廊下が崩壊するようなことになるのか。 でゆらは短慮過ぎるし、五三も童貞過ぎる。もう少しお互い冷静になって欲しい……そう願うのも仕方ないことだろう。 なお、瓦礫の下敷きになったはずの五三は二人が駆けつけた直後に 「ピンチの時は……イッツミィィィ!!俺に助けを求めなァ!!」などと叫びながら瓦礫の外に出現して盛大にすっ転んだ。 どうやら近くの女子生徒が瓦礫を踏んで転びそうだったのを能力によって肩代わりしたようだが、突然目の前に傷だらけの男が現れて叫びながらすっ転んだとあっては助けられた女子生徒もドン引きである。 さらに、仲間の無事に安心してとりあえず保健室へ連れて行こうとする菅野と網渡に対して「いや、俺は五三じゃなくてサーティファイブだから」などと言いながらこの場を立ち去ろうとするのだから面倒くさい。 いくらマスクを被っていても仲間から見れば中身が五三なのはバレバレなのだが、本人なりに譲れないものがあるのだろう。仕方ないので網渡が十徳ナイフで消毒・止血等の応急処置を済ませて、「ゴミ先輩を見かけたらちゃんと保健室へ行くように言っておいてくださいね」と言い含めて解放したのだった。 「まあゴミ先輩はあれだけ叫べて走れるなら大丈夫でしょう。それより目の前のこれですが……」 網渡は改めて瓦礫の山に視線を移し、それから菅野に向かって言った。 「やっぱり、このままは良くないですよね」 菅野も質問の意図を悟り、正直に答えた。 「んー……まあ、そうだね」 彼らはなにも学生生活における渡り廊下の重要性を確かめ合っているわけではない。間近に迫るハルマゲドンにおいて、渡り廊下が無いとこちらの作戦が成り立たないという話をしているのだ。 今ある防衛作戦は全て渡り廊下の存在を前提としている。開戦まであと僅かの今、一から作戦を練り直すのは極力避けたいところだった。 菅野はその強力な魔人能力により今回のハルマゲドンにおける守備の要として期待されているが、それも渡り廊下あっての話である。 「そうなると、ここは私が直すしかないですね」 全く仕方ないなぁといった口調で話す網渡は、言葉とは裏腹に徐々に口角を吊り上げている。右手に持った十徳ナイフがギラリと輝き、なにやら只ならぬ雰囲気を醸し出す。 「……あのさ、渡り廊下を直してくれるのは有り難いけど、別に余計な機能付けなくていいからね」 「えっ空間を捻じ曲げて端と端をつなげたりとか」 「不可能を可能にする系禁止で」 「事前にパターンを覚えてないと絶対避けられない連続ビームが襲ってくるとか」 「他の生徒に迷惑かける系も禁止で」 「……せめて、動く歩道だけでも」 「いやほんと、頼むから元のままにして……」 五分後、そこには見事に元のままの姿を取り戻した渡り廊下があった。その辺に散らばっていた瓦礫を材料に使ったので騒ぎの証拠隠滅も出来、さらに耐久力も崩れる以前より高いというまさに文句無しの出来栄えである。 が、それを十徳ナイフ1本で成し遂げた網渡はまるで面白くないといった表情でぶつぶつと文句を言っていた。 「こんなの十徳ナイフじゃなくても出来ますよー……せっかく十徳ナイフのポテンシャルを見せつけられるチャンスだったのに」 「いや、普通は十徳ナイフじゃ渡り廊下は作れないんだけどね……」 菅野は冷や汗をかきながら返事をする。網渡は変人揃いの新参陣営の中では比較的常識人なのだが、隙あらば十徳ナイフで常識を捻じ曲げようとするので心臓に悪いのだ。 「とにかく、これで万事オーケーだ。ゴミ先輩は無事、渡り廊下も元通り。あとはハルマゲドンを待つばかりだな!」 「また分かりやすいフラグを……開戦まで何があるか分からないんですから、気を抜かないでくださいね」 「わ、分かってるって……やっぱり、歩く歩道まで禁止にしたの、まだ怒ってる?」 「もう怒っていますん」 「やっぱりちょっと怒ってるじゃないか……」 くだらない会話に興じつつ、網渡は今回の件に軽い違和感を覚えていた。 怒ってるといえば、今回のでゆらの行動はやはり少し不自然ではないか? いくら古参と新参の関係といっても、ハルマゲドンも始まっていないのに肩がぶつかっただけで五味を即殺しようとするのはなかなかイカれている。もしかしたら古参側で何かが起こっているのかも──そこまで考えた時点で網渡は頭を振った。 どうせ古参の連中の考えることはよく分からない。それよりも、昨今の十徳ナイフの多様性について考えよう。まずは人類と十徳ナイフが共に進化してきたことを象徴するようなイカしたあいつ、USBメモリ内蔵型十徳ナイフについて…… **おまけ&br()「でゆらさん視点では何が起きてたのか」 今回の件は、本当に突発的なものだった。 3年生にして古参陣営に所属するでゆら・ハーン!が渡り廊下を歩いていると、ある男子生徒と肩がぶつかった。それだけならよくある学園風景だが、不運なことにこの男子生徒は2年生ながら3年を目の敵にする新参魔人、三五三であったのだ。 でゆらは当然年長者として後輩に思いやりを持ってやらねばならない。すぐに立ち止まって五味に向かって「ごめんなさい!」「怪我はない?」など謝罪の言葉を繰り返すのだが、何故か五三から反応がない。 もしや本当にどこか痛めたのかもしれないと思い、「ねぇ、どこか痛かったら言って?」と言いながら五三の顔を覗き込むようにしてみれば、そこには怒りで真っ赤に染まった憤怒の形相が浮かび上がっているではないか! 「ひぇぇぇ!?そ、そんなに怒らなくても…!」 『潰す…ぐちゃぐちゃのミンチにしてやる…』などと呟きながら怒り狂う五三は突然でゆらと目線を合わせ、悪魔のような眼光で睨みつけてきた!もはや一刻の猶予もない! 恐怖で我を忘れたでゆらは、半ば無意識のうちに抜刀していた。殺らなきゃ殺られる──本能がそう言っていたのだ。 だが五三は恐るべき身のこなしでこの一撃を避けた。ああ、もはやでゆらの命はここまでなのか……否、いかに戦いを好まない性格といえど、彼女もまたこの希望崎学園で3年間生き抜いた実力者である。 次の瞬間、渡り廊下が真っ二つに割れた。ここまでが彼女の狙いだったのだ。 先の一撃はただの一振りにあらず。異次元を経由して本来なら竹刀が届かない位置まで問答無用で斬りつけるでゆらの魔人能力、「ディストーション・メーン!」である。 これにより、『許さない』という言葉と共に五三は崩れ行く廊下共々地面へ落下。瓦礫の山に埋もれることとなった。 でゆらはそれを見届けてから、 (し、死んでないよね…?とにかく今は逃げないと…っ、今度会った時ちゃんと謝ろう!) そう決意しながらも、なんでこんなことになっちゃったんだろうと後悔しながら足早にその場を後にした… 補足 でゆらからはこちら側は(歪んではいるが)見えている。 会話はお互いに(歪んで聞こえるが)できる。 魔人になる前は心優しく世間の評判の良い娘だったのに 魔人覚醒後はまるで人が変わったかのような極悪人になってしまったとの噂だが……? ※「向こう側」 でゆらだけが認識している異世界。でゆらの能力は、この異世界に行き来したりさせたりできる能力。 しかしその際に、あらゆる性質が変化しまったくの別物になってしまうのだという。 これを、でゆらは「歪む」と表現している。 (でゆら・ハーン!のキャラクター説明より一部引用)

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