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本編(年表以外)第壱話 - (2007/12/03 (月) 13:20:34) の1つ前との変更点

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<p><font size="2">年表以外に書かれたお話(こちらが本編?)を保存します</font></p> <p>第壱話というのは仮名ですが、何らかの名前が付けられるのであれば、変更してください</p> <hr> <p> <span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><a href= "menu:947"><font face="Arial" color="#0000FF">947</font></a><font face= "Arial">名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:08:29 ID:???<br> ・・・EOLTと戦う上で最も気をつけること?<br> 気をつけることも何も、言える事といえばひとつしかないな<br> <br> EOLTと真っ向から戦うことなど、無謀なこと以外の何でもないということだよ<br> まして接近戦を挑めば、EOLTに勇敢にも挑戦した人間の五対は離れ離れになって宙を舞うだろう<br> <br> そう、25m以内の距離でEOLTと生身で対峙する事は、ほんの数秒後の“死”を意味する<br> 5秒以上、抗えることができれば幸運といっても良い<br> <br> ではどうするか、<br> 思いつくものといえば、遠距離から火力と物量で接近する前に押し潰してしまうか<br> 待ち伏せなどを使った奇襲攻撃で敵を十字砲火の中心におびき寄せ、圧倒的な火線で回避を許さないこと<br> おそらく、このどれかだろう<br> <br> <a href="menu:948"><font color="#0000FF">948</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:09:52 ID:???<br> <br> だが、そのどれもまず不可能だ<br> 遠距離から火力と物量で圧倒するも何も、圧倒できる物量と火力を確保することはまず無理だ<br> 時速100km以上で疾走し、2、30mm程度の砲では皮膚を破ることもできない防御力を持つ怪物が数百体でまとまって行動するんだ<br> 重砲弾や戦車砲弾で、機関銃のそれと同じほど濃密な弾幕を張れれば別だが<br> <br> 次に奇襲や不意討ちから包囲殲滅を行う戦法、これもだめだ<br> そもそも、奇襲をかけるということ自体が不可能に近い、わかるか?<br> よく知られているところでは、千里眼科はすべてを見通せる目で、ハンバーガーのカロリーから兵士の血中ヘモグロビン濃度まで何でもお見通し<br> そして、その神のような目の射程は数十km、もっと大雑把な情報ならば数百km彼方からでも把握できる<br> そしてそれは何らかの方法で前線にいるすべてのEOLTの知覚とリンクしているらしいことがわかっている<br> これだけで、もう戦術レベルで先手を取る見込みはないと思うだろう?<br> <br> そして、もっと規模の小さなレベルでの不意討ちなども無理だ<br> 千里眼科も、さすがにすべてを把握しているわけではないようであることは、分かっている<br> 現に映像を分析する過程で、事故に遭うEOLTがいることも事実だ<br> しかし、戦闘において、EOLTが“ドジ”を踏むところは報告されていない<br> 特に探査科においては、その優れた感覚器官で、地雷や壁の後ろに隠れた兵士、そういったものを見逃すことはまずない<br> 仮に、見逃してうっかり罠にかかり、人間の兵士に銃口を向けられたとしよう<br> それがどうしたかということだ、物陰に潜ませていられる兵力などせいぜい分隊程度、EOLTの前にはほぼ無力だ<br> 罠に掛けられ焦ったEOLTは全力で反撃を行うだろう、場合によっては2秒で全滅だ<br> <br> <a href="menu:949"><font color="#0000FF">949</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:10:40 ID:???<br> <br> EOLTを撃破できる事といえば<br> 偶然に近い形で運よく、対戦車火器や戦車砲弾がEOLTに命中するか<br> 近くで炸裂した砲爆弾の破片と爆風で致命傷を負ったり、急所に当たって即死したりする場合ぐらい<br> 奇跡的に歩兵部隊の重火器で撃破できることもあるだろうが、まずあり得ない<br> <br> まあ、死なない程度に頑張ってくれ、勝とうとか相手を殺そうとか、考えないほうがいい<br> <br> 無理だろうから<br> <br> ―――正午の国連公式発表後にて<br> BBCの問に答えるEIE本部職員<br> 時刻、誰が誰に聞いたものかは不明―――<br></font></font></span><span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font face="Arial"><br> ((解説)):初代スレの&gt;&gt;947-949に書かれていたサイドストーリー?です。仮にここで保存します</font></font></span></p> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial">公式発表でないにもかかわらず、情報を流しているなど、職員の独断で話しているようです。<br> (口調などから、佐藤ではなさそうです。)</font></font></span></p> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial">いろいろと、年表だけではかかれない細かな設定や描写等を、こういったもので書いていくようです</font></font></span></p> <hr> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial"><span lang="EN-US"><a href="menu:304"><font color= "#0000FF">304</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/04/28(</span>土<span lang="EN-US">) 16:29:52 ID:???<br></span>「<span lang="EN-US">…</span>あまりに凄惨な光景<span lang="EN-US"><br> <br></span>敵に立ち向かう仲間は無残にも引き裂かれ、たよりの装甲車両もぼろきれの様になるまで切りつけられた<span lang= "EN-US"><br></span>ひき肉にされた仲間の血液を頭からかぶり、口も鼻も、人間の血液でふさがれそうになった<span lang= "EN-US"><br></span>汚物と肉片が霰のように降り注ぎ、その中にはキノコの様な形のものまであった<span lang="EN-US">…<br> <br></span>・・・人間の首だった<span lang= "EN-US"><br></span>この常人なら発狂してしまうような光景を眺めていた私は、なぜか異様に冷静でいられた<span lang= "EN-US"><br></span>それとも、すでに狂ってしまっているのだろうか?<span lang= "EN-US"><br></span>そうかもしれない、悲鳴を上げ逃げ回り、見えない誰かに助けを求める仲間たちのほうが、傍から見れば正常だろう<span lang="EN-US">…<br> <br> …</span>そして、長い地獄が終わり、自分以外すべての人間が死に絶えた頃、私は眠りから覚めた<span lang= "EN-US"><br></span>私は殺されなかった、身動きひとつもせず、何も考えずに踏みつけるだけで殺せたはずの私が<span lang= "EN-US">…</span>?<span lang= "EN-US"><br></span>ニューヨーク市の惨劇とは違い、彼らは無抵抗のものでも、兵士は一人残らず殺していった、なのになぜ?<span lang= "EN-US"><br> <br> …</span>その理由については、師団本部の部隊と合流し、退路についたときに聴かされることになった<span lang= "EN-US"><br></span>突然、師団司令部より呼び出しがかかり、駆けつけてみれば、見慣れない軍服のフランス人数人と白衣姿の日本人<span lang="EN-US"><br> <br></span>そのベレー帽に刺繍された、P<span lang="EN-US">8920</span>の文字・・・<span lang= "EN-US"><br> <br></span>彼らの言葉に従わなければ、あんなことに巻き込まれずにすんだのかもしれない<span lang= "EN-US">…</span>」<span lang="EN-US"><br> <br> ――</span>被験者の手記より抜粋<span lang="EN-US">――</span></font></font></span></p> <p>((解説)):初代スレ&gt;&gt;304で書かれたサイドです。下に書いてあるとおり、プエロジェクト8920の被験者が書いたようです。</p> <p>(日本人とは、藍原たちのこと?)</p> <hr> <p><span lang="EN-US"><a href="menu:355"><font color= "#0000FF">355</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火) 02:40:36 ID:???</p> <p>面白いことを聞くな、あの戦場で何を見たか<span lang="EN-US">…</span>だって?<span lang= "EN-US"><br></span>難しい質問だが<span lang="EN-US">…</span>そうだな、あえて言うなら<span lang= "EN-US"><br> <br></span>血 に 染 ま っ た ニ ュ ー ヨ ー ク だ よ<span lang="EN-US"><br> <br></span>落下地点の近くは、何もかも壊れていたし、そこまで不自然にも見えなかった<span lang= "EN-US"><br></span>だが、落下地点から離れた、郊外で作戦行動を行ったときだ<span lang="EN-US"><br> <br></span>傷ひとつついていないビルから、人間の体液と破片がこぼれ落ちてくる<span lang= "EN-US">…<br></span>奇妙な光景だった<span lang= "EN-US">…</span>恐怖がこみ上げてくるまでに、かなり時間を使ったよ<span lang= "EN-US"><br></span>でもそれだけじゃない、悪意すら感じる奇妙なオブジェはまだあった<span lang="EN-US"><br> <br></span>中が挽肉でいっぱいになった車<span lang= "EN-US"><br></span>血でスモークがかかったようになっている、大型バス<span lang= "EN-US"><br></span>潰れた車と、その上に折り重なる逆さになった車、間に挟まれた人間で出来た、ケチャップ味のサンドイッチ<span lang= "EN-US"><br></span>赤い迷彩が施された戦闘車両<span lang="EN-US">…<br> <br></span>どれもこれも、みんな赤かった、赤一色だった<span lang= "EN-US"><br></span>それもただの赤じゃない<span lang="EN-US">…</span>みなれない、そう<span lang= "EN-US">…</span>人間の血の色<span lang="EN-US"><br> <br> …</span>そんなものに見入っていると、突然上から何かが落ちてきた<span lang= "EN-US"><br></span>生臭くて<span lang="EN-US">“</span>赤い<span lang= "EN-US">“…</span>人間だった、しかも自分たちと同じ隊の人間<span lang= "EN-US"><br></span>あわてて上を見上げ、見たんだ・・・そのオブジェの製作者が、ビルの間で蠢くのを<span lang= "EN-US">…<br> <br> <a href="menu:356"><font color="#0000FF">356</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火<span lang="EN-US">) 02:41:16 ID:???<br></span>全員がその異形の姿に注視した<span lang= "EN-US">…<br></span>自分に血が降りかかろうが、誰も声を出せなかった<span lang= "EN-US">…</span>失禁するものまでいた<span lang= "EN-US"><br></span>そして、その異形のものも赤く染まっていた<span lang= "EN-US">…</span>人間の血に<span lang="EN-US">…<br> <br></span>その姿は、今でも鮮明に覚えている<span lang= "EN-US">…</span>夢にも出てくるから、まともに眠ってもいないよ<span lang="EN-US"><br> 4</span>本の足でビルに張り付き、残りの腕には大事そうに<span lang="EN-US">5</span>人分の死体が抱かれ<span lang= "EN-US"><br></span>触手は音も無くうねり、何本かには、死体から伸びる小腸が引っかかっていた<span lang= "EN-US">…</span>まるでクリスマスの飾りつけのように<span lang="EN-US">…<br> <br></span>異形の体についている、大きな目には、自分の顔が映し出されているのも見えた<span lang= "EN-US"><br></span>透明な光を帯びた、美しく深い、思わず見とれてしまうような目だった<span lang= "EN-US">…</span>敵意があるようにすら思えなかった<span lang="EN-US"><br> <br></span>しかし、静寂は一瞬にして崩れ去った<span lang="EN-US"><br> <br></span>一発の銃声と同時に、その発生源は細切れになった<span lang= "EN-US">…<br></span>反撃され、殺されるまでに、たった一発しか撃てなかった<span lang= "EN-US">…</span>驚く暇も無かった<span lang="EN-US"><br> <br> …</span>その後のことはいまいち覚えていない<span lang= "EN-US"><br></span>気がつけば、武装を投げ捨て、仲間の砕ける音を聞かないように、耳をふさぎながら、死体の中で震えていた<span lang= "EN-US">…<br></span>通りかかった味方が、俺の腕をつかんで必死に引きずってくれた<span lang= "EN-US"><br></span>気がつけば、俺は味方の陣地で膝をついていた、奴らの追撃で、大半の人間が死んでいた<span lang= "EN-US"><br> <br></span>そこでまた気を失い、今度目がさめれば病院、精神科医が俺の前に座っていた<span lang= "EN-US">…<br></span>後は知ってのとおり、恐怖で精神が崩壊する直前だった俺は、ここで治療を受けた<span lang= "EN-US"><br> <br></span>今でも、薬が切れるとおかしくなるのも、この話がうそではない証拠さ<span lang="EN-US">…<br> <br> <a href="menu:357"><font color="#0000FF">357</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火<span lang="EN-US">) 02:43:01 ID:???<br> ――</span>アンケートに答える米軍兵士の供述記録、第<span lang="EN-US">344</span>号<span lang= "EN-US"><br></span>      回答内容より、被験者としての適正を確認、<span lang= "EN-US">24.06.55――</span></p> <p> </p> <p> ((解説)):二代目スレ&gt;&gt;355-357で書かれたサイドです。アンケート(プロジェクト8920による直接、もしくは指示でどこかの組織が動いた?)に答える米兵の供述記録です。</p> <p>回答内容から、プエロジェクト8920の334人目の被験者として抜擢されたようです。<br> しかし、その判断基準や、何の支持も受けていないのにもかかわらず、独断(時間に注目)でこういった行動を起こしているなど、謎を呼ぶ展開となっています。<br> もしかしたら、佐藤たちの話の伏線になっているのかもしれません。</p> <hr> <p><br> <u><font color="#0000FF">449</font></u>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/07(月) 04:04:13 ID:???<br> <br> 「―こちらヴェクター、“積荷“を運んできた、どうぞ―」<br> 「―こちら管制塔、着陸の許可はまだ出来ない、もうしばらく上空で待機しろ―」<br> 「―了解―」<br> 乗員席で交わされる会話の音量は高く、積荷こと乗客たちの耳でも容易に聞き取ることが出来た<br> 乗員の会話を反芻した一人が愉快そうに声を上げる<br> 「積荷呼ばわりか、嫌われてるんですかね、私たち」<br> 「嫌われていない方がおかしいんじゃなくって?…私たちの都合でわざわざここまでのことをしてもらっているんだもの」<br> 皮肉を言い、どこか毒のある笑い声をこだまさせる女の白衣の胸には、IUEITA職員であることを現すプレート、襟元にはP8920の刺繍<br> 「別に私の案ではなくて、其方の方の発案じゃないですか」<br> 反対側の座席で足を組み、めがねの位置を直しているスーツ姿の男にも同じ刺繍が施され、EIE職員であることを表すプレートが付いていた<br> 「あら、あなただって、この案には賛成なんでしょう?」<br> 「こちらだって得をしますからね、被験者集めの特殊機関、EIEの方でもいずれ需要が出てくるはずですから」<br> 「だったらいいじゃない、EIEとIUEITAの同意があって出された案となれば、プロジェクト8920の発案とするより、向こうも首を縦に振りやすいわ」<br> ここまで喋ってみて、何かに気が付いたように白衣の女は表情をこわばらせる<br> 「しかし、安っぽい判断基準よねぇ…」<br> 自分の目を見て話していないことから、この嫌味が、独り言の類であることは分かっていたが、スーツ姿の男は低くうなずいた<br> 「…まったくです」<br> 会話が途切れると同時に、ローターが空気を切り裂く音が、何の障害もなしに聴覚神経を刺激しだしたので<br> 両者ともに、胸のポケットの中からイヤホンを引っ張り出して、それを耳に詰め込み、センの代わりにして虚空を眺め始めた…</p> <dl> <dt><a href="menu:600"><font color="#0000FF"><br> 600</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:32:52 ID:??? <br> ――ホワイトハウスの中、大統領の執務室では、急な来客に備えるために数少ないEOLTに関する資料に、必死で目を通す政治家たちが居た<br> 内容が理解できるものも出来ないものも、少なすぎる情報から出来る限りのことを読み取ろうとしていたようだった<br> 「…ああ、最後の15ページに載ってる写真、これって焼き増しできないか?ちょうどよさそう…」<br> 「そんなことはいい、この資料は何を意味していて、この報告書は何を伝えたいんだね、補佐官!」<br> 「私に言われても…国務省の報道官が国連公式発表の際に書いた原稿、あれより詳しい内容が」<br> 「詳しい資料が載っているせいで、余計に混乱するということもあるでしょう」<br> 「副大統領、君は口を開く前に、ここに来る連中への質問内容をまとめていてくれ」<br> 「はあ…」<br> 大統領の執務室から、隣の部屋へ移動してPCの電源を入れた頃に、大統領は資料を投げ出し、コーヒーの代わりを要求しつつ、愚痴をこぼし始める<br> 「まったく…我々素人にこういった予備知識を求める時点でおかしいと思うが?」<br> 「しかたありません、そうでないとここにくる人間の話を理解できませんから…」<br> 「そもそも補佐官、一体彼らは何の目的手ここまでやってくるのだ、彼らの出してきた案の採択だけならば、こちらの方で…」<br> 「いろいろと計画の進行状況についてでも話してくれるのでしょう…ほら、そのためにこの資料を取り寄せたのですし」<br> 補佐官は意味有りげに資料を胸の高さまで持ち上げながら、軽くそれを揺らしている<br> そのことが木に触ったらしく、大統領の顔が多少ゆがむが、代わりのコーヒーが運ばれてくると興味は其方に移ってしまったようだった<br></dt> <dt><a href="menu:601"><font color="#0000FF"><br> 601</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:34:34 ID:???<br> <br> 「まったく、大学の講義でもあるまいし…奴らときたら、今までほぼ独断で活動を進めていながら、今になってこちらの都合も考えずに…」<br> 「マンハッタン島事件の時以来、ろくに打ち合わせも出来ないような状況ですし、しかたありませんよ」<br> 「まったく…」<br> コーヒーをすする彼の左手には、資料が握られていなかった<br> それは思考の放棄に他ならないことではあったが、思考を続けても彼を含む、ここの人間たちには何も理解できなかっただろう<br> そういったことを考えながら、大統領補佐官は、ついさっき話題に上がっていた“客人”たちの所在を確認しようと、携帯をいじり始める<br> 大統領はコーヒーの香りをかぐために、カップを顔に近づけ、鼻の周りで動かしている<br> ほんのひと時ではあったが、執務室に訪れていた沈黙はひとつの叫び声で破られた<br> 「大統領!いま、その客人の乗ったチヌークが上を飛んでいるそうです!」<br> 音高くドアを叩きつけるように開いた副大統領に驚いた彼の唯一の上司は、コーヒーを資料の上にこぼしてしまった責任を彼に擦り付け、喋り出した<br> 「よし、早く着陸許可を出せ…庭が汚れようがかまわん、野次馬をどけるためにここの警備を使え」<br> 「了解しました、大統領」<br> 補佐官が執務室の外に居る人間を連れて前庭に走っていき、それを見た副大統領も腰を上げ、歩き始める<br> 「ようやくか…」<br> 客人に対する備えのほかに、大統領補佐官と副大統領が迎えに出て行ったこともあり、大統領は自分の手でコーヒーをぬぐった…</dt> <dt><a href="menu:602"><font color="#0000FF"><br> 602</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:37:59 ID:??? <br> <br> …ヘリの中、白衣姿の女と、メガネを掛けたスーツ姿の男は、イヤホンを使って何かに聞き入りつつ、のぞき窓から見える、眼科の光景に注視する<br> 急にあわただしく人々が動き回り始め、ホワイトハウス前の人だかりが押しのけられていく、それがヘリ着陸の準備であることは、一目で理解できた<br> それを見たスーツ姿の男はメガネの位置を直しつつ、微笑を浮かべる<br> 「いやぁ、ようやく降りる準備が出来たみたいですね…衛星通信が使えなからですかね?」<br> 「…」<br> 「…ところで、何を聞いているんですか、それ」<br> 「国防総省の盗聴…結構面白い会話が聞けるのよ」<br> 「それは向こうの専売特許だと思うんですが…あ、ちなみにどんな会話ですか?」<br> 「私たちの一人歩きが怖くて仕方ないらしいわ…ロシアのこともあるし、そうとう気がたってるみたいよ」<br> 「ありゃ、この次はモスクワの方に用事があったんですけど、ちょっと不味いですね」<br> 「あなたが心配してるようなことにならないために、今まで散々根回しをしてきたのよ、どうせ何も出来ないわ」<br> 白衣姿の女は、含み笑いを浮かべつつ、ポケットにイヤホンをしまう<br> その愉快そうな表情からみてとるに、おそらくはそれ以外の何らかの情報を手に入れたことは疑いようが無かった<br> だが、スーツ姿の男はそのことを追及しようとはせずに、再び窓の外を眺め始める<br> 「…遅いですね、もう降りても良いんじゃないですか?」<br> 「パイロットに催促しなさいよ」<br> 「パイロットの発音、知らないんですよねぇ…私」<br> 「英語で言えば自分に向けたものだと思うのが普通じゃなくって?」<br> 「それもそうですね…でも面倒なのでやめます」<br> 「英語は話せる?」<br> 愉快そうな笑みを浮かべつつ、小ばかにしたような口調で話しかける<br> その最中、ポケットの中に入れられた手は、何かを撫で回すようにして動いていた<br> 「失礼ですね、話せますとも」<br> 「ならいいけど、大統領の前で単語間違えないでね」<br> 「なお失礼ですね、これでも昔は外務省に居たんですよ?…第一、今は立派な国際公務員です」</dt> <dt><a href="menu:603"><font color="#0000FF"><br> 603</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:38:59 ID:??? <br> <br> しゃべれない方がおかしい――<br> そう否定する彼の目線は、白衣姿の女が、そのポケットの中で弄くっている物体に向けられていた<br> M1911――護身用だろうが、腰のホルスターに官給品のベレッタが差し込まれているところを見ると、おそらくは私物だろう<br> 「それ、どこで買ったんですか?」<br> 「さあねぇ…元はと言えば私のものじゃないし」<br> 「まあ、どうでもいいんですがね、そんなことは…あ、地面につきましたね」<br> チヌークの足が地面に付くと同時に、パイロットが怒声をあげる<br> 「おい!のんびり座ってねぇでさっさと降りろ!大統領を待たせてるんだぞ!!」<br> 「さっさとって言われましてもねぇ…初めて言われましたよ、降りろなんて」<br> ネクタイを直しつつ反論するスーツ姿の男に、白衣の女も同調する<br> 「そもそも、大統領を待たせているのではなく、またされていたのは私たちよ?」<br> 「それ以前に、われわれが大統領を待たせて、どんな問題があるでしょうかね…状況的には、われわれの方が立場は上ですし」<br> 「これだから上下関係がすべてだと思ってる軍人って好きになれないはぁ…」<br> 何か言いたげヘリのパイロットを横目に、二人の話は進んでいく<br> 「まったくです…こんな馬鹿はほうっておいきましょう」<br> 「ええ、じゃあ行きましょうか、佐藤クン」<br> 佐藤と呼ばれたスーツ姿の男は、一人で先にヘリの外へ出て行く白衣姿の女の後姿から視線をずらし、同行している職員に指示を出す<br> 「はいはい…ああ、相原君、プロジェクターの操作とかは全部任せますので、こっちのしゃべるタイミングに合わせて下さいね」<br> 秘書スーツに身を包み、ノートパソコンを抱いている女性は、ゆっくりと腰を上げつつ声を出す<br> 「…分かりました」<br> 無表情に、脈動感に欠ける台詞をはく彼女の胸にも、EIE職員であることをあらわすプレート、襟にはP8920の刺繍が施されていた…</dt> <dt><a href="menu:55"><font color="#0000FF"><br> 55</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:29:49 ID:???<br> ヘリの外では、数人のシークレット・サービスが周りを取り囲み、副大統領とホワイトハウスの職員が、乗客の前に立っていた<br> 風に巻き上げられた埃から目を守るために、手で半分覆われたその顔には、どこか意外そうな表情が浮かべられていた、そして当然の呟きがもれる<br> 「全員日本人?…EIEもIUEITAも日本人技術者が多いとは聞いていたが、彼らで全員なのか?」<br> 「そのはずです…少し以外ですが、仕事で問題を起こすこともないと思いますので、心配することもないかと――」<br> ヘリから降りてきた5人の日本人のうち、2人が白衣姿で残りはすべてスーツ姿、前者がIUEITA、後者がEIEの職員であった<br> そして、メガネで日の光を反射させているスーツ姿の男、佐藤は、出迎えの人間の話を見て、かすかに笑みを浮かべる<br> 「いやぁ、やっぱり嫌われてますねぇ…仕事がうまく出来なければ、ジャップとでも罵って来そうだ」<br> 「つまらない選民主義に染まった馬鹿は扱いにくいものよ…機能的に言えば、皮膚が黄色い方が、アルビノよりすぐれているのだけど…ねェ?」<br> ポケットに入れたてを片方だけ引きずり出し、風で乱れた髪をいじりながら返答する<br> 「そうですね…特に後者には全面的に同意します」<br> 「後者?…前者の方はどうなの?」<br> 「前者の方ですか…逆に固定概念や偏見の類しか持ち合わせていない人の場合、手のひらの上で転がしやすいですから、扱いにくいことはないですよ?」<br> 「私はそっちの方の仕事はあまりしないから」<br></dt> <dt><a href="menu:56"><font color="#0000FF"><br> 56</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:30:39 ID:??? <br> 「…お話を邪魔して悪いのですが、後ろが詰まっていますので、出来るだけ早く降りてください」<br> 一言だけ侘びををいい、再び歩き始める二人の目に入り込んできたのは、まず目の前に立つ副大統領以下数名だったが<br> その視線はすぐに、ホワイトハウスの窓から覗く、金髪の女のほうに移っていた<br> それが明らかに二人方をむいて手を振ってきていることに気が付いた白衣の女は、佐藤の方を向き直る――ちょうど手を振り替えしたところだった<br> 「…あら、あの娘は?」<br> 「俗に言う、にぱーっと笑うと言うやつです」<br> 「そうじゃなくて、どういう立場の人間で、あなたとどういう関係か」<br> 「大統領補佐官の娘です。…まあ、つまらない関係ですが、日本で色々とありましてね」<br> 顔に笑みを浮かべながら、皮肉っぽい口調で佐藤への問いかけを行う白衣の女の口調に対して、佐藤の返事のそれは至って冷淡なものだった<br> そのことに興味をそそられた彼女は挑発的な口調で、更に切り込みを掛ける<br> 「あの娘、ずいぶんとうれしそうに手を振ってるけど?」<br> 「お土産でも欲しがってるんじゃないですか?」<br> 今一度、深く追求しようかと思ったようだが、その思惑は外部からの攻撃で阻止された<br> 「失礼だが、君たちがEIE、およびIUEITA職員だな?…例のプロジェクトの関係者の?」<br> 副大統領の口調は感動に欠けるものだったが、妙な威圧感があった</dt> <dt><a href="menu:57"><font color="#0000FF"><br> 57</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:31:24 ID:??? <br> しかし、ここへ来た客人たちは、そんなものにプレッシャーを感じるタイプの人間ではなかった<br> 「そうよ、早いところ大統領の執務室へ案内して頂戴」<br> 「こちらも忙しいので、出来るだけ急いでくださいよ、何事も…」<br> 「ではこちらへMr,サトー…ああ、失礼だが、君は?――」<br> 外部とのやり取りで表へ顔を出すことが多かった佐藤は、一部の限られた人間にだけではあったが、多少顔が知れていた<br> しかし、その隣に居る女性は、彼も始めてみる顔だった、資料に載っていたのも見たことが無い<br> 「IUEITA推進本部所属一等技術員・兼・IUEHBHEC特派技術顧問の櫻井よ、よろしく」<br> 握手を求めてくることを期待していたのだろうか<br> 白衣のポケットに手を入れたまま、微笑みかけてくる彼女に、若干の不快感を示しつつも、目的地への先導を始める<br> 職員数名が、この二人にホワイトハウスの現状を説明しようとするが、それを部下と秘書に話すように指示をし、無駄話を再開する<br> 「なんだかのどが渇きましたねぇ…ああ、コーヒーかなんか飲みたい気分です」<br> 「ウォトカならここにあるわよ?」<br> 「ブランデーの方がいいですね…おまけに、それは余計にのどが渇きます」<br> 「じゃあ好きにして頂戴」<br> 差し出したウォトカを内ポケットに戻し、きびすを直して道を進んでいく<br> それに対して佐藤は、何かを探すように辺りを見回した後、近くを歩いている職員に対して質問する<br> 「ええと…すみません、自販機はどこにありますか?」<br> 「…」<br> 明らかにその質問に気づき、意味も理解したはずだが、彼の返答は無い<br> 「無いんですか?」<br> 「…」<br> それは、この沈黙が、否定を意味するものであると言う、極少の可能性を考慮した発言であったが、やはり返答は無い<br> その沈黙の意味について確信した佐藤は、別段気を落とした様子でもなく、にこやかに独り言をもらす<br> 「…嫌われてるなぁ」<br> <br> <a href="menu:58"><font color="#0000FF">58</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:33:43 ID:??? <br> <br> ・・・大統領執務室の内部はすっかりと片付けられ、プロジェクターなども、すでに配置されていた<br> そこに入ってきた人間は、もう少し散らかった部屋を想像していたのか、少し意外そうな顔をしていたものの<br> 大統領執務室に侵入することに対しては、なんら感慨は抱いていないといった様子に見えた<br> 特に佐藤のはいた台詞は極めつけとも言えたらしく、大統領以下、数名の人間は明らかに表情をゆがめた<br> 「すみません、缶コーヒーを買いたいんですけど、自販機ってどこですかね?」<br> 「黙れ、貴様の約分を果たすまではここから返さんぞ」<br> 怒声と思えないことも無いような力のこもった声で威嚇するのだが、やはり効果はない<br> 「約分といっても、別にここにきたのはこちらの意見を聞いてもらうためだけで、色々と説明してあげるのはサービスですから…」<br> 「佐藤クン、あまり正直なことは言わずに、接待だとでも思ってやりなさいよ」<br> 「まあ、そのつもりですがね…あ、そんなことより、送っておいた資料に書いておきましたよね、どれだけに規模の組織で、どれだけの――」<br> 「組織の規模については問題ない、後は貴様らで好きにしろ…ただ予算が問題だ、なにせ最低でも100億ドルとくる」<br> 「ああ、それですがね…そこに書いてあるのはあくまで組織立ち上げのための資金なんで、それとは別に活動資金を300億ドルほど…」<br> 「もう一度言え」<br> 「そこにかいてあるのは――」<br> 揚げ足を取るような回答に対する怒りを抑えつつ、大統領は再び質問しなおす<br> 「何ドルといった」</dt> <dt><a href="menu:59"><font color="#0000FF"><br> 59</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:34:56 ID:??? <br> 若干胸をそらせつつ、視線を上に向けて佐藤は答える<br> 「300億ドルほどお願いします…あ、キャッシュで頼みますよ」<br> 「…」<br> あまりに反応が遅いので、付け足しを行う<br> 「アメリカ人と違って、私は日本人ですからね…これでも出来るだけ少ない額にするよう、苦労して工面したんですよ?」<br> 「嫌味か?」<br> 「はぁ?」<br> 「それは私…いや、我々に対する嫌味か?」<br> 一瞬戸惑った佐藤だったが、再度問いかけを受けたことにより、またいつもの態度に戻った<br> 「それも若干」<br> 普通は大統領相手にはけないような台詞を、笑顔で言ってのけたことに、一部の人間は驚きを隠せないといった様子だった<br> 「貴様一体その資金を――っ!!」<br> 「人類のためです…ただでさえ、その軍事力の大半を失おうとしている合衆国が、いまさら軍備増強などに努めても遅い」<br> 静止を払いのけ、佐藤は大統領相手に説教を続ける<br> 「では、軍事力に関しては国連へ支援を仰ぐしかない、あなたたちは、その見返りとして、蓄えてきた莫大な資金と技術力を惜しむことなく放出すべきであるはず」<br> 胸をそらせ、かすかに見下すような表情をしていることに、幾人かが気づいたが、会話をさえぎる暇は無かった<br> 「まあ、全世界に資金・技術提供するのには無理がある…そこで我々ですよ、あなたたちが我々に資金提供をし、それによって得た成果を人類公共のものとする」<br> 笑みを浮かべながら、再び発言を続ける<br> 「当然、その資金を無駄にしないために、こちらも努力します…で、その努力の妨害をして欲しくないので、多少の独断行動は――」</dt> <dt><a href="menu:60"><font color="#0000FF"><br> 60</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:36:04 ID:??? <br> 予算審議の面で、この執務室に呼ばれていた財務長官は、当然のように激発し、口を挟む<br> 「独断行動だと?…それは今、貴様らがやっている事だろう!」<br> 「かまわん、許可する」<br> 「大統領!」<br> 「構わんと言っている!こうなる事が分かって、先の提案を受け入れたのだろうが!!」<br> 大統領の静止が、正しいことを言っているはずの彼にとっては、よほど不当なものに思えたのだろう、再び反論を試みる<br> 「しかし、アメリカ合衆国は――」<br> 声を荒げての反論だったが、大統領のそれは更に大きかった<br> 「いまさら遅い!これまで彼らが独立した行動が出来るようにしてきたのは、我々と国連だ!!」<br> 「…っ!!」<br> しばらく沈黙が続いた、佐藤は笑顔で、櫻井はつまらなそうに、その二人の秘書と部下は冷ややかにこのやり取りを見守っていた<br> 「お話が終わったようだけど、本題に移っていいかしら?」<br> 茶番を見るのに飽きたといった様子だったので、財務長官は更に不機嫌そうな顔をした<br> 「そうですね…相原君、お願いします」<br> 「…はい」<br> 照明が消えると同時にプロジェクターが起動し、部屋を照らす<br> 「じゃあ、始めましょうかね…何について、どこから話し始めましょうか?――」<br> 笑顔で言う佐藤のメガネは、プロジェクターの光を反射して光っていた</dt> <dt><a href="menu:61"><font color="#0000FF"><br> <br> 61</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:38:23 ID:??? <br> <br> 一瞬静まり返った室内だったが、佐藤の方から切り出した<br> 「漠然としたものでかまいませんよ?…資料を回しておいたので、具体的な質問が来ると思っていたんですが――」<br> 微笑みかけてくる佐藤に、少し戸惑いながら大統領が口を開く<br> 「…一番気になっているところだ、EOLTとは一体…何者なんだ?」<br> 「なるほど…確かに漠然としたものだ…」<br> プロジェクターから、火星にて確認された構造体が映し出される<br> 「EOLTはその名のとおり、地球外起源の生物です…しかし、その生態は、とても自然発生したものには思えません」<br> 「ここで言う自然発生というのは、野生の生物ではありえないと言う意味で、何らかの科学文明を持っている存在と言うことも意味しますが、その反面――」<br> 画像が月で確認された構造体と、そこから出現する物体に変わる<br> 「こうした構造の生物が、科学文明を持ち、人類のようにそれを扱いやすくするために進化した生物だとは、とても思えないと言う矛盾も示しています」<br> 次に現れたのは、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された写真であった<br> 「そのことから我々は、この生命体が“何らかの科学文明が意図的に誕生させたもの”であると言う仮説を立てました」<br> 再び画像は構造体のそれに変わった、今度は地球のものである<br> 「そして、ここでNASAが構造体を確認した初期より持っていた仮説“構造体が資源の最終・精製用のプラントである”というものが浮かび上がってきました」<br> 「つまり、EOLTとそれを運んできた構造体は、人類以外の科学文明が、資源最終の目的で送り込んできたユニットであることが想像されたわけです」<br> 何人かの人間が口を挟もうとするが、それより先に佐藤は話し出す<br> 「しかし、その資源採集の目的が依然として不明のままです、純粋に資源を採集し、持ち帰ることが目的なら簡単ですが…」</dt> <dt><a href="menu:62"><font color="#0000FF"><br> 62</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:39:12 ID:???</dt> <dt>画像が何かの論文の切り抜きに変わった<br> 「フォン・ノイマン型の資源採集用ユニットで、自分を複製するために資源採集機能が付いている場合、資源採集以外の目的があることになります」<br> 「これが人類など、自己以外の生命体ないし科学文明を発見したいという、彼らの生みの親の願望ならいいのですが、彼らは攻撃をしてきています」<br> 「ただ単に興味を持っただけで、いることが分かれば後はどうでもいいのか、攻撃されたから反撃しているだけなのかは分かりません」<br> 画像が映像に取って代わられた<br> …それはニューヨーク市の戦闘で、ちょうど中型の探査科が勢いよく米兵の群れに突っ込み、装甲車両を殴り飛ばし、遅れてきた触手で歩兵を細切れにしたところだった<br> 「ですが、このたとえが正確かは分かりませんが、明らかに戦闘については素人であることは間違いなさそうです」<br> 「用兵の仕方も、マンハッタン事件以後にとってつけた様に使われ始めたもので、それ以前はまるっきりでたらめでした」<br> 映像がヘリから撮影されたものに変わり、大統領以下、客人以外の全員がその映像を注視する<br> しかし、どこが用兵の仕方がでたらめなのか、それを見る人間には判断付かないようである<br> 「もっとも、圧倒的な戦闘能力の差と、こちら側の混乱等があり、EOLTは一方的に勝利しましたが…」<br> 次に映し出されたのは、二種類のEOLT…追跡・追撃科を遠距離から撮影したものを、画像処理したものらしい<br> 「最初の戦闘の後、やはり、とってつけたような自衛用個体が出現し始めたこともあり、おそらく、人類との戦争以外の目的で着たことは間違いないはずです」<br> また静止画像から動画へと変わり、観客の目を引く…どうやら、シベリア戦線のものらしい雪原での戦闘が写される<br> 「ただ、最大の問題は、“今もそうであるか“ということで…つまり、人類との戦争に勝つことが目的へと変わり、これから本格侵攻が始まるとも限らない」<br> プロジェクターから映し出される画像が、「7号資料」と書かれた画像に摩り替わり、回答が終了したことを告げる<br> 「まあ、そんなところです。地球生物とその文明の生殺与奪の権利を持っていることも間違いなさそうですね…えー、次の質問は?」</dt> <dt><a href="menu:63"><font color="#0000FF"><br> 63</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:40:57 ID:??? <br> 次の質問者は副大統領だった…重みのある声を上げ、佐藤に問いただす<br> 「やつらの生態についてはどの程度判明している?…たとえば、どの程度の休息が必要なのかといったことや、生殖の過程などだが…」<br> 「ああ、それでなんですけどね…休息――つまり睡眠を行っていることは確認されていないし、生殖活動を行う機能が備わっていないことも分かってます」<br> 画像はロシアで解剖されたEOLTの写真に変わる…画像には、「10号資料」の文字が書かれていた<br> 「そして、何らかの方法で、体外から食物を取り込む機能も確認されていません」<br> 「食物を摂取しないというのか!?…しかし、それで一体、どうやって活動を続けて――!」<br> 「食物を摂取しないというのは、自力でそれを行うことができない、という意味です…たぶん、構造体内で供給されるのでしょう」<br> 「その姿は確認されているのか?」<br> 「いいえ、まったく確認されていません、ですから完全な仮説です」<br> 画像がエネルギー補給のサイクルを表す図に変わる――ラテン語で書かれているため、一部の人間は読むことができなかったが<br> 「同じように、新陳代謝も行っていない…これはまだ健勝段階の情報ですが、いずれその成果をロシア政府が公表するでしょう」<br> 観客の数人が目を細める、ロシア政府が好評どころか、いまだ検証中の情報をどうやって知りえたのか…<br> 「あー…何かまず事を言いましたか――?」<br> かすかに佐藤が笑みを浮かべる…明らかに普段のそれとは異質なものだった、どこか不気味な――</dt> <dt><a href="menu:64"><font color="#0000FF"><br> <br> 64</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:41:42 ID:??? <br></dt> <dt><br> 「――そうか、いや、なんでもない…次の質問だが、やつらは資源採集用のユニットだといったな?―もしそうだとすれば、資源採集に向けての動きがあるはずだが?」<br> 「ええ、知ってのとおり、根を地中に張り巡らせ、主縦坑にあたる根の先端部分を、地球の核に向けて放ちました」<br> 一部観測データのグラフを添付したその想像図が映し出される<br> 「そこで問題なのが、“根“を地球の核にむけてはなった以外、目立った資源採集に向けての行動を示していたいと言うことです」<br> 構造体から延びる横坑の伸び方を、時間を早回しにして再生する<br> 「たしかに、坑道を張り巡らしてはいますが、採掘作業を行っているらしい情報は一切入っていない…理由は幾つか考えました」<br> 「一つ目は、目的となる資源があるところまで、その勢力圏、ないし根が伸びていないということ…これでEOLTが勢力圏を少しずつ伸ばしてきている理由が説明できます」<br> 「二つ目は、人類という脅威が目前にある今、資源の採集どころではないと判断しているためです…これが正しければ、自衛用個体の件も説明できます」<br> 「三つ目は、そもそも資源採集という目的そのものがないのか…」<br> 一息つく佐藤を見た後、行く認可の観客は顔を机に落とし、考え込む</dt> <dt><a href="menu:65"><font color="#0000FF"><br> 65</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:42:48 ID:??? <br> しかし、それ以上に思いつめた表情を見せている人物が、発言者である佐藤本人であることに気付く人間はそう多くはなかった<br> <br> ――あるいはこの仮説のうち、そのどれも違うのかもしれない…私たちが思いもよらない何か…そう、人間には考えもつかない何かが――<br> ――とにかく、物事を判断するには、あまりに時間も情報も少なすぎる…いずれ嫌でも気付く時が来るはずだ…そのときまで――<br> <br> 彼はそう思いつつ、口元に手を当てて考え込んでいた…<br> 桜井は彼を見て、意味ありげにかすかな笑みを浮かべ、ポケットの中のガバメントを弄り回し始める・・・</dt> <dt><a href="menu:239"><font color="#0000FF"><br> 239</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/23(水) 04:45:16 ID:???</dt> <dt>――そのときまでに、出来るだけの事を済ませておくべきだろう…やれるときにやっておかなければ――<br> <br> 考え込む佐藤をよそに、政治家たちは噂話でもするかのように、仲間内で議論を始める<br> 大統領たちの会話にすら気を取られずに考え込む…櫻井はこの光景を見て、どこか奇妙な感覚を覚えずにはいられなかった<br> <br> ――間に合わなくなるかもしれない…これを長引かせるべきではないだろう――<br> <br> 国家の枠組みを超えて、権限と権力を獲得してしまい、国連の混乱に乗じてEIEとIUEITAに組織的な自由を与え<br> プロジェクト8920にいたっては、ほぼ独断で行動し、その成果を報告する義務すら怠っている<br> それはこの――つい数日前まで、国家公務員である意外、なんの政治的な権力も持っていなかった男によるものだ<br> もしかしたら、彼が今後の人類の命運を分けるような行動をとるかもしれない…櫻井はそう考えていた<br> 肝心の彼――佐藤は、いまだ結論を出せずに居る…<br> <br> ――もしかしたら、勝つことは出来ずとも、人類が当面の目的を達成できるかもしれない…問題なのは、3つのうちどれになるか――<br> <br> ・・・佐藤は腕をポケットに戻し、それを見た相原がプロジェクターを再び起動する<br> <br> 「それじゃあ、次は何を話せば?」<br> <u><font color="#0000FF"><br> 764</font></u>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:41:30 ID:??? <br> ・・・会議(?)の終結は意外にも早かった<br> 大統領以下数名の出席者が国防省に呼び出されたためで、連絡が入ってからほんの数分でほぼ全員が引き払ってしまった…<br> 会話から察するに、どうやら海兵隊予備役の全面召集において、何らかの問題が発生したらしい<br> 置いてきぼりを食らわされた来客の面々は、大統領執務室内に留まる目的を失ったため、荷物をまとめると、早々にその部屋を後にしていった<br> ただ、その来客の面々にまったく動揺が無いのは職業病か、ただ単純に性格の問題なのか、それとも…<br> 「いやいや、ここまでの扱いを受けるとは思いませんでした」<br> 佐藤は、やはりうれしそうに微笑を浮かべながら喋る…その微笑が何を意味するのかはわからないが、同じく悪意の類はまったく感じられない<br> 「…わかりきっていたことでは?」<br> 隣でノートパソコンを持ち、無表情のままたたずんでいる秘書スーツを着た女性が、何か不自然なものでも見るかのような表情で声を出す<br> 見下しているような態度といえなくも無いが、悪意のこもったものではなく、何か別なものを感じさせた<br> しかし、上司に対しての口の聞き方として問題があることは事実なので、向かい合う位置にいた半白の頭をした男が静止に入る<br> 「…相原君」<br> 「そもそも、歓迎される立場にはいませんし」<br> 「相原君!」<br> 多少声を荒げ始めたその半白の頭の男に対して、佐藤が見かねたように反応する<br> 「あぁ、いいです、いいです…別にかまいません」<br> 「は、はぁ…」 <br>  <br> <br> <a href="menu:765"><font color="#0000FF">765</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:44:05 ID:???</dt> <dt>佐藤の反応にしっくり来ないものを感じながらも、姿勢を正して引き下がる<br> その反応の仕方と動きからは、元は軍に在籍していたであろうことをほかの一部の目撃者たちは感じ取った――おそらくは日本国自衛隊(JSDF)<br> 脇の下には、ほんの僅かだが膨らみがあり、何かが垂れ下がっているように見えた…拳銃の類だろう<br> 「ところで、この部屋は盗聴されてますかね?」<br> 「問題ありません」<br> ポケットに手を入れたまま前かがみになって部屋を見回す佐藤への返答は冷淡なものだったが、本人にそれを気にしている様子は無かった<br> 「では国際電話で海上幕僚長に連絡を取って下さい」<br> 「吉川さんですか…用件は?」<br> 「直接話しますから繋がったら変わってください」<br> <br> <br> <a href="menu:766"><font color="#0000FF">766</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:45:34 ID:??? <br> <br> 国際電話――マンハッタン事件以来、通信衛星がほぼ制御不能に陥り、国際電話の類は一時的に使用不能に陥ったが、回線が破壊されたわけでもなく<br> 海底ケーブルに頼るほか無くなっていたものの、通話不能ということにはなっていないため、現在でも利用は継続されている<br> もっとも、料金等に変わりは無く、安否確認のために合衆国とロシアへの通信が一時的に増えた以外、通話量に変化は無いが<br> 「どちら様ですか…」<br> 電話の向こうの声を中継する相原の声は、相変わらず冷静というよりも、感情の起伏云々をつかさどる脳の部位に<br> 何らかの障害を持っているのではないかと思わせるほど、無感動な…少なくとも、ただ単に職業病ともいえないものであることは感じさせた<br> 「えーと…佐藤です」<br> 「わかりました」<br> 電話にその言葉を伝えた直後に会話が途切れ、相原が沈黙しているところから、相手の急激な反応の変化が見て取れた<br> 数瞬の後、電話の向こうから応答があり、本人が出るようにとの指示を受け、佐藤が眼鏡の位置を直しつつ、交代する<br> 「どうも…」<br> 佐藤は相変わらず笑顔でいるものの、電話に向かって第一声を発した瞬間、表情が微妙な変化を見せたことには、誰も気がつかなかっただろう<br> 「―佐藤君…久しぶりだな―」<br> 「ええ、5年ぶりですねぇ…随分と昇進なさったようで、あの時の彼方はまだ三佐だった」<br> 「―いや、結局は君の立場のほうが上だ、凡人の限界というかな…それで、用件は何だ?―」<br> 「DDH…ヘリコプター搭載護衛艦を一隻、貸して貰いたいんですが」</dt> <dt><a href="menu:767"><font color="#0000FF"><br> <br> 767</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:46:25 ID:???</dt> <dt>「―DDH?ただでさえ希少価値の高い船だ、そう簡単には動かせんぞ―」<br> 声を大きくする海上幕僚長に対し、佐藤はいたって冷淡に対応する<br> 「総理には話をつけてありますし、今までにも日本人技術・研究者の派遣はありました。EOLTの調査・監視のための自衛隊派遣もそれほど反発を受けないでしょう」<br> 「―国民感情の点は問題ない、報道規制を行っているのだしな…ただ、米国政府は?」<br> 佐藤は何かを思い浮かべるような表情をした後、また笑顔になり電話に向かう<br> 「それなら問題ありませんね、そちらは護衛艦を動かしてくれるだけで十分です。後は人を殺そうが何をしようが、私の仕事ですから」<br> 軽い笑い声を上げながらの発言とは思えなかったが、電話の向こうの反応も、その点については言及しようとしなかった<br> 「…壊さんでくれよ」<br> 「ああ、その点は大丈夫です。今度は壊さないように使いますから」<br> 笑顔でそういったせりふをはいているところを、第三者が見れば、子供が玩具の貸し借りでもしているかのように思っただろう<br> 事実、佐藤からしてみれば、その程度のものなのかもしれないが――それにしてはあまりに高級なものだ<br> 「お前のことだ、相手は人間だろう?」<br> 「人聞きが悪いですねぇ、人類のため…EOLTに勝つために、人間と戦うんです」<br> EOLTに勝つ――この“勝つ”という言葉にはいったいどのような意味があったのか、それを聞くものにはほとんど理解できなかった<br> EIEもIUEITAもプロジェクト8920も、すべて一貫性があるように見えてないものだ<br> いったい、誰が何のためにどのような行動を起こしているのか、把握が困難なほどに状況は混沌としている<br> 佐藤の行動についても例外ではなく、一見すると前途の組織のために動いているようだが<br> すでに一人歩きをし始めている同組織の主導権を手に入れつつある佐藤が、ほぼ自由意志で動いていることから考えれば、何らかの思惑があると見ても間違いないだろう</dt> <dt><a href="menu:768"><font color="#0000FF"><br> <br> 768</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:47:33 ID:???</dt> <dt>「―…まあいい、検討してみる。用意が出来次第、こちらから連絡しよう―」<br> もっとも、その思惑が表面化し佐藤が完全に独自の行動を開始するには、相当な時間の経過と状況の変化が不可欠だろうと思われた<br> 「よろしくお願いしますよ」<br> 現に、今のところ彼は、EIE本部所属の職員であり、プロジェクト8920に関わっているという他は、特別な人間という訳ではなく<br> 政府の意思や政治の動向、そういったものに左右される哀れな技術・研究者、そのうちの一人でしかない<br> 「―ああ―」<br> 立場的には合衆国大統領より上であっても、政治家たちがその気になれば彼程度の存在は簡単につぶせてしまうはずだろう<br> 少なくともそう思って間違いないはずだ、まだ始まってから数日…問題なのは、この戦いが長引いてしまったとき、どうなってしまうのか<br> 彼は明らかにその時の為の布石をまいている…戦いが長引き、何か行動を起こさなければならなくなったときの為の布石を…<br> 「それじゃまた」<br> 携帯を閉じる音を聞いたときに、その通話を隣で眺めていた櫻井は、自分が人差し指の第二間接にあたる部分の手袋をかみ締めているのに気づいて、あわてて姿勢を正す<br> ――考えすぎなのかもしれないが、自分もいずれ同じことをするはずだ…でも何のために、なぜ私が…?<br> そう考えていくとある疑問に落ち着く、彼はなぜ、何のために、何をしようとしている?…なぜ彼でないといけない?<br> まだ人類救済のための特殊機関だとかの類は立ち上がっていない、あったとしても、計画の段階であるはずだ、彼が関わっているはずもない<br> 仮に知っていたとしても、なぜ布石を撒く必要がある?彼がそんなことをする必要は無いはずなのに…――<br> 釈然としない思いを抱えつつも、櫻井は思考を中断する、無駄な時間と解釈したためだろうか、それとも彼女なりの結論を見出したからだろうか…<br> それを不審そうな顔で眺める相原はいったん佐藤を振り返るが、何も考えていないように、執務室の壁にかけてあるカレンダーに見入っている<br> どこまでが正しい評価で、どこからが過大評価なのか検討もつかない男だが、彼女にはむしろ過小評価している可能性すら感じさせた<br> どちらにせよ、この戦いが本格化するまで、その本性を垣間見ることも無理そうではあったが</dt> <dt><a href="menu:769"><font color="#0000FF"><br> <br> 769</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:49:20 ID:???</dt> <dt>「…これからどうしますか?」<br> 「そうですねぇ…まあ、しばらく時間をつぶしてから国防総省にいきますか…他にやることも無いですし、モスクワへ飛ぶには時間も無い」<br> 「そうね…どうせお呼びがかかるでしょうし」<br> 相原の問いに対する佐藤の返答は、特に考えていなかったと言わんばかりの曖昧なものだったが、櫻井の同意もあるので<br> 他にこれからの行動を左右する人物もいなくなり、相原はヘリの手配を始める<br> 「きっと今頃血が上って腫れ上がった頭を抱えているはずです…懸賞が出るわけでもないのに難解なパズルを解く思いのはずですから」<br> ヘリの爆音に振り向きつつ、ネクタイの位置を直す佐藤から笑顔が消える<br> 「あ、よく考えたら当分の間は日本に帰れませんねぇ…」<br> 「ゴールデンタイムを当分見逃すことになりますね」<br> 珍しく、佐藤の独り言に対して同意をしてきた相原だが、表情に変化は無い<br> 「そうですねぇ…ネットに転がっているアニメは画質が悪くて、とてもとても」<br> 「誰もアニメとは言っていませんが…」<br> 普通なら笑い声のひとつでも上がりそうなものだが、やはり表情一つ変えない…<br> 慣れている人間でなければ、逆に険悪な雰囲気になってしまうところだが、やはりそれを気にする人間はこのメンバーにいないらしい<br> 今までのやり取りを眺めていたホワイトハウスの職員は、「なぜこんな連中が…」という疑問に駆られながらも、声に出せずにいた<br> <br>  ((解説)):第3次スレの&gt;&gt;449-603までと第4次の&gt;&gt;55-769までの話です。</dt> <dt>補足的な意味合いが強いようですが、普通のSS形式であることを考えると、こちらが本編に当たるのかもしれません</dt> <dt>そういった意味合いから、ここで保管することにします(ほかの物がサイドでも、これだけは別でしょうし)</dt> <dd> <hr></dd> </dl> <p><u><font color="#0000FF">252</font></u>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:10:19 ID:???</p> <dl> <dt>・・・なんとも言えない、重たい雰囲気に包まれる国防総省の一室では、合衆国の政治・軍部の首脳が一堂に会していた<br> 中央の席には大統領と副大統領、国防長官が座しているが、いずれも…特に大統領は不満そのものといった表情をしている<br> それも仕方が無いことだろう、ここ数日は容認しがたい事実の連続――彼からしてみれば――だったのだ<br> この決定に同意してはいるものの、アメリカ合衆国の頂点に君臨してきた彼に、現在の扱いは到底耐えられるものではない<br> いくら国連の後ろ盾が在ろうと、いかに先進国の合意の下に下された決断であろうと、それはアメリカ合衆国大統領にとって問題無いと言うだけだ<br> 国益…果ては人類の存亡という使命感を背負う政治家としてではなく、彼個人にとってすれば、あまりに理不尽なものだ<br> もっとも、彼も大統領まで上り詰めたほどの人物であり、この程度のことで不機嫌をばら撒くような人物ではない<br> 会議の行き詰まりと、それに伴って佐藤以下数名の手助けが必要であるということ<br> そして、連絡を取ろうとした矢先、この状況を予想していた佐藤本人から「今そちらに向かっている」という、挑発的内容の連絡が入り、それを増長してしまったためだ<br> もう、これ以上の刺激を受ければ、冷静な判断能力が失われるどころか、その権限を暴発させかねない――先の海兵隊の件もある<br> 彼を取り巻く首脳部の人間たちは、ここへ来る人間が、その“刺激”を与えないことを祈るばかりだった…<br> <font color="#FFFFFF"><br> <a href="menu:253"><font color="#0000FF">253</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:10:55 ID:???<br></font><br> 「……ええ…何か、言いたいことは?」<br> 沈黙に耐えかねた様子の司会進行役の副大統領は口を開く<br> 答えるものが誰も居ないのは、佐藤の罪悪意識のかけらも無いような軽快な口調で、冗談交じりの話を聞いたためだろうか…気分を毒され、誰も喋らない<br> 椅子に腰を下ろし、姿勢を若干崩しつつ、副大統領は目線を落とす<br> 佐藤の名詞が一枚、資料のうちの一枚のA4のコピー用紙にクリップで留められている<br> 「嵐の前の静けさにならなければ良いが…」<br> 彼の呟きの語尾には、誰かの低い笑い声が重なった<br> 左右をゆっくりと見回してみると、かすかに笑みを浮かべている一人の人物が視界に入る<br> マイケル・W・ウェイン…この空軍長官の役職につく品のいい老紳士は、非常に有能な人物であることは間違いない<br> しかし、空気が読めないのか、それともわざとかき乱そうとしているのか、彼の言動はこういった場の雰囲気を悪化させることが多々ある<br> しかも、その悪化の度合いが非常に高く、声を低くすることもしないため、始末に終えない<br> 逆を言えば、それが無い彼は非常に理想的な人物になるのかもしれないが、そんな妄想の類は何の意味も無いだろう<br> それよりも、その横で涼しげな顔をして、資料をただ眺めているM・モズリー大将にこそ、自分を変える努力をしてほしかった<br> 空軍の参謀総長たる彼が、空軍長官の悪い癖の一つも指摘してやれないというのは、さすがに考え物だろう<br> <br> <a href="menu:254"><font color="#0000FF">254</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:11:34 ID:???<br> 「はぁ……」<br> 空軍長官と参謀総長を交互に見たあと、溜息をつくのはジェームズ・T・コンウェイ海兵隊大将だった<br> 大統領の命令があれば、議会の承認を待たずに従う必要のある彼は、広意義で言えば、一連の混乱の被害者だろう<br> 自分は何も知らないうちに、合衆国首脳部は他国との協議の末、わけの分からない計画を推し進めていった<br> そして、彼は突然、海兵隊派遣の命令を受けた…その挙句、多くの部下を失う<br> しかもそれは、EOLTと公の場で交戦し「名誉の戦死を遂げた」のではなく、事実は完全に隠蔽された後<br> 極秘裏に記録を偽造、揚陸艦の沈没事故、という形で世間に公表される始末であった<br> とにかく、軍部の高官たちは、先に起きた二度の戦闘によって、自信やプライドの類をずたずたにされてしまった<br> それだけならまだしも、多大な被害を被り、その再建を行う程度の余裕しか無いという、絶望的な現状<br> 一部の…特に陸軍に代表される高官たちは、半ば放心状態でここに集まっている<br> <br> <a href="menu:255"><font color="#0000FF">255</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:13:01 ID:???<br> 「それで、あの男はいつごろ到着する?」<br> 国防長官が口を開き、その引き締まった顔に似合わず、どこか優雅さすら感じさせる声を漏らす<br> その声とは裏腹に、憂鬱の虫でも抱えているような雰囲気漂ってくるので、少し不謹慎なたとえが頭に浮かんだが、すぐに振り払った<br> 「ヘリで向かっているそうですが、まあ、後数分でしょう」<br> やたら重たい口調でそう答える副官の表情からは、明らかな不信感が見て取れた<br> 無理も無い――そう思う副大統領は、もう一度目線を落とし、資料に混じっている“あの男”の名詞を見つめる<br> 顔写真の横には漢字で佐藤と刻まれ、その上にはローマ字で読み仮名がふられている<br> しかし、苗字だけで下の名前はどこにも記されていない…そのかわり、国際電話の番号が刻まれている<br> 「担当の事務官か…いい身分だな」<br> 低い笑い声が聞こえてくる…驚いたことに、その声の主は、彼の行動を注視していた大統領その人である<br> 不機嫌が爆発する寸前の彼が、それを誤魔化そうとしての笑みなのだろうが、ここまでくると、不気味に思えた<br> しかし、事実この担当事務官も半ばお飾りに過ぎず、佐藤は自分自身の考えで動き回っている<br> そんなものの為に、国連の予算をつぎ込んでいるのだ――もっとも、マンハッタン事件以来、独断で動かなければ迅速な行動は不可能になっていたが<br> <br> <a href="menu:256"><font color="#0000FF">256</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:14:25 ID:???<br> 「本当に、ろくでもない事ばかり起こるな」<br> 手を目頭に当てつつ、そう呟くのは、ホワイトハウスで300億の資金を捻出するべく、膨大な資料と電話相手と格闘する財務長官であった<br> 最初は怒りに震えていたものの、今では山積みの仕事に血の気が引き、比較的落ち着いている<br> どこか笑える絵ではあったが、同じく国務を預かる副大統領として、彼に同情せずにはいられない<br> 「…あんなものさえ、降って来なければ、な」<br> そうだ――あんな物さえ落ちてこなければ、何も変わりはなかったはずなのだ<br> すべての元凶は、あの宇宙からの来訪者たちであり、誰のせいでもない…かといって、誰かに敵意や憎悪を向けなければやりきれない<br> 前線で戦う兵士たちならば、それはその“宇宙からの来訪者”だろうが、政治家たちはそうも行かない<br> むしろ、できることならば、平和的な共存関係を打ち立てたいと考えている…そういった感情は一切排除する必要がある<br> やはり、必然的にそれらの対象は、同じ人間ということになる<br> 「何も変わらんな…結局のところ」<br> 国防長官の声に、一瞬思考でも読まれたかのような驚きの表情を見せた<br> だが、口を開くことなく彼はまた視線だけを下に落とし、物思いにふけり始めた…<br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;252-256のログ。</dt> </dl> <hr> <dl> <dt><a href="menu:492"><font color="#0000FF">492</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:24:24 ID:???</a></strong></dt> <dt>・・・どれだけその沈黙が続いただろう、司会役の副大統領すら口を開こうとしない<br> 呆れたような目で会議室を見回していた国防長官も、結局この状況から抜け出すための努力をする事を諦めたらしい<br> ただ、あまり意味があるとも思えない時間のみが、音もなく流れている<br> 一応資料を眺めるフリをしていた海兵隊司令官は、資料を投げ出し、その鬱そうな顔を上げる<br> やることが無かったので空を見上げる…いたって普通の行動だった<br> 「…ああ、着ました。例のヘリ」<br> それは間抜けな声ではあったが、無理もない反応だったかもしれない<br> 数分で来ると言われていたそのヘリは、すでに20分以上も到着の気配を見せておらず、てっきりこないものだと思われていた<br> ゆっくりとした動作で窓際に集まった2,3人の会議出席者は、ヘリが現実のものであると確認すると、すぐに席に着いた<br> 「あのヘリは、佐藤が乗っているもので間違いないな?」<br> 質問する司法長官は、ここ数日の激務ですっかりやつれた顔を部下に向ける<br> 「ええ、と…CH-47Jです。間違いありません」<br> 双眼鏡を覗き込んでほんの数秒で答えたあたり、本当に確認したのかは怪しいものだが、とりあえず間違いではなさそうだった<br> 席に座りなおした出席者たちは、何を思って顔をしかめたのか――まともに意見をぶつけるといった行為を行うことを考えているようではなった――<br> 席について考え込む、いやに鬱々しいその顔には、疲れと強迫観念の類がちらついていた<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a493" name="a493"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:493"><font color= "#0000FF">493</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:25:54 ID:???</font></dt> <dt>同じく、25日の午後、そろそろ日が陰り始め、気温が急激に下がる時間帯<br> 国防総省からせいぜい1km程度の距離を飛ぶ一機のヘリの中には、およそ緊張感にかける人間が乗り込んでいた<br> <br> 「――いやぁ、やっぱりコッチの食事は、日本人の舌には合いませんねぇ」<br> 佐藤がハンバーガーの包装紙の内側についているピクルスの破片を、手を使って口の中に放り込んでいく<br> それを見た櫻井は、同じく指のケチャップを舐めながら「下品」と一言注意をして、話を切り出す<br> 「あなた、いつまで…こんな仕事続ける気なの?」<br> コーラを飲みながら語りかけてくる様は、あまり絵になるものではなく、いつもの威勢とかみ合わないものがあったが<br> 佐藤の方も、ダブルチーズバーガーに噛り付いている…それも、秘書のPCの操作にちょっかいを出しながらだ<br> それに、この質問は、過去に幾度となく行われたものだった<br> 初めて顔を合わせたとき、同じ仕事に就いたと知ったとき…櫻井は深く考えずに質問していたし、佐藤はその度に軽くあしらっていた<br> 「辞めたくても辞められない仕事ですし、すぐにもっと重度に…あ、そこはBですよ、相原君。Bです、大文字の」<br> やはり、佐藤も重要なことは思っていないらしく、話の途中でパスワードの入力でもめている<br> 「あれ、Kだったか…もうすぐいろいろな意味で重度になります。そうすれば色々とやり甲斐も出てくるんじゃないですか」<br> 「危ない仕事というか、真っ当な職業にはならないわねェ…それだと」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a494" name="a494"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:494"><font color= "#0000FF">494</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:26:30 ID:???</font></dt> <dt>桜井の挙動に、ところどころおかしな点が目に付く<br> それが何かを探してのことだと気がつく頃には、秘書の鞄の中から何かのファイルを取り出す<br> 「あったわ、非公開の殉職者名簿と殉職ですらない犠牲者名簿」<br> 櫻井が小さく笑うのを見て、彼女の横に座っているスタッフは、かなり意外そうな顔をしている<br> 佐藤はそんなことは無視し、少し黙り込んでから視線を櫻井に戻す<br> 「これでも公務員なんですよ」<br> 「…公務員は公務員ね、たしかに」<br> どうもしっくり来ない様子で、それが公務である事については、改めて気づかされたといった表情をしていた<br> 常識的に考えれば当然のことであるし、あまり意味のある発見ともいえないものだが、どうも櫻井は、そのことで考え込んでいるようだった<br> 「ようするに、今どんなことをしようとも、最終的な勝者になれば正義なんですから、今からやましいことを避けて通るようでは…あ、ケチャップとってください」<br> 櫻井はケチャップを右手で取りながら、左手でピザを口に運び、何か考えているような――深刻というには程遠い表情だが――顔をしながら押し込んでいく<br> 「言うことはよく分かるけど…よく考えたら、勝つとか負けるとかって言うのが意味のない事だって言い出したのはソッチの方よ?」<br> 再びわざとらしいそぶりで両手を動かしてみせる<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a495" name="a495"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:495"><font color= "#0000FF">495</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:27:28 ID:???</font></dt> <dt>その前で、ケチャップを受け取り損ねた佐藤は、床に散らばった色とりどりの包装紙をさらに鮮やかに彩った赤い液体の始末に困っていた<br> その包装紙の山は、ほとんど絨毯に近い形で床に堆積している<br> 相原ともう一人、櫻井の秘書官が缶コーヒーとホットドッグ、半白の頭をした男がパイを食べた以外、すべて佐藤と櫻井が胃袋に詰め込んだものであるらしかった<br> いくら1時間以上もヘリに詰め込まれているとはいえ、さすがに不釣合いな量であることに気づいたパイロットは、ガムをかむ口の動きを止める<br> 「お、おい!ヘリん中で何やってんだてめぇら!!」<br> パイロットの頭には、バイザーつきのヘルメットがかぶさっていため、その激しい表情は伺えなかった――もっとも、それが見えたとしても、佐藤たちの対応に変化は無かっただろうが――<br> 櫻井がサイン入りの何かの契約書をひらひらと靡かせ、佐藤は手帳と認識票のような物を示す<br> 「“軍・政府の交通、および通信機関はある程度自由に利用してよし“大統領のサイン」<br> 「“NATO加盟国の軍関係組織においてはNATO階級符号OF-5相当の待遇、および権限の行使を認める“国連…」<br> 佐藤が続けようとしたのを見たパイロットは、あわてて声を出す<br> 「もういい!わかったからあんまし食い散らかすんじゃねぇ!!」<br> 「結局、何もわかってないじゃない」<br> 櫻井が語尾に妙なアクセントをつけたかと思うと、愉快そうに笑う<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a496" name="a496"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:496"><font color= "#0000FF">496</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:28:13 ID:???</font></dt> <dt>「扱いとしては彼方より数段階級が上なんです。まあ、別にいいですけど…あ、そのコーラ飲まないんならください」<br> 「買ってきたの、これで最後なのよねェ」<br> 「それなら、なおさらください」<br> 「そうじゃなくて、対価を要求してるのよ」<br> 「なら要りません」<br> 櫻井は、まだペットボトルに半分ほど残っているコーラでピザを流し込み、佐藤は3つ目のダブルチーズバーガーに手を出す<br> 相原は先刻までの仕事が一段落付いたらしく、ワードプロセッサを開いて、何か文章を打ち始める<br> その光景から目線をずらし、再び計器を見つめるヘリのパイロットの服装には、所属部隊を示すワッペンの類は一切なかった<br> 秘匿性の高い任務に起用された場合、このような処置がとられることは、“来訪者”たちの襲来に備えて決定さ“れていた”事だ、この任務もそれにあたる<br> この場合、強制ではなく――ことが荒立つのを防ぐためだが――本人の志願によって佐藤たちの護送を受け持ったのだが、どうも後悔しているらしい<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a497" name="a497"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:497"><font color= "#0000FF">497</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:28:57 ID:???</font></dt> <dt>それを見た櫻井は、しばらくの間を置いて佐藤に視線を流す<br> 「面白い反応をしますねぇ…」<br> うれしそうに笑っている佐藤は、日本語でそう呟いた<br> そうしたのは、ただ単に英語でしゃべるのが面倒だったのか、とっさに出てしまったのか、パイロットへの配慮か<br> 「ところで、このサインなに?」<br> 櫻井が手に取った新聞の切れ端を使ったメモには、住所と電話番号と“購入費“、その横には誰かの名前が書かれていた<br> 「何事もお役所仕事ってことです」<br> 芝居がかった仕草で不満を表しながら佐藤は続ける<br> 「さっき買ってきたホットドックの領収書ですよ。他と違って、ちゃんとしたお店で買ったものじゃないので、仕方なく領収書は手書きにしてもらったんです…それがないと、上は一銭も出してくれなくって」<br> 「自腹を切ればいいじゃない」<br> 「だれがこんな仕事のために自腹を切るものですか」<br> 別に怒鳴ったわけでもないが、即答だったので、櫻井はまたもわざとらしく驚くそぶりをして見せた<br> 「本来なら、資金の横領・着服でもさせてもらうのが筋だというのに、旅費や身支度で財布は空になり、手当ての一つもなし…好きでやっている仕事ならまだしも、ほとんどこっちの意思は関係なし」<br> 「まあ愚痴はどうでもいいから仕事の話でもしない?」<br> 視線を櫻井に向けず、外の景色を眺めながら答える<br> 「というと、どの仕事のことですか」<br> 「例の実験とか言うのについてよ」<br> 「ああ…」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a498" name="a498"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:498"><font color= "#0000FF">498</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:29:31 ID:???</font></dt> <dt>佐藤はしばらく間を置いてから櫻井に視線を戻す<br> 表情が少し変化していることに気がついた櫻井に同行しているスタッフが、視線を櫻井のほうに戻すと、やはりそちらも表情が変わっている<br> もっとも、唐突に真面目な顔をするのは、いつものことだったが<br> 「国防長官がどう動くかは少し微妙なところですが、ロシアの件もありますし、協力してくれるとは思います。それに、この前の資金の件にしても、あらかじめ準備してたとしか思えませんしね」<br> ネクタイの位置を直しながら小さくため息をつくその顔には、わずかに疲れが見えた<br> 「国益云々を考えないで行動してくれれば一番いいんですが…まあ、無理でしょう」<br> 「もとからアメリカとロシアは非協力的だろうからといって対策を怠ってきたように記憶しているけど」<br> 「そうです。合衆国と連邦は降下地点からしても、半ば捨て駒になることで全権委員会は話を進めてましたからね。結構しぶとく生き残りそうですが、原形はとどめていられないんじゃないですかねぇ、これじゃ…」<br> 演技なのだが、そうと見えないそぶりで佐藤はひとつため息をついて見せた<br> 「全権委員会の先生方は、人類そのものの存続のためなら、どんなものでも犠牲にして見せるつもりのようですが、いつまで続きますかねぇ」<br> 「すでに米ロ両国の諜報戦は加速の一方。何人かのCIA工作員は強行策に出てスペツナズに処分されたって話ね」<br> いつもにましてニヤニヤとした表情をしてみせる櫻井は、ウォトカを一口含んでから話を続ける<br> 「国家間の対立は見られたくない事から目をそらせるために役立つ…その考えは間違っていないけど、もし彼らの侵攻が止まったりしたら――」<br> 気づけば、表情からは笑いが消えていた<br> 「――取り返しのつかないことになるわ」<br> 「まあ、そのあたりはいろいろと工面しますよ。」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a499" name="a499"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:499"><font color= "#0000FF">499</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:30:04 ID:???</font></dt> <dt>どうでもいいことを喋る様な声と同じく無表情だが、不思議と説得力のあるしゃべり方だった<br> 「ひとまず、私達の方は長期戦よりも、短期決戦を想定して動いてるんで。それに、勝っても地獄、負けても地獄なら後者のほうがいいとも思いますし…」<br> 「どういうこと?」<br> 「独り言です」<br> しばらく沈黙が続いたが、すぐに半白の頭の男が声を上げる<br> 「下に目的地が見えます」<br> 「おや、もうそんな時間ですか」<br> いつの間にか笑顔に戻っている佐藤を見て、半白の頭をした男は聞き取ることが不可能なほどの小ささで安堵のため息をつく<br> 窓の外を見ると、五角形をした目的地が伺えた<br> 「パイロット君、着くのなら教えてくださいよ」<br> 返事は無い<br> 「嫌われてるなぁ」<br> いやに嬉しそうな声なので、またパイロットの表情がゆがむ<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a500" name="a500"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:500"><font color= "#0000FF">500</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:31:03 ID:???</font></dt> <dt>「そういえば佐藤クン、あの娘になに渡してたの?」<br> 「本ですよ」<br> 「本?」<br> 「下らなくも素晴らしき日本文化ですよ」<br> 「あんまり変なもの読ませないほうが良いわよ」<br> 「私が始めて会った頃にはもうダメそうでしたからね。大統領補佐官の娘があんなことでいいのかとも思いますが…」<br> マナーモードにしておいた携帯電話の出す振動を感じて佐藤は会話を区切り、その携帯電話を耳元に持っていったのを見て、櫻井はイヤホンを耳につける<br> 「はい、佐藤です。ああ、フランスの……ええ、とりあえず外人部隊の人たちに…ええ、武装はこっちからファブリク・ナショナルのF2000を…はいはい……それじゃまた今度」<br> 携帯電話をいじる佐藤を見て、櫻井はまた愉快そうな顔をしながら質問する<br> 「スポーツ銃で何するの?」<br> 「6,8mmSPC弾仕様のSCAR-ミドルがまだ来ないんで、仕方なく横流しさせてもらったんですよ。P90あたりのほうが良いと思いますが、あれはグレネードが使えないんで」<br> 「ライトとヘヴィーなら在るじゃない、SR-25やHK416とも弾薬を共用できるし」<br> 「そうすると米軍特殊部隊と装備がかぶりますからちょっと面倒ですねぇ…あくまで我々の組織はイレギュラー(変則的)であり、人員はイリーガル(非合法員)なんで」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a501" name="a501"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:501"><font color= "#0000FF">501</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:32:09 ID:???</font></dt> <dt>何を思っているのか、いやに優しそうな笑みを浮かべながら携帯電話をしまう<br> たいてい、初めてこれら国連機関の装備を聞くと、誰もが「新型ばかりだ」と口に出す<br> 事実、櫻井や自分の所持しているベレッタPx4“ストーム“や、佐藤たちの所持しているヘッケラー&コッホのP2000やP46は、どれも市場では珍しいものや、高価で新しいものばかり<br> 法執行機関向けの自動拳銃、弾数が多い、アーマーを貫通できる、軽量で小型――などといった性能を重視した結果なのだろう<br> それら厳選され、なおかつ高性能な銃器が官給品として国連関係の組織の人員に送られる<br> これらの銃は、一般で手に入りにくく各国の軍が正式採用していないために入手は困難であるが、逆を言えば装備によって他の部隊と区別がし易い<br> もっとも、カタログスペックの可能性は否定できないが…<br> 「…そろそろ着きますが」<br> 半白の頭をした男が警告する<br> 「はいはい」<br> もう長いこと不眠不休で動き回っているのにもかかわらず、軽快な動作で腰を上げ、スラックスのポケットに手を入れる<br> いつもと変わらない表情…だが、彼らが常に意識して表情を変えていることを考えれば、実際にどのようなことを考えているのかは表情では推し量れない<br> <br> 「今回はもう少し歩きやすいところにおろしてください。我々はスーツ姿なんで――」<br></dt> <dt>((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;492-501のログ。</dt> </dl> <hr> <dl> <dt><a href="menu:545"><font color="#0000FF">545</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:29:31 ID:???</dt> <dt>■第7号資料“EOLTの組織的行動、および戦術の急激な変化について”<br> <br> 「概要」<br>  9月19日9時39分の“マンハッタン事件”を機に、EOLTの組織的行動、および戦闘時に取られる戦術が急激に変化した<br> <br> これは部分的なものではなく、大々的に、かつ劇的な変化であり、その影響は計り知れないものである<br> <br> 「事件発生前」<br>  マンハッタン事件発生前の戦術は、基本的に防御力と攻撃力、そして圧倒的な物量に任せた力押しで、攻撃目標の選別以外に明確な戦術は存在しない<br> 攻撃目標は、“攻撃をかけてきた相手の所属部隊構成員すべて“であり、どのような方法・基準に則って、反撃対象を選別しているのかは不明だが、その精度は100%<br> ただ、構造体落下直後は、歩行の障害になる車両・歩行者の排除など、“個”への攻撃・反撃にとどまっていたので<br> おそらくは、軍・警察などの部隊が組織的にEOLTへの攻撃を行ったことにより、このような行動を行い、制裁を加えていたものだと思われる<br> <br> なお、この時点でEOLTが攻撃行動を行うのは、“攻撃してきた相手を殺傷する”事のみに限定されている<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a546" name="a546"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:546"><font color= "#0000FF">546</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:31:12 ID:???</font></dt> </dl> <p>「事件発生後」<br>  事件発生後のEOLTのもっとも大きな変化としてあげられるのが、全個体間でのデータリンクがほぼ完璧なものとったことである<br> これにより、効率的な部隊の配置・運用が可能となり、各科間の分担・連携も、より明確なものとなった<br> 特に、千里眼科の圧倒的な索敵・管制(おそらくは指揮も)能力は驚異的なものであり、千里(3900km)眼の名は決して誇張ではないことを証明した<br> 他にも、探査・追跡科の調査能力など、前線・後方から得られる圧倒的な量の情報を共有し、なおかつ処理できる能力を使い、それらを完璧に活用<br> もっとも少ない損害で、最大の被害を敵に与える戦術や、個のレベルでの戦法を決定するようになった<br> 特に、電脳科やリンクを使った電子戦の仕方を編み出し、それらは人類側にもないものである<br> また、ネットを通じ、様々な電子機器から抜き出した情報を元に、それらの効率化も行っている<br> <br> このときにはすでに“反撃”の延長線上として、“戦闘開始後はテリトリー内の武装した人間のすべてを排除”するようになる<br> <br> ・・・これらの変化は、EOLTがマンハッタン島占拠の際に、人類側の情報を入手し、それにあわせてのものだと思われる<br> この変化が顕著の現れたのは、マンハッタン事件後に行われた、EOLTと人類軍の二度目の戦闘であり、EOLTと人類軍のキルレートは推定で3~5倍に開いたとされる</p> <dl> <dd><a id="a547" name="a547"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:547"><font color= "#0000FF">547</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:32:06 ID:???</font></dt> </dl> <p>追記:<br> 戦闘の経過が一方的であり、時間的にも短かったため、詳細なデータは取れず</p> <dl> <dd><a id="a548" name="a548"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:548"><font color= "#0000FF">548</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:33:08 ID:???</font></dt> <dt>■第10号資料“EOLT体組織の二重構造について”<br> <br> 「概要」<br>  モスクワの研究機関にて、EOLTの死体を解剖した結果、きわめて興味深い事実がいくつか判明した<br> <br> 当初、珪素系の生物であるといわれていた彼らだが、構成物質には炭素や酸素なども多く含有しており<br> これらの為に、炭素系の生物(地球上の生物)に似た特徴がある、“珪素生物と炭素生物の中間的“なものだと思われた<br> しかし、実際は違い、EOLTの体組織は炭素系の部分と、純粋に珪素(有機珪素化合物を含む)と金属のみで構成され部分で独立し、二重構造を作っているとのことである<br> <br> 「純珪素系構成部分」<br>  純粋に珪素と金属を中心に構成され、地球上の生物とはまったく違った方法で生態活動を行うのが、この“純珪素構成部分”である<br> 基本的に深層部であり、皮膚では真皮の部分からこれに変わり、内臓等の体組織の重要器官はほぼすべてがこれに当たる<br> その主成分は珪素(有機珪素化合物を含む)と未知の金属元素から構成される合金、液体金属であり、前者二つが体組織のうち、個体のものを形作り、後者が体液等に相当している<br> 血管や神経系などの管には、金属や珪素樹脂のようなものが多用されている<br> その生物・科学的な耐久性は非常に高く、臓器の配置などはもちろんのこと、細胞(?)などは、分子レベルでの構造強化が施され<br> これらのことが、やはりEOLTは常識を逸するほどの高度な科学技術によって創造されたもので、自然発生するものではないことを裏付けている<br> また、未知の金属元素には放射性物質、それらが崩壊したことで精製されたものが含まれており、やはり自然界には存在しない物質が多い<br> さらに、合金に関していえば、調合率に個体差は一切なく、すべての残滓において一律だったことから、これらの固体は、すべて同一の存在によって製造された可能性が高い<br> <br>  これらの生態活動や、それを行う組織のメカニズムは非常に難解であり、おそらく、現代の技術・知識での解析は難しいだろうと思われる<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a549" name="a549"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:549"><font color= "#0000FF">549</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:34:01 ID:???</font></dt> <dt>「炭素系・珪素系混成部分」<br>  純珪素構成部分と違い、その構成成分に地球上の生物のそれに含まれる物質を多く含み、炭素系生物の特徴を併せ持つのが、この混成部位である<br> 純珪素構成部分が科学的・構造的完全性において、地球上で見られるありとあらゆる生物や機械を凌駕していたのに対し、混成部分は“比較的“軟弱な構造となっている<br> 表皮の第一層を始めとし、感覚器官の一部(嗅覚?)などの粘膜、伸縮を行う呼吸器官の一部組織(肺胞?)のような部位がこれらにあたる<br> 血管などの管にはカーホン・ナノチューブが多用されており、神経系には光ファイバーの応用が見られる<br> 過去にあった「EOLTに有効打を与えた」例のうち、小火器当を用いたものは、すべて部分へ攻撃を与えた事によるものだろうとされる<br> この部分は、初期に製造(?)された千里眼科等には確認できず、また、戦闘開始前のEOLTと開始後に修復・製造されたEOLTの外観(主に体色)を比較した結果からしても、後者にしか備わっていることが多い<br> つまり、他の惑星に比べ、格段に活動しやすい環境である地球での運用を前提とし、構造的に軟弱な混成部分を、体組織に組み込んだことが推測できる<br> また、これらの事が戦闘能力の低下を招くとしても、それらのリスクをカバーできるメリットがあることも推測できる<br> もしくは、一見しただけでは戦闘能力の低下ではあるが、実際は違うのかもしれない(戦術的な視点や、長期にわたる運用において、これらがどういう意味を見せるのかは、現在調査中)<br> <br>  しかし、生存した個体の捕虜が取れないことや、純珪素構成部分とまではいかないまでも、その構造や生態活動のメカニズムは難解であるため、未だその詳細は不明<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a550" name="a550"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:550"><font color= "#0000FF">550</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:35:25 ID:???</font></dt> <dt>追記:<br> 生態活動についての詳細は、更に綿密な解剖・解析を行った後に、EOLT解剖記録としてまとめられる事となっている<br> しかし、ロシア政府はEOLTの死体の独占を狙っていることもあり、国連に提出されるのは情報のみになるだろうとの見方が強い<br> <br> 各種情報・諜報機関の動向の変化に伴う情勢の推移に注意<br> <br></dt> <dd><a id="a551" name="a551"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:551"><font color= "#0000FF">551</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:39:59 ID:???</font></dt> <dt>プロジェクターで投影された(前者は口頭でも)資料二種 <br> <br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;545-551のログ。</dt> <dd> <hr></dd> <dt><a href="menu:577"><font color="#0000FF">577</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:30:13 ID:???<br> ―――ええ…彼についてなら知っています<br> 初めにあったのが成田空港でしたね、親の仕事のおかげもあって、日本に行くことになって、そのときです<br> 外務省の人間だという話で、ちゃんと連れて行ってもらったこともありました<br> 仕事?仕事ですか…さあ、国際関係のことだといってました、ほかにも、国内でも結構忙しいとか<br> 役職は…えっと、たしか…執行官とか、そんな呼ばれ方をしてるのを聞きました<br> ええ…そうですね、つい最近です<br> ほんの二、三ヶ月前に聞いた以外は…ええ、それまでは聞いたことありませんでしたから<br> どういう関係かといわれても、ただ親の仕事が政治関係だからとか、そんなことを聞きましたけど…<br> でも、右翼だとかそういうのが何かしてきたことは…右翼だと聞かされました<br> え?…いえ、でもそういって聞かされたので…<br> はい、それ以来は時々、日本に行ったりとか、向こうが来ることがあるので、そのときに会ってます<br> ええ、銃はいつも持っていましたね、とくに前にあったときからは22口径と合わせて2丁持つようになってました<br> 撃つところですか?構えたところを見たことならありますけど、撃つところを見たのは…<br> …私も聞きたいですよ、彼がいったい何なのかなんて!<br> ただ…あまり真っ当な仕事をしてるようには感じませんでしたね<br> 雰囲気といい性格といい、普通にしてるときはそう思えないんですけど、時々変わるというか…<br> ええ、裏表のある人だとは…<br> 普段身に着けているものなんかは、全部官給品だと聞かされました、スーツとかサイフとか<br> え?…いえ、別に…ええ、会う機会もそれほど多くはないので<br> それはたしかに、向こうのお土産とかをいろいろ…でもそれだけです<br> ええ、ですから本当に何も知りませんよ、彼がいったい何をしたんですか!?―――<br> <br> ―――質問・尋問記録第224号 記録者:CIA ウィリー・ケンプ―――<br> <br></dt> <dd><a id="a578" name="a578"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:578"><font color= "#0000FF">578</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:32:08 ID:???</font></dt> <dt>・・・セーヌ川右岸パリ北部、マンモルトルの丘は、あいにくの曇り空のお陰で、いつもより少し暖かい<br> EUの中心メンバーであり、ロシア方面での来るべき戦いに備えた多国籍軍編成を行ううえでも重要なポストを占める、このフランスの首都では、これといった軍事色を見出すことは出来ない<br> ただ、宇宙からやって来た “来訪者”たちに関する捻じ曲げられた事実を、人の目を引くような内容に作り変えた記事が書かれた号外が目に付く程度である<br> 時間が時間なだけに、人通りも少なく、歩いている人もすぐに早足で視界から消える<br> そんな中、一人のスーツを着た女性が、葉のすべて散った木にもたれかかりながら携帯をパカパカと開け閉めしている<br> 「―――――――まったく、人使いが荒いなぁ…」<br> どこかわざとらしい口調と表情で苦情をもらす<br> 整った顔立ちで茶髪、女にしては若干長身で、痩せ型だが起伏はそれなりにある体つきで、服装はどこかで見たことのあるようなオーダーメイドのスーツ<br> 首元には“8920”と“U.N.”の刺繍が施されている<br> 「フランスの外人部隊はあくまでフランス政府の所有。それが今は傭兵紛いの使い捨て、か……あの人は何回言ったら聞いてくれるんだか」<br> 愚痴をもらしながら片手の中で弄んでいる携帯を再び本来の用途で使い始める<br> 「結構いい人なんだけど……えーと、番号はこれでいいんだっけ…?」<br> ちょうど斜め後ろにはアタッシュケースを持ったスーツ姿の男性が二人ほどたっているが、ぶつぶつと漏らしながら番号を入力する彼女に助言をしようとはしない<br> そして、徐々に大きくなってくるヘリのローター音に気がついて、顔を上げることもない<br> 「ああ、繋がった繋がった!―――――――センスのない曲だな…」<br> 不機嫌そうな顔をしながら棒立ちする彼女の批評は、ほとんどピークを迎えたヘリの爆音でかき消される<br> 軍用のそれではないが、花の都にはふさわしいとは言えないカラーリングをしたそれが、彼女らの目の前に降りてくる<br> SA330ピューマJ型―――――フランス近海に停泊中の、ある艦艇から離陸してきたものだった<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a579" name="a579"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:579"><font color= "#0000FF">579</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:33:45 ID:???</font></dt> <dt>「どうです。そっちの調子は!?」<br> ヘリのスライドドアから聞こえる叫び声に、その質問を受けた人間は携帯電話を後ろのスーツ姿の男のほうに投げながら返事をする<br> 「困ったわねぇ!宮殿の皆様方、そろって外出中のようで―――――!」<br> ヘリに歩み寄りながら肩をすくめて見せる<br> 「―――――でもまぁ、好きにしていいんじゃない?」<br> ヘリのローターの回転数が落ちてきたこともあって、大声を張り上げることもなく、冗談でも言うような口調で続ける<br> 「それにしても、わざわざフランスの英雄の名を冠する船に、民生用のヘリを乗っけるの?」<br> ドアのそばに座っている人間のことを気にも留めず、出入り口の両脇を手で叩いてアピールする<br> 「民生用のほうが格段に目立ちませんからねぇ!」<br> 「それじゃ、さっさと済ませてね」<br> 面倒くさそうに返事を済ませた後、ヘリに軽快な足取りで乗り込むと、横になって座席を占領してしまう<br> 「…なにをやってるんですか」<br> 「あれが落ちてきて、コッチに仕事が回ってきた後は不眠不休で走り回ってたんだから、仮眠のひとつでも取らせてもらうわ」<br> 腰のホルスターに収められているベレッタ社製拳銃のセフティーを付け直しながら、さもおかしそうに笑う<br> 「…それに、そっちも安心できるでしょ?」<br> 「そうですね」<br> いつの間にか手に握っていた、光のない黒色をしたフレームのP2000を胸の中に押し込み、<br> ため息混じりに他の乗客も銃をしまう―――セフティーを外したまま――――<br> 「あっ、じゃあそのケースだけで結構ですので、後はこちらが……」<br> アタッシュケースを受け取ると、すぐにスライドドアは閉められ、再びローターの回転数は上がっていく<br> スーツの男は小さくため息をつきながらアタッシュケースの中に入っているノートパソコンのディスプレイを無言で眺め続ける<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a580" name="a580"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:580"><font color= "#0000FF">580</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:35:13 ID:???</font></dt> <dt>映し出される画像と文章―――――赤いニューヨークの別名で呼ばれるようになった、かつての世界経済の中心<br> ほんの数日前までは、無傷な姿を何度も見ていたのに、まるで何年も前からこの状態だったように荒廃している様に思える<br> そして、事実上見殺しにされた市民の総数についての記録・考察が映し出されている<br> ついさっき、このデータと一緒にヘリに乗り込んできた女は、いつの間にか雑誌で顔を覆っている<br> 今までまったく動かなかったのだが、何を思ったのか、口元が緩む<br> 「…あは、あはははははは――――――!!」<br> 顔に雑誌をのせたまま、唐突に笑い声を上げる<br> ぎょっとする事もなく、どこか共感するところがあるかのようにほかの乗客たちも表情を沈める<br> 「はは…―――――ほんとに、馬鹿馬鹿しいわ…ね……」<br> その言葉は組織や国家の現状に向けられたものか、託された仕事に対してなのか、それとも、そんな仕事をしている自分自身へのものか、おそらく、自分でも分からないだろう<br> スーツ姿の男たちは、データの処理にかかるが、いつもに増して事務的な雰囲気を漂わせる<br> 無論、それは決して、犠牲になった何百万という人間への感情によるものなどではないが…<br> <br> 様々な思惑と策略を乗せ、ヘリが帰還すべく洋上へ機首を向ける<br> その頃には、すでにフランス外人部隊から抜擢された兵士たちが、その目的地に集められていた・・・<br> <br></dt> <dd><a id="a581" name="a581"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:581"><font color= "#0000FF">581</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 19:01:14 ID:???</font></dt> <dt>■101号文章“国連機関へのフランス軍一部兵力提供について”<br> <br> 「概要」<br>  EOLT構造体落下に伴い、協定に従い、フランス政府は自国軍の一部を国連機関、または米ロ両軍の特務部隊へ提供することが決定した<br> <br> 「提供兵力」<br>  提供兵力に必要な条件は二つあり<br> ひとつは、錬度が高く、装備の面でも優秀であり、部隊としての完成度の高い歩兵を中心とした部隊であること<br> いまひとつは、消耗が多少激しくとも問題が無く、また、ある程度使い捨てが聞く舞台であること―――である<br> これらの条件に最も近いであろうとされた部隊に、フランス外人部隊(仏語L?gion ?trang?re, 英語French Foreign Legion)が抜擢された<br> これらの部隊は、GCPなどに代表される、活動内容が公表されていないものや、48時間以内に世界中のどこにでも展開可能な機動力を持ったものも多く、兵力として不足は無い<br> また、外国人によって編成されているため、死者が出てもその偽装はほかに比べて容易なものとなっている<br> <br> 「プロジェクト“8920”関連」<br>  おもな兵力提供先としてあげられるのが国連非合法・非正規・非人道的機関であるプロジェクト8920実働部隊である<br> 基本的に兵力として使用可能な人員をほとんど持たない国連特務機関には、国連加盟国からの軍事的支援が不可欠であり、フランスがこれに当てられることになる<br> <br> 大規模な部隊移動は危険かつ困難であり、人員は部隊から少数選出、その主な選出元は第2外人落下傘連隊と第2外人歩兵連隊<br> これらをアメリカ軍の欧州方面の特殊部隊と共に実働部隊として編制、作戦に投入した<br> <br> しかし、現在選出した部隊員の8割が死亡、または行方不明となっており、編成されたばかりの部隊は事実上消滅している<br> <br> 「その他提供先」<br>  現在検討中<br> <br> 追記:<br> フランス政府自体は“協定“を結ぶ時点ですでに重要なポストを持っていたため、非常に協力的ではあるが、マスメディアの動向に注意が必要<br> また、一部には消極・反抗的なものも多く、事実を知らない議会は混乱している<br> また、比較的野心的な行動も目立ち、独自の行動を行う準備も出来上がっているとのこと<br> <br> 現在調査中<br></dt> <dt><br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;577-581のレス。</dt> <dd> <hr></dd> <dt><a href="menu:599"><font color="#0000FF">599</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size="2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:22:26 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></dt> <dt>・・・あわただしい空気、首相補佐室内部では今起きている事態の把握と対処に追われる政治家達がいた<br> そのうちの一人が、何の罪も無いはずの受話器を怒鳴りつけている<br> 「私だ!―――いったい何が起きてる!?」<br> 品の良さそうな老紳士だが、赤ら顔で怒鳴っている姿を見るとそうも思えない<br> 〈分かりません、執行官と事務官が姿を消しました。応答のない領空侵犯機が海上に現れるのと同時に、市街地へ未確認の軍用ヘリが下りたとの情報が!!〉<br> 「確かに海上に向かったんだな!? ならいい、執行官の秘書を拘束しろ!!」<br> 〈しかし、規約に違反する行為は責任問題にっ!!〉<br> 「かまわん! 政府代表部の若造一人の首程度、いくらでも挿げ替えてやる、やらせろ!!」<br> 思いっきり受話器を叩き付けると、再び怒鳴り声を上げる<br> 「間違いない! やつら、ジャンヌ・ダルクを動かしおった!!」<br> 「ですが、そんな事をいったいなぜ?」<br> 嫌に落ち着いた声の部下に腹を立たせたのか、更に怒鳴り声を上げる<br> 「知らん! 大方、国連の連中の“仕事“にでも使うんだろう、このままでは政権転覆どころではすまん!!」<br> 「どうします? いまからSHOM(海軍水路海洋局)に連絡を付ければ阻止も可能かと」<br> 「無理だ! マンハッタン事件以降、海軍はまともに機能してすらいないし、軍港はやつらの監視下だ!」<br> 将校は充血した目を見開きながら叫ぶ―――不眠不休でここに缶詰にされ、すでに事故死した首相の“補佐“を続けている<br> 「だが、船の一隻も動かせないわけじゃあるまい!?」<br> 「馬鹿言うな、そんなもの沈められて無かったことにされるのが落ちだ、もうここはフランスの海じゃないし、軍の一部も連中に従ってる」<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a600" name="a600"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:600"><font color= "#0000FF">600</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:24:37 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>…マンハッタン事件の後、フランス国内の情勢は大きく変わった<br> 国連で定められた“来訪者達“への備えとしての規約、それに従おうとしないフランス政府の一部勢力の動きが、ここまで状況を悪化させた<br> 暴発する危険性が出ることを承知で、国連はフランス以外の安保理常任理事国の権限と力を使い、軍の自由を奪った<br> 外人部隊等の兵力を国連に提供することで話を進めていたこともあり、指揮系統が混乱しているのをいいことに、それらを政府からの情報と隔絶させた<br> すでに情報伝達網は壊滅しており、一度その距離が隔てられれば、正しい自己の立場は二度と掴めない<br> 国連は思いのほか統率の取れた組織であり、アメリカやロシアなどの大国の意思に関係なく、国際“連合“ではない、まったく別個の組織であるかのようにすら振舞っていた<br> いまだに混乱から立ち直れないフランスでは、その動きを防げなかった…<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a601" name="a601"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:601"><font color= "#0000FF">601</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:26:24 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>しかし、それでも抵抗を試みようとし、洋上のヘリ空母の動きを止めようと、彼らは動き回っている<br> 「とにかく、元老院の連中は宮殿を出たんだな!?」<br> 赤ら顔の老紳士は声を荒げたまま、部下に確認を取る<br> 「はい、すでに全員がこちらに向かっています。とにかく、首相の死と軍部の暴走…もとい、国連の干渉に対応するための会議を……」<br> 大規模な密談だな―――幾人かはそう心の中で思わずにはいられない<br> 国連の行動は建前上であれ加盟国の総意であり、それに反発し、最悪の場合は軍を動かそうというのは、傍から見ればこちらの方が悪だ<br> まして、国連はフランス軍の外人部隊だけを絡めとった後は、監視を残す以外は特に何もしようとはしていない、無視しておけば傷口は決して広がらないはずだ<br> だが、この中の誰も、そのことを口にしようとはしない<br> 「開く準備をしておけ! 国民には悟られるな!!」<br> 「あの、国連の監視は―――!?」<br> 「いまさら遅い! 何もかも筒抜けにきまっとるだろうが!」<br> 散々自国を愚弄された挙句、自らの職権すら失おうとしているこの男に、怒鳴り声以外を出すことは至難の技だろう<br> 「国防省との情報網の復旧に全力を注げ! それが終わったら、通信衛星や固定された施設に頼らない通信網の立ち上げだ―――!」<br> 椅子から立ち上がると、首相官邸へ向かうべく、数人の部下と共に嫌に大きな足音を立てながら歩いていく<br> 「…くそっ!」<br> いきなり罵声を上げたことに何人かが振り向く<br> <br> 「これは死んだ婆さんの呪いだ! でなければこんなに不幸が続くわけがない!」<br></dt> <dt>((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;599-601のログ。</dt> <dd><br> <hr></dd> </dl> <dl> <dt><a href="menu:626"><font color="#0000FF">626</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 04:58:51 ID:???</dt> <dt><―――しかし、佐藤君たちは何のためにここまで危険な動きを?<br> <br> 知らん、やつらが何を考えているかなんぞ見当も付かん!<br> <br> ですが、やつらに権限を与えたのは大統領でしょう!?―――><br> <br> ・・・イヤホンから聞こえてくる大統領たちの声は、どこか鬱陶しいものを振り払うような声だった<br> それを聞きながら、声の主がいる部屋の前をウロウロと歩き回る佐藤は嫌に嬉しそうだった<br> 「嫌われてますねぇ…」<br> 「失礼ですが……何がそんなに嬉しいのですか…?」<br> 若い国防総省職員の投げかけてきた質問に気がついき、歩くのをやめてイヤホンを胸ポケットにしまう<br> 「そりゃ嬉しいですよ。いくら最近とは言っても、こういう仕事のほうへ移ったのはまだ一年位前ですからね、いろいろばれてたら困ります」<br> 「ただ単純に向こうが右往左往するのが面白いのでは?」<br> 「相原君…」<br> 「むしろ右往左往しないで、分からないのならこっちの言うことを聞いてくれたほうが楽で楽しいんですがね」<br> そういっている割にはどこか嫌な笑みを浮かべている―――いつもそうだと言えなくもないが<br> 「じゃ、開けて下さい」<br> 「は…はい」<br> 何か聞いてはいけないことを聞いているような感を拭えない職員は、おずおずと扉をノックし、取っ手をつかむ<br> 開いた直後に佐藤は声を出そうとしたが、中にいる人間の反応のほうが早かった<br> 「来たようだな、佐藤」<br> 大統領は軽く鼻を鳴らしながら、明らかに怒りを感じさせる表情で皮肉っぽくしゃべってみせる<br> アメリカ合衆国の首脳たちを前にしながら、ポケットに入れた手を出そうとしない佐藤に対して、この不快そうな対応は当然だろう<br> もっとも、対応される本人はいたって涼しい顔をしてはいるが…<br> 「ええ、着ました。呼ばれたので」<br> 「呼んだのではなく、君のほうから着たんだろう?」<br> 「さっきの電話では私を呼ぼうとしてたんでしょうが」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a627" name="a627"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:627"><font color= "#0000FF">627</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 04:59:34 ID:???</font></dt> <dt>つまらない問答をしている間に、相原ほか一名がプロジェクターをいじり始めている<br> 「…とりあえず、本題に移ろうじゃないかMr.佐藤」<br> 副大統領の言葉に続いて、何かまた言おうとした大統領に対して佐藤が先手を打つ<br> 「どうせ核攻撃についてでも考えていたのでしょうが、まあ取りあえず落ち着いてください」<br> また大統領は何か言いたいことをこらえるような表情を見せ、腕組みをしながら国防長官に説明を促す<br> それに気がついたブラックスーツ姿のゲイツ国防長官は、ため息混じりに立ち上がる<br> 「すまないが、そのプロジェクターのスイッチを入れてくれるか」<br> 合図の一つでも出せばいいようなものだが、壁際の将校に対して、あえて口で伝える<br> 相原のいじっているそれと、もう一つ別においてあったプロジェクターが動き出し、スクリーンに画像が投影される<br> 棘を取り払っただけの、拉げた海栗の様な風体の物体…落ちてきてはならなかったモノ、俗に“構造体”といわれ、いまだに正式名称の与えられていない、全ての元凶<br> 「君らに言う必要もないが、ニューヨーク・クイーンズ区のすぐ隣、ロングアイランド島西部に落下した“訪問者達”の巣だ」<br> 言い終わるより若干早く、構造体の基礎データが映し出されていく<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a628" name="a628"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:628"><font color= "#0000FF">628</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:09:16 ID:???</font></dt> <dt> 「知ってのとおり、静止衛星軌道上からの落下速度と減速の仕方。地上で観測された衝撃などから、これが相当な質量を持ち、ほぼ均一構造の物体であることを証明している<br>  そして、能動的な減速加速が可能で、それ自体が船として地球へ航行してきたことも、だ」<br> いったん言葉を区切り、反応を見る<br> 「そう、そこが重要ね。重力の干渉やなんかを予測して打ち上げられた物ではなくて、自分で軌道を帰ることが可能」<br> 「そうだ―――あの小惑星規模の代物を、いったん静止衛星軌道上で止め、落下の衝撃で構造体が壊れないように、恐ろしくゆっくりと降ろしてきた<br>  ……しかも、人工衛星が衝突するまで、その位置が判明しないほどの高いステレス性<br>  つまり、それだけのことを可能にする技術があの中には詰め込まれていて、少なくとも人類のそれでは到底かなわないような科学技術の塊である…ということだ」<br> 櫻井が肩をすくめた後、壁に寄りかかりながらしゃべりだす<br> 「分からないわねェ…どうしてそこまでして自分のものでないものを欲しがるのかしら」<br> 「ロシアも同じことを考えていますよ」<br> ピクッと幾人かの眉が動いたのを見て、佐藤微笑する<br> 「聞いたでしょう、空挺軍の部隊と駐屯地が大規模移転を行っていることは」<br> いつの間にか缶コーヒーを手にしている佐藤がメガネで光を反射しながら顔を上げる<br> あまり深い意味を持たせているようには見えなかったが、聞いている相手の表情には、わずかに焦燥感が見て取れた<br> 「そうだ、だからこそ我々はあの中身が欲しい」<br> 目には微塵の狂気も感じられず、かといって冷酷そうな無表情かと言えばそうでもない<br> “母“国を憂慮する軍人の感情と、“自“国の国益を何よりも優先しようとする政治家の汚れた一面に板ばさみにされたような、どこか複雑な表情をしていた<br> そう思えるだけかもしれないが、佐藤たちにはそうであることを確信することが出来るほど、彼らと関わってきた<br> 「だが、もちろん人類がこの戦いに“生き残れるなら”と仮定してのことだ、詰まらん欲を出して勝機を逃すのだけは避けたい」<br>  あえて“勝てるのなら”と言わなかったのは、EOLTの技術を使ってか、内部に侵入するかして、直接EOLTと交渉をすることをチラつかせていた<br> それに気がついたのか、佐藤が無表情に口元をゆがめ、櫻井が「クスクス」と押し殺した笑い声を上げる<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a629" name="a629"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:629"><font color= "#0000FF">629</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:10:35 ID:???</font></dt> <dt>「それで、どう考えてるの?」<br> まだ可笑しくてしょうがないらしい声と表情だが、長官はそれについて触れようとしない<br> 「我々は核攻撃で“あれ”を破壊、ないしその機能を奪えると考えている。こちらの専門家の話では、わが軍の保有する核弾頭すべてをぶつければ“あれ”の表層部分の大半を燃焼させられるらしい<br>  生物ならば表皮の全てが焼かれれば生態活動を停止するだろう、少なくとも、あれの主要な機能を奪えるはずだ<br>  それに、周辺のEOLTも巻き添えに出来るし、内部への攻撃も容易になる」<br> 「ちょっと無理があるわ。そもそも、なぜ何を根拠に表層部が全て破壊できると確信できるの?<br>  大気圏突入できるほどの物質で構成され、密度が均一である事から分かるように、おそらく構成物質のほぼすべてがそれよ<br>  そんな代物を核で破壊するには、中心の火球で直接蒸発させる以外、有効打は与えられないわ。表面を蒸発させるとしても核弾頭の数が足りない、一部を削るだけね<br>  おまけに、挙句その行為は私たちの最終目標でもある“和平“への道を閉ざすことになるわ」<br> 「中枢部が生きていればEOLTに指揮は出せるでしょうし、地下部などへはほとんど被害を与えられないはずです<br>  第一に、核で9割以上のEOLTを殲滅できたとしても、残りの1割がいるだけで、現在北米にある戦力での攻略は困難です<br>  そもそも、それだけの核をあれに向けて発射し、しかもまんべんなく表面を蒸発させるようにする事は、あの事件後、非常に困難になってます」<br> すぐに採点されはするが、ある程度予想していたかのような様子で話を続ける<br> スクリーンには米軍がいつでも使えるよう、“あらかじめ“配備していた核を搭載した弾道ミサイルの配備状況が示された<br> 「そうだろう……しかし、彼らがとっている行動はあくまでその時その時に人類側の動きに対応しているのが限界だ<br>  戦力や戦術的にはEOLTが圧倒的に優位だとしても、戦略的な優位性はまだ人類側にある。政界・制空権もいまだ確保できている<br>  何も泥にまみれ、血を流し合う戦いを続けなくとも、戦略的にEOLTの力を無力化し、少なくとも向こうから攻勢が行えないような状況を作り上げることは、可能ではないのか?<br>  たとえば、核弾頭を周囲に配備し、戦力を拮抗させ、その間にわれわれは“身支度“を整える」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a630" name="a630"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:630"><font color= "#0000FF">630</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:11:25 ID:???</font></dt> <dt>長官の話す身支度とは何かについては触れずに、缶コーヒーを飲む佐藤と、壁に寄りかかったままの櫻井の反応を見る<br> やはり何かを言いたげに櫻井がその言葉を頭の中で反芻している<br> 「そう考えるのなら、常に主導権を握り続けるように努力すべきでしょう」<br> 「躊躇するなとでも?」<br> 「あなたはEOLTが常に相手の行動に合わせてしか、人類と言う名の害獣による被害に対応できないことを好機だと考える。それはそれで結構です<br>  ただ、相手がこちらの行動を読んで、こちらが行動を起こすと確信して事前対処を行うことも在り得る<br>  …それに、EOLTがなぜこんなことをしてくるのかをよく考えて行動したほうが良いかと―――」<br> ついさっきまで何の変化もなかったが、途端に、目に冷たさを感じるような無表情変わる<br> どこか失望にも似た思いを見て取れるが、それが何のオブラートにも包んでいないものと言うことはないだろう<br> そもそも、失望したことで悲しんでいるのか喜んでいるのか、彼の性格や立場からして、前者と言うことはないだろう<br> 「EOLTは確かに二番手に甘んじているんですが、正直、あれは分かっててやってるんだと思いますがね」<br> 「なぜ?」<br> 副大統領が一言だけ返す<br> 「我々が何か行動するために、同じような行動をとる…まあ、反撃を仕掛けてきています」<br> 「つまり?」<br> 「“お前らが攻撃を仕掛けるともっとすごい反撃を食らわせるぞ”といってきている可能性があります。つまり、ある種の抑止力としてその行動を取っているのではないかと」<br> 「だから?」<br> 「攻撃を仕掛けるのは、少し不味い要素があると…」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a631" name="a631"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:631"><font color= "#0000FF">631</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:11:56 ID:???</font></dt> <dt>話を切り、ネクタイの位置を少し調整する<br> 大統領以下、複数名は、今まで嗾けるばかりだった佐藤の言動の変化に、少し驚いたような反応をする<br> 「―――まあ、我々としても、あれの中に入ってみたいと言う思いが無い訳ではないので、それでも構いませんが<br>  ロシア政府は制圧・破壊よりも調査を最優先しています。それでロシアが潰れるかも知れないので、“こっち”のほうには、出来れば制圧・破壊のほうを優先したプランを立てて欲しいですね」<br> その思惑は明白だったが、大統領があえて口に出す<br> 「なんだね、要するにロシアが失敗してもアメリカだけ残るように―――ということか?」<br> 「逆に、ロシアが成功した場合は、アメリカが失敗し、今後どういった手段をとるべきかの実験台にする…か」<br> 構造体突入部隊の指揮官候補でもあるコンウェイ海兵隊大将が口を開く<br> 実験台に自分たちが使われる―――ということを、自らは口にした割には、無感動な表情のまま、資料が飛ばないよう重石代わりに使っているコーヒーカップを手に取る<br> 「ちょっと待てくれ、それだと、合衆国はもちろん、ロシアも同じように“反撃”を受けるだろう!」<br> 海軍作戦部長のフラヘッド大将が、黒い皮膚のおかげでより目立って見える太い唇声を動かしながら、声を大きくして叫ぶ<br> それを見た統合参謀本部議長のミューレン海軍大将がゲイツ国防長官の耳に何かを囁き、さらにゲイツ長官が資料片手に大統領へと伝える<br> どうやら、フラヘッド大将をしゃべらせたのは、どこか険しい顔をしながらネクタイを緩めている議長その人らしい<br> 「無論です。だとしても、この攻撃なくして事態は改善に向かわないと考えているのでしょう?<br>  私も同じです…そのためには多少なり犠牲は払わなければならないであろうことも、先生方と考えは同じです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a632" name="a632"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:632"><font color= "#0000FF">632</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:12:45 ID:???</font></dt> <dt>「では、何が起こるとMr.佐藤は考える?」<br> あえてミスター付けで呼ぶことで、本当に分からないのだと言う意思表示をしてみせる<br> もっとも、何も知らない人間から見れば、その白々しさといい、ただの挑発にしか見えないだろうが―――実際、その発言に不快そうな表情をして見せた人間もいた<br> 「こちらの動きに合わせて…というのは、彼らが落ちてくる時からそうでしたが<br>  そのうち戦闘に関することでEOLTが取った対応は二つ、一つはこちらと同じく、相手の情報を手に入れ戦術を変化、いま一つは新種の導入です」<br> パッと何かが光ったかと思うと、スクリーンにはEOLTの写真とその解説が写されていた<br> EOLT追跡科第2号亜種と記されているそれは、人の血で赤く染まった6本の脚を使い、摩天楼に張り付いているところを撮られたらしい<br> 大方、撤退が完了した時点で、追跡を続けてきていたので写真に収めたのだろうが、追跡を受けていたということは、おそらく後続に撮影者たちは殺害されたはずだ<br> 「こちらが敵対行為を示す前は探査機の類、こちらと戦闘が起きてからは自衛用個体…攻撃を加えたものに反撃し、抑止するという戦術に適した種です<br>  ただ、これは偶発的な戦闘の場合で、もし、こちらが自発的に攻撃を行えば、自衛ではなく、自分たちの方からも攻撃が可能な種を導入してくる可能性は十分あります」<br> 「ふん、ジャパニーズ・カタナでも持ち出してくるか?」<br> 野次が飛ぶ、だがそれは、佐藤はおろか一部の会議出席者にも滑稽にしか映っていない様子だった<br> 「…まあ、それもあながち間違ってはいないと思いますね」<br> 「―――!?」<br> 軍関係者の列に座っている人間が、少し戸惑ったような驚き方をしてみせる<br> 「殴る蹴るしかできないEOLTが、刃物を手にするだろうというのは、あながち間違った発想でもないといっているんです」<br> …たしかに、EOLTは己の肉体による攻撃以外行わず、しかも、その腕や触手は、攻撃に特化したものではなかった―――もっとも、人を引き裂くには十分すぎるが<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a633" name="a633"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:633"><font color= "#0000FF">633</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:15:13 ID:???</font></dt> <dt>「現に、触手の端にギザギザが付いたナイフ程度のものはありましたし…まあ、一番可能性が高いのは“口“でしょうが」<br> 「“口“―――というと、われわれの事を捕食する…というのか?」<br> 副大統領は、あまり武器というものに結びつきそうにない名前を出されたものの、一応それらしい考えにいたったので、声に出した<br> 「というより、噛み千切るためのものです。口というよりは、鋏に近いですかね…そういうものは、生物が持つもっとも基本的で、もっとも強力な“武器“ですから」<br> 言葉の途中で、スクリーンにEOLTの筋力に関するデータが表示される<br> 「彼らの筋力は、断面積1平方cmあたり、約数百kgという、異常な数値を示しています。右ストレートは10cmの均一圧延装甲にも穴を開け、指で引っかけば人間の体は容易に裂かれます<br>  触手にいたっては、音速を超えるスピードで振り回せるせいで、“発砲音”が聞こえる始末です……しかも、組織はダイアモンドより硬い合金製―――」<br> 一口缶コーヒーを啜り、スクリーンに投影される―――自分にも投影されているが―――画像が切り替わったのを見計らって、話を再開する<br> 「―――ソフトスキンはもちろん、強力な種になれば、MBTの正面装甲を含め、破壊・貫通不可能な目標は存在しません、攻撃の機関は一切ないのに、攻撃力は最高レベルです<br>  つまり、人類が攻勢に出れば、これをさらに戦闘に特化させたEOLTが出現し、それはEOLTによる攻勢が始まることを意味している可能性があるわけです」<br> メガネがプロジェクターからの光を反射し、不気味に光っている<br> 少しうつむき加減に淡々と、しかし脈動感のある声で頭の中の文章を読み上げる佐藤は、缶コーヒーを一口飲んでから、最後に一つ付け加える<br> 「ですが、そのリスクを犯してでも、一度攻撃をかける必要がある……そして、チャンスは構造体―――いえ、国当たり一回だけです<br>  そのチャンスを有効に活用するためにも、皆さんには色々として貰わなければならないんです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a634" name="a634"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:634"><font color= "#0000FF">634</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:17:12 ID:???</font></dt> <dt>その言葉を聴いて、ほぼ全員がひとつの考えに至った<br> 「事前に情報を可能な限り収集し、どちらが本当の正解かを決めるわけにはいかないのか?」<br> 脱線を始めた問答をもとの方向に戻そうとする、会議出席者を代表したミューレン海軍大将の強い声と、にらみつけるような上目遣い―――鋭く目が光っている<br> それを見ても佐藤は顔色一つ変えず、少し微笑みながら、淡々と話し出す<br> 「時間は無いんですよ。私は少なくとも、そう考えています」<br> 「なぜ?」<br> 今度はコンウェイ大将が一言だけ返した<br> 「確かに時間があるとの見方も出来ますが、今あなた方が言ったように戦略的云々の問題があります。このまま放っておけば、何が起こるかわからない」<br> 「―――ん?」<br> 「そもそも、戦略的に有利であるというのは地球上での事でしょう?…いや、というより、地球上でもある意味、戦略的に敗北しているかもしれない」<br> コーヒーの缶の始末に困った挙句、相原に手渡して話を続ける<br> 「皆さんも気づいているでしょう……違うんですか?」<br> 答えは帰ってこない<br> 「…知っているでしょうが、EOLTは地球に人類の存在があるときが付いたから、その軌道を大幅に変更し、地球に落着した」<br> わざとらしく、ひとつ間を置いて話を再開する<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a635" name="a635"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:635"><font color= "#0000FF">635</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:17:46 ID:???</font></dt> <dt>「エッジワース・カイパーベルトで確認された際、計算された軌道では木星の引力に引かれるか、太陽に落ちるだろうと思われていました―――が<br>  木星軌道に差し掛かった時点で、その引力を逆に利用して軌道を変更、当初の軌道は火星と地球、そして“金星”と”水星”<br>  そして、こちらがその事実を隠蔽し、あくまで突然姿を消したなぞの小惑星としながら、これらが知的生命体の乗り物だとして、対策を考え始めた頃に火星です<br>  そして、月に前哨基地としてもう一つ構造体を投下……あの大きさも密度も、他の惑星と比較にならない、採掘基地としての価値の無いはずの月に<br>  ―――まあ、要するに、地球に我々人類がいると知って目的地を変更、火星から観測を行い、いきなり降りるのは気がついたとかそんな所でしょう<br>  現に一部天文台や衛星を使って観測したデータでは、月面のEOLTはずっと地球を“見つめて”います。構成はほとんどが千里眼科<br>  で、それから一定期間地球を観察……おそらく、衛星通信その他の情報も盗み見していたでしょう、その上で地球に下りてきた。念を利かせて二つ一緒で<br>  つまり、金星・水星をあきらめ、月と地球にそれをつぎ込んだのは、勝てると踏んでのことだろうというです<br>  すでに所持している情報はもちろん、彼らの情報網や組織の規模は太陽系規模」<br> さすがにここまで来ると、出席者の表情もこわばり始める<br> 大統領は何か言いたいことをこらえるような顔をし、副大統領は憂いのある表情で片手の上でコーヒーカップを回し続けている<br> ゲイツ長官は、どうも確信の持てていない情報や推測を認めるべきなのかもしれないという疑問から、顔に戸惑いの表情が見え隠れする<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a636" name="a636"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:636"><font color= "#0000FF">636</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:18:20 ID:???</font></dt> <dt>「戦略レベルで勝利しているというのは、地球上でのことであって、長期的な目線…もっと距離を離してみれば、我々は負けています」<br> 大統領が机を叩きつけ、怒り心頭といった様子で立ち上がり、怒鳴り声を上げる<br> 「ふざけているのか佐藤!!そんなことは分かりきっている!我々にとって重要なのは――――!!」<br> 「大統領!」<br> ゲイツ長官が声を張り上げ、手の動きを止めた副大統領は回していたコーヒーカップを床に取り落とす<br> 床を転がってくるカップを将校の一人が拾い上げたのを見て、佐藤は軽く微笑んで話を続ける<br> 「要するにです…ね―――協力してほしいんですよ、そのいずれ失われるであろう優位性を、もっとも良いタイミングで失えるように…」<br> わずかな狂気も見て取れない、間違いなく平常な精神状態で、事務的な話をしている<br> それなのになぜだろうか、それを見たものには、その笑みに何か嫌なものを感じずに入られなかった<br> 「生物化学兵器の使用の事実の隠蔽をしたいというのも、核を使いたがる理由のひとつでしょう?」<br> いきなり話題を別な方向へと変える<br> その問い方は、詰め寄るといった様子ではないが、真剣な表情でゲイツ長官は口を開く<br> 「そんな事実は無い」<br> 「嘘ですね…」<br> ポケットに手を入れたまま、体を長官に向けることなく、次の缶コーヒーを開けつつ口を開く<br> 「“ロケーション“の確保―――もとい奪還の際に確認しました<br>  こちらの部隊と職員が、先走った連中の騒ぎに巻き込まれて壊滅したんですが、その際、不自然な死に方をした人間が多数確認されたので、少し前に確認しまして<br>  そのときに気がついたんですが…さすがに、あそこまであからさまにばら撒いていたとは思いませんでした」<br> 大統領の表情が変わる<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a637" name="a637"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:637"><font color= "#0000FF">637</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:20:36 ID:???</font></dt> <dt>「やはり、あれは貴様らだったか!!」<br> ニヤッと笑顔を作ってみせる佐藤は踵を返してドアの方へと歩いていく<br> 「佐藤!待たんか!!」<br> 呼び止める声を無視し、ドアへ向かってまっすぐと歩いていく佐藤<br> しかし、ドアノブに手をかける頃になって急に足が止まり、しばらく静止した後、名が机に座る首脳たちのほうを振り返る<br> 「あ―――…一つ聞いておきたいんですが」<br> めがねが光を反射していて、表情がいまいちハッキリしない<br> 「今手元に無いヘリは、すべて“撃墜されたもの”ですかね? 破棄ではなく」<br> 少し戸惑った後、ゲイツ国防長官がグレン陸軍長官に対し、説明を求める<br> 「さ、さあ…車両は多数破棄されたが、ヘリはそう簡単に捨てられるものでもないし、ヘリを離陸させる暇も無いほどというわけでもなかった<br>  間違いなくとはいえないが、十中八九、今回失ったヘリは使用不能なだけの損傷を受けたものだけだろう」<br> 「そうですか…」<br> 使う必要がなくなった機器を相原が表情ひとつ変えずに片付けている音も止み、一瞬室内が静まり返る<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a638" name="a638"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:638"><font color= "#0000FF">638</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:40:13 ID:???</font></dt> <dt>ため息が一つ聞こえ、しばらく声を低くして何か相談した後、会議出席者の一人が声を上げる<br> 「合衆国の栄光なんぞ、合衆国首脳陣と国連の同意が有れば、一瞬にして過去のものにしてしまえるわけだ」<br> 声を上げたのは、急遽、任地コマラポ(エルサルバドルの都市)より本国に呼び戻されたことで、髪形を整える暇も無くやってきたアメリカ南方軍司令官のステヴリヂス海軍大将だった<br> 髪をかき回した後、カップに残っていたミルク入りの紅茶を一気に流し込み、話を続ける<br> 「大統領閣下はどう思われますか?」<br> そこまで真剣な表情でもなく、多少なり冗談の成分を含んでいることを悟った大統領は、それを軽く受け流す<br> 「もう過去のものだ…!……ジョーンズ海兵隊大将」<br> 「はい」<br> 返事をするのは、欧州軍司令官のジョーンズ海兵隊大将だった<br> 国連で“規約“を結ぶことに関係した5大国のうち、フランスとイギリスの二ヶ国があるこの地域を管轄する彼は、ある程度、自らの政治的判断に基づく裁量権が認められていた<br> そのため、しばらく前にこの会議の席に呼ばれていた<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a639" name="a639"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:639"><font color= "#0000FF">639</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:40:52 ID:???</font></dt> <dt>「どうだ、フランスでの連中の動きは?」<br> 「今から一時間ほど前、ジャンヌ・ダルクが動きました…間違いなくあの男、Martin(マルタン)です」<br> マルタン―――フランスで最も多い苗字で呼ばれた人間の話を聞いて、あの佐藤と同じ印象を受けた男のことを思い出す<br> 「…どう思う?」<br> 「どうも思いません。彼らがフランス外人部隊と船を一隻、接収しただけのことです」<br> 多少深刻そうな表情をするが、どこかその答え方は投げやりに見える<br> 「―――となると、連中は“また“実働部隊を仕入れたわけか」<br> そういって顔を曇らせているブラウン陸軍大将も、特殊作戦軍総司令官であることから、一部人員を機関に提供した人間の一人だった<br> 「ものは相談ですが……欧州方面にある我々合衆国の部隊に、使えるデルタが残っています…」<br> 「…動かすのか?」<br> 唐突に口を開いたゲイツ長官の方を振り向き、不審そうに尋ねる副大統領にブラウン陸軍大将は体を少し前のめりにしながら答える<br> 「どうせフランス政府は国連機関の連中を抑えるかして、情報を手に入れるつもりだろう<br>  …便乗して情報を入手しても奴らのせいにできるし、その気になれば恩も売れる」<br> 「仮に不祥事を起こしても、フランス政府に情報と証拠を売ればいい…か―――どうします、大統領?」<br> 「好きにしろ、一泡吹かせてやれるならそれで良し、情報を得られるならそれも良しだ」<br> 「では……」<br> 副大統領は言葉を切り、二人の償還の方に向き直る<br> 「委細は君たちに任せる。話がつき次第動け…報告は後で良い」<br> 「「わかりました」」<br> 二人の顔には自信よりも、これから得られるものに対する強い期待感を見て取れる<br> <br> 時の流れの加速を感じた政治家と軍人たちは、その後も、仲間内にすら聞かれぬよう、小さく話を続けていた―――<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a640" name="a640"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:640"><font color= "#0000FF">640</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:42:13 ID:???</font></dt> <dt>―――一方の佐藤たちは、やはり会議室の外で盗聴活動を続けている<br> 「…ソーコム(Special Operations COMmand SOCOM)が動きますかね」<br> 「特殊作戦軍が? フランスの連中のことだから、イギリスのSir.の付くジジイ共が動くかと思ったけど…」<br> 桜井は少し意外そうな顔をしている<br> 「それはどちらかというと私の管轄ですね。向こうの特務は急死しましたから」<br> イヤホンをはずし、胸ポケットにしまうと同時に、腕をスラックスのポケットに戻す<br> 「私はこの後は実験の準備といい、ロシアでの“東(ボストーク)”計画といい、色々と忙しいんですが―――そっちは?」<br> 「私はアメリカのほうを担当してるから、イギリスで一仕事したら海兵隊と一緒ね。あなたは空挺軍とくっ付くんでしょ?」<br> 「まあ、私一人じゃありませんが…ウスリースクを見てきたら、後はヤクーツクですかね、被験者は集めましたから」<br> 思い出しながら一つ一つ喋っていく様は、どこか頼りない<br> 「にしても、面倒な仕事ねェ…」<br> ため息をついて、白衣のポケットに手を入れる<br> 「それじゃぁね―――佐藤クン」<br> 「はいはい、それではまた…」<br> いやに高い足音を立てながら、櫻井は歩き去っていく<br> 佐藤はなぜか嬉しそうに笑いながらそれとは反対方向に歩き出す<br> 数歩歩くと、今まで誰も隣にいなかったはずなのに、スーツ姿の人間が何人か隣を歩いている<br> 「ご苦労様です」<br> 内の一人が低いが、響きのある声で佐藤に声を掛けた<br> 「いえいえ、そんな事より、どうですか?」<br> 「あなたの言うとおり、セレラ社にサンプルを渡す方向で話を進めています……時間は無い、出来るだけ早くことを終わらせる様に…と、聞きましたので」<br> 「あらら、また櫻井君か」<br> 「いえ…チャーリーからです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a641" name="a641"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:641"><font color= "#0000FF">641</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:43:16 ID:???</font></dt> <dt>さっきまで、どこか気楽な雰囲気を漂わせていた佐藤の目が変わっている<br> 「繋げますか?」<br> 「ええ、今回の機会を逃せば、いつになるか分かりません」<br> 佐藤と同じく、メガネにスーツというスタイルの男が、訛りの無い日本語で佐藤の質問に答える<br> それと同時に、ひとつの携帯が手渡される<br> 「もしもし?」<br> 携帯を開くと同時に口を開く…その顔はどこか嬉しそうだった<br> <佐藤さんですか、おひさしぶりです><br> これも訛りのまったくない日本語だった<br> 「ありゃ、やっぱり生の声ですか…流石に神の耳ですね」<br> <馬鹿にしないでください―――神の耳“エシュロン”はもう死にました……で、本題ですが、なぜ時間がないと?><br> 「時間はありますが、のんびりとしているのはだめだと思いますね」<br> 佐藤の表情の変化に、少し送れて気が付いた相原が不審そうな目をする<br> <…なぜ、そう思います?><br> 「…言う必要はないかと」<br> 相原が無表情に警告する<br> 「相原君!」<br> 「私は“神に飼いならされた人間”はもちろん、“人間に飼いならされた神”や、“その神に飼いならされた人間”も作る気はありません」<br> 後ろで聞こえる会話を無視して話を続ける佐藤は、虚空を睨み付けるかの様な表情をしている<br> <……あなたがそう思うのならそれでもかまいません><br> 「それじゃあ、私の監視を頼みますよ」<br> <ええ、安心して監視されてください…またいつか><br> 携帯を切ると同時に、軽く笑って見せる<br> 「もう、よろしいので?」<br> 「よろしいも何も、向こうが切ったんですが…」<br> 「はぁ……」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a642" name="a642"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:642"><font color= "#0000FF">642</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:45:20 ID:???</font></dt> <dt>携帯を返し、ついでに飲みきったコーヒーの缶を渡して帰らせ、ポケットに手を入れなおし、軽く胸を張るようにしながらあたりを見回す<br> 半白の男がそれに気がついて振り向くと、一人、30代ほどの、比較的若い海軍将校が立っていた…どうやら、彼を探していたらしい<br> 佐藤が歩き出し、そのすぐ横に海軍将校がつく<br> 階級章は少将のものを付けており、勲章その他はいっさい付けていない<br> 「Mr.佐藤、例の実験を始めるのならいまだ、ハリー・S・トールマンは構造体から100kmと離れていない」<br> 唐突に話題を切り出し、目線一つ動かさずに、よく響く声で佐藤にその内容を伝える<br> 「米海軍は未だに海中のEOLT群を補足していませんし、なにより、これからも活躍してもらう必要のある、貴重な空母を危機にさらすのはさすがに気が引けますねぇ…」<br> 「現在、タイコンテロガ級4隻がトールマンに同伴している。うちの3隻を索敵にまわせないか検討中だ」<br> 「…海軍大将殿の支持は?」<br> 少しも疑っているという顔ではないが、一応といった感じで問いただす<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a643" name="a643"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:643"><font color= "#0000FF">643</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:46:33 ID:???</font></dt> <dt>それに若干不満を感じたのか、将校は表情を硬化させる<br> 「いくら君たちの支持者だと入っても、私は軍人だ、上層部の支持なくしては動かん」<br> 「…で、配備はいつになりますか?」<br> 後半部分の発言に関するコメントが皆無ではあったが、相手もそれを望んではいないようで、すぐ回答を出す<br> 「公にはならないだろうが、おそらく、27日の暮れには配備が終わるはずだ」<br> 「案外早いですね…バージニア級の配備が失敗したのは痛かったですが、思いのほかうまくいきそうだ」<br> 「それと、例のMigの手配もすんだ、核弾頭は昔中東で手に入れたものが二発…」<br> 「これもまた早いですねぇ―――」<br> 嬉しそうに笑ってみせる<br> 佐藤のこの表情のせいもあって、話の内容の割には、あまりそういった重さは感じられない<br> 「まあ、後は頼みました」<br> 「…言っておくが、我々は最大限の協力はするつもりだ―――軍の上層部では意見の不一致が見られ、政治的に不安定だが、だからこそ非合法なバックアップもできる」<br> 「いつも似たようなことはしてるでしょうが…では、また近いうちに」<br> 「……」<br> 佐藤は進路を変え、左手の会談を降り、少将の階級を持つ男は、しばらく立ち尽くした後、トランシーバーに向かって何かをしゃべりながら、そのまま進んでいった<br> 前者は嫌な笑みを浮かべ、もう一人のほうは未だ表情を硬化さ、目には闘志にも似たものが感じられた・・・<br></dt> <dt><br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;626-643のログ。</dt> </dl> <hr style="width: 588px" size="2"> <dl> <dt><a href="menu:689"><font color="#0000FF">689</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size="2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:03:13 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></dt> <dt>・・・ニューヨーク湾、それも海岸から100マイルも離れていないこの海域は、比較的安定した天候のおかげで、荒れることは少ない<br> そんな白波もない海を切りながら、米海軍のイージス巡洋艦「レイテ・ガルフ」は全速力で航行している<br> 雲ひとつない晴天、気温は低めの零下一度、海軍の船員たちにとっては、せいぜいコーヒーが早く冷める程度の気温でしかないはずなのに、彼らの顔は強張っている<br> それは、彼らの受けた任務そのものと言うよりも、その途中で遭遇したあるものに対する戦きからだった…<br> 「少佐、この状況をどう考える?」<br> レイテ・ガルフ艦長は、比較的冷静な態度で部下に質問する<br> それを見る部下たちは、確かに安堵感を感じ、士気低下の防止にも一役買っていたが、あくまで上辺だけのものだろう<br> その証拠に、数時間前からその胃袋に流し込んだコーヒーの量は、いつもの数倍に達している<br> 「すでに限界です。もう大陸棚に入り、目標“エコー“の追跡をこれ以上続けることはできません」<br> まだ30代前半といったところだろうか、若い少佐は現状を報告する<br> “エコー“―――NATO軍のフォネティックコードで称されたそれは、歴戦の米兵たちが恐れ戦くのに十分な存在だった<br> 圧倒的な戦闘能力によって米軍を圧倒し、未だにその闘争において、ただの一体も被害を出していない、宇宙からの来訪者<br> それを聞き、コーヒーを一口含んでから、もう一度艦長は少佐のほうに向き直る<br> 「…それで?」<br> 「自分にはわかりません、ですが、例のプランに則って行動するべきかと…」<br> 少佐の目に、妙な光が走る<br> 例のプラン―――この海域に派遣されることが決まったとき、一枚のディスクとノートパソコン、そして携帯電話が手渡された<br> もし目標の追跡が困難になり、周囲に他艦艇がいない場合はこれを使え―――という言葉と共に<br> 「どういう事かは分かりませんが、国防総省と国連の同意があってのことでしょうし、命令に逆らうことは出来ません」<br> 「まったく持ってその通りだ、少佐―――CICに伝えろ! 本艦は追跡任務を終了し、例のプランへ移行すると」<br> 「了解! 艦橋よりCICへ、プラン01へ移行する。繰り返す、プラン01へ―――!!」 <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a690" name="a690"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:690"><font color= "#0000FF">690</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:03:44 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>レイテ・ガルフが対応を続ける中、延々と目標の上空で監視を続けるSH-60Bが、監視対象のある変化に気がついた<br> その巨大な体をくねらせつつ移動する、青白く光る複数の目―――センサーで、こちらと母艦のことを監視し続けているその生物は、今まで何の対応もとらなかった<br> だが、それは突然触手を広げ、減速しつつ、レイテ・ガルフのほうへ向き直りだした<br> 突然の事態にあわてながらも、通信傍受を恐れ、発光信号を使い、母艦への通報を始める<br> 一方のレイテ・ガルフ内部では、ソナーからの見えられる情報で、そのわずかな変化を探知していた<br> 「目標“エコー”、進行方向、方位129へ、深度および速度変わらず!」<br> 「指針変更、方位130へ!」<br> 「了解、方位130へ」<br> オペレーターたちが状況を報告していく中、一つだけ皆の注目を引く内容のものがあった<br> 「シーホークより発光信号、目標が減速体形に移行!」<br> 突然のことであり、何の前置きも無い減速はこれが初めてだった<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a691" name="a691"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:691"><font color= "#0000FF">691</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:04:27 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「減速体形だと!? 何かの間違いだろう、目標はこちらに追われているし、警戒もしては―――」<br> 左官の一人が言いかけた所でオペレーターがさらに口を挟む<br> 「目標、警戒態勢へ移行! こちらに向き直ったとのことです!!」<br> 「な゛―――!!」<br> 突然のことに驚きを隠せないと言った様子で、艦長以下、全員が冷や汗をかく<br> 「どういう言うことだ! われわれは敵対行動など!!」<br> 「CICより報告! ハープーン(Harpoon)のキャニスターがコントロールを失いました!!」<br> 「なにィ!!」<br> 当然の驚きだった<br> 指令に従いディスク内のプログラムを起動した瞬間の出来事<br> 誰もが同じことを疑い、それはすぐに確信へと変わる<br> 「プラン01を実行中!? 何を言っている、すぐに切れ! そいつがあれを動かしてるんだ!!」<br> 「馬鹿な! なぜ阻止できなかった!!」<br> 青白い顔から完全に血の気が引き、まるでもうすでに死んでいるかのような表情へと変わる<br> (…そうか!)<br> 自らが置かれている状況と、それに至る継起を理解した艦長の額には汗がにじむ<br> そう、あのディスクに書き込まれているプログラムの内容を何らかの方法で知りえたからこそ、“エコー”はこちらと同じ速度で航行し、一定の距離で様子を見ていた<br> そして、そのプログラムを起動しようとしていることを察知して、やつは警戒態勢に!――― <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a692" name="a692"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:692"><font color= "#0000FF">692</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:05:02 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>―――しかし、気がつくのが遅すぎた…もっとも、気がつけるはずもなかった彼らに罪はないが<br> オペレーターが深刻な表情と声で、すでに取り返しのつかないところまで来たことを告げる<br> 「ハープーン! 発射されました!!」<br> 光を放ちつつ固体燃料をロケット・モーター燃焼させながら、数本のモリ(ハープーン)が、白い尾を引きながら上昇していく<br> 「発射数4! 慣性誘導で、ホップアップで“エコー”に向かっています!!」<br> 「誘導を妨害できんのか!!」<br> 副長が怒鳴り声を上げ、それを見かねた艦長はそれよりも大きな声を張り上げ、対応を指示する<br> 「CIWSを起動! ハープーンを着弾前に撃墜しろ!!」<br> 「了解、CIWS起動」<br> 比較的冷静な声を返されたかと思うと、すぐにCIWS“ファランクス”20mm砲弾を撃ち出す際の発砲音が聞こえる<br> ホップアップで発射され、一旦高度を上げてから目標に接近する発射方法だったため、比較的長い期間レイテ・ガルフの近くを飛んでいた<br> しかし、接近してくるミサイルに対し、事前に砲身を向けていたわけでもなく、ほんの少しの対応の遅さのために、四本の内、一本は弾幕を通過する<br> 「2撃墜!」<br> 「だめです! 残り2、CIWSの射程外に出ました!!」<br> 「着弾まで、後13秒!!」<br> 警戒態勢に入ったEOLTは動きを止めていたため、すでに彼我の距離は20km程度<br> 時速970kmで亜音速飛行するハープーンにすれば、さして時間のかかる距離ではない<br> 「くそぉ!!」<br> 「何とか撃墜できんのか!?」<br> 艦長の質問に対して、オペレーターからの回答が帰ってくる<br> 「む、無理です。ディスクに各種誘導弾発射に関するプログラムが弄られた為に、一旦すべての回線を切ってしまいました」<br> 「復旧にはどれくらいかかる!」<br> 「や、約30秒です!」<br> 「ええい! 遅すぎる!!」<br> 怒鳴り声の語尾に重なり、焦りで声が裏返りそうに鳴っているオペレーターの声が響く<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a693" name="a693"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:693"><font color= "#0000FF">693</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:06:31 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「ハープーン! 目標に着弾します!!」<br> 目標から百mも離れていない位置にいるシーホークは、確かな轟音を耳と肌で感じた<br> そして、レイテ・ガルフもそれを各種レーダーやソナーで確認する<br> 「着弾音確認! いずれも直撃だと思われます!!」<br> “攻撃してしまった”という思いもあったが、それよりも口に出すことを優先された考えは、後悔のそれではなかった<br> 「やったか!?」<br> 自らの犯した過ちと、これから訪れるであろう恐怖に、ある種の期待も上乗せされたような表情と声が、艦橋を覆う<br> 通信器から、シーホークからの無線が届き、傍受されることへの懸念がないことを物語った<br> 「……シーホークより報告! 目標は未だ健在!!」<br> 「なんだと!」<br> それが“傍受して対応してくる敵の消滅”ではなく、“傍受しなくとも、こちらへ攻撃を仕掛けようとしている”ためだったと知り、再び船員たちの顔から血の気が引く<br> 「ソナーでも確認、目標は全速力でこちらに向かってきています!!」<br> 「た、対艦ミサイル2発の直撃だぞ!?」<br> 「分かりません、ですが、報告では“殻”のようなものと触手が脱落した以外、被害は受けていないとのことです!」<br> 「馬鹿な! 奴はこちらを攻撃しようとしているのか!!」<br> 「間違いありません! 18ノット、ほぼ全速力です!!」<br> 艦長は必死に思考をめぐらし、今の状況を整理する<br> 恐らく、これは前に聞いたとおりの“実験”に違いない…EOLTと我々を戦わせる気なのだ!<br> 艦長は手を振り回しながら、これの完全な撃破に方針を変更することを告げる<br> 「もう逃げることはできん、何としても目標を撃破する! 監視をしていたシーホークにソノブイを投下させろ、ディッピングソナーは収容!」<br> 「了解!」<br> 「おい、ここの海域は大陸棚だったな?」<br> 艦長の問いに、おずおずと航海士は首を縦に振る<br> 「左舷Mk-46短魚雷発射管の用意を! アスロックにデータを入力! 爆発深度100で4発発射。さらに5秒後に爆発深度50と150で8発発射しろ!!」 <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a694" name="a694"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:694"><font color= "#0000FF">694</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:07:12 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> …この対応は標的となるEOLTがアスロック等の誘導兵器の誘導装置に引っかかることが少ないため、爆発深度を予め設定しておくことが有効だと判断されてのことだった<br> 事実、レーダー誘導は敵がレーダー波を反射しにくいことから、熱探知や音波探知の類は、EOLTが生態活動を行う際に、それらを殆んど発しないことから、高い誘導性は保障されない<br> またその回避力も非常に高く、“点“の攻撃は、まず効果を示さない<br> その為、大火力の攻撃で、精密誘導を行わず、大量に撃ち込む面制圧が有効となった―――このアスロックも、魚雷の推進・誘導装置を外し、数倍の炸薬を搭載してある<br> <br> <a id="a695" name="a695"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:695"><font color= "#0000FF">695</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:07:43 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「アスロック、第一波発射!」<br> 声とともに、甲板が白い煙に包まれ、全長4,9mのアスロックが打ち上げられる<br> 「艦長、ソナー音は探知される危険性があるのでは?」<br> 副長の不信そうな声に、艦長はどこか投げやりな声で答える<br> 「奴らは千里眼との完璧なデータリンクでこちらの位置を把握している。まして、全高20kmの巨大な拠点がすぐ近くだ、気休めにもならん」<br> 「はぁ…」<br> 「アスロック、第二波発射!」<br> 「第一波着水! 爆発深度到達まで4秒!」<br> 「“エコー”、深度を下げ始めました!!」<br> 艦長が笑みを浮かべる<br> 「だろうな、アスロックの爆発深度を正確に予測した“エコー”は第一波で改定への退避が不可能になり、海上で第二波の餌食になることを恐れるはずだ」<br> 「アスロック炸裂! 同時に、アスロック第二波着水!!」<br> 「アスロック第二波、炸裂まで3秒、2,1、炸裂!残り炸裂まで4秒、3、2,1、炸裂!!」<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a696" name="a696"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:696"><font color= "#0000FF">696</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:08:32 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 無線機を手に取り、艦長はCICに向かって叫ぶ<br> 「CIC、CIC! 目標の位置はつかめるか?」<br> <無理です。爆音で探知が…><br> 「…ということは、爆音の影響を受ける海域にいるということになる。15秒後にMk46短魚雷三発連続発射、敵は攻撃の回避のために移動速度を上げているはずだ、音波探知が効く<br>  敵の逃げ足を早くするために、もう一度アスロックを発射しろ、爆発深度は50~150、発射数は3発づつ、ランダムな間隔で計15発撃ち込め」<br> 「了解、アスロック、データ入力……アスロック、発射準備よし!」<br> その声を聞きながら艦長は小さく呟く<br> 「これで弾等部分が爆雷…しかも、通常でなく核なら確実だったが―――」<br> 「アスロック、発射!」<br> 「CICから報告、ソノブイからのデータです。目標は深度130で左右に船体…いえ、体を振りつつ、24ノット…全速力でこちらに接近中!」<br> 何人かはこれが“エコー”の全速だと言うのは確かなのだろうかと、頭をひねった<br> もし、これが全速力でなければ、魚雷の速度を上回ることになる…<br> 「アスロック着水!」<br> 「アスロック、第二波発射!」<br> 「短魚雷発射!」<br> 副長が汗を腕でぬぐいながらぼやく<br> 「これで決まればいいのですが……」<br> 「決まらなければ我々が死ぬ―――」<br> 艦長の言葉を切るようにしてオペレーターの声が響く<br> 「アスロック第三波発射! 第一波は炸裂、第二波は着水します!!」<br> 「―――勝てればいいのだが…いや、イージス艦が遊泳中の陸上生物に負けるわけがない」<br> 艦長の自信は、EOLTへの侮りから来ている事に、何人かは不安を覚えた<br> しかも、艦長自信、その発言に絶対の自信を持っているというわけではない…そう思いたいだけの様にすら見えた<br> 「アスロック第四波発射!」<br> 数回目の誘導弾発射の際の光が艦橋に差し込み、これが15発のうち、その最後であることを告げる<br> 「短魚雷、着弾まで後60秒!」<br> 「スロック第三波、着水!」<br> 「EOLT、急加速!!」<br> 艦長は汗をにじませながらも、落ち着いた声で問いただす<br> 「指針は分かるか?」<br> <br> <a id="a697" name="a697"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:697"><font color= "#0000FF">697</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:11:06 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「CICからの報告では、進行方向に変化はないかと…」<br> 「気でも狂ったか!? そのまま進めば魚雷と正面衝突だ!!」<br> どこからともなく聞こえてきた私語を無視し、艦長が話を続ける<br> 「震度は?」<br> 「深度10m前後に浮上しました、シーホークでも視認ができているようです」<br> 間違いない、“エコー”は魚雷との衝突を自ら望むかのような進み方をしている…しかし、アスロックをココまで恐れているのだろうか?<br> ハープーンの直撃にも耐えたあの化け物が…いったいなぜこんな動きをする?<br> 疑問に駆られる艦長は、とりあえず最善と思われる策を模索し、答えが出ないと見るや、対処療法に出る<br> 「アスロックを目標と魚雷の衝突予想地点の周りに、爆発深度を適当に設定してばら撒け! 5インチ単装砲、発射の準備をしておけ!」<br> 副長があわてて意見を具申する<br> 「しかし艦長、今の状況なら、Mk46との衝突地点に投下したほうが、確実に撃破できるかと……」<br> 「いや、相手は魚雷との衝突で死んだと見せかけて、一旦深い所に潜ってからこちらに接近し始めるはずだ…恐らく、着弾予測地点に深みでもあるんだろう」<br> 艦長が下した決断と、単装砲の発射準備を指示したことを考えれば、魚雷の直撃とアスロックで弱って、浮上したところを仕留める気であることがうかがえた―――<br> ―――もうアスロックはそう残っておらず、これ以上浪費することはできない<br> 「アスロック発射準備よし…発射!」<br> 爆音とともに打ち上げられた1ダースのアスロックが、空気を切る際の奇妙な音を出しつつ、標的に向かって飛び去っていく<br> 「目標がそろそろアスロックの有効射程外に出ます」<br> 「魚雷着弾まで、あと10秒!」<br> 「“エコー“が動きを止めました!」<br> 「やはりな!」<br> 艦長の反応と同時に、爆音と水柱が上がり、短魚雷が艦から2,3海里のところで衝突したことが、ソナー音を聞かずとも分かった<br> 「アスロック着水! 後5秒以内にすべて炸裂します!」<br> 艦長は腕時計を眺め、ほかの船員たちはただ息を飲んでいた<br> 「アスロック全弾炸裂!! ソナー音、妨害されます!」<br> 「目標手前に向けて単装砲発射開始、分間発射数は最大値に設定。弾種は榴弾、時限信管にしろ!」<br> 「了解!」<br> <br> <a id="a698" name="a698"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:698"><font color= "#0000FF">698</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:22:33 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 確認の声とともに、金属製のドアを思いっきり叩き付けるかのような音が艦橋内部にまで聞こえ始める<br> 「シーホークは射線軸上から退避しているな?」<br> 「はい」<br> 「できるだけ近くから目標の探索を行え、確認で着次第、無線で報告だ」<br> その声を最後に、後はひたすら単装砲の発射音のみが響き続け、副長は小刻みに壁を指で叩き、艦長は時計の針を眺め続ける<br> (これでいいのか?)<br> 艦長はそれだけを考え続けている<br> もし、奴がこちらの動きを読んでいるとしたら…こうなることを予測していたなら、どういった行動をとるだろう―――?<br> そして、自ら口にした、ひとつの言葉を思い出す<br> <br> <a id="a699" name="a699"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:699"><font color= "#0000FF">699</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:35:51 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>“着弾予想地点に、深みでもあるんだろう”<br> <br> “遊泳中の陸上生物に負けるわけがない”<br> <br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a700" name="a700"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:700"><font color= "#0000FF">700</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:36:36 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「そうだ―――!」<br> 艦長の、決して大きくはない声に、いったい何人が気づいただろうか<br> 相手はこの海域の地理を、ほぼ完璧なまでに知り尽くし、そこにどのような隠れ場所があり、こちらのソナーから隠れられるかを熟知している<br> なにより、あれは陸上生物であって、潜水艦とは違う! 海底を張って進んでくることも十分に可能なのだ!!<br> 「ソナー班! 目標の位置はつかめるか!?」<br> 「いえ…音源が混在して……」<br> 「発砲をやめろ! シーホークは何かつかめたか!」<br> その指示を受けたヘリの乗員は、乗り出すようにしながら会場に見えるはずの何かを探す<br> <いえ、何も見えません…土砂が濛々としていて、もしかすると、この当たりの海底は柔らかい事もあるので、土砂崩れの類かも…><br> 「やられた!」<br> 艦長は机に腕を叩きつけ、額の汗が滴り落ちる<br> 「奴はこうなることを予測していのか!―――恐らく、敵はこの船の船底部分を食い破るために海底ぎりぎりを進んでいるはずだ!!」<br> 「なんですと!?」<br> 副長以下、全員が驚きと、それに続く恐怖に体を固める<br> 「アスロックをいつでも発射できるようにしろ…いや、準備ではなく身構えておけということだ! 敵が浮上しだい、アスロックを艦の真下落とす!」<br> 「りょ、了解!!」<br> <br> <a id="a701" name="a701"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:701"><font color= "#0000FF">701</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:37:51 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 緊迫した空気に包まれる中、艦長は自責の念に駆られ続けている<br> もし、このままこの船が沈んでしまったら―――!<br> 取替えしのつかないことになる…しかも、下手をすれば自分も間違いなく死ぬ!<br> 「か、艦長……?」<br> 「いや…なんでもない」<br> 冷や汗が自分の体を濡らしていくさまが、手に取るように分かった…そして、もしかしたら、自分のこの体が乾くことが永久にないかもしれないことも―――<br> 「ソナーに反応! “エコー”です!!」<br> 「どこだ!?」<br> 「本艦左下、約1km地点です!」<br> それを聞き、少し血の気が戻った艦長が口を開きかける<br> <br> <a id="a702" name="a702"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:702"><font color= "#0000FF">702</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:39:05 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「よし、アスロッ―――」<br> だが、その言葉を切るようにして聞こえてきたソナー班の声は、艦橋に絶望を与えるに十分だった<br> 「目標航行速度! は、80ノット!! 後数秒で激突します!!」<br> 「なんだとぉ!!」<br> 語尾に重なったのは、殆んど爆音に近い衝突音で、艦全体が大きく揺れた<br> 数人が転倒し、同じようにバランスを崩し、壁に倒れ掛かった艦長も、打ち付けた頭を抑えながらもう一度立ち上がる<br> しばらくそうした後、艦の両舷から立ち上る水柱に動揺する船員たちを尻目に、艦長は無線機を取る<br> 「CIC! 被害状況はどうなっている!!」<br> 呼びかけに対して帰ってきたのは、何かの警報音と次々に寄せられる状況報告…しかし、それはすぐに悲鳴に変わった<br> <か、艦長! 奴の触手が―――! だ、だめだ、浸水する!!><br> 絶叫と水の流れ込む音、時間がたつごとに弱々しい断末魔がひとつ、またひとつと消えていく<br> 「CICが……やられたのか…」<br> 艦長が無線機を取り落とす<br> 「だ、ダメコン急げぇー!」<br> 「ダメコン班! どうなってる!? 状況は―――!!」<br> 「畜生っ! 敵は艦底部かな内部に潜り込んで来てるのか!?」<br> 「艦長! やられました、もう航行は不可能です!!」<br> 「ダメコン班、阻止しろ! 銃器の使用も許可する!!」<br> 次々に聞こえてくる報告も、何も彼の耳には入らなかった<br> <br> <a id="a703" name="a703"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:703"><font color= "#0000FF">703</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:39:58 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> ただひとつだけ、彼が考え付いたことがあった<br> 「…アスロック発射だ」<br> 「か、艦長! い、いま何と!?」<br> 「アスロックを発射しろ!! この艦もろとも、敵を海の藻屑にする!!」<br> 艦橋内の空気は瞬く間に凍りつく<br> だが、それ以外に方法がないと知った彼らは、上ずった声でアスロックの発射を指示する<br> 「了解!」<br> 「アスロック全弾発射! 目標は本艦、および本艦周囲!!」<br> 船員たちの目には、ある種、吹っ切れたようなものが見て取れたが、艦長は半ば放心状態で立ち尽くしている<br> (これで……おそらくは、この艦が沈み、“エコー”も撃破されるだろう…無意味なことではあるが―――)<br> 「アスロック発射! 着弾、および着水まで10秒!!」<br> 艦長はもう一度、小さく呟き始める<br> 「―――…これが、せめてもの…」<br> ついさっきまで放心状態だった艦長の目には、強い意思が宿っていたように、最後にその顔を見た副長は思った<br> 「せめてもの戦果だ…」<br> パラシュートを使わずに、一気に落下してきたアスロックの魚雷部分は、本来98ポンドの炸薬しか搭載していないが、これの場合は300ポンドの炸薬を搭載していた<br> 発射数は14発…内の6発が艦に直撃し、レイテ・ガルフはものの数十秒で轟沈<br> 残りは艦周囲で炸裂し、艦に取り付いていた目標“エコ-”も半秒ほどの差で撃破された<br> <br> <br> <br></dt> </dl>
<p><font size="2">年表以外に書かれたお話(こちらが本編?)を保存します</font></p> <p>第壱話というのは仮名ですが、何らかの名前が付けられるのであれば、変更してください</p> <hr> <p> <span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><a href= "menu:947"><font face="Arial" color="#0000FF">947</font></a><font face= "Arial">名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:08:29 ID:???<br> ・・・EOLTと戦う上で最も気をつけること?<br> 気をつけることも何も、言える事といえばひとつしかないな<br> <br> EOLTと真っ向から戦うことなど、無謀なこと以外の何でもないということだよ<br> まして接近戦を挑めば、EOLTに勇敢にも挑戦した人間の五対は離れ離れになって宙を舞うだろう<br> <br> そう、25m以内の距離でEOLTと生身で対峙する事は、ほんの数秒後の“死”を意味する<br> 5秒以上、抗えることができれば幸運といっても良い<br> <br> ではどうするか、<br> 思いつくものといえば、遠距離から火力と物量で接近する前に押し潰してしまうか<br> 待ち伏せなどを使った奇襲攻撃で敵を十字砲火の中心におびき寄せ、圧倒的な火線で回避を許さないこと<br> おそらく、このどれかだろう<br> <br> <a href="menu:948"><font color="#0000FF">948</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:09:52 ID:???<br> <br> だが、そのどれもまず不可能だ<br> 遠距離から火力と物量で圧倒するも何も、圧倒できる物量と火力を確保することはまず無理だ<br> 時速100km以上で疾走し、2、30mm程度の砲では皮膚を破ることもできない防御力を持つ怪物が数百体でまとまって行動するんだ<br> 重砲弾や戦車砲弾で、機関銃のそれと同じほど濃密な弾幕を張れれば別だが<br> <br> 次に奇襲や不意討ちから包囲殲滅を行う戦法、これもだめだ<br> そもそも、奇襲をかけるということ自体が不可能に近い、わかるか?<br> よく知られているところでは、千里眼科はすべてを見通せる目で、ハンバーガーのカロリーから兵士の血中ヘモグロビン濃度まで何でもお見通し<br> そして、その神のような目の射程は数十km、もっと大雑把な情報ならば数百km彼方からでも把握できる<br> そしてそれは何らかの方法で前線にいるすべてのEOLTの知覚とリンクしているらしいことがわかっている<br> これだけで、もう戦術レベルで先手を取る見込みはないと思うだろう?<br> <br> そして、もっと規模の小さなレベルでの不意討ちなども無理だ<br> 千里眼科も、さすがにすべてを把握しているわけではないようであることは、分かっている<br> 現に映像を分析する過程で、事故に遭うEOLTがいることも事実だ<br> しかし、戦闘において、EOLTが“ドジ”を踏むところは報告されていない<br> 特に探査科においては、その優れた感覚器官で、地雷や壁の後ろに隠れた兵士、そういったものを見逃すことはまずない<br> 仮に、見逃してうっかり罠にかかり、人間の兵士に銃口を向けられたとしよう<br> それがどうしたかということだ、物陰に潜ませていられる兵力などせいぜい分隊程度、EOLTの前にはほぼ無力だ<br> 罠に掛けられ焦ったEOLTは全力で反撃を行うだろう、場合によっては2秒で全滅だ<br> <br> <a href="menu:949"><font color="#0000FF">949</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></a></strong>投稿日:2007/04/03(火) 16:10:40 ID:???<br> <br> EOLTを撃破できる事といえば<br> 偶然に近い形で運よく、対戦車火器や戦車砲弾がEOLTに命中するか<br> 近くで炸裂した砲爆弾の破片と爆風で致命傷を負ったり、急所に当たって即死したりする場合ぐらい<br> 奇跡的に歩兵部隊の重火器で撃破できることもあるだろうが、まずあり得ない<br> <br> まあ、死なない程度に頑張ってくれ、勝とうとか相手を殺そうとか、考えないほうがいい<br> <br> 無理だろうから<br> <br> ―――正午の国連公式発表後にて<br> BBCの問に答えるEIE本部職員<br> 時刻、誰が誰に聞いたものかは不明―――<br></font></font></span><span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font face="Arial"><br> ((解説)):初代スレの&gt;&gt;947-949に書かれていたサイドストーリー?です。仮にここで保存します</font></font></span></p> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial">公式発表でないにもかかわらず、情報を流しているなど、職員の独断で話しているようです。<br> (口調などから、佐藤ではなさそうです。)</font></font></span></p> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial">いろいろと、年表だけではかかれない細かな設定や描写等を、こういったもので書いていくようです</font></font></span></p> <hr> <p><span style="font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size= "2"><font face="Arial"><span lang="EN-US"><a href="menu:304"><font color= "#0000FF">304</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/04/28(</span>土<span lang="EN-US">) 16:29:52 ID:???<br></span>「<span lang="EN-US">…</span>あまりに凄惨な光景<span lang="EN-US"><br> <br></span>敵に立ち向かう仲間は無残にも引き裂かれ、たよりの装甲車両もぼろきれの様になるまで切りつけられた<span lang= "EN-US"><br></span>ひき肉にされた仲間の血液を頭からかぶり、口も鼻も、人間の血液でふさがれそうになった<span lang= "EN-US"><br></span>汚物と肉片が霰のように降り注ぎ、その中にはキノコの様な形のものまであった<span lang="EN-US">…<br> <br></span>・・・人間の首だった<span lang= "EN-US"><br></span>この常人なら発狂してしまうような光景を眺めていた私は、なぜか異様に冷静でいられた<span lang= "EN-US"><br></span>それとも、すでに狂ってしまっているのだろうか?<span lang= "EN-US"><br></span>そうかもしれない、悲鳴を上げ逃げ回り、見えない誰かに助けを求める仲間たちのほうが、傍から見れば正常だろう<span lang="EN-US">…<br> <br> …</span>そして、長い地獄が終わり、自分以外すべての人間が死に絶えた頃、私は眠りから覚めた<span lang= "EN-US"><br></span>私は殺されなかった、身動きひとつもせず、何も考えずに踏みつけるだけで殺せたはずの私が<span lang= "EN-US">…</span>?<span lang= "EN-US"><br></span>ニューヨーク市の惨劇とは違い、彼らは無抵抗のものでも、兵士は一人残らず殺していった、なのになぜ?<span lang= "EN-US"><br> <br> …</span>その理由については、師団本部の部隊と合流し、退路についたときに聴かされることになった<span lang= "EN-US"><br></span>突然、師団司令部より呼び出しがかかり、駆けつけてみれば、見慣れない軍服のフランス人数人と白衣姿の日本人<span lang="EN-US"><br> <br></span>そのベレー帽に刺繍された、P<span lang="EN-US">8920</span>の文字・・・<span lang= "EN-US"><br> <br></span>彼らの言葉に従わなければ、あんなことに巻き込まれずにすんだのかもしれない<span lang= "EN-US">…</span>」<span lang="EN-US"><br> <br> ――</span>被験者の手記より抜粋<span lang="EN-US">――</span></font></font></span></p> <p>((解説)):初代スレ&gt;&gt;304で書かれたサイドです。下に書いてあるとおり、プエロジェクト8920の被験者が書いたようです。</p> <p>(日本人とは、藍原たちのこと?)</p> <hr> <p><span lang="EN-US"><a href="menu:355"><font color= "#0000FF">355</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火) 02:40:36 ID:???</p> <p>面白いことを聞くな、あの戦場で何を見たか<span lang="EN-US">…</span>だって?<span lang= "EN-US"><br></span>難しい質問だが<span lang="EN-US">…</span>そうだな、あえて言うなら<span lang= "EN-US"><br> <br></span>血 に 染 ま っ た ニ ュ ー ヨ ー ク だ よ<span lang="EN-US"><br> <br></span>落下地点の近くは、何もかも壊れていたし、そこまで不自然にも見えなかった<span lang= "EN-US"><br></span>だが、落下地点から離れた、郊外で作戦行動を行ったときだ<span lang="EN-US"><br> <br></span>傷ひとつついていないビルから、人間の体液と破片がこぼれ落ちてくる<span lang= "EN-US">…<br></span>奇妙な光景だった<span lang= "EN-US">…</span>恐怖がこみ上げてくるまでに、かなり時間を使ったよ<span lang= "EN-US"><br></span>でもそれだけじゃない、悪意すら感じる奇妙なオブジェはまだあった<span lang="EN-US"><br> <br></span>中が挽肉でいっぱいになった車<span lang= "EN-US"><br></span>血でスモークがかかったようになっている、大型バス<span lang= "EN-US"><br></span>潰れた車と、その上に折り重なる逆さになった車、間に挟まれた人間で出来た、ケチャップ味のサンドイッチ<span lang= "EN-US"><br></span>赤い迷彩が施された戦闘車両<span lang="EN-US">…<br> <br></span>どれもこれも、みんな赤かった、赤一色だった<span lang= "EN-US"><br></span>それもただの赤じゃない<span lang="EN-US">…</span>みなれない、そう<span lang= "EN-US">…</span>人間の血の色<span lang="EN-US"><br> <br> …</span>そんなものに見入っていると、突然上から何かが落ちてきた<span lang= "EN-US"><br></span>生臭くて<span lang="EN-US">“</span>赤い<span lang= "EN-US">“…</span>人間だった、しかも自分たちと同じ隊の人間<span lang= "EN-US"><br></span>あわてて上を見上げ、見たんだ・・・そのオブジェの製作者が、ビルの間で蠢くのを<span lang= "EN-US">…<br> <br> <a href="menu:356"><font color="#0000FF">356</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火<span lang="EN-US">) 02:41:16 ID:???<br></span>全員がその異形の姿に注視した<span lang= "EN-US">…<br></span>自分に血が降りかかろうが、誰も声を出せなかった<span lang= "EN-US">…</span>失禁するものまでいた<span lang= "EN-US"><br></span>そして、その異形のものも赤く染まっていた<span lang= "EN-US">…</span>人間の血に<span lang="EN-US">…<br> <br></span>その姿は、今でも鮮明に覚えている<span lang= "EN-US">…</span>夢にも出てくるから、まともに眠ってもいないよ<span lang="EN-US"><br> 4</span>本の足でビルに張り付き、残りの腕には大事そうに<span lang="EN-US">5</span>人分の死体が抱かれ<span lang= "EN-US"><br></span>触手は音も無くうねり、何本かには、死体から伸びる小腸が引っかかっていた<span lang= "EN-US">…</span>まるでクリスマスの飾りつけのように<span lang="EN-US">…<br> <br></span>異形の体についている、大きな目には、自分の顔が映し出されているのも見えた<span lang= "EN-US"><br></span>透明な光を帯びた、美しく深い、思わず見とれてしまうような目だった<span lang= "EN-US">…</span>敵意があるようにすら思えなかった<span lang="EN-US"><br> <br></span>しかし、静寂は一瞬にして崩れ去った<span lang="EN-US"><br> <br></span>一発の銃声と同時に、その発生源は細切れになった<span lang= "EN-US">…<br></span>反撃され、殺されるまでに、たった一発しか撃てなかった<span lang= "EN-US">…</span>驚く暇も無かった<span lang="EN-US"><br> <br> …</span>その後のことはいまいち覚えていない<span lang= "EN-US"><br></span>気がつけば、武装を投げ捨て、仲間の砕ける音を聞かないように、耳をふさぎながら、死体の中で震えていた<span lang= "EN-US">…<br></span>通りかかった味方が、俺の腕をつかんで必死に引きずってくれた<span lang= "EN-US"><br></span>気がつけば、俺は味方の陣地で膝をついていた、奴らの追撃で、大半の人間が死んでいた<span lang= "EN-US"><br> <br></span>そこでまた気を失い、今度目がさめれば病院、精神科医が俺の前に座っていた<span lang= "EN-US">…<br></span>後は知ってのとおり、恐怖で精神が崩壊する直前だった俺は、ここで治療を受けた<span lang= "EN-US"><br> <br></span>今でも、薬が切れるとおかしくなるのも、この話がうそではない証拠さ<span lang="EN-US">…<br> <br> <a href="menu:357"><font color="#0000FF">357</font></a></span>名前:<span style= "font-family: 'MS 明朝'"><font color="#FFFFFF" size="2"><font color= "#0000FF"><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF"><strong>名無し上級大将</strong></font></a><font color="#800080"><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></font></font></span>投稿日:<span lang= "EN-US">2007/05/01(</span>火<span lang="EN-US">) 02:43:01 ID:???<br> ――</span>アンケートに答える米軍兵士の供述記録、第<span lang="EN-US">344</span>号<span lang= "EN-US"><br></span>      回答内容より、被験者としての適正を確認、<span lang= "EN-US">24.06.55――</span></p> <p> </p> <p> ((解説)):二代目スレ&gt;&gt;355-357で書かれたサイドです。アンケート(プロジェクト8920による直接、もしくは指示でどこかの組織が動いた?)に答える米兵の供述記録です。</p> <p>回答内容から、プエロジェクト8920の334人目の被験者として抜擢されたようです。<br> しかし、その判断基準や、何の支持も受けていないのにもかかわらず、独断(時間に注目)でこういった行動を起こしているなど、謎を呼ぶ展開となっています。<br> もしかしたら、佐藤たちの話の伏線になっているのかもしれません。</p> <hr> <p><br> <u><font color="#0000FF">449</font></u>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/07(月) 04:04:13 ID:???<br> <br> 「―こちらヴェクター、“積荷“を運んできた、どうぞ―」<br> 「―こちら管制塔、着陸の許可はまだ出来ない、もうしばらく上空で待機しろ―」<br> 「―了解―」<br> 乗員席で交わされる会話の音量は高く、積荷こと乗客たちの耳でも容易に聞き取ることが出来た<br> 乗員の会話を反芻した一人が愉快そうに声を上げる<br> 「積荷呼ばわりか、嫌われてるんですかね、私たち」<br> 「嫌われていない方がおかしいんじゃなくって?…私たちの都合でわざわざここまでのことをしてもらっているんだもの」<br> 皮肉を言い、どこか毒のある笑い声をこだまさせる女の白衣の胸には、IUEITA職員であることを現すプレート、襟元にはP8920の刺繍<br> 「別に私の案ではなくて、其方の方の発案じゃないですか」<br> 反対側の座席で足を組み、めがねの位置を直しているスーツ姿の男にも同じ刺繍が施され、EIE職員であることを表すプレートが付いていた<br> 「あら、あなただって、この案には賛成なんでしょう?」<br> 「こちらだって得をしますからね、被験者集めの特殊機関、EIEの方でもいずれ需要が出てくるはずですから」<br> 「だったらいいじゃない、EIEとIUEITAの同意があって出された案となれば、プロジェクト8920の発案とするより、向こうも首を縦に振りやすいわ」<br> ここまで喋ってみて、何かに気が付いたように白衣の女は表情をこわばらせる<br> 「しかし、安っぽい判断基準よねぇ…」<br> 自分の目を見て話していないことから、この嫌味が、独り言の類であることは分かっていたが、スーツ姿の男は低くうなずいた<br> 「…まったくです」<br> 会話が途切れると同時に、ローターが空気を切り裂く音が、何の障害もなしに聴覚神経を刺激しだしたので<br> 両者ともに、胸のポケットの中からイヤホンを引っ張り出して、それを耳に詰め込み、センの代わりにして虚空を眺め始めた…</p> <dl> <dt><a href="menu:600"><font color="#0000FF"><br> 600</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:32:52 ID:??? <br> ――ホワイトハウスの中、大統領の執務室では、急な来客に備えるために数少ないEOLTに関する資料に、必死で目を通す政治家たちが居た<br> 内容が理解できるものも出来ないものも、少なすぎる情報から出来る限りのことを読み取ろうとしていたようだった<br> 「…ああ、最後の15ページに載ってる写真、これって焼き増しできないか?ちょうどよさそう…」<br> 「そんなことはいい、この資料は何を意味していて、この報告書は何を伝えたいんだね、補佐官!」<br> 「私に言われても…国務省の報道官が国連公式発表の際に書いた原稿、あれより詳しい内容が」<br> 「詳しい資料が載っているせいで、余計に混乱するということもあるでしょう」<br> 「副大統領、君は口を開く前に、ここに来る連中への質問内容をまとめていてくれ」<br> 「はあ…」<br> 大統領の執務室から、隣の部屋へ移動してPCの電源を入れた頃に、大統領は資料を投げ出し、コーヒーの代わりを要求しつつ、愚痴をこぼし始める<br> 「まったく…我々素人にこういった予備知識を求める時点でおかしいと思うが?」<br> 「しかたありません、そうでないとここにくる人間の話を理解できませんから…」<br> 「そもそも補佐官、一体彼らは何の目的手ここまでやってくるのだ、彼らの出してきた案の採択だけならば、こちらの方で…」<br> 「いろいろと計画の進行状況についてでも話してくれるのでしょう…ほら、そのためにこの資料を取り寄せたのですし」<br> 補佐官は意味有りげに資料を胸の高さまで持ち上げながら、軽くそれを揺らしている<br> そのことが木に触ったらしく、大統領の顔が多少ゆがむが、代わりのコーヒーが運ばれてくると興味は其方に移ってしまったようだった<br></dt> <dt><a href="menu:601"><font color="#0000FF"><br> 601</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:34:34 ID:???<br> <br> 「まったく、大学の講義でもあるまいし…奴らときたら、今までほぼ独断で活動を進めていながら、今になってこちらの都合も考えずに…」<br> 「マンハッタン島事件の時以来、ろくに打ち合わせも出来ないような状況ですし、しかたありませんよ」<br> 「まったく…」<br> コーヒーをすする彼の左手には、資料が握られていなかった<br> それは思考の放棄に他ならないことではあったが、思考を続けても彼を含む、ここの人間たちには何も理解できなかっただろう<br> そういったことを考えながら、大統領補佐官は、ついさっき話題に上がっていた“客人”たちの所在を確認しようと、携帯をいじり始める<br> 大統領はコーヒーの香りをかぐために、カップを顔に近づけ、鼻の周りで動かしている<br> ほんのひと時ではあったが、執務室に訪れていた沈黙はひとつの叫び声で破られた<br> 「大統領!いま、その客人の乗ったチヌークが上を飛んでいるそうです!」<br> 音高くドアを叩きつけるように開いた副大統領に驚いた彼の唯一の上司は、コーヒーを資料の上にこぼしてしまった責任を彼に擦り付け、喋り出した<br> 「よし、早く着陸許可を出せ…庭が汚れようがかまわん、野次馬をどけるためにここの警備を使え」<br> 「了解しました、大統領」<br> 補佐官が執務室の外に居る人間を連れて前庭に走っていき、それを見た副大統領も腰を上げ、歩き始める<br> 「ようやくか…」<br> 客人に対する備えのほかに、大統領補佐官と副大統領が迎えに出て行ったこともあり、大統領は自分の手でコーヒーをぬぐった…</dt> <dt><a href="menu:602"><font color="#0000FF"><br> 602</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:37:59 ID:??? <br> <br> …ヘリの中、白衣姿の女と、メガネを掛けたスーツ姿の男は、イヤホンを使って何かに聞き入りつつ、のぞき窓から見える、眼科の光景に注視する<br> 急にあわただしく人々が動き回り始め、ホワイトハウス前の人だかりが押しのけられていく、それがヘリ着陸の準備であることは、一目で理解できた<br> それを見たスーツ姿の男はメガネの位置を直しつつ、微笑を浮かべる<br> 「いやぁ、ようやく降りる準備が出来たみたいですね…衛星通信が使えなからですかね?」<br> 「…」<br> 「…ところで、何を聞いているんですか、それ」<br> 「国防総省の盗聴…結構面白い会話が聞けるのよ」<br> 「それは向こうの専売特許だと思うんですが…あ、ちなみにどんな会話ですか?」<br> 「私たちの一人歩きが怖くて仕方ないらしいわ…ロシアのこともあるし、そうとう気がたってるみたいよ」<br> 「ありゃ、この次はモスクワの方に用事があったんですけど、ちょっと不味いですね」<br> 「あなたが心配してるようなことにならないために、今まで散々根回しをしてきたのよ、どうせ何も出来ないわ」<br> 白衣姿の女は、含み笑いを浮かべつつ、ポケットにイヤホンをしまう<br> その愉快そうな表情からみてとるに、おそらくはそれ以外の何らかの情報を手に入れたことは疑いようが無かった<br> だが、スーツ姿の男はそのことを追及しようとはせずに、再び窓の外を眺め始める<br> 「…遅いですね、もう降りても良いんじゃないですか?」<br> 「パイロットに催促しなさいよ」<br> 「パイロットの発音、知らないんですよねぇ…私」<br> 「英語で言えば自分に向けたものだと思うのが普通じゃなくって?」<br> 「それもそうですね…でも面倒なのでやめます」<br> 「英語は話せる?」<br> 愉快そうな笑みを浮かべつつ、小ばかにしたような口調で話しかける<br> その最中、ポケットの中に入れられた手は、何かを撫で回すようにして動いていた<br> 「失礼ですね、話せますとも」<br> 「ならいいけど、大統領の前で単語間違えないでね」<br> 「なお失礼ですね、これでも昔は外務省に居たんですよ?…第一、今は立派な国際公務員です」</dt> <dt><a href="menu:603"><font color="#0000FF"><br> 603</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/13(日) 03:38:59 ID:??? <br> <br> しゃべれない方がおかしい――<br> そう否定する彼の目線は、白衣姿の女が、そのポケットの中で弄くっている物体に向けられていた<br> M1911――護身用だろうが、腰のホルスターに官給品のベレッタが差し込まれているところを見ると、おそらくは私物だろう<br> 「それ、どこで買ったんですか?」<br> 「さあねぇ…元はと言えば私のものじゃないし」<br> 「まあ、どうでもいいんですがね、そんなことは…あ、地面につきましたね」<br> チヌークの足が地面に付くと同時に、パイロットが怒声をあげる<br> 「おい!のんびり座ってねぇでさっさと降りろ!大統領を待たせてるんだぞ!!」<br> 「さっさとって言われましてもねぇ…初めて言われましたよ、降りろなんて」<br> ネクタイを直しつつ反論するスーツ姿の男に、白衣の女も同調する<br> 「そもそも、大統領を待たせているのではなく、またされていたのは私たちよ?」<br> 「それ以前に、われわれが大統領を待たせて、どんな問題があるでしょうかね…状況的には、われわれの方が立場は上ですし」<br> 「これだから上下関係がすべてだと思ってる軍人って好きになれないはぁ…」<br> 何か言いたげヘリのパイロットを横目に、二人の話は進んでいく<br> 「まったくです…こんな馬鹿はほうっておいきましょう」<br> 「ええ、じゃあ行きましょうか、佐藤クン」<br> 佐藤と呼ばれたスーツ姿の男は、一人で先にヘリの外へ出て行く白衣姿の女の後姿から視線をずらし、同行している職員に指示を出す<br> 「はいはい…ああ、相原君、プロジェクターの操作とかは全部任せますので、こっちのしゃべるタイミングに合わせて下さいね」<br> 秘書スーツに身を包み、ノートパソコンを抱いている女性は、ゆっくりと腰を上げつつ声を出す<br> 「…分かりました」<br> 無表情に、脈動感に欠ける台詞をはく彼女の胸にも、EIE職員であることをあらわすプレート、襟にはP8920の刺繍が施されていた…</dt> <dt><a href="menu:55"><font color="#0000FF"><br> 55</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:29:49 ID:???<br> ヘリの外では、数人のシークレット・サービスが周りを取り囲み、副大統領とホワイトハウスの職員が、乗客の前に立っていた<br> 風に巻き上げられた埃から目を守るために、手で半分覆われたその顔には、どこか意外そうな表情が浮かべられていた、そして当然の呟きがもれる<br> 「全員日本人?…EIEもIUEITAも日本人技術者が多いとは聞いていたが、彼らで全員なのか?」<br> 「そのはずです…少し以外ですが、仕事で問題を起こすこともないと思いますので、心配することもないかと――」<br> ヘリから降りてきた5人の日本人のうち、2人が白衣姿で残りはすべてスーツ姿、前者がIUEITA、後者がEIEの職員であった<br> そして、メガネで日の光を反射させているスーツ姿の男、佐藤は、出迎えの人間の話を見て、かすかに笑みを浮かべる<br> 「いやぁ、やっぱり嫌われてますねぇ…仕事がうまく出来なければ、ジャップとでも罵って来そうだ」<br> 「つまらない選民主義に染まった馬鹿は扱いにくいものよ…機能的に言えば、皮膚が黄色い方が、アルビノよりすぐれているのだけど…ねェ?」<br> ポケットに入れたてを片方だけ引きずり出し、風で乱れた髪をいじりながら返答する<br> 「そうですね…特に後者には全面的に同意します」<br> 「後者?…前者の方はどうなの?」<br> 「前者の方ですか…逆に固定概念や偏見の類しか持ち合わせていない人の場合、手のひらの上で転がしやすいですから、扱いにくいことはないですよ?」<br> 「私はそっちの方の仕事はあまりしないから」<br></dt> <dt><a href="menu:56"><font color="#0000FF"><br> 56</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:30:39 ID:??? <br> 「…お話を邪魔して悪いのですが、後ろが詰まっていますので、出来るだけ早く降りてください」<br> 一言だけ侘びををいい、再び歩き始める二人の目に入り込んできたのは、まず目の前に立つ副大統領以下数名だったが<br> その視線はすぐに、ホワイトハウスの窓から覗く、金髪の女のほうに移っていた<br> それが明らかに二人方をむいて手を振ってきていることに気が付いた白衣の女は、佐藤の方を向き直る――ちょうど手を振り替えしたところだった<br> 「…あら、あの娘は?」<br> 「俗に言う、にぱーっと笑うと言うやつです」<br> 「そうじゃなくて、どういう立場の人間で、あなたとどういう関係か」<br> 「大統領補佐官の娘です。…まあ、つまらない関係ですが、日本で色々とありましてね」<br> 顔に笑みを浮かべながら、皮肉っぽい口調で佐藤への問いかけを行う白衣の女の口調に対して、佐藤の返事のそれは至って冷淡なものだった<br> そのことに興味をそそられた彼女は挑発的な口調で、更に切り込みを掛ける<br> 「あの娘、ずいぶんとうれしそうに手を振ってるけど?」<br> 「お土産でも欲しがってるんじゃないですか?」<br> 今一度、深く追求しようかと思ったようだが、その思惑は外部からの攻撃で阻止された<br> 「失礼だが、君たちがEIE、およびIUEITA職員だな?…例のプロジェクトの関係者の?」<br> 副大統領の口調は感動に欠けるものだったが、妙な威圧感があった</dt> <dt><a href="menu:57"><font color="#0000FF"><br> 57</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:31:24 ID:??? <br> しかし、ここへ来た客人たちは、そんなものにプレッシャーを感じるタイプの人間ではなかった<br> 「そうよ、早いところ大統領の執務室へ案内して頂戴」<br> 「こちらも忙しいので、出来るだけ急いでくださいよ、何事も…」<br> 「ではこちらへMr,サトー…ああ、失礼だが、君は?――」<br> 外部とのやり取りで表へ顔を出すことが多かった佐藤は、一部の限られた人間にだけではあったが、多少顔が知れていた<br> しかし、その隣に居る女性は、彼も始めてみる顔だった、資料に載っていたのも見たことが無い<br> 「IUEITA推進本部所属一等技術員・兼・IUEHBHEC特派技術顧問の櫻井よ、よろしく」<br> 握手を求めてくることを期待していたのだろうか<br> 白衣のポケットに手を入れたまま、微笑みかけてくる彼女に、若干の不快感を示しつつも、目的地への先導を始める<br> 職員数名が、この二人にホワイトハウスの現状を説明しようとするが、それを部下と秘書に話すように指示をし、無駄話を再開する<br> 「なんだかのどが渇きましたねぇ…ああ、コーヒーかなんか飲みたい気分です」<br> 「ウォトカならここにあるわよ?」<br> 「ブランデーの方がいいですね…おまけに、それは余計にのどが渇きます」<br> 「じゃあ好きにして頂戴」<br> 差し出したウォトカを内ポケットに戻し、きびすを直して道を進んでいく<br> それに対して佐藤は、何かを探すように辺りを見回した後、近くを歩いている職員に対して質問する<br> 「ええと…すみません、自販機はどこにありますか?」<br> 「…」<br> 明らかにその質問に気づき、意味も理解したはずだが、彼の返答は無い<br> 「無いんですか?」<br> 「…」<br> それは、この沈黙が、否定を意味するものであると言う、極少の可能性を考慮した発言であったが、やはり返答は無い<br> その沈黙の意味について確信した佐藤は、別段気を落とした様子でもなく、にこやかに独り言をもらす<br> 「…嫌われてるなぁ」<br> <br> <a href="menu:58"><font color="#0000FF">58</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:33:43 ID:??? <br> <br> ・・・大統領執務室の内部はすっかりと片付けられ、プロジェクターなども、すでに配置されていた<br> そこに入ってきた人間は、もう少し散らかった部屋を想像していたのか、少し意外そうな顔をしていたものの<br> 大統領執務室に侵入することに対しては、なんら感慨は抱いていないといった様子に見えた<br> 特に佐藤のはいた台詞は極めつけとも言えたらしく、大統領以下、数名の人間は明らかに表情をゆがめた<br> 「すみません、缶コーヒーを買いたいんですけど、自販機ってどこですかね?」<br> 「黙れ、貴様の約分を果たすまではここから返さんぞ」<br> 怒声と思えないことも無いような力のこもった声で威嚇するのだが、やはり効果はない<br> 「約分といっても、別にここにきたのはこちらの意見を聞いてもらうためだけで、色々と説明してあげるのはサービスですから…」<br> 「佐藤クン、あまり正直なことは言わずに、接待だとでも思ってやりなさいよ」<br> 「まあ、そのつもりですがね…あ、そんなことより、送っておいた資料に書いておきましたよね、どれだけに規模の組織で、どれだけの――」<br> 「組織の規模については問題ない、後は貴様らで好きにしろ…ただ予算が問題だ、なにせ最低でも100億ドルとくる」<br> 「ああ、それですがね…そこに書いてあるのはあくまで組織立ち上げのための資金なんで、それとは別に活動資金を300億ドルほど…」<br> 「もう一度言え」<br> 「そこにかいてあるのは――」<br> 揚げ足を取るような回答に対する怒りを抑えつつ、大統領は再び質問しなおす<br> 「何ドルといった」</dt> <dt><a href="menu:59"><font color="#0000FF"><br> 59</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:34:56 ID:??? <br> 若干胸をそらせつつ、視線を上に向けて佐藤は答える<br> 「300億ドルほどお願いします…あ、キャッシュで頼みますよ」<br> 「…」<br> あまりに反応が遅いので、付け足しを行う<br> 「アメリカ人と違って、私は日本人ですからね…これでも出来るだけ少ない額にするよう、苦労して工面したんですよ?」<br> 「嫌味か?」<br> 「はぁ?」<br> 「それは私…いや、我々に対する嫌味か?」<br> 一瞬戸惑った佐藤だったが、再度問いかけを受けたことにより、またいつもの態度に戻った<br> 「それも若干」<br> 普通は大統領相手にはけないような台詞を、笑顔で言ってのけたことに、一部の人間は驚きを隠せないといった様子だった<br> 「貴様一体その資金を――っ!!」<br> 「人類のためです…ただでさえ、その軍事力の大半を失おうとしている合衆国が、いまさら軍備増強などに努めても遅い」<br> 静止を払いのけ、佐藤は大統領相手に説教を続ける<br> 「では、軍事力に関しては国連へ支援を仰ぐしかない、あなたたちは、その見返りとして、蓄えてきた莫大な資金と技術力を惜しむことなく放出すべきであるはず」<br> 胸をそらせ、かすかに見下すような表情をしていることに、幾人かが気づいたが、会話をさえぎる暇は無かった<br> 「まあ、全世界に資金・技術提供するのには無理がある…そこで我々ですよ、あなたたちが我々に資金提供をし、それによって得た成果を人類公共のものとする」<br> 笑みを浮かべながら、再び発言を続ける<br> 「当然、その資金を無駄にしないために、こちらも努力します…で、その努力の妨害をして欲しくないので、多少の独断行動は――」</dt> <dt><a href="menu:60"><font color="#0000FF"><br> 60</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:36:04 ID:??? <br> 予算審議の面で、この執務室に呼ばれていた財務長官は、当然のように激発し、口を挟む<br> 「独断行動だと?…それは今、貴様らがやっている事だろう!」<br> 「かまわん、許可する」<br> 「大統領!」<br> 「構わんと言っている!こうなる事が分かって、先の提案を受け入れたのだろうが!!」<br> 大統領の静止が、正しいことを言っているはずの彼にとっては、よほど不当なものに思えたのだろう、再び反論を試みる<br> 「しかし、アメリカ合衆国は――」<br> 声を荒げての反論だったが、大統領のそれは更に大きかった<br> 「いまさら遅い!これまで彼らが独立した行動が出来るようにしてきたのは、我々と国連だ!!」<br> 「…っ!!」<br> しばらく沈黙が続いた、佐藤は笑顔で、櫻井はつまらなそうに、その二人の秘書と部下は冷ややかにこのやり取りを見守っていた<br> 「お話が終わったようだけど、本題に移っていいかしら?」<br> 茶番を見るのに飽きたといった様子だったので、財務長官は更に不機嫌そうな顔をした<br> 「そうですね…相原君、お願いします」<br> 「…はい」<br> 照明が消えると同時にプロジェクターが起動し、部屋を照らす<br> 「じゃあ、始めましょうかね…何について、どこから話し始めましょうか?――」<br> 笑顔で言う佐藤のメガネは、プロジェクターの光を反射して光っていた</dt> <dt><a href="menu:61"><font color="#0000FF"><br> <br> 61</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:38:23 ID:??? <br> <br> 一瞬静まり返った室内だったが、佐藤の方から切り出した<br> 「漠然としたものでかまいませんよ?…資料を回しておいたので、具体的な質問が来ると思っていたんですが――」<br> 微笑みかけてくる佐藤に、少し戸惑いながら大統領が口を開く<br> 「…一番気になっているところだ、EOLTとは一体…何者なんだ?」<br> 「なるほど…確かに漠然としたものだ…」<br> プロジェクターから、火星にて確認された構造体が映し出される<br> 「EOLTはその名のとおり、地球外起源の生物です…しかし、その生態は、とても自然発生したものには思えません」<br> 「ここで言う自然発生というのは、野生の生物ではありえないと言う意味で、何らかの科学文明を持っている存在と言うことも意味しますが、その反面――」<br> 画像が月で確認された構造体と、そこから出現する物体に変わる<br> 「こうした構造の生物が、科学文明を持ち、人類のようにそれを扱いやすくするために進化した生物だとは、とても思えないと言う矛盾も示しています」<br> 次に現れたのは、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された写真であった<br> 「そのことから我々は、この生命体が“何らかの科学文明が意図的に誕生させたもの”であると言う仮説を立てました」<br> 再び画像は構造体のそれに変わった、今度は地球のものである<br> 「そして、ここでNASAが構造体を確認した初期より持っていた仮説“構造体が資源の最終・精製用のプラントである”というものが浮かび上がってきました」<br> 「つまり、EOLTとそれを運んできた構造体は、人類以外の科学文明が、資源最終の目的で送り込んできたユニットであることが想像されたわけです」<br> 何人かの人間が口を挟もうとするが、それより先に佐藤は話し出す<br> 「しかし、その資源採集の目的が依然として不明のままです、純粋に資源を採集し、持ち帰ることが目的なら簡単ですが…」</dt> <dt><a href="menu:62"><font color="#0000FF"><br> 62</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:39:12 ID:???</dt> <dt>画像が何かの論文の切り抜きに変わった<br> 「フォン・ノイマン型の資源採集用ユニットで、自分を複製するために資源採集機能が付いている場合、資源採集以外の目的があることになります」<br> 「これが人類など、自己以外の生命体ないし科学文明を発見したいという、彼らの生みの親の願望ならいいのですが、彼らは攻撃をしてきています」<br> 「ただ単に興味を持っただけで、いることが分かれば後はどうでもいいのか、攻撃されたから反撃しているだけなのかは分かりません」<br> 画像が映像に取って代わられた<br> …それはニューヨーク市の戦闘で、ちょうど中型の探査科が勢いよく米兵の群れに突っ込み、装甲車両を殴り飛ばし、遅れてきた触手で歩兵を細切れにしたところだった<br> 「ですが、このたとえが正確かは分かりませんが、明らかに戦闘については素人であることは間違いなさそうです」<br> 「用兵の仕方も、マンハッタン事件以後にとってつけた様に使われ始めたもので、それ以前はまるっきりでたらめでした」<br> 映像がヘリから撮影されたものに変わり、大統領以下、客人以外の全員がその映像を注視する<br> しかし、どこが用兵の仕方がでたらめなのか、それを見る人間には判断付かないようである<br> 「もっとも、圧倒的な戦闘能力の差と、こちら側の混乱等があり、EOLTは一方的に勝利しましたが…」<br> 次に映し出されたのは、二種類のEOLT…追跡・追撃科を遠距離から撮影したものを、画像処理したものらしい<br> 「最初の戦闘の後、やはり、とってつけたような自衛用個体が出現し始めたこともあり、おそらく、人類との戦争以外の目的で着たことは間違いないはずです」<br> また静止画像から動画へと変わり、観客の目を引く…どうやら、シベリア戦線のものらしい雪原での戦闘が写される<br> 「ただ、最大の問題は、“今もそうであるか“ということで…つまり、人類との戦争に勝つことが目的へと変わり、これから本格侵攻が始まるとも限らない」<br> プロジェクターから映し出される画像が、「7号資料」と書かれた画像に摩り替わり、回答が終了したことを告げる<br> 「まあ、そんなところです。地球生物とその文明の生殺与奪の権利を持っていることも間違いなさそうですね…えー、次の質問は?」</dt> <dt><a href="menu:63"><font color="#0000FF"><br> 63</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:40:57 ID:??? <br> 次の質問者は副大統領だった…重みのある声を上げ、佐藤に問いただす<br> 「やつらの生態についてはどの程度判明している?…たとえば、どの程度の休息が必要なのかといったことや、生殖の過程などだが…」<br> 「ああ、それでなんですけどね…休息――つまり睡眠を行っていることは確認されていないし、生殖活動を行う機能が備わっていないことも分かってます」<br> 画像はロシアで解剖されたEOLTの写真に変わる…画像には、「10号資料」の文字が書かれていた<br> 「そして、何らかの方法で、体外から食物を取り込む機能も確認されていません」<br> 「食物を摂取しないというのか!?…しかし、それで一体、どうやって活動を続けて――!」<br> 「食物を摂取しないというのは、自力でそれを行うことができない、という意味です…たぶん、構造体内で供給されるのでしょう」<br> 「その姿は確認されているのか?」<br> 「いいえ、まったく確認されていません、ですから完全な仮説です」<br> 画像がエネルギー補給のサイクルを表す図に変わる――ラテン語で書かれているため、一部の人間は読むことができなかったが<br> 「同じように、新陳代謝も行っていない…これはまだ健勝段階の情報ですが、いずれその成果をロシア政府が公表するでしょう」<br> 観客の数人が目を細める、ロシア政府が好評どころか、いまだ検証中の情報をどうやって知りえたのか…<br> 「あー…何かまず事を言いましたか――?」<br> かすかに佐藤が笑みを浮かべる…明らかに普段のそれとは異質なものだった、どこか不気味な――</dt> <dt><a href="menu:64"><font color="#0000FF"><br> <br> 64</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:41:42 ID:??? <br></dt> <dt><br> 「――そうか、いや、なんでもない…次の質問だが、やつらは資源採集用のユニットだといったな?―もしそうだとすれば、資源採集に向けての動きがあるはずだが?」<br> 「ええ、知ってのとおり、根を地中に張り巡らせ、主縦坑にあたる根の先端部分を、地球の核に向けて放ちました」<br> 一部観測データのグラフを添付したその想像図が映し出される<br> 「そこで問題なのが、“根“を地球の核にむけてはなった以外、目立った資源採集に向けての行動を示していたいと言うことです」<br> 構造体から延びる横坑の伸び方を、時間を早回しにして再生する<br> 「たしかに、坑道を張り巡らしてはいますが、採掘作業を行っているらしい情報は一切入っていない…理由は幾つか考えました」<br> 「一つ目は、目的となる資源があるところまで、その勢力圏、ないし根が伸びていないということ…これでEOLTが勢力圏を少しずつ伸ばしてきている理由が説明できます」<br> 「二つ目は、人類という脅威が目前にある今、資源の採集どころではないと判断しているためです…これが正しければ、自衛用個体の件も説明できます」<br> 「三つ目は、そもそも資源採集という目的そのものがないのか…」<br> 一息つく佐藤を見た後、行く認可の観客は顔を机に落とし、考え込む</dt> <dt><a href="menu:65"><font color="#0000FF"><br> 65</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/20(日) 05:42:48 ID:??? <br> しかし、それ以上に思いつめた表情を見せている人物が、発言者である佐藤本人であることに気付く人間はそう多くはなかった<br> <br> ――あるいはこの仮説のうち、そのどれも違うのかもしれない…私たちが思いもよらない何か…そう、人間には考えもつかない何かが――<br> ――とにかく、物事を判断するには、あまりに時間も情報も少なすぎる…いずれ嫌でも気付く時が来るはずだ…そのときまで――<br> <br> 彼はそう思いつつ、口元に手を当てて考え込んでいた…<br> 桜井は彼を見て、意味ありげにかすかな笑みを浮かべ、ポケットの中のガバメントを弄り回し始める・・・</dt> <dt><a href="menu:239"><font color="#0000FF"><br> 239</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/05/23(水) 04:45:16 ID:???</dt> <dt>――そのときまでに、出来るだけの事を済ませておくべきだろう…やれるときにやっておかなければ――<br> <br> 考え込む佐藤をよそに、政治家たちは噂話でもするかのように、仲間内で議論を始める<br> 大統領たちの会話にすら気を取られずに考え込む…櫻井はこの光景を見て、どこか奇妙な感覚を覚えずにはいられなかった<br> <br> ――間に合わなくなるかもしれない…これを長引かせるべきではないだろう――<br> <br> 国家の枠組みを超えて、権限と権力を獲得してしまい、国連の混乱に乗じてEIEとIUEITAに組織的な自由を与え<br> プロジェクト8920にいたっては、ほぼ独断で行動し、その成果を報告する義務すら怠っている<br> それはこの――つい数日前まで、国家公務員である意外、なんの政治的な権力も持っていなかった男によるものだ<br> もしかしたら、彼が今後の人類の命運を分けるような行動をとるかもしれない…櫻井はそう考えていた<br> 肝心の彼――佐藤は、いまだ結論を出せずに居る…<br> <br> ――もしかしたら、勝つことは出来ずとも、人類が当面の目的を達成できるかもしれない…問題なのは、3つのうちどれになるか――<br> <br> ・・・佐藤は腕をポケットに戻し、それを見た相原がプロジェクターを再び起動する<br> <br> 「それじゃあ、次は何を話せば?」<br> <u><font color="#0000FF"><br> 764</font></u>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:41:30 ID:??? <br> ・・・会議(?)の終結は意外にも早かった<br> 大統領以下数名の出席者が国防省に呼び出されたためで、連絡が入ってからほんの数分でほぼ全員が引き払ってしまった…<br> 会話から察するに、どうやら海兵隊予備役の全面召集において、何らかの問題が発生したらしい<br> 置いてきぼりを食らわされた来客の面々は、大統領執務室内に留まる目的を失ったため、荷物をまとめると、早々にその部屋を後にしていった<br> ただ、その来客の面々にまったく動揺が無いのは職業病か、ただ単純に性格の問題なのか、それとも…<br> 「いやいや、ここまでの扱いを受けるとは思いませんでした」<br> 佐藤は、やはりうれしそうに微笑を浮かべながら喋る…その微笑が何を意味するのかはわからないが、同じく悪意の類はまったく感じられない<br> 「…わかりきっていたことでは?」<br> 隣でノートパソコンを持ち、無表情のままたたずんでいる秘書スーツを着た女性が、何か不自然なものでも見るかのような表情で声を出す<br> 見下しているような態度といえなくも無いが、悪意のこもったものではなく、何か別なものを感じさせた<br> しかし、上司に対しての口の聞き方として問題があることは事実なので、向かい合う位置にいた半白の頭をした男が静止に入る<br> 「…相原君」<br> 「そもそも、歓迎される立場にはいませんし」<br> 「相原君!」<br> 多少声を荒げ始めたその半白の頭の男に対して、佐藤が見かねたように反応する<br> 「あぁ、いいです、いいです…別にかまいません」<br> 「は、はぁ…」 <br>  <br> <br> <a href="menu:765"><font color="#0000FF">765</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:44:05 ID:???</dt> <dt>佐藤の反応にしっくり来ないものを感じながらも、姿勢を正して引き下がる<br> その反応の仕方と動きからは、元は軍に在籍していたであろうことをほかの一部の目撃者たちは感じ取った――おそらくは日本国自衛隊(JSDF)<br> 脇の下には、ほんの僅かだが膨らみがあり、何かが垂れ下がっているように見えた…拳銃の類だろう<br> 「ところで、この部屋は盗聴されてますかね?」<br> 「問題ありません」<br> ポケットに手を入れたまま前かがみになって部屋を見回す佐藤への返答は冷淡なものだったが、本人にそれを気にしている様子は無かった<br> 「では国際電話で海上幕僚長に連絡を取って下さい」<br> 「吉川さんですか…用件は?」<br> 「直接話しますから繋がったら変わってください」<br> <br> <br> <a href="menu:766"><font color="#0000FF">766</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:45:34 ID:??? <br> <br> 国際電話――マンハッタン事件以来、通信衛星がほぼ制御不能に陥り、国際電話の類は一時的に使用不能に陥ったが、回線が破壊されたわけでもなく<br> 海底ケーブルに頼るほか無くなっていたものの、通話不能ということにはなっていないため、現在でも利用は継続されている<br> もっとも、料金等に変わりは無く、安否確認のために合衆国とロシアへの通信が一時的に増えた以外、通話量に変化は無いが<br> 「どちら様ですか…」<br> 電話の向こうの声を中継する相原の声は、相変わらず冷静というよりも、感情の起伏云々をつかさどる脳の部位に<br> 何らかの障害を持っているのではないかと思わせるほど、無感動な…少なくとも、ただ単に職業病ともいえないものであることは感じさせた<br> 「えーと…佐藤です」<br> 「わかりました」<br> 電話にその言葉を伝えた直後に会話が途切れ、相原が沈黙しているところから、相手の急激な反応の変化が見て取れた<br> 数瞬の後、電話の向こうから応答があり、本人が出るようにとの指示を受け、佐藤が眼鏡の位置を直しつつ、交代する<br> 「どうも…」<br> 佐藤は相変わらず笑顔でいるものの、電話に向かって第一声を発した瞬間、表情が微妙な変化を見せたことには、誰も気がつかなかっただろう<br> 「―佐藤君…久しぶりだな―」<br> 「ええ、5年ぶりですねぇ…随分と昇進なさったようで、あの時の彼方はまだ三佐だった」<br> 「―いや、結局は君の立場のほうが上だ、凡人の限界というかな…それで、用件は何だ?―」<br> 「DDH…ヘリコプター搭載護衛艦を一隻、貸して貰いたいんですが」</dt> <dt><a href="menu:767"><font color="#0000FF"><br> <br> 767</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:46:25 ID:???</dt> <dt>「―DDH?ただでさえ希少価値の高い船だ、そう簡単には動かせんぞ―」<br> 声を大きくする海上幕僚長に対し、佐藤はいたって冷淡に対応する<br> 「総理には話をつけてありますし、今までにも日本人技術・研究者の派遣はありました。EOLTの調査・監視のための自衛隊派遣もそれほど反発を受けないでしょう」<br> 「―国民感情の点は問題ない、報道規制を行っているのだしな…ただ、米国政府は?」<br> 佐藤は何かを思い浮かべるような表情をした後、また笑顔になり電話に向かう<br> 「それなら問題ありませんね、そちらは護衛艦を動かしてくれるだけで十分です。後は人を殺そうが何をしようが、私の仕事ですから」<br> 軽い笑い声を上げながらの発言とは思えなかったが、電話の向こうの反応も、その点については言及しようとしなかった<br> 「…壊さんでくれよ」<br> 「ああ、その点は大丈夫です。今度は壊さないように使いますから」<br> 笑顔でそういったせりふをはいているところを、第三者が見れば、子供が玩具の貸し借りでもしているかのように思っただろう<br> 事実、佐藤からしてみれば、その程度のものなのかもしれないが――それにしてはあまりに高級なものだ<br> 「お前のことだ、相手は人間だろう?」<br> 「人聞きが悪いですねぇ、人類のため…EOLTに勝つために、人間と戦うんです」<br> EOLTに勝つ――この“勝つ”という言葉にはいったいどのような意味があったのか、それを聞くものにはほとんど理解できなかった<br> EIEもIUEITAもプロジェクト8920も、すべて一貫性があるように見えてないものだ<br> いったい、誰が何のためにどのような行動を起こしているのか、把握が困難なほどに状況は混沌としている<br> 佐藤の行動についても例外ではなく、一見すると前途の組織のために動いているようだが<br> すでに一人歩きをし始めている同組織の主導権を手に入れつつある佐藤が、ほぼ自由意志で動いていることから考えれば、何らかの思惑があると見ても間違いないだろう</dt> <dt><a href="menu:768"><font color="#0000FF"><br> <br> 768</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:47:33 ID:???</dt> <dt>「―…まあいい、検討してみる。用意が出来次第、こちらから連絡しよう―」<br> もっとも、その思惑が表面化し佐藤が完全に独自の行動を開始するには、相当な時間の経過と状況の変化が不可欠だろうと思われた<br> 「よろしくお願いしますよ」<br> 現に、今のところ彼は、EIE本部所属の職員であり、プロジェクト8920に関わっているという他は、特別な人間という訳ではなく<br> 政府の意思や政治の動向、そういったものに左右される哀れな技術・研究者、そのうちの一人でしかない<br> 「―ああ―」<br> 立場的には合衆国大統領より上であっても、政治家たちがその気になれば彼程度の存在は簡単につぶせてしまうはずだろう<br> 少なくともそう思って間違いないはずだ、まだ始まってから数日…問題なのは、この戦いが長引いてしまったとき、どうなってしまうのか<br> 彼は明らかにその時の為の布石をまいている…戦いが長引き、何か行動を起こさなければならなくなったときの為の布石を…<br> 「それじゃまた」<br> 携帯を閉じる音を聞いたときに、その通話を隣で眺めていた櫻井は、自分が人差し指の第二間接にあたる部分の手袋をかみ締めているのに気づいて、あわてて姿勢を正す<br> ――考えすぎなのかもしれないが、自分もいずれ同じことをするはずだ…でも何のために、なぜ私が…?<br> そう考えていくとある疑問に落ち着く、彼はなぜ、何のために、何をしようとしている?…なぜ彼でないといけない?<br> まだ人類救済のための特殊機関だとかの類は立ち上がっていない、あったとしても、計画の段階であるはずだ、彼が関わっているはずもない<br> 仮に知っていたとしても、なぜ布石を撒く必要がある?彼がそんなことをする必要は無いはずなのに…――<br> 釈然としない思いを抱えつつも、櫻井は思考を中断する、無駄な時間と解釈したためだろうか、それとも彼女なりの結論を見出したからだろうか…<br> それを不審そうな顔で眺める相原はいったん佐藤を振り返るが、何も考えていないように、執務室の壁にかけてあるカレンダーに見入っている<br> どこまでが正しい評価で、どこからが過大評価なのか検討もつかない男だが、彼女にはむしろ過小評価している可能性すら感じさせた<br> どちらにせよ、この戦いが本格化するまで、その本性を垣間見ることも無理そうではあったが</dt> <dt><a href="menu:769"><font color="#0000FF"><br> <br> 769</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/06/16(土) 07:49:20 ID:???</dt> <dt>「…これからどうしますか?」<br> 「そうですねぇ…まあ、しばらく時間をつぶしてから国防総省にいきますか…他にやることも無いですし、モスクワへ飛ぶには時間も無い」<br> 「そうね…どうせお呼びがかかるでしょうし」<br> 相原の問いに対する佐藤の返答は、特に考えていなかったと言わんばかりの曖昧なものだったが、櫻井の同意もあるので<br> 他にこれからの行動を左右する人物もいなくなり、相原はヘリの手配を始める<br> 「きっと今頃血が上って腫れ上がった頭を抱えているはずです…懸賞が出るわけでもないのに難解なパズルを解く思いのはずですから」<br> ヘリの爆音に振り向きつつ、ネクタイの位置を直す佐藤から笑顔が消える<br> 「あ、よく考えたら当分の間は日本に帰れませんねぇ…」<br> 「ゴールデンタイムを当分見逃すことになりますね」<br> 珍しく、佐藤の独り言に対して同意をしてきた相原だが、表情に変化は無い<br> 「そうですねぇ…ネットに転がっているアニメは画質が悪くて、とてもとても」<br> 「誰もアニメとは言っていませんが…」<br> 普通なら笑い声のひとつでも上がりそうなものだが、やはり表情一つ変えない…<br> 慣れている人間でなければ、逆に険悪な雰囲気になってしまうところだが、やはりそれを気にする人間はこのメンバーにいないらしい<br> 今までのやり取りを眺めていたホワイトハウスの職員は、「なぜこんな連中が…」という疑問に駆られながらも、声に出せずにいた<br> <br>  ((解説)):第3次スレの&gt;&gt;449-603までと第4次の&gt;&gt;55-769までの話です。</dt> <dt>補足的な意味合いが強いようですが、普通のSS形式であることを考えると、こちらが本編に当たるのかもしれません</dt> <dt>そういった意味合いから、ここで保管することにします(ほかの物がサイドでも、これだけは別でしょうし)</dt> <dd> <hr></dd> </dl> <p><u><font color="#0000FF">252</font></u>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:10:19 ID:???</p> <dl> <dt>・・・なんとも言えない、重たい雰囲気に包まれる国防総省の一室では、合衆国の政治・軍部の首脳が一堂に会していた<br> 中央の席には大統領と副大統領、国防長官が座しているが、いずれも…特に大統領は不満そのものといった表情をしている<br> それも仕方が無いことだろう、ここ数日は容認しがたい事実の連続――彼からしてみれば――だったのだ<br> この決定に同意してはいるものの、アメリカ合衆国の頂点に君臨してきた彼に、現在の扱いは到底耐えられるものではない<br> いくら国連の後ろ盾が在ろうと、いかに先進国の合意の下に下された決断であろうと、それはアメリカ合衆国大統領にとって問題無いと言うだけだ<br> 国益…果ては人類の存亡という使命感を背負う政治家としてではなく、彼個人にとってすれば、あまりに理不尽なものだ<br> もっとも、彼も大統領まで上り詰めたほどの人物であり、この程度のことで不機嫌をばら撒くような人物ではない<br> 会議の行き詰まりと、それに伴って佐藤以下数名の手助けが必要であるということ<br> そして、連絡を取ろうとした矢先、この状況を予想していた佐藤本人から「今そちらに向かっている」という、挑発的内容の連絡が入り、それを増長してしまったためだ<br> もう、これ以上の刺激を受ければ、冷静な判断能力が失われるどころか、その権限を暴発させかねない――先の海兵隊の件もある<br> 彼を取り巻く首脳部の人間たちは、ここへ来る人間が、その“刺激”を与えないことを祈るばかりだった…<br> <font color="#FFFFFF"><br> <a href="menu:253"><font color="#0000FF">253</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:10:55 ID:???<br></font><br> 「……ええ…何か、言いたいことは?」<br> 沈黙に耐えかねた様子の司会進行役の副大統領は口を開く<br> 答えるものが誰も居ないのは、佐藤の罪悪意識のかけらも無いような軽快な口調で、冗談交じりの話を聞いたためだろうか…気分を毒され、誰も喋らない<br> 椅子に腰を下ろし、姿勢を若干崩しつつ、副大統領は目線を落とす<br> 佐藤の名詞が一枚、資料のうちの一枚のA4のコピー用紙にクリップで留められている<br> 「嵐の前の静けさにならなければ良いが…」<br> 彼の呟きの語尾には、誰かの低い笑い声が重なった<br> 左右をゆっくりと見回してみると、かすかに笑みを浮かべている一人の人物が視界に入る<br> マイケル・W・ウェイン…この空軍長官の役職につく品のいい老紳士は、非常に有能な人物であることは間違いない<br> しかし、空気が読めないのか、それともわざとかき乱そうとしているのか、彼の言動はこういった場の雰囲気を悪化させることが多々ある<br> しかも、その悪化の度合いが非常に高く、声を低くすることもしないため、始末に終えない<br> 逆を言えば、それが無い彼は非常に理想的な人物になるのかもしれないが、そんな妄想の類は何の意味も無いだろう<br> それよりも、その横で涼しげな顔をして、資料をただ眺めているM・モズリー大将にこそ、自分を変える努力をしてほしかった<br> 空軍の参謀総長たる彼が、空軍長官の悪い癖の一つも指摘してやれないというのは、さすがに考え物だろう<br> <br> <a href="menu:254"><font color="#0000FF">254</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:11:34 ID:???<br> 「はぁ……」<br> 空軍長官と参謀総長を交互に見たあと、溜息をつくのはジェームズ・T・コンウェイ海兵隊大将だった<br> 大統領の命令があれば、議会の承認を待たずに従う必要のある彼は、広意義で言えば、一連の混乱の被害者だろう<br> 自分は何も知らないうちに、合衆国首脳部は他国との協議の末、わけの分からない計画を推し進めていった<br> そして、彼は突然、海兵隊派遣の命令を受けた…その挙句、多くの部下を失う<br> しかもそれは、EOLTと公の場で交戦し「名誉の戦死を遂げた」のではなく、事実は完全に隠蔽された後<br> 極秘裏に記録を偽造、揚陸艦の沈没事故、という形で世間に公表される始末であった<br> とにかく、軍部の高官たちは、先に起きた二度の戦闘によって、自信やプライドの類をずたずたにされてしまった<br> それだけならまだしも、多大な被害を被り、その再建を行う程度の余裕しか無いという、絶望的な現状<br> 一部の…特に陸軍に代表される高官たちは、半ば放心状態でここに集まっている<br> <br> <a href="menu:255"><font color="#0000FF">255</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:13:01 ID:???<br> 「それで、あの男はいつごろ到着する?」<br> 国防長官が口を開き、その引き締まった顔に似合わず、どこか優雅さすら感じさせる声を漏らす<br> その声とは裏腹に、憂鬱の虫でも抱えているような雰囲気漂ってくるので、少し不謹慎なたとえが頭に浮かんだが、すぐに振り払った<br> 「ヘリで向かっているそうですが、まあ、後数分でしょう」<br> やたら重たい口調でそう答える副官の表情からは、明らかな不信感が見て取れた<br> 無理も無い――そう思う副大統領は、もう一度目線を落とし、資料に混じっている“あの男”の名詞を見つめる<br> 顔写真の横には漢字で佐藤と刻まれ、その上にはローマ字で読み仮名がふられている<br> しかし、苗字だけで下の名前はどこにも記されていない…そのかわり、国際電話の番号が刻まれている<br> 「担当の事務官か…いい身分だな」<br> 低い笑い声が聞こえてくる…驚いたことに、その声の主は、彼の行動を注視していた大統領その人である<br> 不機嫌が爆発する寸前の彼が、それを誤魔化そうとしての笑みなのだろうが、ここまでくると、不気味に思えた<br> しかし、事実この担当事務官も半ばお飾りに過ぎず、佐藤は自分自身の考えで動き回っている<br> そんなものの為に、国連の予算をつぎ込んでいるのだ――もっとも、マンハッタン事件以来、独断で動かなければ迅速な行動は不可能になっていたが<br> <br> <a href="menu:256"><font color="#0000FF">256</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/07/15(日) 18:14:25 ID:???<br> 「本当に、ろくでもない事ばかり起こるな」<br> 手を目頭に当てつつ、そう呟くのは、ホワイトハウスで300億の資金を捻出するべく、膨大な資料と電話相手と格闘する財務長官であった<br> 最初は怒りに震えていたものの、今では山積みの仕事に血の気が引き、比較的落ち着いている<br> どこか笑える絵ではあったが、同じく国務を預かる副大統領として、彼に同情せずにはいられない<br> 「…あんなものさえ、降って来なければ、な」<br> そうだ――あんな物さえ落ちてこなければ、何も変わりはなかったはずなのだ<br> すべての元凶は、あの宇宙からの来訪者たちであり、誰のせいでもない…かといって、誰かに敵意や憎悪を向けなければやりきれない<br> 前線で戦う兵士たちならば、それはその“宇宙からの来訪者”だろうが、政治家たちはそうも行かない<br> むしろ、できることならば、平和的な共存関係を打ち立てたいと考えている…そういった感情は一切排除する必要がある<br> やはり、必然的にそれらの対象は、同じ人間ということになる<br> 「何も変わらんな…結局のところ」<br> 国防長官の声に、一瞬思考でも読まれたかのような驚きの表情を見せた<br> だが、口を開くことなく彼はまた視線だけを下に落とし、物思いにふけり始めた…<br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;252-256のログ。</dt> </dl> <hr> <dl> <dt><a href="menu:492"><font color="#0000FF">492</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:24:24 ID:???</a></strong></dt> <dt>・・・どれだけその沈黙が続いただろう、司会役の副大統領すら口を開こうとしない<br> 呆れたような目で会議室を見回していた国防長官も、結局この状況から抜け出すための努力をする事を諦めたらしい<br> ただ、あまり意味があるとも思えない時間のみが、音もなく流れている<br> 一応資料を眺めるフリをしていた海兵隊司令官は、資料を投げ出し、その鬱そうな顔を上げる<br> やることが無かったので空を見上げる…いたって普通の行動だった<br> 「…ああ、着ました。例のヘリ」<br> それは間抜けな声ではあったが、無理もない反応だったかもしれない<br> 数分で来ると言われていたそのヘリは、すでに20分以上も到着の気配を見せておらず、てっきりこないものだと思われていた<br> ゆっくりとした動作で窓際に集まった2,3人の会議出席者は、ヘリが現実のものであると確認すると、すぐに席に着いた<br> 「あのヘリは、佐藤が乗っているもので間違いないな?」<br> 質問する司法長官は、ここ数日の激務ですっかりやつれた顔を部下に向ける<br> 「ええ、と…CH-47Jです。間違いありません」<br> 双眼鏡を覗き込んでほんの数秒で答えたあたり、本当に確認したのかは怪しいものだが、とりあえず間違いではなさそうだった<br> 席に座りなおした出席者たちは、何を思って顔をしかめたのか――まともに意見をぶつけるといった行為を行うことを考えているようではなった――<br> 席について考え込む、いやに鬱々しいその顔には、疲れと強迫観念の類がちらついていた<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a493" name="a493"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:493"><font color= "#0000FF">493</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:25:54 ID:???</font></dt> <dt>同じく、25日の午後、そろそろ日が陰り始め、気温が急激に下がる時間帯<br> 国防総省からせいぜい1km程度の距離を飛ぶ一機のヘリの中には、およそ緊張感にかける人間が乗り込んでいた<br> <br> 「――いやぁ、やっぱりコッチの食事は、日本人の舌には合いませんねぇ」<br> 佐藤がハンバーガーの包装紙の内側についているピクルスの破片を、手を使って口の中に放り込んでいく<br> それを見た櫻井は、同じく指のケチャップを舐めながら「下品」と一言注意をして、話を切り出す<br> 「あなた、いつまで…こんな仕事続ける気なの?」<br> コーラを飲みながら語りかけてくる様は、あまり絵になるものではなく、いつもの威勢とかみ合わないものがあったが<br> 佐藤の方も、ダブルチーズバーガーに噛り付いている…それも、秘書のPCの操作にちょっかいを出しながらだ<br> それに、この質問は、過去に幾度となく行われたものだった<br> 初めて顔を合わせたとき、同じ仕事に就いたと知ったとき…櫻井は深く考えずに質問していたし、佐藤はその度に軽くあしらっていた<br> 「辞めたくても辞められない仕事ですし、すぐにもっと重度に…あ、そこはBですよ、相原君。Bです、大文字の」<br> やはり、佐藤も重要なことは思っていないらしく、話の途中でパスワードの入力でもめている<br> 「あれ、Kだったか…もうすぐいろいろな意味で重度になります。そうすれば色々とやり甲斐も出てくるんじゃないですか」<br> 「危ない仕事というか、真っ当な職業にはならないわねェ…それだと」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a494" name="a494"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:494"><font color= "#0000FF">494</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:26:30 ID:???</font></dt> <dt>桜井の挙動に、ところどころおかしな点が目に付く<br> それが何かを探してのことだと気がつく頃には、秘書の鞄の中から何かのファイルを取り出す<br> 「あったわ、非公開の殉職者名簿と殉職ですらない犠牲者名簿」<br> 櫻井が小さく笑うのを見て、彼女の横に座っているスタッフは、かなり意外そうな顔をしている<br> 佐藤はそんなことは無視し、少し黙り込んでから視線を櫻井に戻す<br> 「これでも公務員なんですよ」<br> 「…公務員は公務員ね、たしかに」<br> どうもしっくり来ない様子で、それが公務である事については、改めて気づかされたといった表情をしていた<br> 常識的に考えれば当然のことであるし、あまり意味のある発見ともいえないものだが、どうも櫻井は、そのことで考え込んでいるようだった<br> 「ようするに、今どんなことをしようとも、最終的な勝者になれば正義なんですから、今からやましいことを避けて通るようでは…あ、ケチャップとってください」<br> 櫻井はケチャップを右手で取りながら、左手でピザを口に運び、何か考えているような――深刻というには程遠い表情だが――顔をしながら押し込んでいく<br> 「言うことはよく分かるけど…よく考えたら、勝つとか負けるとかって言うのが意味のない事だって言い出したのはソッチの方よ?」<br> 再びわざとらしいそぶりで両手を動かしてみせる<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a495" name="a495"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:495"><font color= "#0000FF">495</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:27:28 ID:???</font></dt> <dt>その前で、ケチャップを受け取り損ねた佐藤は、床に散らばった色とりどりの包装紙をさらに鮮やかに彩った赤い液体の始末に困っていた<br> その包装紙の山は、ほとんど絨毯に近い形で床に堆積している<br> 相原ともう一人、櫻井の秘書官が缶コーヒーとホットドッグ、半白の頭をした男がパイを食べた以外、すべて佐藤と櫻井が胃袋に詰め込んだものであるらしかった<br> いくら1時間以上もヘリに詰め込まれているとはいえ、さすがに不釣合いな量であることに気づいたパイロットは、ガムをかむ口の動きを止める<br> 「お、おい!ヘリん中で何やってんだてめぇら!!」<br> パイロットの頭には、バイザーつきのヘルメットがかぶさっていため、その激しい表情は伺えなかった――もっとも、それが見えたとしても、佐藤たちの対応に変化は無かっただろうが――<br> 櫻井がサイン入りの何かの契約書をひらひらと靡かせ、佐藤は手帳と認識票のような物を示す<br> 「“軍・政府の交通、および通信機関はある程度自由に利用してよし“大統領のサイン」<br> 「“NATO加盟国の軍関係組織においてはNATO階級符号OF-5相当の待遇、および権限の行使を認める“国連…」<br> 佐藤が続けようとしたのを見たパイロットは、あわてて声を出す<br> 「もういい!わかったからあんまし食い散らかすんじゃねぇ!!」<br> 「結局、何もわかってないじゃない」<br> 櫻井が語尾に妙なアクセントをつけたかと思うと、愉快そうに笑う<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a496" name="a496"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:496"><font color= "#0000FF">496</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:28:13 ID:???</font></dt> <dt>「扱いとしては彼方より数段階級が上なんです。まあ、別にいいですけど…あ、そのコーラ飲まないんならください」<br> 「買ってきたの、これで最後なのよねェ」<br> 「それなら、なおさらください」<br> 「そうじゃなくて、対価を要求してるのよ」<br> 「なら要りません」<br> 櫻井は、まだペットボトルに半分ほど残っているコーラでピザを流し込み、佐藤は3つ目のダブルチーズバーガーに手を出す<br> 相原は先刻までの仕事が一段落付いたらしく、ワードプロセッサを開いて、何か文章を打ち始める<br> その光景から目線をずらし、再び計器を見つめるヘリのパイロットの服装には、所属部隊を示すワッペンの類は一切なかった<br> 秘匿性の高い任務に起用された場合、このような処置がとられることは、“来訪者”たちの襲来に備えて決定さ“れていた”事だ、この任務もそれにあたる<br> この場合、強制ではなく――ことが荒立つのを防ぐためだが――本人の志願によって佐藤たちの護送を受け持ったのだが、どうも後悔しているらしい<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a497" name="a497"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:497"><font color= "#0000FF">497</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:28:57 ID:???</font></dt> <dt>それを見た櫻井は、しばらくの間を置いて佐藤に視線を流す<br> 「面白い反応をしますねぇ…」<br> うれしそうに笑っている佐藤は、日本語でそう呟いた<br> そうしたのは、ただ単に英語でしゃべるのが面倒だったのか、とっさに出てしまったのか、パイロットへの配慮か<br> 「ところで、このサインなに?」<br> 櫻井が手に取った新聞の切れ端を使ったメモには、住所と電話番号と“購入費“、その横には誰かの名前が書かれていた<br> 「何事もお役所仕事ってことです」<br> 芝居がかった仕草で不満を表しながら佐藤は続ける<br> 「さっき買ってきたホットドックの領収書ですよ。他と違って、ちゃんとしたお店で買ったものじゃないので、仕方なく領収書は手書きにしてもらったんです…それがないと、上は一銭も出してくれなくって」<br> 「自腹を切ればいいじゃない」<br> 「だれがこんな仕事のために自腹を切るものですか」<br> 別に怒鳴ったわけでもないが、即答だったので、櫻井はまたもわざとらしく驚くそぶりをして見せた<br> 「本来なら、資金の横領・着服でもさせてもらうのが筋だというのに、旅費や身支度で財布は空になり、手当ての一つもなし…好きでやっている仕事ならまだしも、ほとんどこっちの意思は関係なし」<br> 「まあ愚痴はどうでもいいから仕事の話でもしない?」<br> 視線を櫻井に向けず、外の景色を眺めながら答える<br> 「というと、どの仕事のことですか」<br> 「例の実験とか言うのについてよ」<br> 「ああ…」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a498" name="a498"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:498"><font color= "#0000FF">498</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:29:31 ID:???</font></dt> <dt>佐藤はしばらく間を置いてから櫻井に視線を戻す<br> 表情が少し変化していることに気がついた櫻井に同行しているスタッフが、視線を櫻井のほうに戻すと、やはりそちらも表情が変わっている<br> もっとも、唐突に真面目な顔をするのは、いつものことだったが<br> 「国防長官がどう動くかは少し微妙なところですが、ロシアの件もありますし、協力してくれるとは思います。それに、この前の資金の件にしても、あらかじめ準備してたとしか思えませんしね」<br> ネクタイの位置を直しながら小さくため息をつくその顔には、わずかに疲れが見えた<br> 「国益云々を考えないで行動してくれれば一番いいんですが…まあ、無理でしょう」<br> 「もとからアメリカとロシアは非協力的だろうからといって対策を怠ってきたように記憶しているけど」<br> 「そうです。合衆国と連邦は降下地点からしても、半ば捨て駒になることで全権委員会は話を進めてましたからね。結構しぶとく生き残りそうですが、原形はとどめていられないんじゃないですかねぇ、これじゃ…」<br> 演技なのだが、そうと見えないそぶりで佐藤はひとつため息をついて見せた<br> 「全権委員会の先生方は、人類そのものの存続のためなら、どんなものでも犠牲にして見せるつもりのようですが、いつまで続きますかねぇ」<br> 「すでに米ロ両国の諜報戦は加速の一方。何人かのCIA工作員は強行策に出てスペツナズに処分されたって話ね」<br> いつもにましてニヤニヤとした表情をしてみせる櫻井は、ウォトカを一口含んでから話を続ける<br> 「国家間の対立は見られたくない事から目をそらせるために役立つ…その考えは間違っていないけど、もし彼らの侵攻が止まったりしたら――」<br> 気づけば、表情からは笑いが消えていた<br> 「――取り返しのつかないことになるわ」<br> 「まあ、そのあたりはいろいろと工面しますよ。」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a499" name="a499"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:499"><font color= "#0000FF">499</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:30:04 ID:???</font></dt> <dt>どうでもいいことを喋る様な声と同じく無表情だが、不思議と説得力のあるしゃべり方だった<br> 「ひとまず、私達の方は長期戦よりも、短期決戦を想定して動いてるんで。それに、勝っても地獄、負けても地獄なら後者のほうがいいとも思いますし…」<br> 「どういうこと?」<br> 「独り言です」<br> しばらく沈黙が続いたが、すぐに半白の頭の男が声を上げる<br> 「下に目的地が見えます」<br> 「おや、もうそんな時間ですか」<br> いつの間にか笑顔に戻っている佐藤を見て、半白の頭をした男は聞き取ることが不可能なほどの小ささで安堵のため息をつく<br> 窓の外を見ると、五角形をした目的地が伺えた<br> 「パイロット君、着くのなら教えてくださいよ」<br> 返事は無い<br> 「嫌われてるなぁ」<br> いやに嬉しそうな声なので、またパイロットの表情がゆがむ<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a500" name="a500"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:500"><font color= "#0000FF">500</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:31:03 ID:???</font></dt> <dt>「そういえば佐藤クン、あの娘になに渡してたの?」<br> 「本ですよ」<br> 「本?」<br> 「下らなくも素晴らしき日本文化ですよ」<br> 「あんまり変なもの読ませないほうが良いわよ」<br> 「私が始めて会った頃にはもうダメそうでしたからね。大統領補佐官の娘があんなことでいいのかとも思いますが…」<br> マナーモードにしておいた携帯電話の出す振動を感じて佐藤は会話を区切り、その携帯電話を耳元に持っていったのを見て、櫻井はイヤホンを耳につける<br> 「はい、佐藤です。ああ、フランスの……ええ、とりあえず外人部隊の人たちに…ええ、武装はこっちからファブリク・ナショナルのF2000を…はいはい……それじゃまた今度」<br> 携帯電話をいじる佐藤を見て、櫻井はまた愉快そうな顔をしながら質問する<br> 「スポーツ銃で何するの?」<br> 「6,8mmSPC弾仕様のSCAR-ミドルがまだ来ないんで、仕方なく横流しさせてもらったんですよ。P90あたりのほうが良いと思いますが、あれはグレネードが使えないんで」<br> 「ライトとヘヴィーなら在るじゃない、SR-25やHK416とも弾薬を共用できるし」<br> 「そうすると米軍特殊部隊と装備がかぶりますからちょっと面倒ですねぇ…あくまで我々の組織はイレギュラー(変則的)であり、人員はイリーガル(非合法員)なんで」<br> <br></dt> </dl> <p><a id="a501" name="a501"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:501"><font color= "#0000FF">501</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/05(金) 19:32:09 ID:???</font></dt> <dt>何を思っているのか、いやに優しそうな笑みを浮かべながら携帯電話をしまう<br> たいてい、初めてこれら国連機関の装備を聞くと、誰もが「新型ばかりだ」と口に出す<br> 事実、櫻井や自分の所持しているベレッタPx4“ストーム“や、佐藤たちの所持しているヘッケラー&コッホのP2000やP46は、どれも市場では珍しいものや、高価で新しいものばかり<br> 法執行機関向けの自動拳銃、弾数が多い、アーマーを貫通できる、軽量で小型――などといった性能を重視した結果なのだろう<br> それら厳選され、なおかつ高性能な銃器が官給品として国連関係の組織の人員に送られる<br> これらの銃は、一般で手に入りにくく各国の軍が正式採用していないために入手は困難であるが、逆を言えば装備によって他の部隊と区別がし易い<br> もっとも、カタログスペックの可能性は否定できないが…<br> 「…そろそろ着きますが」<br> 半白の頭をした男が警告する<br> 「はいはい」<br> もう長いこと不眠不休で動き回っているのにもかかわらず、軽快な動作で腰を上げ、スラックスのポケットに手を入れる<br> いつもと変わらない表情…だが、彼らが常に意識して表情を変えていることを考えれば、実際にどのようなことを考えているのかは表情では推し量れない<br> <br> 「今回はもう少し歩きやすいところにおろしてください。我々はスーツ姿なんで――」<br></dt> <dt>((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;492-501のログ。</dt> </dl> <hr> <dl> <dt><a href="menu:545"><font color="#0000FF">545</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:29:31 ID:???</dt> <dt>■第7号資料“EOLTの組織的行動、および戦術の急激な変化について”<br> <br> 「概要」<br>  9月19日9時39分の“マンハッタン事件”を機に、EOLTの組織的行動、および戦闘時に取られる戦術が急激に変化した<br> <br> これは部分的なものではなく、大々的に、かつ劇的な変化であり、その影響は計り知れないものである<br> <br> 「事件発生前」<br>  マンハッタン事件発生前の戦術は、基本的に防御力と攻撃力、そして圧倒的な物量に任せた力押しで、攻撃目標の選別以外に明確な戦術は存在しない<br> 攻撃目標は、“攻撃をかけてきた相手の所属部隊構成員すべて“であり、どのような方法・基準に則って、反撃対象を選別しているのかは不明だが、その精度は100%<br> ただ、構造体落下直後は、歩行の障害になる車両・歩行者の排除など、“個”への攻撃・反撃にとどまっていたので<br> おそらくは、軍・警察などの部隊が組織的にEOLTへの攻撃を行ったことにより、このような行動を行い、制裁を加えていたものだと思われる<br> <br> なお、この時点でEOLTが攻撃行動を行うのは、“攻撃してきた相手を殺傷する”事のみに限定されている<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a546" name="a546"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:546"><font color= "#0000FF">546</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:31:12 ID:???</font></dt> </dl> <p>「事件発生後」<br>  事件発生後のEOLTのもっとも大きな変化としてあげられるのが、全個体間でのデータリンクがほぼ完璧なものとったことである<br> これにより、効率的な部隊の配置・運用が可能となり、各科間の分担・連携も、より明確なものとなった<br> 特に、千里眼科の圧倒的な索敵・管制(おそらくは指揮も)能力は驚異的なものであり、千里(3900km)眼の名は決して誇張ではないことを証明した<br> 他にも、探査・追跡科の調査能力など、前線・後方から得られる圧倒的な量の情報を共有し、なおかつ処理できる能力を使い、それらを完璧に活用<br> もっとも少ない損害で、最大の被害を敵に与える戦術や、個のレベルでの戦法を決定するようになった<br> 特に、電脳科やリンクを使った電子戦の仕方を編み出し、それらは人類側にもないものである<br> また、ネットを通じ、様々な電子機器から抜き出した情報を元に、それらの効率化も行っている<br> <br> このときにはすでに“反撃”の延長線上として、“戦闘開始後はテリトリー内の武装した人間のすべてを排除”するようになる<br> <br> ・・・これらの変化は、EOLTがマンハッタン島占拠の際に、人類側の情報を入手し、それにあわせてのものだと思われる<br> この変化が顕著の現れたのは、マンハッタン事件後に行われた、EOLTと人類軍の二度目の戦闘であり、EOLTと人類軍のキルレートは推定で3~5倍に開いたとされる</p> <dl> <dd><a id="a547" name="a547"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:547"><font color= "#0000FF">547</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:32:06 ID:???</font></dt> </dl> <p>追記:<br> 戦闘の経過が一方的であり、時間的にも短かったため、詳細なデータは取れず</p> <dl> <dd><a id="a548" name="a548"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:548"><font color= "#0000FF">548</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:33:08 ID:???</font></dt> <dt>■第10号資料“EOLT体組織の二重構造について”<br> <br> 「概要」<br>  モスクワの研究機関にて、EOLTの死体を解剖した結果、きわめて興味深い事実がいくつか判明した<br> <br> 当初、珪素系の生物であるといわれていた彼らだが、構成物質には炭素や酸素なども多く含有しており<br> これらの為に、炭素系の生物(地球上の生物)に似た特徴がある、“珪素生物と炭素生物の中間的“なものだと思われた<br> しかし、実際は違い、EOLTの体組織は炭素系の部分と、純粋に珪素(有機珪素化合物を含む)と金属のみで構成され部分で独立し、二重構造を作っているとのことである<br> <br> 「純珪素系構成部分」<br>  純粋に珪素と金属を中心に構成され、地球上の生物とはまったく違った方法で生態活動を行うのが、この“純珪素構成部分”である<br> 基本的に深層部であり、皮膚では真皮の部分からこれに変わり、内臓等の体組織の重要器官はほぼすべてがこれに当たる<br> その主成分は珪素(有機珪素化合物を含む)と未知の金属元素から構成される合金、液体金属であり、前者二つが体組織のうち、個体のものを形作り、後者が体液等に相当している<br> 血管や神経系などの管には、金属や珪素樹脂のようなものが多用されている<br> その生物・科学的な耐久性は非常に高く、臓器の配置などはもちろんのこと、細胞(?)などは、分子レベルでの構造強化が施され<br> これらのことが、やはりEOLTは常識を逸するほどの高度な科学技術によって創造されたもので、自然発生するものではないことを裏付けている<br> また、未知の金属元素には放射性物質、それらが崩壊したことで精製されたものが含まれており、やはり自然界には存在しない物質が多い<br> さらに、合金に関していえば、調合率に個体差は一切なく、すべての残滓において一律だったことから、これらの固体は、すべて同一の存在によって製造された可能性が高い<br> <br>  これらの生態活動や、それを行う組織のメカニズムは非常に難解であり、おそらく、現代の技術・知識での解析は難しいだろうと思われる<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a549" name="a549"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:549"><font color= "#0000FF">549</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:34:01 ID:???</font></dt> <dt>「炭素系・珪素系混成部分」<br>  純珪素構成部分と違い、その構成成分に地球上の生物のそれに含まれる物質を多く含み、炭素系生物の特徴を併せ持つのが、この混成部位である<br> 純珪素構成部分が科学的・構造的完全性において、地球上で見られるありとあらゆる生物や機械を凌駕していたのに対し、混成部分は“比較的“軟弱な構造となっている<br> 表皮の第一層を始めとし、感覚器官の一部(嗅覚?)などの粘膜、伸縮を行う呼吸器官の一部組織(肺胞?)のような部位がこれらにあたる<br> 血管などの管にはカーホン・ナノチューブが多用されており、神経系には光ファイバーの応用が見られる<br> 過去にあった「EOLTに有効打を与えた」例のうち、小火器当を用いたものは、すべて部分へ攻撃を与えた事によるものだろうとされる<br> この部分は、初期に製造(?)された千里眼科等には確認できず、また、戦闘開始前のEOLTと開始後に修復・製造されたEOLTの外観(主に体色)を比較した結果からしても、後者にしか備わっていることが多い<br> つまり、他の惑星に比べ、格段に活動しやすい環境である地球での運用を前提とし、構造的に軟弱な混成部分を、体組織に組み込んだことが推測できる<br> また、これらの事が戦闘能力の低下を招くとしても、それらのリスクをカバーできるメリットがあることも推測できる<br> もしくは、一見しただけでは戦闘能力の低下ではあるが、実際は違うのかもしれない(戦術的な視点や、長期にわたる運用において、これらがどういう意味を見せるのかは、現在調査中)<br> <br>  しかし、生存した個体の捕虜が取れないことや、純珪素構成部分とまではいかないまでも、その構造や生態活動のメカニズムは難解であるため、未だその詳細は不明<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a550" name="a550"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:550"><font color= "#0000FF">550</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:35:25 ID:???</font></dt> <dt>追記:<br> 生態活動についての詳細は、更に綿密な解剖・解析を行った後に、EOLT解剖記録としてまとめられる事となっている<br> しかし、ロシア政府はEOLTの死体の独占を狙っていることもあり、国連に提出されるのは情報のみになるだろうとの見方が強い<br> <br> 各種情報・諜報機関の動向の変化に伴う情勢の推移に注意<br> <br></dt> <dd><a id="a551" name="a551"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:551"><font color= "#0000FF">551</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/10/30(火) 02:39:59 ID:???</font></dt> <dt>プロジェクターで投影された(前者は口頭でも)資料二種 <br> <br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;545-551のログ。</dt> <dd> <hr></dd> <dt><a href="menu:577"><font color="#0000FF">577</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:30:13 ID:???<br> ―――ええ…彼についてなら知っています<br> 初めにあったのが成田空港でしたね、親の仕事のおかげもあって、日本に行くことになって、そのときです<br> 外務省の人間だという話で、ちゃんと連れて行ってもらったこともありました<br> 仕事?仕事ですか…さあ、国際関係のことだといってました、ほかにも、国内でも結構忙しいとか<br> 役職は…えっと、たしか…執行官とか、そんな呼ばれ方をしてるのを聞きました<br> ええ…そうですね、つい最近です<br> ほんの二、三ヶ月前に聞いた以外は…ええ、それまでは聞いたことありませんでしたから<br> どういう関係かといわれても、ただ親の仕事が政治関係だからとか、そんなことを聞きましたけど…<br> でも、右翼だとかそういうのが何かしてきたことは…右翼だと聞かされました<br> え?…いえ、でもそういって聞かされたので…<br> はい、それ以来は時々、日本に行ったりとか、向こうが来ることがあるので、そのときに会ってます<br> ええ、銃はいつも持っていましたね、とくに前にあったときからは22口径と合わせて2丁持つようになってました<br> 撃つところですか?構えたところを見たことならありますけど、撃つところを見たのは…<br> …私も聞きたいですよ、彼がいったい何なのかなんて!<br> ただ…あまり真っ当な仕事をしてるようには感じませんでしたね<br> 雰囲気といい性格といい、普通にしてるときはそう思えないんですけど、時々変わるというか…<br> ええ、裏表のある人だとは…<br> 普段身に着けているものなんかは、全部官給品だと聞かされました、スーツとかサイフとか<br> え?…いえ、別に…ええ、会う機会もそれほど多くはないので<br> それはたしかに、向こうのお土産とかをいろいろ…でもそれだけです<br> ええ、ですから本当に何も知りませんよ、彼がいったい何をしたんですか!?―――<br> <br> ―――質問・尋問記録第224号 記録者:CIA ウィリー・ケンプ―――<br> <br></dt> <dd><a id="a578" name="a578"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:578"><font color= "#0000FF">578</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:32:08 ID:???</font></dt> <dt>・・・セーヌ川右岸パリ北部、マンモルトルの丘は、あいにくの曇り空のお陰で、いつもより少し暖かい<br> EUの中心メンバーであり、ロシア方面での来るべき戦いに備えた多国籍軍編成を行ううえでも重要なポストを占める、このフランスの首都では、これといった軍事色を見出すことは出来ない<br> ただ、宇宙からやって来た “来訪者”たちに関する捻じ曲げられた事実を、人の目を引くような内容に作り変えた記事が書かれた号外が目に付く程度である<br> 時間が時間なだけに、人通りも少なく、歩いている人もすぐに早足で視界から消える<br> そんな中、一人のスーツを着た女性が、葉のすべて散った木にもたれかかりながら携帯をパカパカと開け閉めしている<br> 「―――――――まったく、人使いが荒いなぁ…」<br> どこかわざとらしい口調と表情で苦情をもらす<br> 整った顔立ちで茶髪、女にしては若干長身で、痩せ型だが起伏はそれなりにある体つきで、服装はどこかで見たことのあるようなオーダーメイドのスーツ<br> 首元には“8920”と“U.N.”の刺繍が施されている<br> 「フランスの外人部隊はあくまでフランス政府の所有。それが今は傭兵紛いの使い捨て、か……あの人は何回言ったら聞いてくれるんだか」<br> 愚痴をもらしながら片手の中で弄んでいる携帯を再び本来の用途で使い始める<br> 「結構いい人なんだけど……えーと、番号はこれでいいんだっけ…?」<br> ちょうど斜め後ろにはアタッシュケースを持ったスーツ姿の男性が二人ほどたっているが、ぶつぶつと漏らしながら番号を入力する彼女に助言をしようとはしない<br> そして、徐々に大きくなってくるヘリのローター音に気がついて、顔を上げることもない<br> 「ああ、繋がった繋がった!―――――――センスのない曲だな…」<br> 不機嫌そうな顔をしながら棒立ちする彼女の批評は、ほとんどピークを迎えたヘリの爆音でかき消される<br> 軍用のそれではないが、花の都にはふさわしいとは言えないカラーリングをしたそれが、彼女らの目の前に降りてくる<br> SA330ピューマJ型―――――フランス近海に停泊中の、ある艦艇から離陸してきたものだった<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a579" name="a579"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:579"><font color= "#0000FF">579</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:33:45 ID:???</font></dt> <dt>「どうです。そっちの調子は!?」<br> ヘリのスライドドアから聞こえる叫び声に、その質問を受けた人間は携帯電話を後ろのスーツ姿の男のほうに投げながら返事をする<br> 「困ったわねぇ!宮殿の皆様方、そろって外出中のようで―――――!」<br> ヘリに歩み寄りながら肩をすくめて見せる<br> 「―――――でもまぁ、好きにしていいんじゃない?」<br> ヘリのローターの回転数が落ちてきたこともあって、大声を張り上げることもなく、冗談でも言うような口調で続ける<br> 「それにしても、わざわざフランスの英雄の名を冠する船に、民生用のヘリを乗っけるの?」<br> ドアのそばに座っている人間のことを気にも留めず、出入り口の両脇を手で叩いてアピールする<br> 「民生用のほうが格段に目立ちませんからねぇ!」<br> 「それじゃ、さっさと済ませてね」<br> 面倒くさそうに返事を済ませた後、ヘリに軽快な足取りで乗り込むと、横になって座席を占領してしまう<br> 「…なにをやってるんですか」<br> 「あれが落ちてきて、コッチに仕事が回ってきた後は不眠不休で走り回ってたんだから、仮眠のひとつでも取らせてもらうわ」<br> 腰のホルスターに収められているベレッタ社製拳銃のセフティーを付け直しながら、さもおかしそうに笑う<br> 「…それに、そっちも安心できるでしょ?」<br> 「そうですね」<br> いつの間にか手に握っていた、光のない黒色をしたフレームのP2000を胸の中に押し込み、<br> ため息混じりに他の乗客も銃をしまう―――セフティーを外したまま――――<br> 「あっ、じゃあそのケースだけで結構ですので、後はこちらが……」<br> アタッシュケースを受け取ると、すぐにスライドドアは閉められ、再びローターの回転数は上がっていく<br> スーツの男は小さくため息をつきながらアタッシュケースの中に入っているノートパソコンのディスプレイを無言で眺め続ける<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a580" name="a580"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:580"><font color= "#0000FF">580</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 18:35:13 ID:???</font></dt> <dt>映し出される画像と文章―――――赤いニューヨークの別名で呼ばれるようになった、かつての世界経済の中心<br> ほんの数日前までは、無傷な姿を何度も見ていたのに、まるで何年も前からこの状態だったように荒廃している様に思える<br> そして、事実上見殺しにされた市民の総数についての記録・考察が映し出されている<br> ついさっき、このデータと一緒にヘリに乗り込んできた女は、いつの間にか雑誌で顔を覆っている<br> 今までまったく動かなかったのだが、何を思ったのか、口元が緩む<br> 「…あは、あはははははは――――――!!」<br> 顔に雑誌をのせたまま、唐突に笑い声を上げる<br> ぎょっとする事もなく、どこか共感するところがあるかのようにほかの乗客たちも表情を沈める<br> 「はは…―――――ほんとに、馬鹿馬鹿しいわ…ね……」<br> その言葉は組織や国家の現状に向けられたものか、託された仕事に対してなのか、それとも、そんな仕事をしている自分自身へのものか、おそらく、自分でも分からないだろう<br> スーツ姿の男たちは、データの処理にかかるが、いつもに増して事務的な雰囲気を漂わせる<br> 無論、それは決して、犠牲になった何百万という人間への感情によるものなどではないが…<br> <br> 様々な思惑と策略を乗せ、ヘリが帰還すべく洋上へ機首を向ける<br> その頃には、すでにフランス外人部隊から抜擢された兵士たちが、その目的地に集められていた・・・<br> <br></dt> <dd><a id="a581" name="a581"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:581"><font color= "#0000FF">581</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/05(月) 19:01:14 ID:???</font></dt> <dt>■101号文章“国連機関へのフランス軍一部兵力提供について”<br> <br> 「概要」<br>  EOLT構造体落下に伴い、協定に従い、フランス政府は自国軍の一部を国連機関、または米ロ両軍の特務部隊へ提供することが決定した<br> <br> 「提供兵力」<br>  提供兵力に必要な条件は二つあり<br> ひとつは、錬度が高く、装備の面でも優秀であり、部隊としての完成度の高い歩兵を中心とした部隊であること<br> いまひとつは、消耗が多少激しくとも問題が無く、また、ある程度使い捨てが聞く舞台であること―――である<br> これらの条件に最も近いであろうとされた部隊に、フランス外人部隊(仏語L?gion ?trang?re, 英語French Foreign Legion)が抜擢された<br> これらの部隊は、GCPなどに代表される、活動内容が公表されていないものや、48時間以内に世界中のどこにでも展開可能な機動力を持ったものも多く、兵力として不足は無い<br> また、外国人によって編成されているため、死者が出てもその偽装はほかに比べて容易なものとなっている<br> <br> 「プロジェクト“8920”関連」<br>  おもな兵力提供先としてあげられるのが国連非合法・非正規・非人道的機関であるプロジェクト8920実働部隊である<br> 基本的に兵力として使用可能な人員をほとんど持たない国連特務機関には、国連加盟国からの軍事的支援が不可欠であり、フランスがこれに当てられることになる<br> <br> 大規模な部隊移動は危険かつ困難であり、人員は部隊から少数選出、その主な選出元は第2外人落下傘連隊と第2外人歩兵連隊<br> これらをアメリカ軍の欧州方面の特殊部隊と共に実働部隊として編制、作戦に投入した<br> <br> しかし、現在選出した部隊員の8割が死亡、または行方不明となっており、編成されたばかりの部隊は事実上消滅している<br> <br> 「その他提供先」<br>  現在検討中<br> <br> 追記:<br> フランス政府自体は“協定“を結ぶ時点ですでに重要なポストを持っていたため、非常に協力的ではあるが、マスメディアの動向に注意が必要<br> また、一部には消極・反抗的なものも多く、事実を知らない議会は混乱している<br> また、比較的野心的な行動も目立ち、独自の行動を行う準備も出来上がっているとのこと<br> <br> 現在調査中<br></dt> <dt><br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;577-581のレス。</dt> <dd> <hr></dd> <dt><a href="menu:599"><font color="#0000FF">599</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size="2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:22:26 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></dt> <dt>・・・あわただしい空気、首相補佐室内部では今起きている事態の把握と対処に追われる政治家達がいた<br> そのうちの一人が、何の罪も無いはずの受話器を怒鳴りつけている<br> 「私だ!―――いったい何が起きてる!?」<br> 品の良さそうな老紳士だが、赤ら顔で怒鳴っている姿を見るとそうも思えない<br> 〈分かりません、執行官と事務官が姿を消しました。応答のない領空侵犯機が海上に現れるのと同時に、市街地へ未確認の軍用ヘリが下りたとの情報が!!〉<br> 「確かに海上に向かったんだな!? ならいい、執行官の秘書を拘束しろ!!」<br> 〈しかし、規約に違反する行為は責任問題にっ!!〉<br> 「かまわん! 政府代表部の若造一人の首程度、いくらでも挿げ替えてやる、やらせろ!!」<br> 思いっきり受話器を叩き付けると、再び怒鳴り声を上げる<br> 「間違いない! やつら、ジャンヌ・ダルクを動かしおった!!」<br> 「ですが、そんな事をいったいなぜ?」<br> 嫌に落ち着いた声の部下に腹を立たせたのか、更に怒鳴り声を上げる<br> 「知らん! 大方、国連の連中の“仕事“にでも使うんだろう、このままでは政権転覆どころではすまん!!」<br> 「どうします? いまからSHOM(海軍水路海洋局)に連絡を付ければ阻止も可能かと」<br> 「無理だ! マンハッタン事件以降、海軍はまともに機能してすらいないし、軍港はやつらの監視下だ!」<br> 将校は充血した目を見開きながら叫ぶ―――不眠不休でここに缶詰にされ、すでに事故死した首相の“補佐“を続けている<br> 「だが、船の一隻も動かせないわけじゃあるまい!?」<br> 「馬鹿言うな、そんなもの沈められて無かったことにされるのが落ちだ、もうここはフランスの海じゃないし、軍の一部も連中に従ってる」<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a600" name="a600"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:600"><font color= "#0000FF">600</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:24:37 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>…マンハッタン事件の後、フランス国内の情勢は大きく変わった<br> 国連で定められた“来訪者達“への備えとしての規約、それに従おうとしないフランス政府の一部勢力の動きが、ここまで状況を悪化させた<br> 暴発する危険性が出ることを承知で、国連はフランス以外の安保理常任理事国の権限と力を使い、軍の自由を奪った<br> 外人部隊等の兵力を国連に提供することで話を進めていたこともあり、指揮系統が混乱しているのをいいことに、それらを政府からの情報と隔絶させた<br> すでに情報伝達網は壊滅しており、一度その距離が隔てられれば、正しい自己の立場は二度と掴めない<br> 国連は思いのほか統率の取れた組織であり、アメリカやロシアなどの大国の意思に関係なく、国際“連合“ではない、まったく別個の組織であるかのようにすら振舞っていた<br> いまだに混乱から立ち直れないフランスでは、その動きを防げなかった…<br> <br> <br></dt> <dd><a id="a601" name="a601"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:601"><font color= "#0000FF">601</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/11/17(土) 04:26:24 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>しかし、それでも抵抗を試みようとし、洋上のヘリ空母の動きを止めようと、彼らは動き回っている<br> 「とにかく、元老院の連中は宮殿を出たんだな!?」<br> 赤ら顔の老紳士は声を荒げたまま、部下に確認を取る<br> 「はい、すでに全員がこちらに向かっています。とにかく、首相の死と軍部の暴走…もとい、国連の干渉に対応するための会議を……」<br> 大規模な密談だな―――幾人かはそう心の中で思わずにはいられない<br> 国連の行動は建前上であれ加盟国の総意であり、それに反発し、最悪の場合は軍を動かそうというのは、傍から見ればこちらの方が悪だ<br> まして、国連はフランス軍の外人部隊だけを絡めとった後は、監視を残す以外は特に何もしようとはしていない、無視しておけば傷口は決して広がらないはずだ<br> だが、この中の誰も、そのことを口にしようとはしない<br> 「開く準備をしておけ! 国民には悟られるな!!」<br> 「あの、国連の監視は―――!?」<br> 「いまさら遅い! 何もかも筒抜けにきまっとるだろうが!」<br> 散々自国を愚弄された挙句、自らの職権すら失おうとしているこの男に、怒鳴り声以外を出すことは至難の技だろう<br> 「国防省との情報網の復旧に全力を注げ! それが終わったら、通信衛星や固定された施設に頼らない通信網の立ち上げだ―――!」<br> 椅子から立ち上がると、首相官邸へ向かうべく、数人の部下と共に嫌に大きな足音を立てながら歩いていく<br> 「…くそっ!」<br> いきなり罵声を上げたことに何人かが振り向く<br> <br> 「これは死んだ婆さんの呪いだ! でなければこんなに不幸が続くわけがない!」<br></dt> <dt>((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;599-601のログ。</dt> <dd><br> <hr></dd> </dl> <dl> <dt><a href="menu:626"><font color="#0000FF">626</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 04:58:51 ID:???</dt> <dt><―――しかし、佐藤君たちは何のためにここまで危険な動きを?<br> <br> 知らん、やつらが何を考えているかなんぞ見当も付かん!<br> <br> ですが、やつらに権限を与えたのは大統領でしょう!?―――><br> <br> ・・・イヤホンから聞こえてくる大統領たちの声は、どこか鬱陶しいものを振り払うような声だった<br> それを聞きながら、声の主がいる部屋の前をウロウロと歩き回る佐藤は嫌に嬉しそうだった<br> 「嫌われてますねぇ…」<br> 「失礼ですが……何がそんなに嬉しいのですか…?」<br> 若い国防総省職員の投げかけてきた質問に気がついき、歩くのをやめてイヤホンを胸ポケットにしまう<br> 「そりゃ嬉しいですよ。いくら最近とは言っても、こういう仕事のほうへ移ったのはまだ一年位前ですからね、いろいろばれてたら困ります」<br> 「ただ単純に向こうが右往左往するのが面白いのでは?」<br> 「相原君…」<br> 「むしろ右往左往しないで、分からないのならこっちの言うことを聞いてくれたほうが楽で楽しいんですがね」<br> そういっている割にはどこか嫌な笑みを浮かべている―――いつもそうだと言えなくもないが<br> 「じゃ、開けて下さい」<br> 「は…はい」<br> 何か聞いてはいけないことを聞いているような感を拭えない職員は、おずおずと扉をノックし、取っ手をつかむ<br> 開いた直後に佐藤は声を出そうとしたが、中にいる人間の反応のほうが早かった<br> 「来たようだな、佐藤」<br> 大統領は軽く鼻を鳴らしながら、明らかに怒りを感じさせる表情で皮肉っぽくしゃべってみせる<br> アメリカ合衆国の首脳たちを前にしながら、ポケットに入れた手を出そうとしない佐藤に対して、この不快そうな対応は当然だろう<br> もっとも、対応される本人はいたって涼しい顔をしてはいるが…<br> 「ええ、着ました。呼ばれたので」<br> 「呼んだのではなく、君のほうから着たんだろう?」<br> 「さっきの電話では私を呼ぼうとしてたんでしょうが」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a627" name="a627"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:627"><font color= "#0000FF">627</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 04:59:34 ID:???</font></dt> <dt>つまらない問答をしている間に、相原ほか一名がプロジェクターをいじり始めている<br> 「…とりあえず、本題に移ろうじゃないかMr.佐藤」<br> 副大統領の言葉に続いて、何かまた言おうとした大統領に対して佐藤が先手を打つ<br> 「どうせ核攻撃についてでも考えていたのでしょうが、まあ取りあえず落ち着いてください」<br> また大統領は何か言いたいことをこらえるような表情を見せ、腕組みをしながら国防長官に説明を促す<br> それに気がついたブラックスーツ姿のゲイツ国防長官は、ため息混じりに立ち上がる<br> 「すまないが、そのプロジェクターのスイッチを入れてくれるか」<br> 合図の一つでも出せばいいようなものだが、壁際の将校に対して、あえて口で伝える<br> 相原のいじっているそれと、もう一つ別においてあったプロジェクターが動き出し、スクリーンに画像が投影される<br> 棘を取り払っただけの、拉げた海栗の様な風体の物体…落ちてきてはならなかったモノ、俗に“構造体”といわれ、いまだに正式名称の与えられていない、全ての元凶<br> 「君らに言う必要もないが、ニューヨーク・クイーンズ区のすぐ隣、ロングアイランド島西部に落下した“訪問者達”の巣だ」<br> 言い終わるより若干早く、構造体の基礎データが映し出されていく<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a628" name="a628"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:628"><font color= "#0000FF">628</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:09:16 ID:???</font></dt> <dt> 「知ってのとおり、静止衛星軌道上からの落下速度と減速の仕方。地上で観測された衝撃などから、これが相当な質量を持ち、ほぼ均一構造の物体であることを証明している<br>  そして、能動的な減速加速が可能で、それ自体が船として地球へ航行してきたことも、だ」<br> いったん言葉を区切り、反応を見る<br> 「そう、そこが重要ね。重力の干渉やなんかを予測して打ち上げられた物ではなくて、自分で軌道を帰ることが可能」<br> 「そうだ―――あの小惑星規模の代物を、いったん静止衛星軌道上で止め、落下の衝撃で構造体が壊れないように、恐ろしくゆっくりと降ろしてきた<br>  ……しかも、人工衛星が衝突するまで、その位置が判明しないほどの高いステレス性<br>  つまり、それだけのことを可能にする技術があの中には詰め込まれていて、少なくとも人類のそれでは到底かなわないような科学技術の塊である…ということだ」<br> 櫻井が肩をすくめた後、壁に寄りかかりながらしゃべりだす<br> 「分からないわねェ…どうしてそこまでして自分のものでないものを欲しがるのかしら」<br> 「ロシアも同じことを考えていますよ」<br> ピクッと幾人かの眉が動いたのを見て、佐藤微笑する<br> 「聞いたでしょう、空挺軍の部隊と駐屯地が大規模移転を行っていることは」<br> いつの間にか缶コーヒーを手にしている佐藤がメガネで光を反射しながら顔を上げる<br> あまり深い意味を持たせているようには見えなかったが、聞いている相手の表情には、わずかに焦燥感が見て取れた<br> 「そうだ、だからこそ我々はあの中身が欲しい」<br> 目には微塵の狂気も感じられず、かといって冷酷そうな無表情かと言えばそうでもない<br> “母“国を憂慮する軍人の感情と、“自“国の国益を何よりも優先しようとする政治家の汚れた一面に板ばさみにされたような、どこか複雑な表情をしていた<br> そう思えるだけかもしれないが、佐藤たちにはそうであることを確信することが出来るほど、彼らと関わってきた<br> 「だが、もちろん人類がこの戦いに“生き残れるなら”と仮定してのことだ、詰まらん欲を出して勝機を逃すのだけは避けたい」<br>  あえて“勝てるのなら”と言わなかったのは、EOLTの技術を使ってか、内部に侵入するかして、直接EOLTと交渉をすることをチラつかせていた<br> それに気がついたのか、佐藤が無表情に口元をゆがめ、櫻井が「クスクス」と押し殺した笑い声を上げる<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a629" name="a629"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:629"><font color= "#0000FF">629</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:10:35 ID:???</font></dt> <dt>「それで、どう考えてるの?」<br> まだ可笑しくてしょうがないらしい声と表情だが、長官はそれについて触れようとしない<br> 「我々は核攻撃で“あれ”を破壊、ないしその機能を奪えると考えている。こちらの専門家の話では、わが軍の保有する核弾頭すべてをぶつければ“あれ”の表層部分の大半を燃焼させられるらしい<br>  生物ならば表皮の全てが焼かれれば生態活動を停止するだろう、少なくとも、あれの主要な機能を奪えるはずだ<br>  それに、周辺のEOLTも巻き添えに出来るし、内部への攻撃も容易になる」<br> 「ちょっと無理があるわ。そもそも、なぜ何を根拠に表層部が全て破壊できると確信できるの?<br>  大気圏突入できるほどの物質で構成され、密度が均一である事から分かるように、おそらく構成物質のほぼすべてがそれよ<br>  そんな代物を核で破壊するには、中心の火球で直接蒸発させる以外、有効打は与えられないわ。表面を蒸発させるとしても核弾頭の数が足りない、一部を削るだけね<br>  おまけに、挙句その行為は私たちの最終目標でもある“和平“への道を閉ざすことになるわ」<br> 「中枢部が生きていればEOLTに指揮は出せるでしょうし、地下部などへはほとんど被害を与えられないはずです<br>  第一に、核で9割以上のEOLTを殲滅できたとしても、残りの1割がいるだけで、現在北米にある戦力での攻略は困難です<br>  そもそも、それだけの核をあれに向けて発射し、しかもまんべんなく表面を蒸発させるようにする事は、あの事件後、非常に困難になってます」<br> すぐに採点されはするが、ある程度予想していたかのような様子で話を続ける<br> スクリーンには米軍がいつでも使えるよう、“あらかじめ“配備していた核を搭載した弾道ミサイルの配備状況が示された<br> 「そうだろう……しかし、彼らがとっている行動はあくまでその時その時に人類側の動きに対応しているのが限界だ<br>  戦力や戦術的にはEOLTが圧倒的に優位だとしても、戦略的な優位性はまだ人類側にある。政界・制空権もいまだ確保できている<br>  何も泥にまみれ、血を流し合う戦いを続けなくとも、戦略的にEOLTの力を無力化し、少なくとも向こうから攻勢が行えないような状況を作り上げることは、可能ではないのか?<br>  たとえば、核弾頭を周囲に配備し、戦力を拮抗させ、その間にわれわれは“身支度“を整える」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a630" name="a630"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:630"><font color= "#0000FF">630</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:11:25 ID:???</font></dt> <dt>長官の話す身支度とは何かについては触れずに、缶コーヒーを飲む佐藤と、壁に寄りかかったままの櫻井の反応を見る<br> やはり何かを言いたげに櫻井がその言葉を頭の中で反芻している<br> 「そう考えるのなら、常に主導権を握り続けるように努力すべきでしょう」<br> 「躊躇するなとでも?」<br> 「あなたはEOLTが常に相手の行動に合わせてしか、人類と言う名の害獣による被害に対応できないことを好機だと考える。それはそれで結構です<br>  ただ、相手がこちらの行動を読んで、こちらが行動を起こすと確信して事前対処を行うことも在り得る<br>  …それに、EOLTがなぜこんなことをしてくるのかをよく考えて行動したほうが良いかと―――」<br> ついさっきまで何の変化もなかったが、途端に、目に冷たさを感じるような無表情変わる<br> どこか失望にも似た思いを見て取れるが、それが何のオブラートにも包んでいないものと言うことはないだろう<br> そもそも、失望したことで悲しんでいるのか喜んでいるのか、彼の性格や立場からして、前者と言うことはないだろう<br> 「EOLTは確かに二番手に甘んじているんですが、正直、あれは分かっててやってるんだと思いますがね」<br> 「なぜ?」<br> 副大統領が一言だけ返す<br> 「我々が何か行動するために、同じような行動をとる…まあ、反撃を仕掛けてきています」<br> 「つまり?」<br> 「“お前らが攻撃を仕掛けるともっとすごい反撃を食らわせるぞ”といってきている可能性があります。つまり、ある種の抑止力としてその行動を取っているのではないかと」<br> 「だから?」<br> 「攻撃を仕掛けるのは、少し不味い要素があると…」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a631" name="a631"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:631"><font color= "#0000FF">631</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:11:56 ID:???</font></dt> <dt>話を切り、ネクタイの位置を少し調整する<br> 大統領以下、複数名は、今まで嗾けるばかりだった佐藤の言動の変化に、少し驚いたような反応をする<br> 「―――まあ、我々としても、あれの中に入ってみたいと言う思いが無い訳ではないので、それでも構いませんが<br>  ロシア政府は制圧・破壊よりも調査を最優先しています。それでロシアが潰れるかも知れないので、“こっち”のほうには、出来れば制圧・破壊のほうを優先したプランを立てて欲しいですね」<br> その思惑は明白だったが、大統領があえて口に出す<br> 「なんだね、要するにロシアが失敗してもアメリカだけ残るように―――ということか?」<br> 「逆に、ロシアが成功した場合は、アメリカが失敗し、今後どういった手段をとるべきかの実験台にする…か」<br> 構造体突入部隊の指揮官候補でもあるコンウェイ海兵隊大将が口を開く<br> 実験台に自分たちが使われる―――ということを、自らは口にした割には、無感動な表情のまま、資料が飛ばないよう重石代わりに使っているコーヒーカップを手に取る<br> 「ちょっと待てくれ、それだと、合衆国はもちろん、ロシアも同じように“反撃”を受けるだろう!」<br> 海軍作戦部長のフラヘッド大将が、黒い皮膚のおかげでより目立って見える太い唇声を動かしながら、声を大きくして叫ぶ<br> それを見た統合参謀本部議長のミューレン海軍大将がゲイツ国防長官の耳に何かを囁き、さらにゲイツ長官が資料片手に大統領へと伝える<br> どうやら、フラヘッド大将をしゃべらせたのは、どこか険しい顔をしながらネクタイを緩めている議長その人らしい<br> 「無論です。だとしても、この攻撃なくして事態は改善に向かわないと考えているのでしょう?<br>  私も同じです…そのためには多少なり犠牲は払わなければならないであろうことも、先生方と考えは同じです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a632" name="a632"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:632"><font color= "#0000FF">632</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:12:45 ID:???</font></dt> <dt>「では、何が起こるとMr.佐藤は考える?」<br> あえてミスター付けで呼ぶことで、本当に分からないのだと言う意思表示をしてみせる<br> もっとも、何も知らない人間から見れば、その白々しさといい、ただの挑発にしか見えないだろうが―――実際、その発言に不快そうな表情をして見せた人間もいた<br> 「こちらの動きに合わせて…というのは、彼らが落ちてくる時からそうでしたが<br>  そのうち戦闘に関することでEOLTが取った対応は二つ、一つはこちらと同じく、相手の情報を手に入れ戦術を変化、いま一つは新種の導入です」<br> パッと何かが光ったかと思うと、スクリーンにはEOLTの写真とその解説が写されていた<br> EOLT追跡科第2号亜種と記されているそれは、人の血で赤く染まった6本の脚を使い、摩天楼に張り付いているところを撮られたらしい<br> 大方、撤退が完了した時点で、追跡を続けてきていたので写真に収めたのだろうが、追跡を受けていたということは、おそらく後続に撮影者たちは殺害されたはずだ<br> 「こちらが敵対行為を示す前は探査機の類、こちらと戦闘が起きてからは自衛用個体…攻撃を加えたものに反撃し、抑止するという戦術に適した種です<br>  ただ、これは偶発的な戦闘の場合で、もし、こちらが自発的に攻撃を行えば、自衛ではなく、自分たちの方からも攻撃が可能な種を導入してくる可能性は十分あります」<br> 「ふん、ジャパニーズ・カタナでも持ち出してくるか?」<br> 野次が飛ぶ、だがそれは、佐藤はおろか一部の会議出席者にも滑稽にしか映っていない様子だった<br> 「…まあ、それもあながち間違ってはいないと思いますね」<br> 「―――!?」<br> 軍関係者の列に座っている人間が、少し戸惑ったような驚き方をしてみせる<br> 「殴る蹴るしかできないEOLTが、刃物を手にするだろうというのは、あながち間違った発想でもないといっているんです」<br> …たしかに、EOLTは己の肉体による攻撃以外行わず、しかも、その腕や触手は、攻撃に特化したものではなかった―――もっとも、人を引き裂くには十分すぎるが<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a633" name="a633"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:633"><font color= "#0000FF">633</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:15:13 ID:???</font></dt> <dt>「現に、触手の端にギザギザが付いたナイフ程度のものはありましたし…まあ、一番可能性が高いのは“口“でしょうが」<br> 「“口“―――というと、われわれの事を捕食する…というのか?」<br> 副大統領は、あまり武器というものに結びつきそうにない名前を出されたものの、一応それらしい考えにいたったので、声に出した<br> 「というより、噛み千切るためのものです。口というよりは、鋏に近いですかね…そういうものは、生物が持つもっとも基本的で、もっとも強力な“武器“ですから」<br> 言葉の途中で、スクリーンにEOLTの筋力に関するデータが表示される<br> 「彼らの筋力は、断面積1平方cmあたり、約数百kgという、異常な数値を示しています。右ストレートは10cmの均一圧延装甲にも穴を開け、指で引っかけば人間の体は容易に裂かれます<br>  触手にいたっては、音速を超えるスピードで振り回せるせいで、“発砲音”が聞こえる始末です……しかも、組織はダイアモンドより硬い合金製―――」<br> 一口缶コーヒーを啜り、スクリーンに投影される―――自分にも投影されているが―――画像が切り替わったのを見計らって、話を再開する<br> 「―――ソフトスキンはもちろん、強力な種になれば、MBTの正面装甲を含め、破壊・貫通不可能な目標は存在しません、攻撃の機関は一切ないのに、攻撃力は最高レベルです<br>  つまり、人類が攻勢に出れば、これをさらに戦闘に特化させたEOLTが出現し、それはEOLTによる攻勢が始まることを意味している可能性があるわけです」<br> メガネがプロジェクターからの光を反射し、不気味に光っている<br> 少しうつむき加減に淡々と、しかし脈動感のある声で頭の中の文章を読み上げる佐藤は、缶コーヒーを一口飲んでから、最後に一つ付け加える<br> 「ですが、そのリスクを犯してでも、一度攻撃をかける必要がある……そして、チャンスは構造体―――いえ、国当たり一回だけです<br>  そのチャンスを有効に活用するためにも、皆さんには色々として貰わなければならないんです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a634" name="a634"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:634"><font color= "#0000FF">634</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:17:12 ID:???</font></dt> <dt>その言葉を聴いて、ほぼ全員がひとつの考えに至った<br> 「事前に情報を可能な限り収集し、どちらが本当の正解かを決めるわけにはいかないのか?」<br> 脱線を始めた問答をもとの方向に戻そうとする、会議出席者を代表したミューレン海軍大将の強い声と、にらみつけるような上目遣い―――鋭く目が光っている<br> それを見ても佐藤は顔色一つ変えず、少し微笑みながら、淡々と話し出す<br> 「時間は無いんですよ。私は少なくとも、そう考えています」<br> 「なぜ?」<br> 今度はコンウェイ大将が一言だけ返した<br> 「確かに時間があるとの見方も出来ますが、今あなた方が言ったように戦略的云々の問題があります。このまま放っておけば、何が起こるかわからない」<br> 「―――ん?」<br> 「そもそも、戦略的に有利であるというのは地球上での事でしょう?…いや、というより、地球上でもある意味、戦略的に敗北しているかもしれない」<br> コーヒーの缶の始末に困った挙句、相原に手渡して話を続ける<br> 「皆さんも気づいているでしょう……違うんですか?」<br> 答えは帰ってこない<br> 「…知っているでしょうが、EOLTは地球に人類の存在があるときが付いたから、その軌道を大幅に変更し、地球に落着した」<br> わざとらしく、ひとつ間を置いて話を再開する<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a635" name="a635"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:635"><font color= "#0000FF">635</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:17:46 ID:???</font></dt> <dt>「エッジワース・カイパーベルトで確認された際、計算された軌道では木星の引力に引かれるか、太陽に落ちるだろうと思われていました―――が<br>  木星軌道に差し掛かった時点で、その引力を逆に利用して軌道を変更、当初の軌道は火星と地球、そして“金星”と”水星”<br>  そして、こちらがその事実を隠蔽し、あくまで突然姿を消したなぞの小惑星としながら、これらが知的生命体の乗り物だとして、対策を考え始めた頃に火星です<br>  そして、月に前哨基地としてもう一つ構造体を投下……あの大きさも密度も、他の惑星と比較にならない、採掘基地としての価値の無いはずの月に<br>  ―――まあ、要するに、地球に我々人類がいると知って目的地を変更、火星から観測を行い、いきなり降りるのは気がついたとかそんな所でしょう<br>  現に一部天文台や衛星を使って観測したデータでは、月面のEOLTはずっと地球を“見つめて”います。構成はほとんどが千里眼科<br>  で、それから一定期間地球を観察……おそらく、衛星通信その他の情報も盗み見していたでしょう、その上で地球に下りてきた。念を利かせて二つ一緒で<br>  つまり、金星・水星をあきらめ、月と地球にそれをつぎ込んだのは、勝てると踏んでのことだろうというです<br>  すでに所持している情報はもちろん、彼らの情報網や組織の規模は太陽系規模」<br> さすがにここまで来ると、出席者の表情もこわばり始める<br> 大統領は何か言いたいことをこらえるような顔をし、副大統領は憂いのある表情で片手の上でコーヒーカップを回し続けている<br> ゲイツ長官は、どうも確信の持てていない情報や推測を認めるべきなのかもしれないという疑問から、顔に戸惑いの表情が見え隠れする<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a636" name="a636"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:636"><font color= "#0000FF">636</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:18:20 ID:???</font></dt> <dt>「戦略レベルで勝利しているというのは、地球上でのことであって、長期的な目線…もっと距離を離してみれば、我々は負けています」<br> 大統領が机を叩きつけ、怒り心頭といった様子で立ち上がり、怒鳴り声を上げる<br> 「ふざけているのか佐藤!!そんなことは分かりきっている!我々にとって重要なのは――――!!」<br> 「大統領!」<br> ゲイツ長官が声を張り上げ、手の動きを止めた副大統領は回していたコーヒーカップを床に取り落とす<br> 床を転がってくるカップを将校の一人が拾い上げたのを見て、佐藤は軽く微笑んで話を続ける<br> 「要するにです…ね―――協力してほしいんですよ、そのいずれ失われるであろう優位性を、もっとも良いタイミングで失えるように…」<br> わずかな狂気も見て取れない、間違いなく平常な精神状態で、事務的な話をしている<br> それなのになぜだろうか、それを見たものには、その笑みに何か嫌なものを感じずに入られなかった<br> 「生物化学兵器の使用の事実の隠蔽をしたいというのも、核を使いたがる理由のひとつでしょう?」<br> いきなり話題を別な方向へと変える<br> その問い方は、詰め寄るといった様子ではないが、真剣な表情でゲイツ長官は口を開く<br> 「そんな事実は無い」<br> 「嘘ですね…」<br> ポケットに手を入れたまま、体を長官に向けることなく、次の缶コーヒーを開けつつ口を開く<br> 「“ロケーション“の確保―――もとい奪還の際に確認しました<br>  こちらの部隊と職員が、先走った連中の騒ぎに巻き込まれて壊滅したんですが、その際、不自然な死に方をした人間が多数確認されたので、少し前に確認しまして<br>  そのときに気がついたんですが…さすがに、あそこまであからさまにばら撒いていたとは思いませんでした」<br> 大統領の表情が変わる<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a637" name="a637"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:637"><font color= "#0000FF">637</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 05:20:36 ID:???</font></dt> <dt>「やはり、あれは貴様らだったか!!」<br> ニヤッと笑顔を作ってみせる佐藤は踵を返してドアの方へと歩いていく<br> 「佐藤!待たんか!!」<br> 呼び止める声を無視し、ドアへ向かってまっすぐと歩いていく佐藤<br> しかし、ドアノブに手をかける頃になって急に足が止まり、しばらく静止した後、名が机に座る首脳たちのほうを振り返る<br> 「あ―――…一つ聞いておきたいんですが」<br> めがねが光を反射していて、表情がいまいちハッキリしない<br> 「今手元に無いヘリは、すべて“撃墜されたもの”ですかね? 破棄ではなく」<br> 少し戸惑った後、ゲイツ国防長官がグレン陸軍長官に対し、説明を求める<br> 「さ、さあ…車両は多数破棄されたが、ヘリはそう簡単に捨てられるものでもないし、ヘリを離陸させる暇も無いほどというわけでもなかった<br>  間違いなくとはいえないが、十中八九、今回失ったヘリは使用不能なだけの損傷を受けたものだけだろう」<br> 「そうですか…」<br> 使う必要がなくなった機器を相原が表情ひとつ変えずに片付けている音も止み、一瞬室内が静まり返る<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a638" name="a638"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:638"><font color= "#0000FF">638</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:40:13 ID:???</font></dt> <dt>ため息が一つ聞こえ、しばらく声を低くして何か相談した後、会議出席者の一人が声を上げる<br> 「合衆国の栄光なんぞ、合衆国首脳陣と国連の同意が有れば、一瞬にして過去のものにしてしまえるわけだ」<br> 声を上げたのは、急遽、任地コマラポ(エルサルバドルの都市)より本国に呼び戻されたことで、髪形を整える暇も無くやってきたアメリカ南方軍司令官のステヴリヂス海軍大将だった<br> 髪をかき回した後、カップに残っていたミルク入りの紅茶を一気に流し込み、話を続ける<br> 「大統領閣下はどう思われますか?」<br> そこまで真剣な表情でもなく、多少なり冗談の成分を含んでいることを悟った大統領は、それを軽く受け流す<br> 「もう過去のものだ…!……ジョーンズ海兵隊大将」<br> 「はい」<br> 返事をするのは、欧州軍司令官のジョーンズ海兵隊大将だった<br> 国連で“規約“を結ぶことに関係した5大国のうち、フランスとイギリスの二ヶ国があるこの地域を管轄する彼は、ある程度、自らの政治的判断に基づく裁量権が認められていた<br> そのため、しばらく前にこの会議の席に呼ばれていた<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a639" name="a639"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:639"><font color= "#0000FF">639</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:40:52 ID:???</font></dt> <dt>「どうだ、フランスでの連中の動きは?」<br> 「今から一時間ほど前、ジャンヌ・ダルクが動きました…間違いなくあの男、Martin(マルタン)です」<br> マルタン―――フランスで最も多い苗字で呼ばれた人間の話を聞いて、あの佐藤と同じ印象を受けた男のことを思い出す<br> 「…どう思う?」<br> 「どうも思いません。彼らがフランス外人部隊と船を一隻、接収しただけのことです」<br> 多少深刻そうな表情をするが、どこかその答え方は投げやりに見える<br> 「―――となると、連中は“また“実働部隊を仕入れたわけか」<br> そういって顔を曇らせているブラウン陸軍大将も、特殊作戦軍総司令官であることから、一部人員を機関に提供した人間の一人だった<br> 「ものは相談ですが……欧州方面にある我々合衆国の部隊に、使えるデルタが残っています…」<br> 「…動かすのか?」<br> 唐突に口を開いたゲイツ長官の方を振り向き、不審そうに尋ねる副大統領にブラウン陸軍大将は体を少し前のめりにしながら答える<br> 「どうせフランス政府は国連機関の連中を抑えるかして、情報を手に入れるつもりだろう<br>  …便乗して情報を入手しても奴らのせいにできるし、その気になれば恩も売れる」<br> 「仮に不祥事を起こしても、フランス政府に情報と証拠を売ればいい…か―――どうします、大統領?」<br> 「好きにしろ、一泡吹かせてやれるならそれで良し、情報を得られるならそれも良しだ」<br> 「では……」<br> 副大統領は言葉を切り、二人の償還の方に向き直る<br> 「委細は君たちに任せる。話がつき次第動け…報告は後で良い」<br> 「「わかりました」」<br> 二人の顔には自信よりも、これから得られるものに対する強い期待感を見て取れる<br> <br> 時の流れの加速を感じた政治家と軍人たちは、その後も、仲間内にすら聞かれぬよう、小さく話を続けていた―――<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a640" name="a640"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:640"><font color= "#0000FF">640</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:42:13 ID:???</font></dt> <dt>―――一方の佐藤たちは、やはり会議室の外で盗聴活動を続けている<br> 「…ソーコム(Special Operations COMmand SOCOM)が動きますかね」<br> 「特殊作戦軍が? フランスの連中のことだから、イギリスのSir.の付くジジイ共が動くかと思ったけど…」<br> 桜井は少し意外そうな顔をしている<br> 「それはどちらかというと私の管轄ですね。向こうの特務は急死しましたから」<br> イヤホンをはずし、胸ポケットにしまうと同時に、腕をスラックスのポケットに戻す<br> 「私はこの後は実験の準備といい、ロシアでの“東(ボストーク)”計画といい、色々と忙しいんですが―――そっちは?」<br> 「私はアメリカのほうを担当してるから、イギリスで一仕事したら海兵隊と一緒ね。あなたは空挺軍とくっ付くんでしょ?」<br> 「まあ、私一人じゃありませんが…ウスリースクを見てきたら、後はヤクーツクですかね、被験者は集めましたから」<br> 思い出しながら一つ一つ喋っていく様は、どこか頼りない<br> 「にしても、面倒な仕事ねェ…」<br> ため息をついて、白衣のポケットに手を入れる<br> 「それじゃぁね―――佐藤クン」<br> 「はいはい、それではまた…」<br> いやに高い足音を立てながら、櫻井は歩き去っていく<br> 佐藤はなぜか嬉しそうに笑いながらそれとは反対方向に歩き出す<br> 数歩歩くと、今まで誰も隣にいなかったはずなのに、スーツ姿の人間が何人か隣を歩いている<br> 「ご苦労様です」<br> 内の一人が低いが、響きのある声で佐藤に声を掛けた<br> 「いえいえ、そんな事より、どうですか?」<br> 「あなたの言うとおり、セレラ社にサンプルを渡す方向で話を進めています……時間は無い、出来るだけ早くことを終わらせる様に…と、聞きましたので」<br> 「あらら、また櫻井君か」<br> 「いえ…チャーリーからです」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a641" name="a641"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:641"><font color= "#0000FF">641</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:43:16 ID:???</font></dt> <dt>さっきまで、どこか気楽な雰囲気を漂わせていた佐藤の目が変わっている<br> 「繋げますか?」<br> 「ええ、今回の機会を逃せば、いつになるか分かりません」<br> 佐藤と同じく、メガネにスーツというスタイルの男が、訛りの無い日本語で佐藤の質問に答える<br> それと同時に、ひとつの携帯が手渡される<br> 「もしもし?」<br> 携帯を開くと同時に口を開く…その顔はどこか嬉しそうだった<br> <佐藤さんですか、おひさしぶりです><br> これも訛りのまったくない日本語だった<br> 「ありゃ、やっぱり生の声ですか…流石に神の耳ですね」<br> <馬鹿にしないでください―――神の耳“エシュロン”はもう死にました……で、本題ですが、なぜ時間がないと?><br> 「時間はありますが、のんびりとしているのはだめだと思いますね」<br> 佐藤の表情の変化に、少し送れて気が付いた相原が不審そうな目をする<br> <…なぜ、そう思います?><br> 「…言う必要はないかと」<br> 相原が無表情に警告する<br> 「相原君!」<br> 「私は“神に飼いならされた人間”はもちろん、“人間に飼いならされた神”や、“その神に飼いならされた人間”も作る気はありません」<br> 後ろで聞こえる会話を無視して話を続ける佐藤は、虚空を睨み付けるかの様な表情をしている<br> <……あなたがそう思うのならそれでもかまいません><br> 「それじゃあ、私の監視を頼みますよ」<br> <ええ、安心して監視されてください…またいつか><br> 携帯を切ると同時に、軽く笑って見せる<br> 「もう、よろしいので?」<br> 「よろしいも何も、向こうが切ったんですが…」<br> 「はぁ……」<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a642" name="a642"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:642"><font color= "#0000FF">642</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:45:20 ID:???</font></dt> <dt>携帯を返し、ついでに飲みきったコーヒーの缶を渡して帰らせ、ポケットに手を入れなおし、軽く胸を張るようにしながらあたりを見回す<br> 半白の男がそれに気がついて振り向くと、一人、30代ほどの、比較的若い海軍将校が立っていた…どうやら、彼を探していたらしい<br> 佐藤が歩き出し、そのすぐ横に海軍将校がつく<br> 階級章は少将のものを付けており、勲章その他はいっさい付けていない<br> 「Mr.佐藤、例の実験を始めるのならいまだ、ハリー・S・トールマンは構造体から100kmと離れていない」<br> 唐突に話題を切り出し、目線一つ動かさずに、よく響く声で佐藤にその内容を伝える<br> 「米海軍は未だに海中のEOLT群を補足していませんし、なにより、これからも活躍してもらう必要のある、貴重な空母を危機にさらすのはさすがに気が引けますねぇ…」<br> 「現在、タイコンテロガ級4隻がトールマンに同伴している。うちの3隻を索敵にまわせないか検討中だ」<br> 「…海軍大将殿の支持は?」<br> 少しも疑っているという顔ではないが、一応といった感じで問いただす<br> <br> <br></dt> </dl> <p><a id="a643" name="a643"></a></p> <dl> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:643"><font color= "#0000FF">643</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a></strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font>投稿日:2007/11/25(日) 17:46:33 ID:???</font></dt> <dt>それに若干不満を感じたのか、将校は表情を硬化させる<br> 「いくら君たちの支持者だと入っても、私は軍人だ、上層部の支持なくしては動かん」<br> 「…で、配備はいつになりますか?」<br> 後半部分の発言に関するコメントが皆無ではあったが、相手もそれを望んではいないようで、すぐ回答を出す<br> 「公にはならないだろうが、おそらく、27日の暮れには配備が終わるはずだ」<br> 「案外早いですね…バージニア級の配備が失敗したのは痛かったですが、思いのほかうまくいきそうだ」<br> 「それと、例のMigの手配もすんだ、核弾頭は昔中東で手に入れたものが二発…」<br> 「これもまた早いですねぇ―――」<br> 嬉しそうに笑ってみせる<br> 佐藤のこの表情のせいもあって、話の内容の割には、あまりそういった重さは感じられない<br> 「まあ、後は頼みました」<br> 「…言っておくが、我々は最大限の協力はするつもりだ―――軍の上層部では意見の不一致が見られ、政治的に不安定だが、だからこそ非合法なバックアップもできる」<br> 「いつも似たようなことはしてるでしょうが…では、また近いうちに」<br> 「……」<br> 佐藤は進路を変え、左手の会談を降り、少将の階級を持つ男は、しばらく立ち尽くした後、トランシーバーに向かって何かをしゃべりながら、そのまま進んでいった<br> 前者は嫌な笑みを浮かべ、もう一人のほうは未だ表情を硬化さ、目には闘志にも似たものが感じられた・・・<br></dt> <dt><br> <br> ((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;626-643のログ。</dt> </dl> <hr style="width: 588px" size="2"> <dl> <dt><a href="menu:689"><font color="#0000FF">689</font></a>名前:<strong><a href= "mailto:sage"><font color="#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size="2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:03:13 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></dt> <dt>・・・ニューヨーク湾、それも海岸から100マイルも離れていないこの海域は、比較的安定した天候のおかげで、荒れることは少ない<br> そんな白波もない海を切りながら、米海軍のイージス巡洋艦「レイテ・ガルフ」は全速力で航行している<br> 雲ひとつない晴天、気温は低めの零下一度、海軍の船員たちにとっては、せいぜいコーヒーが早く冷める程度の気温でしかないはずなのに、彼らの顔は強張っている<br> それは、彼らの受けた任務そのものと言うよりも、その途中で遭遇したあるものに対する戦きからだった…<br> 「少佐、この状況をどう考える?」<br> レイテ・ガルフ艦長は、比較的冷静な態度で部下に質問する<br> それを見る部下たちは、確かに安堵感を感じ、士気低下の防止にも一役買っていたが、あくまで上辺だけのものだろう<br> その証拠に、数時間前からその胃袋に流し込んだコーヒーの量は、いつもの数倍に達している<br> 「すでに限界です。もう大陸棚に入り、目標“エコー“の追跡をこれ以上続けることはできません」<br> まだ30代前半といったところだろうか、若い少佐は現状を報告する<br> “エコー“―――NATO軍のフォネティックコードで称されたそれは、歴戦の米兵たちが恐れ戦くのに十分な存在だった<br> 圧倒的な戦闘能力によって米軍を圧倒し、未だにその闘争において、ただの一体も被害を出していない、宇宙からの来訪者<br> それを聞き、コーヒーを一口含んでから、もう一度艦長は少佐のほうに向き直る<br> 「…それで?」<br> 「自分にはわかりません、ですが、例のプランに則って行動するべきかと…」<br> 少佐の目に、妙な光が走る<br> 例のプラン―――この海域に派遣されることが決まったとき、一枚のディスクとノートパソコン、そして携帯電話が手渡された<br> もし目標の追跡が困難になり、周囲に他艦艇がいない場合はこれを使え―――という言葉と共に<br> 「どういう事かは分かりませんが、国防総省と国連の同意があってのことでしょうし、命令に逆らうことは出来ません」<br> 「まったく持ってその通りだ、少佐―――CICに伝えろ! 本艦は追跡任務を終了し、例のプランへ移行すると」<br> 「了解! 艦橋よりCICへ、プラン01へ移行する。繰り返す、プラン01へ―――!!」 <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a690" name="a690"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:690"><font color= "#0000FF">690</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:03:44 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>レイテ・ガルフが対応を続ける中、延々と目標の上空で監視を続けるSH-60Bが、監視対象のある変化に気がついた<br> その巨大な体をくねらせつつ移動する、青白く光る複数の目―――センサーで、こちらと母艦のことを監視し続けているその生物は、今まで何の対応もとらなかった<br> だが、それは突然触手を広げ、減速しつつ、レイテ・ガルフのほうへ向き直りだした<br> 突然の事態にあわてながらも、通信傍受を恐れ、発光信号を使い、母艦への通報を始める<br> 一方のレイテ・ガルフ内部では、ソナーからの見えられる情報で、そのわずかな変化を探知していた<br> 「目標“エコー”、進行方向、方位129へ、深度および速度変わらず!」<br> 「指針変更、方位130へ!」<br> 「了解、方位130へ」<br> オペレーターたちが状況を報告していく中、一つだけ皆の注目を引く内容のものがあった<br> 「シーホークより発光信号、目標が減速体形に移行!」<br> 突然のことであり、何の前置きも無い減速はこれが初めてだった<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a691" name="a691"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:691"><font color= "#0000FF">691</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:04:27 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「減速体形だと!? 何かの間違いだろう、目標はこちらに追われているし、警戒もしては―――」<br> 左官の一人が言いかけた所でオペレーターがさらに口を挟む<br> 「目標、警戒態勢へ移行! こちらに向き直ったとのことです!!」<br> 「な゛―――!!」<br> 突然のことに驚きを隠せないと言った様子で、艦長以下、全員が冷や汗をかく<br> 「どういう言うことだ! われわれは敵対行動など!!」<br> 「CICより報告! ハープーン(Harpoon)のキャニスターがコントロールを失いました!!」<br> 「なにィ!!」<br> 当然の驚きだった<br> 指令に従いディスク内のプログラムを起動した瞬間の出来事<br> 誰もが同じことを疑い、それはすぐに確信へと変わる<br> 「プラン01を実行中!? 何を言っている、すぐに切れ! そいつがあれを動かしてるんだ!!」<br> 「馬鹿な! なぜ阻止できなかった!!」<br> 青白い顔から完全に血の気が引き、まるでもうすでに死んでいるかのような表情へと変わる<br> (…そうか!)<br> 自らが置かれている状況と、それに至る継起を理解した艦長の額には汗がにじむ<br> そう、あのディスクに書き込まれているプログラムの内容を何らかの方法で知りえたからこそ、“エコー”はこちらと同じ速度で航行し、一定の距離で様子を見ていた<br> そして、そのプログラムを起動しようとしていることを察知して、やつは警戒態勢に!――― <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a692" name="a692"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:692"><font color= "#0000FF">692</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:05:02 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>―――しかし、気がつくのが遅すぎた…もっとも、気がつけるはずもなかった彼らに罪はないが<br> オペレーターが深刻な表情と声で、すでに取り返しのつかないところまで来たことを告げる<br> 「ハープーン! 発射されました!!」<br> 光を放ちつつ固体燃料をロケット・モーター燃焼させながら、数本のモリ(ハープーン)が、白い尾を引きながら上昇していく<br> 「発射数4! 慣性誘導で、ホップアップで“エコー”に向かっています!!」<br> 「誘導を妨害できんのか!!」<br> 副長が怒鳴り声を上げ、それを見かねた艦長はそれよりも大きな声を張り上げ、対応を指示する<br> 「CIWSを起動! ハープーンを着弾前に撃墜しろ!!」<br> 「了解、CIWS起動」<br> 比較的冷静な声を返されたかと思うと、すぐにCIWS“ファランクス”20mm砲弾を撃ち出す際の発砲音が聞こえる<br> ホップアップで発射され、一旦高度を上げてから目標に接近する発射方法だったため、比較的長い期間レイテ・ガルフの近くを飛んでいた<br> しかし、接近してくるミサイルに対し、事前に砲身を向けていたわけでもなく、ほんの少しの対応の遅さのために、四本の内、一本は弾幕を通過する<br> 「2撃墜!」<br> 「だめです! 残り2、CIWSの射程外に出ました!!」<br> 「着弾まで、後13秒!!」<br> 警戒態勢に入ったEOLTは動きを止めていたため、すでに彼我の距離は20km程度<br> 時速970kmで亜音速飛行するハープーンにすれば、さして時間のかかる距離ではない<br> 「くそぉ!!」<br> 「何とか撃墜できんのか!?」<br> 艦長の質問に対して、オペレーターからの回答が帰ってくる<br> 「む、無理です。ディスクに各種誘導弾発射に関するプログラムが弄られた為に、一旦すべての回線を切ってしまいました」<br> 「復旧にはどれくらいかかる!」<br> 「や、約30秒です!」<br> 「ええい! 遅すぎる!!」<br> 怒鳴り声の語尾に重なり、焦りで声が裏返りそうに鳴っているオペレーターの声が響く<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a693" name="a693"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:693"><font color= "#0000FF">693</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:06:31 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「ハープーン! 目標に着弾します!!」<br> 目標から百mも離れていない位置にいるシーホークは、確かな轟音を耳と肌で感じた<br> そして、レイテ・ガルフもそれを各種レーダーやソナーで確認する<br> 「着弾音確認! いずれも直撃だと思われます!!」<br> “攻撃してしまった”という思いもあったが、それよりも口に出すことを優先された考えは、後悔のそれではなかった<br> 「やったか!?」<br> 自らの犯した過ちと、これから訪れるであろう恐怖に、ある種の期待も上乗せされたような表情と声が、艦橋を覆う<br> 通信器から、シーホークからの無線が届き、傍受されることへの懸念がないことを物語った<br> 「……シーホークより報告! 目標は未だ健在!!」<br> 「なんだと!」<br> それが“傍受して対応してくる敵の消滅”ではなく、“傍受しなくとも、こちらへ攻撃を仕掛けようとしている”ためだったと知り、再び船員たちの顔から血の気が引く<br> 「ソナーでも確認、目標は全速力でこちらに向かってきています!!」<br> 「た、対艦ミサイル2発の直撃だぞ!?」<br> 「分かりません、ですが、報告では“殻”のようなものと触手が脱落した以外、被害は受けていないとのことです!」<br> 「馬鹿な! 奴はこちらを攻撃しようとしているのか!!」<br> 「間違いありません! 18ノット、ほぼ全速力です!!」<br> 艦長は必死に思考をめぐらし、今の状況を整理する<br> 恐らく、これは前に聞いたとおりの“実験”に違いない…EOLTと我々を戦わせる気なのだ!<br> 艦長は手を振り回しながら、これの完全な撃破に方針を変更することを告げる<br> 「もう逃げることはできん、何としても目標を撃破する! 監視をしていたシーホークにソノブイを投下させろ、ディッピングソナーは収容!」<br> 「了解!」<br> 「おい、ここの海域は大陸棚だったな?」<br> 艦長の問いに、おずおずと航海士は首を縦に振る<br> 「左舷Mk-46短魚雷発射管の用意を! アスロックにデータを入力! 爆発深度100で4発発射。さらに5秒後に爆発深度50と150で8発発射しろ!!」 <br> <br> <br></dt> <dd><a id="a694" name="a694"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:694"><font color= "#0000FF">694</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:07:12 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> …この対応は標的となるEOLTがアスロック等の誘導兵器の誘導装置に引っかかることが少ないため、爆発深度を予め設定しておくことが有効だと判断されてのことだった<br> 事実、レーダー誘導は敵がレーダー波を反射しにくいことから、熱探知や音波探知の類は、EOLTが生態活動を行う際に、それらを殆んど発しないことから、高い誘導性は保障されない<br> またその回避力も非常に高く、“点“の攻撃は、まず効果を示さない<br> その為、大火力の攻撃で、精密誘導を行わず、大量に撃ち込む面制圧が有効となった―――このアスロックも、魚雷の推進・誘導装置を外し、数倍の炸薬を搭載してある<br> <br> <a id="a695" name="a695"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:695"><font color= "#0000FF">695</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:07:43 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>「アスロック、第一波発射!」<br> 声とともに、甲板が白い煙に包まれ、全長4,9mのアスロックが打ち上げられる<br> 「艦長、ソナー音は探知される危険性があるのでは?」<br> 副長の不信そうな声に、艦長はどこか投げやりな声で答える<br> 「奴らは千里眼との完璧なデータリンクでこちらの位置を把握している。まして、全高20kmの巨大な拠点がすぐ近くだ、気休めにもならん」<br> 「はぁ…」<br> 「アスロック、第二波発射!」<br> 「第一波着水! 爆発深度到達まで4秒!」<br> 「“エコー”、深度を下げ始めました!!」<br> 艦長が笑みを浮かべる<br> 「だろうな、アスロックの爆発深度を正確に予測した“エコー”は第一波で改定への退避が不可能になり、海上で第二波の餌食になることを恐れるはずだ」<br> 「アスロック炸裂! 同時に、アスロック第二波着水!!」<br> 「アスロック第二波、炸裂まで3秒、2,1、炸裂!残り炸裂まで4秒、3、2,1、炸裂!!」<br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a696" name="a696"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:696"><font color= "#0000FF">696</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:08:32 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 無線機を手に取り、艦長はCICに向かって叫ぶ<br> 「CIC、CIC! 目標の位置はつかめるか?」<br> <無理です。爆音で探知が…><br> 「…ということは、爆音の影響を受ける海域にいるということになる。15秒後にMk46短魚雷三発連続発射、敵は攻撃の回避のために移動速度を上げているはずだ、音波探知が効く<br>  敵の逃げ足を早くするために、もう一度アスロックを発射しろ、爆発深度は50~150、発射数は3発づつ、ランダムな間隔で計15発撃ち込め」<br> 「了解、アスロック、データ入力……アスロック、発射準備よし!」<br> その声を聞きながら艦長は小さく呟く<br> 「これで弾等部分が爆雷…しかも、通常でなく核なら確実だったが―――」<br> 「アスロック、発射!」<br> 「CICから報告、ソノブイからのデータです。目標は深度130で左右に船体…いえ、体を振りつつ、24ノット…全速力でこちらに接近中!」<br> 何人かはこれが“エコー”の全速だと言うのは確かなのだろうかと、頭をひねった<br> もし、これが全速力でなければ、魚雷の速度を上回ることになる…<br> 「アスロック着水!」<br> 「アスロック、第二波発射!」<br> 「短魚雷発射!」<br> 副長が汗を腕でぬぐいながらぼやく<br> 「これで決まればいいのですが……」<br> 「決まらなければ我々が死ぬ―――」<br> 艦長の言葉を切るようにしてオペレーターの声が響く<br> 「アスロック第三波発射! 第一波は炸裂、第二波は着水します!!」<br> 「―――勝てればいいのだが…いや、イージス艦が遊泳中の陸上生物に負けるわけがない」<br> 艦長の自信は、EOLTへの侮りから来ている事に、何人かは不安を覚えた<br> しかも、艦長自信、その発言に絶対の自信を持っているというわけではない…そう思いたいだけの様にすら見えた<br> 「アスロック第四波発射!」<br> 数回目の誘導弾発射の際の光が艦橋に差し込み、これが15発のうち、その最後であることを告げる<br> 「短魚雷、着弾まで後60秒!」<br> 「スロック第三波、着水!」<br> 「EOLT、急加速!!」<br> 艦長は汗をにじませながらも、落ち着いた声で問いただす<br> 「指針は分かるか?」<br> <br> <a id="a697" name="a697"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:697"><font color= "#0000FF">697</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 19:11:06 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「CICからの報告では、進行方向に変化はないかと…」<br> 「気でも狂ったか!? そのまま進めば魚雷と正面衝突だ!!」<br> どこからともなく聞こえてきた私語を無視し、艦長が話を続ける<br> 「震度は?」<br> 「深度10m前後に浮上しました、シーホークでも視認ができているようです」<br> 間違いない、“エコー”は魚雷との衝突を自ら望むかのような進み方をしている…しかし、アスロックをココまで恐れているのだろうか?<br> ハープーンの直撃にも耐えたあの化け物が…いったいなぜこんな動きをする?<br> 疑問に駆られる艦長は、とりあえず最善と思われる策を模索し、答えが出ないと見るや、対処療法に出る<br> 「アスロックを目標と魚雷の衝突予想地点の周りに、爆発深度を適当に設定してばら撒け! 5インチ単装砲、発射の準備をしておけ!」<br> 副長があわてて意見を具申する<br> 「しかし艦長、今の状況なら、Mk46との衝突地点に投下したほうが、確実に撃破できるかと……」<br> 「いや、相手は魚雷との衝突で死んだと見せかけて、一旦深い所に潜ってからこちらに接近し始めるはずだ…恐らく、着弾予測地点に深みでもあるんだろう」<br> 艦長が下した決断と、単装砲の発射準備を指示したことを考えれば、魚雷の直撃とアスロックで弱って、浮上したところを仕留める気であることがうかがえた―――<br> ―――もうアスロックはそう残っておらず、これ以上浪費することはできない<br> 「アスロック発射準備よし…発射!」<br> 爆音とともに打ち上げられた1ダースのアスロックが、空気を切る際の奇妙な音を出しつつ、標的に向かって飛び去っていく<br> 「目標がそろそろアスロックの有効射程外に出ます」<br> 「魚雷着弾まで、あと10秒!」<br> 「“エコー“が動きを止めました!」<br> 「やはりな!」<br> 艦長の反応と同時に、爆音と水柱が上がり、短魚雷が艦から2,3海里のところで衝突したことが、ソナー音を聞かずとも分かった<br> 「アスロック着水! 後5秒以内にすべて炸裂します!」<br> 艦長は腕時計を眺め、ほかの船員たちはただ息を飲んでいた<br> 「アスロック全弾炸裂!! ソナー音、妨害されます!」<br> 「目標手前に向けて単装砲発射開始、分間発射数は最大値に設定。弾種は榴弾、時限信管にしろ!」<br> 「了解!」<br> <br> <a id="a698" name="a698"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:698"><font color= "#0000FF">698</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:22:33 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 確認の声とともに、金属製のドアを思いっきり叩き付けるかのような音が艦橋内部にまで聞こえ始める<br> 「シーホークは射線軸上から退避しているな?」<br> 「はい」<br> 「できるだけ近くから目標の探索を行え、確認で着次第、無線で報告だ」<br> その声を最後に、後はひたすら単装砲の発射音のみが響き続け、副長は小刻みに壁を指で叩き、艦長は時計の針を眺め続ける<br> (これでいいのか?)<br> 艦長はそれだけを考え続けている<br> もし、奴がこちらの動きを読んでいるとしたら…こうなることを予測していたなら、どういった行動をとるだろう―――?<br> そして、自ら口にした、ひとつの言葉を思い出す<br> <br> <a id="a699" name="a699"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:699"><font color= "#0000FF">699</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:35:51 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt>“着弾予想地点に、深みでもあるんだろう”<br> <br> “遊泳中の陸上生物に負けるわけがない”<br> <br> <br> <br></dt> </dl> <dl> <dd><a id="a700" name="a700"></a></dd> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:700"><font color= "#0000FF">700</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:36:36 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「そうだ―――!」<br> 艦長の、決して大きくはない声に、いったい何人が気づいただろうか<br> 相手はこの海域の地理を、ほぼ完璧なまでに知り尽くし、そこにどのような隠れ場所があり、こちらのソナーから隠れられるかを熟知している<br> なにより、あれは陸上生物であって、潜水艦とは違う! 海底を張って進んでくることも十分に可能なのだ!!<br> 「ソナー班! 目標の位置はつかめるか!?」<br> 「いえ…音源が混在して……」<br> 「発砲をやめろ! シーホークは何かつかめたか!」<br> その指示を受けたヘリの乗員は、乗り出すようにしながら会場に見えるはずの何かを探す<br> <いえ、何も見えません…土砂が濛々としていて、もしかすると、この当たりの海底は柔らかい事もあるので、土砂崩れの類かも…><br> 「やられた!」<br> 艦長は机に腕を叩きつけ、額の汗が滴り落ちる<br> 「奴はこうなることを予測していのか!―――恐らく、敵はこの船の船底部分を食い破るために海底ぎりぎりを進んでいるはずだ!!」<br> 「なんですと!?」<br> 副長以下、全員が驚きと、それに続く恐怖に体を固める<br> 「アスロックをいつでも発射できるようにしろ…いや、準備ではなく身構えておけということだ! 敵が浮上しだい、アスロックを艦の真下落とす!」<br> 「りょ、了解!!」<br> <br> <a id="a701" name="a701"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:701"><font color= "#0000FF">701</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:37:51 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 緊迫した空気に包まれる中、艦長は自責の念に駆られ続けている<br> もし、このままこの船が沈んでしまったら―――!<br> 取替えしのつかないことになる…しかも、下手をすれば自分も間違いなく死ぬ!<br> 「か、艦長……?」<br> 「いや…なんでもない」<br> 冷や汗が自分の体を濡らしていくさまが、手に取るように分かった…そして、もしかしたら、自分のこの体が乾くことが永久にないかもしれないことも―――<br> 「ソナーに反応! “エコー”です!!」<br> 「どこだ!?」<br> 「本艦左下、約1km地点です!」<br> それを聞き、少し血の気が戻った艦長が口を開きかける<br> <br> <a id="a702" name="a702"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:702"><font color= "#0000FF">702</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:39:05 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> 「よし、アスロッ―――」<br> だが、その言葉を切るようにして聞こえてきたソナー班の声は、艦橋に絶望を与えるに十分だった<br> 「目標航行速度! は、80ノット!! 後数秒で激突します!!」<br> 「なんだとぉ!!」<br> 語尾に重なったのは、殆んど爆音に近い衝突音で、艦全体が大きく揺れた<br> 数人が転倒し、同じようにバランスを崩し、壁に倒れ掛かった艦長も、打ち付けた頭を抑えながらもう一度立ち上がる<br> しばらくそうした後、艦の両舷から立ち上る水柱に動揺する船員たちを尻目に、艦長は無線機を取る<br> 「CIC! 被害状況はどうなっている!!」<br> 呼びかけに対して帰ってきたのは、何かの警報音と次々に寄せられる状況報告…しかし、それはすぐに悲鳴に変わった<br> <か、艦長! 奴の触手が―――! だ、だめだ、浸水する!!><br> 絶叫と水の流れ込む音、時間がたつごとに弱々しい断末魔がひとつ、またひとつと消えていく<br> 「CICが……やられたのか…」<br> 艦長が無線機を取り落とす<br> 「だ、ダメコン急げぇー!」<br> 「ダメコン班! どうなってる!? 状況は―――!!」<br> 「畜生っ! 敵は艦底部かな内部に潜り込んで来てるのか!?」<br> 「艦長! やられました、もう航行は不可能です!!」<br> 「ダメコン班、阻止しろ! 銃器の使用も許可する!!」<br> 次々に聞こえてくる報告も、何も彼の耳には入らなかった<br> <br> <a id="a703" name="a703"></a></dt> <dt><font color="#FFFFFF"><a href="menu:703"><font color= "#0000FF">703</font></a>名前:<strong><a href="mailto:sage"><font color= "#0000FF">名無し上級大将</font></a><font color="#FF0000" size= "2">New!</font>投稿日:2007/12/02(日) 20:39:58 ID:???</strong><font color= "#0000FF">◆80fYLf0UTM</font></font></dt> <dt><br> ただひとつだけ、彼が考え付いたことがあった<br> 「…アスロック発射だ」<br> 「か、艦長! い、いま何と!?」<br> 「アスロックを発射しろ!! この艦もろとも、敵を海の藻屑にする!!」<br> 艦橋内の空気は瞬く間に凍りつく<br> だが、それ以外に方法がないと知った彼らは、上ずった声でアスロックの発射を指示する<br> 「了解!」<br> 「アスロック全弾発射! 目標は本艦、および本艦周囲!!」<br> 船員たちの目には、ある種、吹っ切れたようなものが見て取れたが、艦長は半ば放心状態で立ち尽くしている<br> (これで……おそらくは、この艦が沈み、“エコー”も撃破されるだろう…無意味なことではあるが―――)<br> 「アスロック発射! 着弾、および着水まで10秒!!」<br> 艦長はもう一度、小さく呟き始める<br> 「―――…これが、せめてもの…」<br> ついさっきまで放心状態だった艦長の目には、強い意思が宿っていたように、最後にその顔を見た副長は思った<br> 「せめてもの戦果だ…」<br> パラシュートを使わずに、一気に落下してきたアスロックの魚雷部分は、本来98ポンドの炸薬しか搭載していないが、これの場合は300ポンドの炸薬を搭載していた<br> 発射数は14発…内の6発が艦に直撃し、レイテ・ガルフはものの数十秒で轟沈<br> 残りは艦周囲で炸裂し、艦に取り付いていた目標“エコ-”も半秒ほどの差で撃破された<br> <br> <br> <br></dt> <dt>((解説)):「建設科(Builder)」スレッド(実質第5次スレ)の&gt;&gt;689-703のログ。</dt> </dl>

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