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697 アレティエ♀で夏祭り中編 1/8 [sage] Date:2008/06/12(木) 22:00:33 O ID: Be:―――――翌日。アレルヤは、今か今かとその時が来るのを待っていた。だから、ピンポーンというインターホンの音が静かな部屋に響いた時の嬉しさは、半端なかった。「ティエリア!!」最近なかなか会うことの出来なかった最愛の人の名前を呼びながら、アレルヤは勢いよくドアを開いた。しかしそこに佇む恋人の様子に、アレルヤは思わず瞳を見開いて固まってしまった。 「アレルヤ……ぁ…」ふらふらとした足取りで、ティエリアは勢いよくアレルヤの逞しい胸板へと倒れ込んだ。ティエリアが持っていた大きな2つの袋と小さな鞄が1つ、どさっとティエリアの手から滑り落ちて。一瞬アレルヤの思考が止まるが、すぐさま尋常じゃない程のティエリアの汗の感触をリアルに感じ、慌ててティエリアを自分の肩に担ぎ上げ、ティエリアの持っていた荷物を片手に持ち上げると、急いでクーラーのガンガン効いた部屋の中へと走り戻った。 「ティエリア!…だ、大丈夫…?」―――ドサッと大きめなソファーにティエリアを寝そべらせ、荷物をソファーの傍らに立てかけると、アレルヤはあわあわと脱衣場とキッチンを行き来し、濡れたタオル数枚と、グラス一杯の冷たい水を用意した。 ぐったりと瞳を閉じてしまったティエリアの額や首元、その他半袖の淡い黄緑色のワイシャツから覗く白い腕などを冷たいタオルで包み込み、心配そうに弱りきったティエリアの顔を覗き込む。 やがてティエリアの瞳が気だるそうに開かれて、その唇が「…み、ず」と呟いたので、アレルヤはほっとしてティエリアの体を少し起こすと冷たいグラスを手渡した。「んっ………ん」ごく、ごく、と喉を鳴らして一気にグラスの中の水を飲み干すティエリアを、アレルヤは優しい微笑みを浮かべながら見つめていた。「………っぷは」「もっと飲む?」「いや…いい」ティエリアから空になったグラスを受け取ると、側に在った机の上にことんと置いた。そこで改めてお互いにお互いの顔を見つめ合うと、久々に会う恋人の姿に、愛しさやら何やらといった衝動的な感覚が蘇って来る。「……日本の夏が、これほどまで凄まじいものだとは思わなかった…」そんな中、ぽつり、とティエリアが言葉を紡ぎ始めた。「だから地上は嫌いなんだ…」「…でも、ちゃんと僕の所まで来てくれたんだ。ありがとう、ティエリア…」「な…勘違いするな!わ、私は不測の事態に備えた際のヴェーダからの仮想ミッションを遂行しに来ただけで…!!」顔を真っ赤に染めながら慌てて自分の気持ちを誤魔化そうとするティエリアの唇を、アレルヤは愛しさをたっぷり込めた自分の唇で塞いだ。「………!」ちゅ、といった軽い音が静かな部屋に響いて。瞳を閉じたアレルヤの整った顔が目の前に在って。そのまま軽く押し当てられただけのキスは、そのまましばらく長く長く続いて。驚いて見開かれていた真っ赤な瞳は、やがてゆっくりと閉じられた。やがて唇から唇が離されると、続いて両方の瞼の上にちゅ、ちゅ、と軽くキスの音を響かせ、最後に額にちゅ、とキスが落とされた。「………アレルヤ…」心地よさにティエリアの瞳がゆっくり開かれると、もう一度唇にアレルヤのキスが。すぐに離されたそれは、2人の間にさらなる愛しさを生んだ。「…会いたかった、よ」アレルヤの逞しい腕がティエリアの体に回されて、お互いの体が密着する。耳元で低く囁かれた懐かしい声に、心が僅かに震えた。「………」やがてティエリアの唇がアレルヤの耳元に寄せられ、これだけ密着していないと聞こえないくらい小さく、私も、と囁かれた。× × ×「そういえば、あの大きい紙包みの中身……何?」しばらくお互いにお互いの抱擁を楽しんだ後、ふとアレルヤが気になっていたことを尋ねる。「ミッションに必要な服等だと、ヴェーダは言っていた。クリスティナ・シエラが用意したらしいが…実はまだ私も見ていない。」おもむろにティエリアがソファーの傍らに立てかけて在った2つの紙袋を手繰り寄せると、こっちが私ので、こっちが君のだ、と片方をアレルヤへと押し付けた。「わ、すごい…!」「………?」がさり、とお互いに紙袋の中身を取り出してみると、その中身にアレルヤは感嘆の声を上げ、ティエリアは首を傾げた。「何だっけこれ…ああそうだ、甚平だ。すごいなー、甚平は初めて見た!」「………浴衣?」アレルヤの手の中には、優しい紺色の色合いの甚平が。ティエリアの手の中には、濃い紫色の地に慎ましやかな白い百合の花がプリントされた浴衣が収められていた。「ティエリアのそれも凄いね!クリスティナが選んでくれたんだって?すっごく、君に合うと思うよ!」「…あ、あぁ…」データとしては普通に知っていたが、こうやって生で見るのは初めてな『浴衣』とやらに、ティエリアは無意識のうちに瞳をきらきら輝かせてた。その顔が純粋に綺麗なもの、可愛いものを見る女の子の顔で在ったことを、横から見ていたアレルヤだけが知っていた。「………しかし、」すると突然或ることに気付き、ティエリアは眉を潜めた。「これは着れない。」「え、何で?」「私は『着付け』というものが出来ない…」残念そうに伏せられたティエリアの瞼に、アレルヤは満面の笑みを浮かべた。「何だ、そんなこと、大丈夫!僕が出来るから!」えっ、とティエリアが顔を上げると、アレルヤの照れくさそうな顔と鉢合わせになって。「実は、前々から日本の文化とか気になってて…浴衣とか着物とか、かわいーっ!って思ってて…」「それで君は、独学で『着付け』というものを学んでみた…と?」「うん。だって、いつかティエリアにも着てもらいたいなって、思ってたから。」にこやかにそう告げるアレルヤに、ティエリアの頬が真っ赤に染まった。「………なら…」「え?」俯きながら、ティエリアが何かを呟く。その言葉を聞き漏らさないように、アレルヤはティエリアに顔を近づけさせると、ティエリアが真っ直ぐにアレルヤの顔を見上げてきた。「…なら、ちょうど良かったじゃないか。今回のミッションは浴衣の着用が義務づけられている。…君の趣味など知ったことではないが、な、何にせよ、私は今回のミッションで浴衣を着用するのだからな。」 真っ赤な顔でそう告げるティエリアに、アレルヤの心がずっきゅんと射ぬかれた。「……ティエリアかわいーっ!」「わ…っ」素直になれないティエリアを、アレルヤはさらにさらにさらに愛しい、と思ってしまった。そんな衝動と共に、アレルヤは勢いよくティエリアを抱き締めて。「この…ばか…!」悪態を吐きながらもおとなしくアレルヤの腕の中に収まっているティエリアの額に、もう一度優しいキスを落とした。ヴェーダはティエリアへのサプライズプレゼントのつもりなんだろうけど、もしかしたら僕へのサプライズプレゼントでも在ったりして、とか色々考えて、とにかくヴェーダに感謝した。「…じゃあ、早速着付けしよっか。」ぺろりとアレルヤの手が何の躊躇も無くティエリアのワイシャツを捲り上げると、顔を真っ赤にしたティエリアの「万死に値する!!」という言葉と共に、アレルヤの頬に綺麗なストレートパンチが決められた。× × ×結局、顔を真っ赤にして憤慨するティエリアを何とか宥めて着付けまで持ち込むのに、一時間以上掛かってしまった。お互いに何度も裸なんて、むしろ裸以上のものすら見せ合っているのに、ティエリアは未だ処女のような恥じらいを捨てきれないでいる。(…そこが可愛いんだけどね)今、アレルヤの目の前には、元から着用していたワイシャツやズボンを全て脱ぎ捨て、シンプルなピンク色の下着といつもの眼鏡のみ着用した姿のティエリアが、顔を真っ赤に染め僅かに俯きながら佇んでいた。 久々に目の当たりにする恋人のあられもない姿にアレルヤは静かに息を飲むが、今はヴェーダからのミッション遂行のため、と湧き上がる雑念を振り払う。「…じゃあ、ティエリア、ここに腕通して」「………」クリスティナおすすめ!の浴衣を静かにティエリアに羽織らせると、ゆっくりと袖の部分にティエリアの腕が通される。続いてテキパキと慣れた手つきで着付けをこなしてゆくアレルヤに、ティエリアは素直に驚いた。「…相変わらず器用だな、君は…」「え?そうかな?」最後にしゅるりと赤色の帯でティエリアの細い腰をきゅっと締めてやると、雅やかな姿の浴衣美人の出来上がりだ。「……やっぱり、きれい、だ」「…は?」惚けた表情を向けるアレルヤに怪訝な顔を向ける。すると再び、優しく抱き締められた。「ティエリアは可愛いし、凄く…綺麗だよ。」「何なんだ君は、さっきから…」最愛の人に自分の容姿を褒められて、嬉しくない筈なんかないのに。素直になりきれなくて、また顔を真っ赤にして俯いてしまうティエリアに、アレルヤは何度目か分からないキスを送った。浴衣と共に入っていた可愛らしい簪でティエリアのそれなりに長い髪を少し上で結ってやり、アレルヤもまたクリスティナおすすめ!の甚平を着用してから、2人はヴェーダからのミッションを遂行するために手を繋ぎながらアレルヤのマンションを出発した。× × ×カラ、コロ、と2人が歩く度に下駄の音が響く。空はもう夕焼け色に染まっていて、同じく浴衣などを着た人々が、皆道を楽しそうに歩いてゆく。そんな人々に混ざり、アレルヤとティエリアはしっかりと手を繋ぎながら、2人だけの幸せな空間を静かに楽しんでいた。「…あ…」ふとティエリアが声を上げて、前方を見やる。アレルヤも同じくティエリアの視線を追い掛けると、古びた神社の先、夏祭りの会場が瞳に映った。「ティエリア、これが『夏祭り』だよ」「……初めて、見た…」がやがやと賑やかな人混み。きらきらと輝く出店の数々。何処からか聴こえる楽しそうな音楽に、ティエリアの瞳はゆっくりと瞬かれた。「行こう、ティエリア。今日は僕が何でも買ってあげる!」「ぁ、ちょっ…」ぐい、とアレルヤの腕に引かれて、慌てて体勢を立て直す。何故だろう。あんなに嫌いだった人混みというものが、アレルヤと一緒なら、全然苦じゃなくて。「………」ティエリアがアレルヤの腕にぎゅっと縋ると、一瞬驚いた顔を見せた後、優しく微笑みながらアレルヤはそれを受け入れた。密着する体に、さらに胸が高鳴った。どきどきといった鼓動が、アレルヤの腕に伝わってしまったらどうしよう。気恥ずかしさを隠すように、ティエリアはさらにぎゅっとアレルヤの腕に縋りついた。(うわ…当たってるよぉ……)一方、押し当てられたティエリアの小さな胸の柔らかさが、自分の腕を通してより鮮明に感じられて。無意識なティエリアのその行動に、アレルヤもまた胸を高鳴らせた。「アレルヤ、あれは何だ?」しばらくたくさんの出店が並ぶ広い石畳の道を歩いていると、ティエリアが或る一点を指差して止まった。「あぁ、あれはね、『綿飴』っていうお菓子だよ」「『綿飴』…融解した粗目砂糖をごく細い糸状にしたものを集めて綿のように見立てた菓子だな。実際に見るのは初めてだ…」目の前でふわふわと形になってゆくそれを真っ赤な瞳に映し続けていたティエリアを見て、アレルヤは優しく微笑んだ。「欲しい?」「!………。」こくん、と控えめに頷いたティエリアの手を引いてアレルヤは出店に近付くと、「綿飴1つ」といって店の親父に300円を手渡した。「はい、ティエリア」やがて出来上がったピンク色の夢の塊をティエリアの手に渡してやると、ぱっとティエリアの顔が輝いた。「………ありが、とう…」少し恥ずかしそうに言われたお礼の言葉に、アレルヤはどういたしまして、と優しく返した。「美味しい?」「………ん」もく、もく、と綿飴を食みながら、2人は再び歩き始めた。初めて食べる『綿飴』は、とてもふわふわで、とても甘くて。ティエリアの頬が自然と少し緩む。「…食べるか?」「ん、ありがとう」やがてティエリアから控えめにすっと差し出された綿飴をアレルヤも少し口に含むと、じんわりとした甘さが口いっぱいに広がり溶けて、またアレルヤの顔も緩む。―――――夏祭りは、ティエリアの知らないものがいっぱいだった。知識としてはその全てを知り尽くしているティエリアだったが、実際に初めて見るものが殆どで、夏祭りを彩る様々なもの、ことを目にする度にその瞳はきらきらと輝いた。「わ、凄いティエリア!百発百中じゃないか!」「マイスターとして、射撃は基本中の基本だ。君だってこれくらいは出来るだろう」「まぁ、そうだけど…」―――漢らしく豪快に射的でお菓子の類を百発百中に狙い撃ってみたり。「うわ、よくこんな細かい作業出来るね…」「………」「(駄目だ、完璧に集中してる…)」―――ひたすら集中して型抜き屋で完璧に型をくり抜いて報奨金10000円を受け取ってたり。「焼きそば、美味しい?」「…ん」「林檎飴とか、杏子飴とか、焼きトウモロコシとか、たこ焼きとかは食べないの?」「…生物の形が分かる食べ物は、嫌いだ。」―――どうやら意外と食べられるものが少なくて、少し残念そうだったり。「あ、ティエリア、金魚がたくさん居るねー」「…生物は、嫌いだ。」―――大量発生してる真っ赤な金魚は、お気に召さなかったらしく。それでも、ティエリアは未だ知らない知識を全身で受け止めようと、アレルヤの腕をぐいぐい引っ張り、夏祭りそのものを楽しんでいた。アレルヤは今一度、こんな外面的にも内面的にも新鮮なティエリアを拝ませてくれたヴェーダに、多大なる感謝の念を送った。「あっ………!」そんなことを考えぼーっとしていたアレルヤの耳に、ティエリアのか細い声が届いた。ふと気が付くと、自分たちの周りはたくさんの人で溢れていて。その人混みに耐えきれずに少しだけアレルヤの腕を離してしまったティエリアは、一瞬のうちに人の波に飲み込まれ、その反動によりその場で勢いよく前のめりに転んでしまった。 「っ……!!」「ティエリア!?」どさっ!と大きな音が賑やかな辺りに響き渡り、一瞬にしてアレルヤの視界からティエリアが消えた。慌てて人混みを掻き分けるが、なかなかティエリアにまで辿り着かない。 「…っ…アレ、ルヤぁ……!」止まらない人々の波にもみくちゃにされながらも必死に手を伸ばしていたティエリアに漸く触れて、何とか自分の胸元へ引き上げると、真っ赤な瞳は混乱と衝撃で僅かに揺らぎ、雅やかな浴衣は胸元が大きく開き着崩れしていた。 とにかくまずはこの人混みから離れよう、と、アレルヤはティエリアの腕をしっかりと掴み、人が居ない脇道へと急いで歩みを進めた。「大丈夫?ティエリア?」少し人混みから外れた脇道へたどり着いた時、アレルヤはティエリアと向かい合わせになり、現状の確認をしようとした。しかし一瞬にしてアレルヤの顔は驚きに染まる。 「………っ」ティエリアの瞳から、つつっ…と一筋涙が伝っていたからだ。「ど、どうしたの、ティエリア?どこか怪我しちゃった?足とか、痛い?」「………」ふるふる、と首を横に振りながら、ティエリアはくしゃりと顔を歪ませ俯いた。「……怖かった……」「………!」人混みの恐怖に無防備なまま晒されてしまったティエリアを想い、アレルヤの胸がずきんと痛んだ。「それに、あの時、下駄、の、鼻緒が、切れてしまって………」さらに、ぼろぼろと涙を零しながら続けられるティエリアの言葉にはっとしたアレルヤが慌ててティエリアの足元を見つめると、ティエリアの片足は素足のままで。「…ちょっと、ここで待ってて。大丈夫、すぐに取って戻って来るから!」そんなティエリアを落ち着かせるようにアレルヤはティエリアの頭を優しく撫でた後、すぐに自分だけで先程の人混みの中に駆け戻っていった。やがてしばらくして再び駆け足でティエリアの元へ戻って来た。その手には、鼻緒の切れた下駄が握り締められていた。 「大丈夫、大丈夫、だよ。僕が側に居るから…」そう言って、涙を零し続けるティエリアを優しく抱き締めた。全身がアレルヤの暖かさで包まれ、逞しい胸板や腕に、少しずつティエリアの心が満たされていって。「…ちょっと、2人だけになろうか。」人混みに恐怖を抱いてしまったティエリアをこれ以上傷つけないためにも、と、アレルヤはその提案を優しくティエリアの耳元で囁いた。「………」ティエリアはそっと瞳を閉じながら、こくん、と頷き、ぎゅっとアレルヤの背中に細い腕を回した。続く。長くなりすぎたので再び分割\(^O^)/サーセン後編はエロあり。
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