第72話 跳梁跋扈編(前編)

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「そうか、やはりツクヨミは蘇っていたか」
ガイコツ城の一室で、妖怪大魔王と貴公子ジュニアは、ヌエからの報告を受けていた。
「大魔王様、チャンスです。この機に人間共を……」
「待てジュニアよ。ツクヨミはまだ月面にいる。それは奴が地上へ降臨してからだ。だが……」
大魔王はヌエに再び尋ねた。
「サタンの言っていた通り今以上の戦力は持っておいて損はない。何かいい情報を掴んでいないか?」
「はっ、まず東京の地下の龍脈に異常が見受けられます」
「龍脈……ミズノエノリュウか。理由は分かるか?」
「部下の報告では結界の要所要所で護法童子らしきものの姿を見た、とのことです」
結界。かつて天海大僧正が江戸の町に風水的趣向を凝らして張ったものである。東西南北を四天王が守護し、その中心には平将門が位置する。
帝都東京はこの霊的結界によって災厄から守護されているのである。
「護法童子だと!?まさか……」
ジュニアが大魔王の顔を見やる。
「奴が蘇ったとしても何も不思議はあるまい。魔人・加藤保憲がな……」
大魔王が顎に手を当てて呟く。
「これも調査してみないことにはな。仮に加藤が蘇っていたとしたら、その帝都への憎しみ、利用できる」
「……それと、横浜に面白い人間がいると聞きました。何でも悪魔を召喚して操る能力があるとか……」
「良かろう。その者については任せよう。我々の協力者になるようであれば連れてこい。もし敵になりそうならば……」
殺してこい。大魔王の非情な命令を受け、ヌエは姿を消した。


東京、新宿。アルタビジョンには各地から入ったバダムやヒーロー関係のニュースが流されていた。
こんな状況下ということもあってか、ほとんど人がいない。本当にここが新宿かと思うほどである。
……勿論ジルタワーの出現のこともあるし、都庁が何かやばい状況だということも市民は感づいている。その結果である。
そんな新宿でアルタビジョンを眺める2人の男女の姿があった。共にスーツに身を固めている。
探偵、葛葉キョウジとその助手の麗鈴舫(レイ・レイホウ)である。
二人は仕事で数日前から東京に滞在している。予想以上に長引いたが、一通り片付いたので後は横浜へ帰るだけとなった。
だが、怪獣の出現だの何だので交通網が麻痺してしまい、帰るに帰れなくなってしまったのである。
「ねえキョウジ、どうする?」
レイがキョウジに尋ねた。
「どうするも何も、こんな物騒な所、さっさとおさらばしたいものだね」
「……そうね」
そのまま2人はまた黙り込んでしまった。と、突然画面が変わった。
「キョウジ、何か変な奴が画面に映ったわよ」
それは紛れもなくルチ将軍による宣戦布告であった。
しばらくの間2人はじっとルチ将軍の演説を聞いていたが、やがてキョウジがやる気のない声でこうぼやいた。
「あ~あ、聞いたか今の。核兵器だってさ。全く、あんな妙なのに世界を征服されたら俺達人類の一生の恥だぜ」
「キョウジ!そんな事言ってどうするのよ」
「どうしようもないだろ?だから思った事を言うのさ。俺がぼやいたくらいで核が使われるわけがねえ」
と、その時、2人の背後に怪しい人影が現れた。

「デビルサマナーの葛葉キョウジだな。探したぞ」
それはヌエだった。さらにその背後にはドロドロ達がわらわらと控えている。
「誰だお前ら。俺は怪物なんかと知り合った覚えは無いぜ」
「貴様のデビルサマナーとしての力、我々のために使ってもらおう。拒否権は無い」
「やだね。拒否権は無いだなんて、そんな脅しに屈するつもりは無い」
「ならば死ね。かかれ!」
号令とともにドロドロ達が跳びかかってきた。それらを肉弾戦で次々と撃退していくキョウジ、そしてレイ。
「ええい!人間だからと甘く見たわ!こうなればこの俺が相手になろう」
ついにヌエ自らが前に出てきた。
「お、何かこいつは分が悪そうだな」
「キョウジ!ガンプを、ガンプを使って!」
レイの声にキョウジは明らかに難色を示した。
「お前、あれを使ったらどうなるか分かっているのか?また俺は悪魔に身も心も乗っ取られちまうかもしれないんだぜ……」
「分かってる!でも、このままじゃ2人とも……」
「うるさい女だ、黙れ!」
そう言うとヌエはレイの傍へ近寄り、片手で彼女をはね飛ばした。頭を打ったのか、そのまま動かなくなってしまうレイ。
「レイ!くそっ、この借りは高くついたぜ怪人さんよ!」
そう言うや否や、キョウジは懐から銃型コンピューター・ガンプを取り出した。
「こうなりゃどうにでもなれだ!」
ガンプのボディが展開し、悪魔召喚プログラムが起動した。そして、漆黒の大天使・ビシュヌがその姿を現した。

ビシュヌが放つ圧倒的な威圧感を受け、ヌエは身動きが取れなくなってしまった。
「お……お前はヒンドゥーの維持神…ビシュヌ」
ヌエの頭を絶望という言葉が過ぎった。まさかここまで強力な悪魔を連れているとは、予想外だった。
「久しぶりだな。また私を召喚するとは……」
ビシュヌが含み笑いとともにキョウジにそう告げる。
「……こっちだって不本意さ。だが、今回ばかりはお前の手を借りなきゃならなくなったんでな」
「いいだろう」
そう言うとビシュヌはヌエに向けて掌を翳した。途端に衝撃波が発生し、ヌエを吹き飛ばしてしまう。
「ぐっ!」
残ったドロドロ達が全て襲い掛かってくる。それらを全て鋭い爪の一撃で葬り去るビシュヌ。
「お、おのれぇぇぇぇぇ!」
ヌエが叫び声を上げて突進してきた。そんなヌエに向けて再び掌を翳すビシュヌ。
と、ビシュヌの正面に小さな魔方陣が現れた。
「な、何だこれは!体が引き寄せられる!まさか!」
そう、この魔方陣には悪魔を封印する力があるのだ。
「封印されると言うのか!いかん、この力、大魔王様にとってあまりにも危険過ぎる!」
絶叫とともにヌエの体は魔方陣に吸い込まれてしまった。
キョウジはビシュヌを戻すと、倒れていたレイに向かって駆け寄っていった。

意識が遠くなっていく中で、レイは誰かが自分を呼ぶ声をはっきりと聞いた。
(私を呼ぶのは、誰?)
「我が名はアマテラス。古の神」
(アマテラス?あの神話の?)
アマテラスは語った。邪神ツクヨミの復活を。その影響で自分もまた、現世に姿を現したことを。
そして、自分と共に戦うことができる人間を探していた旨を。
(共に戦う?)
「そう。少なくともツクヨミの死を見届けるまで……」
(何故私を選ぶの?)
「私は主神故に高天ヶ原を動くわけにはいかない。従って私の精神と力の一部を誰かに宿す必要がある」
そのためにはアマテラスの力に耐えられる人間が必要だという。そして……。
(私がお眼鏡に適ったというわけね)
「勘違いをするな。そなたではなくそなたの中に代々流れる巫女の血を選んだ。それだけだ」
(……分かったわ。受け入れましょう)
「よいな、我が力の一端を授かる以上、そなたは死ぬことを許されぬ。肝に銘じておけ……」
光が、レイの体を包み込んだ。
再び自分を声が聞こえる。キョウジの声だ。レイはゆっくりと覚醒した。

「……キョウジ。私は……そうだ、あの怪人は!?」
「倒したよ。……しかしお前生きてるとはな。もうちょっとで葬儀屋に手配するとこだったぜ」
「ちょっと、何を言って……」
ふと、自分の後頭部に手をやる。ぬるっとした手触りがした。血だ。
慌てて地面に目をやる。自分が倒れていた場所、丁度頭の位置に血溜りができていた。
そなたは死ぬことを許されぬ…アマテラスの淡々とした口調が脳裏に蘇ってきた。
「……ねえキョウジ」
レイは自分がさっき体験したことを全てキョウジに話した。
「……で?俺にも戦えと?馬鹿を言うなよ。あのな、ここにはヒーローがごまんといるんだ。わざわざ俺が出る必要があるか?」
さっさと横浜に帰るぞ、そうキョウジは捲くし立てた。
「でも……」
「戦うだけの力が無い奴が偉そうに文句を言うな!」
キョウジの言葉にレイはむっとした表情を見せると、何も言わず掌を突き出した。
刹那、キョウジの足元が音を立てて燃え上がった。
「うおっ!」
炎は、レイが手を翳している間中燃え続け、手を下ろすと同時に跡形も無く消え去った。
驚愕の表情でキョウジが呟く。
「どうやら本当らしいな。てっきり幻覚でも見たかと思ったんだが……」
「お願いキョウジ、一緒に戦って。どの道あいつらはまた現れるわ。だって明らかにあなたを狙っていたんだもの」
「戦いに身を置いた方が却って安全……ってか?」
「……無理にとは言わないわ。私一人でも戦うから」
そう言うとレイは歩き出した。背後からキョウジの声がする。
「待てよ。行く当ても無いくせに何処へ行く気だ?」
レイは歩みを止め、勝ち誇ったような笑顔で振り向いた。

「行く当て、あるの?」
レイがキョウジに尋ねた。
「またこいつを使うしかねえな」
そう言うとキョウジは再びガンプを起動させた。だがさっきとは異なり、出てきたのはビシュヌではなく封印されたはずのヌエであった。
「お前は一度俺に封印された。もうお前は俺の下僕だ。さあ答えろ!お前達は何を企んでいる!」
ヌエは、最初は喋ることに抵抗していたものの、弱弱しい声で少しずつだが話し始めた。
「……龍脈……ミズノエノリュウ……加藤……」
「龍脈?加藤?分からないな。他には無いのか?」
「……大サタン……復活……」
「また分からない単語が出てきたか」
これ以上ヌエは何も喋らなかった。ヌエを戻すと、キョウジはレイに相談した。
「龍脈というのはきっと風水のことね。加藤は……多分あの加藤」
「知っているのか?」
「私のような霊能力者の家系の人間なら、おそらく誰でも」
レイはキョウジに自分が聞いている事を全て語った。明治、大正、昭和と帝都を脅かした魔人の事を……。
「そんな奴が蘇っているっていうのか」
「……分からない。もし蘇っているというのなら私にも感じられるはずだけど、まだ何も……」
「で、どうする?」
「将門の首塚へ行きましょう。加藤が蘇っているとすれば、おそらく……」
「よし、決まりだな」
2人は確固たる足どりで歩き出した。


交通機関が停まっている影響で、新宿から千代田までは徒歩で向かうことになった。時間はかかるが仕方が無い。
と、先を急ぐ2人の目の前に信じられないものが現れた。
「キョウジ、あれ!」
「マジかよ」
遠くビルの向こうに、巨大な怪獣の姿が見えた。長い舌をだらりと垂らし、よだれをボタボタと溢している。ペロリゴンだ。
2人が呆気に取られて見ていると、シルクハットにマントの男が颯爽と怪獣に向かって飛んで行くのが見えた。
「何だあれ。ひょっとして正義のヒーローってやつか?」
「キョウジ、行ってみましょう」
レイの提案にキョウジは初め渋い顔をしていたが、仕方なく怪獣の方へと走り出した。
どれだけ走っただろう。現場に到着すると、そこにはドロドロに溶けた何かがあり、その周囲を軍が封鎖していた。
そして目立たない片隅で、先ほどのシルクハットの男と少年が何やら話しこんでいた。
意を決してキョウジが話しかける。
「あんた達、ちょっといいかい?」
と、おそらく軍の人間であろう、何人かがこちらへと近づいてきた。
「メフィスト!」
「ああ。厄介事に巻き込まれるのは大っ嫌いだ。行くぞ真吾」
「おいあんたら、ちょっと待てよ」
「キョウジ!」
キョウジとレイが2人のもとへ駆け寄った途端、メフィストがテレポートの魔力を発動させた。
瞬間、キョウジ達をも巻き込んでメフィストと悪魔くんの姿が掻き消えてしまう。
なお、この軍人達がチェンジマンに頼まれてメフィスト達を探していた平和守備隊の人間であったことはもちろん誰も知らない。

「……成る程な。全く、厄介事ばっかり舞い込んできやがる」
キョウジ達から事情を聞いたメフィストが面倒臭そうそう言う。
「そういう事情なんです。協力していただけませんか?」
「……そりゃあ綺麗な女性のお願いを断る道理は無いがなぁ」
レイに色目を使うメフィストにキョウジは心なしか面白くなさそうだ。
「じゃあ早速今ので首塚まで連れて行ってもらえませんか?」
「ああそりゃ無理だな。テレポートの魔力は力を大量に使うんだ。だから、今日は俺と一緒にデートでも……」
「メフィスト!」
悪魔くんが大声で叱り付ける。……もっとも、その程度で制止できるメフィストではないが。
「とにかく、今日はこれ以上動けねえな」
「そんな!一刻も早く首塚に行かないと」
「大体ここは何処なんだよ!分かっててテレポートしたんじゃないのか、オッサン?」
レイとキョウジが一斉に文句を言う。だがメフィストは一向に怯むことなく、耳の穴を穿りながらこう言った。
「お前らが話した大サタンの復活場所、多分ここだぞ」
「な!?」
「分からねえか?恐ろしいぐらいの妖気が漂ってきやがる……全く偶然ってのは怖いわな、よりによってそんな所にテレポートしちまうなんて」
「メフィスト、お前……」
「何だ真吾。偶然だって、偶然。さあ行こうぜ。今ならまだ間に合う」
こうして4人は大サタン復活の地へ向けて歩き出した。メフィストの顔は、ルルイエの時以上に張り詰めた表情になっていた。


荒地に描かれた巨大な魔方陣の前で、大魔王サタンは一心不乱に怪しげなを呪文唱え続けていた。
厭になるくらいの邪気が、妖気が辺り一面に漂っている。大サタン召喚の時が刻一刻と迫っているのだ。
キョウジ達4人は、岩陰から儀式の様子を覗き見ていた。
「メフィスト、早くあいつを止めるんだ」
「馬鹿な事言うなよ。相手はサタンだぞサタン。あれに喧嘩売る悪魔なんかいるものか」
「じゃあここで手をこまねいて見てろって言うのかよオッサン」
キョウジが文句を言う。
「待って!誰か来る」
突然レイがそう言い、背後に振り返った。慌てて一同もそれに倣う。そこには怪しげな風体の男が一人立っていた。
「むっ、気付かれたか!」
「お前、バラモンか?」
そこに立っていたのは紛れもなく、以前メフィストと戦った地獄の妖術師バラモンであった。
「この野郎!性懲りもなくまた俺様の前に現れやがって!」
「メフィスト、どうやらドクロンを倒したらしいな。あいつも馬鹿な奴よ。大人しく地獄で番をしていればよかったものを……」
バラモンはステッキを翳しながらこう言った。
「サタン様に戴いた新たな力、とくと見ろ!」
その途端、大地震が起き地面が大きく音を立てて割れた!

「うわあ、メフィストー!」
悪魔くん達が悲鳴を上げながら亀裂の中に飲み込まれていく。
「ええい、魔力!」
メフィストの掛け声と同時に亀裂に落ちた3人が一瞬のうちに地上に戻り、さらに地割れも綺麗さっぱり消えてしまった。
「ふん。おいバラモン、お前偉そうな口を利いた割にやってる事は前と変わらんではないか」
「ならばこれでどうだ!」
再びバラモンがステッキを翳すと、そこから冷気が放たれた。
「それならこっちは!魔力・地獄の炎!」
メフィストのステッキから超高火炎が放たれ、バラモンの冷気とぶつかり合う。力は互角だ。
「メフィスト、頑張れ!」
悪魔くんが声援を送るが、当のメフィストは多少辛そうな顔をしている。
「くそっ、こいつの妖術、以前より上がっているのか!?」
「ははははは!言っただろう、サタン様に新たな力を授かったと」
「レイ!こうなりゃ俺達だけでも……」
「そうね。行きましょう」
キョウジとレイがサタン目がけて突進していく。だが2人の体はいとも簡単に弾かれてしまった。どうやら周囲に結界を張っているようだ。
「愚か者どもめ……。見るがいい、今こそ大サタン復活の時だ」
サタンがそう言うと同時に、魔方陣から煙が噴き出し、異形の怪物がその姿を現した。

「馬鹿な、これは大サタンではない。これは……」
現れたのは大サタンではなく、ドーラモンスター・ゾンビフランケであった。現れるや否やキョウジ達に襲い掛かるゾンビフランケ。
「くそっ!」
「キョウジ下がって!私が!」
諸刃の剣である悪魔召喚を使わせないため、あえてキョウジを下がらせ単身レイが前に出た。
レイが掌を翳すと同時に紅蓮の炎に包まれるゾンビフランケ。だが、そんな状態になってなおゾンビフランケは攻撃を仕掛けてくる。
「どうした葛葉。悪魔を召喚して戦え」
突然、声が響いてきた。その声はキョウジとレイにとって聞き覚えのある声だった。
「お、お前……」「そんな……」
2人が共に驚愕の声を上げる。彼らの目の前に何の前触れもなく一人の男が現れた。その男の名はシド・デイビス。以前キョウジが倒したダークサマナーである。
「そんなに驚くこともないだろう。シド・デイビス、地獄より舞い戻った。魔王の力を手に入れてな!」
「ま、まさか……」
サタンが驚きの声を上げる。シドの背後に浮かび上がる巨大な顔。それこそが大サタンだったのである!

キョウジ達とシドが対峙している中で、メフィストとバラモンの魔法合戦はますます激しさを増していた。
その辺り一帯だけが稲妻が轟き、炎がうねり、突風が吹き荒れ、激しい爆発が起きていた。
「ええい!魔力・岩石落とし!」
メフィストの魔力でバラモンの頭上に大量の岩石が降り注ぐ。だがバラモンはにやりと笑うとステッキをひと振りし、岩石を全て消してしまった。
さらにバラモンがステッキを振ると、さっき消した岩石がメフィストの頭上に降り注いだ。
「ぐわっ!この野郎!」
命からがら岩石の中から這い出してきたメフィストだが、文字通り打つ手は無かった。
一方、キョウジ達は今なおシドの背後に現れた大サタンの幻影の視線に射られ、動けないままだった。
沈黙を破ったのはレイだった。気合とともにシドに向け掌を翳す。だが、炎は一瞬のうちに掻き消されてしまった。
「くそ!仕方ない」
キョウジがガンプを取り出し、ビシュヌを呼び出す。
「漸く悪魔を召喚したか、葛葉」
ビシュヌは、まずゾンビフランケの前に魔方陣を出現させた。だが……。
「封印できない!?」
「当然だ。こいつは姿こそ悪魔のようだが悪魔ではない。土くれから生まれた紛い物に過ぎん」
「キョウジ!悪魔を戻して!これ以上召喚し続けるとあなたが」
レイに言われ慌ててビシュヌを戻す。こうなっては只の人間であるキョウジは無力だ。
ゾンビフランケがゆっくりとキョウジの傍に近付いてきた。

「キョウジ、危ない!」
レイの叫びも虚しく、ゾンビフランケの一撃を受けてキョウジは後方へと吹き飛ばされてしまった。受身を取ったとはいえ、明らかに重症を負っている。
キョウジの名を呼びながら、慌ててレイが傍らへと駆け寄ってきた。
「キョウジ、待ってて。すぐ楽にしてあげるから」
そう言うとレイはキョウジの体へと手を翳した。途端にキョウジの体が光に包まれていく。
暖かな光の中で、キョウジの傷は全て癒え、体力も回復していた。
「レイ、これもお前の……アマテラスの力なのか?」
キョウジが体を起こしながら尋ねる。
「キョウジ、ここは私に任せて。やるだけやってみる」
そう言いながらレイは立ち上がりゾンビフランケの方へと向き直った。
「ほう」
シドが驚きの声を上げる。
レイの手には、光でできたロッドが握られていた。一声気合を上げると、レイはゾンビフランケに向かって打ちかかっていった。

レイは別に戦いのプロというわけではない。だが、アマテラスの力によるものなのか、的確にロッドでゾンビフランケの体を打ち据えていった。
「はああああ!」
レイが掌を翳し、再びゾンビフランケの体が炎に包まれる。そして、怯んだ隙に頭部へとロッドが強くめり込んだ。そのまま倒れて動かなくなるゾンビフランケ。
と、シドが倒れたゾンビフランケに向かって息を吹きかけた。
「何!?」「そんな!」
ゾンビフランケが起き上がり、さらにその姿がみるみるうちにより醜悪な姿へと変貌していく。その体に、大サタンの顔が浮かび上がった。
ゾンビフランケはサタンフランケへとパワーアップを遂げたのである。
「さあどうする葛葉」
「レイ、やっぱりここはビシュヌの力に頼るしかないぜ」
そう言うとキョウジは再びガンプを握った。ビシュヌ、そしてヌエがその姿を現す。
「うおおおお!」
キョウジの雄叫びとともにビシュヌが衝撃波を放ちサタンフランケを攻撃する。さらにヌエも斬りかかっていく。
「葛葉、戦え。そしてまた身も心も悪魔と同化してしまうがいい。ふはははは……」

メフィストとバラモンの戦いは傍目からでもバラモンが優勢だと分かる展開になっていた。
炎も冷気も電撃も、何もかも破られたメフィストは自棄になったのか魔力でナイフを出してバラモン目がけて投げつけていた。
「メフィスト、往生際が悪いぞ!」
余裕の笑みを浮かべながら、バラモンは自分目がけて飛んでくるナイフのみを妖術で消している。
「どうした?もう投げないのか?ははあ、さてはやっと観念したか。よし、では一思いに始末してやる」
「観念するのはお前の方じゃないのか、バラモン?」
そう言いながらメフィストがバラモンの背後へと視線をやる。
「何っ、あ!」
慌てて振り向くと、悪魔くんがメフィストの投げたナイフを拾ってバラモンのマントを地面に縫い付けていた。
「しまった!メフィストにばかり気を取られて油断していた!さてはお前最初から……」
「よくやったぞ真吾……そうよ、最初から狙いはお前に投げた無数のナイフじゃなく、わざと外した一本のナイフだったんだよ!」
勝ち誇ったように笑いながらメフィストは新たな魔力を使った。「魔力・金縛り!」
ステッキが変化したロープでバラモンの体をがんじがらめに縛り付ける。
「わはは、どうだ!口まで縛ってやったぞ。もう何も出来まい。とどめだ!魔力・細胞変化!」
メフィストが唱えると同時に、バラモンの体が足元から小さな無数の玉になって崩れ落ちていく。
バラモンはもの凄く恨めしそうな目でメフィストを睨みつけてから、完全に無数の玉に変わってしまった。
「大丈夫か、メフィスト!」
「ああ。しかしあいつ、前に戦った時より明らかに強くなっていやがった……ああ、厭だなぁ。これで完全にサタンに喧嘩売っちまった」
「そう言うなよメフィスト。後でチョコレート奢るからさぁ」
それでもやっぱりメフィストは憮然としたままだった。

流石にサタンフランケと言えどもビシュヌとヌエの同時攻撃の前には少し押され気味となった。
「このまま押し切れる!」
レイもまた戦いの輪に加わっていった。3対1の戦いとなったが、それでもサタンもシドも動こうとせず傍観を決め込んでいる。
ビシュヌが手を翳すと同時に、骨も残さず灰に変えてしまうほどの業火がサタンフランケの体を包み込んだ。だがそれでもサタンフランケは微動だにしない。
「くそっ、効いてないのか」
最初に放った衝撃波も、人間相手なら五体がバラバラに吹き飛ぶ程の強力なものだ。しかしそれすらも効果は無かったのである。
否、効いてないわけではない。ただ決定打とならないのである。
「レイ!お前も炎を使え。合体攻撃だ!」
キョウジの言葉にレイも掌を翳す。より勢いを増した炎がサタンフランケの体を包み込んだ。
サタンフランケの動きが鈍り、さらに悲鳴のような声が炎の燃え盛る音に混じって聞こえてきた。効いている!
「ビシュヌ!レイ!」
キョウジが名前を叫ぶと同時に、炎は最早信じられない位の温度に達し、その直後大爆発を起こした。サタンフランケの体は一欠けも残らず綺麗に消滅してしまったのである。
「ほう、倒したか。やるな」
シドが言う。しかし悔しさは微塵も感じられず、むしろ愉快そうでもある。
「レイ、あのオッサンの所へ行ってお前の力で体力を回復させてくるんだ。そしてテレポートでここから退くぞ」
視線はシドの方に向けたままキョウジがそう告げた。

レイが、同じく戦いを終えたばかりのメフィストの下へと駆けて行く。
「逃げるつもりか、葛葉?」
「ああ。俺達は忙しいんだ。復活を阻止できなかった以上、俺達は次の目的地へ行く」
「いいだろう、行くがいい。お前達など、今の俺の力ならばいつでも始末できるからな」
「……一つだけ答えろ。お前はまたイナルナ姫の復活を目論んでいるのか?」
イナルナ姫。嘗てシドが復活を目論んだ古の破壊神。この事件が契機となり、キョウジはデビルサマナーとして覚醒したのだ。
「最早その必要は無い」
「そうか、良かった……」
「キョウジー!」
レイが呼ぶ声がする。準備が整ったようだ。
「じゃあな。だが覚えておけ、お前は絶対にこの俺が倒す」
「待っているぞ葛葉」
キョウジがレイ達の下へと駆け寄る。そして4人は一瞬の内にテレポートをしてその場から消えてしまった。


キョウジ達が去った後、ずっと傍観していたサタンがシドへと歩み寄り話しかけた。
「お前はシドという男なのか、それとも大サタンなのか?」
「両方だ。地獄で俺は大サタンと契約を交わし一つになった。互いの望みが一致していたからな」
「その望みとは……?」
「破壊と混沌。お前達の目的も同じなのだろう?協力しよう」
サタンが嬉しそうに笑う。これで当初の目的は達成された。
「……そうだ、シド、お前は死者の蘇生は出来るか?」
「大サタンの力を持ってすれば不可能な事は無い」
「そうか。なら一人あの世から連れ戻したい人間がいる。そいつに肉体を与え、蘇生させてはくれんか?」
一つ面白い考えがある、そう言ってサタンは再び嬉しそうに笑った。


もうすでに空は夕焼けで紅く染まっている。千代田区大手町のオフィスビル群の中に、件の将門の首塚は寂しげに佇んでいた。
その周りにキョウジ、レイ、悪魔くん、メフィストの4人が立っていた。
「何も……無いな」
「やっぱり加藤は蘇っていなかったというの?」
キョウジとレイが難しい顔をして呟く。
「どうする?」
「他の場所にも行ってみましょう」
レイの提案にメフィストが如実に嫌な顔をする。
「おいまさかまたテレポートをしろって言うのか?」
「お願いしますメフィストさん。力は私が回復させますから」
「レイさんに言われると断れんなぁ」
デレデレしながらメフィストはまた、その場にいた全員と共にテレポートをした。
その後、彼らは寛永寺、日枝神社と回ったが何処にも以上は見受けられなかった。そして次なる場所、神田明神へとテレポートをした。
「鬼門の上に建ち東京を守護する寺社仏閣はここで最後よ」
「だがもしここも何も無かったらどうするんだ?」
「その時は龍脈の流れに沿って一箇所ずつ当たってみるだけよ。今の私達には何も手掛かりが無いんだから……」
と、その時、背後から物凄く嫌な気配がした。……ついさっきまで対峙していた相手の気配である。
慌てて振り返ると、そこにはまたしてもシドが立っていた。
「お前!」
「悪いな葛葉。待っている時間が無くなった。サタンの戯れに付き合ってもらうぞ」
シドの傍らから一人の青年が姿を現した。やけに奇妙な衣装を身に纏っている。そう、あれはまるで忍者が着るような装束だ。
突然、青年が何か呪文のようなものを叫びだした。
「吹けよ嵐、嵐、嵐……」
青年の姿がみるみるうちに変化していく。
「な、何だよこいつは……」
「行け、嘗て魔王に逆らいし罪人よ。今度は魔道の者としてその刃を振るうがいい」
青年・ハヤテが化身した変身忍者嵐がキョウジ達に襲い掛かっていった。

問答無用で攻撃を仕掛けてくる嵐の前にキョウジ達は成す術もなく、ただ攻撃を避けるのに精一杯だった。
「おい待てよ!さっきシドに『嘗て魔王に逆らいし罪人』とか言われてただろ!と言うことはあんた味方なんじゃないのか!?」
だがキョウジの言葉に耳を傾ける素振りもなく、嵐は剣で斬りつけてくる。
キョウジを庇うべく、レイが光のロッドを手にして間に割り込んできた。メフィストも後に続こうとする。だが、
「うおっ、何だこりゃ」
嵐が羽を手裏剣のようにメフィスト目がけて投げつけてくる。さらに、
「何っ!?」
嵐の周囲を無数の羽が舞い、その姿を隠してしまった。レイが嵐のいた位置へとロッドを突き出すが、全く手応えは無い。
「くそっ、何処へ消えた?」
羽はさらに広がり、とうとう2人の周囲をも覆い隠してしまった。
キョウジとレイは背中合わせになりながら、必死で嵐の気配を探っている。と、突然風を切り裂く音がして羽手裏剣が飛んできた。
ロッドで弾き飛ばすレイ。だが、一瞬の隙を突いて嵐がキョウジへと斬りかかってきた!
「!」
「残念だったな……」
見ると、いつの間にか召喚されていたビシュヌが嵐の剣をその鋭い爪で受け止めていた。
「どうした?このような奴、我が力を使えば簡単に……」
「黙れよ。こいつは殺すわけにはいかねえ。何で妖怪どもの味方に付いているのか教えてもらわなきゃな……」
ビシュヌの言葉に、キョウジはそう返した。
周りを舞っていた無数の羽が、ようやく全て落ち視界が確保された。日はもう沈みかけている。
「くそっ、日が沈むまでに終わらせたかったがどうやら無理っぽいな……」
キョウジが悔しそうにそう呟いた。

嵐とキョウジ達との戦いに再びメフィストが割り込もうとした時、悪魔くんが彼を呼び止めた。
「何だ真吾。どうした?」
「メフィスト、さっきから何か聞こえないか?」
悪魔くんにそう言われて慌てて耳を澄ましてみる。成る程、確かに遠くから音が聞こえてくる。
「こりゃ……何か楽器の音だな。ギター……そうエレキギターだ」
「何か気になるよ。行ってみよう」
「そうだな。確かに怪しい。よし、行くぞ」
そう言うとメフィストは悪魔くんと連れ立って音のする方へと走って行ってしまった。
それでもシドは、気付いているにもかかわらずずっとキョウジ達の戦いを楽しそうに眺めていた。

その頃、妖怪城に戻ったサタンは遠く離れた神田明神での戦いをこれまた楽しそうに眺めていた。
「ふふふ、憎き嵐を尖兵として使用しヒーロー同士を戦わせる。これ程愉快なものはない」
と、メフィスト達が別方向に駆けて行く姿が目に映った。
「メフィストめ、気付きおったか。ええい、シドは何故動かん。シド、シド!」
サタンがテレパシーで話しかける。だがシドはそれを一向に無視した。
「おのれシドめ。まあいい。余程油断でもしない限りあやつがやられることはあるまい……」
そう言うとサタンは再び笑いながら嵐の戦いを観戦しだした。

神田明神から少し離れた位置で、夕闇の中エレキギターを掻き鳴らしている人影があった。
「おい見つけたぞ!」
そこへメフィスト達がやって来る。
「やっぱりお前の仕業だったのか。吸血鬼エリート」
「メフィスト、吸血鬼エリートって?」
「ギターを使った音響催眠で人を自在に操る奴だ。これで数多くの人間の血を吸ってきたんだ」
「そう、メフィストの言うとおりだよボウヤ」
エリートが不気味な笑みとともにそう言う。ギターはずっと弾いたままだ。
「あの男は奴のギターの魔力で操られているんだ。それはつまり……」
「あいつがギターを弾くのを止めさせたら、あの人は元に戻る!」
「そうだ。下がってろ真吾、こいつは俺が……」
と、突然無数の吸血コウモリが現れてメフィスト達に襲い掛かった!
「うわー!」
「演奏の邪魔はしないでもらおうか。大人しくそこで聴いているがいい。血を吸われながらな」
「こいつはいかん!魔力……あー!」
コウモリに腕を噛み付かれ、メフィストがステッキを落としてしまう。
「さあショーの続きだ!」
エリートが勢い良くギターを弾く。その音は風に乗り、神田明神で戦う嵐の耳に届き彼の精神を支配するのだ。

エリートがギターを掻き鳴らす中、メフィストは悪魔くんを自分のマントの中に匿い、吸血コウモリの猛攻に必死で耐えていた。
「ふふふ、サタン様ご覧下さい!裏切り者のメフィストの最期を!」
「この野郎、吸血鬼風情が調子に乗りやがって!」
だがステッキを落とした今、メフィストに魔力は使えない。
「ふふふ、何を言っても全然堪えんよ」
「メフィスト、このままじゃ……」
「分かってる!せめてあいつの隙を突くことができたらなぁ……」
日が次第に落ちてくる。このままでは夜だ。
「参ったなぁ、吸血鬼は夜間になるとますます調子が良くなるんだ。このままじゃあ……」
と、突然エリートの注意がこちらから逸れた。少しギターを弾く手も弱まる。
「何だこの禍々しい気配は。しかも一つじゃない……」
「今だ!」
そう叫ぶや否やメフィストは被っていたシルクハットを力一杯エリート目がけて投げつけた。シルクハットは高速回転し、つばでコウモリを切り裂きながらエリート目がけて突き進んでいく。
「あっ!」
シルクハットがエリートのエレキギターを真っ二つに切り裂いた。
「ははは、見たかエリート。コウモリども、散れっ!」
ブーメランみたいに手元へと戻ってきたシルクハットを被り直したメフィストは、ステッキを拾い上げ、コウモリを蹴散らしながら前へと出てきた。
「さあ観念しろ!」
「メフィスト、今日の所は勝負を預けるよ。チュチニチオチュ」
奇妙な言葉を喋ると、それに呼応するかのように全ての吸血コウモリがエリートの周りに集まり、その一瞬後には彼の体を大空高くへと舞い上げていた。
エリートの体はコウモリ達に運ばれ、みるみるうちに夕日の中へと消えていった。
「おいメフィスト、追わないのか?……どうした、汗を一杯掻いてるぞ」
悪魔くんが心配そうに話しかける。
「いや、何でもない。それより神社に戻ろうぜ」
もちろんメフィストも感じていたのだ。幾つもの禍々しい気配を……。

神田明神では、キョウジ達と嵐が今なお激しい攻防戦を繰り広げていた。とはいえ、実際に攻撃しているのは嵐のみでキョウジ達は防戦一方だ。
レイが牽制の意味で炎を放つ。だが多少怯むだけで嵐はすぐまた攻撃を仕掛けてくる。
そんな一同を、シドはただ傍観しているだけだ。と、
(動いたか)
シドもまた禍々しい気配を感じ取っていた。
突然、レイが頭を押さえながら呻き声を上げ始めた。慌ててキョウジがレイの肩を掴み声を掛けるが全く反応しない。やられる!キョウジは覚悟した。
だがガンビームの発射体勢に入ったまま嵐の動きが止まる。
「な、何だ?」
そのまま嵐は地面へと倒れ込み、ハヤテの姿へと戻ってしまった。
「どうやら操っていた者がやられたようだな。命拾いをしたな、葛葉」
レイを抱きかかえながらキョウジがシドを睨みつける。
「俺は行く。改めてお前が俺の命を奪いに来るのを待っているぞ」
「待てよ、逃げる気か!」
だがシドはそのまま闇の中へと掻き消えてしまった。
境内へとメフィスト達が駆け込んできた。倒れているハヤテを見て安堵の表情を見せる。
「おお良かった、どうやら元に戻ったみたいだな。ん、レイさんどうした?」
少しレイも落ち着いたらしく、はあはあ肩で息をしながらもはっきりと喋ることができた。
「く……来る……」
「来る?何が?」
「あいつが……ツクヨミが……来る」


そのほんの少し前、ガイコツ城では貴公子ジュニアがくの一組からの報告を受けていた。
「龍脈周辺で妖怪達が行方不明に?」
その報告を受け、ジュニアは少し考え込んでしまった。
(龍脈の異常と護法童子と聞いて、大魔王様はすぐにミズノエノリュウと加藤を関連付けてお考えになられた)
だが。
(もしこの両者に関係が無かったら?加藤のせいで龍脈に異常が起きているのではなく、龍脈に異常が起きたから加藤が動き出したのだとしたら?)
しかし加藤程の者が蘇れば気付かないわけがない。では……。
(やはり加藤は蘇ってはいない?)
だが事実妖怪達が謎の失踪を遂げている。
(直接行って確かめるべきか……)
「ご苦労、下がりなさい」
くの一組を下がらせた後、ジュニアは単身東京へと向かって行った。


とうとう日は完全に沈んだ。
神田明神でキョウジ達はこれからの事について話し合っていた。
「あの、そろそろ帰らないと……」
悪魔くんが実に言いにくそうに話す。それもそうだろう。妖怪達と戦っているとはいえ、彼はまだ小学生だ。
「そうだな。この兄ちゃんも介抱してやらないとまずいし……」
メフィストが未だ倒れたままのハヤテを見てそう言う。
「真吾、お前この兄ちゃんを連れて一人で帰れるか?」
「メフィスト、お前はどうするんだ?」
「俺は……ちょっと、な」
「レイ、お前も一緒に行くんだ。……正直今の消耗しきったお前じゃ足手まといになるだけだ」
キョウジがレイに告げる。
「キョウジ、あなたは?」
「……シドを追う。まだそう遠くには行ってない、そんな気がするんだ」
あさっての方向を見ながらキョウジがそう言った。
こうして、悪魔くん、そしてハヤテを連れたレイはメフィストが魔力で出した空飛ぶ絨毯に乗って帰ることになった。
「凄い、まるでおとぎ話みたい」
心なしかレイも嬉しそうだ。
「キョウジ、早く帰ってきてね。それと無茶はしないで。約束よ」
そう言うとレイ達は飛び去っていってしまった。その顔は、ツクヨミの事が気になるのだろう、強張っていた。
「さて、行こうかオッサン。抜け駆けはよそうぜ?」
「馬鹿もん、俺はな、ただ気になるだけなんだ。この物凄い邪気がな」
キョウジとメフィストもまた、神田明神を後にした。
最終更新:2013年03月09日 01:00
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