「九話 白濁の剣」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「九話 白濁の剣」(2015/04/28 (火) 15:31:18) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
剣の主は荘厳にして賎陋な騎士。名を金食夜叉というと、俺は知っていた。
ガリア王国軍に大佐の位を与えられた壮年の騎士。エスカベッシュ・グラードの駆るアームヘッド。
煽られる危機感の中、双翼ともにもぎ取られたカハタレは地面に突き刺さった。衝撃と轟音を撒く。
「カヌレよ、ここまででいい。ここから先は私の仕事だ。下がれ」黄金の鬼神から、しわがれた低温が響く。
機体越しに歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに不快感を表す廉潔の戦士は、しかし軍人であった。
「では、先に帰還します」
鬼神は笑う。
「お前のその忠心は何物にも代えがたい。以後も愚直たれ」
無言のお前に対する忠義ではない、という訴えに騎士は笑っていた。
去りゆくスニグラーチカのことを気にも留めず卑しい騎士は言った。女をよこせと。
地に落ちたカハタレだったものは、もはや動かない。
翅をなくしても地を這うよりはいいと頑なだった。
いよいよエクレーンと俺は、横たわるカハタレからぼとりと吐き出された。横たわっていたおかげでそう高い位置からではなかったが、十分に痛みが伴った。
だが痛みも屈辱も、今もそこにいる騎士への恐怖すらも忘れた。まずはエクレーンだ。今は隣にないエクレーンを見つけ、保護しなければ。あいつより早く。
見つからない。なぜだ、俺たちは落とされただけのはずなのに、遠く離れているはずがないのに、なのに見つからない。
エクレーンだけを探そうと不要なものはすべて視界の外に流しているのに、なのにエクレーンを見つけることがかなわない。
もしや彼女を不要なものと誤認しているのでは。だったら少し情報を増やしてもいいかもしれない。これじゃ暗闇だ。切り替えなければ。
ふと、人の目はそんなに都合よくできていないんだと思い出した。そんな機能はないのだと思いだした。
「くははははは、なにをしている?何を探している?醜い蛾よ、触角でも失ったか?」気持ちの悪い声を出す男。
今はいい。そんなことより、あれより先に彼女を保護せねば、と闇の中で手を伸ばした。一緒に落ちただけだ。目が見えなくてもまだ、まだ近くに。
泥で形作った希望に縋る。
「いいじゃないか、凡才。いい催しだ。いずれ目的を果たした日には、至上の見世物として飼ってやろうか」
そういうと、大きな音がした。黒い騎士が動き出したのだろう。
あれは、きっと目的を果たしている。
「まって」エクレーンの声。随分距離を感じる。物理的な距離。まるで、人型アームヘッドに捕捉されているような高さからの声。
「あなたの目的はわかる」
「ああ、そうであろうな。それがどうした。まさか、彼を見逃して、とでものたまうか?」
「えぇ」
「俺がここで見逃して益はあるか?明日自分を刺すかもしれない人間を活かすほどの」煽るように言う。
「催しごと。上の次元に達したあなたに、ちょっといいおもちゃを手に入れた程度の凡才が挑むの。それはそれは、面白いと思うけど」
くっ、くふっ、かかかかかっ、と笑い声をあげる。黒い騎士が笑っている。
「賢しいな、女。お前自身には興味もなかったが面白いじゃあないか。明日私を刺しに来るかもしれないこと自体を益とするか。なるほど、この老いぼれには考え付かなかったぞ」
アームヘッドの動く音がする。
「では、蛾よ。貴様のことを満足させられるようこちらも最善を尽くす。来たるべき日に会おう」
アームヘッドの動く音は遠く消えた。
剣の主は荘厳にして賎陋な騎士。名を金食夜叉というと、俺は知っていた。
ガリア王国軍に大佐の位を与えられた壮年の騎士。エスカベッシュ・グラードの駆るアームヘッド。
煽られる危機感の中、双翼ともにもぎ取られたカハタレは地面に突き刺さった。衝撃と轟音を撒く。
「カヌレよ、ここまででいい。ここから先は私の仕事だ。下がれ」黄金の鬼神から、しわがれた低温が響く。
機体越しに歯ぎしりが聞こえてきそうなほどに不快感を表す廉潔の戦士は、しかし軍人であった。
「では、先に帰還します」
鬼神は笑う。
「お前のその忠心は何物にも代えがたい。以後も愚直たれ」
無言のお前に対する忠義ではない、という訴えに騎士は笑っていた。
去りゆくスニグラーチカのことを気にも留めず卑しい騎士は言った。女をよこせと。
地に落ちたカハタレだったものは、もはや動かない。
翅をなくしても地を這うよりはいいと頑なだった。
いよいよエクレーンと俺は、横たわるカハタレからぼとりと吐き出された。横たわっていたおかげでそう高い位置からではなかったが、十分に痛みが伴った。
だが痛みも屈辱も、今もそこにいる騎士への恐怖すらも忘れた。まずはエクレーンだ。今は隣にないエクレーンを見つけ、保護しなければ。あいつより早く。
見つからない。なぜだ、俺たちは落とされただけのはずなのに、遠く離れているはずがないのに、なのに見つからない。
エクレーンだけを探そうと不要なものはすべて視界の外に流しているのに、なのにエクレーンを見つけることがかなわない。
もしや彼女を不要なものと誤認しているのでは。だったら少し情報を増やしてもいいかもしれない。これじゃ暗闇だ。切り替えなければ。
ふと、人の目はそんなに都合よくできていないんだと思い出した。そんな機能はないのだと思いだした。
「くははははは、なにをしている?何を探している?醜い蛾よ、触角でも失ったか?」気持ちの悪い声を出す男。
今はいい。そんなことより、あれより先に彼女を保護せねば、と闇の中で手を伸ばした。一緒に落ちただけだ。目が見えなくてもまだ、まだ近くに。
泥で形作った希望に縋る。
「いいじゃないか、凡才。いい催しだ。いずれ目的を果たした日には、至上の見世物として飼ってやろうか」
そういうと、大きな音がした。黒い騎士が動き出したのだろう。
あれは、きっと目的を果たしている。
「まって」エクレーンの声。随分距離を感じる。物理的な距離。まるで、人型アームヘッドに捕捉されているような高さからの声。
「あなたの目的はわかる」
「ああ、そうであろうな。それがどうした。まさか、彼を見逃して、とでものたまうか?」
「えぇ」
「私がここで見逃して益はあるか?明日自分を刺すかもしれない人間を活かすほどの」煽るように言う。
「催しごと。上の次元に達したあなたに、ちょっといいおもちゃを手に入れた程度の凡才が挑むの。それはそれは、面白いと思うけど」
くっ、くふっ、かかかかかっ、と笑い声をあげる。黒い騎士が笑っている。
「賢しいな、女。お前自身には興味もなかったが面白いじゃあないか。明日私を刺しに来るかもしれないこと自体を益とするか。なるほど、この老いぼれには考え付かなかったぞ」
アームヘッドの動く音がする。
「では、蛾よ。貴様のことを満足させられるようこちらも最善を尽くす。来たるべき日に会おう」
アームヘッドの動く音は遠く消えた。