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十二年目の記念日。 やり直してからで言えば三年目。この頃になるともういつだって二人の間はそれなりに冷え始めている。今回は延命すらできなかった。 「お姉さま、わかって。最後位、私の気持ちをわかって」 「なんでよ。どうしてそうなるの。私、あなたを」 「お姉さまの気持ちなんてわからない!好きでもわからない!お姉さま、私のことなんて見てないでしょう!なにか、なにかを後ろに見ているでしょう」 「そんなこと」 「大好きですけど、さようなら」 そう言ってその子は外へ走って出ていった。 驚いた。四度目だけど、これは初めての時と全く同じじゃないの。 あの子が私の指輪を拒んで、出ていった時と全く同じ。 そうだ。だから、今回もおしまい。次の思い出へ。 次の、思い出へは、逃げたくない。 私は、あの子と出会って初めて外に出た。 あの子といるときは甘えていた。夢に縋り付くようになってからはそこから出て夢が覚めるのが怖くなっていた。 ずっと二人のあの世界に閉じこもっていた。あの子に縋り付く気持ちを表すように。 なんでだか、そんなことが今どうでもよくなったのだ。 どうしても、あの子を追いかけたいと思った。 建物を出て、それから、どっちに走ればいいのかわからなくなって、なんとなく右に折れて走った。名前を叫びながら走った。 外に出た時は昼間だったのに、もう日は落ちていた。 もう出会えないかと思った。明日にはまた別の、リセットされたメリーがいるだろうけど、そうじゃない。せめて、あのメリーに。 あのメリーにでも、伝えたいことがある。 だけど最後に、そうだ、最後にあのカフェに。 そこには人混みがあった。 「メリー、いるの」 人混みをかき分けた。 「メリー、なの」 「の、ノティア、さん」 私の知らない距離感に戸惑った。ノティアさんだなんて、呼ばれたことがなくって。 「あ、あの、今はこんななので少し待っててもらっていいですか」 それに、少し老け込んでいて、けれどかわいくなっていて、私なんかよりずっとかわいくて、ああ、違うなと思った。偽物とは違うと思った。 「え、ええ」 それから一時間ほどして、人混みをなんとか解散させてきたらしく、その女性は近くの公園に移ってベンチに座る私に声をかけてきた。 「ノティアさん、お久しぶりです。あんなところでまた会っちゃうなんて、変ですね」 「そ、そうね」 「ねえノティアさん。どうして、あの店に」 急に今までしていた真似事が恥ずかしくなって、何も言えなくなってしまった。 「やっぱり、何もお話ししてくれないんですかね」 「ゆ、夢を見ていたのよ。だから、なんでか、あのお店に」 「夢って、どういうことですか」 「難しい、説明。だけど、そうね。だからね、私は、あなたとあの後を過ごす夢を見ていたの」 「気持ち悪い、夢ですね」 「ええ。そうね。とっても。やっとわかった。本当に気持ち悪い夢だって。だからね、そうね、夢にお礼くらいは言うべきかと思って」 「ノティアさんって、そんなに詩的でしたっけ」 「そ、それは、その」 「いいですよ、意地悪をしました。調和でしょう。聞きました。何日か前に、初めて会ったおかまの人が全部教えてくれました。 全部教えてくれました。アンキャストってものも、ノティアさんが今どういう状況かも、私がパウィルっていうものだってことも、ぜんぶ聞きました。 ノティアさん、教えてください。今日、この日に、あのカフェにいたのは、どうしてですか。どうして、あの日は外に出なかった人が、今ここにいるんですか」 「全部知っているんでしょう。だったら」 「ねえ、お姉さま。お姉さまは、私のために私を追いかけなかったんじゃないんですか。そう思うのは、驕りではないですよね」 「でも、それでも薄情だし、最悪だわ。それに私は、あなたを追いかける度胸がなかっただけよ」 「これ以上私のことを好きになったら、私を看取るのが辛いからですか。そのために、私の記憶を摩耗させようとして、調和に逃げたんですか。そんなに、好きだったんですか」 言い当てられるというよりは自覚させられるような気持ち悪さ。 「好き、だった。大好きだった。でも、同じ時を生きられない怖さもあった。だから、あなたに拒まれてしまった時、安堵した」 「ねえ、私は。愛されていると思えなかったんです。お姉さまを養うためのただの道具みたいな、そういう不安があったんです。どうして、愛しているの一言も言ってくれなかったんですか」 「それは、だって、言葉にしたら、もっと好きになってしまうから」 それからその子は眉間にしわを寄せて、それから私の量のほほをつねった。 「ばかで情けないお姉さま。会いたかった。だから、あのカフェにいたんです。今度こそ、来てくれるって信じて」 その言葉を聞いて、私の感情は涙となってあふれ出した。 「好きです。お姉さま。私、パウィルです。お姉さま、一緒の時を生きましょう」 「けれど」 「大丈夫。殺してあげます。私の終わりの時が来たら、パウィルの力を使って、調和を止めて、殺してあげます」 「それは、だめよ」 「死にたくないですか」 「そうじゃない。あなたを」 「好き」 「だめ、私、あなたを人殺しにはできない」 「二人がこんなに想いあってて、もうそれしかないじゃないですか」 「けど、そんなの、あなたには」 「お姉さま。これが私のわがままです」 「私を殺すのよ」 「そうですね。だけど、愛していますから。できます」 その後延々と泣いてしまった。ひたすら泣いて、泣いて、泣いて。 それから、虚構の部屋ではなく、本当に二人が過ごした部屋に向かった。手は綾つなぎで、はなれないように。 着いた部屋は相変わらずの広さで、けれど鏡台は一つしかない。そして大きなダブルベッド。 そこに腰掛けてその子を見つめた。 「本当に一緒の時を、生きてくれるの。私なんかと、いっしょに」 「お姉さま、素敵です。たくさん愛し合いましょうね」
十二年目の記念日。 やり直してからで言えば三年目。この頃になるともういつだって二人の間はそれなりに冷え始めている。今回は延命すらできなかった。 「お姉さま、わかって。最後位、私の気持ちをわかって」 「なんでよ。どうしてそうなるの。私、あなたを」 「お姉さまの気持ちなんてわからない!好きでもわからない!お姉さま、私のことなんて見てないでしょう!なにか、なにかを後ろに見ているでしょう」 「そんなこと」 「大好きですけど、さようなら」 そう言ってその子は外へ走って出ていった。 驚いた。四度目だけど、これは初めての時と全く同じじゃないの。 あの子が私の指輪を拒んで、出ていった時と全く同じ。 そうだ。だから、今回もおしまい。次の思い出へ。 次の、思い出へは、逃げたくない。 私は、あの子と出会って初めて外に出た。 あの子といるときは甘えていた。夢に縋り付くようになってからはそこから出て夢が覚めるのが怖くなっていた。 ずっと二人のあの世界に閉じこもっていた。あの子に縋り付く気持ちを表すように。 なんでだか、そんなことが今どうでもよくなったのだ。 どうしても、あの子を追いかけたいと思った。 建物を出て、それから、どっちに走ればいいのかわからなくなって、なんとなく右に折れて走った。名前を叫びながら走った。 外に出た時は昼間だったのに、もう日は落ちていた。 もう出会えないかと思った。明日にはまた別の、リセットされたメリーがいるだろうけど、そうじゃない。せめて、あのメリーに。 あのメリーにでも、伝えたいことがある。 だけど最後に、そうだ、最後にあのカフェに。 そこには人混みがあった。 「メリー、いるの」 人混みをかき分けた。 「メリー、なの」 「の、ノティア、さん」 私の知らない距離感に戸惑った。ノティアさんだなんて、呼ばれたことがなくって。 「あ、あの、今はこんななので少し待っててもらっていいですか」 それに、少し老け込んでいて、けれどかわいくなっていて、私なんかよりずっとかわいくて、ああ、違うなと思った。偽物とは違うと思った。 「え、ええ」 それから一時間ほどして、人混みをなんとか解散させてきたらしく、その女性は近くの公園に移ってベンチに座る私に声をかけてきた。 「ノティアさん、お久しぶりです。あんなところでまた会っちゃうなんて、変ですね」 「そ、そうね」 「ねえノティアさん。どうして、あの店に」 急に今までしていた真似事が恥ずかしくなって、何も言えなくなってしまった。 「やっぱり、何もお話ししてくれないんですかね」 「ゆ、夢を見ていたのよ。だから、なんでか、あのお店に」 「夢って、どういうことですか」 「難しい、説明。だけど、そうね。だからね、私は、あなたとあの後を過ごす夢を見ていたの」 「気持ち悪い、夢ですね」 「ええ。そうね。とっても。やっとわかった。本当に気持ち悪い夢だって。だからね、そうね、夢にお礼くらいは言うべきかと思って」 「ノティアさんって、そんなに詩的でしたっけ」 「そ、それは、その」 「いいですよ、意地悪をしました。調和でしょう。聞きました。何日か前に、初めて会ったおかまの人が全部教えてくれました。 全部教えてくれました。アンキャストってものも、ノティアさんが今どういう状況かも、私がパウィルっていうものだってことも、ぜんぶ聞きました。 ノティアさん、教えてください。今日、この日に、あのカフェにいたのは、どうしてですか。どうして、あの日は外に出なかった人が、今ここにいるんですか」 「全部知っているんでしょう。だったら」 「ねえ、お姉さま。お姉さまは、私のために私を追いかけなかったんじゃないんですか。そう思うのは、驕りではないですよね」 「でも、それでも薄情だし、最悪だわ。それに私は、あなたを追いかける度胸がなかっただけよ」 「これ以上私のことを好きになったら、私を看取るのが辛いからですか。そのために、私の記憶を摩耗させようとして、調和に逃げたんですか。そんなに、好きだったんですか」 言い当てられるというよりは自覚させられるような気持ち悪さ。 「好き、だった。大好きだった。でも、同じ時を生きられない怖さもあった。だから、あなたに拒まれてしまった時、安堵した」声が震える。 「ねえ、私は。愛されていると思えなかったんです。お姉さまを養うためのただの道具みたいな、そういう不安があったんです。どうして、愛しているの一言も言ってくれなかったんですか」 「それは、だって、言葉にしたら、もっと好きになってしまうから」 それからその子は眉間にしわを寄せて、それから私の両のほほをつねった。 「ばかで情けないお姉さま。会いたかった。だから、あのカフェにいたんです。今度こそ、来てくれるって信じて」 その言葉を聞いて、私の感情は涙となってあふれ出した。 「好きです。お姉さま。私、パウィルです。お姉さま、一緒の時を生きましょう」 「けれど」 「大丈夫。殺してあげます。私の終わりの時が来たら、パウィルの力を使って、調和を止めて、殺してあげます」 「――それは、だめよ」 「死にたくないですか」 「そうじゃない。あなたを」 「好き」 「だめ、私、あなたを人殺しにはできない」 「二人がこんなに想いあってて、だったら、もうそれしかないじゃないですか」 「だけど、そんなの、あなたには」 「お姉さま。これが私のわがままです」 「人間を、私を殺すのよ」 「そうですね。だけど、愛していますから。できます」 その後延々と泣いてしまった。ひたすら泣いて、泣いて、泣いて。 それから、虚構の部屋ではなく、本当に二人が過ごした部屋に向かった。手は綾つなぎで、はなれないように。 着いた部屋は相変わらずの広さで、けれど鏡台は一つしかない。そして大きなダブルベッド。 そこに腰掛けてその子を見つめた。 「本当に一緒の時を、生きてくれるの。私なんかと、いっしょに」 「お姉さま、素敵です。たくさん愛し合いましょうね」

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