無人島 女1人に男18人、そして・・・ その1
まさか、社員旅行に向かう途中で飛行機が墜落するなんて。
この事は、私の隣に座っていたあのヒステリー気味の女子社員でさえも想像していなかったでしょうね。
彼女はもういない。
私は沈まないように一生懸命泳いだ。
岸に辿り着いた時、飛行機はもう、どこにも見えなくなっていた。
私に続いて、何とか泳いで逃げてきた人も何人か見える。
本当に数えるほどしかいなかった。
「うそ・・・」
私はただ呟いた。
残りの130人余りの姿を見ることは無かった。
生き残った私たちは日の沈みゆく海を呆然と見つめていた。
しばらくしてから私は気づく。
私以外男。
1日目
突然の惨事に悲しむ私たちが眠れるはずもなく一夜が明けた。
皆、どうすれば良いか分からず、祈ったり、泣いたりしたが、道は開けない。
救助は来ない。
飛行機がまるごと無くなってしまったから、いつ来るかも分からない。
2日目
文明から切り離された人間がすることはまず文明を取り戻すことだった。
これからどんな長期戦になるか、まったく検討がつかない為に、
とりあえず、家に順ずる物を作ろうと、材料集めを始めていた。
私は、食材集めを任された。
ここは果樹園かと思えるほど、見覚えのある食べ物に溢れていて、同じ味のループになる事さえ我慢すれば食料には困らないと思われた。
なにせ女1人に男18人の計19人しかいないのだから。
4日目
とりあえずキャンプとでも呼べそうな設備は出来た。
これと食料さえあれば、救助を待つことだけは出来るが、かといってこちらから呼ぶことや飛行機を引き上げるだとかは出来ない為、する事はほとんどない。
とりあえず果物の新しい食べ方を話し合った。
6日目
社長はやはり社長だった。
抜群のリーダーシップで私を含む社員達を平等に上手く扱う。
その点この会社は良質な方だと思う。
雨が降ったので、協力してキャンプの強度を増した。
別に社長だけとは言わず、皆も優しくしてくれた。
当然私は私だけの部屋を作ってもらえた。
このままなら救助が来るまで特に大丈夫そうだと思った。
8日目
朝から天候が非常に悪い。
揺れるキャンプ小屋の中で過ごす。
風が次第に酷くなってきた。
終いには完全に嵐となって、キャンプ小屋が倒壊した。
それから嵐をどう乗り切ったかは覚えていない。
9日目
早朝には天候が回復した。
社長が離れた所で死んでいた。
誰も小屋を作り直そうとはしなかった。
11日目
男たちが、嵐で散った食料を集めはじめた。
落ちてしまったものは早く食べなければ腐ってしまう。
社長の死に、気が立っているようで、食事をしていたら「食べるならお前も何かしろ」と言われた。
最初に食料を集めてやったのは私だ。
12日目
服を洗うように言われた。
また小言を言われても仕方がないので、雨水で臭うシャツの山を持って、小川に行った。
臭いに耐えながら洗っていると、誰かが川に突き落としてきた。
違う部署の知らない男だった。卑劣に低く笑ってすぐに去った。
品のない奴。意識を引きつけようとする小学生か?
あるいは私が私の服を洗わざるを得ない状況を作ろうとしているとか?
何にせよ社長が居なくなって調子に乗っているだけだ。
13日目
男たちは相変わらず、キャンプ小屋の残骸の周辺にたむろするだけだった。
幾ら作っても嵐に壊されるだろうから諦めたのだろうか。
地位に関係なく年齢の低い男がこき使われていた。
ハゲとメタボ達は日ごろの鬱憤を晴らすかのように騒ぎ立てて、終いには社長の文句を言っていた。
私が洗ったシャツを持って来た時、男たちは勿論、仮にも女の子の前とは思えないほどにだらしない薄着であった。
いや、この時点で既に認識が変わってきていたのかもしれない。
17日目
同じような窮屈な日々が続く。
もういい加減、救助が来ても良い筈だ。
夜が怖い。
19日目
ここでは食料に困らない。
時間も、幾ら寝過ごしても余って仕方ないほどにある。
あとは・・・・・・。
男たちの視線が変わったように感じる。
女の子というのは会社でもある程度固まって組織作られるものである。
だから何人か集まってさえいれば男は自然と寄り付かなくなるものだ。
しかし今はただ一人。
私だけ離れた所に引っ越そうと思った。
20日目
何かが崩れた。
私は吉居君が好きだった。
だから、彼が私の味方をしてくれた時、とても嬉しかった。
午後には彼の姿が見えなくなった。
毒を飲まされたのだ。
正気を保っていた4人の男は死んだ。
私は本能に従って遠くへ逃げようとしていた。
あられもない姿の男たちが私を追う。
何が彼らをそうしたことに駆り立てたのか?分かるはずもないし知りたくもない。
ただ逃げる。
日が暮れる。
私はジャングルを走った。
枝に服が引っかかった。多少の服は脱いで身軽になろうとした。
それは私にとって逆効果であろうことも知っていた。
茨の森でもあれば。
そこに隠れたとしてもどうせ来るのは王子ではなくたぬきじじいだ。
岩に当たる。
月明かりが差し込む。
照らされた男たちが浮かび上がる。囲まれている。
彼らはどんな心境なのか?
頭をよぎった。これからどうやって回避するか考えてない。
これからどうなるかは解っている。
虫唾が走って泣きたくなった。
茂みの揺れる音。
素早い。
男たちも聞き耳を立てる。
唸り声。
何か居る。人間でない何か?
「うああぁぁ!?」
やっと人間らしい声を聞いた。
男の一人がひっくり返って、ひっくり返されて、月明かりから暗闇の中に引き込まれる。
完全に消えた。
また茂みの中を動く音が響く。
男たちが動揺する。
「うぐああぁ」
また一人叫ぶ。
とうとう男たちは散り散りになった。
私は動かず、そこに座り込んだ。
居るのは獣か?
ならば食われてしまった方がましだと思った。
仮に死体が残ってもどうにもできまい。
「うあぁ・・・いやだ・・・やめてくれ・・・おねがいだ・・・」
正気に戻ったらしい男の声が岩に反響する。
すごく気の毒に思えた。
生々しい音が響いた。
「やめろ!やめろ!もうやめてくれもう・・・助けてくれ、助けてくれよ!
俺にはよ・・・俺にはよお・・・女房も子供もいるんだよ・・・だから・・・もう・・・かんべんしてくれよお・・・うぐっ!!」
ん?
「うわぁ・・・うあああ・・・あっ!あっ!うっ!ううっ!・・・アッー!」
精気を失った男が草に落ちた。
私がその向こうの存在を見続ける。
それは月明かりに照らされた。
「・・・釜尾さん?」
最終更新:2011年10月25日 01:27