無人島 女1人に男18人、そして・・・ その2
釜尾さん。
サラリーマンに似合わぬガタイの良さと、ものすごく濃い顔。
その上で彼は普段から女性的な仕草を見せており、全体の印象は一度でも会ったら忘れる事は出来ない。
その大男は、女性を自ら避けており、また男性からは完全に避けられている。
ただし仕事はこなす。
わが社一のイレギュラーであった。
「釜尾さんですよね?」
私は思わず近づいた。
先ほどまで汚らしい男を見ていたので、釜尾さんがとても綺麗に見える。
「アタシに触らないで!もう!」
触れた手が弾かれた。
女嫌いは本当らしい。
先ほど釜尾さんに捕まった二人の男は、足元で死んだようにぐったりしていた。
彼に何をされたかなど全く想像だに出来ない。ことにしておく。
釜尾さんが暗闇に向かって堂々と歩き出す。
私は怒られない程度に距離をとってついていく。
現在、女1人、男11人、オカマ1人。
21日目
釜尾さんの後をつける。
川に向かって、臭いをかぐ仕草をすると、水を飲みだした。
・・・・・・。
「なについてきてんのよ!ストーカー!!」
怒られた。
釜尾さんなら容赦なく殴ってきそうな気もするので、更に距離を置く。
私も後をつけられていた。
足に蔓がかかったと思ったら既に遅い。
姿勢が崩れると、二人の男がサルの様に飛び出した。
一人が私の腕を掴んで、地に押し付けようとする。
もう一人が私の前に居て、足を掴んできた。
すでに遅かった。
男は釜尾さんに背後を取られていた。
私は目の前で起こる凄惨な光景に目を瞑っていた。
悲鳴が途切れると、足元には精気を失った男たちが転がっていた。
これはひどい・・・。
それから釜尾さんは私を突き放そうとはしなかった。
かといって近づこうともしなかった。
現在、女1人、男9人、オカマ1人。
22日目
釜尾さんが果物を拾っている様を、私は木陰から見ていた。
拾い食いを繰り返していたが、すでに私に気づいていたようで、
やがて近づいてくると、無言でパパイヤを渡してきた。
「あ、ありがと・・・」
「勘違いしないでよね!!
アタシには男が寄ってこないけど、アンタには寄ってくるみたいだから」
「・・・三竦みなのね・・・私は男から逃げて、男は釜尾さんから逃げて、釜尾さんは私から逃げる・・・」
「ホント、なんでアンタみたいのに男が寄ってくるのかしら?」
釜尾さんが言うことも分からなくない。
私は本来なら全くモテない。
「・・・近くに居てもいいでしょ?」
「やあね!女のクセにアタシを襲う気?やあね!」
そんな訳でその夜は離れて寝る事になった。
嫌な予感しかしなくて、釜尾さんに何度も言うが、怒られる。
三つの月が輝いて。
ハゲメタボが闇夜を駆ける。
疾風のごとく私を捕らえ、
烈風のごとく釜尾さんが現れる。
「なあ!なあ!聞いてくれよ釜尾!!女の子も混ぜた方が、絶対たのし・・・」
「漢の戦場に女子は必要ない」
ハゲメタボ三連月は釜尾さんのおもちゃにされてしまった。
なんだか気の毒になってきた。
「アタシのテクを持ってしてもアンタに気が行ってるなんて、アンタなかなかやるね」
何でこいつがこんなにも頼もしい・・・。
現在、女1人、男6人、オカマ1人。
23日目
釜尾さんが海を泳いでいる。
肉体美が日光を反射する。
特別、男性としての魅力を感じるわけではないが、なんかいい。
だけど私たちは気づいていなかった。
残りの男6人が、わが社の腐敗であり狂った事態の首謀である事に。
24日目
釜尾さんがいない。
そんなバカな!!
今までずっと追っていたのに!
私が男から守ってもらって、釜尾さんが男を食える共生関係にあったはずなのに!
すごく大切なものを失ったような気分。
別にそういう意味じゃないけど、すごく焦る。
だってもしものことがあったら、私は襲われてしまうから。
いや・・・すでに事態は襲っているのか?
私は見えないものから逃げる。
25日目
ついにセクハラ四天王の一人、切れ目のセクハラ王子・鹿室が私の目の前に立ちはだかった。
今回は格好そのものがセクハラという大サービスである。
細い眼鏡を逆にかけ、蔓の鞭を振り回して距離を詰める。
「・・・釜尾さんをどうしたのよ!」
「釜尾は今頃、崖っぷちに立たされて今までの行いを悔いているだろう。
セクハラ四天王・メガタヌキ、ゴールデン接待マン、セクハランと
その優秀な部下、部長課長の二人がアイツを誘い、おびきだし、
崖から落とす。
第三の性は邪魔なのだ。
そして私たちとお前がこの無人島最初の(ry」
「貴方たちより、釜尾さんの方がよっぽどマトモだわ・・・」
「さあ!私とつがいになるのだ!!」
私は試しに丸出しの急所をキックオフしてみた。
「メガタヌキ!!」
セクハランの叫びは虚しく響く。
精気を失った狸は崖を落下した。
「さ、後はアナタだけよ?」
釜尾さんが手を叩いた。
「残念だったな・・・セクハラ王子に後を託し、我々は共にここから落ちる。
本望ではないが・・・」
タックルが炸裂する前に私は間に合った。
「セクハラ王子は白目をむいてしまったわ」
「なにぃ?私だけになってしまったか・・・
ならば同志達の分、この私が堪能するッ!!」
「いいのかしら?」
「ええじゃないか!ええじゃないか!!」
「でも、釜尾さんに背後を見せてしまったわ・・・」
「アッー!?」
そして崖が崩れた。
これは仕組まれたことなのだ!
セクハランが笑ったが自分に起こっている事に気づいて気絶した。
そして私も。
私が目を覚ますと、砂浜が広がっていた。
体に痛みはない。
傷もない。
不思議だ。
ぼんやりとしていた視界が明確になる。
砂浜の向こう、釜尾さんの背中が小さく見えた。
背中には傷を負っていた。
私は釜尾さんを夢中で追った。
なんだろう。こんな騒ぎがあって、何かが解決したの?
救助もまだきていない。これから来るかも分からない。
なにが起こったのか今になっても分からない。
ただ、釜尾さんは私に嫌々でも触れて助けてくれたのだ。それはきっと確実だ。
「釜尾さん!釜尾さん!」
私は走った。
「なによ!こっちこないで!
・・・アンタのせいで男が全滅しちゃったじゃないのよ!!」
彼は足を止めていた。
このまま追ったら逃げるだろうか?
それでもいい。
「ありがとう釜尾さん!貴方のおかげで私は正気で居られたのよ!
本当!助けてくれて・・・なんだか・・・あの・・・貴方なら・・・」
「・・・アタシは女は嫌いよ?いい加減解って?」
釜尾さんは背を向けて歩き出した。
それでも私は貴方を追い続ける。
私はこの無人島で新しい可能性に出会った。
いつか、釜尾さんに相応しい「男」になってみせるから。
完。
最終更新:2011年10月25日 03:07