ゆったりと目覚め、そしてすぐに自分の置かれた状況を理解した。
 灰色の部屋――正面には鉄格子がある。
 ボイジャーレコードは、七色に輝く銀色の身体をゆったりと持ち上げた。黒いバイザーの向こうの真っ赤な瞳が点滅した。
「……!」
 鉄格子の向こうにいた一人の黄色い体色の男が何かを呟くとすぐさまどこかへ駆けだした。
「おれは誰だ……?」
 ボイジャーレコードの声が残響する。
「ここはどこだ……?」
 名前もわからない。場所も、何もかも。ただ、自分が何かを奪われたというのはわかった。
 ――記憶/笑う少女/艶のある黒髪/陶器のように白い肌/心のどこかが告げる――人間だったころ。
 ――奪われた/なにを?
 ――心を/大切なものを。
 囁き――奪われた――お前が生まれる前に――/声と共に想像(イメージ)が流れ込んでくる。
 地下牢を抜け、地表へ――。地表から空へ――見える/なにが?/空を覆い尽くすような巨大な大樹。
 ――あれは/ユグドラシルだ/木だ/なんだろう?
 不意に、吐き上げる吐き気/悪寒/違和感/嫌悪。
 それはノーズィアだ/誰かが言う。
 そっと、誰かが肩を抱いた。
 びくり。ボイジャーレコードの身体が跳ねる。
 肩を抱いていたのはボイジャーレコードよりもずっと小柄な黄色い少女だった。
「導き手(ガイダンス)の声に戸惑っているのね。その声があなたの役割をおのずと決めるから」
 ずっと若い声と幼い黄色の手が銀色の背中をさする。まるで母親のような仕草だった。まるで――甘い蜜/苦い毒。
「……受け入れて」
 びくりと再びボイジャーレコードの身体が跳ねた。それをしっかりと黄色が押さえつける。
 ――あの木が、お前の心を奪ったのだ/奪い返せ/どうして?/この世界を止めるために。
 再び、心が訊いた。心の中に侵入するもう一人の自分へ。
 ――私の名は導き手(ノーズィア)。お前の心は/記憶は/思い出は/すべて切り刻まれてこの世に散った。
(どういうことだ……?)
 ノーズィアは答えない。
 ――すべてはあの樹が/ユグドラシルが/死にぞこないが仕組んだものなのだ。
(探せ。心のかけらを……!)
 ゆっくりと吐き気(ガイダンス)が引いていった。
「……探さないと、いけないものがあるんだ」
 ゆっくりと呟くと、その肩を抱く黄色が「うん?」と訊いた。
「心とか、そういうものの欠片……」

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最終更新:2011年11月28日 19:37