トンドル上空。二機のセイントメシアが飛んでいた。スイートピーと灰色のセイントメシアサードだ。灰色のセイントメシアは翼をウエポンラックに置換し機動力が大幅に落ちている。
『シンタロくん、遅れてるわよ』
『仕方ないぜ、俺のセメントイシヤは攻撃力を重視して…』
『何そのパチモン臭い名前!』
『だってえ本物より偽物のほうが使いやすかったんだぜ、俺正直コイツの動きについていけないんだぜ』
『……』
『シンタロくん、頑張って慣れなさい。そろそろ反乱軍の拠点よ』
『パチ物のデウスエクスマキナか、あの時の決着をつけてやる!今の俺は幸太郎より強い、俺だって本物だ』
敵の拠点である島の隣の島に二機は降りた。二機はアームコアステルスにより、一定時間敵に察知されない。その隙に大打撃を与える。敵の数はヴィルトゥースが四機だ。事前に確認された、確かな情報だ。金色の機影が向こうの島の上空に見える。そしてもう一機。この島の高台に一機だ。
『シンタロくん、あいつを落とせる?』
『ああ、昔の馴染みがデデラボから盗んできた新兵器がある』
セイントメシアがウエポンラックからバズーカを取り外す。バズーカを構え、高台の敵に発射する。派手な光とともに花火を近くで聞いたような轟音が鳴り響く。
『ちょ・・・おま・・・』
オペレーターが狼狽する。
『……』
バズーカから出てきたのは万国旗だ。
『これがびっくりバズーカだ!』
シンタロが胸を張って言う。
『早く!隠れて!』
高台のヴィルトゥースがこちらに向かってくる。長く伸びた万国旗の先端の近くまで接近する。
『ニヤリ』
シンタロは口に出して笑う。万国旗がヴィルトゥースに絡みつく。
『擬似アームホーンを布状に織った新兵器アームスキンだ。どうだ驚いただろう』
『もう二度としないでよ、寿命が縮んだわ』
『……』
残りの三機も音に気づき、こちらに向かってくるようだ。だがアームコア反応が出てないため、目で確認するほかない。三機が分散する。そのうち一機が二機の隠れている岩場の近くにやって来る。岩場に近づいた瞬間、スイートピーが飛び出し、機体の胴体を両断する。アームキルも必要のない行動不能だ。両断された機体が力なく横たわる。それに気づいた二機が近づいてくる。
『これで二対二だな、燃えてきたぜ』
『……』
ヴィルトゥースの手足が本体から離れ、こちらに向かってくる。
『なんだあれは?』
シンタロが驚く。
『あの機体は手足をジャベリンのように使うわ!』
オペレーターが言った。
八本のジャベリン、いや行動不能となった機体の手足も分離して動き出した。十二本のジャベリンだ。本体されあれば味方の機体の手足をジャベリンとして使えるのだ。怯んだシンタロのセイントメシアにジャベリンが向かってくる。それをスイートピーが、フィジカルライフルで牽制する。
『シンタロくん!』
オペレーターの声でシンタロは我に返り、弾を込めてびっくりバズーカを構える。発射、今度は音はない、発射された弾は空中で分解し、中からネットが広がる。そのネットがゾンビのような操られているジャベリン包み込んで地上に落とす。対ジャベリン用投網だ。
『どうやら、自機以外の手足はうまく扱えないようね』
立てたセイントメシアの肘からビームが出る。
『ジャスティコンディショナルビーム!』
ジャベリンが一本、落とされた。スイートピーは無防備な本体に近づく。たとえ数本のジャベリンと言えども、スイートピーのスピードの前ではただの投げやりに過ぎなかった。
『……』
スイートピーが一機の首を切り落とす。その瞬間、ジャベリンのうち数本が動きを鈍らせた。
『これで終わりだ!』
セイントメシアが最後の一機にバズーカを構える。その時だった。敵の増援だ。罠だったのか?
『終わりか?いや・・・まだだ、俺はもっとひどい状況から生還した』
『……』
ヴィルトゥースがまた手足を分離させる。さっきの倍以上あるジャベリンがこちらへと向かってくる。バズーカの弾を閃光弾に変え放つ。それだけではジャベリンに対し効果は薄い。バズーカの弾を変え放つ。今度は銀色の金属片が砕けた弾から放たれる。
『アームホーンチャフだ、これでジャベリンは俺達を見失う』
セイントメシアはスイートピーの手を持ち、海の中に潜った。
『さて・・・どうする、このまま潜水大会を続けるか?だがこいつは水中用じゃない空気が持たねえ河童もこわいしな』
『……』
状況は絶望的だった。
『オペレーター、なんかいい案ない?』
返事がない。
『見捨てられたか?糞!・・・うん?』
アームコア反応がある。高速で近づいてくる。
『おい!やめろ!寄せ!』
スイートピーが確認のため浮上する。
『……』
朱色の機体が撫でるように金色の機体を落としていく。
『ヴァーミリオン・・・』
スイートピーを追って浮上したシンタロが言う。ヴァーミリオンと呼ばれた機体はこちらに気づくと、機体をこちらに向ける。朱色のボディに未発達の羽のようなバックパック、肥大化した左腕、まるでシオマネキだ。ヴァーミリオンがこちらに向かってくる。スイートピーのフィジカルライフルもヴィルトゥースのジャベリンも気にもとめずにシンタロのセイントメシアに向かう。
『くっ…』
シンタロは死を覚悟した。ヴァーミリオンはセイントメシアを包容するかのように覆い自らの頭部をセイントメシアの頭部に寄せた。アームキルか?違う。さながらそれは接吻のようであった。
『セイントメシアはすべてのアームヘッドを倒すために存在する、お前たちも俺に協力しろ』
ヴァーミリオンは冷たい声で言った。そして踵を返すとヴィルトゥースに向かって左手の指を向けた。すべての指がジャベリンとなっているのだ。フィンガージャベリンはヴィルトゥースのジャベリンを貫きながら本体に迫り一機二機と落としていった。
『……』
スイートピーはセイントメシアの腕を取り、後退する。
『逃げるっていうのかよ!』
シンタロの叫びを無視し、スイートピーはセイントメシアを引きながら全速力で撤退を開始した。
シンタロが最後に見た光景はヴァーミリオンをヴィルトゥースのジャベリンが取り囲み、覆うように突撃する瞬間だった。
最終更新:2012年11月07日 22:05