こんなプレゼントいらねえ。




男は生きていた。
身体を欠損し、あろうことか敵軍によって保護され、ハイテク医療技術によって五体満足を得る代わり、
悪趣味な人体実験に付き合わされる形で、生き延びていたのだ。
(なお実験とは何故ネタキャラは驚異的な生命力を発揮して生き残るのかを科学的に分析するというものだったが結局答えは得られなかった)

彼は終戦から一年後にそれを知らされることになった。
利用しつくされ研究所から放棄された彼が最初に見たものは、降り積もる真っ白な雪だった。
見知らぬ異国の地で、行く宛ても標もないまま、呆然と雪道に足を埋め続けて、やがて倒れた。

うつ伏せで雪に埋もれながら、男は氷の粒が肌に刺さる感覚に浸っていた。
「・・・・・・気持ちいいな・・・・・・?」
そして思い出していた。
想像を絶する痛みの中、熱砂に埋もれていた感覚と、真逆だが、似ていた。



男はまだ生きていた。
自分を貶めるきっかけになった敵に復讐したいというのは、
ありふれていたが彼の生きる理由となった。

男は路地裏のゴミ捨て場から立ち上がる。
街路に出ると、飾り付けられたカラフルな電球のイルミネーションがそこら中で光っていた。

そして道行く子供に指をさされた。
「あっ!?」
男は実験の副作用で髪の毛は真っ白になり、髭も白く変色し爆発的に増毛していた。
そしてハイテク義眼の色は薄く神秘的で、かつてトレードマークとしていたその服は今も血のように真っ赤だ。
更に拾った食料を詰めたゴミ袋を背負っていた格好だった。

「サンタクロースだっ!?」

対して男は憤怒の様相で、一本指を自らの口に当てながら睨み威嚇すると、子供は苦笑いした。



男はまだまだ生きていた。
彼は宛てない旅の末に、異国の地の寂れた廃研究所に辿り着いた。
廃墟?否。彼はここにアームヘッドが出入りしているのを偶然目撃していた。
所有者は不明だが、稼働できるアームヘッドと何らかの生きた設備があるのは確かだ。
当然これからそれを奪って、宿敵への復讐を始めるのだ!

吹雪の舞う夜中、彼は研究施設の屋根の上まで三時間かけて登った。
白く染まっているなだらかな傾斜の屋根、彼はそこに唐突な煙突を見つけた。

煙突は研究所に似つかわしくないレンガ造りで、しかも新しげな雰囲気があった。
怪しい、怪しいがそんなのは今に始まったことではない!
男は煙突から堂々と忍び込む!!


「まったくアンタ達はしょうもないことばっかりしやがって!
 たまにはテロリストらしい振る舞いをしたらどうなんだい!!」
残党の残党が集まったテログループ・パプリカーンの”首領”が怒鳴った。

「でー、でもよ首領!たまにはこういう息抜きとか、季節感のあるイベントをしないと、
 あの、なんだ?あいでんててい?ひゅーまにてい?なんかが失われちまうって誰か言ってた」
”フリスビー”が弁解しようとする。
パプリカーンのアジトはクリスマス装飾がされており、首領を除くメンバーの面々は今まさにパーティの真っ最中であった。

「士気を上げるってのはよくあるけどね、アンタらの場合はどう考えても下がってんじゃないのさ!
 だいたいもう少しマシな言い訳を思いつきなさいってんだよ!!」
首領が見上げる天井には巨大な穴が開いていた。
それは屋根の上の煙突まで通じており、部屋の真ん中に吹雪が吹き込んでいる。

「これは聖なる夜において訪れる無限の富を持つ者を捕える為の巧妙な罠、まさに袋の鼠だな」
”藍染めの翼”が流れるように言った。

「だからクリスマスには早すぎるって言ってんの!
 どうせアムヘで野球でもしててアジトに打ち込んで穴開けでもしたんだろ!?」

「ごめんなさい」
”お花畑”が言った。

「厳密にはコリボールだ」
”インペリアルおじさん”が注釈を入れる。

「ちなみにこの隠ぺい計画俺の発案なんすよーwww」
”ドヤ顔の貴公子”も言った。

そして”首領”が全方位一斉往復ビンタを構えた時の事である。
突如部屋に入ってくる吹雪が途絶え、煙突の中から不吉な物音が響いた。


「ふおおおおおおお」
煙突から落下してきた男の目に飛び込んできたのは、
赤と黄色のクリームとパプリカがトッピングされた禍々しいケーキだった。


うつ伏せでケーキに埋もれながら、男はパプリカが肌に刺さる感覚に浸っていた。
「・・・・・・気持ちいいな・・・・・・?」
そして思い出していt
「サンタクロースだっ!?」
「おいマジもんかよ」
「やはりかかったか」
「ちなみにこの計画俺の発案なんすよーwww」

「待ちな!コイツよくみりゃ薄汚ねえ、ただのコソ泥だよ!」
”首領”が一点集中往復ビンタを構えながら言う。

やがて男はクリームまみれのまま立ち上がり、パプリカーンと対峙した。
一触即発の空気の中で、男は周囲を睨みながらゴミ袋に手を差し込む。
「俺は薄汚ねえコソ泥なんかじゃねえ、この俺は・・・・・・」

「やっぱサンタクロースだっ!?」
「マジもんじゃねーか!!」
「捕獲だ!捕獲せよ!!」
「失くしたコリボールよこせ!!」

「ふおおおおおおお」



パプリカーンによって捕獲された男は尋問(クリスマス仕様)を受けて、遂にその目的を吐いた。
するとメンバーの面々は嫌な顔一つせずに優しくほほえみかけた。
男はここにいる人々が自分と同じ経緯でこの場所に至ったのだという事に気付いた。


「さて、入るからにはアンタのコードネームを決めないとね?」

「とっておきのを思いついたぜ!オメーは」

「名乗りそびれただけだ!
 この俺の名は・・・・・・”戦闘X(セントクロース)”だ!!!!」





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最終更新:2013年11月06日 21:49