私はカヌレ・クロイン、先日自分の部隊でウェスティニアへ侵攻するも失敗、部下の多くを死なせる結果となってしまった愚かしい人間である。
一応、前線にありながら四十まで生きながらえ、ガリア王国軍で少佐の位を与えられている。

今、指示を受け小さな村だった場所にいる。
村を見下ろす我が白の愛機はめらめらと赤に染まっている。
燃えている。
だが、それは仕方ない、と無理やり自分のことを丸めこんだ。慣れている。私は軍人なのだから、望むべく正義だけを成すことは許されない。
それよりも自分は確認せねばならないことがあった。本当は村の人間から話を聞きたいところではあるが、この様子では難しい。
しかし、小さな村であっても、自分で見て回るのは骨が折れる。
では仕方ない。住人の話を聞きたいが、さすがにこの状況で人に物を聞けるとは思えなかったため、消火作業を手伝うことにした。仕方なく。私は折り合いをつけるのが下手だ。
狭いコクピットの中で集中する。
風が冷たくなる。まるで冬のような。火も勢いをなくす。これがスニグラーチカの調和能力。周囲の熱を奪うという単純な能力。
物の数分で火は完全に収まった。そういう能力。

だが、村は焼けた。あまりに無残。慣れはしない。
火は消せても、火に焼かれたものを戻すことはできない。
奥歯がすり減ってなくなりそうだった。

感傷に浸る暇はない。今はすべきことがある。コクピットから降り、話を聞けそうな人間を探す。
この焼野原をこれ以上増やさないためにしなくてはならないことがあるのだ。

落ち着いた様子の老人を見つけた。
「おお軍人さん、火を消し止めてくれたこと、感謝したい」尋ねようかとする自分にそう声をかけた。しかし私にその言葉はあまりに相応しくない。首を振り、続けた。
「申し訳ありません、この村にあるという黒い蝶の形をしたアームヘッド、それを確認したく馳せ参じたのですが」
老人は苦しみを顔に表した。
「黒い蝶、ですか。」
戸惑いつつ指さす。

先にあるのは暗闇。
建物の影もない闇を指していた。
「あれはもういません」
「……覚醒したと」
「きっとそうでしょう。消えておりました。」
「そうですか」

――。
なんだ、これは。
その時、違和感を覚えた。いや、変だ。変が過ぎてかえって気づくのに時間がかかってしまった。
違う、本当はそうではない。
受け入れられなかったために気づかないふりをしたのだ。

「はい。持っていかれました。すべて」
辺りの建物がある線より先で断ち切られていた。線より先は裸の地だった。
空間が断ち切られたようだった。よう、ではないのだろう。
「いざとなった時に軍に対して対抗できる手段を持とうと隠してきました。抑止力足りうるものとして。しかし、よもやこれほどとは」老人は震えるような声で言った。
普段の自分であれば聞き逃せる話ではなかった。しかし今は聞こえなかった。

なんだこれは。
村を焼いた蝶。
村があったという事実さえ焼いた蝶。
災いの黒い蝶。
なんだそれは。

わかるのはひとつ、ただひとつ。この存在は容認できないということだけだ。

向かわねば。
討たねば。
私は、どこにいるともわからない災厄を追うべく、スニグラーチカを起動させた。

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最終更新:2015年04月25日 13:00