どこにいるんだ、あれ。くそ。アイザックの笑い声が聞こえる。今はお前じゃねえ。
見えない。前が見えない。今の問題はそこだ。目が見えなくなれば他の感覚が鋭くなるなんていうあれは嘘か。右か?左か?どこだ?
ここにきて現実が俺から溢れる血液を憂う。意識が遠のく。ダメだ。死ねない。倒れられない。逃げられない。
俺はすべきことがある。カヌレ隊長にあの子を会わせる。
初めて力を欲してしまった。

「――――」黒い蝶の声。
鮮明に聞こえる。うるさい。
「――――――」カハタレの声。
前に聞こえた時はもっとボヤっとしてたろ。黙ってろ。今はお前みたいなのに構ってる暇はないんだ。
今、お前より優先すべきことがある。

ああ、エクレーン。
あいつが笑えないのはおかしいよな。可愛いのに。
それから、エクレーン。
かっこいいとこ見せたいな。
エクレーン。
救いたい。
あ、あとエクレーン。
俺がいい。
ああ、エクレーン。
好きだ。

仕方ない、お前の戯言に構ってやる。
「――――――――」

現実に気持ちを戻す。
自分の気持ちを整理してる暇なんてなかったはずなのに、大したロスだ。
体は、意識は、今はいい。大丈夫。目は、まあいい。
彼女は危機。今はこれだけ。
あとはいらない。いらない。
気持ちを落ち着ける。

右手を上にかざす。
一瞬の無音。そして大きなゴムが耐えられずにちぎれたようなバチンという音。

彼女と俺とを隔てる空間がなくなる。
あるべき距離がなくなっている。
いらない距離がなくなっている。
それを俺の目が捉えている。失明?そんな事実もなくした。
一瞬で詰められた距離。
愛しい人。
「ドロップ!」その声。
「エクレーン!」彼女を抱きしめる。

左腕で彼女を抱き、右手を上にをかざす。
再びバチンという音。
列車の最後尾は消えた。なくなった。あの下卑た者どもが存在した事実ごと消えた。いらないものがなくなった。それを見下ろした。
ここはコクピットの中。二人だと少し狭い。でも苦しくはない。晴れやかだ。彼女の安堵の色だけで。
彼女の笑顔。俺は結局これに惚れただけの頭の悪い男。だから満たされている。これから起こることも受け入れられるほど。

彼女の目を見る。告げなくてはいけないことがあるから。
先手を打ったのは彼女だった。

「あのね、私のために世界をドロップのものにして。彼との約束なんかじゃなくて、私のために、なんて」
「……あぁ、なんだ、聞こえてたのか」
「うん。まあ。私のアームヘッドも、ほら、ね」
「まぁ、そうか、うん。まぁいいか。俺の世界ならきっとお前も笑える」
「うん、よろしく」
「おう、俺様に任せろ」
「あはは、任せたぞ。うん。任せた、ドロップ・ワールズマイン」

――少し顔が赤くなったのが分かる。ドロップ・ワールズマインはカッコよすぎて照れくさい。
俺には過ぎた名の気もするが、俺たちには相応の名前にも思えるかな、カハタレ。

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最終更新:2015年04月25日 13:02