右手をかざす。狙うは上空の白。
カハタレの尻尾が狙いを定め、橙に光る。
空間が歪むのを晴れやかな空に浮かぶ雲に見る。
歪みに巻き込まれる白は雲のみ。
消し去るべき白、スニグラーチカはこちらに狙いを定める。腰の排熱機関を吹かした。

速い。
まるで線に映る。
その速さを持って、しかし捉えきれない軌道を描いてこちらへ。
カヌレ・クロインの類まれな操縦技術を見せつけられる。

これがヨツアシであったなら既に俺はあれの目の前に立ててもいないだろうと思う。
だが、カハタレは人の意思を汲むアームヘッド。
求められるのは技術ではない。想い。熱。欲。
それならばある。隣にいる女を見る。

応えるように黒い線と白い線が交差する。
スニグラーチカの大ぶりの鎌、チェリポルカの先端とカハタレの鋭利な足が互いの肌をなぞる。どちらも損傷は軽微。
体勢を整える必要があるが、最初にあった上位という有利はカヌレの勝利を後押しする。
重力を味方に付けたスニグラーチカと、重力とスニグラーチカを相手にするカハタレ。
今この状況で俺を助けているのは間違いなく過去の弱い自分。相手の、元より持つイメージからかけ離れた動きをする自分に対しての動揺。
しかし相手の知る俺は居ない。カハタレは俺を手練れにする。きっと相手はその事実に気づいた。最悪でも疑ってはいよう。

カハタレが普通でないのは俺にもわかる。きっとあの青の不幸に近い存在だ。
だがあの青い不幸に似たフォルムの誇り高き清廉はそうではない。あの悪しき存在に近しい姿をしていても、あれは普通のアームヘッドだ。強いだけだ。
それであっても、こちらを沈めることが出来る。

その技量の高さを向かい合って初めて知った。
ならば決して何度も受けられはしない。受けるほどに自分たちの能力を晒してしまう。敵が技術を駆使する以上、それは致命的だ。
だが、だったら――。
空間を捻じり切るあれはダメだ。タメが大きすぎて通用しない。
アームキル、ダメだ、届く前に首を落とされる。

考えている間に三度の剣劇を交わす。
スニグラーチカは鋭さを増す。

想像していた以上に想像しうる最悪の事態。
自分にもう少し技術があれば何か違ったのだろうか。不安げな顔でスニグラーチカを見つめるエクレーン。

刹那、切り落とされる翅。後方にはスニグラーチカの背中。振り下ろされたチェリポルカ。
落下する。
だが落下に備える暇などない。来たる追撃に備えねば。今はそれに、と体を動かそうとする。動かない。
状況を理解した。マロース。スニグラーチカの調和能力。熱を奪う能力と聞いていたが。
あれの能力はそうではない。動きを抑圧する能力。程度はわからないが、もしや分子の運動を抑圧して熱を奪うのは副産物でしかないのかもしれない。
だが、だが能力がそれであるのは幸いだ。
上方の敵を見る。覚悟。
隣のか弱い女を見る。決意。

カハタレの教えてくれた調和能力を発動する。

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最終更新:2015年04月28日 15:01