ここは、エスカベッシュ・グラードの所有する巨大な建物。まるで牢屋。
きっと、私が呼び出す者を逃がさないための装置。
青白い不幸が、私と、エクレーン・ラヴと調和していく。
そうして思い出す。あれと出会ったのは、私が高校を卒業する日だった。
その日、教室である男の子から告白された。たしか結構モテてる人。断ったのだけど。
「そう、そっか」なんて、彼は私のもとを去った。
でも、その時別に気になる人もいなかったし、もちろん彼氏がいるわけでもなかったから、少し勿体なく思って、やっぱり、と追いかけた。
それで、彼に追いついて、その旨をなんとなくぼかしつつ話して、友達になって。
少し街を歩いた。思ったより優しそうだったけど、思ったより退屈な人にも思った。相手の緊張のせいかもしれなかった。
それで、彼は目の前で死んだ。
なんだか不自然に死んだ。
こんな平和な街に、どうしてアームヘッドが居て、どうして私の目の前の人を踏み潰しているのかわからなかった。
もうどんな見た目をしているか覚えていないけれど、そのアームヘッドは何かを探しているようだった。
怖かったから逃げた。ずっと遠くまで逃げた。高台を目指した。
坂を上って、上って。そうして後ろを振り向くと、もうそこには知っている街はなかった。
さっき彼を殺したアームヘッドは、それとは違う姿のアームヘッドに囲まれていて、それを周囲の建物ごと薙ぎ払っていた。
本当に怖くなって、そんなときに囁かれてしまったから、頷くしかなかった。
「きみのこと、助けてあげるよ。きみはここを生き延びられる。だからぼくのお願いを聞いてよ」
姿も見せないそれに頷いてしまった。
そこを生き延びた。自分の存在があやふやになるような空間で自分の知る街が崩れていく様を見せつけられながら。
両親も弟も死んだ。友達も死んだ。なんでか、あんまり好きじゃないやつばかり生き残っていた。
結局、あのアームヘッドは取り囲んでいたすべてを破壊し、探し物を再開して、それであきらめて帰っていった。
それで、すべて済んでその町に再び落とされた。
色も、音も、臭いも、全て実体を伴っていた。
「おばかさん、約束の内容も聞かずに返事しちゃうんだもん」
なに、これは。
「でも、きみが聞かなかったのが悪いんだから、約束は守ってもらっちゃうよ」
死んでる、友達も、家族も。
「そうだねえ。きみはそうならないでね」
まって、助けてくれるって。
「うん、助けたでしょ。約束通り、ここは生き延びた」
なに、それは。
現実に戻る。後方でありありと不幸の光を放つ存在に目を向けた。
これが、エクレーン・ラヴとあれの出会い。
あれと、再び。
最終更新:2015年04月28日 14:49