◎The 7th Day Wonder◎
◎Hello, World! System start.◎
「えへへ。……どうかな。似合う?」
アリスはそう言うと、頬を赤く染めながら、ゆったりとしたワンピースを少し揺らめかせた。
うっすらとした、柔らかな色合いの薄い生地にリボンが通されたデザインで、
女の子の服に全く弱い僕でも解るくらいに彼女にぴったりだった。
「うん。よく似あってるし、すごい可愛い。それにするの?」
僕が聞くと、アリスはこくんと頷いた。
そしてワンピースの襟からハンガーを抜き取ると丁寧に畳んで、そのままレジへと持っていった。
横からアリスの表情を見ると、内心うきうきしているのがにじみ出ていた。
あれから一週間が経ち、セリアさんやアリスの説明もあって、僕もある程度「この世界」について解ってきた。
「この世界」の人達は、大体80%くらいがネットワーク上から得た人格データを参考に作られたNPCであること。
残り20%が僕らのように「この世界」へ入る方法を持つ一握りの人達なこと。
以前の僕や大部分の人達のように、「この世界」に直接入れはしないけど媒体を使ってネットワークとつながっている人達の場合は、
むしろ残り20%の人達に配慮して、違和感なく接することができるようにその時だけの量産タイプのアバターが設定されて、80%側の存在として認識されること。
それにしても、と僕はそこで思った。
今でもここが仮想現実世界だという実感が湧かない。
確かに現実に「戻った」後で、僕の身体はしっかりと「出かける」前の状態のままなのは、もう何度も経験した。
アリスと一緒にお腹いっぱいケーキを食べたのに、「戻った」ら腹ペコだった、というのもあった。
ただ、だからこそ実感が湧かないのだ。
もしかしたら、「この世界」もまた現実世界なんじゃ、みたいな錯覚をすることがもう何界もある。
ただ、その思考を放っておくとなんか大変なことになりそうな予感はついたから、
僕はその度に、こうして「この世界」の実態を思い出すようにしている。
「誰か」と繋がる為のコミュニケーションシステム。
その本質は、何一つとして変わってないのだから。
僕もアリスも、孤独を埋め合わせる為の装置としてずっと使ってきたのは変わらないのだから。
そのアリスだって、もうすぐ退院して、本当に外に出られるのだから。
だからこそ、こうして。
「お待たせ、セント!」
「お、買ったね!じゃあ、次のログインの時にはそれを着てくれるのを楽しみにしとくよ」
ほくほく顔で買い物袋を抱えながら近づいてくるアリスを見て、僕はそんな物思いを中断した。
女の子と一緒にいる時まで、そんないつもの癖を続ける理由はどこにもないからだ。
……もしも。
もしも、この先もこうして、ずっと君の側にいられるなら。
明日人間が全て滅んだって、きっと何も困らない。
アリスの横に並んで、彼女の嬉しそうな笑顔を眺めつつ、賑やかな商店街を歩きながら。
僕はふと、心の底からそう思った。
僕のちょっと早い『夏休み』は。
――あと、一週間で終わる。
◎◎◎
「……進行状況は如何ですか」
「特に問題ありません。一部プログラムに若干の遅滞とルーチンフリーズが存在しますが、全体から見れば誤差の範囲内です」
「解りました。引き続き、作業の継続をお願いします」
「はい。しかし――ひとつ、聞いてもよろしいでしょうか」
「何です?」
「もし計画が完遂した暁には、あの子は?」
「――還るべき場所に、還って頂くのみです」
◎Hello, Won derland...◎
最終更新:2015年05月13日 16:33