「愛の全部なんて求めて、どうしたかったんだ」
慣れた白の空間になんとなく座って、隣の少女を見つめる。体は若干少女でもないが、まあ少女だ。
嘘に嘘を重ねて、それに耐えきれなくなっていた。
なんとか生きようと、嘘を重ねたんだろう。愛を証明するために。やっぱり俺は、こいつを嫌いになれない。
居ないやつを想い続ける辛さは、わからないでもない。
もう少女は目を覚まさない。きっとこのまま、誰も来ないこの縷々の間へ続く道で、永遠に旦那様とだけ呟き続けるんだろう。
こいつなら、それすらも幸せと吐くかもしれない、と思った。
虚ろの玉座に座せるものは、やはり虚ろの人であったが、しかしその愛だけは真実で、絶対だった。俺だけは、それを覚えておこう。
彼女の服を整えてやって、ポケットに入っていたので口紅だけ塗ってやった。
そして縷々の間へ戻る。
縷々の間に縷々姫じゃないやつが居た。
「やあドロップ君」
「なんだあんた」
「余は縷々姫だ」胸を張っていた。ていうかこいつ、胸でけえな。
「いや……」
「千代姫でいいよ。でも、るるの代わりになったっていうのは本当」
そういえば、さっき出ていくときはもう一人いた気がするが、そいつもいないな。
「あれ、しんとかいうやつなのか」
「あり、知ってんの?そそ。あれがしんくん」
「アームヘッドしか見てねえからわかんねえ」
「つれないなぁ。もてないぞ!」
「俺はいいんだよ」
「これからずっとここにいんのか」
「ま、そういう決まりだからね、仕方ない」
「嫌なのか」
「嫌っていうか、覚悟はしてる。あいつが生きてれば、なぁ」
「そうか」
ポケットをあさる。
数少ないエクレーンの遺留品を一つ投げてやった。千代姫とかいうのはそれを手に取る。
「俺の女を苦しめてた目だ。縁起が悪いから捨てといてくれ」堕胎告知だったものをやった。
それから外へ出た。
外で、知った顔と知らない顔がすげえ頭悪そうに会話していた。
「マレェドくん!私!ネオ・グリークはやめた方がいいと思うの!」
「いや、そりゃそうでしょ、っていうかもう無理だって」割れた眼鏡を悲しみながら話を続けている。
「はぁ~、世界に俺の頭の良さを知らしめてやるチャンスだったのになぁ」
「マレェドくんの頭がいいのは私が知ってるよ!」
「お前世界だったのかよ」
「いやははぁ」知った方の顔は変な笑い方でごまかしていた。
最早他人だろうがお前の娘な。随分アレな成長を遂げてるぞ、カヌレ。
まぁこんなもんだった。
世界はそんなに変わらない。正直ヘヴンはもうけっこうやばそうだ。
まぁいいんだ。そんなことは。
俺の手に負えない問題には首を突っ込まないに限る。さて、それじゃあメシ屋探そ。
最終更新:2015年08月12日 11:24