二週間ぶりに家に帰った。両親が大層喜んでくれた。
眼鏡は割れて、服もボロボロ。顎が変な感じ、けれど、生きている。なんとか生きていた。
それで、同じく生きていたラズベリィ・クロインと、うちに戻っていた。ネオ・グリーク軍に残った最後の戦力、シュガーリィ・ファイン・ナイトメアで、数日かけてうちに帰った。
だからネオ・グリーク軍はやはりまやかしだった。

ペスカトーレ・シウルは言っていた。
まずはティアーズを集めて、縷々姫を殺すのだと。だが、結局ティアーズなんてものをかき集めても、その姿を拝むこともできなかった。
なんというかあんな、昔何かがあった跡だという何もない場所であんな大それたことして、よくわからない二週間だった。
誰一人同じ方向なんて向いてない五人組だった。
ペスカさんは明らかにネオ・グリークじゃなくて、縷々姫を殺すことを目的に動いていた。機体が望むからそうしているんだと言っていた。自分は今に満足しているからと。
もう一人今に満足してる人がいた。あの人は、まぁ、多分もう、人として間違っていた。
王なんて呼ばれてたあの子だけが、ネオ・グリークを見ていたけれど、けれどやはり、ネオ・グリークじゃないところを見ていた。
もちろん、俺の隣の女はなにも考えちゃいなかった。ペスカさんから頭が悪いのは調和能力のせいだと聞いたが、今もそんなに大差ない。

結局、目的すら同じじゃない人間が集まってたんだ。まぁ、それでもちゃんと役割を果たしていれば目的は達成されたはずだが。
でも結局、俺も含めて、誰も、自分の役割を果たす気がある人はいなかった。
みんな、自分のしたいようにした。したいことがないバカは何もせずに負けた。

相手は、ひとつのしたいことがあって、そのために自分が何を出来るのか知っている人たちだった。立派な人たちだった。
俺のアームヘッドの足から味方をかばって死んだ人は、それはもう男として憧れない理由がなかった。
はなから数で勝てる相手ではなかったわけ。質が違いすぎた。

だから当然、その先にあったネオ・グリークという夢は虚のまま、いや、はっきりと打ち消された。
それでもよかった。
それでよかった。

俺も結局、俺の頭の良さが思うように評価されないことが嫌だっただけ。俺が暗いといって虐げられていたのが嫌だっただけ。
でも、そのあたり、あんまり気持ちは変わってない。
ただ、両親は俺の味方だとわかったから、ある程度満足していた。そういえば、いつも過保護な人たちだった。
ひとしきり抱きしめられて泣かれて、それから父が言った。
「マル、駆け落ちごっこはもうよしてくれ」
「そうよマル、私たち、子供の恋愛に口出ししたりはしないわ!」母が援護射撃を加えた。

「いや、違う。俺とこのバカはそんなんじゃない」
「なにが?」こちらの味方は既に負傷していた。バカはつづけた。
「あ、名乗り遅れました!ラズベリィ・ペッパーです!パパ、ママ、これからよろしくお願いします!」
まぁ、と両親が言った。俺は言葉を失っていた。

だがバカは止まらない。今度はこちらを向く。
「あ、そうでした。私、マレェドさんと結婚したいんです!いいですか!」
「は、はぁ?」
「結婚です!私、頭悪いから、呆れないでずっと相手してくれる人ってパパ以外で初めてで、だから、結婚するならこういう人だなって!
お付き合いするならもっとわかりやすくカッコいい人がいいなって思うんですけど!結婚ってなるときっとこの人とだって思ったんです!だから、しましょう!」
「お前、ちゃんとアームキルされたんだよな」まだ違和感を切り捨てる調和能力とかいうのかかってるんじゃねえのか。
俺はこいつに呆れてなかったことがないし、少なくともあの三人も俺くらいはこいつに優しかった。ていうか、こいつ失礼じゃないか。
「はい!けど、私にとってはマレェドさんがベストなんです!だから!」
手で最後の言葉を遮った。なんていうか、こいつはやっぱり頭が悪い。よく顔を見なけりゃわからなかったが、すごく必死なんだ。可愛かった。
なんでか俺に。いや、なんで俺なんだ。気が付くと声になっていた。
「マレェドさん、優しいのに優しくなくて、意地悪のくせに嘘つけないでしょう。あとバカって呼んでくれるのが可愛くて好きです」
「お前の言ってること、最高に意味が分からん」
本当はちょっとわかってた。
帰り道で話してくれたことを思い出していた。両親が分かれたこと。わかれて、優しい嘘つきに引っかかって母親がおかしくなったこと。

「あのな、いいか」俺は最高に粋な返しを思いついた。
「俺みたいな日陰者がな、お前みたいな、か、かか、かわいい子と、なんて、そんな、ベストってか、ミラクル、みたいな……」渾身の返しは声にならない。
「えっと、日陰者ってなんですか?」それ以前の問題だった。仕方なく説明する。
それを両親が生暖かい目で見ている。自分の子供がこんなバカと結婚しようとしてるんだぞ、心配しろ。
まぁ、今更止められる方が困るか。
気合いを入れて、お付き合いするにもマレェドさんと言わせてやるようなプロポーズをする。

「なんかその、俺の方こそ、もったいないくらいなんで、卒業したら、結婚してください」

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最終更新:2015年08月12日 11:23