まぁ、私はやっぱり頷いてしまったのだった。
甘い判断は自分を不幸にするって知ってるのに。
変な感じがするんだけど、目の前には並の女の子よりずっとかわいい男の子、その子を挟むようにちゃらちゃらとしていて目が変な方向剥いちゃってる人と、保護者くらいの年齢の綺麗な女の人がいた。
私は絶対自分に関われる範囲の出来ごとじゃないって悟ったんだけど。
でも、正直無理でしょ。かわいそうすぎて、手伝ってあげたくなる。大好きな人の願いを胸に頑張るなんて、応援するしかないじゃない。
もう別れちゃって会えないけど、私はママよりパパの方が好きだった。パパの方がまっすぐだったから。
ママみたいにパパと別れて嘘つきな男と楽しい感じになっちゃうようなのは嫌だったから、だから応援したかった。
そういえば、あれと出会った時も同じだった。
シュガーリィ・ファイン・ナイトメアはそうだった。
彼は死にかけだった。パイロットをなくしたアームヘッドは、退屈に押しつぶされて死にそうだった。
今ならわかるんだけど。退屈に押しつぶされて死にそうになるようなやんちゃに協力しちゃったのがまずかったんだって。でも結局動けないのがかわいそうで協力しちゃった。
大体、普通のかわいそうなアームヘッドなら市街地で死にかけたりしないよね。きっと相当やんちゃだったんだ。
そういえば、なんでか彼は私が協力することを決めてすごく辛そうな声を上げてた。
彼は固有空間に戻してあるから結局あれ以降、彼のことを見てはいないんだけど、ちゃんと聞いておくべきだったのかも。
今回もなにするのか聞き忘れちゃった。まあいっか。
聞き分けの良すぎる私は、こうして数日前にネオ・グリーク軍に入って、誰もいない家を出てきてしまったのでした。
という話をした。
「あなた、バカですか」眼鏡の男子学生はそう答えた。
パソコンとか、本とか、おもちゃとか、たくさんある部屋だった。壁にはポスター。
男の子の部屋に二人きりでいるのに、ひとつもドキドキしなかった。
「そもそもなんですか、ネオ・グリークって。なんだってあんな微妙な国なんですか。ウェスティニアとかあるでしょうよ、アプルーエの旗印になってくれる象徴なんて」
よく意味が分からなかった。まあいっか。
「まあそうなの。そういうことだから、ネオ・グリークの重役の席をあげるから協力してって」ペスカトーレ・シウルからの伝言を多分一言一句違えず伝えた。はず。
「……いや、そうなの、じゃないから。全然そうじゃないから。根拠が足りなさ過ぎてネオ・グリーク信じてないから、俺」
「え、そんな!」どうしたらいいの!
「で、でもできます!あなたも知ってるでしょ!ティアーズ!あれがいっぱいいるんですよ!」
眼鏡の目の色が変わった。眼鏡、名前なんていうんだっけ。
「あ、わたし、ラズベリィ・クロインです」多分名乗ってないんだ。お互い。
「いや、それもう聞いたし。なに、名前忘れたの。マレェド・ペッパーだよ」眼鏡は答えた。私は初耳の気分。
「ところで、ちょっと興味わいたんだけどさ、あんたじゃ話にならないから、別の人間よこしてほしいんだけど」
きた!計画通り!ペスカの!
「あ、はい、じゃあ!」部屋から出て、階段を下りて、外へ出た。二階の窓を見ていたペスカが呆れた顔をした。
「呼ばれたのね」頷いた。
私はそのあと出ていくように言われたのでヨワちゃんとジャックとご飯を食べに行った。ハンバーグを食べた。
ヨワちゃんはたまにしかものを食べないけど、今日はピスタチオのムースを食べてた。美味しそうだったけど一口くれなかった。
ジャックは何食べたっていうか、食べ方汚くてあんまり覚えてない。
食べ終わって戻ると、眼鏡君が旅立ちの準備をしていた。背中には黒いアームヘッド。
あれが、えっと、その顔を見てジャックが「ブロウクン・フウルワールドだよ、ばか」と教えてくれた。こいつは何気に優しい。
「よろしく、眼鏡君、わたし、ラズベリィ・クロイン!」呆れたような顔で差し出した手を握り返してくれた。
「はじめまして、マレェド・ペッパーです」なんだか刺々しかった。
最終更新:2015年05月27日 01:25