あれからまた数日。その日の新聞はセンセーショナルだった。
連合王国の成立によってフォイボスタイプの技術が広まり、ついに廃れたあの四つ足のアームヘッド、ヨツアシが群れを成してガリアが首都、ロアールに攻め込んできたというのだ。
あんな骨董品には何もできまい、と一蹴したいが、結果から言えばフォイボスMK-8部隊は半壊したらしい。
さらに言えばヨツアシ部隊は現在第二波が確認されていて、その圧倒的な物量はマシンスペックの差を覆しかねないほどなのだという。
たしかにフォイボスタイプの技術が浸透するまではガリアには非力なヨツアシのマイナーチェンジ品しかなかった。
そのためにそれなりの数が用意されているのもうなずけない話ではない。
それでも、設計する側の立場から言わせてもらえばフォイボスMk-8のスペックはヨツアシの数程度に脅かされるものではないはずなのだ。
ヨツアシがピストルだとすればフォイボスMk-8は爆弾。
空を飛べないというだけでもそのディスアドバンテージはひどいものなのだから。

それを覆すほどの数となれば果たして。
その大軍を率いていたのは、黒い蝶の様なアームヘッドなのだということだった。

ともかく、これによって今まで目が死んでいたガリア地区の上層部は多少引き締まった様子だった。
おかげで今日はこれまでと違い仕事量が多い。どちらにせよ俺の目的はフォイボスMk-9の完成だし、上層部が本気になってくれたのはありがたい。
もっとも、この状況で求められるのは開発ではない。Mk-8のチューンアップを求められていた。
ガリアとしては現在は連合国内に協力を仰ぎ、第二波集団へのゲリラ攻撃で最大までここへの到達を遅らせるのが精いっぱいだった。
この状況を打破できるような何かが求められていた。その結果、設計屋に回ってきたのはそういう仕事だった。
正直、そんな都合のいいものは浮かばないし、さっさとMk-9を開発していればよかったんだ、と腹も立ったが今やガリアは俺にとっても守らねばならないため、無下にはできなかった。

そうして、なにかないものかと工場の中を見ている時にそれと出会ったのだった。
純白のアームヘッド。ドレスの様で、しかし兵器然としているアームヘッド。
GI-002。カヌレ・クロインの愛機、スニグラーチカと呼ばれた者だった。

それでふと思い出した。あの戦いの日のこと。
真っ赤なアームヘッドを駆り、動かないままに倒れたラズベリィのことを。
違う。その次の日のことを思い出した。
真っ赤なティアーズを我が身のように操る彼女のことを。彼女は俺の家へ向かう道のりで、前日に動かないまま倒されたとは思えないほど素晴らしい動きを見せた。
それを思い出した。
彼女の操縦技術は本物だ。ただ――。

上層部の前で自分に与えられた仕事を放棄し、Mk-9が自分の改良案です、などとのたまった。これまでずっと開発してくれと頼んでいたはずだと責める口調だった。
渋い顔をしている上層部にもう一つ無茶を言った。
「代わりにこちらもやれることをやろうと思います。そのため、スニグラーチカを頂きたい」
既にカヌレ・クロインという伝説は連合で意味を持たないために、改修案を見せると、それはあっさりと承諾された。

それからは早かった。
連合国内の協力によって第二波の鎮圧に成功。
しかし続く第三の波についに押しやられ、ヨツアシ部隊はサンパトリシアに襲来した。
だが、Mk-8のチューンアップ品が数機配備されていたのが功を奏し、なんとかヨツアシ部隊を食い止めていた。
更に、急造のアームヘッドはガリアの首都ロアールにもう一機あった。当然、スニグラーチカだ。

激戦区となったサンパトリシアにヨツアシの大軍を置き去りにし、黒の蝶はその場を離れたのだから、その後に起こることは当然決まっていた。

見合うのだ。黒の蝶と、雪娘が。
こうして、あの伝説の一日のように、黒と白が再び対峙する。

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最終更新:2015年05月28日 21:10