――白く巨大な鉄の翼が、長大な滑走路の上をしばらく滑り、停止する。
障害物のひとつも在り得ないアスファルトを踏みしめるランディングギアの金属音も、
本体のジェット音で、漏れ無くかき消されていく。

その腹からわらわらと歩み出てくるのは、容姿も服装も十人十色。
黒いスーツに身を包み、焦るような表情で腕時計をちらと見る青年。
胸躍る興奮のままに声をあげ、困ったように微笑む両親に手を引かれていく少女。
いかにも高級そうな上質のコートを羽織り、妻と思わしき女性と共にエスカレーターを下りる壮年。
統一性もへったくれもない人々が、殆どつっかえるようにして空港内へと流れていく様は、
極めて乱雑だというのに、どこか無機質ですらあった。

その中で、一際周囲の視線を集めながら進む二人がいた。
片方はまるで人形のような、非人間的なまでの端麗さを持つ金髪翠眼の女性。
そしてもう片方は、中性的で小柄な体躯を、コートと競泳水着で包んだ白髪赤眼の少女だった。

……当然、少女はすぐさま警備員に確保された。

◎◎◎

「――いやあ、大変だったんだぞ」
ニューストライプス空港の正門からのたのたとした足取りで出てくる少女は、呑気な口調でそんなことを言った。
先程と服装が全く変わっておらず、やはりコートと水着とブーツ、
そして何故か強い日差しにも拘らず、ストールを首元に巻いていた。

「誰のせいだと思ってるのよ。だから普通の格好しなさいって何度も……」
そんな少女の背後から、キャリーバッグを引く音と共に恨むような声が響いてくる。
正門の日陰を抜けて、太陽の光に照らされる、黄金のような髪。
緑の瞳をサングラスで覆いつつも尚も隠れない美貌が、少女への呆れに歪んでいた。

「そういえば、なんで捕まえた割にあの警備員達はすぐに放してくれたのかしら?」
燦々と照りつける日光の熱を感じながら、金髪の女性が疑問に首を傾げる。
その微妙な表情を見た水着少女は、なんでもないことのように答えた。
「途中で面倒臭くなったから、精神操作で普通の格好に見せたんだぞ」

「……ムスタング、貴女ねえ」
頭痛でも起こしたのか、金髪の女性が眉間に指を当てながら少女――ムスタングに向けて、更に呆れた声を出した。
対するムスタングは特に気にした風もないまま、その赤色の瞳を湛える瞼を、日差しに細めた。
「ま、大丈夫だろ、アイリーン。
あれだって要は防犯なんだ、悪いことさえしなけりゃ問題ないんだぞ」

――再び動いたキャリーバッグの転がる音が、間もなく多数の靴音と喧騒にかき消される。
ここはリズ連邦共和国協同連合は首都、ニューストライプ自治区の空港前。

二人は、騒音と嬌声の響く街の中を、歩き出した。


――その僅か数十メートルほど背後、ビルの物陰。
特徴のないコートと帽子を被った、青年のような老人のような奇妙な容姿の男が、
穏やかな――それでいて、どこか酷薄な笑みを浮かべながら、二人の背中を見つめていた。


「――こちらNo.09。
 アイリーン・サニーレタス、及びムスタング・白樺を確認した。作戦の開始をお願いしたい――」

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最終更新:2015年09月09日 11:28