「へえ、セイントメシア・・・グレイサード・・・。
あたし?あたしはね・・・そう、アカリ!アカリってんだ」
赤毛の謎の少女は、いっさいの陰を感じさせない無垢な笑顔で答えた。
「あ・・・アカリ、さん?御蓮の人?どこ住み?何でそいつに乗れたんです?」
辛太郎が再び疑問を返すが、グレイサード背後で瓦礫が巻き上がる!
『調子に乗るなよ!バイオニクルウェポン風情が!』『よくも彼の顔を傷つけたわね!』
先程のロンリーアンドが復帰したのだ!再び辛太郎たちへ迫る!
「この子はあたしが預かるから!そこで待ってなさい!」
美少女アカリがメシアに乗り込みハッチを閉じようとする。
「ちょっと待て!危ないぞ俺が!それにイシヤは俺が一番上手く使えるんだ!!」
辛太郎も慌てて飛び込んでくる。アカリはそれを避けてコクピットの隙間に乗らせるも、操縦席は譲らない。
「何よ!あんた一回落とされたくせして!グレイサード君がかわいそうじゃない!」
「ええ…お、俺の機体なんですけどお」
しかしグレイサードは新しいパイロットをすんなりと受け入れ、ロンリーアンドを睨みつけた。
『誰が乗ろうと!』『私たちには勝てないわ!!』
ロンリーアンドの両足が着地し、両手に持つ槍、計四本が一斉に襲う!
対しグレイサードは肩から生えたウェポンラック(本来セイントメシアなら翼が生えている部位だ)の端に付いた、
推進ブースターを点火!地を蹴って後ろへ飛び上がり、刺突を回避!
「そうよ!あんた達"は"勝てない!!」
灰メシアは↑の落書き壁を破壊しながら後退上昇!
ウェポンラック翼を形成する羽根の一つ、セメントイシヤ時代からの武器・セメントブレードを引き抜く!
「どりゃーっ!くたばれー!」
グレイサードの左側スラスターが火を噴き機体が高速旋回!ブレードを豪快に振り回しながらロンリーアンドへ!
『無茶をする!』『いけないわ!』
ロンリーアンドは四つ槍での迎撃を試みるが、力強い回転斬りにまとめて押し込まれる!
両体は仕方なく跳び退る!勢いそのままに建物に突っ込み回転破壊を続けるグレイサード!
「・・・はあはあ、やった?やったの?」
「ふええ・・・こわれちゃうよう・・・」
辛太郎の情けない悲鳴に、アカリは目をジトっとさせる。
それから不服げに操縦席を降りて辛太郎に促す。
「シンタロ・・・・・・あんた、ホントに戦えるの?」
「ああ、優秀なオペレータがいればね」
機嫌が戻った辛太郎が再び、グレイサードと意識を同期させる!
『誰が乗ろうと・・・』『それはもういいでしょ』
ロンリーアンドの槍・スパークショックライフランスは、帯電可能な槍刃と電撃銃が合わさった複合武装である。
二体は両手に持つ槍を反転させ、刃の逆側に付いた銃口を先端に、二丁ライフルめいて構える!
そして瓦礫の中に立つグレイサードに対し、囲い込む形で十字集中砲火を浴びせる!
「クソッ、隙を与えたかッ」
電磁ライフルの連射を浴びて感電し動作が阻害されるグレイサード!丸焼きも時間の問題!
「ロンリーアンドは両側に当てなきゃいけないのは知ってるよね?やっぱり暴れるのが一番でしょ」
「そうは言ってもだな・・・」
アカリの能天気な助言に押し出されるようにして、辛太郎は機体を前進させる!
地を蹴ったグレイサードは電撃に眩みながらも、左指先を敵へ向けレーザー牽制しつつ迫る!
接敵に対し右ロンリーアンドはライフルの一丁を回転させ再び電磁槍に!
「うおーッ!」
グレイサードがセメントブレードを振り下ろす!ロンリーアンドの槍の柄に付いた鉤刃がブレードを受け止める!
その鉤からも電撃が発生!金属の刀を流れ伝い、グレイサードの腕を焼く!
『どうあがいてもお前を待つのは感電死!』
「ふっ、電気ビリビリで倒される前例は無いぜ」
辛太郎の隣ではアカリが外を指している。同様にグレイサードの左手もその方向に。
その射線上には左ロンリーアンド!指先の光学レーザーを小刻みに連射!
『あっクソッ、逃げろアンちゃん!』『心配ご無用よ!』
左機体に辿り着いた光線は、貫く前に覚醒壁と電気スパークに飲まれ消滅!ロンリーアンド単体を攻撃すると働く防御機構だ。
右ロンリーアンドが安堵したも束の間、槍の鉤で捕えていたセメントブレードの先端、隠し水圧レーザー砲がこちらを向いている!
セイントメシアグレイサードは刀の先と指の先、両方のレーザーを同時発射!
ロンリーアンドの防御機能が働かず、二体を貫く別種の光の帯!
次いで灰メシアはブレードを袈裟懸けに浴びせる!右機体の胴体を斬りこみ、左機体が光線で新たに穿たれる!
予定外に傷を負わされたロンリーアンドは瓦礫を跳び越え後退し、別な建物を瓦礫に変えながら集まり体制を立て直す。
『大丈夫?ロンくん?』『俺は大丈夫だ、アンちゃんこそ気を付けろよな』
左右のロンリーアンドはかばい合うようにしながらグレイサードを睨みつけてくる。
「チッ、見せつけてきやがって・・・・・・」
「シンタロ、ロンリーアンドのコアは一個だけだよ!あれは一人芝居みたいな感じ」
「エエ・・・・・・うげげッ、さっさと倒すか」
グレイサードはブレードを肩ラックに差し戻し、隣にぶら下がる巨大な円筒に持ち替える!
「びっくりバズーカを使う!」
これはヘブンのデデバリィ研究所で開発された試験武装だ。様々な弾種に対応する発射機構を持つ!
辛太郎が選んだのはセメントイシヤの代名詞セメント弾だ!大口径から放たれる特殊セメント!
一方ロンリーアンドも四丁の電撃銃でサードを狙う!そこへ飛び来る灰色の液体弾!
『何だ?』『弾が遅いわ!』
二体は繋がれた伸縮器官を伸ばし、間隔を空けつつ跳んで回避!
その間にも稲妻を放ち続ける!グレイサードは肩ブースターを交互に吹かしながら掻い潜り、ばら撒くようにセメントを撃つ!
着地したロンリーアンドの足元に違和感!着弾して広がったセメントが急速硬化し捕えようとしている!
『くっ、これは・・・・・・!』
「驚いたか!これがびっくりバズーカの力だ!」
『あっ私のヒールが!許さない!!』
女ロンリーアンドが両手の槍を下に向ける!そして地に突き立てながら足を引きはがす!
右機体も同様に槍を足代わりに立つ!そして竹馬めいて槍で歩き出すロンリーアンド!
接地面積が減った上に、繋がれた二体の交互歩きに竹馬の要素が加わり、その挙動は更に予想外に!
「厄介なヤツらだ!だがあの状態なら攻撃も出来まい!」
辛太郎の狙いがブレまくり、その先には竹馬で器用に跳びまわる二体!セメントトラップは最早無効!
『今よロンくん!』『頼んだぜアンちゃん!』
突如男ロンリーアンドが槍を突きたてながら前傾着地!
背中に伸びる器官で繋がれた左機体を投げるように振り飛ばす!
グレイサードの頭上に、槍を下に向けたままの女ロンリーアンドが降ってくる!
『私たちに不可能は無いのよ!死になさい!!』
垂直降下の二振りの刃がメシアの肩口を裂く!
「うぐわーッ!?」
更に女ロンリーアンドが跳んで身を翻す!男機体も宙へ浮き振り回される!
ロンリーアンドは空中でアメリカンクラッカーめいて回転!グレイサードに刃を叩きつける!
「しっかりしてよシンタロー!」
手痛い一撃を受け、グレイサードは吹っ飛ばされるも、直前に至近距離でセメント弾を放っていた!
それはロンリーアンドの防御機構によって弾かれるものの、バリアと共に生じたスパークは目くらましにはなる!
隙を突いて辛太郎は機体を起こし、後ろへ、横へと滑らせて、生身で逃げていた頃と同様の動きで敵と距離を取る!
電子回路めいた街並を逃走するセイントメシアグレイサード!低姿勢飛行で背の高い建造物に身を隠しながら移動を続ける。
「ちょっとシンタロ!戦えるんじゃなかったの?グレイサード君が痛そうじゃない!」
「なんだと?まさか必殺のセメント砲が効かないとは!何か案はあるのかよ!?」
頭上では稲光が飛び交い、周辺の建物のアンテナに着弾し爆発!
「ヤツら全然建物も壊してくるし、このまま隠れてても無駄だよな・・・・・・」
「あ、そうだ。ロンリーアンドのコアは1個って言ったでしょ?何処にあると思う?」
「やっぱりどっちかの頭じゃないのか?」
「二体を繋いで、びょーんって伸びてる細いアレ、あるでしょ?あそこの真ん中、よく見ると小さい頭と角があるの」
「ほえ~そこまで見る余裕無かったぜ・・・・・・うん?そこが本当の頭でホーンもあるなら、アームヘッド本体はその部分てことか?」
「なんかそういうの。片方に流れた衝撃はもう片方のノーダメージで上書きして、
両方に流れた衝撃だけが真ん中の頭に知覚されるとか、なんかそんなよーなこと言ってた」
「言ってた?・・・なんか、怪しいぞお前!アカリさん!」
「あそこにはバリアが無いんだけど、あいつもそれを知ってるからなかなか止まってくれないんだよね」
「弱点知ってるならもっと早く言ってくれ!それならこんな醜態を晒すことも!」
「そうよ!最初からあたしに任せてればグレイサード君を傷つけずに勝ててたのに!」
「ひ、ひどい・・・・・・お、俺だって、君の知らないグレイサードの能力で勝ってみせる」
灰メシアは壁に背を付け座り込み、びっくりバズーカに弾を込める!
『オラオラ~どこに隠れやがった?』『アハハ!結局逃げるなんて、生身の時と同じじゃない?』
周辺一帯にはアームホーン・チャフが撒かれており、互いに目視が頼りの状況だ。
竹馬移動を続けるロンリーアンドは槍を屋根の上に突き立て、あるいは建物を突き潰しながら、
不規則な上下左右運動と共に次第に迫りつつある。
『ハァ、そろそろ降りてもよくない?』『いや待て』
男ロンリーアンドの見下ろす先には、地面に張り付いたセメント弾痕があった。
危うく足を取られる所だったが目標は近くに潜んでいるということだ。
『手分けして探すぞ』『手分けして探すわよ』
二体は雷撃を手当たり次第に撒きながら離れていく。
一方グレイサードの周囲では、槍の竹馬が地を突く鋭い足音と、電撃銃の発する閃光と雷鳴が激しくなりつつ迫っていた。
辛太郎は伏せながら状況を把握しようと試みる。金属音は左右から交互に響いてきている。その音は次第に強くなる!
左からの音に比べ、右方からの音の方が大きい!このまま行けば右ロンリーアンドに見つかるのは時間の問題!
グレイサードは両肩翼の先のブースターを吹かし、腹部を地に削るような超低空飛行で建築の陰を縫う!
『ん?』
ジェット噴射音を聞いたロンリーアンドが周囲を見回す!すると目前のビルの陰に動き!
すかさず電撃銃を浴びせる!だが陰から転がり出たのは砲丸だ!破裂しセメントをばら撒く!
『見つけたの!?』『いや・・・・・・』
ロンリーアンドに走る悪寒!二体の背後の建造物群を横に抜ける影!
その正体、セイントメシアグレイサードは着地し滑りながら、ビルの隙間でびっくりバズーカを構える!
狙う先にはロンリーアンドの伸縮器官中継部!
「こいつを喰らえ!」
びっくりバズーカから放たれたのは万国旗!その旗の一つ一つが擬似アームホーンで編まれたアームスキンだ!
一撃必殺の刃が連なる旗が、伸縮器官に巻き付く!だがアームキルに至らず!刺さりが甘かったか!
「チィッ、やったと思ったのに!?」「いいえシンタロ、この調子!」
今や二体のロンリーアンドだけでなくグレイサードも万国旗によって繋がれた状態!
『くそう、逃げっぞ!!』『待って!』
男ロンリーアンドが高く跳び上がりかけるが、器官に巻き付いたアームスキンがより固く締め上げる!
アームキルを危惧した左機体が引っ張り相方の離脱を阻止!
『まずはこれを斬らなきゃッ!』
女ロンリーアンドは電磁槍で万国旗を切り掃おうと試みるが、右機体はそれを槍で弾き返す!
『待てよ!俺たちを繋ぐ運命の黒い糸までも断ち切る気かよ!?』
『じゃあどうすんのよ!今はそれどころじゃないでしょ!?』
『それどころだと!斬ったらどうなるか知らないのかよ!俺たちお終いだぞ!』
『ええそうね切っても切らなくてもお終いかもしれないけどね!』
『何怒ってんだよ!』
二体のロンリーアンドがお互いを槍で突きはじめる!ダメージは通る!
「見苦しい一人痴話喧嘩だ!」
グレイサードはバズーカと逆の手に、ウェポンラックから外したスマートセメントガンを握る!
そして万国旗を引っ張りながらセメントガンを撃つ!狙いはロンリーアンドの両足!
『ぐッ!?』『バカ何やってんのよッ!!』
二体のロンリーアンドがセメント弾によって地に足を縫い付けられる!仲間割れの為に防御機構が働かない!
「まさに形勢逆転だな」
「ゴー!シンタロ、ゴー!」
灰メシアは両手の銃を構えたまま指先からの光学レーザーを連射!ロンリーアンドを貫く!
『こうなりゃ仕方ねえ』『よりを戻すわよ!』
ロンリーアンドは喧嘩を中断しグレイサードに対し電撃銃を集中砲火!
互いに損傷を受けながら正面から撃ちあうこととなったが、グレイサードは後退し建物の陰へ!
『フン、また逃げ・・・』
調子に乗ろうとしたのも束の間、ロンリーアンドの中継部が引っ張られ締め付けられる!
グレイサードは万国旗を建物に巻き付け、びっくりバズーカを屋根に突き落とす!確実な釘付け!
「そっちこそ逃げた方がいいぜ!」
空いた右手にセメントブレードを取り、左手のスマートセメントガンをラックに戻す!
そして取りだしたのはかつて戦闘X(セントクロース)という男から譲り受けた大剣・トシコソード!
両手の剣に加え、両腕の側面からも光刀レーザーレイザーを発するグレイサード!
背後の壁を蹴ってロンリーアンドの頭上に躍り出る!
対して二機は激しくスパークする四本の槍で空中のメシアを迎え撃つ!
グレイサードの鉄の刃が電磁槍を弾き、光の刃がその後をなぞって柄に傷を負わせる!
着地したグレイサードは最初アカリがやってみせたように激しく回転して斬りこむ!
ロンリーアンドは槍を翳し防ぐが、右機体の持つ一本がレーザーレイザーに切断される!
左機体はそれを見逃さず、斬り飛ばされた槍刃を叩き落とし、グレイサードの足へと向かわせる!
対し辛太郎は跳躍!足の釘付けを回避し、二本の剣で中継部の頭を狙う!一本が掠め傷を穿つ!
もう一本は右ロンリーアンドの刃止めの鉤に捕えられる!迸る電光!痙攣するメシア!
その隙に左ロンリーアンドが両手の電磁槍で突きまくる!光と衝撃に飲まれるグレイサード!
「ううわーーっ!?」
弾き飛ばしたところで右機体が左機体の足元に槍を刺し、セメントを引き剥がす!
『これでトドメよ!!』
左ロンリーアンドが大きな一歩を踏み出す!両手の槍を合わせ突撃!
更に大きく仰け反り回避するグレイサード!一方ロンリーアンドの伸縮器官!踏み出した影響で万国旗が締まる!
布状の凶器アームスキン!それが中継部の傷に食い込む!テトラダイ浸食発生!
『な!?』『まさか!!』
「・・・・・・俺もトドメだ!!」
グレイサードが倒れながら爪先イージージャベリン射出!ロンリーアンドの中継部、真の頭部を貫く!
『そんな・・・こんな終わり方なんて・・・悲しいよロンくん・・・・・・』
『アンちゃん・・・俺は何処にもいかない、いつまでも一緒に・・・・・・』
二人を繋ぐ伸縮器官は無残にも引き裂かれ、ロンリーアンドの二つの身体はアームキルにより遂に崩れ去った。
グレイサードは身を起こしながらその光景を見届けた。
「くっ悲しくもない物語だぜ」
「ただの二重人格だし?」
すると地に転がる、テトラダイにより死につつある中継部の半壊した頭部が不気味に目を点滅させていた。
『ククク・・・俺を倒したとて我々ピーマーンにとって対した損害ではないわ・・・・・・!
ここは私たちの縄張りと言ったよな・・・すぐにもっと恐ろしい増援が駆けつけてくるぞ・・・・・・?
貴様はピーマーンの真の恐怖を味わうこととなるわよ・・・もう生きて天国には帰さぬ・・・・・・』
不吉な遺言を残しロンリーアンドは残骸と一つのコアに成り果てた。
そしてグレイサードは、辛太郎は遥かな故郷の星をただ見上げるのであった。
<続>
最終更新:2015年11月24日 20:19