光もない。狭く閉じた空間。体の自由は奪われ、口が無理やりに開かれ、頭部も展開させられている。
本質が機械であるなら、痛覚なんてなければよかった。体に食い込む無数の拘束具が痛い。
強制的に私のライオンハートを起動させ、廃材を食わせるを繰り返すこの状態で、七年の時が過ぎていた。
七年前を思い出す。
あの日、千年王のライオンハートは生身の私たちに容赦なく襲いかかった。
威勢がよかっただけの私は当然なすすべもなく振り払われ、彼の逃げる時間などわずかにも稼ぐことはできなかった。
私はそのまま強い衝撃で機能を完全に停止させられ、目が覚めた時にはあまりの猛攻にあたりの地形が変形してしまっていた。
生身の彼が生きていられるはずもない。
これがあの日の顛末。
その後捕獲された私は七年間こうしている。

本質が機械であるのに、心を持てたことは幸いだった。だってこんなにも痛い。こんなにも苦しい。
痛いから、苦しいから、自分のことを嫌いになれる。

「今日で七年になるか」
七年間、拘束具のぶつかる音のほかには物音の一つもしなかったこの空間に声が響く。扉が開いたのも今日が初めてだ。
スラーヴァ王だった。
四人の親衛隊によって拘束具のすべてが解かれる。
「方舟の準備をしろ。炉心の調子も上がってきている」
当然のように言い放つのは、私がそれに従うとわかっているからだろう。
そうだとも。勝利したのは王。王こそが正しかった。
そもそも、私は別にあの行動を正しいと思ってやったのではない。ただ、まあ、あの時は間違いではないと思っていたが。愚かにも。
今も、いや、あの時でさえ王の、多くを救うことのみ見て動く姿は正しいと感じていた。
だから、拒む理由がない。頷くしかなかった。今度こそ、使命を果たそう。
そうだ。役割を果たすために生まれてきたのだから。
指示に従うだけなら、楽だ。
彼のいない世界に、あまり興味はないけれど。

王に連れられて進んでいく中で、ここが城の地下であったこと知った。ガラターンの中心にあるスラーヴァのための城、千年城。
千年城は、スラーヴァが世界を救うための準備をするための城で、豪華絢爛ではないし、多くの人間を招いて何かをするような場所もない。
世界を救うために必要に感じたものや、人や、そういうものを保存するための空間がいくつか用意されているだけの城である。
その城の中でも、最も厳重なセキュリティで守られている部屋がある。私が招かれたのはその部屋だった。

保存されていたのは人。十歳ほどの、褐色肌の少女。苦しそうにベッドに寝ていた。
「これが、人々が異界へ渡るための炉心、ですか」
「アンキャスト、という。既に滅びた世界の残滓が一つの形を成し、個として異界に無理やり自分の居場所を作り出した者で、発生の性質から世界間の移動に関した能力を持つ。
異界に理想郷を求めることを現実にしたのは、これを見つけたからだ」
説明を終えると、王は少女に触れた。バチバチと黒い電気のようなものが走っていたが、それを気にせず抱きかかえる。
「私は、これからアンキャストを用いた炉心との同期に移る」
その目が訴えることはわかる。同期作業を終えるまでに方舟を、ということだろう。
もとより使命に殉じると決めたのだから、それしかやることもない。
「ところで、先ほどの電気のようなものは大丈夫なのですか?」
「アンキャストは世界から受け入れられていない存在だ。異物であるその身は常に世界からの斥力に晒されている。衝撃によってそれが視覚化するのが先の現象だ。
特にこれは幼いからな。耐えられるようになるまで待ったというのに、結局一度目の実験で目を覚まさなくなってしまった」
「そう、ですか……」
「私の体は異界へ移るまで保てばいい、お前の気にすることではない」
「あ、は、はい」
つまらないことを考えそうになってしまって、その考えを必死に振り払った。私は正しい王に与えられた役割だけを果たしていればいいのだ。
そう決めたはずだ。
決めた、のだから。
「お気をつけて。未来のために」

返事もせずに、純白の男は去っていった。

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最終更新:2016年10月03日 09:18