セイントメシアグレイサードとインカーネイドは、自らを襲った者の姿を見た。
それは先程まで化け蟹の一部であった巨大なハサミだった。

「こいつは・・・・・・!」
思わぬ敵の出現に驚愕する辛太郎の脇で、インカーネイドが起き上がった。
『き、気をつけてシンタロ・・・そいつが、ピーマーンの首領・・・』
いまだ混濁する意識の中でアカリが絞り出すように告げる。
「何ィ!?」
化けハサミは大蛇のようにくねってグレイサードの足元をすり抜ける。
そして素早くシャトルへと巻き付いて鎌首をもたげた。
『さよう。わらわは"首領"キラーグラブ』
「なんで装備型アームヘッドなんかが首領に・・・」
『わらわとインカーネイドは、かつてヴァーミリオンの一部となり同じ恩恵を受けし者・・・
 いうなれば月の伝承に記された、余多の蟲を束ねし双子の女王となる資格を持つ者』
「なっトンドルのかぐや姫双子説!ただの都市伝説じゃなかったのか?」
ヴァーミリオンに取り込まれたアームコアの内、インカーネイドのコアはそのパワーと実体化能力を引きだされ、キラーグラブのコアは・・・
『アイツはあたしに寄生して操作を乗っ取ろうとしていた、アイツの能力は支配力よ』
インカーネイドが頭を押さえながら辛太郎の隣に並ぶ。
『うつけよのう、大人しくわらわの操縦を受けておれば、たやすく月の、そして天球の女王となることも出来たというのに』
キラーグラブの嘲笑に対し、アカリもまた笑い返した。
『ふん、何も知らないからそういうことが言えるのよ。あんたがここでデカい顔出来てたのは、もうこの星に人がいないからよ。
 ヘブンとの戦いで強い仲間がやられて、だんだん海も干上がって、バイオニクルも人間も違う場所を探しているのに、
 そこで女王になったって、それこそウツケっぽいでしょ』
『なんじゃと』
『それにヘブンにはヴァーミリオンみたいのがうようよいるかもしれないのよ。あたしの体を借りたってグレイサード君にも勝てなかったくせに』
インカーネイドがなじるとキラーグラブは歯ぎしりしていたが、やがて溜め息をつくようにした。

『まあよい、それならば、わらわは更なる強い身体を支配するだけのこと。このままヘブン侵攻を続行するのみじゃ』
そう言い残し大蛇は、継ぎ接ぎで構成された星間輸送挺の側壁を抉じ開け、するすると中へ滑り込んだ!
「おい待て!せめて俺を乗せてから行け!」
派手なシャトルは小刻みに震えながら下部から黒煙を吐き出し始める!
『ダメよシンタロ!そいつをヘブンに行かせては!!』
グレイサードはインカーネイドの声に振り向いた。
そして浮き始めた輸送挺を睨み上げる!

「・・・うぉーッ!?」
セイントメシアグレイサードが跳躍!ブレードを抜きシャトルへ突き立てる!
爆発と共に継ぎ接ぎがバラバラに分解し、中のキラーグラブも芋虫めいて身を丸めながら地に落ちる!

着地したグレイサードの周囲に鉄屑が散らばった。
『シンタロ・・・何もそこまでしなくても』
「やべっ」
帰還への希望を遂には自ら壊してしまい落胆する。
キラーグラブは転がりながら衝撃を和らげ再び二機の前で大口を開いた。
『こ、このうつけもの共!この星は長くないと言いながら自ら道を断つとは・・・・・・ならば』
大蛇が身をしならせインカーネイドに肉薄!
迎え撃とうと振られた腕に巻き付き締め上げる!
『ちょ、やめて!』
キラーグラブはインカーネイドの身体を滑り左腕へ!そして再接続!
『しまっ・・・』
アカリの声はまたも薄れて再び寄生支配が始まった。

『ひとまずはわらわに代わる肉体が必要じゃ。先のことはおいおい考えるとして、
 お邪魔なそなたにはここでお隠れになっていただく』
またも首領の声で喋ったインカーネイドが化けハサミを構える!
「貴様、悪あがきもいい加減にしろよ」
グレイサードの中で静かな怒りが燃えた。
『悪あがきはそなたの方じゃ、女王となる志も持たぬ者一人、ヘブンに下ったところで何の価値がある?』
「知ったことか、だがお前が行くよりはよっぽど意味があると思うぜ」
『お俗物めが!』
キラーグラブが自らを振りかぶり大質量打撃を繰り出す!
同時にグレイサードもブレードで迎え撃つが、いとも簡単に押し戻される!
怯んだところに二撃目の鉄槌!ハサミは地表を砕いて破片をサードに浴びせる!
「ッ!」
更に跳び退ろうとしたグレイサードの足を、ダートジャベリンが射止める!回避を封じて致死確実の咬撃!キラーグラブの大顎が迫る!
とっさにアームホーン頭突きを返す辛太郎だったが、その勢いは完全に揉み消されグレイサードだけが一方的に殴り飛ばされた。

「さっきまでと動きが違う・・・まさかアカリが完全に追いやられてるのか?」
化け蟹が更なる一撃を仕掛ける!灰救世主は辛うじて姿勢制御し刀を腰だめに構えた。
大蛇の牙が貫く直前、横凪ぎのブレードをそれに噛ませて反らし、グレイサードは大きな一歩を踏み込んだ!
そして左腕を、キラーグラブの首を脇に抱え込み、生気を失ったインカーネイドの目を見据える!
「聞こえるかアカリ!お前が最初に現れたとき、グレイサードに乗ってたよな・・・それは多分、君がグレイサードと調和できるか、コアを支配して体の一部に出来てたってことだ。
 だから出来るはずなんだ。ソイツは本来お前の武器でしかない、他のやつに寄生して利用することしか出来ない、そんなヤツに操られるな、逆にお前が支配してやれ!!」
『何を愚かな・・・うっ、ぐぐ・・・』
「その調子だアカリ!俺とグレイサードも力を貸す、三人でヤツを封じ込めるんだ、そしたら何も恐れることはない。
 俺達と一緒にヘブンへ降りよう」

『ぐ・・・あたしは・・・あたしの身体は、あたし自身のものだ・・・・・・
 あんたの思い通りにはならない、あたしはアカリでインカーネイド・・・首領も女王もまっぴら御免よ』
小さな呻きから始まったアカリの声は徐々にその色を取り戻していった。
『や、やめいインカーネイド!そなたには資格がある、わらわと共に選ばれし女王となる使命を帯びているのだ、
 それがこんな、無軌道な者共と無為な時間を費やしていては、何も残さず成し遂げずに堕落してゆくことになるのだぞ!』
『それを決めるのはあんたじゃない!寄生してワガママ言うことしか出来ないくせに、偉そうに指図してんじゃあないわよ!』
グレイサードはインカーネイドの右手を握る。化け蟹のコアがサードと同期し、その内にいる辛太郎とも調和を深めていく。
三つの意思は一つの勢力となり、化け蟹の大多数を占めていたキラーグラブの意識を押し退け始めていた。
『何故じゃ、何故わらわの支配を超えた力を・・・』
『多数決よ、あんたがしようとしてるご大層なことは、結局力を貸してくれる相手が乗り気じゃないと出来ないわけ。
 あたし達は目指すものが同じ、だからあんた一人にゃ負けないの』
キラーグラブはこの状況を通じ、グレイサードや辛太郎ごと支配し取り込むことを試みた。
だが最早、劣勢を覆すことは出来なかった。
二人の後ろ楯により、インカーネイドは確固たる自己を取り戻してしまったのだ。
「いい加減観念するんだな?」
『大人しくあたしの装備に戻るんなら、ヘブンに連れてってあげてもいいけど?』
キラーグラブは自らの唯一の取り柄であった支配力さえもインカーネイドに超えられ、
その悔恨はこのまま決着を迎えることを望まなかった。

『かくなる上は・・・・・・!』
その時インカーネイドの握った右手が振りほどかれた。
『なっ・・・』
キラーグラブがアカリの右腕を無理矢理上げさせ虚空にかざす。
何もない場所に空気中のプロトデルミス粒子が視認できる密度で集結し始め、盛り上がった地面からは鉱石、
更に周囲のラフフィッシュの残骸や輸送挺だった部品、サードの調和で呼び寄せたボロックなどがかき集められる!
その様子は最初にインカーネイドが顕現した時と酷似していた。
『ホホホ、インカーネイドや、そなたの力を借りるのも此れにて終いじゃ』
『いったい何のつもり・・・!』
やがて辛太郎とアカリの前に大きく歪な金属塊が形成される。
キラーグラブはすぐさま宿主との接続を解き、鉄塊へ向けダイビング!

大蛇はアーチ状にもたれかかり、首と尾部を塊に接続し二機を見下ろす。
そして”繭”の表面が剥がれ落ち、新たなる肉体が姿を現した!

それは青い肉食恐竜めいた巨大な胴体であり、キラーグラブの目指していた姿そのものだった。
すなわち、月の伝承に記された女王を模しているのだ。
「な、なんだこりゃ・・・」
『グオオオ・・・わらわはキラーバーラッグ。そこの"銀の力を得た蟲"と調和したことにより、わらわは更なる力を得た。誉めてつかわすぞ』
『グレイサード君のことを言ってる・・・?』
「まさか、イシヤのコアを知ってるのかコイツ?」
動揺する二人を眼下に、女王の再来キラーバーラッグが踏み出し地にヒビを入れた。
『だが最早、わらわに対する屈辱は許されざる域に達しておる。よって汝らにはここで、新たなる巣の人柱となってもらう』

女王がのっしのっしと歩を進めると、足跡からはキラーグラブに似た牙を持つ異形のボロックがワラワラと這い出始め、二機を目掛けて集団突進!
「アイツ、ボロックを生み出せるのか!?」
『来るわよ!』
襲いかかるボロックに対しグレイサードが手をかざす!
すると群れはすぐさま踵を返し産みの親の女王を襲い始めた。
「おお便利な調和だ」
『グググ・・・尚もわらわを愚弄するというのか!』
キラーバーラッグは足元の手下を蹴散らしながら巨大な口で咆哮する。
そして喉の奥が燃え上がり、火焔が二機を目掛けて噴き出す!
「火ィ吹きやがった!」
散開するグレイサードとインカーネイドの間を火柱が薙ぎ、女王の眼光が化け蟹に向く。
炎を吐き続けながらインカーネイドへ頭を向ける。それは次第に焼石混じりの溶岩流に変わる!
『なによこれ!』
アカリが跳躍するとその目下で赤熱する液体が地を削る!
「まずい!」
グレイサードがとっさにセメント弾を撃ち込み足場を確保しようとする。対しキラーバーラッグは辛太郎へと大口を開いた。
次に吐き出されたのは岩石流だ!
「うおお!?」
ガガガガガ!石礫がバズーカ弾ガトリング砲めいてグレイサードに突き刺さる!ダメージに倒れるところに追撃の第二波が迫る!
しかし石弾はインカーネイドの発射したダートジャベリンに全弾撃ち落とされた。
女王が化け蟹に対し吐いたものは、水の混じった土石流へ、やがて澄んだ激流へと変わり、収束して水圧レーザーとなる!
『クッ!』
インカーネイドは副兵装クリムゾンウィッピアを抜き、高熱の鞭を円形に振り回して蒸発防御する。
しかし水流カッターは途切れることなく無尽蔵に噴射され続けている!
そこで女王の横面にセメント塊が着弾!レーザーが中断されると共にグレイサードは背後をとっていた!
「隙!あり!」
だがキラーバーラッグは振り向きざまに、巨大な足を地に叩きつける!
それは地表に地割れを起こし、そこから氷柱の剣山が突きだす!
「ぐわあーッ!?,」
足元からの予想だにしない攻撃に打ち上げられる辛太郎。
インカーネイドはジャベリンで女王を牽制しつつグレイサードの落下地点へと向かい、すんでのところで受け止める。

『だいじょぶ?』
「・・・急に思い出したように強くなりやがって、イシヤのコアから余程なにか得たようだな」
『ずいぶん色んな技を使うわ、どうすんのよ?』
「こういうバケモンの女王はパワードスーツでぶん殴るに限るぜ」
『それ名案、だけど時間も材料も足りないのよね』
キラーバーラッグは顔のセメントを引き剥がし、間合いをおいた二機を見下ろした。
『おおこれこそが女王の、わらわの力・・・』
赤青の恐竜が恍惚と言ったのち、その殺意の牙を大きく開いた。
喉の奥から発せられたのは竜巻、そこに更に水の属性が加わることにより極局地的な大嵐が巻き起こる!
雷さえも伴うような旋風がグレイサードとインカーネイドを襲う!
「うおわあああ!?」
嵐が直撃し転げ回される二機、キラーバーラッグは容赦なく、竜巻に炎と冷気を織り混ぜる!
熱風とブリザードの二重螺旋の鞭が交互に焼き凍らせる!
「く、くっそ・・・・・・」
更に半身を凍らされたグレイサードの足元に亀裂が迫り、地中から水蒸気爆発が直撃!
『グレイサード君!』
一方白煙の中で惑うインカーネイド、サードを救うべくその方向を向くが、
靄から飛び出したのはキラーバーラッグの足であった!
図太い脚に顔面を蹴られ、胴体を踏みつけられ地に叩きつけられるアカリ!
『ッぐ・・・・・・』
『わらわの受けた屈辱、存分に思い知るがよい』
踏みつけの荷重が増し、更に女王の大顎が開かれる。
アームホーンの牙がインカーネイドの身体を噛み締め、宙に持ち上げる!
『う・・・ぎああああ・・・・・・』
化け蟹の全身が軋み、内部フレーム寸前までの装甲を食い抉られる。
更にバーラッグの喉の奥が複雑に輝いて止めの一撃を予期させる。

「よせーッ!」
グレイサードがブースターから黒煙を撒きながら突撃!両手から小刻みにレーザーを放ち全身を攻撃する。
女王は化け蟹を放して前足に取り置き、属性の混じったエレメンタルブレスを辛太郎めがけ吐きつける!
「!!?」
嵐の中の虫けらのように軽々吹き飛ばされるグレイサード。
だがキラーバーラッグが頭を戻した時、インカーネイドもまた顎を開いて待ち構えていた。
『ブジューッ!』
化け蟹の吐く泡が女王の目を潰し、アカリは更に喉元に食らいついて畳み掛けた!
『ゲガオオオ!!』
キラーバーラッグは悲鳴と雄叫びを同時に上げ、噛みつくインカーネイドを引き剥がしたのち頭突きの鉄槌を降り下ろす!
力なく殴り飛ばされたアカリは倒れるグレイサードへと叩きつけられた。

突っ伏した二機に殺し屋の足音は容赦なく迫っていた。
グレイサードが震えながら、静かにインカーネイドの手を持つ。
『・・・どうしたの・・・これから、どうするの』
「少し、待っててくれ」
辛太郎が声を潜めて言った。
恐竜の足音はそれをかき消して閑散とした荒地を震わせた。
『グオホホ、もう終いか?あれだけわらわを侮辱しておいて、たわいのないものよのう。
安心せよ。そなたらはわらわの一部となり、支配され、屈服し、物言わぬ奴隷として奉仕することで贖罪を果たし、新たなる夜明けに立ち会うことが出来るのだ。
大人しく従えばヘブン侵攻にも連れていってやろう。それならば同じことじゃ』
キラーバーラッグが述べる間、グレイサードとインカーネイドは手を繋ぎ沈黙していた。

女王は獅子舞めいてカタカタ笑いながら近づき、二機の頭上を陰らせた。そして大雑把に噛み砕き自らの機体の一部にしようと頭を降り下ろした時だった。
コツッ。小石がぶつかるような感覚を受け女王が振り向く。
何処からか飛んできた小石は、よく見ると球状に変形したボロックであった。
それらはキラーバーラッグに対し反抗的で、豆まきの豆めいて群れで降りかかり、あるいは頭部の寄生生物を飛ばして女王に取り付かせていた。
『ええい小癪な!』
「やっと来たか・・・」
グレイサードの調和カル・クラナズがインカーネイドとの同調で範囲を増幅し、より広範囲のボロックを呼び寄せたのだ。
そして群れの中にまたしても一際大きい個体が紛れ込んでいた。
『また俺を呼んだのか?スキモノめ』
ピーマーン・アジトで戦車と戦っていた"マサッジハンマー"K1T3K2が再び出現!

『おおマサッジハンマー!生きておったか!早くわらわに群がる蟲どもを蹴散らしてしまえ!』
『・・・申し訳ないが首領、俺はもはやピーマーンでいる必要が無い、俺はマッサージ師に戻ったのだ。そこのへブナーを木偶にすることでな。
だが首領、あんたは親玉のくせに何故かマッサージをさせてくれなかった。そういうことだ』
K1T3K2が言うと女王は歯ぎしりしながらまとわりつく小物を弾き飛ばした。
『そなたのマッサージは痛いんじゃ!』

倒れる二機の前に来たマサッジハンマーはうずうずし高速シャドーボクシングを繰り出す。
『お前ならマッサージさせてくれるよな!』
「ちょ、許可した覚えは一度もないぞ!」
焦る辛太郎を思いっきり殴り、インカーネイドをいい感じの力加減で打撃し立ち上がる活力を与える。
「・・・さてアカリ、これで材料は揃ったぞ!」
それを聞いたインカーネイドは手をポンと叩いてK1T3K2を見た。
『肩たたき屋さん、ちょっと手を借りるわよ』
『ん?』
するとインカーネイドの機体は途端にプロトデルミスとテトラダイの粒子に分解され、K1T3K2と数体のボロックを包み込む!
それは女王と同様に金属の繭を生成し、内部で大規模な再構築が遂げられる!

蛹の外殼が崩れ去った時、辛太郎とキラーバーラッグは口をあんぐりと開けた。
果たしてそこに立っていたのはインカーネイドとK1T3K2を雑に混ぜた歪な即席パワードスーツであった。
『さあ乗ってグレイサード君!』
「お、おう」
インカーネイド・エグゾボクサーを装着した灰救世主は、女王の前に仁王立ちする。
キラーバーラッグはそれを見て伝承の一説を思い出した。
『愚かな・・・弱き者が軟弱な鎧を纏ったところで、決して覆すことは出来ぬのだ』
「それはどうかな、お前の信じる筋書きは俺の人生には関係ないぜ」
ズシリと地をへこませ二つの巨体が歩み出す。

女王はT-REXめいた跳躍走法を数歩、着地と共に足元を破壊しながら息を吸い込み、岩石ブレスを吐きつける!
エグゾボクサーはK1T3K2譲りの高速ジャブを繰り出し岩石を粉砕!正拳突きの構えで女王に迫る!
キラーバーラッグの吐息が溶岩と化し、ボクサーは引き絞った腕を更に引っ込め脚部ローラーを複雑に回転させて回避!
女王は首でそれを追ってマグマブレスで地表を焼き小山を産み出していく!
溶岩を避けつつ距離を詰めんとするマッサージ用外骨格だったが、ローラー移動が硬化した溶岩石につまずき速度が削がれる!
そこへ襲いかかるバーラッグの高熱水蒸気と氷柱のブレス!
エグゾボクサーはとっさにマッサージローラーを回転し叩きつけ、足元の冷えたマグマを砕きつつ跳躍回避する。
「くそっヤツめ、溶岩だけ使われてたらヤバいところだった」
『でもマグマ以外も使ってくるのはどうしてなのかな』
「・・・まさか?」

高熱の尾を引く氷の矢が降り、思考が中断される。
エグゾボクサーはそれらの飛び道具を拳の連打で打ち砕き、ローラーを小刻みに回す独特のステップで女王と距離を詰める!
そしてバーラッグの横面に鉄塊の拳をぶち当てる!
『グオオ!?』
巨大な頭部を殴られ激しくよろめく女王だが、このまま倒れることはプライドが許さず持ちこたえ、戻りながらの頭突きハンマーを繰り出す!
「うおお!?」
インカーネイドの殴打以上の威力を浴びてエグゾボクサーもぐらついた。だが怯まず女王の胴体側面に、大幹部用の肩たたき連打を叩き込む!
バキバキバキ!キラーバーラッグの内部で断裂音が響き、そのダメージの深さを伺わせる。女王も負けじと強靭な蹴撃を繰り出してエグゾボクサーを蹴倒す!
倒れたボクサーに大顎が降り下ろされ、迎撃に繰り出された鉄拳を挟み止める!そのまま腕をちぎらんと持ち上げ仰け反るバーラッグ!
エグゾボクサーは吊られながらももう一方の腕で顔面をパンチ!パンチ!重い衝撃にひしゃげていく女王の頭部!
キラーバーラッグが痛みを晴らすようにストンピング!地面の亀裂から炎が吹き出しエグゾボクサーを焼く!
マッサージ器の次の一撃が女王の意識を飛ばす!開放されたボクサーは着地し、追撃の拳!アッパーを食らい真上を向くバーラッグ!
前に倒れるように降り下ろされた頭部が不意討ち!エグゾボクサーはそれに更なる昇打で迎え撃つ!
衝突の瞬間、開かれたキラーバーラッグの喉から溶岩流が噴き出す!エグゾボクサーの脇腹が抉られ、競り合う鼻先と拳を咄嗟に逸らす!
ローラー逆回転で後退するボクサー、追って首を上げた女王のマグマブレスが放物線を描いて地に降り注ぐ!
紅い虹を何とか潜り抜けたエグゾボクサーの目前には、薄ら赤く光り続ける岩の堤防のような段差が生み出されていた。

『グホホ、相変わらずマッサージは強力ではあるが、この距離ならば安心じゃ』
女王が笑う一方、辛太郎は声を潜めた。
「・・・おそらく奴は次、溶岩を吐き続けることは出来ないだろう」
『どうして?』
「奴は6つの属性の力を得て強大になったつもりのようだが、それはそれだけだ。勝った気で気づいてないだろうがアイツは、その力をコントロール出来てない。色んな技を出してるように見えるのは、ただそれが垂れ流しになって混ざってるだけに違いない」
『じゃあ聞いてみる?』
「いや、奴に策は与えない、必要ないと思ってる今がチャンスだ・・・」

『グホホ、如何な作戦会議をしようとも結果は変わらぬぞ。大人しく死にさらすがよい!』
キラーバーラッグの大口から噴き出すマグマブレス!
それは炎、岩、水、氷、嵐、大地と色が増えていき入り混じる!
エレメンタルブレスがエグゾボクサー目掛け迫る!
「やべっ」
『ただの垂れ流しもここまでされるとアレね』
辛太郎らがギリギリで避けると雑多なエネルギー塊が側面をよぎり、地面を抉りとっていた。
キラーバーラッグは光柱を吐き続けながら標的を追い、エグゾボクサーはローラー回転とステップで逃げ続ける。
だが破壊された地面からも地割れが走り、エレメンタルエネルギーが地上で乱舞するミミズめいて吹き出し周囲にも爆発を生む!
「ううおッ!」
エレメンタル爆発に飲まれるエグゾボクサーは足元を崩されローラーダッシュが上手くいかない!
畳み掛けるように降りかかる拡散エネルギー条!更なる破壊に巻き込まれる辛太郎の眼前は巻き上がる瓦礫だらけとなり、足を付けるはずの地面は崩壊し、このまま奈落に落ちるかのような感覚に陥った。
それに加えて暴走気味の女王の属性攻撃も、拡散状態から再び収束に向かいつつあった。これが直撃すれば消滅は免れない!
「ぐわあああ!?」
辛太郎はシャトルから突き落とされヘブン帰還のチャンスを失った時の浮遊感と絶望がフラッシュバックしパニックに陥り、瓦礫の向こうでは止めの一撃が迫っていると直感的に察した。
『しっかりしてよ!』
エグゾボクサーは前に倒れこみ地面を殴る殴る!その背をスレスレにエレメンタルブレスが通り、いやずっと吐き続けられている!
『・・・んぐッ・・・!』
ブレスが僅かに角度を下げボクサーの背を削った!
地の窪みに作ったこの簡易的な壕に直接注がれたら最後、彼らも雑多なエネルギー光となりアームコアを残して消え去るであろう!
「アカリ!くそっどうすれば・・・」
『このままじっとしてたら勝てない、思い出して、あたし達は待ってる間も、じっとなんてしてなかった!』

そしてバーラッグの破滅の吐息はけたたましいゲップと共に休息を迎えた。
女王の前には粉砕された大地が広がり、静けさにゲップの残響がどこまでも響いていた。
『グホホホホ、邪魔者は片付き有り余る我が力も安定に至った。二重の意味でスッキリじゃ。さて連中のコアを我が身に』
ウイイイン。崩れた地盤を持ち上げてエグゾボクサーが立ち上がった。
キラーバーラッグを正面に見据え待機姿勢のまま動かない。
『そこにおったか、では今度こそ最後じゃ!』
エレメンタルブレスが再度放たれる!
対しエグゾボクサーは頭上に掲げた瓦礫を投げ、それに拳を打ち込み殴り飛ばした!

エネルギー流に激突し逆らう岩盤!それは少しの間光を分散させたが消し去られた。
このままボクサーに直撃するか?否!次の岩石が飛んでいる!
エグゾボクサーの脚部ローラーは砕かれた地盤を上に運び、それをグレイサードとインカーネイドの合体したパワーアームがキャッチし、更にその岩をショルダーパンチャーで殴り射出しているのだ!
「『スペースセンベイダーだ!!』」
その姿はピッチングマシーンかマガジン追加ビー玉腹部発射玩具の如し!連射される岩石がエレメンタルブレスを押し止める!
『ゴバァー!!』
バーラッグは声にならぬ雄叫びを上げながら吐出を強める!
『そんなものー!』
岩の弾幕もアカリ操作のセンベイダーの如く、一列の帯のように絶え間なく撃ち続けられ拮抗する!
ローラーは足元を砕きながら岩石を補充しようとしている!
「弾が切れる!」
跳躍したエグゾボクサーの後にエネルギー塊が通過!
追って地を削るブレスは、己が築いた溶岩の堤防を破壊しボクサーを狙う!
エグゾボクサーはその溶岩片を巻き上げて弾丸とし撃ち出す!
再び吐息と岩石の衝突が起き大気を揺るがす!
キラーバーラッグは尚も粘る敵に怒りながら更に大顎を広げる!
強まる激流に対しボクサーは岩盤を大きくすることで対抗する!
これにより融かされるまでの時間が僅かに延びるのだ!
続く拮抗の中、女王の顎に小さな石が掠り、一瞬にして消え去った。
これが限界か。いやそうではない。次にバーラッグの歯に触れた石は先程より大きい!
岩石砲の衝突点は女王の側に近づいている!
『ゴアアアアア!』
眼を剥いてブレスを吐くキラーバーラッグ、その反面近づく岩は溶かしきれず、サイズは次第に増していく!
上下の顎に岩盤がはさまり、やがて消された。
女王にはまだ押し返す自信があった。そこへまた岩石がはさまり、そこに岩石がぶつかった。
溶かしきったところに岩が入り、そこに岩が衝突し、それに岩盤がぶつかった。
『ガオゴゴゴ!』
顎を外し唸る女王の喉に岩がぶつかり、そこに岩盤と岩盤が衝突し、そこに岩盤!
「こいつも食らえーーッ!」
エグゾボクサーが突進!キラーバーラッグの口に挟まった岩盤群に助走全力パンチを撃ち込み更に奥へ押し込む!
『ガゴゴゴゴゴゴア!』
女王にはまだ押し返す自信があった!!煮えたぎる怒りを介し身体の奥底からエレメンタルエネルギーを引き出して喉へと流し集中させることによって

ドガアアアアーーーン!
キラーバーラッグの胴体が破裂!
扱いきれない程の過剰なエネルギーが行き場を無くして混ざりあい体内で暴発したのだ!
青い恐竜の身体は無惨にも粉々になり周囲に降り注いだ。
憔悴したエグゾボクサーの前にボロ切れのようなキラーグラブが落ち、地に刺さった。
『アガ、アガッ』
陸に揚がった魚めいて苦しむ女王を見下ろし、エグゾボクサーはその合体を解きほとんど元の姿に戻った。
『これで分かったでしょ?ヘブンで誰かを支配したって女王になろうとしたって結局は退治されるのがオチよ。あたしについてきなさいな』
インカーネイドがキラーグラブを持ち上げながら言う。首だけの首領はもはや口を閉ざし文句をつけるのも諦めたようだった。
「やっとピーマーンとの戦いも終わりか・・・残党の残党のくせに恐ろしい連中だったぜ」
勝手に呼び出されて利用されたボロック群やK1T3K2も解散しようとしていた。
『フンとんでもないことに付き合わされちまったぜ、まあオレはこれで落ち着いてマッサージ屋に戻れるって訳だ。この拳が恋しくなったらまた来な』
"マサッジハンマー"はそう言い残しローラーから砂埃を巻き上げながら颯爽と去っていった。

『で・・・・・・これからどうするの?』
「どうするって・・・・・・シャトルがこれじゃあ」
辛太郎らの周辺には崩壊した地表と四散したバーラッグの部品が混ざりあい、破壊の爪痕だけが広がっていた。
「へへッ、この調子じゃあ独学で勉強して作り直したほうが早そうだな・・・」


『・・・・・・私に・・・任せなさい』


その声の主は辛太郎でもアカリでも、女王でもましてマサッジハンマーでも無かった。



◎◎◎◎◎◎◎◎

『グレイブヤード君、ホントに行っちゃうの?』
ラフフィッシュが訪ねると、灰色の機体は宇宙に浮かぶヘブンを見上げた。

『ああ、私は遂に新型星間輸送機の開発に成功した。実地試験は私自ら身を持って行うことで、より詳細なデータを収集出来るのだ』

グレイブヤードはトンドルの月の技術者バイオニクルであった。
彼は惑星ヘブン調査の為に宇宙航行可能なシャトルの開発を担いそれを達成しようとしていた。
その成功の暁にはヘブンの民との友好的な関係を築き、二つの星を繋ぐ立役者として更なる功績を残すことが出来るはずだった。

結果としてグレイブヤードの船は、大気圏突入時のダメージで老朽化したところに人類からの迎撃を受け、着地の衝撃を柔げられぬまま墜落した。
このテストはトンドルの技術開発に多少の影響を残したものの、グレイブヤードの回収は緊急度の低い任務として扱われた。

一方、荒地を逃走する盗難アームヘッドの一群があった。
それはパプリカーンを名乗る残党の残党集団であり、これから活動を始めるために機体の調達を行っている最中だった。
「首領、どうやら彼処に撃墜された機体があるようだ」
村井辛太郎が狭いコクピットから身を乗り出し抉れた地平を見た。
「よーし見つけたアンタが盗ってきな!」
斯くしてグレイブヤードのアームコアは辛太郎によって回収され、彼のアームヘッド・セメントイシヤのメインホーンとして使用されることとなったのだ。

グレイブヤードは内心、迎撃してきた人類と自分を見捨てたトンドルを恨むパプリカーン思想が自然に根付いていたが、セメントイシヤとして辛太郎と交流を続ける後、セイギマン等ヘブン文化のオタクとして覚醒しそれどころでは無くなっていった。

◎◎◎◎◎◎◎◎



『まさか・・・グレイサード君がグレイブヤード君だったなんて・・・だから会ったことある気がしたのね』
「あの自称女王が言ったようにセメントイシヤのコアは月から来たのか?」
グレイサードはいまや己の意思で周囲の廃材をかき集め、再び輸送機を作り上げようとしていた。しかし、彼の意識の覚醒にはいまだ後遺症があるのか、それ以上言葉を発することは無かった。

しばらくしてグレイサードが腕を止める。そこにあったのは作りかけの推進機のようだが、果たしてこれが帰還シャトルの完成した姿であった。
「マジで?これにしがみついて飛んでくのか......」
『きっと行けるわよ』
「ピーマーンの首領、本当に一緒に連れてって大丈夫なのか?」
『だいじょうぶ、もう一度あたしを信じて』
辛太郎は一度諦めた帰還のチャンスが唐突に訪れたことに実感の沸かぬまま、
グレイサードをロケットに抱きつかせると、表面に拘束具が競りだし手足を固定した。
インカーネイドもまた反対側で抱え込むと、遥か天球を見上げた。
『カウントダウンおねがい』
グレイサードが壁面のスイッチに手をかける。
「50、49、48」
『早くしないとまた邪魔が来るよ?』
「2!1!ダウントゥヘイブン!」

二機のアームヘッドをくくりつけたロケットが爆発的な煙と共に飛び立つ!
数度ふらついたもののその推進力は加速度的に上昇していき大空に突っ走る!
「あがががががが」
激しい振動に襲われながら辛太郎は、幼い頃僅かに学んだ記憶や最初に月に上がってきた時の過程を思い出して気づいた。
「あがが、これじゃ摩擦で燃え尽きるんじゃ・・・」
『まかしといて』
インカーネイドは言うなり再び我が身を細分化し、この剥き出しの推進器を覆うシャトルの外装と化して包み込む!
「おいおい、そんなことしてお前、平気なのかよ」
『突っ込んでみなきゃわかんないわね・・・でも、後戻りもできないでしょ!』
赤いカニシャトルは加速を続け星の境目に迫る!
「俺達3人だけでここまできただけでも頑張ったほうだよな・・・」
インカーネイドは外壁についた目で、遠ざかる故郷を見下ろした。
『さよなら、トンドル・・・・・・』
そしてシャトルは大気圏の摩擦で焼きエビのようになりながら宇宙へと突き抜けた。


「おい、アカリ、無事か?」
黒く煤けた輸送船はすでに推進力を無くしていたが、ヘブンへの航路を慣性で進み続けていた。
『・・・あたしは大丈夫だけど』
次に彼らに立ち塞がったのは漂う宇宙ゴミの群れであった。
小型のデブリから人工衛星の残骸、帰還に失敗したパラサフィクサの死骸や後頭部の長いなんか、タコやサメなど
するとカニシャトルの一部が開き中からキラーグラブが伸びた。
『またセンベイダー!』
シャトルはカニアームでアステロイドを放り投げ障害物を吹き飛ばし進んだ。

「外の景色はどうだ?」
辛太郎にはグレイサードを通した船内の空洞しか見えない。
『だんだんヘブンに近づいてる、もうすぐ揺れるから備えて』
インカーネイドの宣言通り、まもなくシャトルは天球を包むバリアに突入する!
再びの大気圏突入!カニシャトルの煤けた表面が摩擦熱に晒され赤熱し輝く!
『・・・ッ、くっ・・・』
船体が悲鳴を上げ、気丈に振る舞っていたアカリも小さく音を漏らす。
「おい!無茶するんじゃ・・・」
『そんなこと、あたしたち今まで無茶しかしてないでしょ!』
重力に引きずり込まれ炎の矢は勢いを増す!
『シンタロ、グレイサード君、ピーマーンに捕まったあたしを助けに来てくれてありがとうね、助けずにあのまま、帰る方法を探してれば、安全にヘブンに帰れたかもしれないのに』
「いや、どうせろくなことにならなかっただろう、それに」
グレイサードがシャトル壁面を開放しびっくりバズーカを突きだす!
それは摩擦を食らって瞬く間に爆発したが、飛散したセメントがカニシャトルを覆って硬化しコーティングした。
「まだ帰れないと決まったわけじゃねえ!」

グオゴゴゴゴ・・・・・・円筒型セメント隕石はひび割れ、形を崩しながらヘブンの障壁を降っていった。
その抵抗が弱まるに連れ、高温の表面が本格的に火を噴き、黒煙の尾を引きながら地上めがけ落下していく。

「・・・・・・揺れが収まった・・・一山超えたのか?アカリ、何が見える?」

「おい、聞こえてるか?どうしたんだ?アカリ」

「そこにいるのか?しっかり・・・まさか・・・・・・」

カニシャトルの外装は崩壊し半ば喪われていたが、グレイサードの周囲は未だに包まれ守られていた。
しかし、このまま墜落すればそれも頼りなく砕け散り、彼らの足掻いた後は何一つ残らぬまま旅の終わりを迎えるだろう。

そして目下のヘブンからは、人工衛星によりキャッチされた月の外敵に対する迎撃砲、すなわちかつてグレイブヤードの船を墜としたのと同様なトンドル対空兵器が向けられていたのである。

辛太郎は暗い棺桶の中で震えながら、旅の友をなくしてまでも帰ることの出来なかった己の運命を呪った。
リズの最新鋭対隕石用長距離砲が放たれ、その開発スタッフたちがまたも星を救ったことを祝った。

砲弾はぐんぐん加速し異形の侵略シャトルに止めを刺さんと迫る。
その時不思議なことが起こった。
カニシャトルに残った外装が霧散し、粒子となってグレイサードと推進機を取り囲んだ。そしてセメントや浮遊プロトデルミスを集合させ新たに材料とする。
粒子の中に浮かぶ赤と青の2つのコアが角型に変形し、セイントメシアグレイサードに接続される。それを合図に材料も融合するかのように寄り集まり、やがて原型は見えなくなった。
そこには見知らぬシルエットの石像のようなアームヘッドがあった。
迫る対隕石砲弾!石像は手を払い、半ば無意識にそれを弾き返したようだった。
リズの兵器開発スタッフが悲鳴を上げるのを尻目に、石像アームヘッドは俯き全身を抱え込むように縮こまる。
そして重力に身を任せヘブンに激突する時をただじっと待った。


グバァァン・・・・・・
荒野に爆発音が轟き数百メートルの砂煙が上がった。
穿たれたクレーターがひび割れ、ミシミシと音をたてて尚も沈みつつあったが、それもやがて収まった。
中央に鎮座する石像は膝立ち姿勢で沈黙し、蒸気を発していなければ、昔からそこにあったかのようだ。

ほどなくして石像の下部から亀裂が走り、卵めいて細かい割れ模様に変わっていった。
殻がぱらぱらと剥がれ落ち、その造形物は完全に形を崩してしまった。

散らばった石像の残骸の中にグレイサードが立っていた。
その背中合わせには一回り小さくなった再生途中の赤い機体がいる。

『一つになれたのね、あたしたち』
「ああ、だが今の融合は、危ないぞ俺が」

里帰りの長い道のりを終えた村井辛太郎は故郷の空を仰ぎ、グレイブヤードとインカーネイドは遠く離れた故郷の星を見上げていた。
そして落ちてきたこの天国という名の避難所で、ただこれからの互いの幸運を祈るばかりであった。









エビローグ


一般的に廃墟と思われている寂れた研究所に、珍しく灯りがついていた。
ここは現在充電期間中である、残党の残党組織パプリカーンが、月一で会合を開いている隠れ家である。

「今日はアンタたちに新メンバーを紹介するよ!なんでもシンタロが月から連れてきたっていうやつさ。じゃどうぞ」
「"かに道楽"のアカリです、皆さんよろしくね」



《 DOWN TO HAVEN 終 》





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最終更新:2017年05月01日 18:46