――権力と金を持て余す上流階級の者共が率先する無秩序な開発は、地下複合都市ガフの景色をあまりにも早く変えていく。
最早見慣れた現象となった新築中のタワーの周囲を取り囲むようにして護衛しているのはノトモス達。
その中に1機、白を基調としたノトモス。セレトの機体である。
そしてそこから少し離れた場所に、黒を基調としたノトモス。こちらはレイジの機体だ。
近接戦を主体とするセレトに苦言を呈すことが多いレイジだが、二人同時ならそれもない。
何故ならレイジが得意とするのは射撃戦だからだ。黒ノトモスはライフルを二丁、ハンガーにパルスガン、懐刀として実体剣。
「お前が出るのも久しいな。腕は鈍っていないだろうな、社長?」
「さあ、どうだろ。お前がヘタな動きしたら間違って当たるかも」
セレトからの軽口に言い返すと、レイジは武装に搭載された射撃プログラムを調整する。
出撃前に確認はしたが、まだ敵は来ない。いざという時の不調を潰す為だ。
二人が新しく建造されるタワーの護衛任務を引き受けたのはつい先日の事。
タワーの建設を率先している権力者はただの欲望に耄碌した者でもないらしく、有力な情報網から、裏で対立する他の権力者が動かす「駒」の襲撃計画を掴んだ。
頭数は多いほうが良く、天条事務所の業績も聞いている、とは方便だ。
実際は、報酬を安く跳ね上げできる「地上」側から戦力を調達するにあたり、天条事務所の実績が目に止まったという方が近い。半分は嘘でもないが、半分が真実でもない。
「……まあお仕事もらえる分には有り難いがね。それに気持ちは解る」
苦笑しながらプログラムの調整を終えると同時に、アラーム。
「来たぞ」
「言われずとも。こっちは後衛だぜ」
相方からの報告に返事をするよりも早く、黒ノトモスは外付け式のジャミング装置を起動。自身のアームコア反応を、至近距離まで近づかない限りは隠蔽する機能で手早くステルスすると、敵機の索敵を開始。
偵察部隊からの情報こそあるが、補助だ。
依頼主の自前である偵察部隊とて木偶ではない。敵機数やおおよその位置など既にこちら側の全戦力に回されている。
だが、実際に迎撃するとなれば話は別。最新の情報が欲しい。
伏兵がいないとも限らない。
果たして、伏兵はいなかった。レイジ機がライフルを構えた。
「……いけるぜ、セレト」
「了解だ。俺も同時に動く」
タワーに向けて迫ってくる敵機のうち、最も「はぐれ」ている機体に、レイジのライフルの照準が合わせられる。
同時に、セレトの白ノトモスのバーニアが起動。誰よりも早く、突撃した。
「「GO」」
白ノトモスはライフルを連射し、シールドを構えたまま突撃した。
我に帰ったように、依頼主の自前ノトモス隊も続く。
だが、白ノトモスに射撃を加えようとした敵のベージュノトモスがいきなり崩壊!
真横に陣取っていたレイジの黒ノトモスによる集中砲火をまともに受け、何もできないまま無残に撃墜!
黒い伏兵に混乱したベージュ舞台が、とっさに黒い影を落とそうとそっちに注意を向け射撃!
しかし黒ノトモスはすぐさま後退し、防衛設備として設えられていたダミー巨大コンテナの裏に退避!コンテナの正体は超高質プロトデルミス塊であり、生半可な攻撃など受け付けない!
刹那、更にベージュが撃墜!更に1機撃墜!更に1機!
次々と友軍反応が減っていく事態を前に注意を前方に引き戻した敵パイロットが見たのは、ライフルをハンガーに背負い、代わりに実体剣を装備した白ノトモスの突撃!一切迷いなく、次の獲物をこちらに定めている!
咄嗟に構えたシールドが砕け、致命的な剣の刺突を防いだ!隙!
だが、何もできなかった。
シールドだった強化ガラスが、破片となって散っていく刹那。
その向こうから悪魔の腕めいて尚もこちらに掴みかかってきたのは、手首ごと軌道をそらされた実体剣ではなく――腕部に直接接続された装置から無慈悲に伸びでた、紅の熱線。
後悔する間もなく、彼は焼けた。
「なんだ――なんだあの白いヤツは!化物か!」
多少の被弾やダメージを負ってはいるが、それ以上に、まるで獣か狂った人形めいた動きで次々と敵機を喰らい潰していく白ノトモスに敵勢力が集中するが、それこそ罠であった。
さっきの黒ノトモスがそうであったように、ひとつに集中すると注意がそれる。
白ノトモスに目を奪われた機体から、その隙をついた友軍機ノトモスに撃墜ないしアームキルされていった。依頼主自前のノトモスも決して案山子などではなく、歴とした訓練を積んだ者達。その前で隙を晒せばどうなるかなど自前だった。
更に降り注ぐ黒ノトモスの、意識外からの射撃。
最後に残った2機が、撤退するべく射撃しながら後退。
だが、これは「駒」の上にいる相手への見せしめという意図も兼ねる。誰も逃がすつもりはなく、そして実際彼らは逃げられはしなかった。
完全に上空を取った黒ノトモスが連射しながら落下し、そのまま1機を実体剣で脳天から貫いた。そして。
――最後に残った1機は。
もはや照準すらあっていないパルスガンを乱雑に撃ち続けながら、
当然のように零距離まで迫った白ノトモスに実体剣ですれ違いざまに寸断された直後、コクピットを内包する浮いた胴部を回転かかと落としで叩き落とされ、轟音と共に地面に潰れた。
「――これだ。この感覚だ。俺が欲しいのは」
地面にめり込んだ、残骸と化した敵ノトモスの胴部を。
一切遠慮なく白ノトモスの足で踏み砕きながら、セレトは呟いた。
最終更新:2019年01月29日 19:03