ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 6

 --21XX.XX.XX--
ヴィジャスケの帰還を切欠に、全員が外界での戦闘トレーニングに挑み始めた。
経験者のヴィジャスケを先頭に、一群が間隔を空けた列を成して連なる。
『もしもの時は守ってくれるでしょうね?』
ヴィジャナが問うが、ヴィジャスケは振り向かず首を振った。
『残念だがそんな余裕はない、外の連中は「兵器」としてオレたちより何ランクも上なんだ。まずは己で身を守る方法を覚えろ』
密林の中を進んでいくと、次第に銃声や砲声、金属の衝突音、焼けた臭い…本物の戦場が近づいてくる。
その時、隊列の中腹で爆発!
『『うわーッ!!』』
木々と共に数体が吹き飛び、黒煙が包み火線が飛び交う!既に戦場に立ち入っていたのだ。
ヴィジャキチが振り向くと折れた木の向こうにアームヘッド!灰色の四脚の機体から各種火器と格闘アームが伸びる、彼らとは全く異質の存在だ。
『おもしれえ、やってやる!』
ヴィジャキチが走り殴りかかる!対しアームヘッド・グラブガンもアーム打撃で迎える!
その一撃は拮抗できた。だがもう一本のアームがヴィジャキチを掴むと、グラブガンの背負う対生物ミサイルポッドが一斉発射!全弾がヴィジャキチに命中!爆散する僚機を目の当たりにし、おののくヴィジャヤ隊!
一方最も場馴れしているはずのヴィジャスケは、すぐさま逃避行動をとる!
『バカ野郎!いきなり戦って勝てるわけ無いだろ!程々のところで逃げて、経験値だけ稼げ!』
空にはアームヘッド・シュランゲの一群が飛び交い、フィジカルライフル掃射を密林に浴びせていく!
ドダダダダダ!巻き上がる土煙の中、ヴィジャヤスは頭を抱え伏せた。
彼には一体この戦闘が、どんな勢力が競り合って起こっているかなど知るよしもない。
しかし何にせよ、ヴィジャヤ以外のアームヘッドからは全て、敵として認識されているのは明らかだ。
『ぐおッ!』
ヴィジャヤスは何かが己を踏み潰して通ったのを感じた。
起き上がって睨み上げると、装甲車めいたアームヘッドの背後が見えた。
『チッ!なめんなよ!』
ヴィジャヤスがアームヘッド・ザブートンの背に取りつき、頭に連続げんこつを叩きつける!
頭部装甲を凹ましたが、ザブートンがバック走行、急停止を組み合わせヴィジャヤスを吹っ飛ばす!
再び組みついてやろうと起き上がった矢先、空からシュランゲのイージージャベリンが降り注ぎザブートンを串刺しにする!
九死に一生を得て全速力で逃げる!

その頃ヴィジャナはアームヘッド・ラプトルの腕部ブースターによる巧みな包囲網の只中にあった。
そこから出ようとした他のアームヘッドは皆、斧によるすれ違い連携斬撃を受け粉砕されていた。
『誰か、助けて……!』

すると何処からか投げ込まれてくるアームヘッドの残骸!
それらに移動を阻害されたラプトルは陣形を変え、新たな標的を目指して去っていった。
『おい、無事か?』
茂みからヴィジャヤスが飛び出しヴィジャナに駆け寄る。
『あ、ありがと…また助けられちゃったね』
『こ、困ったときはお互い様だぜ』

二体は飛び交う砲声の中でしばし見つめ合ったが、木の倒れる音を聞きすぐに駆け出した。

その日、ヴィジャキチ、ヴィジャコフの二体が再起不能となり、一団は彼らを置き去りにしてシェルターへと帰還した。

(続く)


ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 7

 --21XX.XX.XX--
ヴィジャヤ達は幾度かの遠征で次なる成長を目指した。だが、まだヴィジャスケが頭一つ飛び抜けており、周囲も変化が無いままだ。
(どうやったら追い付ける…?)
ヴィジャヤスがベンチプレスしていると、パワー・ドリンクを持ったヴィジャナがふらっと現れた。
『ヴィジャヤスく~ん、調子はどう?』
『いやあ、あんまりかな……ヴィジャスケのやつ、敵と遭遇しても少ししか倒さないのに、どこであんなに大きくなるんだか』
ヴィジャヤスはドリンクを受け取り飲み下す。
『あいつ教えてくれないよね~…でも私たちも元は同じなんだからなれるはず!』
『ファイトよヴィジャヤスくん!』
『にへへ……ヴィジャナも頑張れよ』

一方ヴィジャローは、机型モニタのキャンバスにタッチペンで何か書き込んでいた。
『ここにはザブートン、ここにラプトル……』
簡易的な地図を書きアームヘッドの出現ポイントを記録しているのだ。
彼はヴィジャスケの成長が戦場に身を置くことに起因するならば、何と戦うかが重要になると踏んでいた。
そして彼は探しているのだ。僅かに目撃されたセイントメシアのような機体を……それと交戦して能力を得る為に。
ヴィジャローは遠征の時、目撃情報がある地域に単独で赴くことが多くなった。

そして戦闘遠征が始まった。未踏領域で新たな対戦相手を探すのだ。
ガチン!ガチン!ガチン!異様な金属音と共に木々が噛み砕かれる!
それは戦闘ビデオのデータベースに無いアームヘッド…ラピッドゲーターは巨大な顎のアームホーンを開閉して走り回り、芝刈機のように敵機を刈っていくのだ。
『来るぞ!』
迫るラピッドゲーターの群れをヴィジャヤ達はアクロバット回避!
だがヴィジャポンの着地点には別の牙が!
『むわあーっ!』
地面を破砕して現る新手・ハングリーリーチの円形の口がヴィジャポンの足を丸飲みにする!
内部で回転する牙がフレームを傷つけ、体液を吸い上げる!
『ぐふっ』
吐き出されたヴィジャポン、その片足は装甲を失いモヤシめいた細さになっている!
『なんて奴らだ!』
ヴィジャヤスとヴィジャナは、丸い蜂めいたアドフライの群れが放つ雑音波に囲まれ耳を塞いでいた。
その隙を狙い首刈機が迫る!
ヴィジャヤスは咄嗟にゲーターの下顎を蹴りあげ、ヴィジャナはヴィジャヤスの肩を踏み台に飛び上がり、アドフライを叩き落とした。
一方ヴィジャスケはラピッドゲーターの横面を殴り、怯んだところで足を掴んで振り回して、そのガチガチ言う顎でハングリーリーチを噛み砕かせて破壊!
異形のアームヘッドの一群は謎の敵の出現にたじろぎ、ヴィジャヤ達は珍しく勝利を収め満足のまま帰った。
『ヴィジャナ、さっきのパンチかっこよかったぜ』
『ヴィジャヤスくんも凄かったよ!あんなのを正面からひっくり返すなんて』
『にへへへ……』
(続く)


ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 8

 --21XX.XX.XX--
この日もヴィジャヤ隊は新領域に立ち入った。
『この辺にぃ、ヤバいアームヘッドが出るらしいっすよ』
ヤャジィヴ先輩の背後に黒い影!
『ンアーッ!?』
その上半身を斬り飛ばし異形のアームヘッドが出現する!
頭は透明の立方体を象り、骨組みめいた胴体に長い腕と爪、三本足で幽霊のように浮遊している。全くつかみどころの無い存在だった。
『こんな奴もいるのか!』
『俺が……潰す!』
そこへ頭が肥大化した個体…ヴィジャドが頭突きを放って参戦!
悪霊・クトネシリカは、ヤャジィヴ先輩を葬った爪の一撃を仕掛ける!ヴィジャドの過剰成長した頭はそれに耐えた!
その様子にヴィジャスケも勝てると踏み、因縁の相手であるヴィジャドの戦闘に加勢!
巨大な拳が立方スケルトン頭部を殴る!二体のコンビネーションで奇怪を仕留めたように見えた。
バウッ……ン!
ヴィジャスケは己の、賢者の石があるはずの胸部に巨大な風穴が空いているのを見た。
バギュバギュン!
ヴィジャドの下、上半身が順に消し飛び、首だけが転がった。
『な……ヴィジャド!』
ヴィジャスケは胸の大穴を押さえ、最後の力を振り絞り、目の前の異形の頭部を掴んだ。
悪霊はその下半身を広げ、ヴィジャスケの頭を包むように捕らえ返した。
『ッ……逃げろ!!』
何かを察したヴィジャヤスが叫ぶ!
キュバオーーン!金色の爆発が周囲を包む!凄まじい爆風を受け、伏せるヴィジャヤ達は体が蝕まれるような痺れを覚えた。
ヴィジャヤスが頭をあげると、ヴィジャスケも悪霊の姿も跡形もなく消え去っていた。
『そんな、一体……』
『き、キャーッ!』
ヴィジャナが悲鳴をあげる!その先を見ると先ほどの黒い異形が二体、音もなく浮遊している!
『みんな、逃げるぞ!!』 ヴィジャヤスも叫んで踵を返す!
逃げるヴィジャヤ達だが、片足が衰弱しているヴィジャポンは逃げ遅れ、その頭部を何者かに撃ち抜かれた。
そして残されたヴィジャヤはもう一体いた。
『ヴィジャンツくん!』
エリートの個体は逃げず、この圧倒的な敵に敢えて挑むようだった。
『あいつ、死にたいのか!』
『助けにいかないの!?』
『無理だ、ヴィジャスケが殺られたのを見たろ!』
ヴィジャヤス達は戦力差に絶望しながら退却していった。

同族の中で一番だったヴィジャスケも、同族の中ではあんなにも威張っていたヴィジャドも、成す術なく片付けられてしまった。
意気消沈のヴィジャヤ達はシェルターの中で何もせずにいた。どれだけ鍛え上げても簡単に上を行く敵がいる。これが成長の上限だとしたら全滅しか道はないのか?

その時何かがシェルターの中に入ってきた。
不均整な足音が響き、現れたのは両腕と片足を喪ったヴィジャンツの姿だった。
『ヴィジャンツくん!』
『おまえ生きていたのか!』
衰弱し返答することも出来ず、ただ苦しそうに唸っていた。
『うう……ググ……』
変わり果てた姿のエリートは、背中に力を入れ尺取り虫めいて体を曲げた。
身をよじり、何かを吐き出すような、体を叩きつけるような動きを繰り返した。
『き、キャッ!』
『お、おい!しっかりしろよ!』
バリバリバリ!ヴィジャンツの力を込めた背中が避けた。
穴から白い光が吹き出し、そこから輝く肉体が出現した。
片足の先がめくれあがり、新たな脚が露出し、黒い皮が上に巻き上げられていった。
ヴィジャンツが倒れていた場所には、白い巨体が立っていた。
その腰にはヴィジャンツの古い体表の乾物がぶら下がっていた。
輝く体が次第に赤黒く変わっていき、見覚えのある姿となった。

『ヴィジャスケと同じ姿……成長したんだ!』
ヴィジャヤスが感嘆する。
『そうか…死なない程度に戦い続けるとはこういう事だったか』
ヴィジャンツが再生した腕と脚を動かす。
『す、すごい……一体どうなってるの?』
『筋肉と経験が体に入りきらなくなり、古い殻を破ってより大きな器に移り変わった…脱皮だ』
ヴィジャナとヴィジャローも衝撃を受けていた。
すぐにヴィジャンツはトレーニングを再開し、新しく生まれ変わったフレームを更に高め始めた・・・・・・

(続く)


ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 9

 --21XX.XX.XX--
脱皮を目の当たりにしたヴィジャヤ達は希望を取り戻し、鍛練と戦闘を繰り返した。
『お~いヴィジャナ、一緒に遠征いこうぜ』
ヴィジャヤスがやる気充分に誘う。
『あ、ごめーん、今日は用事があってさ』
ヴィジャナは申し訳なさげに笑いそそくさと通りすぎる。
怪しんだヴィジャヤスはその後をこっそり尾けていった。
すると、ヴィジャナは少し背の高い個体……ヴィジャンツの腕を組むようにして見上げた。
『ねえねえ今日はどこいくの?』
『またついて来るのか?しょうがないな……』
たまらずヴィジャヤスも飛び出す。
『おいおいおい、オレも連れてってくれよ』
『ちょっとー、これ以上増えたらヴィジャンツくんの邪魔になるからダメよ』
『足手まといにならなければ構わないが、それは自分で判断しろ』
ヴィジャンツの言葉に喉がつまった。
どおりで最近ヴィジャナのフレームが大きく…もしかしてオレよりも…
『ごめんね…私ヴィジャンツくんと居た方が成長が早いみたい。それにいざという時守ってくれそうだし』
『……』
ヴィジャヤスは言葉を失いその場を去った。
その背に対し向かう方角だけ教えられたが、行く気は無かった。
『…あんなヤツら、もう帰ってこなきゃいいのに』

ヴィジャヤスがサボってほっつき歩いていると、机に向かうヴィジャローを見つけた。
『何やってんだ?』
『例のアームヘッドの目撃範囲を整理してた。お前は今日は行かないのか?情報くれよ』
机モニタの地図を見て、ふとヴィジャナの行った方角を気にする。山岳で赤い×印があった。
『この印は?』
『そこ、すげえヤバいヤツが居座ってるらしいな。今日ヴィジャンツに場所教えたんだよ』
ヴィジャヤスは胸騒ぎを覚えるも、すぐに振り払った。どうなっても知るもんか。

やる気の無いまま数日を過ごした。ヴィジャナは帰ってこない。

(やっぱり、何かあったんじゃ……)

あそこにどんなヤツがいるか調べるだけだ、心配してる訳じゃない…己に言い聞かせて遠征に向かった。
ヴィジャヤスは長い道のりを歩いた。途中で行き逢うことはなかった。
空に厚い暗雲が渦巻く、岩山の麓に辿り着いた。
意を決して登っていくと、岩だけでなくアームヘッドの亡骸が無数に散乱し、上に向かうほど密度が増していった。
そして、バラバラになったヴィジャンツと思しき残骸と、もう一体のヴィジャヤのような残骸を見つけた。
ヴィジャンツの身体は、頭だけが見つからなかった。
だがもう一体の頭部の破片は残り、近くに薄桃色のアームコアが転がっていた。

『ヴィジャナのバカ野郎……』

暗雲から雷が落ち鋭い雨が降り始めた。
照らされた頂上を見ると、そこに立つ何者かが浮かび上がった。

それは金剛仁王めいたアームヘッドであった。
その両手には鬼の首が棒に刺さったような杖を持っており、歓びの舞を踊っているように見えた。

ヴィジャヤスは、怒るより先に得体の知れぬ恐怖を感じた。AIの根底に記された生存本能が早く逃げろと告げた。
彼はヴィジャナのアームコアを拾って逃げ去った。

その日、ヴィジャヤスは桃色のコアを枕に眠った。夢でまた会えるように……
だがそれはかつてないほどの悪夢を彼に見せた。

『お前は下がっていろ』
ヴィジャンツが言い、恐ろしい形相の筋骨隆々アームヘッドの前で構えた。
そいつは杖についた鬼の顎をカタカタと鳴らし、そこから火焔を吹き出した!
ヴィジャンツは避けようとしたが一瞬にして燃え上がってのたうち回り、もう一本の鬼の角を刺され持ち上げられた。
『ヴィジャンツくん!』
叩き落とされた彼に対しアームヘッド・オーガネックは頭を掴み上げ、左手で足を握った。
『やめろーー!』
ヴィジャナが鬼神を殴ったとき、ヴィジャンツの首は既に身体から離れていた。
『――あ…』
オーガネックは背部から金属棒を取りだし、それをヴィジャンツの首に刺して新たな杖を造り出した。
そしてヴィジャナに向け振りかぶり――

ヴィジャヤスが目覚めた時、不思議なことにモチベーションは回復し、やる気に満ち溢れていた。
…ヴィジャナ、奴はオレが倒してやる。

鍛練ドームには誰もいなかった。皆、外で死闘を繰り広げているのだろう。
ふと壁に目をやると、槍のようなものがかけられているのに気づいた。
一番最初に入った時にも気づいてたがすっかり忘れていた。
槍をラックから外すと、宝玉めいた目に光が灯った。
この槍も生きているのだ。
『お前も一緒に強くなるか?』
ヴィジャヤスは己だけでなく槍を鍛えるのも手伝ってやることにした。
(続く)


ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 10

 --21XX.XX.XX--
ヴィジャヤスは打倒オーガネックという明確な目標が出来たことで成長が加速した。
数々の戦いで腕を磨き、ザブートンもラピットゲーターも正面から一撃で倒せるようになった。
槍・シュリヴィジャヤも育てつつ、戦闘ビデオでオーディン等から武器の扱いを学んだ。
そしてヴィジャナのアームコアを枕に、倒すべき敵の夢を何度も繰り返し研究した。

 --21XX.XX.XX--
土砂降りの中、ヴィジャヤスは木にもたれ掛かっていた。
全身から体液が流れ出し、関節はあらぬ方向に折れ曲がっていた。
この日、彼は初めてオーガネックに直接挑んだのだ。
しかし、まだ勝つつもりは無かった。
『う、う、ウオオオオオオオオ』
雄叫びと共に体表が裂け、新たな鍛錬の器を生み出す。
その脱皮によって得た肉体は、かつてのヴィジャスケやヴィジャンツを大きく上回っていた。
身体は赤みを増し、今後どのように成長できるのかと心が躍った。
再度山の上で歓びの舞を踊る「敵」を見た。ふと、奴は何のために戦ってるのかと気になった。
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シェルターに戻ると久々にヴィジャローが帰ってきていた。
『ヴィジャロー、お前ずいぶん変わったな』
『そういうお前もな』
彼の姿は他の個体とは異なり、太く大きくなるどころか上半身は細く絞られ軽量化、腕には袖のような刃が形成されていた。
下半身は大腿部に筋肉が集中し肥大化、そこから爪先へ向け次第に細く鋭くなっていた。
それはメシアタイプに類する者と戦い続けて得た姿だ。
『試しに模擬戦やるかい?』
『いや、お前との試合は後にとって置くよ』
ヴィジャローは笑い再度地図に向かう。戦ったらお互いに体型が変わってしまうからだ。
『魔の山に出入りしてるってな?引き際は見極めろよ』
『わかってるぜ、お前も無茶すんな』
殆ど別物と化した二体のヴィジャヤは更に別方向を目指し歩み出した。

 --21XX.XX.XX--
幾度もトライ&エラーを繰り返し、着実に進化を重ねたヴィジャヤスはまたも魔の山に向かった。
残骸混じりの岩山の頂上、聳え立つ金剛力士めいた者の前に、それに近似しつつあるもう一体が対面した。
『…またお主か』
オーガネックが初めて口を開いた。
スケッチするかのように己の姿を写し続ける敵を気味悪がっているようだ。
『お前を倒すまでは何度でも来るぜ』
『久しい感覚だ…いい加減、首が欲しいと身が疼きよる。今日で終いだ』
『そうだな。俺もこれ以上、逃げても得るものはない…』
二体の鬼神めいた影がその恐るべき筋肉を軋ませた。

『『グオオオオオオッ!!』』
獣の雄叫びが曇天に木霊する!
地を蹴飛ばし宙を直進するヴィジャヤス!その膝を破城槌と変え立ちはだかる壁に向かう!
背後に手をやったオーガネックが二本の杖を抜く!その頂の鬼の首が業火を噴き出す!
悪夢で何度も見た火炎放射器の射程を、更に宙返ることで高度を取ってかわし、鬼神の頭上に差し掛かる!
『ウオラァ!』
反転した状態で膝を後頭部に打ち込み、同時に顔面を掴んで槌に押し付ける!
前後に走る凄まじい衝撃がオーガネックを垂直に貫く!
『ッ・・・グオオオ!』
鬼神は二本の杖を打ち合わせ頭上を殴る!ホーン角を伴った打突を、ヴィジャヤスは頭突きで返す!
受け止めきれぬ衝撃に巻き上げられ、そこに杖の頭が向いて火焔を吐きかける!
『ぬううッ!?』
ガード姿勢を取るヴィジャヤスを炎が包む!かつてヴィジャンツを葬った火の中で悶えながら地面へ!
着地と共に山肌を転がりながら消火を試みる!炎上する残骸が軌跡を描いた。
その様を見下ろすオーガネックは追うことも勝利の舞を踊ることもしなかった。
再度跳び上がってくるヴィジャヤス!その手には鍛え上げた槍が握られている!
『アアアッ!』銀色の槍が鬼の杖の角と噛み合う!
(続く)


ARMHEAD "MUSCLE CHRONICLE"
SIDE:VIJAYA PROLOGUE 11

着地と共に山肌を転がりながら消火を試みる!炎上する残骸が軌跡を描いた。
その様を見下ろすオーガネックは追うことも勝利の舞を踊ることもなかった。
再度跳び上がってくるヴィジャヤス!その手には鍛え上げた槍が握られている!
『アアアッ!』
銀色の槍の一閃!鬼の杖の角と刃が噛み合う!
もう一本の頭蓋が降る!それをヴィジャヤの拳が殴り受ける!
熱を帯びる鬼の頭!ヴィジャヤスが後ろに倒れながら足を股の間に潜らせ蹴り上げる!
ひっくり返るオーガネックの炎が空に伸びる!
蹴った推力で背を地面に叩きつけ滑りながら、肘鉄を繰り出して再度跳躍!
空中で翻り槍を構える!炎を縫う角度から体重をかけた槍を稲妻めいて落とす!
『クハーッ!』
鬼の首が呻く!その柄に突き刺さった槍が更に進み、砕き折る!
もう一方の杖が空中のヴィジャヤスの脇腹を殴る!
転がり倒れたヴィジャヤスと鬼のかしらの目が合った!
炎が吐きつけられる瞬間、投げた槍がその顎を貫く!鬼の首が爆発!
『ガアアア…』
オーガネックは再び背に手をかけた。新たに二本の杖を構える!
立ち上がったヴィジャヤスも拳を絞り勇ましき構えで向かえる!
『カカカカカ!』
杖の先の般若が笑い、冷凍ガスを吐きばら撒く!
その範囲を免れようと横に跳び抜けたヴィジャヤス!その眼前にヴィジャンツの顔面が出現する!
『うぐッ!?』
ヴィジャンツの杖が口を開き、毒々しい瘴気を噴射する!吸ったヴィジャヤスの胸部に激痛!
弱り目を般若が襲う!冷気に対し掌を向け返すが、突き刺すような痛みと共に腕が凍りつく!
苦しむヴィジャヤスを仁王と二つの首が見下ろしていた。毒を吐き出す為激しく呼吸し足掻いている。
それを踏み砕くべくオーガネックが飛び立った!同時に転がるヴィジャヤスが、炎上する残骸に向かう!
凍った腕を火で炙る!土を踏み締める鬼神がそれを睨む。手を燃やしたヴィジャヤスが跳ぶ!
横たわる己の槍を手に取り、松明のように火を纏わせる!駆け向かうところへ般若の首が直面!
槍の柄の筋肉が捻じれ、炎上する矛先が回転する!そこに吹きすさぶ冷気!白煙が巻き上がる!
霧を突き抜ける炎の槍が般若の面に激突!爆発的蒸気と共に砕け散る!
オーガネックは残った柄を手放しヴィジャンツの杖をバットのように構える!毒霧スイング!!
『ウオオオオア!!』
ヴィジャヤスも全力の拳で返す!魂を失った同族の顔面を粉砕!衝突の余波でオーガネックが退く!

『ハァ…ハァ…』
俯いたヴィジャヤスが、炎上する槍を地面に突き立てて消火した。そして手を放す。
『俺と戦え!』
その叫びを聞きオーガネックは己自身の拳を構えた。
『クフーッ!クフーッ!』
鬼神の鼻息が恐ろしい響きを発し、首を刈りたい衝動が爆発しかかっている!
『来いよォ!!』
ヴィジャヤスが片足ずつ、地表に叩きつけて埋める!暴走トラックのようにオーガネックが猛進!
鬼神の丸太めいた正拳突き!その正面にヴィジャヤスの正拳突きが立ち向かう!激突の衝撃波が炎を薙ぐ!
オーガネックの次の拳!殴りつけるラリアットをヴィジャヤスの腕の側面が受ける!
全身が軋む!そこへ畳み掛けるように鬼神の全力の回し蹴りが襲い来る!
『ガアアーッ!』
足を土に捻じ込んだヴィジャヤスは避けず!ノーガードで蹴りを食らう!
痛みを握りしめる拳!そこに金色の光が迸り、粒子が集中する!
『ドオオアアアーッ!』
テトラダイを帯びた拳が大気を震わせ放たれる!オーガネックの胸板をかち割る!!
バキバキバギ!光る亀裂が走り、血のように粒子がばら撒かれた。
鬼神がたたらを踏んで後退る前で、ヴィジャヤスは拳を向け立ち続けていた。
胸部から連鎖的に染み渡ってくるテトラダイに耐えかね、オーガネックは遂に倒れた。

『ウグ……』
『…お前、何故ヴィジャンツの首を取った?何故ヴィジャナを殺した?何故戦っている?』
虫の息の鬼神をヴィジャヤスが見下ろす。

『…我は…く、くび、首、首を取ると、嬉しくて、た、堪らないのだ……そうプログラムされている』
『そうか……お前も、俺たちと同じなんだな』
ヴィジャヤスがオーガネックの頭を掴み上げる。
そして首根を手刀で裂いた。

新たな鬼神が旧き鬼神の首を天高く掲げる。

『ウオオオオオ!!!』
ヴィジャヤスの殻を押し破り、だめ押しと言わんばかりにオーガネックさえ超えるような肉体が生み出された。
変わり果てた己の姿を見下ろし、ヴィジャヤスはこれまでにない達成感と幸福感に包まれ、暗澹とした空に笑い声を響かせた。

(続く)

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最終更新:2019年06月18日 23:36