ここは「N.E.S.T.」。
突然現れた怪獣「バイオニクル」と戦う防衛組織の本部基地だ。
イブ隊長「ヨシダ隊員率いる新生体兵器開発チームが無事に試作一号を完成させたようです!」
ゼロ隊員「な、なんだってー。早速見に行ってみようぜ」
隊員達はいつものように格納庫へ集められた。
ヨシダ隊員「以前から言っていたように私はバイオニクルは人間にとって十分に利用できる材料だと思っていた。そこで回収したカプセルの材質構成データと以前までの
ビオナイクラーの戦闘データを元に新型の生体兵器を開発するに至った」
新兵器を隠していた布がめくられる。
ヨシダ隊員「これが対巨大半有機生命体用生体兵器試作一号・ニックージェだ」
それはビオナイクラーの色違いが鎧を着ている姿にも似ていた。
これまでの兵器と大きく異なるのは、それが明確に呼吸をしている事だった。
ゼロ隊員「ビオナイクラーよりは細身だけど、ダークヒーローっぽくてカッコイイな」
シグレ隊員「科学はついに命を作る所に辿り着いてしまったか・・・」
ヨシダ隊員「更にこのニックージェは既にAIを搭載している。つまり自分で考え行動出来るのだ」
イグ隊員「そこんところが一番作り難かったんだよね」
マトア隊員「ビオナイクラーは敵に回すと勝ち目が無いくらい恐ろしい力を秘めていました。
そのニックージェは完全なAI制御で平気なのでしょうか」
ヨシダ隊員「・・・つまりどういうことだ」
マトア隊員「もしニックージェが誤解を起こして暴走した時に、甚大な被害が起こったりはしないのですか?」
ヨシダ隊員「それを止める為に自爆用の爆弾が頭部に埋め込んである、もちろん起爆スイッチはこちらにある。試作品には十分な措置だと思う」
マトア隊員「そうですか。・・・しかし、”彼”は生きているのでしょう?」
ヨシダ隊員「仮にも兵器試作一号だが・・・脳に当たるAIで考え、心臓に当たる器官も持ってはいる」
マトア隊員「それを生きていると言ってはいけないでしょうか」
イブ隊長「マトア隊員の言いたい事は大体分かります。
暴走の被害を抑える為に、生きているニックージェを自爆させるのは酷だと言いたいのでしょう。
しかし一台の兵器の命と、幾千人もの人々の命のどちらを優先しますか?
命は犠牲の元で育まれて来ました。人間は生きる為に、生きている内に無意識に沢山の虫を、微生物を、小さな命を犠牲にしています。しかしそれは人間だけでなく全ての命に言える事です」
マトア隊員「確かにそうです。しかしだから”しょうがない”で済まして良いのでしょうか」
イブ隊長「我々が生きる為の犠牲をしょうがないで済ませられなかったら、どうすれば良いのですか?」
マトア隊員「生きた兵器を実験的に作り、それが人を守って死ぬか、それ以前に失敗作として死ぬか。”彼”には犠牲として死ぬ道しかないではありませんか」
イブ隊長「それは、人間も同じ事でしょう?」
マトア隊員「だからこそ彼の命も大事にしてはいけないのでしょうか」
ゼロ隊員「でもさ、兵器なんだよ。あれは。仮にも命を守る為の・・・」
その時、格納庫のドアが開いた。
コゼニ研究員「マトア隊員、お電話っす」
マトア隊員「・・・わ、分かりました」
それから数分後、基地のブリッジにて。
ダーヌ隊員「都市近郊の山間部に未確認のバイオニクル出現!」
ゼロ隊員「山っちゃ山だが、ビル街がかなり近くにあるな。こりゃ危険だ」
ヨシダ隊員「ニックージェを緊急発進させれば間に合うかもしれんな」
イブ隊長「丁度良い機会です。それではニックージェの初試験と行きましょう」
現れたバイオニクル・生命怪獣マトラスは山の間からビルを見下ろして立ち尽くしていた。
そこに蒼い影、ニックージェが飛来して着地した。
カンタ隊員「今の着地で何匹くらい生物が死んだかな?」
ニックージェは素早くパンチを繰り出す。マトラスはそれを片腕でガードした。
次にニックージェがローキックを繰り出す。マトラスは黙って受けたが倒れはしなかった。
マトラスが何も行動を見せないのでニックージェも動きを止めた。
しかし様子がおかしい。
ニックージェの全身から湯気が出て、口は獣のように大きく開き、目は赤く光って瞳が浮き出た。
全身の武器ラックが開錠され、凶暴な姿に変貌した。
ヨシダ隊員「一体何が起こっているんだ?」
イグ隊員「何もしない時のAI設定は完全に固定したはずだが・・・」
ニックージェは鋭い爪でマトラスを切り裂く。
そしてラックからナイフを取り出すと、マトラスの首に斬撃を加えた。
マトラスはしばらく直立していたが、ゆっくりと目を閉じると山の中に倒れた。
ニックージェはその上に飛び乗り、勝利の雄たけびを上げる。
イブ隊長「・・・あんな機能が?」
ヨシダ隊員「いいやあんなもの有る筈がない」
暴走したニックージェはそこから山に飛び移り、牧場を蹂躙した。
カンタ隊員「今のでどの位の家畜が犠牲になったかな?」
更に山を飛び降りて、住宅街を踏み荒らしてビルを目指し走る。
ヨシダ隊員「まさかとは思うが・・・高層ビルを敵と誤認識しているのか?」
イグ隊員「そんなに単純なミスはしないはず・・・何故?」
ニックージェはデパートの駐車場で何度も車を投げて、
その後デパートの屋上を踏み台にして、高層ビルにしがみついた。
カンタ隊員「今ので、どの位の人の命が犠牲になったかな?」
イブ隊長「・・・カンタ隊員・・・少し、黙っていてもらえないでしょうか・・・」
ゼロ隊員「隊長も辛いんだ、やめてやれよ」
カンタ隊員「はいはい」
ヨシダ隊員「・・・とにかく今すぐ自爆スイッチを押すんだ」
イブ隊長「待って下さい、今爆発させたらビルが倒壊して被害が拡大します!」
隊員たちが迷ったその時、雲の切れ間からビオナイクラーが現れ、ニックージェを引き剥がした。
暴走しているニックージェはビオナイクラーに噛み付く。ビオナイクラーはそれを地面に叩き付けると指を銃のように構えた。
ニックージェも起き上がり、ラックから拳銃のようなものを取り出して電磁ビームを乱射する。
ビオナイクラーはそれを無抵抗で受け止めた。しかし無傷である。
更にニックージェは巨大な電磁刀を抜いて滅多切り。
ビオナイクラーは素手で応酬する。
電磁刀は真っ二つに折れる。ビオナイクラーの腕からは血が流れていた。
ニックージェはチャンスだと手刀を繰り出す。ビオナイクラーは拳でそれを潰した。
衝撃に退くニックージェ。ビオナイクラーはこの相手にリターン光線が通用しない事を理解すると、
両腕をクロスしてニクリウム光線を放った。
未知の物質と化学反応を起こしてニックージェは爆散した。
勝利したビオナイクラーの目前には崩壊した町が広がっていた。
命を守ったなどとはとても言えない光景であった。
イブ隊長「なぜこんな事に・・・」
ヨシダ隊員「ニックージェに生物としての”本能”があったとしか・・・」
その時、マトラスの首の傷が青い光を放ち、山の間からマトラスが立ちあがった。
ビオナイクラーはその怪獣を攻撃しなかった。
マトラスが全身から青くて優しい光を放つ。
死んだ家畜たちの体が再生した。
瓦礫の下敷きになった人々も、命を取り戻す。
そして全ての小さな命さえも・・・
これがマトラスの生命怪獣たる所以、最初で最後で最大の生命復元能力であった。
そして爆散したニックージェも体を取り戻す。
ニックージェは人間のような目をしていた。
マトラスがうなづくように首を動かす。ニックージェもうなづき返した。
力を使い果たしたマトラスの体は泡になり、カプセルを射出して消えていった。
ビオナイクラーはもう一人の巨人ニックージェの肩を抱き、宇宙へと飛び立つ。
それはニックージェの「生物」としての新たな旅立ちを意味していた。
ヨシダ隊員「これまで人間が人為的に命を作ることを避けてきたのは、必要性以前の問題だったんだな」
マトア隊員「ある目的の為に作られ、犠牲になるだけの命はあってはならない。僕は、そう思うのです」
ヨシダ隊員「ん?マトア隊員いつの間に来ていたんだ?」
イブ隊長「今回はバイオニクルに救われました・・・我々は彼等の存在についてもっと考えなければならないようです」
続・・・く・・・?
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最終更新:2010年06月09日 16:22