第15話「トロ・マックロードの決断」
これまでのあらすじ
アームヘッドバトルでアオヤギ達を健康な人間か試すと言い襲い掛かってきた政府軍の機体《μT-RONIN》は、政府軍最後の生き残りで、5年間調和能力だけで上層を他地区から封鎖していたリド最後の砦だった。
暗闇、二機のμTと呼ばれる高性能シリーズ機が対峙し緊迫した空気…
先に動いたのはロックスミス!右手を翳し早撃ちの要領で磁力を発生させる!!
『!』「へへ…成功」
ローニンが手に持っていた剣を奪い取り、それを装備する!
更に連続で磁力を放つ!ローニンの右肩のブレードも無理矢理引き剥がす!!
「これでアンタの武器はそのビームの羽根とホーンだけになるな」
実力では完全に劣るアオヤギだったが、この逃げ場のない空間では逆に有利だった。
「これでチャンバラは封じたぜ、"オサムライさん"」
ローニンは声色一つ変えず攻性粒子ウイングを展開し、赤いシェルの面で構える!
『面白いやつだ』「そりゃどうも」
余裕を装いつつ、他に磁力で奪えそうな部位を探すが…特に見当たらない。
下手に磁力を放って相手を引き寄せてしまえば最後、一瞬で引き裂かれる事は想像に容易い。
この壁の中では引き寄せられる金属も存在しない、かといって奪った剣で戦っても十中八九負けるだろう。残された手段は…
「…何なのかよくわからんがこいつでブッ飛ばしてやるぜ」
ロックスミスの頭部が変形を始め…展開したバックパックと合体。頭部一体型の"砲"が完成した。
『…空間穿孔光線射出装置!』
ローニンのパイロットが初めて感情を表に出す。この武器に何かあるのか…?
「知ってるのか?だったら手っ取り早えェ、降参するなら今の内だぜ」
コクピット内で射出シーケンスが開始され、格納されていた複数の計器や機材がアオヤギを包囲する。
射線上(何故か宇宙まで画面に表示される)に味方が居ない事の確認、
射出により発生した意図せぬ破壊現象が保険適応外である事の確認、
展開された機材により身体が隅々まで検査され、射手が人間である事の確認等が一瞬で表示される!
「あ?なんだこれ」
深く考えないアオヤギは規約を読まず素早く全てにチェックを入れ、コクピット中央に出現した"トリガー"を握って引く!
ホーンとリアクターがフル稼働し、蓄えられた膨大なエネルギーが光となって砲身から溢れ出す!
『…もういい撃つな!お前は人間だ!』
慌てて止めようとするローニン!
「どういう事だ!?」
『それを撃てるのは人間だけだ、そういうロックがかかっているのだ!』
「なに!どうやって止めるんだこれ!?」
必死に停止ボタンを探すが見つからない!
『世話の焼ける!』
ローニンは一瞬でロックスミスに接近し、左手のシェルに隠し持っていた攻性粒子ブレードを展開、砲身とホーンの接続面だけを正確に切断する!!
…試作型空間穿孔光線射出装置「スペアキー」のチャージが中断され、蓄えられたエネルギーは空気中へと霧散した。
数秒後、2機を包囲していた壁は元の場所に戻っていき、バトルが終わった事を周囲に告げた。
「兄貴…壁が」「アオヤギの旦那は無事なのか…?」
『…君たちが人間である事は証明された。リド政府軍は君たちを保護しよう』
ーーーーーー
重症だったガリバーは自動治療室に移され、残されたアオヤギ、サモン、ギョックは客室へと通された。
「…まさか、あのサムライアームヘッドのパイロットがアンタなのか」
「…そう、私がリド政府軍最高責任者代理トロ・マックロードだ」
その姿はどう見ても少女だった。…だが先程の戦いを目の当たりにしている為、あのサモンでさえ舐めた態度を取れずに居た。
「色々聞きたい事はあるが…5年前、ここで一体何があったんだ、教えてくれ」
「うむ…5年前、オシズシ・サアバス博士からのメッセージが届いた、あの日か…」
トロは目を瞑り、5年の戦いで風化しかかった記憶を思い出しながら語り始めた…
次回、第16話「感染閉鎖都市リド」に続く。
トロ・マックロード
μT-RONINのパイロットにして、リド政府軍最高責任者代理。
あらゆるものを通さない概念的な"壁"を作り出す調和能力「ニヒャクゴジュウロク」により5年の間、一人でリド地区の封鎖を維持し続けていた。
最終更新:2020年06月28日 16:47