ここは「N.E.S.T.」。
突然現れた怪獣「バイオニクル」と戦う防衛組織の本部基地だ。


ゼロ隊員「カンタ隊員・・・いや、カンタ。組織を脱退するって本当か?」

カンタ隊員「あぁ。もう辞表は提出した」

二人は隊員仲間である以前に幼馴染であった。
組織入隊の時もカンタ隊員の誘いがきっかけであった。

ゼロ隊員「なんで今更になって?」

カンタ隊員「前々から言ってると思うが、俺は小説家になる。怪生物の相手しながらじゃ書けるものも書けなくなっちまうからな」

ゼロ隊員「見通しは付いてるのか?」

カンタ隊員「ああ。小説のコンテストでも評価されてる。ライトノベルばかり読んで調子に乗ってる奴等とはレベルが違うんだよ」

ゼロ隊員「プロになったみたいな言い草だな?」

カンタ隊員「じきにプロになるさ・・・そう遠くない内に」

ゼロ隊員「でもさ、見通しが付くのはプロになってからじゃ・・・」

カンタ隊員「何?(な人

ゼロ隊員「いや、なんでもない・・・が、頑張れよ。とにかく」

カンタ隊員「珍しく素直だな・・・まぁやれるだけやってみて結果は必ず残すつもりさ」


こうしてカンタ隊員はまだ見ぬ厳しい世界へと旅立っていったのであった。

しかし彼にとってはそれほど厳しくは感じられなかったかもしれない。
長い間書いていた小説を投稿した所、審査を通って小説家が直接会いたいとまで言ってきたのだ。

あるとき突然彼の自宅に小説家が訪れる。

小説家「やぁ。新作書いてるかい?」

カンタ「はい、それほど早くはありませんが」

小説家「へぇ。どこまで進んだかみせてよ」
勝手に書きかけのページを拾い上げてパラパラと見始める。

小説家「うん。まぁ個人的な意見としてはこの表現は端的過ぎて分かりづらいかな」
そう言って持参のペンを取り出し、印をつけ始める。おいそれは消せるインクなのか?

小説家「あとこれはこうの方が・・・」
直し方を見る限り文章の基本的な構成がまるで無視されている。
俺をダメにしに来たのかと思えるほどだ。
それに態度も馴れ馴れしくとても尊敬などできない相手だと感じた。本当に小説家なのかとさえ疑問に思えてくる。
反論したいところだがまぁとりあえずは黙っておいてやろう。

小説家「・・・うん。やっぱりこれじゃぁ若者達のハートを掴むのは難しいよ」
若者?そうかコイツは若者だけをピンポイントに狙うような小説家なのか。
一体コイツは何者なんだ?思えば全然聞いた事のないペンネームだ。誰だコイツは?

カンタ「失礼ですが、アナタの代表作は・・・?」

小説家「え?あ、知らない?アレですよ、クリオネメイドさんと氷点下レストラン」

ラノベですね、分かります。
て、そんなの題名すら聞いた事が無い。本当に何者なんだコイツは。全体的にアマチュア臭しかしない。いやそれ以下か。
コイツを受け入れるほど物書きの世界は変わってしまったのだろうか?


アマ小説家「ところで、音楽聴きながら文章書いたりしてます?」
そう言って机の上のイヤホンを手に取り、耳に当てた。まずい電源を切ってなかった。

アマ小説家「・・・うん。うん。なんだっけ、アイピローズだっけ。よく知らないんだけど確かアニソンも歌ってたよね。
でもどうせアニソン聴くならもっと有名所を聴くべきだと思うな。テンポが速けりゃ気分も上がるし情景も浮かぶよ」

コイツ俺の小説だけでなくアイピローズを馬鹿にしに来たのか?彼等は音楽を愛するロックバンドだ。
アニソン向けばかり作って媚を売っている連中とは違う。
それにコイツの言い分からしてコイツは歌詞を気にしないタイプの人間だ。小説家が言葉を気にしないなど・・・
きっとアニメ的な演出しか思い浮かばないんだ。コイツは。

アマ小説家「・・・これは僕の私見になるけど、君は向いていないと思うんだよね・・・聴く音楽のセンスも、チョイスも僕とは全く違う。
異端を目指すより大衆向けを貫いた方が自分の為になると成功した僕は思うんだよね」

は?誰がお前のような流行に流される事しか出来ない滑稽な一発屋を目指すものか。
周りと同じものを目指せだと?いつだって独創的なものが新しい時代を作ってきたはずだ。
パターンとパクリで塗り固められ儲ける為だけに書くお前には分かるまい。
それにお前が知らないだけでアイピローズは独創性から世間に支持されている。なのにどマイナー扱いしやがって。
そろそろ反論してやろうと思ったが、コイツと話す時間が無駄だと思ってやめた。

イライラしながら空返事を返すと、アマ小説家はほくそえんで軽い挨拶をすると家を出て行った。

アイツは何をしに来たんだ?
まさか早い段階で俺を潰しにでも来たのか?
俺は潰れない。
・・・しかし、何故アイツのような表裏丸出しのプロ気取りが小説家としてデカい顔をしていられるのか?
何かが間違っている。何かが・・・

更に腹立たしいのがアイツの言っていた言葉が、少し前にゼロと話した頃の俺を思い起こさせる事だった。
同じ?いや違う。違うはずだ。多分・・・。


苛立つカンタの視界に、別れ際にN.E.S.T.メンバーから渡されたお菓子の箱が映った。
むしゃくしゃして小さな菓子を三つ同時に食ってやった。




その後である。
謎の巨大物体が空から現れ、都市を覆って陰らせた。
それは一見円盤にも平たい岩盤にも見えたが、そのどちらでもなかった。

新たなるバイオニクル・振動怪獣ピロカンスである。
その大きさはこれまでのどのバイオニクルとも比べ物にならないほど大きかった。
岩のような体の端から無数の細長い腕を伸ばし、高層ビルに突き刺した。
それを繰り返してピロカンスは都市に固定されて居座る形になり、その様子はさながら巨大なドーム屋根のようだった。
そして体の中心部から地上側に向かって、頭が露出する。コウモリと甲殻類を足したような顔だ。

ピロカンス「アァァウイェェェェェェェェーーーー!」

鳴き声は胴体内部のスピーカーにより増幅され、強力な衝撃波として都市を襲う。
その振動によって地上ではマグニチュード7に匹敵する地震が起こっていた。

立ち並ぶビルが震える。いくつかは倒壊した。


その頃N.E.S.T.本部基地の隊員達は、規格外のサイズのバイオニクルの情報を聞き翻弄されていた。

イブ隊長「これまでの個体とは全てが異なっています!総員十分に警戒を!」

ヨシダ隊員「警戒と言っても巨大で地震を起こせる事以外が何一つ分からないぞ」

シグレ隊員「データを観測しましたが、内部に大きな空洞がある事以外は謎のままです」

イグ隊員「一体アレにはどう対処すればいいんだ・・・!?」


ゼロ隊員「こんな時、カンタがいれば適切な作戦が立てられるんだけどな・・・」

ダーヌ隊員「でも彼は、もう脱退したのです・・・」

ゼロ隊員「そうだけど!このままじゃあの街が瓦礫になるだけだ」

マトア隊員「電話はどうでしょうか?」

ヨシダ隊員「ダメだ、通信機器類はあのバイオニクルの衝撃音波で使い物にならない」


ゼロ隊員「・・・よし、思いついたぞ!カンタを呼び寄せる方法が!」

イブ隊長「ゼロ隊員、一体何を?」

ゼロ隊員「まず、この辺にライブに来ていたはずのアイピローズに協力してもらう。もちろん予算はオーバーだ」

コゼニ研究員「そんなぁ・・・」

イブ隊長「それでどうするんです?」

ゼロ隊員「・・・まずは行動あるのみ!」

そしてゼロ隊員はボンコーイV1でライブ会場へと急いだ。
偶然にもライブ会場はパニックで観客が逃げており、アイピローズは舞台裏に避難していた。
ゼロ隊員はアイピローズに事情を説明する。彼らは必ず命を守ることを条件に承諾する。


ボンコーイV1はゼロ隊員とアイピローズを乗せて、ピロカンスに接近する。
足が刺さって固定されているビルの屋上に着陸すると、ゼロ隊員はボンコーイのタービンにコードを接続し、
さらに長いコードをピロカンスの足に突き刺した。

ゼロ隊員「今です!演奏してください!」

揺れるボンコーイの中で、アイピローズは「特別ライブ」を始めた。
彼等のデビュー曲はマイクからタービンを通りピロカンスの足に向かって伝わっていき、ピロカンスの体内のスピーカーで増幅された。
そして歌が都市全体に響いた。
ピロカンスの鳴き声より小さかったので地震は起きずに済んだ。

ゼロ隊員はこれでカンタ隊員が駆けつけるだろうと踏んでいた。

しかし効果は意外な形で現れる事となった。
ピロカンスは自らの鳴き声とは違う、高周波の増幅を受けた為に体内から弱り始めたのだ。

ここぞとばかりに空からビオナイクラーが現れる。
ビオナイクラーは屋上のボンコーイを安全な地に降ろすと、弱ったピロカンスの頭を下から両手で押し上げた。

ピロカンスの足がビルから抜け、ビオナイクラーと共にそのまま宙に浮いていく。
ビオナイクラーは空中でリターン光線を放つ。
ピロカンスはカプセルを吐き出すと、空中で巨大な泡の塊となって爆発した。

そしてビオナイクラーは急ぐようにそのまま空へと消えていった。


イブ隊長「まさか音使いを逆に音で倒すなんて、流石ゼロ隊員」
ヨシダ隊員「アイピローズに感謝状を贈らなければな」


ゼロ隊員はアイピローズに礼を言い会場に帰した。なんと彼らは駄賃は要らないと言って協力料金を取らなかった。
ホントに良いのかと申し訳なく思いつつ基地に帰還する。

シグレ隊員「大活躍ですね、ゼロ隊員!」

ニトロ隊員「新たな作戦参謀の誕生か?wwwwww」

ゼロ隊員「いや、これは偶z・・・何でもない、全て計算の内だったのさ」


すると司令室のドアが開き、私服のカンタが入ってきた。

ゼロ隊員「・・・カンタ・・・!」

カンタ「・・・聞こえたぜ、音量上げすぎのアイピローズの歌が」

ゼロ隊員「おいおい、敵倒す前に駆けつけてくれよな、こっちは作戦が立たなくて危なかったんだ」

カンタ「俺はもう組織の隊員じゃない」

ゼロ隊員「じゃあ、どうして来たんだ?」

カンタ「・・・もう少しだけ、怪獣討伐に付き合ってやろうと思ってね?」


イブ隊長「再入隊・・・ですね?きっとそう来ると思ってまだ辞めた事にはしてませんよ」

カンタ隊員「え?(な人



どうせ自分から参加した組織、自分で注文した料理だ。
やるなら最後まで平らげてやろうってね。

・・・小説界からアイツが見放される頃までは付き合ってやるさ。




つ・・・づ・・・く・・・・?


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最終更新:2010年06月09日 16:28