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その男は愛するあまり - (2008/10/16 (木) 18:09:48) のソース

*その男は愛するあまり ◆KYxVXVVDTE 


 「週刊少年ジャンプ」って知ってるか? 毎週すげぇ数の再生紙を使って作られてる、日本一の漫画雑誌、ってやつだ。 
 俺は、ずーっと「そこにいた」。創刊された当時のことはほとんど忘れちまったが、それこそ気の遠くなるほど、ずっと。 
 ジャンプのシンボルとして、いつも変わらぬ顔でそこにいた。 
 まあ文字通り、海賊みたいな“顔だけ”、なんだが。 
「――色んな作品を見てきたよ、俺は。それこそ大ヒットした作品から、打ち切られた漫画、読み切りに至るまで全部覚えてる。全部愛している」 
 その言葉に偽りは含まれていない。本当の事だ。 
 例えどんなに人気が無くなろうと、発行部数がいくら少なくなろうと。 
 一つの雑誌が終わるその最後まで、ジャンプと共に沿い遂げる覚悟があった。 
 そしてそれまで、一時たりともジャンプから目を反らさない覚悟もあった。 

 なのに。 

「なのによ、これは――どうしたことだってんだ?」 

 何故か体が動くかと思えば、顔だけのはずの俺には立派な体が付いていて。 
 それだけでも首を傾げたくなる出来事なのに、見たことない人間が現れ、テンポ良く話し始め。 
 気が付いたら俺は、どっかの川のほとりに寝てやがった。 
 空に浮かぶ月。さらさらと流れる澄んだ川。緑色の、短く整えられた芝生。 
 起き上がって背後を見ると、荷物入れ――デイパック、が落ちていて。 
 さっきあの変な野郎が言ったことは、本当のことだ、と実感させられる。 




「バトルロワイアル、ねぇ――今どきの流行りだってのは認めるけどよ」 

 俺はあまり、こういう話は好きじゃない。 
 努力・友情・勝利。俺の脳髄に刻み込まれたこの3つの単語と、 
 裏切り・疑心・殺人が売りのバトルロワイアルとじゃ、正反対にも程があるってもんだ。 
 まあ――それが売れちまう、ってのも、世界の移り変わりって奴かも知れねぇけどな。 

「物騒なもんだ……さぁて、どうするか……」 

 自分が物語の登場人物になる。全く考えたことのない展開だ。 
 出来れば今すぐにでもジャンプに帰りたいが、そうは問屋が降ろさないだろう。 
 右手を首に当てる。ひんやりとした、鉄の感触。頭と体を繋ぐ場所に、首輪が付けられている。 
 あの変な人間を倒さない限り、俺の生死は奴に握られているって訳だ。 
 そうだな……例えるなら、ジャンプで連載してる作家達か? 
 いい作品だろうと、人気がなけりゃ切られる。 
 それと同じで、どんなに強い奴でもあの人間に逆らえば――死ぬってことだ。 

 そこまで理解して、俺は堪えられなくなった。 

「ははははは! ふざけてやがる!」 

 死ぬ。そんなことで。そんなことで、ジャンプで連載している作家達は心を変えない。 
 いつだって彼らは打ち切り――死と戦っている。ジャンプのシンボルである俺だって、それは同じ。 
 大体、物騒になり下がった世の中じゃ、こんな首輪なんて有っても無くても変わんねぇ。 
 誰だって、死ぬ時は突然に来るもんだ。問題はそれまでに、全力を尽せるかどうかだ。 
 こんな物で、俺達の思想は縛れない。 
 それに――あの人間は忘れているのか? 
 追い詰められた時こそ、俺達は真価を発揮するってことを。 

 デイパックを背負い立ち上がると、俺は叫んだ。 

「俺は――愛している! ジャンプの作品の全てと、生まれてから見てきた全ての作品をな! ……だが、今のこの作品は嫌いだ! 裏切り、疑心、殺人。全て下らねぇ! だから、変えてやる」 

 沢山の仲間を集めて、悪い奴らをぶっ飛ばそう。 
 ぶっ飛ばした悪い奴らを、なんだかんだで仲間に変えて見せよう。 
 そして全ての悪を倒し――この物語を、友情・努力・勝利で染めてやる! 

「聞いてるか、名も知らない人間……悪の絶対王政ほど、崩れやすい設定はない! 年季の違いと言うものを教えてやるから、耳でもほじって待ってろや!!」 

 さぁて、目標は出来た。後はそれに向かって、一気に突き進んで行くだけだ。 
 停滞なんて、させやしない。俺達の戦いは、これからだ――――!! 

「ほう、成程」 

 俺の後ろから、声がした。 

「絶対王政は崩れやすい、か。そこの白黒面の者、中々に知を蓄えていると見える。だが――この場で叫び声を上げることがどのような愚かは、解っていないようだ。」 

 ずっと考え事をしていたからか。それとも周りが見えなくなるほどに、精神が高ぶってしまっていたのか。 

「だれ、だ――」 
「ここに呼ばれる前は、帝の名を名乗らせて貰っていた者だ。恐らく、民を苦しめたことは無いと思うがな。だが今は――、」 

 草を踏む音。すでに、完全に背後に回られている。 
 男は俺の背中に細い棒のようなものを当てると、逃げられないように俺の肩を掴んだ。 




「今の私は、姫を愛するただの人間。姫のためならば殺人すらいとわない。さあ、どちらの信念が王にふさわしいか――決めようではないか。」 

 そして、ゲームが始まった。――始まり、ました。 
 私は敗け、帝様は王になり、私は、帝様の言う事を聞く、平民と成ったのです。 

 なんとも光栄な、ことに。 

◇◇◇◇◇ 

 王様ゲーム、と言うらしい。人数分の棒きれに番号を振り、うち1つは王の印を付け。 
 王を引いた者が、特定の番号を持つ者に命令を下せる、という遊戯だ。 
 私の……デイパック、と言うらしい袋には、棒きれ10本と、王様ゲームの説明書きが付いていた。 
 他にも鉄で出来た曲がった筒や、見慣れない紙が詰まった入れ物があったが、説明書きが付いていなかったので、とりあえずは閉まっておいた。 

「はい。私は、漫画と呼ばれるものの集合した、雑誌――本のシンボルで」 
「シンボル? 何だそれは。」 
「は、はい。シンボルとは象徴、帝様の言葉で言いますと平民から見た帝様のような物のことで」 
「そうか、解った。次へ行け。」 
「はい。次にドラゴンボールですが――」 

 それにしても、凄い代物だ。相手の体に棒きれを触れさせる必要がある、との注意書きには落胆したが、それさえ上手く行けばかなり使える。 
 勿論、ゲームに勝つ必要こそあれど、見返りは大きい。先程まで荒々しい言葉を吐いていた若者が、見る影もなく小さな平民になってしまった。 
 一応、もう少し確かめて置こう。 

「――でして、今や海外にもジャンプは進出しているのです」 
「そうか。よし、大方の話は解った。もういいぞ、死ね」 
「ええっ――い、嫌です! 死ぬなんて、そんな」 

 どうやら、最初にした命令以外のことは聞いてくれないようだ。 
 敗者の男には、「知っている全てを教えろ」と命令した。王様ゲームの効力を試す意味も有ったし、私も情報が欲しかったからだ。 
 漫画、という物について、この男は実に多くの知識を持っていた。殺し合いに役立つとは思えない情報ばかりだったが、構わない。 
 この殺し合いの遊戯に似た話を、とある漫画で見た――という情報が手に入っただけでも、意味があった。 

「そうか、死にたくはないか。」 
「は、はいっ……生きたいです!」 
「ならば私に逆らうか?」「い、いえ、滅相もない! 帝様、どうか御慈悲を――」 




 ほう、成程。初めの命令以外は聞けないが、だからといって逆らう訳ではない、と。ますますもって、不思議で面白い遊戯だ。 
 10本あれば、10人まで同時にゲームを始めることが出来るだろう――「①番は②番を殺せ」、などと命令してみるのも良いかもしれない。 
 始めるまでが難しいから、あまり使えないとは思うが。 

「さて――時間が勿体ない。」 
 私は白黒面の男に再度近付くと、押し倒しながら首を絞める。 

「が……あっ……帝様、お止め、くだ……」 
「いつまでこの遊戯の効力が続くのか、分からぬのでな。今のうちに殺させてもらう。」 

 首輪が邪魔になり、あまり力が入れられないものの、段々と男の顔が青ざめて行くのが解った。 
 命を摘み取る音が聞こえる。私にはそれが、とても心地よい旋律に聞こえた。 
 実感、だ。 
 こうして人を殺すことにより、殺し合いに勝つ確率が高くなるという、実感。 
 私は帰らなければならないのだ。彼女の返事を、まだ聞いていないのだ。 

「ああ、かぐや姫よ。私はお前を愛している。一目見て、お前しかいないと気付けた。だから、求婚した。」 

 男の体から力が抜けていく。魂も、抜けていっているのだろうか。 

「突然、こんな所に呼び出されたときは驚いたが――私の信念も、変わらない。私はお前を見ていたいのだ、なよ竹のかぐや姫」 

 そのためならば、どんなことでもして見せよう。 
 もしお前もここに呼ばれているなら、私とお前以外の者を皆殺しにして、そして私が死のう。 
 愛している。愛しているのだ。逢いたくてたまらない。愛して、いる。 
 この愛を邪魔しようものならば、地の果てまでも追って、その存在を滅してくれよう―――― 

「私の愛の証として、お前には死んでもらうのだ……さらばだ、白黒面の男。」 

 男はついに白眼を向いて、口から泡を吹き――動かなく、なった。 

◇◇◇◇◇ 

 F-2の草原、北側の、川のほとり。 
 月が辺りを仄かに照らし、澄んだ川のせせらぎが聞こえ、緑色の、短く整えられた芝生が広がる中。 
 平安時代の正装、黒の冠に黒の束帯を身に付けた男が、笑っていた。 
 男の側には、白黒の顔を真っ青にした男が、冷たく横たわっている。だが、それは笑う男にとって、どうでもいいことであった。 




「さて、この男のデイパックを確認せねばな」 

 すでに男は、次を考えていた。どうやってこの遊戯で優位に立ち、殺し合いを制するか。 
 一人の女を愛し、愛して、求婚さえした男は――これ以上ない程に、狂った笑みを浮かべていたという。 

 いと、あはれなり。 


【F-2/子の刻(AM:0時)】 

【帝@竹取物語】 
【服装】黒い冠に黒い束帯(着物みたいなやつ) 
【状態】興奮 
【装備】なし 
【持ち物】王様ゲームセット@王様ゲーム、9mm拳銃@現実、札束の詰まったスーツケース@ハヤテのごとく!、不明支給品1~3 
【思考】 
・かぐや姫に逢いたい。 
・かぐや姫のためなら殺人でも何でもする。 
・知らない物が多いな……。 
※かぐや姫に求婚した直後からの参戦です。 
※ジャンプが創刊されてからの漫画についての知識を得ました。 

【王様ゲームセット@王様ゲーム】 
10本入り。参加させたい人の体に棒を触れさせ、王様ゲームを始める旨を伝えるとゲームが始まる。 
ゲーム中は殺人は禁止。そして、王様の命令はギアス並に絶対の物になる。命令は1ゲーム1回まで。 


&color(red){【海賊マーク@ジャンプ 死亡】} 


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