『嵐』その⑤

       ヒョォォオゥゥン!

 空気を震わせ水の刃がエヴァンジェリンへと迫る。
 ―――だがエヴァンジェリンは動かない。
 何故なら彼女には確固たる自信があったから。
 ―――それは『対物魔法障壁』、もっと簡略化すれば『障壁』。
 しかも彼女…エヴァンジェリンは吸血鬼の真祖なのだ、その『障壁』も相応に強い。
 ―――たとえ彼女が血の吸えない、魔力を封じられた吸血鬼になったとしても、ただの物理的攻撃………ましてや『投げナイフの投擲』程度の物理的攻撃などでは歯が立たない程のものなのだが、

         ジュイィィインッ
                     バグゥウゥゥゥウン!

 このナイフ状に固まった水の投擲はそんな生易しいものではなかった。

 障壁へと激突した途端に爆発。その姿は
 『携行対戦車ロケット』、『空対空ミサイル』
 という代物を連想させるようなものであった。
「ぐぅぅ………これは……」
 爆発の衝撃自体は障壁で事なきを得た。だが、沸き立つ噴煙は止めることができない。
 爆発の煙に顔をしかめながらエヴァンジェリンは魔法薬を手に取った。

      ヒィィイグィイイィン!

 空を切るナイフの追撃が二撃、三撃とエヴァンジェリンに迫る。
「くっ………『氷爆』!」
 手に持つ魔法薬を爆弾ナイフ目掛けて投げ、詠唱。
 『氷爆』の爆発に巻き込まれた爆弾ナイフは誘爆を起こし、弾け飛ぶ。

      ヒィィイィイイィン!

 だが、また新たなる爆弾ナイフがエヴァンジェリンへと迫る。
 フン。防戦一方だな、と自嘲気味に笑いエヴァンジェリンはマントを翻し空へと退避する。
 だがこの回避は回避の意味を成そうとはしなかった。
 何故なら―――

    ボゥン  ウィンウィンウィン
        ゴゥゥウウゥゥウン!

 ―――突然水のナイフは自身の軌道を変更し、エヴァンジェリンを追いかけ始めたからだ。
「なんだと………これは誘導弾かッ!」
 マントを翻し体を空中で反転させるエヴァンジェリンを水のナイフが追い立てる。
 左回転、縦旋回、右回転、横旋回、急上昇、直角降………様々な回避を試みるエヴァンジェリンだがナイフは離れようとしない。
 それどころか時間が経つに伴ってナイフとエヴァンジェリンの距離は縮まっていく。


        ゴゥン   ゴゥウウゥン       ゴゥゥウウゥゥウゥウン
            ボシュゥウウウ
                    バァアッ

              ボグオォォァアァァァァァァ

 それから数瞬のちナイフはエヴァンジェリンへと到達し、爆煙を上げた。
 さすがに障壁も全てを緩和することができず、残った爆発がエヴァンジェリンのその身を焦がし、そして

         ァァァァァァ ァ ァ ァ ァ ァ ァァ ァ ァァァァ ァァァ ァ ァァ

 残った衝撃がエヴァンジェリンの体に強く吹き付ける。
「ぐ……くっ」
 体勢を崩したエヴァンジェリンへ更に二、三とナイフの追撃が加わる。

 一度失速してしまえば―――

                   ボゥン
             ボゥン        ボゥン
                          クボォォオォオオォン

 ―――ナイフをよけられる道理はなかった。

 エヴァンジェリンが体勢を崩してから丁度三撃目のミサイルで、彼女の魔法障壁は意味をなくした。

 障壁を突破したナイフは、急所を庇った彼女の腕に刺さり破裂。
 結果、片腕を奪い、尚ももう一方と体に風穴を穿った。

 ―――最早、これまでか………?
 頭の片隅で敗北を覚悟するエヴァンジェリン。

       バァアァン

 そのとき後ろのドアが大きく開いた。

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最終更新:2007年05月10日 20:13
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