OP候補作

禁忌の序章 ◆rZaHwmWD7k



一筋の光すら刺さぬ闇の底。
閉ざされた地下ホール。その中央の玉座に〝ソレ″は鎮座していた。
人影に質量を持たせ、無数の目玉を張り付けた様な悪趣味な異形。
それだけでは無い、気付けばその異形の周囲には無数の人影があった。

その数、総数にして72。
全ての影が大なり小なり困惑している様で、頼りなさげに揺れていた。

異形は、過不足無く集めきった人々を睥睨し、待ち望んだ瞬間に、万感の思いを込め開口する。

「御機嫌よう、歓迎するぞ72の人柱諸君」

人々の視線が声の方向へむけられるが、困惑が終息することは無く、むしろ加速していく。

「諸君に集まってもらったのは他でも無い、これから諸君には人柱として完成するための儀式の参加者として―――殺し合いをしてもらう」

!?

突如として告げられた不穏かつ理解不能な宣言。
余りに唐突に過ぎる全ての事象に五体がついていかない。

「参加者間の実力差を僅かながら埋めるため、お前達に縁のある道具を脈絡なく支給する。
良い物を引き当てるよう祈るといい」

だが、異形はそんな人々―参加者の不安など歯牙にもかけず淡々と説明を続ける。
ゲテゲテと参加者を見る目玉は人が這いずる羽虫を見る目と酷似していた。

「また、6時間ごとに死者と禁止区域の発表を行う、聞き逃すことが無い様にする事だ。

頭の中で不吉の鐘の音が鳴り響く。
嫌だ。聞きたくない。しかし、耳を塞ごうとしても彼、或いは彼女の腕は動かなかった。

「そして、首輪と禁止区域についてだが、前述のとおり放送で発表される
 もし、禁止区域に迂闊に踏み込めば―――」

「ナマ言ってんじゃねーぞ目玉野郎」

その時、
話の腰をへし折るようにして70の参加者の中から赤い外套を纏った少年が飛び出した。

「いきなり攫ってきて、人柱だの、殺しあえだの、あのヒゲじゃあるまいし悪趣味にも程があるんだよ!」

少年は義憤に駆られたまま両手を合わせる。
放つは彼の全ての原初にして最強の力、錬金術―――だが、

「―――ッ術が発動しない!?」

錬金術により変貌を遂げるハズだった地面は虚しく沈黙を保っていた。

「これから暴れられても仕方ない。取り押さえろ」

その言葉が号砲となり異形の背後から異形に良く似た影の怪物が現れる。
少年は逃れようとするが、錬金術の使えぬタダの人間では影の怪物に、人造人間の不意打ちに抗うには非力すぎた。
そのまま地面に縫い付けられる。

『大人しく父上に従って貰いましょうか。鋼の錬金術師』
「テメェ、プライド!?ってことはまさか目玉野郎がお父様って事…」

少年はジタバタともがくが、完全にがんじがらめにされているため身動きが取れない。
再び場を静寂が支配した。

一度の嘆息の後、異形は再び他の参加者達に向き直る。

「邪魔が入ったが、どこまで話したか……ああ、そうか禁止区域までだったな
 ソレについては実際に見てもらった方が早いだろう」

お父様と呼ばれた異形が上を見上げる。
するとゴゥンと言う腹の底まで響くような音と共に闇色の天井から十字架が現れた。
そこに磔にされた金髪の少女と共に。

「ウィンリィ……」

地を這う少年の目が見開かれる。

「クソッ、放せプライドッ!!
 やめろ目玉野郎、ソイツに手ェ出したらぶっ殺すぞ!!」
『それはできない相談ですね、そのまま打ちひしがれていなさい』

少年は全身に力を籠め立ち上がらんとする。
ミシミシと機械腕でない左腕が悲鳴を上げる。だが、どうでもいい。
速く助けなければ、何とかしなければ取り返しのつかないことになる―――

それでも、少年にできたのは顔を僅かに動かしたこと。それだけ。
自分に立ち上がるための足と全てを取り戻すための腕を与えてくれた少女。
ウィンリィ・ロックベルと目が合う。

「……負けないで」

少女は最後に震える声でそう呟いた。


――――――ドンッ!!!

人が死ぬには余りにも渇いた音と共に、少女は光の向こう側へと消えた。

「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおァアアァッ!!!」

残された物は少年の慟哭と掛け値なしの絶望。それだけ。

「ここまですればもう全員呑み込めただろう
 お前たちがつけている首輪には私の周辺で抵抗するための気力と能力を奪う力と強力
爆弾が組み込まれている」

唐突な暴虐。

「会場に到着すれば、前者につては自動的に解除される…が、爆弾については
 禁止区域に入るか、非常に強い衝撃を与えれば、容赦なく起爆する」

突きつけられた一人の少女の死に、今度こそホールは戦慄く。

「プ、プロデューサーこれってドッキリにゃ!?そうでしょ!」

自分に言い聞かせるように近くの男性に詰め寄ろうとする少女がいた。

「ミギー、起きろっ起きてくれ!!」

右手に話しかける少年がいた。

「……」

目が腐っている少年は未だ呆然と立ち尽くしていた。

「フフッ……」

白いスーツを着た男はこれから起こるすべてに期待を寄せ、嗤う。

未だ状況を理解できても受け入れない者もいる中で―尚も運命と言う地獄の歯車は回り続ける。


「最後に、完成された人柱には一度だけ全ての望みを「 もう喋らなくていいぞド三流… 」

異形の声を、少年が遮る。
その声には、ありったけの憎悪と憤怒が篭められていた。

『口を慎みなさい。鋼の錬金術師。
 あなたの弟も、既にこちらの手の内です逆らえば――』
「良い、息子よ。エドワード・エルリックは私と同じヴァン・ホーエンハイムの血族だ
 首輪の効果が薄いのだろう」

予期していた事ではあったが、改めて最悪な状況を突きつけられる。自分が不甲斐ないせいでウィンリィは死に、アルフォンスもホムンクルス達の手にある。
それでも少年―エドワード・エルリックは脳が沸騰しそうになる程の怒りを抑え、ハッキリと宣言した。

「こんな茶番さっさと潰して、アル助けた後纏めて粉々にしてやるから待っとけ
 『フラスコの中の小人』……」

しかし、大気を震わせるような憤怒をぶつけても、フラスコの中の小人は動じない。
羽を?がれた蟲の泣き声に耳を傾ける人間などいないのだ。
ただ合理的に惨劇の始まりの“詰め”を推し進める。

「……時は満ちた。最期にもう一度言っておくぞ、人柱諸君」

『フラスコの中の小人』の右腕が玉座の隣に用意された錬成陣へと伸びる。

「最後の一人の価値ある人柱には望む願いを叶えよう。
 故に、生き残る意志と望みを叶える意志を持つ者は―――――


        全ての屍の頂きを目指せ」

錬成時特有の眩い光に世界が包まれる。
薄れゆく意識の中、その言葉が彼ら彼女らがこの場所で得た最後のモノ。




―――かくして、悪夢のような"もし"の物語の幕は、開かれた。

【ウィンリィ・ロックベル@ 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST死亡】


【主催】
【お父様@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
最終更新:2015年05月24日 13:25