開演!  ◆tsGpSwX8mo



私は秋山澪、私立桜が丘高校の二年生。高校の軽音楽部でベースをやっている。
今日は軽音部の合宿の一日目。泊まり先は私達の街から大分離れた場所にあるので
特急電車を使って行くことになる。
もっとも、合宿と言っても半分お遊びのようなものだ。
泊まるのは部員の琴吹紬(ムギ)の家が持ってる別荘で、目の前にビーチがあるとか。
だから他の部員も海で遊ぶ気満々で、みんな水着を持参している(勿論私も)。
行きの電車の中で、私達は席を向かい合わせて談笑していた。
「スイカ割りでしょ、バーベキューでしょ、それに……」
と、楽しみではち切れんばかりなのはギター担当の平沢唯
「夜はやっぱり肝試し!」こいつは私の幼なじみでドラム担当の田井中律
「やめやめ、肝試しなんて子供っぽいし」と私は異議を申し立てる。
「あー、澪は怖がりだからなぁ」
「ベ、別に怖がってなんかないもん!」
そんな私達のやり取りを、大金持ちのお嬢様でキーボード担当のムギは
なぜかうっとりと見守っている。
「遊びもいいですけど、練習もちゃんとやるんですよね?」
と後ろの席から言ってきたのは、今年軽音部に入った生真面目な一年生、中野梓
「大丈夫よ、お姉ちゃんはああ見えてもやる時はやるんだから」
梓の隣の席の平沢憂は部員ではないが唯の妹で、姉が心配でついてきたのだという。
はっきり言って、姉の唯より数段できた娘だ。

「お弁当にお飲み物はいかがですかー」
その時、車内販売のワゴンを運ぶ男の人が私達に近づいてきた。
ワゴンには弁当や菓子やジュース類がぎっしり並び、おいしそうな匂いが漂ってくる。
「そういえば、お腹ペコペコ……」唯の腹がグーと鳴る。
「ダメだぞ、お昼はあっちで食べる予定なんたから」と私。
「でも、喉も渇いたなぁ」と律。
「ここは私がおごるから、ちょっと早いティータイムにしましょうか」とムギ。
「「さんせーい!」」唯と律が同時に声を上げる。まったく、現金なやつらだ。
ムギは私達の注文を聞くと、財布を取り出して車内販売の男の人にお金を渡した。
私はあらためてその男の人を見た。
この手の職業にしては珍しく、彼の髪は真っ赤だった。バンドでもやってるのかと
最初は思ったが、よく見ると顔立ちも日本人離れしているし、地毛かもしれない。
「澪ちゃん、はい」
「え? ああ、ありがと」
私はムギから手渡された『午〇の紅茶』の缶を開けて一口すすった。
他の部員達も自分の頼んだ紅茶やジュースを美味そうに飲んでいた。
その時――
「うー、なんか……眠たくなってきた……」
隣の唯が突然私の肩にもたれかかってきた。
「唯、ゆうべちゃんと寝たのか?」
と私はたしなめるも、唯はすでに寝息を立てていた。
「ふぁ……何だか、あたしも眠いような……」律までそんなことを言い出す。
「私も……」おいおい、ムギもか?
二人とも、あっという間に眠りに落ちてしまった。
「まったく……寝過ごしたらどうするん……だ……」なぜだろう、ゆうべはぐっすり寝たはずなのに――
得体の知れない猛烈な眠気に襲われ、そこで私の意識は途絶えた。


「澪ちゃん、起きて、澪ちゃん」
「ん……」
目を開けると、ムギが不安げな顔で私を見つめていた。
まだ意識は朦朧としている。確か……今日は合宿……私は電車に乗ってて……
「し、しまった! 寝過ごし……」
私は慌てて起き上がった。だが――
「あ、あれ? ここ、どこだ?」
「私にもよくわからないの」ムギが申し訳なさそうに言う。
私はここが電車の中ではなく、体育館のような広い建物の中であることに気付いた。
照明は一段高い舞台のような場所だけを照らしていて、私達の居る辺りは暗かった。
普通の体育館とは違い、窓や扉はなぜか見当たらない。
周りをよく見ると、私達以外にも何十人か居るらしい。彼らもやはり私達同様に
困惑しているようで、「ここから出せ!」と怒声を誰にともなくぶつける人もいた。
彼らの外見は様々だった。私達と同じく高校生っぽい女の子が居るかと思えば、
昔のお侍さんみたいな人、仮面を付けた変態ぽい人、身長三メートルはありそうな
筋骨隆々の人まで居る。どこか現実感を欠いた光景だ。
何だ、これ……? 私、悪い夢でも見てるのかな?
「あー、澪ちゃんとムギちゃん」
「おーす、探したぞー」
聞き覚えのある声がしたので振り返ると、唯と律、それに憂がこっちに歩いてきた。
「みんな……心配したのよ」ムギが安堵のため息を漏らす。
「ん? そういえば梓は?」私は律達に尋ねた。
「あたしらもまだ梓には遭ってない。澪と一緒かなーと思ったんだけど」
「何でよ」
「あんたら仲良いし。先輩後輩を越えた愛ってやつ? うーん、妬けちゃう!」
……私は律にいつものゲンコツをお見舞いした。
その時、建物内が急に騒がしくなった。舞台の方に目をやると、舞台袖から人が
入ってきた。それも一人ではない。二人、三人……合計十二人が、兵隊のような
一糸乱れぬ動きで舞台の上に並んだ。

彼らはみな同じタキシードを着用し、同じ赤い髪を生やしていた。
いや、それだけじゃない。
彼らはみな、顔立ちまでが瓜二つだった。
しかも、その顔に私ははっきりと見覚えがあった。
あの時の、車内販売の男……!
私は指先から血の気が引いていくのを感じた。
「わぁ~、お〇松くんみた~い」
と唯はアホな事を言っている。こいつは頭悪いからあの男の顔も覚えてないらしい。
「「「ようやく全員目覚めたようだな」」」
男達は異口同音に、同じ言葉を全く同じタイミングで話した。
「「「お前達にはこれから、あるゲームに参加してもらう」」」
まるで十二人が一つの意識を共有しているかのようなその声は、密閉されたこの
建物にとてもよく響き渡った。
「すげー、目茶苦茶ハモってる。うちの軽音部もあれくらい合わせられたらなー」
と律も呑気な事を言っている。ダメだこいつら。
だが、赤髪の男達が次の言葉を放った時には、唯も律も沈黙するしかなかった。
「「「お前達にはこれから、殺し合いをしてもらう」」」
先程のざわめきが嘘のように、建物内の人達が静まり返った。
「「「ここにいる六十四人で、最後の一人になるまで互いに殺し合え」」」
……彼らは何を言っているんだろう?
コロシアイ?
コロシアイって……何だっけ?
人と人が互いに……互いに殺害……さつがい……SATSUGAI……
ああ、やっぱりこれは夢なんだ。こんな馬鹿げた事が現実であるはずがない。
やがて、建物のあちこちから「ふざけるな」「馬鹿野郎」「Fuck you」などと
罵声の集中砲火が始まった。
「「「お前達がすんなりこのゲームに乗るとは思っていない。だからお前達には、
 我々の要求に決して逆らえないよう仕掛けをしておいた。既に気付いている者も
 居るだろうが、お前達の首には我々と同じ首輪が嵌められている」」」

そう言って、赤髪らは全く同じ動作で自分自身の首を指差した。よく見ると確かに
銀色の細い首輪が十二人全員に嵌まっている。
私ははっとして、周りを見回した。
ある――。唯にも律にもムギにも、憂にまで同じ首輪が嵌められている。
「澪ちゃん……」ムギが涙声で私の名を呼ぶ。
私は恐る恐る自分の首に左手を伸ばした。
――!
ひんやりと冷たく、硬い手触り。夢の中にしてはあまりにリアルなその感触は、
これが現実である事を私に嫌でも認識させた。
すると赤髪達は、タキシードの内側からリモコンのような物を取り出した。
「「「もしお前達が我々を妨害したり、あるいは首輪を無理矢理外そうと
 した場合は――こうなる」」」
と言って、赤髪らはリモコンのスイッチを一斉に押した。
ぼん、というハモった破裂音とともに彼ら自身の首輪は爆発し、胴体から離れた
十二個の生首が一斉に宙を舞い、そのまま放物線を描いて一斉に床に落下した。
そして――よりにもよって、生首の一つは私の足元に転がってきた。
ごろごろ、ごろごろ、と。
生首のカッと見開いた目が私の視線と合った時、生首は転がるのを止めた。
私の中でずっと抑えていた何かが、ダムが決壊したように一気に噴出する。
「い、い、嫌あああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
私は建物全体を震わせんばかりの大声で叫んだ。
半狂乱になった私を、友人達は何とかなだめようとした。
「澪ちゃん、大丈夫?」ムギの声。
「やだ!」
「澪ー、しっかりしろー!」律の声。
「やだ!」
「澪さん、落ち着いて」憂の声。
「やだ!」
「あんまり騒いでると、澪ちゃんの首輪までやられちゃうよっ!」
「ひっ」
唯のその一言で、私はようやく冷静さを取り戻した。
まったく……頭悪いくせに侮れないやつだ。

そんな私達をよそに、舞台にはいつの間にか十三人目の赤髪が立っていた。
彼は首輪をしておらず、足元に倒れている十二体の首無し死体などまるで意に
介さない様子で淡々と話し始める。彼らは本当に人間なんだろうか。
「お前達が今見たように、首輪には爆弾が埋め込まれている。私はリモコンで
 ここに居る全員の首輪をいつでも爆破できる。下手な事は考えない方がいい
 ではこれからゲームのルールを簡単に説明しよう。ルールの詳細はこの後
 お前達に支給されるルールブックに記載されているから、それを参照してくれ。
 殺し合いはこことは別の会場で行われ、午前0時をもって開始される。
 既に気付いているだろうが、お前達の武器や持ち物をすべて没収済みだ。その
 代わりにお前達には支給品の入ったデイバックを渡す。デイバックには全員共通の
 基本支給品とランダム支給品の二種類が入っている。基本支給品は食料や地図、
 参加者名簿などゲームに必須の物。ランダム支給品はお前達から没収した物から
 ランダムで数点選んだ物。銃器や刀剣などゲームに有利な物もあれば、全く
 役に立たない物もある。どれが当たるかは運次第だ。勿論、支給品は他者から
 奪っても構わない。次に禁止エリアだ。ゲームの会場には禁止エリアが存在し、
 そこに一歩でも入ると首輪が爆発する。禁止エリアは時間経過とともに三ヶ所ずつ
 追加され、その場所は開始から6時間毎に行う放送で発表する。新規禁止エリアが
 実際に発動するのは放送の少し後だ。なお、ゲームでの死者も放送毎に発表する。
 基本支給品の参加者名簿についてだが、お前達の人数は現在六十四人だが、
 名簿には五十二人しか記載されていない。深い意味は無いが、ゲームを盛り上げる
 一要素だと思えばいい」

そして、と赤髪は付け加えた。
「開始から24時間以内に死者が出ない場合、お前達全員の首輪を爆破する。
 全員が殺し合いを避け続ける事は不可能なのだ。死にたくなければ戦え」
最後に、赤髪は妙な事を口走った,
「良い事を教えてやろう。ゲームで最後まで生き残った者には、どんな望みでも
 一つだけ叶える権利が与えられるそうだ。それこそ金でも、地位でも、永遠の
 若さでも、だ。せいぜい頑張るがいい人間ども。以上」
やはり彼(ら)は人間ではなさそう。でもそれ以外にも気になる事がある。
権利が与えられる“そうだ”と彼は言った。つまり彼はゲームの主催者ではなく
ゲームの進行役に過ぎないという事。
一体主催者はどんなヤツだろう……
あれこれ考えているうちに私はまたも猛烈な眠気に襲われ、目が醒めたら
全然別の場所に居た(催眠ガスでも吸わされたのか?)

【一日目/ゲーム開始】

【秋山 澪@けいおん!】
【平沢 唯@けいおん!】
【田井中 律@けいおん!】
【琴吹 紬@けいおん!】
【平沢 憂@けいおん!】


【デヴァイン・ノヴァ×12人@機動戦士ガンダム00 死亡】
【残り六十四人】



主催者
【不明】

進行役
【デヴァイン・ノヴァ@機動戦士ガンダム00】



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最終更新:2009年10月22日 22:24