第三回定時放送 ◆Wwuynt7aRE
「――ハ、ッァ!」
脳に新鮮な血流が流れ込んでくる感覚を覚え、『俺』は驚いた。
体から抜け出ていく命、真っ暗闇の中、段々と消えていく意識。
『俺』は死んだはずじゃ――
「目覚めたか」
そう呟く声が耳に届いた。
重々しく、意志の力に満ちた声だ。
俺はゆっくりと目蓋を開く。
そこにいたのは――
.
◇
黒鍵が閃く。
虚空を割いて飛ぶ刃はしかし目標を捉えることはない。かわりに響いたのは甲高い金属音だ。
敵の手元で唸りを上げる真紅の剣――Maser Vibration Sword、MVS。
高周波振動斬撃兵装の前では、いかに聖堂教会が威を示す代行者の刃と言えども抗し得ない。
返す刀で放たれた追撃の四爪、スラッシュハーケンがそれぞれ異なる軌道で迫る。
綺礼は拙い魔術を行使する。
両手の黒鍵が瞬時に数倍の太さに膨張。暴発同然の『強化』。
左で一つ右で一つ弾くと同時、過剰な魔力の充填とスラッシュハーケンとの衝突で砕け散る刃。
だが、
言峰綺礼は止まらない。
さらに飛び来たる双牙を迎撃すべく、全身の力を再度振り絞る。
黒鍵を展開――間に合わない――瞬時の判断。
踏み込んだ震脚がコンクリートの床を雷鳴のように打ち鳴らす。
足から立ち昇る力が腰に伝播し、腰を回すことでさらに加速して上半身へ。
丸めた背に鉄の冷たさが触れた瞬間に全身の勁を解放。渾身の鉄山靠。
巌のように鍛え上げた体躯と、練りに練った勁の一撃。人の身で到達し得る最高峰の打撃。
競り勝ったのは研鑽された武。ハーケンは押し返され最後の一つと絡み合い失速、巻き戻されていく。
そして、衝撃。
凌いだ――そう、油断した訳ではないが。
最初に弾いた二つのハーケン。あれは綺礼が弾いたのではなく、敵手があえて『弾かせた』のだろう。
予測された運動は制御しやすい。スラッシュハーケン『ハーケンブースター』によって再度の攻撃を仕掛けられる程度には。
肩口から切り飛ばされていく自らの両腕を見送りながら言峰綺礼は息を吐いた。
力を尽くし客観的にも善戦したとの確信はあったが、これまでのようだ。
翼のように吹き出る自らの血潮を眺め綺礼は立ちつくす。
その眼前。綺礼を追い込んだ巨人、KMFが地に膝を付きその操縦者が軽やかに降り立った。
なびく黒髪、引き絞られた双眸。細腕に握る鋭い刃が光を反射し綺礼の目を眩ませる。
「なるほど……あなただったか。二つ名通りの腕前、感服したよ」
偽りなく綺礼は言う。是非は問わない。結果だけがある。言峰綺礼は敗北した――厳然たる結果が。
いくら綺礼が人外の武を誇るとはいえ、その肉体は生物の範疇を越えることはない。
ならば鋼鉄の躯体を自在に操る者に後れを取るのは至極道理であると言えよう。
綺礼の首を刈るべく刃が奔る。せめてもと綺礼は脚を振り上げ、地に叩き付ける。
震脚。僅か残った魔力が雷となって迸り、剣の軌跡が乱れた。
すかさず身を沈め、斧刃脚。地を這う蹴りはしかし何の手応えも返さない。
ならばと綺礼は勢いのままに体を回し起き上がりつつ、宙にある顎を砕かんと爪先を跳ね上げる。
トッ――と、軽く肩を蹴られる音。直後足先に感じる軽い重み。
視線の先には綺礼自身の爪先の向こうに広がる艶やかな長髪があった。
敵は跳躍の頂点で再度足場を蹴ったことによりさらなる跳躍を成し、綺礼の蹴り足に着地したのだ。
天を見上げがら空きの首へと突き下ろされた剣の切っ先は咽頭部を貫き、背に抜ける。
「――まさ、しく。その名の通り……『閃光』、だ」
血泡に遮られながらも称賛を込めて呟いた綺礼の言葉に、
「あら、ありがと。でもごめんなさいね、さようなら」
『閃光のマリアンヌ』――元ナイトオブラウンズにしてブリタニアの皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは、剣を滑らせ神父の首を断ち切ることで応えた。
◇
「やったっ……! ざまあみろっ……! あのクソ神父っ……! 『俺』を殺した報いだっ……!」
言峰綺礼の死に様を前に気勢を上げた男が一人。
名を
遠藤勇次。
そう、
宮永咲との麻雀対決に敗北し命を断たれた男である。
だが死んだはずの男はビール片手に綺礼の『処刑』を観戦していた。
そしてその執行者、淡い桃色のKMFランスロット・フロンティアを駆る騎士がモニターの中で遠藤に手を振る。
遠藤は既に理解していた。
――彼女も俺と同じく『死を乗り越えた存在』っ……!
遠藤が、そして
アーニャ・アールストレイムの精神に潜んでいた皇妃がなぜ生を得ているのか。
のみならずマリアンヌは生前の姿――アーニャの小柄な体とは似ても似つかぬ成熟した元々の彼女自身の体を得ているのか。
「……遠藤よ、気は済んだであろう。放送の支度をするがよい」
答えは、この声だ。
遠藤は振り向き、地に頭をこすり付けんばかりに低頭した。
「ははっ……! 私めの願いを聞き入れていただき、真にありがとうございます……『皇帝陛下』っ……!」
暗闇から現れたる者、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアはそれ以上遠藤に構わない。
目前で行われた殺戮に眉ひとつ動かさず、妻であり騎士である同胞に帰還を促した。
「最近のKMFはすごいのねぇ、ガニメデとは大違い。
C.C.にはもったいないわね」
「その体、馴染んでいるようだな。往年と寸分変わらぬ動きであったわ」
「ええ、むしろアーニャの体よりも調子いいくらい。さすがは進化した人類――『イノベイター』の体、と言うべきかしら?」
「いえいえ……マリアンヌ、君の腕があってこそだよ」
シャルルそしてマリアンヌと向かい合い語るのは、端正な顔立ちをサングラスで隠し黒いスーツに身を包む青年。
遠藤は本来部下であるはずの『黒服』の傍に執事のように控えている。
「悪いわねリボンズ。せっかくの見せ場を譲ってもらっちゃって」
「構いませんよ。僕としても一度戦闘データを取っておきたかったのでね」
そう語ったのはかつてのイノベイターの首魁、
リボンズ・アルマークだ。
いや、正確に言うなら『イノベイド』――ヴェーダによって生み出された出来損ないのイノベイター、そのリーダーだった男である。
「結果は上々、これならまあ及第点だね」
「あなたご自慢の脳量子波とやらは使えないのに?」
「それは仕方ないことだよ。むしろ身体能力だけは同等の数値を得られたことを幸運と言うべきだ」
薄く笑う。リボンズだけでなく、マリアンヌ、そしてシャルルも。
遠藤は自分だけ存在の格が違っていることを分かっているから、迂闊に口を開けない。
その視線は部屋の片隅に無造作に置かれている死体――ディートハルトと呼ばれていた男だ――に注がれている。
ここにいる四人には共通する点がある。
みな、一度死んだ身であること。
みな、その無明の世界から再びこの現世へと舞い戻ってきたこと。
みな、その肉体を生来の物ではなく新たに製造された『帝愛製イノベイター』の物としていること。
この三点だ。
「長かったね、ここまで……」
「うむ。だがようやくこれで、我らの悲願へと再び手をかけることができる」
頷き合うシャルルとリボンズ。
この二人の関係を一言で表すなら、『盟友』であろう。
アーカーシャの剣にて息子ルルーシュに存在を否定されたシャルル。
ソレスタルビーイングとの決戦で真なるイノベイターに敗れ量子の欠片となったリボンズ。
二人が巡り合ったのは運命か、はたまた神の気まぐれか。
アーカーシャの剣とは人の集合無意識である。
その狭間に消えたシャルル――それはつまり、肉体という楔を捨て精神体となって遍くヒトの内的宇宙に封じられること。
GN粒子とは人の精神を繋ぐ触媒の一面を持つ。
そのGN粒子に身を焼かれたリボンズ――それはつまり、肉体という楔を捨て量子となって虚空に拡散すること。
精神体と量子存在。極めて近い存在である二人がいずこともしれない世界で出会ったとき、全ては始まった。
シャルル・ジ・ブリタニア――再びラグナレクの接続を行い、神を殺すために。
リボンズ・アルマーク――再び世界を掌握し、イオリア計画を自らの手で遂行するために。
動き出した二つの魂がまず求めたのは新たな肉体だった。
死人の存在は許されないのか、思念体のままでは元の世界への帰還が叶わなかった。
しかし思念体としてあまたの世界を彷徨った二人は、それらの世界の技術者や能力者に憑依するなどして技術や情報を吸収していった。
わかったことは、肉体を得ている間はしかし肉体を得れば世界を渡る能力は失われるということ。
ならば能力を用いるのとは別の方法で世界間を接続するしかない。
代替となる体の入手にあたり接触したのが帝愛グループ――そして遠藤勇次。
豊富な資金を持ち、非人道的な実験にも躊躇い無く投資できる人間のクズの集まり。利用するにはうってつけだった。
遠藤を選んだのには特に理由はない。金に困り銀行を襲うか自殺するかなど、実に小さな問題で心を病んでいたため取り憑きやすかったというだけだ。
そこから帝愛グループに接触、シャルルとリボンズが持つ異世界の知識をエサに取引してどうにか協力体制を確立。
二人はあくまで天才的な技術者として、帝愛グループの秘密研究所で研究に明け暮れた。
さほど間をおかずに肉体は用意できた。世界初、完全なる人造人間の誕生であったが当然報道などされなかった。
ただのクローン培養などではなく、遺伝子を改造したコーディネイター人間――疑似イノベイドなのだから、発表などできるはずもない。
培養した肉体に精神を移し遠藤の体から抜け出た二人は、改めて本来の目的に取りかかった。
世界修正力とでも言うべき壁に阻まれる二人が,、生ある人間として元の世界に帰還する方法――世界間移動装置の開発である。
ここに来て二人は遠藤の遥か雲の上の存在である帝愛グループ首脳陣にある打診をした。
シャルルとリボンズが彼らに対して提案したのはすなわち、他世界間の人間による生存を賭けた殺し合い。
彼らは狂喜した。腐るほどの金を持ち人生に退屈していたところにとんでもない娯楽が舞い込んできたからだ。
作り物ではない、本物の人間が繰り広げる殺し合い。
しかもただの人間ではなく超能力者や大型ロボットが入り乱れる大戦争ともなれば、娯楽としてはかなりのものだ。
参加者を集めるという名目で装置を開発したいと訴えた二人の元には次から次へと支持者が訪れた。
帝愛グループが金に糸目を付けず集めたその世界の科学、シャルルの知るアーカーシャの剣のメカニズム、リボンズが持つGN粒子、その他別世界で得た技術。
それら全てを統合・発展させ、精神存在であった自らの特異性をも最大限に利用し、長き思考錯誤の末、二人はついに到達した。
『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない』――アーサー・C・クラーク。
《金》で《魔法》を買った、遠藤勇次はこう述べた。
帝愛の得た《魔法》とは、大多数が想像するであろう呪文を唱えれば数々の超常現象を起こせるというもの、ではない。
GN粒子、ギアス、ユグドラシルドライブ、魔術、超能力、聖杯戦争、ゼロシステム、G-ER流体制御システム、etc……。
各々の世界固有の技術を組み合わせ発展させたオーバーテクノロジーこそが、帝愛グループの手に入れた《魔法》である。
莫大なカネこそかかったが、その《魔法》により帝愛グループは世界を裏から支配するほどに膨れ上がり消費以上のリターンを得た。
その立役者となったという実績、発言力を元に。
シャルル・ジ・ブリタニアは帝愛グループの現総帥である
兵藤和尊を追い落とし、帝愛グループの新たな支配者となった。
兵藤以下の主だった幹部は一も二もなくシャルルに頭を垂れた。
絶対存在だった兵藤和尊を、彼の土俵であるギャンブルで一蹴してみせた謎の男。
シャルルのカリスマは多くの人望を集め、それ以上に畏怖の念を以て迎えられたのである。
リボンズはシャルルの懐刀として、しかし決してその存在を必要以上に露出しない影の実力者として活動した。
対外的には
利根川幸雄がいた位置にそのままリボンズが滑り込んだのである。
さて、バトルロワイアル開始以降二人は殺し合いの推移を見守るのみで一切の干渉を避けてきた。
彼らは本来科学が秀でる世界の出身である。ゆえに魔術や怪異など、本質的に出自を異とする物には多少ならず倦厭感を持っていた。
さりとて制御できるうちはよかったものの、協力者として参加を要請した二人の男――言峰綺礼、
荒耶宗蓮。
この二人の動きが単なる演出の範囲を越え、見過ごせない歪みとなった時から話は変わった。
彼らは何かを企んでいる。あるいはそれはシャルルとリボンズの望みを砕くものであるかもしれない。
もちろん断言はできない。しかしその可能性は十分にある――疑念を感じていたところに、一応の進行役に据えていた遠藤の殺害だ。
別にシャルル達は遠藤の死に何ら感慨や不都合を感じていた訳ではない。
スポンサーの意向で遠藤が選ばれたのだから怨恨がある訳でもない。
ただ、都合が良かっただけだ。
シャルル達に伺いを立てることなくスポンサーと接触した言峰綺礼の独断専行を処断した――そう対外的に処理できる絶好の機会だったというだけ。
荒耶宗蓮はすでに死亡している。
だが荒耶宗蓮の目的、根源に挑むという意志を考えれば額面通りに受け取ることはできない。
状況を掴めない以上、外科的に問題を取り除くしかない――残る不安要素、言峰綺礼の排除である。
しかし、シャルルが処刑しろと命じても外部の協力者である言峰綺礼が従うはずがない。
実力で排除しようにも、配下の黒服ごときでは状況次第でサーヴァントとすら渡り合う超人を仕留めることなど不可能。
かといってシャルルやリボンズは肉体的には常人と大して変わりはない。
もちろんリボンズの専門分野、機動兵器を用いれば話は別だったが、シャルルが待ったをかけた。
使えるカードを一枚増やす――そう言って、シャルルは自らの能力を行使した。
マリアンヌと遠藤、両者がここにいるのはシャルルの能力によるもの。
人の心を渡るギアスを所有していたマリアンヌと、一時期シャルルとリボンズを心中に住まわせていた遠藤。
この両名はシャルルと魂の親和性が高かったため、死人の意識が帰属する集合無意識の中から容易にサルベージできた。
そしてその意識を押し込む肉体をリボンズが用意する。あくまで他の帝愛関係者やスポンサーには内密に。
必要だったのは戦闘力に優れ決して裏切る心配のない駒、つまりはマリアンヌのみだったのだが遠藤もついでに蘇生させた。
だがそれを説明する気はない。彼ら以外の他人に同じことはできないし、この能力のことは伏せていたからだ。
培養されたイノベイドの肉体は魂を持たない。シャルルが仲介することでマリアンヌと遠藤の意識はスムーズに着床した。
マリアンヌは自身の時間軸とは違う皇帝の姿に驚愕したものの、求めるところは同じと知って変わらぬ忠誠を誓ったのである。
こうして死者は甦り、言峰綺礼と
ディートハルト・リート、及び遠藤の死体を処理した数名の黒服は粛清された。
スポンサーを納得させるのは容易だった。
生身の人なれど人外の達人と、人型自在戦闘装甲騎の虐殺とも言える戦闘をお目にかける――そう言うだけで彼らはゴーサインを出した。
企画運営に支障をきたす不穏分子の粛清というお題目は必要なかったかもしれない。
「……さて、後々禍根になりかねないファクターを排除したのはいい。だが言峰神父の穴を埋めるためには僕らが表舞台に立つことも必要かもしれないな」
「当面は遠藤を矢面に立たせることで凌げよう。こやつの死因は血液採取による失血死……どうとでも言い繕える」
「じゃあ私は裏方に回るわね。おおっぴらに動けばさすがに怪しまれるわ」
「うむ……遠藤。聞いていたな?」
「は……はいっ……!」
「まずは放送をつつがなく終えるがよい。追って次の指示を下す。下がれ」
「はは……っ!」
遠藤は一も二もなく指令を全うすべく部屋を辞去した。おそらくこれから彼らは目的を達するべく暗躍するだろう。
どのみちそこに遠藤の意思が介在する余地はない。言われたことを言われた通りにやるだけだ。
「そういえば、彼らはどうなったんだい? ナイトオブラウンズ、だったっけ」
「ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインとはコンタクトできた。もうしばらく時間はかかるが問題なくこの世界に召還できるだろう」
「問題は彼以外……ルキアーノ・ブラッドリーとロロ・ランペルージか」
「あやつらはそれほどわしに通じていた訳ではない。時間がかかるやもしれぬ……」
何を話しているかさっぱりわからない会話を背に遠藤は進む。
放送設備のある部屋に入ると一斉に黒服たちが目を剥いた。
だが遠藤は動じず、あらかじめ用意してあった嘘をつらつらと並べる。
スポンサーの意向により生き長らえたこと、司会進行役を続行すること。
すぐに黒服は遠藤に興味を失う。良くも悪くもそういう淡白な組織であるがゆえか。
遠藤は自嘲気味に笑い、傍らの
インデックスへと放送を始めるように手を振った。
彼女もやはり遠藤には何の興味もないのか、疑う素振りもなくその言葉に従い口を開いた。
◇
『インデックスです。
ゲーム開始より十八時間が経過しました。第三回目の定時放送を行います。
くれぐれもお聴き逃しなきようお気を付け下さい。
禁止エリアを発表します。
今から三時間後、午後九時より禁止エリアを三つ設定します。
今回追加される禁止エリアは 【】 【】 【】 です。
続いて第二回放送からの死亡者を発表します。
以上、十一名です。生存者は二十七名となります』
機械的に伝達事項の放送を終えた少女に代わり遠藤がマイクを握る。
所詮己も道化である――そんなことはわかっている。
だが最終的に生を掴むためにはこの舞台で踊るしかないということもまた、自明であった。
『やあ、諸君……頑張っているようだなっ……!
私も君たちの健闘を讃えたい気持ちで胸がいっぱいだっ……!
Congratulation……! 生存おめでとう……! 生存おめでとう……!
ああ、もし私がその場にいたなら諸君ら一人一人の手を取って抱きしめてやれるのだが、それは無理っ……! 不可能っ……!
だからせめて無事を祈ろうっ……!
そしてこれからも素敵な闘争を期待しているっ……!
ここからはたとえ仲間であっても油断してはいけないっ……!
君が信頼という幻想に身を浸し隙を見せた瞬間を、彼らは虎視眈々と狙っているのかもしれないのだからっ……!
進めっ……! 考えろっ……! 立ち止まるなっ……!
最後に勝つのは誰よりも狡猾に戦った者ただ一人っ……!
何よりも優先すべきは自分っ……! 甘い言葉にだまされるなっ……!
生ける狗は死せる獅子に勝るっ……!
忘れるなっ……! 死んだらそこでおしまいなんだっ……!
……では、今回の放送を終了する。また九時間後を楽しみにしていてくれっ……!』
最後辺り自分の境遇に対する不満を思い切り吐露したような気がしなくもないが、遠藤はとりあえず指示されたことはやり終えた。
虚脱する四肢。その眼はどこか虚ろだった。
参加者たちは主催陣営の内部抗争など知る由もない。
平和な奴らめ、と遠藤は見当外れの不満をぶつけるのだった。
最終更新:2010年03月24日 10:50