『第三回定時放送』 ◆auBLRbWxRM
幾多の命の煌めきを見守ってきた太陽が、地平線の彼方へと沈む。
箱庭の世界に、再び夜の帳が降りようとしていた。
波濤に揺れる、この船の乗員たちもその例外ではなく。
刻が凍ったかのように、全ての参加者たちは第三回の定時放送に備えている。
だから、誰も気付かない。
死闘の果て、疲れ切り、泥のように眠っている彼女の様子に、気を払う者はいない。
そう、彼女は眠っていた。
海原の揺らめきに、どこまでも身を任せて。
そして、彼女が目を覚ました。
パチンと、電源が入ったかのように。
その目覚めに、呼応するかのように、放送が始まる。
「こんにちは。
インデックスです
ゲーム開始より十八時間が経過しました。
これより、第三回目の定時放送を始めます。」
流れる放送の声は、可憐にして無機質。
無色透明無念無想。無憂無風にして無欲無私。
およそヒトとしての在り方を忘れてしまったかのような、我を奪われた少女の声が、
およそヒトとしての在り方を大きく逸脱してしまった、我を持たぬ少女の耳を打つ。
伝えられた連絡事項は三つ。
一つ目は電車の復旧について。
【B-4】駅から【C-6】駅の路線と、【F-5】駅から【D-2】駅間の路線が再び使えるようになったという報告と
その中間区間の復旧の遅れを詫びるもの。
二つ目は、新たな禁止区域の設定について。
午後九時以降、【】【】【】の三ヶ所が立ち入り禁止エリアとなるという報告。
そして三つめが、
以上11名が新たに斃れ、残った人数は26名であるという報告だった。
これまでの放送と異なり、喧しい男の煽り文句の付かない無味乾燥な放送が終わる。
何かが起こった事など、全てを知る彼女でなくとも判る事。
結局の所―――
遠藤勇次は気付かなかった―――
その魔法を金で買ったという幻想に、殺されるまで。
荒耶宗蓮は気付かない―――
この状況を作り出した存在に。
言峰綺礼は気付かない―――
自らの愉悦を最優先に動く、自己の変質に。
彼らは気付かない―――
主催陣営を気取る、彼ら自身がただの舞台装置の歯車でしかない事に。
茫洋とした瞳に映し出されるのは、空の闇を写し取ったかのような深淵をたたえる混沌の海。
嵌め込みの小窓から覗く、自らの生み出した風景を見納めに『 』は再び、カラの肉体へと―――
最終更新:2010年04月01日 10:19