第四回定時放送「これから」 ◆hANcxn7nFM
『今晩は、みなさん。
これより
第四回定時放送を始めさせていただきます。
戦闘中の方も、休憩中の方も、一時手を休めて傾聴していただくことをお勧めします。
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よろしいでしょうか。
まず最初に列車ですが、ただいま全線復旧しております。
C-6臨時駅に関しましては、そのままお使いいただけます。どうぞご利用くださいませ。
なお列車内では禁止エリアの影響を受けません。ご安心してお乗りください。
次に午前三時からの立ち入り禁止エリアについて、発表させていただきます。
【B-1】 【F-1】 【G-1】
この3エリアに関しましては、午前三時から立ち入りを禁止させていただきますので、
参加者の皆様ご注意下さい。
次にこちらで確認された、午後六時からの死亡者を発表させていただきます。
再度の読み上げはございませんので、ご注意下さい。
以上4名です。
現時点でお残り頂いております参加者は、22名となります。
また、現在全エリアを通して快晴ですが、
午前三時前後から、全エリアにて降雨が予想されております。
視界が悪くなりますのでご注意下さい。
私からは以上です。第五回定時放送で、またお会いしましょう。
最後に遠藤からの挨拶で、第四回定時放送を締めさせていただきます』
■
黒服サングラス無精髭の男がマイクの前に進み出る。
これからその言語能力の限りを尽くして、参加者たちを蔑み、罵倒し、激励するのだろう。
放送を聞く誰もが総身構えた、その時。
会場中の全てのモニターに電源が灯った。
学校の、ショッピングモールの、ある工場の、デパートの、ビルの、薬局の、ノートパソコンの。
全てのあらゆるモニターが、ある情景を映した。
左右に激しく首を振る黒服サングラスの男。
きょろきょろと辺りを見渡す、白い僧衣に身を包んだ少女。
次の瞬間、スタジオの電気は落ちる。
その刹那、である。
一発の銃声が響いた。
白い僧衣の少女が両耳を塞ぎ、悲鳴をあげながらしゃがみ込み、サングラスの男が身動きも取れない、その姿を、強い光が映し出す。
強力な、そうまるでサーチライトでも照らしているかのような強力な光。
サングラスはなんらその役目を果たせず、男は正面を見ることすら出来ない。
「何者だ!」
かろうじて、そう叫ぶのみである。
返答は銃声と共に行われた。
「我ら、黒の騎士団!」
■
入り乱れる怒声と銃声と悲鳴と絶叫。
やがて静寂が訪れ、画面は血の海と死体の山のみとなった。
カメラは襲撃者-黒の騎士団-の前に回り込む。
そこにはフルフェイスの仮面に顔を隠した、マントを羽織った全身黒尽くめの男。
そしてその男の後ろには、数人の男女がマスクで目だけを隠し、黒で統一されたコスチュームに身を包んでいた。
マントの男が勢い良く両手を広げ、宣言する。
「我が名は"ゼロ"!弱き者の守護者!」
舞台の中央で大仰な芝居をする往年の大映俳優のごとく、躍動感ある動作のまま"ゼロ"と名乗る男は続ける。
「今、このバトルロワイヤルは完全にこの"ゼロ"、ならびに黒の騎士団が乗っ取った!
バトルロワイヤル参加者の諸君。
私こそが新たなる支配者!
そう、今こそこの島の絶対的権力は、この"ゼロ"のものであると宣言する!
力あるものよ、我に挑め!
弱き者よ、我が救いを求めよ!
そして、その奮闘する姿こそ至上の美しさと知れ!」
ややあって"ゼロ"の周囲のモニタの一つが一人の男の姿を映し出す。
「これはこれは、スポンサーのお一人か。
今更のこのこと抗議とは悠長なものではないか。
貴様らは自分たちは撃たれないと思って、このバトルロワイヤルを見学していたのか。
否!
このバトルロワイヤルに関わった時点で、貴方も参加者の一人に過ぎぬのだ!」
"ゼロ"の怒声と共に彼の掌中にあったチェスのボタンが押される。
スポンサーと呼ばれた男の体が爆音と共に破裂し、血の塊となって砕け散った。
「それでは諸君、六時間後に会おう!」
そこで中継は終わり、島中のモニターが沈黙して、静寂が訪れた。
■
"ゼロ"と名乗った男は仮面を脱いだ。
黒髪、サングラス、無精髭。
ウサン臭さを形にしたような信用ならぬ風体の中年男性。
そう、
遠藤勇次。その人である。
「ご苦労だったね、遠藤。蘇って早々大役をよく果たしてくれた」
黄金色の瞳の少女が語りかける。
ねぎらいの言葉とは裏腹に、遠藤にはその表情は蔑んでいるようにも見える。
いや、彼女は無表情である。
能の面のように、見るものの思いがその表情に宿っているに過ぎない。
つまりは脳が映しだすマヤカシだ。
遠藤は頭を振って答える。
「主催者自らの願いとあれば、承るのが務めです。それに蘇らせていただいたご恩にはかえられません」
この言葉こそが裏腹だ。
遠藤は自分の命が目の前の少女の気まぐれによって奪われたであろう、ということを察している。
所詮自分は換えの利く人材に過ぎない。
遠藤を蘇らせたのも単なる気まぐれであろう。
実際、蘇らす方便はスポンサーたちに蘇生の技術を見せ付けるためだったはずである。
よりましと思えた事へ急激に方針を転換する。
よく言えば、である。
はたから見れば単なる気まぐれだ。例え最初からその気であったとしても、だ。
そしてこの道化を演じさせたのもまた然り。
だが、尻尾を振る。
それが一番の保身であると、敏感な嗅覚が告げている。
目の前のこの少女の力は、今自分がスポンサーの一人を爆死させたように、気まぐれに遠藤自身を殺せるのだ。
「しかし、よろしかったのですか?」
遠藤は言外にスポンサーを殺してしまったことへの不安を口にした。
金色の瞳を持つ少女は表情ひとつ変えずに口を開く。
「構わない。もうスポンサーなど不要だ。欲しい結果は一日とせずして手に入る」
遠藤には少女が、手に入らずとも、と続けたような気がしたが、その唇は閉ざされたまま。
言葉を発してはいなかった。
「それにまぁ、突然スポンサーどもの首を全て吹き飛ばしても良かったのだが、余興は必要だろう?」
少女はこともなげに言い放ち、振り返りもせずに闇に消えた。
闇の中、遠藤は自身と、その相方である白い僧衣の少女の替え玉を見下ろす。
名も知らぬ少女と名も知れぬ男。
見開いた瞳が己をさいなむかのように睨んでいた。
否。
そう見えた。
【第四回定時放送終了(ゲーム開始二十四時間経過)@残り22人】
最終更新:2010年07月30日 00:04