そろそろ没投下しても問題ないはず


今夜は満月だ。
煌々と輝く真円の月が天空にその身を主張している。
夜空には他にもいくつか星が出て星座を象っているが、どの輝きも月には及ばない。
だがそれを堪能できるのは空を見る事が出来る者だけ。
例えば無数の葉が生い茂った深い森の中では空を見る事は叶わない。
辛うじて木々や葉の隙間から月や星の光が洩れてきてはいる。
だがそれはほとんどが地上に到達する頃にはほとんど頼りなくなっている。
結果として森の中に明確な光が存在する事はなく周囲一帯は漆黒の闇に閉ざされている――

――はずだった。

そう今までの話は自然な状態での話だ。
そこに何か自然でないものが混じれば、結果は変わってくる。

例えば人工的に作られた明かりという文明の利器を使う者がいれば光は生まれる。

「やだ、やだ、やだ」

そう何かに取り憑かれたように呟きながら一人の少女が手元のデイパックを漁っていた。
この少女の名前は秋山澪
私立桜が丘高校2年1組に所属する普通の女子高校生である。
常なら長身に黒のロングヘアーが映えるが、このような暗闇では身に付けている紺色のブレザー同様で闇と同化している錯覚を覚える。
わざわざバトルロワイアルに招かれたからと言って、別に魔法が使えるとかロボットを乗りこなすとか死線をいくつも潜り抜けていたとかいう事は全くない。
敢えて言うなら軽音部でベースを担当して、その影響でファンクラブができているぐらい。
だがそれを考慮に入れても秋山澪は極々普通の一般女子高校生でしかない。
そんな彼女がこのような殺し合いにいきなり放り込まれてパニックになるのは仕方ない。

(……なんで私がこんな場所に!?)

澪の頭の中では先程から疑問の渦が激しく逆巻いていた。
なぜ自分がここにいるのか。
いくら考えても全く理解できなかった。
当然だ。
今まで殺し合いとは程遠い平和な世界にいたのだから。

幼馴染の律に強引に連れて行かれて軽音部に入部した。
そして紬と唯が入部して軽音部は活動を始めた。
決して真面目とは言えないが、それでも自分達なりに練習してきた。
夏には合宿に行き、秋には文化祭でライブを行った。
冬にはクリスマスパーティーもした。
そして新学期。
新入部員として梓が加わり、澪の高校生活はそれなりに恵まれたものだった。
全く不満が無かったと言えば嘘になるが、それでも毎日が楽しかった。

それが一瞬で崩れ去った。

もうここに当たり前のはずだった平穏の日々はない。
ここにあるのは殺すか殺されるかという無慈悲な選択。
まだ高校生の澪にとってその激変はあまりにも唐突過ぎた。


(そうだ、みんなは!!)

こうして連れて来られたのは果たして自分だけだろうか。
もしも知り合いも同じような事になっていたとすれば。
そう思うだけで澪はさらなる衝撃に恐れを抱くばかり。
自分の知り合いが同じように殺し合いを強要されるなど考えたくもない。
そう思い始めると気は急くばかり。
澪は慌ててデイパックの中から全員に支給されたという懐中電灯を手探りで探しだした。
そして近くに落ちていた封筒を強引に破って慌ただしく名簿を取り出すや否や懐中電灯の光を当てた。
そこにはインデックスと名乗った少女が言っていた通り52の名前が秩序よく並べられていた。
一見したところ名簿は五十音順になっているようだ。

「最初はアーチャー、次は秋山澪……私だ、そして明智光秀……明智光秀!?」

その名前を見た瞬間、澪は殺し合いの恐怖を忘れる事ができた。
恐怖以上に驚愕と疑問の感情が勝ったからだ。
なぜ歴史上の人物の名前が名簿に記載されているのか。
ただ同じ名前か、それともミスプリントか。
もしくは魔法などという不可思議な力で時空を超越してやってきた本人か。
だがそれも一瞬のこと。
すぐにまたここが殺し合いの場だということを思い出し、さらに恐怖した。
一応最後まで確認したところ澪と同じ軽音部の『平沢唯』『田井中律』『琴吹紬』そして唯の妹の『平沢憂』の4名の名前があった。
なぜか残り一人の軽音部員『中野梓』ではなく『平沢憂』の名前があったり。
なぜか『明智光秀』みたいに歴史上の人物の名前があったり。
なぜか『カギ爪の男』みたいに本名と思えない名前があったり。
いろいろと気になる事はあったが、それを深く考えられるほど澪は強くなかった。
殺し合いに巻き込まれたのが自分だけでなく知り合い――しかも親友とその妹――となれば当然だ。

「…………」

いきなり殺し合いをしろと言われた。
パニックになった。
名簿を確認した。
知り合いがいた。
思考が停止する。
恐怖した。

その結果――。

「……やだ」

――澪はただ怯えた。
今まで殺し合いとは程遠い平和な世界を享受していたのだから当然と言える反応だ。

そしてもうひとつ澪を怯えさせる要素があった。

「やっぱり、これって、本物?」

澪の手の中には周囲の闇と同じ漆黒の物が握られていた。
それは一挺の拳銃――トカレフTT-33。
殺しのための武器。

さすがの澪も今手にしているのが本物の拳銃であるという事だけははっきりと理解していた。
無機質な鉄の冷たさも重さもまさしく本物。
ここが殺し合いの場である以上この拳銃が玩具ではなく本物である事は自明の理だ。


「これで、みんなと殺し合うの?」

そう考えるだけで澪の恐怖は極限まで跳ね上がった。
知り合いと殺し合うなど考えたくない。
だがここには知り合いよりも知らない人の方が遥かに多い。
その人たちが全員殺し合いに反対だとは到底思えない。
明確な殺意を持って行動する者、なにがなんでも生き残りたいと思う者、自暴自棄になる者。
そういった人に会えばどうなるか。
改めて考えるまでもない。

――ただ殺されるだけだ

「やだ、やだ、やだ」

いくら嘆いたところで事態が好転するはずはない。
だがそうだとしても澪は嘆かずにはいられなかった。
この唐突な変化を。


ポキッ


「誰!?」

それをあまりに突然だった。
澪の耳にいきなり背後から音が飛び込んできた。
咄嗟のことで驚くままに後ろを振り返った澪はそこで見てしまった。
手元から転がり落ちた懐中電灯のおかげで一瞬はっきり見えたのだ。

右手に刃物を持って鋭い目つきでこちらを睨んでいる顎と鼻が尖っている男の姿を。
一瞬ではあったがそれでも特に印象に残ったのは男の鼻。
それは人間とは思えないほど尖り、そして長かった。

そう古より伝えられてきた化け物――天狗のごとく。

――なぜ天狗がいるのか?
――もしかして魔法っていうものは実在した?
――右手に刃物で何をする?
――バトルロワイアル?
――殺さなければ殺される?

――こいつは殺し合いに乗っている!?

この間わずかに1秒。

そして漆黒の闇が広がる森にまた新たな人の手による光が生まれた。

     ◆

伊藤開司(カイジ)。
これまで幾度となくギャンブルという名の死闘を経験してきたカイジは今回のゲームがいつもと雰囲気が違うと感じ取っていた。
まず司会役として遠藤勇次が出てきた点。
カイジは今まで遠藤とは二度出会った事があるが、どちらも危険なギャンブルへの誘いだった。
しかも名簿を確認すると逆に今まで司会役の立場にあった利根川幸雄が参加者として名を連ねていた。
そこでカイジは《開会式》の際に遠藤が口走ったある言葉を思い出した。

『……フフ。こんな末端にいた人間の顔、あなたが把握していなくとも無理はない。
 しかしようやく、ようやく俺にも運が巡ってきたってことなんですよ……おっと、今のはただの独り言だ』

つまりこれは利根川とのやり取りだった可能性が高い。
そうでなくても遠藤の紹介したギャンブルにはどちらにも利根川の姿があった。
発言の内容を信じるなら利根川は遠藤について、もしかすると今回のゲームについてさえ知らないかもしれない。
利根川との接触は危険かもしれないが、それを差し引いても利根川の情報は価値がある。
こういう場では少しの情報でも武器となり得る。

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予約時点で書いたのはここまで以下プロット

周囲の探索に赴いたカイジは闇の中で本来ならあるはずもない明かり(ずっと点いたままだった澪の懐中電灯)を発見
 ↓
何かの罠かと疑いつつも慎重に近づくカイジ――が、暗闇が原因で足元の小枝に気付かず踏んで澪に気付かれる
 ↓
前述の通り澪は暗がりと恐怖のせいで咄嗟に銃の引き金を引く、銃弾は避ける間もなくカイジの胸に命中
 ↓
カイジが撃たれてしまった理由を描写(疑って慎重に行動したが真に怯えている澪を見て無意識のうちに彼女を信じてしまったこと、トカレフに安全装置がないために引き金を引いただけで銃弾が発射されたことetc)
 ↓
カイジ死亡、澪呆然で状態表へ

一応期限内にきちんと完成させるつもりだったが、正直それでも昨日のカイジ・真宵の話には負けた
僅か1レスというタッチの差で被った事は書き手として悔しい気持ちはあるが、逆にあの作品を没にしなくて良かったという気持ちもある

あと本スレで試したトリとここでのトリが変わっていたがなぜだったんだろう

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最終更新:2009年10月28日 21:58