ep.00 -Singing!- ◆ANI3oprwOY
追ってくる。
果てのない『くらやみ』の向こうから、何かが私を追ってくる。
逃げなければならない、今すぐ動かなければならないのに。
身体が、重い。
足に、力が入らない。
それはもう、すぐそこまで来ている、私のすぐ後ろまで。
早く逃げなくちゃ。
逃げなくちゃ。
逃げて、逃げて、どこまでも逃げて、たどり着かなきゃ、いけない、のに―――
挫いた足が、動かない。
身体が重くて進めない。
振り向けば目の前に、後ろから追ってくる怖いもの。
それを、私は――――
「……………っ!!」
そこで、いつも目が覚める。
◇ ◇ ◇
「うぅ……寒いな……」
寒空の下、通いなれた道を私は一人で歩いていた。
とうに秋が過ぎ新年を迎えても、住み慣れたこの町の冬はもう暫く続く。
冷え切ったアスファルトを踏みしめつつ、いつもより厚着して家を出たのは正解だったと確信した。
少し早い朝の通学路、生徒の姿はいつもより少ない。
こう寒いと、みんな家を出たくなくなるのだろうか。
なんて言う私も、今日は、いつもより家を出るのが遅れている。
別に、私の目覚めの悪さは、寒さのせいじゃないけれど。
目が醒めたとき、目覚ましのアラームは既に1回鳴っていたし、朝食を食べているときも何だか気怠い感覚が取れず。
トーストを喉の奥に押し込み、制服に着替え、やっと意識を晴らして家を出た時には、何時もの出発時間から15分近くズレていた。
遅刻が危ぶまれるほど遅れたわけじゃない。けれど、気持ち早足で歩くとする。
もう何夜も連続で見ている悪夢。
削れていく睡眠時間。
私にとって、目下最大の悩みだった。
「おっす、みーおっ!」
そのとき後ろから、声が聞こえた。
と、同時、背中に衝撃。
誰かに叩かれたのだと、すぐに分かった、そこに誰が居るのかも。
「うわっ! って……なんだ、律か」
「なんだとは失礼なー」
勢いのあるハキハキとした喋り方。トレードマークのカチューシャ。
私の幼馴染であり、今に至るも友達である。
田井中律が、そこに居た。
「珍しいじゃん、澪がこの時間帯に登校なんてさー。どういう風の吹き回しなんだよ~?
ひっさしぶりに私と登校したくなったのかこのこのー!!」
いつもと変わらない。
明るく賑やかで、ちょっとうるさい。
私の、親友だった。
「別に……」
「素直になれよぅー、最近の澪ぜんぜん一緒に登校してくれなくなったじゃん。
そろそろ私が恋しくなったてことなんだろー?」
律は満面の笑顔で、背中をバシバシ叩いてくる。
恋しくなったのはお前だろ。
なんて、軽口を言いかけて、止めた。
「……今日は……夢見が悪かったんだよ」
すると律はすぐに吹き出して。
『なになに怖い夢でもみたのかー? 澪はいつまで経っても怖がりだなー!』。
なんて茶化してくると、思っていたんだけど。
違った。
「……あ、ごめん」
気まずそうに、気遣うように、そして……心配そうな、顔をした。
「前生徒会長から聞いたんだよ、最近、ほんとに良く見るんだってな……嫌な夢」
ああ、なんだ、和が話していたのか。しかも、その深刻さまで添えて。
そして私は、律に話していなかったのか。
思えば久しぶりだった。律と一緒に歩くのは、こんなにゆっくり、話すのは……。
「そ、そういえばさぁ、楽器店について来てくれるって話。あれいつになったら行くんだよー」
律は話題を変えようとする。
少し、無理のある笑顔で。
「こんど、な」
「こんど、こんど、って、澪最近付き合い悪いぞー?」
「……ごめん」
「うーん……ま……いいんだけど、さ」
律はすぐに引いてしまう。
実際、付き合いが悪くなったのは事実なのに。
心なしか、先ほどまでの元気が、私の大好きだった彼女の明るさに、影が差してしまったような気がした。
罪悪感に駆られる。
だから私は、大きめの声で、色々な事を誤魔化すことにする。
「行こう、ゆっくり歩いてたら遅刻するぞ」
「……うん」
そこからは二人、とりとめのない会話を続けながら歩いた。
学校を目指して。
「……あ、澪。見ろよ、空」
「………降ってきたのか」
ちらちらと、粉雪の残る。
3年生の3学期。
私にとっての高校生活、最後の冬だった。
◇ ◇ ◇
いつも通りの日常が過ぎていく。
窓際の席は少し寒いけど気に入っていた。
授業は私なりに真面目に受け、休み時間はボンヤリと窓の外を見る。
昼休み中には律、唯、ムギ、梓がやってきて、和も交えて雑談する。
そんな、いつも通りの平和な一日だった。
「ねえ」
放課後、隣の席から声がかかる。
「ねえ、元副会長」
「なんだよ、元会長」
「あなた最近、ずっと外ばかり見てるわね」
「窓際の席だからな」
ぶっきらぼうな言い方に、和が苦笑するのが分かった。
軽音部のメンバーとは、終ぞ同じクラスになることはなく。
けれど彼女とは2年、3年と連続して一緒だった。
『生徒会に入りたい』
なんて突然言った時、和は驚きながらも快く相談に乗ってくれた。
結果として、私は生徒副会長になって、彼女との付き合いは長く。
色々な事があったけれど。
もしかしたら今の私にとって、彼女こそが一番の理解者なのかもしれない。
「先生がよんでるわ」
「私を?」
「そう」
気怠く前を見れば、教壇の隣で、さわちゃん先生が私を見ていた。
◇ ◇ ◇
「……と、言うわけなのだけど」
「そうですか」
「まずは、おめでとう、秋山さん。担任として嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「でも、秋山さん……」
「なんでしょうか?」
「ごめんなさい、いまさら変な事を聞くんだけどね。
あなたが2年の頃から、大変な努力をしていたのは分かっているの。
恥かしがりのあなたが副生徒会長にまでなって。
でも、本当に……これで、よかったの? あなたは―――」
「いいんです。両親も納得してますし。なにより私が、自分で決めたことですから」
◇ ◇ ◇
「澪先輩」
背後から声をかけられたのは、職員室を出て、廊下を歩いていた時だった。
振り向けば、そこには後輩である
中野梓が立っていた。
ギターケースを抱えて、私を見つめている。
「今日は、部活来られますか?」
「ごめん。引き継いだばかりの生徒会の様子を見にいきたいし、それに勉強もしなきゃ……いけないからな」
「そっか、そう、ですよね。先輩たちもうすぐ卒業、ですもんね」
何かをはぐらかす様に、梓は私から目を逸らす。
おかしなものだと私は思う。
はぐらかしているのは私なのに、どうして梓の方が気まずい顔をしているのだろう。
「梓は、これから部活?」
「あ、はい。唯先輩達、今日はちゃんと練習するのかなぁ……卒業ライブしたい、卒業旅行いきたい、って言ってるくせにだらけてばっかりで……」
「大丈夫だよ。あいつら受験終わったんだし、梓がビシッと言ってやればちゃんとやるさ」
「ほんとでしょうか……。でも先輩がいないとみんなの気が締まりませんから、大変なのはわかりますけど、たまには部活、来てくださいね」
「……うん」
梓と別れ、夕暮れの廊下を一人で歩く。
窓から流れ込むオレンジ色の光が、教室のドアや窓をぼんやりと照らしていた。
誰も居ない廊下、何処からか、楽器の音が聞こえてくる。
その音を聴きながら私は歩き続ける。穏やかな時間だった。
何も変わらない毎日。
何も変わらない日常。
だけど一つだけ以前と変わったことが確かにあった。
最近、部活をサボりがちだという事だ。
『でも、本当に……これで、よかったの? あなたは、みんなと同じ大学に行きたかったんじゃないの?』
さわちゃん先生は、きっとそう言いたかったんだろう。
勉強するから家に帰る、なんて嘘だ。
私の受験なら、今日、ついさっき終わったばかりだというのに。
推薦による、海外(ロンドン)の大学への留学試験―――無事合格だった。
「……ああ、そうか、じゃあ、もう引き上げないと、いけないのか」
ふと、忘れ物を思い出す。
ずっと隠していたもの。
気まずいかもしれないけれど、今日、取りに行かなければならないモノだと思った。
階段を上ってすぐの音楽室に、それはある。
夕焼けの部室。
ここに来るのはいつ以来だろうか。
一年と少し前、ちょうど私が悪夢に悩まされるようになった時のこと。
徐々に部活に顔を出さなくなって。
最初はみんな心配していた。
けれど、理由を察したのか、すぐに何も言わなくなった。
友人としての関係は変わらなかったけど、気を使っているような雰囲気は感じていた。
部室のドアをゆっくりと開く。
楽器の音は無く、人の声もしない。
夕暮れ時の、空っぽの部室がそこにあった。
ちょうど今朝、観た悪夢の再現のような――――
「……………」
幸い、今はなぜか、誰もいないようだった。
みんなして梓の説得を振り切り、梓を巻き込んで練習をサボっているのだろうか。
その様子を想像するだけで、ほほえましい気持ちになる。
残念なような、ほっとしたような、おかしな感覚の中。
私は、早急に忘れ物を、置きっぱなしにしていた楽器と私物を、右手で拾い上げる。
今日持って帰らなければ駄目だと思った。
じき、出立の準備を始めなければならない。そしてここに来ることは、おそらくもう無いだろうから。
そうして、荷物を担ぎ上げた私は、こっそり部室を出ようとして―――
「あれ、澪ちゃん。帰ったんじゃなかったの?」
気がつけば、部室の入り口に、一人の少女が立っていた。
「………ぁ」
平沢唯。
夕焼けに照らされた彼女に、私は絶句する
赤く染まった唯の姿に、私は、何を、連想したのだろう。
「あ、ああ……えっ……と、忘れ物、したんだよ。でもすぐ帰るから、ごめん、また明日っ……!」
言い訳できない大荷物で何を言ってるんだろう、私は。
早足で、唯の隣を通り抜ける。
通り抜けて、去ろうとした。その直前に、唯はぽつりと、呟いた。
「澪ちゃん……なんだか最近変わったね……」
足が、縫い付けられたように止まる。
ボンヤリとしているようで、その実、
誰よりも勘の鋭い唯は、もしかしたら見抜いていたのだろうか。
「私達と距離置いてるって言うのかな。ううん、もうちょっと曖昧な感触。
壁って言うより、膜があるっていうのかな。あんまし上手く言えないんだけど……。
なんか澪ちゃんの心が、遠くに行っちゃったみたいで……さわれなくなっちゃったみたいで……」
「な、なに言ってるんだよ唯。
私はいつもどおりだ。そうだよ、これ以上の『いつどおり』が……他にあるもんか」
「そっか、うんそうだよね。でも……もし悩みがあるなら何でも言ってね。
私達はいつでも相談に乗るから、だって最近の澪ちゃんはまるで――」
私は一歩後ずさる。
唯は優しく触れ合おうとしてくる。
指が、私の頬に伸びてくる。私の頬に、在る『傷』に―――
「『無理して澪ちゃんを演じてるみたい』だよ」
やめろ。
聞きたくない。
触れられたくない。
違う、私は――――触れたくないんだ。
「私、行くから」
逃げるように、俯いて、顔を隠して、唯を押しのけるようにして、部室を出る。
逃げるように、逃げた、廊下の先に。
「み、澪……じゃん、どうしたんだよ……」
―――律が、いた。
―――律だけじゃない、ムギも、梓も、そこに居た。
「帰るんだ……」
もう誰の顔も見たくない。
律も押しのけて、今度こそ家路に着こうと。
「―――なあ澪。私も、みたんだよ、悪夢」
ああ、やっぱり、今の会話、聞かれちゃってたんだ。
「私たち全員が同じ夢を見てる。
それは澪が、頑張る夢なんだ。唯、ムギ、梓、それに私の……為に、軽音部の為に、一生懸命になって。
傷ついて、ボロボロになって、死にそうになって、それでも戦う、そんな夢なんだ。
あれさ、本当は夢なんかじゃなくて……」
「――ッッ!!」
「……まってよ、澪ッ!」
もう、限界だった。
振り切るようにみんなを置き去りにして、私はそこから逃げ出した。
◇ ◇ ◇
振り返らずに走る。
逃げる。
逃げている。
なにから?
私はなにから逃げている?
日常から逃げている。
仲間から逃げている。
あれほど取り戻したかった、全てから逃げている。
何故?
どうして、どうして私は―――
「……っ……っ……な………ん……でだよぉ……」
何も分らないまま走り続けて、気がつけば、小高い丘の上にいた。
走りつかれ、丘の上で蹲るように。
たった一人で、泣いていた。
「………なん……で」
夕暮れの空を見渡せる丘。
私の町を見下ろせる丘。
全てがここにあった。
全てが元通りになっていた。
あれほどに取り返したかった日常が、全て、ここにあるのに。
「なんで、私は…………?」
だけど、どうしても、日常に帰れない。
心のどこかにある、異物感が拭えない。
どうしてなのだろう。
何も変わっていないはずなのに。
なのに辛い。
苦しい。
日常を生きることが、仲間と接することが。
どうしても引っ掛かりを感じてしまう。
噛み合わない感触に耐えられない。
あれほど望んだ事のはずなのに。
やっとの思いで、地獄から抜け出したのに。
やっと、やっと、還ってこれたのに。
殺し合いに生き残り、日常に帰還する事が出来たのに。
どうして私は、この安息に苦しみを感じているのだろう。
いったい何が変わってしまったのだろう。
私とみんなとの、ズレは、何処に在るのだろう。
ずっと、ずっと分らなかった。
だけど今日、やっと分ったような、気がした。
日常に異物感があるんじゃない。
この自分こそが、日常に紛れた異物なのだと、知った。
変わったのは世界じゃなくて、私自身だったんだ。
怖い。
怖いんだ。
何も知らない彼女達の無垢な瞳が。
単純に、純粋に、心配してくれる、その心が怖い。
こんな私を見つめる、その綺麗な目が怖い。
私のなかじゃ、何も消えていない。
何も、何も、無かった事には出来ない。
殺し合い。
あの地獄の痕跡は、確かにある。
左手首は今も満足に動かせず、ベースを弾くことは二度とできないかもしれない。
毎晩、見続ける悪夢。
そして何より、この頬に残る刀傷が、鏡を見るたびに思い出させる。
地獄の、殺し合いの、記憶を。
恐怖。
痛み。
絶望。
そして、罪。
傷は、消せない。
化粧で隠せても、消す事だけは出来ない。
憶えているし、分かっている。
私は、ただの人殺しなんだと。
自分の為に他人を傷つけた。
そのくせ、何の報いも受けていない。
地獄から解放された後。
戻る世界には、失った筈の全てが残っていた。
馬鹿げている。
殺したくせに、殺したくせに。一人で幸せな世界に戻ってきた。
こんなことは許されない。許せ、ない。
―――本当は誰一人救えなかったくせに。
私は、彼女達に案じてもらえる立場に無い。
両手は血で汚れきっている。
こんな手で彼女達に触れたくない。
私の好きだった平穏に、私が泥を付けてしまう。
関わるだけでみんなを汚してまう、そんな気がして。
何も知らない彼女達の純粋な心が怖くて、堪えられないんだ。
確信する。私はもう一生涯、あの陽だまりの中には戻れないんだろう。
気がつけば、そこからとてもとても、遠い場所に来てしまっていた。
日常を取り戻す為に、日常から遠く遠く離れて。
そしてもう、帰ることは出来ない。
たとえ目の前にあるように見えても、もう二度と、手に入れる事は出来ないんだ。
そう、悟った。
だって私はこれを、何よりも大切なモノを、気づかぬうちに、自分で捨ててしまっていたんだから。
きっと、これが相応の罰なのだろう。
自分の為だけに、命を奪ったことへの報い。
結果を笑って迎えるほど、潔くはないけれど。
仕方の無いことなのかな。とは思う。
それに私は、なんでだろう、不思議と――――
「なんだ、じゃあ、やっぱり救えない……」
記憶を消してしまいたいとだけは、どうしても思えなかったから。
あの場所で、あの世界で、私が出会い、そして守ろうとしたモノ。
その正体を知っても、後悔できないのだから、本当に救いようがない。
命を懸けた。
人を殺した。
取り戻したいと本気で願った。
全力で、戦った。
あの地獄の中で、私は、何を失ったのだろう。
そして何を、得てしまったのだろう。
「痛いな……」
何処かに残る、傷が痛む。
「痛い……」
たとえば、片頬に残るモノ。
この傷を、残すと選んだのは私自身だ。
私が決めた。
私が、選んだ。
それだけが重要なことだったんだ、と。
定めたのも、私自身だった。
「…………っ」
両の手を、強く握り締める。
なんて馬鹿げた選択肢。
なんて、愚かな生き方なんだろう。
忘れてしまえばいいのに。
記憶を消して、それでふわふわと、帰還した緩やかな日常に身を任せればいいのに。
なのに私はまた、選んでいた。
罪を、思いを、あの場所で背負ったモノを、未だ持ち続ける事を。
「そっか。まだ、在るんだ。ここに……」
―――そう、私は、まだ背負ってる。
背負うと決めた、重い、思いの全て。
失った誰かへの気持ち。
殺した誰かに対する罪科。
共に戦った誰かの孤独。
約束した誰かへの憧れ。
あの場所で出会って、そして失った彼女達の思いを。
そして、私自身の、選択を。
ぜんぶ、ぜんぶ、背負ってる。
きっとそれだけが、私があの地獄のなかで最後まで守り通した、たった一つのちっぽけな意地だから。
いま、歌いたいと思った
遠く離れた世界まで響くように。
声は風に乗って、天に届け。
空を越えて、世界を超えて、どこまでも、どこまでも、どこまでも響き渡ればいい。
そしたら、また、歩き出せる気がするんだ。
どこかに行ける気がする。
この、重い体を引きずって、どこかへと。
どこかへと、どこまでも、私は、行きたいんだ。
『じゃあ、せいぜい頑張って――――』
不意に、世界に溶けた彼女の声が、私の背中を押した気がした。
私は、肺がいっぱいになるまで、息を吸い込む。
どこにも届きはしない、小さな声。
だけど、たとえ届かなくったって。
「――――――――――――」
今の私に出来る全力で、歌う為に――――
◇ ◇ ◇
―――――遠い異国の風が、私の頬を撫でていく。
潮の匂いを感じながら、広大な野原を歩いて行く。
振り返ってもそこに、誰もいない。
一人きりの旅路。
もうどこにもいない4人分の幻影を引き連れながら、進む。
向かい風は強く、からだは重く感じるけれど。
希望を捨てられない私は、この重さとともに歩くだけ。
―――私はどこに行くのかな。
きっと永遠に届かない希望(おもい)を抱えたまま、飛ぶ事なんて出来はしないけど。
私は今も、背負ってる、それを誇りに。
―――私はどこまで行けるのかな。
どこまででも行いける。どこまででも行く。
翼を失って、飛べない私は、この二本の足でどこまでも。
想いを引き連れてどこまでも。
「道なき道でも進もうよ」
どこまでも、行きたいと、願う。
「一緒に、踏み出すそこが道だよ」
音はもう私一人しかいなくて、だから標(しるべ)すら無くて、それでも。
「ビートで胸に刻む、誓い」
この想いだけは、消せないから。
「いつまでもずっと―――」
足は未だ、止まらない。
「――――Yes,We are Singing NOW」
「へえ、日本語の歌なんて、こっちに来てから久々に生で聞いたわ」
声を出し切った充足へと。
不意に、誰も居ない筈の背後から、誰かの呼びかけ、小さな拍手。
「上手いわね」
少し、嬉しくなる。
きっと此処から始まるモノもある、此処から変っていくモノがある。
そう信じられるから今は、予感と共に足を止め。
私はもう一度、私の後ろへと。
誰かの声に、まだ見ぬ何かに、振り返る。
きっと、そこに確かに在る、何かが。
「ありがと、あなたは――――」
私の、夢の続きだ。
【 アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 秋山澪 -To the next story!- 】
最終更新:2015年05月11日 21:53