ep.00 -masterpiece- ◆ANI3oprwOY
どこかで、誰かの息遣いが聞こえた。
「――――こうも頻繁に起こる異常(イレギュラー)の定義とは、いったい何処に在るのだろうね」
そこは氷点下まで冷え切った水槽(ビーカー)の中だった。
内部を満たす液体に漬されて、それは目覚める。
靄を裂くように薄く開けた風景は、依然、オレンジ色のおぼろげ模様。
こぽこぽと、浮き上がる泡が視界を過ぎていく。
規則的に聞こえてくる、空気の抜けるような音。
薄いオレンジ色の向こう側には、ガラス張りの壁。
窮屈なビーカーを満たす、弱アルカリ性の培養液。
「――――――」
どこかで、誰かの、気配を感じた。
「例えばそれは、『神の気まぐれ』と表現される現象だ」
浸されて、揺蕩う水槽の、その向こう。
オレンジ色のおぼろげの、ガラス張りの壁の、更にその向こう側。
鑑合わせになるかのように、もう一つ、水槽が置かれていた。
その先を、明確に認識することが出来ない。
未だ、明確な意識を持てない。
痛みは無い。
知識も無い。
個我は薄い、が―――――
「―――――――」
どこかで、誰かの、疼きに触れていた。
「神様は大雑把な性格をしているという。ふむ、なるほど、ここに証明されているな」
向かい合う水槽、設置されたもう一つの生命維持槽の向こうに、それはいた。
一人の存在。その形を定義することは困難だ。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える、それは『人間』だった。
「君を送り返す『宛先』を間違えている。魂のラベルではなく肉体のラベルを『宛名』としたか。
魂は、精神だけでなく肉体にも宿るという、その思想のもとであれば、決して間違った形では無かったのかもしれないが」
逆さに浮いた、その人間は問うている。
「たかが並行世界の厄介ごとで、プランに誤差を発生させられては困る」
アレイスター=クロウリー。
学園都市の最大権力者、学園都市総括理事長。
一つの世界の頂点にある者が、その『個』に、問うているのだ。
「私の街から好き勝手に持ち出して、返さぬまま自滅したのは看過できない事実だが。
誤差は修正可能の範囲だ。
そして君は差し詰め、今回の数少ない拾いモノという事だろう」
――――仕事を受けるか、と。
「『私の観測する世界において』欠けたのは超能力者が数人。
幻想殺しを奪われた世界に比べれば軽度の損失だが、重大な誤差には違いない。
その誤差を、君は修正するに足る働きを見せるか。
あるいは、プランの短縮すら為して見せるか。
だとすれば、今回の異変(イレギュラー)にも、価値は在ったと示せるかもしれない」
どこかで、誰かが、熱を発した。
「答えを聞こう、来訪者(マーセナリー)」
ごぼり、ごぼり、と。
沸騰する水槽の内側で、熱が昇る。
泡立ち昇るモノに紛れるようにして、ゆっくりと、それの口元がつり上がる。
目の前の存在に、新たなる雇主に、向かい合うようにして。
水槽のなかを揺蕩う茶髪の少女―――傭兵は、次なる始まりへと凄絶に微笑みかける。
「はッ――――俺は、高いぜ?」
どこかで、誰かが、願っていた。
もう一度、始めろと。
終わらせるなと、呼んでいた。
ああ、また願われてしまった。
ならば仕方ない。
是非もない。
もう一度始めようじゃないか、仰せのままに、己のままに。
さあ、火を起こせ。
赤く染めろ。
地獄の中心で踊り狂え。
異なる世界と世界が交わる時、物語は始まる、ならば――――
「さあ、次の物語(せんそう)を始めようぜ」
【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / アリー・アル・サーシェス -To the next story!- 】
最終更新:2018年07月28日 18:20