オープニング ~殺人遊戯、開幕  ◆Vj6e1anjAc



 目が覚めると、僕は見知らぬ密室に閉じ込められており、ついでに椅子に縛り付けられていて、その目の前には背の高い老人が立っていた。
 何を言っているのか分からないとは思うが、僕だって何が何だかよく分からないのだから仕方がない。
 ただ、今目に見えているものだけなら、もう少し分かりやすく説明することもできるだろう。
 僕は阿良々木暦という、私立直江津高校に通う3年生だ。
 色々と薄くて弱い人間で、元・吸血鬼にして現・吸血鬼もどき。
 チャームポイントは大きなアホ毛と、高3にしてはいやに小さい165センチという小柄な体格。
 そんな僕が今どうなっているかというと、いつの間にか寝ていたらしく、そして目覚めた瞬間には、何やらよく分からない部屋に入れられていた。
 窓はない。扉もない。うんざりするほど並べられたたくさんの椅子と、その全てをびっしりと埋め尽くす人がいる。
 そして僕もその椅子に座らせられていて、両手両足は金具でがっちりと固定されていた。
 拷問椅子か何かだろうか? 漫画でしか見たこともないような代物だ。
 そんな僕達の視線の先には、1人の男が立つ舞台があった。
「皆、目を覚ましたようだな」
 低い声。おどろおどろしい声。
 威厳と迫力に満ちた、よく通る声だ。まるで獣の唸りにも似ている。
 ブルァアアアア、なんて吼えたら、さぞや凄まじいことになるだろうな。
 とまあ、声だけのイメージが先行していたが、その外見も声に負けず劣らずの、並々ならぬ迫力を持っていた。
 まず、その髪型と服装。
 中世ヨーロッパの貴族がつけていたカツラのような、とんでもなく立派なロールが並んでいる。服装も大体そんな感じ。
 中世からタイムスリップしてきた英国紳士のご先祖様か、剣と魔法の異世界からのお客様か、もしくはあまり考えたくないが、触れてはならない痛々しいコミュニティのお方のどれかだろう。
 そして体格。
 どう見ても老人の顔だというのに、身体は横にも縦にも大きい。がっしりとしたラインからして、肥満というわけでもないのだろう。
 ……と、少々説明が冗長になったが、ともかく、僕らの前に立っていたのは、そんな人間だ。
「単刀直入に言おう」
 老人が厳かに口を開く。
 そう言うからには、これからこんなイカれた状況になった理由を説明してくれるのだろう。
 全く、僕だってこんな経験は初めてだ。
 吸血鬼に襲われたり、クラスメイトが化け猫になってしまったり、彼女が蟹に体重を奪われたりと、不思議体験には事欠かない半生を過ごしてきた僕だったが、さすがに謎の組織に拉致されるのは初めてなんだ。
 ……なんで組織だと分かるかって?
 そりゃそうだ。あんな目立つじいさんが、たった一人で僕ら全員を捕まえられるわけがない。まず間違いなくその過程で通報される。
「今からお前達には――」
 そうこう言ってるうちに説明が始まったようだ。
 何かさせたいことでもあったのだろうか。これで“殺し合いをしてもらう”なんて言い出したら、どこぞの小説そのまんまで興醒めなものだけど。
「――殺し合いをしてもらう」
 ………………………………………………
 ……正直、本当にそう来るとは思わなかった。
 一瞬、本当に痛いじいさんなのかと思った。
 だがその真剣極まりない声色からして、これは確実に冗談ではないと、僕は断言することができた。
 どうやらそれは、他の人々も同様だったらしい。
 それなりに広い室内に、すぐさまどよめきが広まっていく。
 ざわざわ、というよりは、何故か、ざわ…ざわ…といった感じだったけれど。

「どういうことだ、シャルル・ジ・ブリタニア! 何故お前が生きている!?」
 すると、一際大きい声が上がった。
 同じ横列に座っていたので、どうにか見た目が確認できる。
 またも中世ヨーロッパからやって来たような、豪華な白い服装を身に着けた少年だった。
 僕と同じ黒髪の持ち主で、多分年齢も同じくらい。違うのは、向こうの方が格段と身長がありそうなことか。ちくしょうめ。
「ルルーシュか。やはりお前は変わらんな……嘘を吐く身でありながら、未だ他人にばかり真実を求めていると見える」
「質問に答えろ! お前はあの時、アーカーシャの剣もろとも消え失せたはずだッ!」
「わしが生きている理由など、今この場では瑣末なことよ」
「瑣末だと……!? こんな馬鹿げた催しに、死者の復活よりも重要な意味があるだと!?」
「そうだそうだっ!」
 緊迫したムードをぶち破るように、威勢のいい声が割って入った。
 今度は自分よりも前の席なので、顔を伺うことはできない。だがそのしゃがれ方からして、恐らく老人なんだろう。
「何が殺し合いをしてもらう、だ! ふざけたことを抜かしやがって! いいか! そんな馬鹿げたことはな、俺達が絶対に許さんぞ!」
「老いぼれよ、お前の話は聞いていない」
「なぁにが老いぼれだ! 自分だって似たようなモンのくせに!」
「どうやら、言っても分からぬようだな」
「おお、そうだとも! ならどうする? やるか? お前のような悪の手先に、俺達勇者が負け――」
 爆音。
 どかーん、と鳴り響いた音。
 恐らくは爆弾か何かでも爆ぜたんだろう。
 その炎と轟音が、血気盛んな老人の言葉を遮った。
 そしてもうもうと立ち込める煙は、ちょうど老人の声のする辺りの椅子から上がっていた。
 もう分かっただろう。
 老人が爆発した。
 シャルルとかいうあのヨーロッパ男に刃向かったオヤジは、有無を言わさず火達磨になったのだ。
 あちこちから悲鳴が上がる。がちゃがちゃと拘束を外そうとする音が鳴る。
 たちまち室内はパニックに陥った。
「見ての通りだ、我が息子よ。これ以上騒ぎ立てるというのなら、お前も同じ末路をたどることになるが?」
 そしてそんなものは気にも留めず、ぎろりとシャルルが少年を見下ろす。
 くっ、と微かな声を漏らして、ルルーシュと呼ばれた少年がたじろぐ。
「だが、覚えておけ……今は俺が皇帝だ。先代皇帝の亡霊など、いずれこの俺が蹴散らしてやる!」
 最後に捨て台詞のように吐き捨てると、ようやくルルーシュは押し黙った。
 ふっ、とシャルルの顔に浮かんだのは、軽い嘲笑だったのだろうか。
 そして再び前を向くと、大口を開いて説明を続けた。
「お前達の命は、首につけられた爆弾に握られている。わしに刃向かおうなどとは、ゆめゆめ思わんことだ」
 確かに首筋をなぞってみると、何やら異物感がある。
 爆弾入りの首輪だろうか。言われてみればそうだと分かるのに、今まで全く気付かなかった。
 これがある限り、僕達には一切行動の自由がないわけだ。

「ヘッ! 面白いことを抜かしやがるぜ」
 その時、また新しい声が割って入る。
 今度は若い男の声だ。多分20代くらい。少年というには無理があるだろう。
 後ろからの声に振り返ってみると、ぎりぎり姿が確認できた。
 全身を青いフィットスーツに包んだ、背の高い青い髪の青年だ。右手には、真っ赤に染まった長槍を持っている。
 漁師か何かだろうか? ウェットスーツにしてはイカしたデザインだが。
「要するに、コイツが爆発する前に、テメェをぶっ殺しちまえばいいんだろ?」
 ……ん?
 ちょっと待て。
 何で僕の位置から、そんな正確な情報が分かるんだ?
 外見はともかく、背の高さや手に持っているものなんて、座った状態じゃ分からないのに。
「爆発させる暇なんざ与えねぇ!」
 ……いや、いやいや。
 そうじゃない。
「《刺し穿つ(ゲイ)―――」
 あいつ、よく見たら立っている。
 椅子から立ち上がって、赤い槍を構えている。
 どういうことだ。未だに誰も外せていないこの拘束を、あいつだけは外せたというのだろうか?
「―――死棘の槍(ボルグ)》ッッッ!!!」
 瞬間、風が啼いた。
 ぎゅおん、と物凄い音をかき鳴らして、真紅の長槍がかっ飛んでいった。
 大仰な叫びと共に投げられた得物は、吸い込まれるようにしてシャルルへと飛んでいく。
 外さない。どう見ても心臓直撃コース。
 これがそのまま通ったなら、まず間違いなく即死する。
「あっけないもんだぜ」
 そしてそのまま、やはり槍は命中した。
 壇上に立つ老人の胸板に、深々と突き刺さっていた。
 どくどくと流れ出る血液が、男の衣服を染めていく。
 槍は確実に心臓に刺さった。これで僕達をさらった男は死に、僕達はあっけなく解放される。
「――それで終わりか?」
 その、はずだった。
「な……何だとッ……!?」
 驚愕も露わな若者の声。
 同感だ。僕も正直驚いている。
 心臓を貫かれたはずのあの老人が、まるで何事もなかったかのように、どっしりと構えて喋っていた。
 ありえない。そんな馬鹿なこと、人間にできるはずもない。
 死んだはずの人間が、死なずに生きているだなんて。
 どかん。
 そして、やっぱり爆発。
 あっさりと生き残った老人が、あっさりと若者を爆死させた。
 全身青色で固めた男の、真っ青に染まった顔面が、一瞬にして砕け散った。
「これで理解しただろう。自分の置かれた立場というものが」
 もはやこの場にいる誰一人として、騒ぎ立てようなどとはしなかった。

「では、闘争だ。生き残りたくば殺せ。勝ちたければ叩き潰せ。奪い、競い合い、最後の1人になるまで殺害するがよい」
 低い声で宣言すると、シャルルはきびすを返して立ち去っていく。
 心臓に突き刺さった真紅の槍は、相変わらずそのまま抜きもせずに。
 かつ、かつ、かつと靴音を鳴らして、舞台の袖へと引っ込んでいった。
 入れ替わるようにしてやって来たのは、どこかの軍服のような服装をした、金色の髪の女性だった。
「それでは、ルールを説明します」
 おおよそ感情のこもらない声で、女性が手にした原稿を読み上げる。
「今から貴方達には会場へと向かい、最後の1人になるまで殺し合ってもらいます。
 公平にゲームを進めるために、貴方達の装備は、先ほどの槍以外はこちらで全て没収させていただいております。
 スタート地点に鞄が置かれていますので、その中に入れられた物を用いて、生き残るために戦ってください。
 同じく、皆さんが持つ特殊な能力にも、それぞれの度合いに応じて制限をかけさせていただきました。
 なお今回の殺し合いでは、6時間ごとに、それまでの死者を発表する定期放送が流されます。
 そして1回目の放送の終了と同時に、鞄の中の参加者名簿に、このゲームの参加者の一覧が表示されるようになります。
 同時に禁止エリアというものが発表されますが、そこに進入してしまうと、首輪が爆発するようになっているのでご注意ください。
 首輪は強引に外そうとしても爆発しますし、もしも1人も死なずに24時間が経過したら、全員のものが爆発するようになっています。くれぐれもお気をつけください」
 物騒な説明を平然と語る。
「……それでは、ゲームスタートです」
 そしてその一言を皮切りに、僕の姿はその部屋から消え、見知らぬ場所へと飛ばされていた。



【ネロ@ガン×ソード 死亡】
【ランサー@Fate/stay night 死亡】



「手はずどおり、殺し合いが始まりました」
「そうか」
 殺戮のゲームの幕開けから、数分の後。
 そこは玉座の間であった。
 荘厳な作りの巨大な椅子には、大柄な老人が腰掛けている。
 神聖ブリタニア帝国・第98代唯一皇帝――シャルル・ジ・ブリタニア。
 かつて衰退したブリタニア帝国を、世界の3分の1を占める超大国へと変えた男。
 息子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを前に敗北し、命を落とし故人となったはずの男。
「……その……本当に、こんなことをする意味があるんでしょうか?」
 その男に、1人かしずく女がいる。
 金髪をショートカットにし、軍服をまとった若い娘。
 先ほど無慈悲にルールを読み上げた声が、今は躊躇いに揺れている。
「奴の使いにしては、些細なことを気にする娘だ」
 されど。
 されど、唯一皇帝は揺らがず。
 残虐非道な殺人遊戯にも、一切罪悪を抱くことなく、些細なことと切って捨てる。
「黙って見ておればよいのだ。この戦いの顛末を、な」



【シャルル・ジ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
【ルイス・ハレヴィ@機動戦士ガンダム00】



【1日目・0時00分――――――GAME START】



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最終更新:2009年10月22日 15:23