夕暮れの光が射し込み、橙色に染まった教室――。
ここは
上条当麻が通ってる学園都市の学校の教室内である。
上条当麻は、教室の真ん中に並べた2つの机だけの一つに座り、
自分の担任である
月詠小萌と二人きりで向かいあっていた。
「で、上条ちゃんは将来何をやりたいんですか~?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうやらこれは、俗にいう個人面談というものらしい。
進路相談とでも言い換えられるかもしれないが。
しかし、俺は、小萌先生の問いかけに対し、言葉を詰らせた。
もちろんこんな俺にだって夢や目標がない訳ではない。いや、厳密にいうならちゃんともっていた―――。かもしれない。
俺は、夏休み中に遭遇したある事件により、
今まで自分が生きてきた中で持っていた、これまでの人生の記憶がすっぽり欠落しているのだ。
学園都市にいるカエル面の腕利きの医者の話では、記憶が戻る見込みはまったくないらしい。
だから俺、上条当麻が自分だけの記憶として持ち合わせているのは記憶を失った以降の時間の記憶だけ。
たかだか一ヶ月程度の記憶しか持ち合わせていない俺が俺であり続けられるのは、
記憶を失った直後に病室で出会った変なシスター。
記憶を失う前の上条当麻が命懸けで守っていたと思われる、
インデックスを、今の俺も守り続けると決めた事だけだ。
たとえ、インデックスが好きなのは、記憶を失う前の俺。だったとしても―――。
しかし・・・。
「インデックスを俺が守る!」と、
この進路相談とおぼしき場において声高に叫んだ所で、
変人扱いというか、担任の教師に対して、年頃の生徒が異性と同棲状態なんて知られたら、
違った意味で問題になるんじゃないんですかーーーーーーーー?
いやまったくそんな不純な関係では微塵もありません本当ですよ神に誓って。
(いやいや、ここは逆にインデックスの世話を一生見るというのを、仕事に置き換えて、
常に腹ペコで飢えたインデックスに、飯を食わせ続ける福祉系の仕事を目指しています!とか、
そんな感じならこの大危機を乗り越えられますかね!?)
記憶を失った事を極力誰にも話さないと決めていた上条当麻が、
このイベントを無事乗り越える為にどうすればいいかを、
普段あまり使わない頭をフル回転させた結果、妙な汗まで出てきていた所に、
更に月詠小萌が口を開いた。
「ごめんなさい上条ちゃん・・・。意地悪な質問でしたねー。【進路】じゃなくて【将来】どうしたいかなんて。」
「あっ・・・」
上条当麻は言われて初めて言葉の違いに気が付いた。
進路相談なら、まず就職か進学か?
そう一番初めに聞かれるはずなのに、月詠小萌はわざわざ【将来】という言葉を選んでいたのだ。
上条当麻はその言葉の意味自体は深く考えずに、進路の事について聞かれてるのだと解釈していたが、
月詠小萌の質問の意図は、もう少し先の事を見据えた質問だったようだ。
しかし、進路ならともかく、将来自分がどうしたいかなんて、質問の意図に気付いた所で、
さらに回答に困る質問なのだが。
更に月詠小萌は続ける。
「将来の事、なんて・・・。漠然とした質問に即答できるなんて生徒はほとんどいませんからね。
でも、いつかは決めなきゃいけない事だから、しっかり考えてくださいね。
本当は、先生が上条ちゃんがやりたい事を一緒に探してあげたかったんですけど・・・。」
そういう月詠小萌を見て、上条当麻は月詠小萌が少し寂しげだと感じた。
自分の回答に落胆したというよりは、まるで誰かとのお別れのときにいう
最期の言葉のような・・・。
軽い胸騒ぎを覚えた上条当麻が、月詠小萌に声をかけようとした瞬間、
教室内に学校の予鈴が響き渡った。
「時間ですね・・・。先生はもう行きます。
それじゃ行きましょうか。
御坂美琴さん。」
御坂美琴?それって確かビリビリの本名じゃ・・・。
と思い出していた上条当麻の隣から「はい。」と小さな返事が響いた。
自分と月詠小萌以外には誰もいない教室―――。
だったはずなのに、上条当麻の隣には、いつのまにか
常盤台中学の制服を着た、御坂美琴が座っていた。
「ビリビリ・・・お前、いつの間にテレポート・・・」
この教室にいきなり御坂美琴が瞬間移動してきた。と考えるのが
上条当麻の持っている常識の中では妥当な判断なのだが、
何故まったく違う学校の進路相談中に乱入してくるかは上条当麻にはさっぱり理解できなかった。
(そもそも小萌先生は学校すら違うビリビリと、どこに行くんだ?)
とめどなく湧き上がる上条当麻の疑問を他所に、
ビリビリと呼ばれていた御坂美琴は机から立ち上がり上条当麻と向かい合って告げた。
「本当は・・・。アンタにちゃんと伝えたい事があったんだけど・・・。
もういいわ。時間もないし。」
いつも通り。そう感じた口調とは裏腹に御坂御琴は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
その表情は、夏休み中、御坂美琴のクローンである妹達を救う為に、
決して勝てない相手と言われていた学園都市最強の能力者、【
一方通行】に挑もうとしていた時より、
さらに悲壮に満ちた表情のように見えたのは、上条当麻の気のせいなのだろうか。
そして上条当麻に背を向けて、月詠小萌と一緒に教室の外に向かい歩き出した。
「おっ、おい!ちょっと待てよ!ビリビリ!小萌先生!」
歩き出した二人をとりあえず引きとめようとした上条当麻は自身の体に対する違和感に気付いた。
二人をそのまま追おうとしても、何故かその場から一歩も動けないのだ。
まるで全身を鉄の鎖で縛られたかのように微動だにしない上条当麻を置いて、二人は教室の入り口のドアに手を掛けた、
そして、一度だけ振り返ると上条当麻に言った。
「上条ちゃん・・・。どんな事があっても、上条ちゃんは上条ちゃんらしくいて下さいね・・・。
先生からのお願いです。」
「上条当麻・・・。当麻・・・。
元気で・・・。やんなさいよ・・・。」
必死で二人を引きとめようとするが、
その場から動けないで叫ぶ上条当麻を置いて、二人は教室から出て行った―――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「小萌先生っっっ!ビリビリーっっっ!」
上条当麻が、叫んで飛び起きたのは駅構内の事務室の椅子の上。
戦場ヶ原が寝てる間、自分がしっかり見張りをしなければ。と思い、
椅子に座りながら、事務室への入り口を警戒していたはずなのだが、上条当麻も相当疲れていたようで、
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「なんだ・・・。あれ、夢だったのか・・・。」
「なんだ。じゃないわよ。まったく・・・。
吼える事だけが生きがいの上条君は、寝てる時ですらその咆哮癖は直らないのかしら。
今度からは口に、ポールギャグでも突っ込んでから寝なさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
起き掛け早々浴びせられる、戦場ヶ原先輩からの心のこもった暖かいお言葉に対し、
なんだかやるせない気分になる上条当麻。
しかもポールギャグってSMの道具じゃねーか・・・。
戦場ヶ原は入り口近くの事務室内のソファーに座り、何やら本を読んでいたようだ。
どうやら、自分が寝ている間に先に目を覚まし、見張りも兼ねて入り口近くにいてくれたのかもしれない。
よく見ると自分の体には毛布が掛かっていた。
この毛布はもしかして戦場ヶ原先輩が・・・。と推測する上条当麻に戦場ヶ原が続ける。
「上条君、まさかこの女、俺に気があるんじゃないかとか、
気持ち悪い勘違いはしないようにね。その毛布、マグロ用毛布だから。」
「そんなもんを包む毛布をわざわざ探した上で、掛けて頂いて大変光栄ですよ!」
「あら、お気に召さなかったのかしら。気が利かなくてごめんなさいね。
後は部屋の隅に油塗れの布と牛乳臭い雑巾があったんだけど、良く考えたら上条君にはそっちの方がピッタリだったかしら」
「・・・・・・・・・・・・」
ちなみにマグロとは電車に飛び込んだ人間の隠語である。
「そんな些細な事はいいとして・・・。上条君」
ソファーで読んでいた本を閉じた戦場ヶ原は上条当麻に改めて尋ねる。
「さっき叫んでた、【小萌先生】とか、【ビリビリ】って何?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【小萌先生】は自分のクラスの担任教師で、生徒思いのロリっ娘先生。
【ビリビリ】は学園都市の知り合いである御坂美琴を指す自分が付けたあだ名。
このゲームの名簿にも名前が載っている電撃系の超能力者で、
少なくとも普通の人間じゃまるで相手にならないレベルの超能力者だと説明した瞬間、
戦場ヶ原の顔色が変わった。
「ちょっと待って上条君・・・?超能力?何それ?スプーン曲げ?ユンゲラー?」
「スプーン曲げも超能力測定で使われる検査方法の一つだけど・・・。なんだユンゲラーって?」
「質問を質問で返さないでちょうだい。疑問文には疑問文で答えろと学校で教わったの?」
「・・・もしかして戦場ヶ原先輩。超能力の事知らないのか?」
「宗教で信者集めの為に見せるような超能力なんて全部インチキ。
手品を大げさにしただけの典型的な詐欺よ信じられる訳がない」
戦場ヶ原が普段とは少し違う厳しい剣幕で上条当麻に話す。
上条当麻は過去に戦場ヶ原の母親が宗教に嵌り、結果家庭が崩壊してしまったという過去がある事を知らない。
だから超能力という戦場ヶ原にとっては妙に胡散臭い単語を急に出されて、
自分が戦場ヶ原から訝しがられる理由も上条当麻にはさっぱり理解できないが、
どうやら戦場ヶ原は超能力について何も知らなかったというのだけは分かった上条当麻は、
戦場ヶ原に、上条当麻がいた【学園都市】という環境についても改めて話すことにしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・・・・・・・・・信じられない。」
戦場ヶ原ひたぎは学園都市と超能力について、上条当麻から改めて説明を受けてもまだ納得はできない様子だ。
実際に自身が怪異という超常現象に触れた事があるとはいえ、
怪異 怪異 超能力 超能力
それはそれ、これはこれとまったく別の事象と捉えた彼女のこれまでの常識を今の上条当麻が口で覆すのは難しいだろう。
上条当麻も今は無理に理解して貰おうとは思っていない。
戦場ヶ原ひたぎが信じようが信じまいが、超能力が存在するというのは上条当麻の世界では常識なのだ。
この見知らぬ土地に学園都市から来た能力者はリストに二人も存在している。
もしも機会があるのなら、その二人の能力を直接見せれば解決するだろう。
もっとも、リストにのっているうちの一人である一方通行と再会したら、
また殺し合いに発展する可能性もあるが―――。
「嘘にしてはやたら細部がしっかりしてる虚言だけど・・・。いいわ。これ以上ここでの追求はしない。
こんな場所に集められて魔法で人が蘇るとか言われてるんだもの。
超能力の一つや二つあってもまったく不自然なところはないわ。予測範囲内よ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(グゥ)」
自分を無理やり納得させたような戦場ヶ原に応えるかのように、タイミング良く上条当麻の腹が鳴る。
普段の上条当麻は別に腹ペコキャラというわけではないのだが、
どうやら育ち盛りの青少年の肉体は昨夜失われた栄養分を欲しているようだった。
その腹の音を聞いた戦場ヶ原も、本をバックの中にしまい、
同じバックの中から支給された缶詰を取り出してソファーの前にあった机に並べ出す。
「そうね・・・。話の続きは、この子達と朝ごはんでも食べながらにしましょう。
私も上条君のホラ話を聞いてるうちに、話そうとしていた本題を忘れそうになったじゃない。」
気が付くと3匹の猫が戦場ヶ原の足元でナァーナァーと鳴いている
どうやら戦場ヶ原の出した缶詰を見て自分達も食事にありつけると思っているようだ。
特にスフィンクスに関しては、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
飯YOKOSE!YOKOSE!」
と言わんばかりに高揚しているようである。
それに促されるように自分のバックの中にあるであろう支給された食料品に目を通す上条当麻。
その何気ない行為が、彼を早朝から不幸な気分に叩き落す事になろうとは、
上条当麻本人もまったく予想していなかった、
いや、薄々ではあるが猫3匹が彼の支給品だったという時点で何かに気が付いていたのだが、
それについては敢えて深く考えないようにしていたのかもしれない。
「なんだこれ・・・・?【猫まっしぐら ササミブレンド】・・・?」
これは猫缶・・・?。おいおい待てよ
なんだこの支給された食料品、よく見たら全部猫缶だけなんですが、これは何て罰ゲームですか?
しかもこの猫缶を取り出した瞬間、戦場ヶ原の足元にいた3匹のテンションが明らかに上がっている。
この期待の眼差しを向けられた後では、この猫缶を無下にしまいこむ訳にもいかない。
上条当麻は覚悟を決めたかのように、もう一度バックを漁り、
後2つ猫用の缶詰を取り出して、猫たちを呼んだ。
「ほら、お前ら、たんと食えよー!よかったなー!
このゲームの主催者は多分猫大好きなんだなきっとー!
人間よりも猫の方が好きなんだあはははははははははー!」
はんばヤケクソになった上条当麻は床に猫缶を開けて置いてやる。
三匹は嬉しそうに朝ごはんである猫缶にかぶりつく。
その横で上条当麻は人としてのプライドを保つ為に、
戦場ヶ原に対して床に頭を擦り付けて土下座をし、
戦場ヶ原から朝ごはんを恵んで貰った事に関しては、彼の今後の名誉を守る為に敢えて触れない事にしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
猫缶に手を出す前に人としてのプライドを保つ為、多大な犠牲を払い戦場ヶ原から食料を恵んでもらい、
無事朝飯にありつく事が出来た上条当麻。
食料を恵んでもらったお礼という訳ではないが、
事務室内にあった急須とポットを使い戦場ヶ原の分まで日本茶を淹れている。
「しかし、土下座してまで食料を恵んで欲しいなんて。不幸は罪深いわね・・・。」
「うるせー・・・。いや、余計な詮索はよして下さいな戦場ヶ原様。私は貴方の忠実な僕であります。」
「何その気持ち悪い喋り方。語尾の後ろに【ケロ】ってでもつけて、もう少し軍曹みたいに可愛らしく言えるよう努力をなさい」
「分かったケロ。戦場ヶ原様は美人で優しいケロケロ。・・・って、何言わせてんだーーーーーーーーーーー!!!!」
「本当に気持ち悪いわね。もう無駄な努力はしなくていいから普通に喋りなさい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お前が言えっていったんじゃないかと、喉まで出掛かった言葉を必死で飲み込んで、
上条当麻は先ほど淹れてきた日本茶を戦場ヶ原に差し出しながら改めて、問い直す。
「で、戦場ヶ原先輩。さっき話そうとしていた本題って?」
「えぇ、上条君。もしかして貴方、さっきの放送聞いてなかったの?」
放送?戦場ヶ原にそんな事を言われて改めて時計を眺める上条当麻
今の時間は朝の7時を過ぎた辺り、放送があった時間からもう一時間近くも経過している。
上条当麻は放送の時間には完全に深い眠りに落ちていて、
放送を聴いていなかったのだ。
もしも深い眠りに落ちていたあの瞬間、何者かに襲撃されていたらと考えると
ゾッとするが。
鍵を掛けていたとはいえ、少し油断しすぎだったなと反省する上条当麻に戦場ヶ原が話を続ける。
「その様子じゃ、聞いてなかったのね・・・。まぁいいわ。
放送で全参加者に告知されたのは、電車の復旧時間と参加者の立ち入りを制限する禁止区域についてよ」
「ちょっと待て。放送って確か、参加者の死亡情報なんかも一緒に放送するんじゃないのか?」
「・・・それは知らないわ。私も放送開始してしばらくして起きたから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少しだけバツが悪そうに答える戦場ヶ原。
だが、上条当麻はここで放送を聴いてなかった戦場ヶ原を責める資格など微塵もないと思った。
戦場ヶ原を休ませるように判断したのは自分、
そして戦場ヶ原が休んでるうちの見張りをしようと決めたのも上条当麻自身であったにも関わらず
部屋に鍵を掛けたことに安心して睡魔に負けたのはどう考えても自分が悪い。
しかし、戦場ヶ原がバツが悪そうにしていたのは、本当は放送を聴いていなかった訳ではないから
という事に対して上条当麻が気付くことはなかった。
戦場ヶ原ひたぎは放送開始瞬間に飛び起きて、
名簿にない参加者と死亡者情報についてしっかりメモを取っていた。
だが、先ほどの上条当麻の知り合いの話を聞いて、
放送での死亡者の話については触れない方がいいと判断したのだ。
喜びなさい、上条くん。
貴方の夢に出てきた貴方の知り合いは昨日の夜のうちに死んでしまったわ。
最期に夢の中でも逢えてよかったわね。
- そんな加虐的な思考に、戦場ヶ原は自らの考えを打ち消した。
いくら知り合って間もないとはいえ、むしろ知り合って間もないからこそ
そんな事を言ってしまったら、この目の前にいるツンツン頭の少年はどれだけ心に傷を負うのだろうか。
先ほどの放送で戦場ヶ原も、
阿良々木暦から聞いて名前だけは知っていた
千石撫子の名前も読み上げられた。
阿良々木暦の名前や神原の名前は呼ばれてなかったとはいえ、
あの二人は千石撫子という少女とは自分以上に面識があったようだ。
もしも、さっきの放送を聞いていたのなら、
二人は無慈悲ともいえる残酷な事実にどれだけショックを受けるのだろう。
ここで隠したとはいえ、それが本当に事実であるのであるなら
彼はおそかれ早かれ事実を知る事になるだろう。
でも、それを聞くのは私の口からでなくてもいい。
これはズルイ考え方なのかしら阿良々木君。
神原・・・。後輩の面倒見もいい貴方なら、彼を傷つけないように事実だけを伝える事が出来たかもしれない。
でも私は、阿良々木君のような善人でも神原のように面倒見が良い訳でもない。
不用意に言葉を発しても相手を傷つけてしまうだけ。
「(私も以前と比べると弱くなったのかしら・・・。これも全部阿良々木君のせいね。
逢ったらまず頬を引っ叩いてやろうかしら)」
まさか、目の前の戦場ヶ原がそんな関係ない事を考えてるとは知らず、
上条当麻は自分の発言が寝ていた戦場ヶ原を非難しているように受け取られたんじゃないかと、
自分の発言にフォローを入れる。
「いや・・・。聞いてなかったら別にいいんだ戦場ヶ原先輩。
見張りするはずなのに寝ていた俺も悪りーし。」
その言葉に対して、戦場ヶ原が応える
「そうね。大丈夫よ貴方の知り合いも私の探し人も間違いなくまだ生きているわ。
これはいわゆる女の勘ってやつかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女の勘って便利な言葉よね。今後も困ったら多用していこうかしら。
そんな事を考えつつ、上条当麻に地図を出すように促す。
「じゃあまず禁止区域から教えるわ。しっかり聞いてちゃんと地図を塗りつぶしなさい。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でも、電車が復旧するのは昼からなのか・・・。」
戦場ヶ原から電車の復旧時間について説明を聞いた上条当麻は思わずため息を漏らす。
お昼までこの駅で待機していれば電車は動き出すようだが、
それでは安藤と約束した第二放送までにギャンブル船に集合という約束には間に合わない。
これは電車以外の方法で目的地であるギャンブル船に向かう方法を本気で考えなくてはならない。
だが、女性と猫3匹を連れて長距離を移動するのはある程度リスクも伴う。
それはこの駅に到着する前にも考えていた事ではあるのだが、どうやら本格的に覚悟を決めなくてはいけないようだ。
できるだけ早くて安全なルートを探そうと地図とにらめっこする上条当麻に戦場ヶ原は話を続ける。
「そんな入ってるかも分からない脳みそを使って思考しても無駄にカロリーを消費するだけじゃないの?上条君」
「大きなお世話だ!じゃあ何か他に手段があるのかよ!」
「はぁ・・・・・。やはり上条君は大変残念な偏差値の持ち主のようね。
まさか、ギャンブル船までテクテクと徒歩で向かうつもりだったのかしら?
散歩は健康には良さそうだけど、あいにくもうこれ以上ないってくらい健康なの。これ以上美しくなるつもりもないわ。」
戦場ヶ原の発言の意図がさっぱり理解できない上条当麻は思わず首をかしげる。
まさか、徒歩でギャンブル船に向かう以外に方法があるのだろうか?
「ちゃんと【電車】で向かうわよ。その為に駅に来たんだし当たり前じゃない。」
そう上条当麻にいう戦場ヶ原に思わず疑問を隠せない上条当麻。
まさか、電車が動くまでこの駅で待つつもりなのだろうか?
さらに戦場ヶ原が続ける
「確か・・・。このゲームの参加者の名簿にも載っている昔の偉人も言ってたわね。
【動かぬなら、奪ってしまえその電車】」
そう言って、戦場ヶ原は先ほど読んでいた本を広げた。
それは、【線路補習車操縦マニュアル】と書かれていた本なのだと
上条当麻は今初めて気が付いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
駅構内の事務室を出た上条当麻と戦場ヶ原と+3匹は、
駅のホームから少し外れた電車の車庫と思われる倉庫の前に来ていた。
その車庫はしっかりと施錠されていたのだが、
上条当麻が起きる前に、戦場ヶ原が駅長室を物色して拝借してきた鍵を使って、
車庫の鍵はたやすく開いた。
ギギギギとゆっくりと電動で開かれていくドアの中には
人が一人か二人乗れる程度の小型の車のような電車が存在していた。
その車には電車用の車輪もついているのだが、通常の車と同じく
タイヤも装備されているようだ。
戦場ヶ原が目を付けたのは、緊急の線路の補修などの際、現場に早く直行する為の作業用列車である。
そのほかにも、深夜などに線路が破損していないか定期点検する為の車両であるのだが、
電車についてそこまで詳しくない戦場ヶ原ひたぎにとって重要だったのは、
【電車が動きそうにないなら、その代わりのものを探せばいい】という事だった。
電車が止まっているというのなら、この補修車さえ動かせればさらに好都合。
昼まで電車が復旧する見込みがないというのであれば、今この路線上に人殺しに乗った参加者が
集まる可能性は限りなく低い。
どこの線路が破損しているか?というのは放送で触れられなかったのだが、
自分達で操作しているのなら壊れた線路に突っ込んで脱線という事態も避けられる。
しかもこの電車はレール状を走るための装備と、普通の車のようなタイヤも装備している
道が途切れているという事でも無い限り、目的地であるギャンブル船に向かうのは、
格段に楽になるだろう。
「すげぇな戦場ヶ原先輩・・・。もしかして、こんなの操縦できんのか?」
そういう上条当麻が戦場ヶ原を見る視線には羨望が含まれている。
今、上条当麻は戦場ヶ原ひたぎという女性に対し、初めてとも言える年上の女性への敬意の眼差しを向けていた
「こんなの操縦できる訳ないじゃない。」
「えっ?」
上条当麻は思わず発言の意図を図りかねるといった顔をする。
戦場ヶ原ひたぎは自信満々に線路補修車の操縦マニュアルを読んでいたというのに。
「貴方が操縦するの。上条君。
こういうものを動かすのは昔から男の仕事と決まってるのよ。大好きでしょう電車とか。
電車が好きで好きで堪らなくて、夜に線路に忍び込んで電車の写真撮ろうとして、
その大好きな電車に跳ねられて命を落として大往生!ってくらい好きだって顔に書いてあるわよ」
「なんだその一部の人たちに大変失礼な偏見に満ちた発言はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
しかし、文句を言っていても始まらない。
上条当麻はとりあえず線路補修車に乗り込んで操作パネルを確認する。
この補修車、操作自体はそこまで複雑な機構ではないようだ。
と上条当麻が確認していると、横から乗り込んできた戦場ヶ原が操作方法について簡潔な説明をする。
どうやら、先ほど読んでいた操縦マニュアルを完全に把握しているらしい。
それならなおさら、自分で運転すればいいのに・・・。と思うのだが、
もしかすると戦場ヶ原先輩なりに気を使って運転させてくれてるのかな?
と上条当麻なりに(無理やり)好意的に解釈していると、戦場ヶ原が上条当麻に言った。
「補修車だからあんまり速度は出ないみたいだけど・・・。
走ってる間、無駄に速度は上げないようにね。何かあった時に上条君にはこの車ごと爆発して貰うんだから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ダメだこの女の人、早くなんとかしないと・・・。
と上条当麻が改めて決意を固め、パネルのスイッチを入れる。
ヴゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
補修車のエンジンが低いうねりを上げて始動を始めた。
あまり広くない補修車の車内で、ちゃんと3匹の猫も大人しく座っている。
スフィンクスに関しては先ほど食った朝飯で空腹が満たされたのか、
さっそく早朝の惰眠を貪っているようだ。
そして、上条当麻が操縦する補修車はゆっくりと線路横を走り出した・・・。
その上条当麻の横には戦場ヶ原、上条当麻に操縦を任せている間、
どうやら後方や電車の死角になりそうな場所に気を配ってくれているようだ。
目的地は、B-6のギャンブル船。
二人と3匹を載せた小さな車はディーゼル特有の低いエンジン音を出しながら
目的地に向かう―――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、なんでこんなところで急に止まるのかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そういう戦場ヶ原の口調は明らかに不機嫌なようだ。
上条当麻が操縦する補修車は今現在、
D-6地点の駅近くまで来ていた。
だがここで予想だにしない事態が発生した。
補修車の燃料が駅近くまで来た所で、途中で尽きたのだ。
これは発進するときに燃料ゲージを確認していなかったというケアレスミスなのだが
電車についての知識はほとんどなかった二人である。
移動する手段を見つけて、舞い上がってしまい、
確認を怠ったのは両者のミスであった。
上条当麻は慣れない補修車を運転するのに必死になり、
戦場ヶ原ひたぎは電車の死角に注意を払い続けた結果、
補修車の燃料切れの警告を見逃していた。
しかし、幸いであったのはこれは駅の近くで停車したという事だ。
同じような補修車が常備されているのであれば、ディーゼルの燃料である軽油も
常備している可能性も高いだろう。
上条当麻は戦場ヶ原に言った。
「近くの駅にこの補修車の燃料の常備があるかもしれない。俺が探しに行ってくるよ」
上条当麻が補修車から降りようとした際、
戦場ヶ原がそれを引き止めた。
「待ちなさい。上条君。駅には他の参加者もいるかもしれない。単独行動は危険よ。
向かうのなら、ちゃんとみんなで行きましょう」
上条当麻を引き止めた戦場ヶ原は補修車から降りる準備を整える。
そう言った戦場ヶ原を良く見ると、
先ほど深夜の移動中に着ていた制服の様子から見比べた際、
戦場ヶ原は制服に更に何かを隠し持ってるようだと上条当麻は気が付いた。
そう、この戦場のような見知らぬ土地に安全な場所など存在し得ない。
自分の身は自分で守るくらいの気概でないと、目的を達成するのは困難だろう。
そんな戦場ヶ原の覚悟を見誤っていた上条当麻は心の中で謝罪する。
「(そうだよな・・・。守ってやるなんて自惚れだった。
戦場ヶ原は守る対象じゃない。お互いに目的を達成する為の仲間だ)」
戦場ヶ原ひたぎに対する認識を改めた上条当麻。
「そうだな・・・。先輩。じゃあ一緒に行こうぜ!」
「えぇ上条君が先頭になって歩きなさいよ。
何かあった時には自分の体を盾にして、か弱い女性を守るのよ男なんだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
体中に何か隠し持ってるような女のどこがか弱いんだと、
上条当麻は思わず叫びそうになった。
さて、駅で彼らを待ち受けてるのは果たして―――――。
【D-6/駅付近の線路/一日目/朝】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:学校の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料は全部猫缶)
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。
0:D-6の駅で補修車の燃料を探す
1:戦場ヶ原ひたぎに同行し共に協力。阿良々木暦を探す。3匹の猫も守る
2:他の参加者が集まるであろうギャンブル船に向かう(出来るだけ安全な方法で)
3:危険人物以外をB-5のギャンブル船に集める。
4:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
5:壇上の子の『家族』を助けたい 。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
アイテム紹介
【猫缶@バトルロワイヤル】
猫ちゃんも大喜びの缶詰。ササミブレンドの他にはツナブレンドも用意されている。
ちなみに上条当麻に支給された食料品は全部コレ。
【線路補修車@バトルロワイヤル】
戦場ヶ原ひたぎがF-5駅構内で発見した小型修理用車両。
スイッチ一つで線路を走るレールと道路を走るタイヤ機能に切り替えが出来る。
本気をだせば60km前後までは速度が出るのだが、
安全運転を心がける上条当麻は基本30km前後しか出さない様子。
操作自体はパネル主体の操作の為、構造さえ理解すれば誰でも運転が出来るほど簡単。
運転席の大きさは人3人程度がなんとか乗れる程度。後方には荷物を置くスペースもある。
作業用車両となっているので、最大積載量は5t前後と馬力自体はある。
ちなみに正式名称は
モフ09系電車「なおすくん」
【D-6/駅付近の線路/一日目/朝】
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:健康
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている(F-5駅の事務所内で更に増えた)、スフィンクス@とある魔術の禁書目録、
アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3、確認済)
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
1:上条当麻に協力。会場内を散策しつつ阿良々木暦を探す。
2:神原は見つけた場合一緒に行動。ただし優先度は阿良々木暦と比べ低い。
3:上条当麻に死亡者を伝えてない事に対して判断を迷っている
4:ギャンブル船で阿良々木暦と合流したい。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※死亡者情報で知っている人間(千石撫子)が出たため、
阿良々木暦と
神原駿河に逢いたい気持ちが強くなっています
投下終了しました
でも予約破棄したから没SSです!
最終更新:2009年12月21日 10:54