遠藤お兄さんの楽しい第二回放送 ◆5iKodMGu52
一室にて私はこう告げる。
「遠藤様、われらがジョーカーが敗れました」
そう、魔術師の死を、だ。
あっけないほどに、彼は死んだ。
よりにもよって、ただの女子高生にあっさりと接近を許され、身体を両断されて。
これもまた、バトルロワイアル、か。
私はこの破天荒な展開に、心を震わせると同時に、
遠藤なる不安定なプロデューサーの叱責を受けるものと、そうとばかり思っていた。
しかし、この黒尽くめ、無精ひげで胡散臭いサングラスの男は、予想とは反対のリアクションを見せた。
「そうか!死んだか!死にやがったか!そりゃ大成功だな!
お前のレポートに寄れば、殺したのは
東横桃子!こりゃまた大喝采!」
私はやや釈然としなかったが、所詮雇われの身。
深くは追求することはあるまいと思い、恭しく頭を下げると扉に手をかける。
「では映像はそちらの端末に通しておりますので、ご随意にご覧下さい。
暫くしましたら定時放送です。お遅れなきよう、お願いいたします」
イレブンでブリタニア高官に対した時でさえ、このような改まった挨拶はしなかった自分が、
今は手下のように、この胡散臭い男にぺこぺこと頭を下げる。
あの時は、イレブンに居た時は自分があまりに強大な力の中にいることに窮屈さを感じていた。
それと同時に、どうあがいても逃れられぬ運命なのだと辟易していた。
私の現場プロデューサーとしての反骨心は、その環境から生まれたものだ。
だが今は違う。
今は私を騙し、こんなゲームの片棒を担がせた、奴らの喉笛を食い破れる、それだけの位置にいる。
ゆえに頭は下げよう。ゆえに平伏しよう。どんな事でも甘んじて受けよう。
この牙がお前らを食い散らかすその時まで。
◇
「東横桃子。中々じゃないか…」
恍惚と俺はヴィデオを見上げる。
あの陰気な魔術師風情をぶっ殺す、その冷静な表情がいい。
感情も何もかも全てさらけ出してナイフで止めを刺す、その覚悟が素晴しい。
なにより、この魔術師すらも騙した、その能力が素晴しい!
「最高だ!やはり最高だ!」
傀儡…!ただのスポンサー…!
いつでも首根っこを押さえられる存在…!
「お前らはそう思っているのだろうな…!」
だが!
「俺の方も俺の方で用意してあるんだよ、とっておきの最後の駄目押しって奴をよ…!」
まさにカウンター…!お前らに対する俺の、とっておき…!
こいつが通用することは、東横桃子が活躍することで逆に証明された。
東横の能力が遺憾なく発揮される為に、わざわざ【ブースト】を用意したわけだが…!
まさかここまで上手くいくとは…!ここまで早く証明されるとは…!
「楽しみだ…!、お前らの唖然とする姿…!それを肴に最高のワインを味わうその日が…!」
こりゃまるで悪の大幹部だな!あぁそうだ!ここで大笑いしてやる!
だが現実と空想で大きく違う点がある…!
俺が最後まで生き残り、お前らが死に絶える…!
その一点だ…!
コンコン
無粋な音が部屋を浸食する。
「遠藤様、本番です」
あぁ理解っている。道化を演じるのも悪くはない。
今はな!
■
下品でポップでリズミカルなBGMが流れる。
コミカルな色調で包まれたスタジオの、向かって右側から黒服の男が、にこやかに走ってくる。
カメラ目線で大きく挨拶。
『ごきげんよう!』
耳に手を当て、カメラの向こうのよいこの皆の返事を待つ。
『よし、いい返事だ!俺は司会進行の遠藤勇二だ!そしてアシスタント、ウェルカム!』
スピーディなBGMとは裏腹に、一人の少女が、ずるずると僧衣を引きづりながらゆっくりと現れる。
すでにBGMは一回りし、二回りし、三回り目でようやくマイク位置につく。
『アシスタントの
インデックスです』
カメラ目線になるのになれていないのか、目線を文字通り泳がせながら綴る。
そしてそれにかぶさるようにして、いわゆる喰い気味に遠藤が続ける。
『どうだ…?!今回の新趣向…!
第一回放送がややしんみりしちまったものだったからなっ…!
今回は華やかにリニューアルだ…!むろん動画も見られる…!
お前らの支給品に携帯端末があれば、それで視聴可能だ…!
見たいという奴らは最寄の施設に行くといいぞ…!簡単な操作で見られるようにセットしておいた…!』
沈黙
インデックスさん、カンペ、カンペ!
『・・・出血大サービスですね。そんなにサービスしていいんですか?』
『無論だ…!これは娯楽の少ない諸君らに対する、俺からのささやかなサービス…!
もしかしたらこの映像の中に、お前らが欲しがっている情報が隠されてるかもしれんぞ…?!
では早速午後三時、おやつの時間からの立ち入り禁止エリアの決定だ…!』
自分の身長の半分ほどもあるさいころを、抱えて持ってくるインデックス。
小気味のいいBGMと共に、そのさいころをエイヤっとばかりに三個続けて放り投げると、
遠藤が、スタッフが、やや苦しそうにインデックスが鼻歌交じりに合唱する。
♪どこが出るかな?どこが出るかな?フフフフンフンフフフフン♪
やがてさいころは止まり、インデックスはそれを覗き込んで確認する。
『新しい立ち入り禁止エリアは
【A-2】【A-3】【A-4】
になります。午後三時以降追加されますので皆様ご注意ください
また12時に復旧するとお伝えいたしました鉄道の件ですが、
申し訳御座いませんが今なお復旧中のため、運行停止とさせていただきます
次回放送までに復旧の見通しですので、参加者の皆様に置かれましては
それまでお待ちください。』
機械音にも似た無機質な声で、インデックスが読み上げる。
以上の13名です。』
舞台裏で衣装替えをしてきた遠藤がフレームインする。
黒と白のストライプのTシャツに短パン姿。
それをサスペンダーで吊るし、頭には黄色い帽子をつけている。
『やぁ!司会のおにいさんだよ!いい子のみんなは、この6時間でもいい働きをした!
実に13人!実に立派!実に素晴しい!おにいさんも鼻が高いぞ!
そこでいい子のみんなに、おにいさんからプレゼントだ!
18時までに五人!五人殺したみんなには、おにいさんから特別なプレゼントをあげよう!
おにいさんはやさしいから、既に殺した分もカウントしてあげるぞ!
五人殺した時点であげるから、よいこのみんなは黄色で○された施設にレッツゴーだ!
さぁもっともっとみんな頑張れ!あきらめるな!諦めたら負けだぞ!』
■
「実に素晴しいエンターテイメントでしたよ、遠藤様!」
やや興奮しながらディートハルトが迎える。
この男はいいフィルムを作ることに関して、妥協がない。
ここまで手放しで喜ぶということは、俺の道化っぷりが堂に入っていたということだろう。
「これが終わったら役者にでもなるかな!」
ドカッとソファーに座りながら、半ば冗談で言い放つ。
ディートハルトはやや寂しそうに俺を見下ろして、頷くに留まった。
そこまでじゃないってことか。素直な奴だ。
「まぁ惜しむらくは動画でないと面白くない、という点ですかね」
そっちかよ。
「んで?お前んとこの上司はなんて言ってる?」
おしぼりで顔を拭きながら、ディートハルトに聴く。
「いや、私は既に帝国とは無関係の人間ですがね」
と前置きしながら言うには、より邁進せよ、と言う一言のみだったそうだ。
へっ、まだまだスピードが足りないってか。
開始前の概算では丸二日掛かるってはずだったのによ。
「ただまぁ、先程遠藤様にお渡ししたフィルムには、多少の興奮をお覚えになられたようで」
親族の生死の瀬戸際に多少の興奮、か。狂ってやがるな。
ま、俺も人の事が言えた義理じゃねぇか。
確かに興奮する…!あの人の命をむやみやたらに散らせるあの瞬間は…!
ボタンを押した右手を見つめ、いつしか俺は哄笑していた。
「権力ってな素晴しいな、オイ!人を殺してもなーんも怒られやしねぇ!
むしろ褒められるってんだからよ!」
ディートハルトは何も言いやしねぇ。むかつく野郎だ。
「んでよぉ、あの糞生意気な餓鬼はどうした?
あんだけ放送事故まがいの事繰り返したからしょげやがったかぁ?」
「いえ、昼食で忙しいようです。先程から厨房が大回転ですが、間に合わないらしく」
本番の直後に言い健啖家っぷりだな、オイ。
《禁止エリア》
A-2 A-3 A-4
《第二回放送の動画視聴》
適当な施設であればどこでも視聴可能。
携帯端末、ならびにノートパソコンでも視聴が出来る。
むろん、経路をたどったところでダミーが多重に仕込まれている為
送信元にたどり着くことはない。
もし万が一たどり着いた場合、その参加者の首輪は爆破される。
《新ルール》
今までのものと合わせて18時までに5人殺した参加者には、新支給品が配られる。
支給方法は地図上で記された施設ならばどこでも調達可能。
該当する参加者以外は、当然ながら手に入れることは出来ない。
10人殺した参加者は計2回、新支給品を得ることができる。
新支給品は先着順で選択できる。
新支給品リストは以下の通り。
【完全回復薬】…体力魔力を完全に回復する。肉体が欠損していても何箇所でも即座に回復する。
バーサーカーの12の試練は回復不可能。
【体力回復薬】…その名の通り、体力を完全に回復する。どんなに肉体が欠損していようと回復する。
【魔力回復薬】…その名の通り、魔力を完全に回復する。バーサーカーの12の試練は回復不可能。
以上の3アイテムは一回限りの使用が出来る。
分割したとしても効果が分散することはない。必ず一瓶一気に飲み干すしかない。
瓶は非常に脆い為、ディバックに入れることなく戦闘行為を行った場合、
即座に割れて使い物にならなくなる。
【回復魔法】…魔力を消費して体力を回復する魔法。一般人が使用すると一時間は行動不能になる。
身体の欠損部位をひとつ、もしくは体力を完全に回復する。三回使用可能。
取得してから使用するまでの時間制限はなし。ただし超能力者は使用不可能。
【コテージ】…いかなる物理的干渉、魔法的干渉を受けない寝具。五人まで収納可能。
取得時点から四時間安全は保障される。
ただし禁止エリアに入った場合はその限りではない。一回限り使用可能。
最終更新:2010年01月04日 20:22