血と死

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「ぎ、あっ、ぎゃああああああああああああああっっっっ!!」 その吸血鬼は、上弦御前は、八つ当たりをしていた。 この場合の『八つ当たり』とは、とりあえずその辺にいた『獲物』をとっ捕まえて、いつもの『食事』をした後、覚醒した獲物の指を一本一本、ぶちぶちとちぎり取って、悲鳴を聞いて楽しむという遊びのことだ。 しかし獲物はすぐ気絶してしまったので、上弦は八つ当たりを止めた。 ちぎり取った指の骨を手持無沙汰にぽりぽりとかじり、ぺっと吐き出した。 まだ物足りなかったのでもう一度じっくりと『食事』を味わう。 普段の上弦は、食事をこんな風に“散らかし”たりはしない。 別に“散らかす”のが嫌いなわけではなく、むしろ大好きな方だが、単に後片付けが面倒だからだ。 しかし今の上弦は、八つ当たりでもしないとやっていられなかった。 ただの人間風情が、生態系の頂点たる吸血鬼の上弦を拘束し、命を握っている。 そんな人間風情のふざけた『実験』とやらに、想い人――月島亮史こと魎月――との数百年ぶりの再会を邪魔された。 湯ヶ崎町のバスターミナルで、想い人がやって来るのを待っていた時、上弦は突如として転移させられた。 もうすぐあの人に会える、会える、会える、会える、会える、会えるとそればかりを考えていた。 胸が張り裂けそうな想いで待っていたところをさらわれた。 壇上で演説する男が邪魔をした主犯だと理解するなり、上弦は『狼』に変化して男の喉を喰い破ろうとした。 しかし、吸血鬼の苦手とする銀製の鎖が彼女の手足を拘束し、床につなぎとめていた。 だから上弦は、あらん限りの激情をこめた目でずっと『清隆』をにらみ殺そうとしていた。 上弦のそんな視線を受ければ、人間どころかたいていの化け物は恐怖し、戦意を喪失する。 にも関わらずあの男はまるで平然と話していて、それがいっそう上弦の怒りを凶暴なものにした。 あの『清隆』と名乗った男は、必ず八つ裂きにしてやる。 『吸血鬼』の逢瀬を邪魔したものがどうなるか、身をもって思い知らせてやる。 まず手足の骨を折って、それから眼球を潰して、耳も切り落として、はらわたを破って、腸を引きずり出して、生かしたまま内臓を食らいつくして―― 想像するうちに高ぶってきた“熱”を抑えるため、上弦は肩を抱いて身震いした。 しかし、ほんの少しだけ機嫌をよくしてもいた。 それは、この場に来て初めて味わった『獲物』が、思いのほか美味だったからだ。 舌なめずりして、上弦は余韻を味わった。 人形のような可愛らしい面ざしに、にぃ、と凄絶な笑みが浮かぶ。 血の味。 鉄の味で、獣の味で、命の味。 生命の象徴たる赤い奔流が、上弦に『力』をくれる。 それは、熱であり、高揚であり、攻撃衝動だった。 熱い息を長く吐き出し、体の熱を抑え込む。 うつむいて、食べカスの亡きがらをそれとなしに観察した。 まだ生娘だった。 ほんの百年ほど前は、このくらいの年頃なら子どもを産んでいてもおかしくはなかったのだが、最近は人間の風潮も変わってきたらしく、純潔を保っている女が多い。 処女の血の方が段違いで美味なので、吸血鬼にとっては好都合なことだ。 頭の左右でふたつに縛った髪型も、一昔前まではなかなか見かけなかったものだ。 人間の流行などに追従するつもりはなかったが、私も髪型を変えてみればもう少し見綺麗に映るだろうかと一瞬考えて赤面する。 ふと思った。 『最後の一人になるまで』ということは、この少女は死亡扱いになるのだろうか。 確かにこの獲物は一度死んだには違いないが、しかし放送で名前を呼ばれることはないだろうとも思う。 『獲物』だった少女が、身じろぎをした。 眠気を振り払うように。 何故なら、彼女の生はここで終わりにはならないから。 吸血によって死亡した人間は、自らも吸血鬼となるから。 上弦は、ゲームに乗ることに何の躊躇もなかった。 殺す。 吸血鬼として当然の行為であり、そして上弦の大好きなことでもあったから。 しかし、あまり参加者を減らしすぎるのも得策ではないと思っていた。 上弦が一人でこの会場に呼ばれた分には構わない。さっさと優勝して、さぁ褒美を叶えてやろうと現れたあの男をズタズタにするだけだ。 しかし、ここには大事な従者であるツルと、この世でたった一人の愛しい男も呼ばれている。その時点で、上弦に最後の一人になるという選択肢はなかった。 かの男の為ならば、上弦は命を投げだすことも厭わない。 上弦か、魎月のどちらかしか生き残れないというのなら、上弦は自ら命をたってもいいと思っていた。 何故なら、上弦は魎月のいない世界では生きていけないから。 魎月を殺しても、自分を殺すことと同じだから。 しかし『清隆』の命令に分かりましたと従うことは気に食わない。 たとえ上弦が優勝した後、褒美で魎月を生き返らせるとしてもだ。 だいいち、それでは二人で生還してもツルを失うことになってしまう。 何が哀しくて、あんな人間風情のせいで己の使い魔を犠牲にせねばならんのだ。 とはいえ、上弦にとっては屈辱的なことに、あの男は未知の“呪い”とやらで上弦を拘束している。 上弦と、魎月と、ツルの三人で生還する為には、その縛めを打ち破る手立てを探さねばならない。 とはいえ、この会場に呼ばれた他の人間に助けを求めることは、それはそれで上弦の高い矜持にさわることだった。 人間風情と手を取り合うぐらいなら、まだ『組織』と同盟するほうがマシだとすら思える。 それに、いくら上弦でも、六十を超える人数を一人で殺してまわることには疲れを覚えた。 乱世の時代には人間の軍隊ひとつを相手に勝利したこともあったが、この場では全ての参加者がバラバラな場所に飛ばされたらしい。 それを一人一人見つけるのは流石に手間がかかる。 だから上弦は、手ゴマを増やすことにした。 足元からうめき声が上がる。 地面にその両手をついて、二つ結びの少女がゆっくりと起き上がった。 何が起こったのか理解できない様子で、ぼんやりと虚空を見つめていた。 やがてぼんやりした瞳が上弦を認識し、恐怖を宿す。 少女が完全に覚醒したのを見計らって、上弦は少女の首根っこをつかまえた。 吸血鬼は呼吸をしない。だから、少しぐらい乱暴に締めても問題ない。 少女の気の強そうな顔が、締め上げられて歪む。 「がっ……」 少女は反射的に抵抗して、指のない手で上弦の手首を握りしめる。しかし、吸血鬼化したての『従者』の力など、上弦にはたかが知れている。 「面倒だが、お前にも分かるように説明してやろう。お前は、私に血を吸われた。 吸血鬼に会ったことがなくても、吸血鬼に血を吸われた人間がどうなるか、知識ぐらいはあるだろう?」 「は……あぁっ?」 「まぁ、どのみち理解する必要はない。すぐに嫌でも分かるだろうから。 要するに、お前は私の支配下に置かれたということだ。喜んでいいんだぞ? 怪力や研がれた五感。四肢をもがれても死なない再生力。こんな殺し合いでも存分に戦える力を手に入れたんだからな」 苦しげな瞳に、『わけが分からない』という表情が浮かぶ。 そんな少女を、上弦は食い入るように見つめる。 「最初の命令だ。反逆を禁じる。自害という形であっても駄目だ」 『支配』。 生れつきの吸血鬼――『主人』――だけが持つ、『従者』階級の吸血鬼への絶対命令権。 どんなに意思の固い吸血鬼でも、どんなに『主人』を恨んでいようとも、『従者』は『命令』に逆らうことができない。 『従者』の身体は、意思に反してでも命令を遂行するようになっている。 それが、『従者』ではどう足掻いても『主人』に勝つことは出来ない、と評される最たる所以。 命令は忠実に実行され、上弦の手首を握っていた少女の手から力が抜けた。 しかし瞳は変わらず、恐怖と困惑をたたえて上弦を見つめている。 命令は、頭の中で想っていることまで縛るものではないからだ。『支配』されていても、少女の意識は生きている。 「次の命令だ。会場を動き回って、参加者を殺せ。私たちが生き残りやすくなるように、人数減らしをしろ……分かったら返事」 ぱっと手を話した。少女は地面に落下し、命令どおり『分かったら返事』をする。 「はい……」 少女の涙を見ても、上弦に特に思うところはなかった。 ただ、その『従者』が事態を理解するにつれて、足を食いちぎられた子兎のような表情になるのが、滑稽で少し面白かった。 そうだ、しなくてもいい『実験』をやらされると思うから面倒なのだ。 獲物を67匹、どんな風に殺して嬲っても自由な余興だと思えばいい。 どうせなら、好きなだけ“散らかして”遊ぼう。 「ただし、“魔法”とやらの知識を持っている人間は殺すな。生け捕りにして、私の元へ連れてこい。 刻限は明日の正午。B-6の地下鉄駅で合流。昼間であっても、地下なら『狩り』に出ることはできるからな。 ……それから、名前を教えろ。お前の名前など何でもいいが、放送で名前が呼ばれても分からないと困るからな」 「柊、かがみ」 「ひいらぎかがみ。最後に、『ツル』という私の眷族に出会ったら、同じ命令を伝えろ。 一応言っておくが、ツルに危害を加えようとは考えるなよ。 ……もっとも、ツルが『従者』に遅れをとるはずもないが」 これで、命令は終わり。 「では、どこへなりとも行け……そうだな、私は西の方に行ってみたいから、お前は北だ」 「……はい」 涙声で返事をすると、少女は立ち上がり、歩きだした。 『どこへなりとも行く』ために。 幽鬼のように、ふらふらと。 その無残な背中を見ても、特に上弦に感じるところはない。哀れな生き物だ、ぐらいに思いはするが。 それは、七百年余りの生の中で、数えきれないほどやってきたことだから。 【H-8/森の中/深夜】 【上弦@吸血鬼のおしごと】 [状態]美味しい食事をして満足。 [装備]なし(いつもの黒い着物) [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:魎月(月島亮史)とツルを連れて生還する。手段は問わない。 それが不可能なら、せめて魎月だけは生還させる。 1・従者を使って人数減らしをさせる。自らも参加者を殺していく。 2・人間風情と慣れ合うつもりはないが、『魔法』の関係者はとりあえず確保。 3・魎月と再会する。ツルとは早めに合流する。 4・日がのぼった際の拠点を確保する。(地下鉄に興味) 5・全てが終わったら、『清隆』を八つ裂きにする。 ※4巻、亮史と再会する直前からの参戦です。(舞を知らない時期から来ているので、名簿の「雪村舞」には気づいていません。) 【柊かがみ@らき☆すた】 [状態]吸血鬼化(従者)。上弦の『支配』の影響化。右手の小指、薬指、中指欠損(再生中) [装備]陵桜高校の制服 [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(未確認) [思考]基本:『支配』の命令に従い、参加者を減らしつつ“魔法”の使い手を探す。(本人の意思とは無関係に発動) 1:??? 2:上弦に対する恐怖と憎しみ(しかし、『支配』されているので危害を加えることができない) ※『支配』は身体に作用するものなので、精神は柊かがみのままです。(『支配』された状態でも柊かがみの意識はあります。) ※柊かがみが「死亡者」扱いになるのかは放送まで分かりません。(ネタバレ名簿では生存扱いとします) |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|投下順で読む|Next:013[[〝文学少女〟と恋する幽霊【ゴースト】]]| |&color(cyan){GAME START}|上弦|Next:| |&color(cyan){GAME START}|柊かがみ|Next:022[[そんな感覚]]|
「ぎ、あっ、ぎゃああああああああああああああっっっっ!!」 その吸血鬼は、上弦御前は、八つ当たりをしていた。 この場合の『八つ当たり』とは、とりあえずその辺にいた『獲物』をとっ捕まえて、いつもの『食事』をした後、覚醒した獲物の指を一本一本、ぶちぶちとちぎり取って、悲鳴を聞いて楽しむという遊びのことだ。 しかし獲物はすぐ気絶してしまったので、上弦は八つ当たりを止めた。 ちぎり取った指の骨を手持無沙汰にぽりぽりとかじり、ぺっと吐き出した。 まだ物足りなかったのでもう一度じっくりと『食事』を味わう。 普段の上弦は、食事をこんな風に“散らかし”たりはしない。 別に“散らかす”のが嫌いなわけではなく、むしろ大好きな方だが、単に後片付けが面倒だからだ。 しかし今の上弦は、八つ当たりでもしないとやっていられなかった。 ただの人間風情が、生態系の頂点たる吸血鬼の上弦を拘束し、命を握っている。 そんな人間風情のふざけた『実験』とやらに、想い人――月島亮史こと魎月――との数百年ぶりの再会を邪魔された。 湯ヶ崎町のバスターミナルで、想い人がやって来るのを待っていた時、上弦は突如として転移させられた。 もうすぐあの人に会える、会える、会える、会える、会える、会えるとそればかりを考えていた。 胸が張り裂けそうな想いで待っていたところをさらわれた。 壇上で演説する男が邪魔をした主犯だと理解するなり、上弦は『狼』に変化して男の喉を喰い破ろうとした。 しかし、吸血鬼の苦手とする銀製の鎖が彼女の手足を拘束し、床につなぎとめていた。 だから上弦は、あらん限りの激情をこめた目でずっと『清隆』をにらみ殺そうとしていた。 上弦のそんな視線を受ければ、人間どころかたいていの化け物は恐怖し、戦意を喪失する。 にも関わらずあの男はまるで平然と話していて、それがいっそう上弦の怒りを凶暴なものにした。 あの『清隆』と名乗った男は、必ず八つ裂きにしてやる。 『吸血鬼』の逢瀬を邪魔したものがどうなるか、身をもって思い知らせてやる。 まず手足の骨を折って、それから眼球を潰して、耳も切り落として、はらわたを破って、腸を引きずり出して、生かしたまま内臓を食らいつくして―― 想像するうちに高ぶってきた“熱”を抑えるため、上弦は肩を抱いて身震いした。 しかし、ほんの少しだけ機嫌をよくしてもいた。 それは、この場に来て初めて味わった『獲物』が、思いのほか美味だったからだ。 舌なめずりして、上弦は余韻を味わった。 人形のような可愛らしい面ざしに、にぃ、と凄絶な笑みが浮かぶ。 血の味。 鉄の味で、獣の味で、命の味。 生命の象徴たる赤い奔流が、上弦に『力』をくれる。 それは、熱であり、高揚であり、攻撃衝動だった。 熱い息を長く吐き出し、体の熱を抑え込む。 うつむいて、食べカスの亡きがらをそれとなしに観察した。 まだ生娘だった。 ほんの百年ほど前は、このくらいの年頃なら子どもを産んでいてもおかしくはなかったのだが、最近は人間の風潮も変わってきたらしく、純潔を保っている女が多い。 処女の血の方が段違いで美味なので、吸血鬼にとっては好都合なことだ。 頭の左右でふたつに縛った髪型も、一昔前まではなかなか見かけなかったものだ。 人間の流行などに追従するつもりはなかったが、私も髪型を変えてみればもう少し見綺麗に映るだろうかと一瞬考えて赤面する。 ふと思った。 『最後の一人になるまで』ということは、この少女は死亡扱いになるのだろうか。 確かにこの獲物は一度死んだには違いないが、しかし放送で名前を呼ばれることはないだろうとも思う。 『獲物』だった少女が、身じろぎをした。 眠気を振り払うように。 何故なら、彼女の生はここで終わりにはならないから。 吸血によって死亡した人間は、自らも吸血鬼となるから。 上弦は、ゲームに乗ることに何の躊躇もなかった。 殺す。 吸血鬼として当然の行為であり、そして上弦の大好きなことでもあったから。 しかし、あまり参加者を減らしすぎるのも得策ではないと思っていた。 上弦が一人でこの会場に呼ばれた分には構わない。さっさと優勝して、さぁ褒美を叶えてやろうと現れたあの男をズタズタにするだけだ。 しかし、ここには大事な従者であるツルと、この世でたった一人の愛しい男も呼ばれている。その時点で、上弦に最後の一人になるという選択肢はなかった。 かの男の為ならば、上弦は命を投げだすことも厭わない。 上弦か、魎月のどちらかしか生き残れないというのなら、上弦は自ら命をたってもいいと思っていた。 何故なら、上弦は魎月のいない世界では生きていけないから。 魎月を殺しても、自分を殺すことと同じだから。 しかし『清隆』の命令に分かりましたと従うことは気に食わない。 たとえ上弦が優勝した後、褒美で魎月を生き返らせるとしてもだ。 だいいち、それでは二人で生還してもツルを失うことになってしまう。 何が哀しくて、あんな人間風情のせいで己の使い魔を犠牲にせねばならんのだ。 とはいえ、上弦にとっては屈辱的なことに、あの男は未知の“呪い”とやらで上弦を拘束している。 上弦と、魎月と、ツルの三人で生還する為には、その縛めを打ち破る手立てを探さねばならない。 とはいえ、この会場に呼ばれた他の人間に助けを求めることは、それはそれで上弦の高い矜持にさわることだった。 人間風情と手を取り合うぐらいなら、まだ『組織』と同盟するほうがマシだとすら思える。 それに、いくら上弦でも、六十を超える人数を一人で殺してまわることには疲れを覚えた。 乱世の時代には人間の軍隊ひとつを相手に勝利したこともあったが、この場では全ての参加者がバラバラな場所に飛ばされたらしい。 それを一人一人見つけるのは流石に手間がかかる。 だから上弦は、手ゴマを増やすことにした。 足元からうめき声が上がる。 地面にその両手をついて、二つ結びの少女がゆっくりと起き上がった。 何が起こったのか理解できない様子で、ぼんやりと虚空を見つめていた。 やがてぼんやりした瞳が上弦を認識し、恐怖を宿す。 少女が完全に覚醒したのを見計らって、上弦は少女の首根っこをつかまえた。 吸血鬼は呼吸をしない。だから、少しぐらい乱暴に締めても問題ない。 少女の気の強そうな顔が、締め上げられて歪む。 「がっ……」 少女は反射的に抵抗して、指のない手で上弦の手首を握りしめる。しかし、吸血鬼化したての『従者』の力など、上弦にはたかが知れている。 「面倒だが、お前にも分かるように説明してやろう。お前は、私に血を吸われた。 吸血鬼に会ったことがなくても、吸血鬼に血を吸われた人間がどうなるか、知識ぐらいはあるだろう?」 「は……あぁっ?」 「まぁ、どのみち理解する必要はない。すぐに嫌でも分かるだろうから。 要するに、お前は私の支配下に置かれたということだ。喜んでいいんだぞ? 怪力や研がれた五感。四肢をもがれても死なない再生力。こんな殺し合いでも存分に戦える力を手に入れたんだからな」 苦しげな瞳に、『わけが分からない』という表情が浮かぶ。 そんな少女を、上弦は食い入るように見つめる。 「最初の命令だ。反逆を禁じる。自害という形であっても駄目だ」 『支配』。 生れつきの吸血鬼――『主人』――だけが持つ、『従者』階級の吸血鬼への絶対命令権。 どんなに意思の固い吸血鬼でも、どんなに『主人』を恨んでいようとも、『従者』は『命令』に逆らうことができない。 『従者』の身体は、意思に反してでも命令を遂行するようになっている。 それが、『従者』ではどう足掻いても『主人』に勝つことは出来ない、と評される最たる所以。 命令は忠実に実行され、上弦の手首を握っていた少女の手から力が抜けた。 しかし瞳は変わらず、恐怖と困惑をたたえて上弦を見つめている。 命令は、頭の中で想っていることまで縛るものではないからだ。『支配』されていても、少女の意識は生きている。 「次の命令だ。会場を動き回って、参加者を殺せ。私たちが生き残りやすくなるように、人数減らしをしろ……分かったら返事」 ぱっと手を話した。少女は地面に落下し、命令どおり『分かったら返事』をする。 「はい……」 少女の涙を見ても、上弦に特に思うところはなかった。 ただ、その『従者』が事態を理解するにつれて、足を食いちぎられた子兎のような表情になるのが、滑稽で少し面白かった。 そうだ、しなくてもいい『実験』をやらされると思うから面倒なのだ。 獲物を67匹、どんな風に殺して嬲っても自由な余興だと思えばいい。 どうせなら、好きなだけ“散らかして”遊ぼう。 「ただし、“魔法”とやらの知識を持っている人間は殺すな。生け捕りにして、私の元へ連れてこい。 刻限は明日の正午。B-6の地下鉄駅で合流。昼間であっても、地下なら『狩り』に出ることはできるからな。 ……それから、名前を教えろ。お前の名前など何でもいいが、放送で名前が呼ばれても分からないと困るからな」 「柊、かがみ」 「ひいらぎかがみ。最後に、『ツル』という私の眷族に出会ったら、同じ命令を伝えろ。 一応言っておくが、ツルに危害を加えようとは考えるなよ。 ……もっとも、ツルが『従者』に遅れをとるはずもないが」 これで、命令は終わり。 「では、どこへなりとも行け……そうだな、私は西の方に行ってみたいから、お前は北だ」 「……はい」 涙声で返事をすると、少女は立ち上がり、歩きだした。 『どこへなりとも行く』ために。 幽鬼のように、ふらふらと。 その無残な背中を見ても、特に上弦に感じるところはない。哀れな生き物だ、ぐらいに思いはするが。 それは、七百年余りの生の中で、数えきれないほどやってきたことだから。 【H-8/森の中/深夜】 【上弦@吸血鬼のおしごと】 [状態]美味しい食事をして満足。 [装備]なし(いつもの黒い着物) [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:魎月(月島亮史)とツルを連れて生還する。手段は問わない。 それが不可能なら、せめて魎月だけは生還させる。 1・従者を使って人数減らしをさせる。自らも参加者を殺していく。 2・人間風情と慣れ合うつもりはないが、『魔法』の関係者はとりあえず確保。 3・魎月と再会する。ツルとは早めに合流する。 4・日がのぼった際の拠点を確保する。(地下鉄に興味) 5・全てが終わったら、『清隆』を八つ裂きにする。 ※4巻、亮史と再会する直前からの参戦です。(舞を知らない時期から来ているので、名簿の「雪村舞」には気づいていません。) 【柊かがみ@らき☆すた】 [状態]吸血鬼化(従者)。上弦の『支配』の影響化。右手の小指、薬指、中指欠損(再生中) [装備]陵桜高校の制服 [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(未確認) [思考]基本:『支配』の命令に従い、参加者を減らしつつ“魔法”の使い手を探す。(本人の意思とは無関係に発動) 1:??? 2:上弦に対する恐怖と憎しみ(しかし、『支配』されているので危害を加えることができない) ※『支配』は身体に作用するものなので、精神は柊かがみのままです。(『支配』された状態でも柊かがみの意識はあります。) ※柊かがみが「死亡者」扱いになるのかは放送まで分かりません。(ネタバレ名簿では生存扱いとします) |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|投下順で読む|Next:013[[〝文学少女〟と恋する幽霊【ゴースト】]]| |&color(cyan){GAME START}|上弦|Next:012[[魔導師VS吸血鬼]]| |&color(cyan){GAME START}|柊かがみ|Next:022[[そんな感覚]]|

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