三者三様考察

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【沢村史郎の場合】 沢村史郎は、鳴海清隆の思惑をはかりかねていた。 いや、この状況で主催者の思惑が即座に理解できる者などいるはずもない。 しかし、鳴海清隆という人間を知っている沢村史郎には、だからこそこの状況がいっそう不可解だった。 「鳴海清隆は……ミカナギファイルを手に入れる計画の途中だったんじゃないのか?」 こんなことをしている暇はないはずだ。 だいいち、鳴海清隆という男は冷酷だが殺戮を好みはしはない。 仮にも警視庁の刑事なのである。 それがどうして、こんな『実験』を開催することになるのか。 恐怖するよりもまず、途方にくれた、というのが正直な感想だった。 まるで、沢村だけをおいて時間が何年も進んでしまったかのような。 周囲から取り残されたような、あてどもない不安に満たされる。 けれど、彼は即座にその孤独から立ち直った。 参加者名簿には、沢村が救いたかった雨苗雪音の名前も書かれていた。 そう、周りがどうなろうと、誰が何を企んでいようと、沢村のすることは変わらないのだ。 「たとえ殺人ゲームの最中だろうと、俺のすることは変わらない。雨苗を探して、救う。それだけだ」 黒髪の、過去に救えなかった女性を思い出させる、儚げな雨苗雪音。 両親の仇を探す為に、犯罪に手を染めてしまった雨苗雪音。 沢村の探していた彼女は、両親と妹を殺した犯人に復讐することを考えていたらしい。 そんな中、復讐を成就させんとする直前にこんなところに呼ばれているのだ。 雨苗雪音は、理性的な少女でもある。 あの得体の知れない鳴海清隆から、復讐と無関係な、ましてブレード・チルドレンですらない人を殺せと言われて、あっさり言うことを聞いたりしないだろう。 しかし今の彼女は精神的に相当に追い詰められているはずだ。 そんな余裕をなくした状態で、こんな形で復讐を邪魔されたりしたら、焦ってどんな危険を冒すか分からない。 彼女は、ますます罪をかさねてしまうかもしてない。 それ以前に、すぐに殺されてしまうかもしれない。 だから沢村もまた、行動しなければならない。 必要なのは、他者との合流だ。 とにかく、ある程度信頼できて、情報も持っている仲間。 最も信頼できるのは、一連の事件でパートナー関係にあった高町亮子。 そして、彼女ら以外で知っているのが関口伊万里。 彼女と最後に会ったのは、雨苗雪音が逮捕された直後だった。 それ以来出会っていないし、鳴海清隆からすれば『逮捕した少女の知り合い』程度の部外者のはずだ。 そんな彼女までこの場にいることが少しひっかかる。 (実際は、関口伊万里は以降もずっと雨苗の事件に関わり続けていたのだが、沢村はそのことを知らない) そして、見せしめにされた少女の言っていたことも気になる。 ――だって清隆様は、私たちも救ってくれるって…… 鳴海清隆は、あの少女とその仲間を救おうとしていたらしい。 鳴海清隆に救われるはずだった子どもたち。 確証はないが、それはもしかして、“あの子どもたち”のことかもしれない。 ブレード・チルドレン とはいえ、沢村も高町亮子から簡単に聞いただけで、どういう子どもたちなのかはよく知らない。 大人になるとスイッチが入って、殺人鬼になってしまう子どもたち。 だからこそ、命を狙われたり、それが原因で既にスイッチが入ってしまった子どももいる、という程度だ。 そして鳴海清隆は、そのブレード・チルドレン計画に何かしら関わっていたらしく、子どもたちの間では名の知れた人物らしい。 「だとしたら、今回のこともブレード・チルドレンに関する何らかの実験か……?」 かといって、断定するのも危険だ。 とにかく、あの場には少女の知り合いらしい人間もいた。 彼らと話すことができれば、より詳しい事情が分かるだろう。 学校の廊下をこうしてうろついているのも、そういう協力し合える参加者を探す為である。 学校のような施設に向かうのは、殺し合いに乗らず、ひとまず身を隠したいような参加者が多いはずだ。 廊下を端まで歩いて、沢村はコンピュータルームに灯りがついているのを見とがめた。 わずかな灯りだった。 おそらく、用心のため部屋の灯りをつけずに、PCの電源を入れているのだろう。 (殺し合いに乗った人かもしれないけど……接触しなきゃ何も始まらないよな) 沢村史郎は、決して馬鹿ではない。 むしろ、歳の割には頭が回り、かつ、柔軟な考えを持っているといっていい。 しかし、平然とリスキーなことをしてしまう癖があった。 年下の高町亮子からも『危うい』『無茶』と心配されるほど、身の危険に鈍いのだ。 そして、その無茶な性癖を本人はあまり自覚していない。 何故なら彼は自分の利益の為ではなく、他人――この場合雨苗雪音――を守る為にそうするので、その誰かを守ることで頭がいっぱいになっているからだ。 だから沢村は、コンピュータルームの扉を無警戒に堂々とノックした。 【三村信司の場合】 「夢でも見てるのか……?」 三村信司は現実を疑った。 何をすべきか当惑した。 目を覚ますなり“あなたは大東亜共和国の六十八番プログラムに呼ばれました”と言われて、 担任教師の射殺死体を見せられても、ここまで動揺しなかっただろう。 実際、彼は現実にそれが起こった時も冷静に行動してみせた。 そう、彼は覚えていたのだ。 「俺は死んだはず……だよな?」 “戦闘実験第六十八番プログラム”の参加者としてクラスメイトともども瀬戸内の小島に運ばれたこと。 そのゲームの中で、友人の瀬戸豊と共に政府の作戦本部を爆破しようとしたこと。 その目論みを桐山和雄に邪魔されて瀬戸豊を殺されたこと。 桐山和雄相手に最後まで戦ったものの、マシンガンの銃撃を受けて死亡したこと。 銃弾を受けた時の熱も、痛みも、気が遠くなる『死』の実感も、確かに彼は記憶していた。 「飯島を殺したから地獄に落ちた……なんてことはないか。桐山や相馬はともかく、七原までここにいるんだからな。 いくら地獄でも、死んでからもプログラムをやらされるような目には遭わないだろうし、おまけに呪いだの魔女だの言われるし。 ……うあああああ! 深く考えるのは止めだ! 情報がないんだから判断しようがない!」 コンピュータルームの回転椅子に座ってグルグルと回り、三村は開き直った。 「どっちにしろ、今回もゲームに乗る選択肢は無しだな。 幸い――っていう言い方はおかしいけど、一度死んでるんだ。今更怖いものなんてないさ」 前回よりも気負わずに気楽に、反抗しようと決断した。 一度目のプログラムの時は、失敗は許されないという気負いがあった。 しかし、それは失敗した。 未練はあったが、三村なりに全力を尽くした終わりかただった。 だからこそ、再びの生と言われてもピンと来ないし、その現実感のなさから逆に落ちつくことができたのだ。 死んだからこそ、死んだことによる混乱を乗り越えられたのもある意味皮肉だが。 さて、そして今いるのが、学校のコンピュータルームである。 そこを訪れたのには、深い意図はない。 ただ、彼のスタート地点が学校だったから一応寄ってみた、というだけのことだ。 これが前回の殺し合いだったら、PCのネットワークが繋がっているのかを確認し、しかるのちに政府のコンピュータに侵入。 ハッキングで首輪を外そうと試みただろう。 しかし、今回の殺し合いで三村たちの命を握っているのは、“魔女の口づけ”とかいう謎のオカルトだ。 『“呪い”が実はコンビュータ制御でした』ということでもない限り、ハッキングという手段は今回のプログラムを解決できない。 それでも、会場に電気は通っているのだから少なくともPCの電源を入れることはできるはずだ。 ネットが自由に使えるなら外部と連絡を取り放題になってしまうし、主催者がそれを見逃すはずもないだろう。 しかし最低限、何が出来て何が出来ないのかだけでも確認したい。 回転椅子に座り、PCを立ち上げる。 三村の知らない、windowsとかいうOSが表示される。 ネットワークの状態を確認。 ローカルネットワークだが、確かに繋がっていた。 驚くが、ここでぬか喜びしてはならない。 デスクトップにあるインターネットのアイコンをクリック。 そのPCの「ホームページ」として登録された最初の画面に、三村は目を丸くした。 そこには、黒地の画面に赤いゴシック体で、こう書かれていた。 「【バトルロワイアル@WIKI】 バトルロワイアル@wikiにようこそ メニュー ・ウィキはみんなで自由にホームページ編集できるツールです。 ・このページは自由に編集することができます。 ・メールで送られてきた(ry」  ( ゚д゚)  「バトルロワイアル@wiki……?」 _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄     ( つд⊂ ) ゴシゴシ _ (_/ ̄ ̄ ̄/_    \/    /     ̄ ̄ ̄    ( ゚д゚)  _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄   ( ゚д゚ ) _ (_つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄   え? 『こっちみんな』? 失礼。 どうやらそれは、レンタル形式の情報まとめサイトらしい。 管理者は、このゲームの主催者とみていいだろう。 メニューにある項目を、三村はひとつひとつ確かめた。 参加者名簿…名簿と同じ名前が表示されている。 参加者名簿(死者表示)…上に同じ。ただし「※放送ごとに更新予定」と書かれている。 また全員の名前の下に「残り70人」と赤文字で表示。脱落者の名前が、放送で名前が呼ばれるごとに更新されていくのだろう。 死亡者リスト…特に何も無い。ただし、上に同じく「※放送ごとに更新」と書かれている。 地図…配布された地図に同じ 地下鉄…地下鉄のダイヤが書かれている。 資料室…今のところ何も無い。「支給品の情報、施設情報など、皆の役に立つ情報を書き込んでいく場所です。編集は自由」と書かれている。 必要な情報ではあるが、今のところ目新しい情報はないようだ。 少なくとも、今のところは。 ただ、誰でも自由に編集が可能らしいということが気にかかる。 そして、「資料室」の項目。 今は閲覧者も三村以外にいないようだが、いずれ多くの参加者がこのシステムに気づくだろう。 そうなれば、この@wikiが信憑性も不確かな情報で更新されていくことは必至。 このゲームは、情報戦の様相を呈してくるはずだ。 情報戦、ともなれば三村信司の得意分野だと言える。 しかし、だからと言って判断力の過信は禁物。 ましてや“魔女”“呪い”などといったオカルトめいた単語も飛び交っていたのだ。 提供された情報の真偽を判断することは、いっそう難しくなるだろう。 そして、三村は『メニュー』の下に表示された、二つの『リンク』に気づく。 したらば チャット まぁ、まとめサイトにはよくある機能だ。 チャットに飛ぶ。 何の変哲もないチャットルーム。今のところ、閲覧者は三村だけのようだ。 したらばに飛ぶ。 「1.バトルロワイアル・連絡・雑談用スレ(1) 1:管理人★(sage) 投稿日:一日目 深夜 ID:Kiyotaka0 この実験を『生きる』ための情報交換スレだ。 交流の場として旧交を温めるも良し、偽証をして陥れるも良し。 各自に合ったやり方で有効に活用してくれたまえ。」 「……ご親切なことで」 どうやらこのゲームの主催者は、単純な戦いではなく情報戦や心理戦を好む向きにあるらしい。 そのゲーム感覚のようなやり方は気に入らないものの、利用できるものは利用させてもらおう。 とりあえず、三村の知っていることを書きこませてもらう。 「2:迷える子羊な名無しさん(sage) 投稿日:一日目 深夜 ID:SdQ12kazz 桐山和雄には気をつけろ。中背の中学三年生だ。こいつは間違いなくゲームに乗る。 ここに来る前のプログラム(外国の人にも分かるように説明すると、今回と同じような殺し合いゲームだ。 魔法は出てこなかったけどな)で、こいつは積極的にゲームに乗った。 何の躊躇もなくクラスメートを殺して回った。 殺人マシーンみたいなやつだ。 中学生だからといって侮るな。運動能力も頭の良さも規格外だし、生命力も悪運も悪魔みたいに強い」 『外国の人にも』と前置きを入れたのは、あきらかに大東亜共和国出身者とは思えない名前がちらほらあったからだ。 最低限の情報は伝えた。嘘だと思われる可能性もあるが、少なくとも桐山にはそれなりの警戒をしてもらえるだろう。 そして、三村個人にたどり着かれる情報は話していない。しいて言えば、プログラムに参加したことから中学生だと類推できる程度だ。 何故なら、この書きこみが偽証と思われる可能性もあるからだ。 名前を出せば、逆に『三村信司』という参加者を警戒される可能性もあり、迂闊に個人情報を出すことはできない。 それに少なくとも、七原ならこれを見れば消去法で三村信司が書いたと分かってくれるだろう。 相馬も三村が書いたものだと見当をつけるかもしれないが、アイツに関しては情報が少ないので判断を保留。 また、書きこみをしたことでPCを特定されてすぐに学校が狙われるリスクも低い。 こんな序盤から三村以外にPCを確保し、かつ、その者が充分なプログラミング能力を持ち、その上でそいつが学校近辺にいる確率は限りなく低いといっていい。 なので、しばらくはこのPCの活用法をじっくり考えさせてもらうとしよう。 ひととおり@wikiを確認した三村は、次に他のサイトにアクセスできないかを試みる。 @wikiのレンタル元となるホームページは覚えのないサーバーを使っていた。 知っているアドレスを手当たり次第に入れてみたが全て接続不可能。 どうやら、この会場限定のローカルネットワークらしい。ずいぶんと手間のかかることをする。 ならばキャッシュに他のアドレスが残されていないかを見てみよう。 その時だった。 コンピュータルームのドアがノックされたのは。 【ブルーの場合】 鉄筋コンクリートの後者に背中を預けて、ブルーはディパックを開けていた。 その手には、参加者名簿。その顔には、自分以外の誰かを心配する表情。 「シルバーも早く見つけてあげたいけど……その為には情報が必要よね。 シルバーの居場所だけじゃなくて、危険人物の情報も含めて。特にあの“仮面の男”は危険だわ」 仮面の男が“最終目的”を果たさんとある場所に向かっていたことを、ブルーは知っていた。 そこを“実験”などに連れて来られたのだ。おそらくあの男は怒りを覚えているだろう。 もしくは、“何でも願いを叶える”という褒美につられて、殺し合いに乗ってしまう可能性も高い。 何百、何千もの観客が集まったポケモンリーグ会場を、丸ごと破壊するような男だ。 人を犠牲にすることに躊躇いはないだろう。 ブルーと同じ様にポケモンを没収されているはずとはいえ、あの男には得体の知れない謎の能力もある。 シルバーはおろか、あのレッドでさえ単独で相対することは危険なのだ。 「でも……あの子ならきっと向かって行くでしょうね。それに、また私を守ろうとして無茶をするかもしれない」 シルバーをこれ以上戦わせたくないが為に、ブルーは敢えてシルバーを遠ざけた。 それなのに、名簿を見る限り彼もまたこの場に呼ばれている。 シルバーならきっと殺し合いに乗ったりはしない。けれど、ブルーを守ろうと何らかの無茶をしかねない。 両親の行方も知れないブルーにとって、シルバーは今いる唯一の家族といっていい存在だ。 そのことを思うと、胸がしめつけられる。 一刻も早く、探し出さなければならない。 その為にも、まずはブルー自身の装備を確認しようと、ランダム支給品を取りだした。 まず出て来たのは、小型の麻酔銃。 銃を撃ったことはないが、相手を即座に無力化でき、かつ殺害する恐れがないという点で、かなりの当たり支給品だろう。 少し安心して、次のものを取りだす。 しかし、次なるの支給品は意表をつくものだった。 薄い色つきの冊子だった。 タイトルが、ブルーの興味を引く。 【魔女図鑑】 「魔女、ねぇ……」 そこに描かれていた絵本のようなイラストに、眉をひそめる。 薔薇園の魔女。お菓子の魔女。ハコの魔女。委員長の魔女……。 「ポケモン……じゃ、ないわよね。どう見ても」 ブルーとて全ポケモンの外見を知っているわけではないが、その『図鑑』に描かれたものは、生物として何かが逸脱した、異端な様相をしていた。 ピンクのぬいぐるみのように愛らしい生き物もいたが、残りの大半は気持ち悪い見た目のものばかりだった。 巨大植物の突然変異のようだったり、無数の触手が生えた真っ黒い影だったり、本来足が生えるべき場所に手が生えていたり。 白スーツの男が言っていた“魔女の口づけ”という言葉がなければ、趣味の悪い絵本だと、そのまま二度と読まなかっただろう。 「あの主催者の協力者に、こんな感じの“魔女”がいるってことなのかしら……?」 疑問に思いつつも、取りだした三つめの武器は、さらに不可思議なものだった。 銀色の丈夫そうな杖だ。先端に、双頭の蛇を模した飾りがついている。 説明書もついていた。 【ケリュケイオンの魔杖】 古典魔法使いカルル・クリストバルドの愛用していた杖。 無数の魔法自動実行コードが記録されている。 大魔女ジギタリスの遺産である「魔女のライブラリ」が封印されている。 さっぱり分からない……。 「ジギタリス……っていうのも、この魔女の一種なのかしら?」 魔女図鑑には描かれていないが、大昔の魔女だというから収録されなかっただけかもしれない。 この杖の用法も分からない。使える人間になら使えるのかもしれないが、“魔女”でなければ使えないのか。 使い方を知っていればブルーにも使えるのか。 使い方と言えば、魔女図鑑にしてもそうだ。 武器としては期待できないし、ハズレ支給品にしても、だいぶ意味深だ。 まるで、何かのヒントを与えているように。 「たどり着けるものならたどり着いてみなさい、ってこと? ずいぶんと余裕じゃない」 人の命をもてあそぶような主催者の態度には怒りを覚えるが、しかし手がかりがあるならそれはそれで活用させてもらう。 ブルーは、したたかなのだから。 考えごとに没頭していたブルーは、その時になってやっと気づく。 背中を預けていた校舎の、いちばん奥手の窓に、明かりがついていたのだ。 部屋の灯りではない、こっそり懐中電灯をつけたような小さな明かりが、カーテンの向こうからぼんやりと浮かんでいる。 つまり、そこに誰かがいるということ。 カーテンは閉まっている。 ブルーは、せめて立ち聞きでもできないかとそろそろ歩み寄った。 ※  ※ さて、ここに集まった三人、いずれも当面は『脱出』を目ざす人間たちである。 そして、三人とも、自らの握っている“秘密”に、“思い違い”を抱えている。 まず、三村信司。 彼は一度、このバトルロワイアルと酷似した“実験”に参加した経験を持っており、そのゲームの中で死亡した記憶を持っている。 また、学校のPCからネットに接続したことにより、会場限定の掲示板の存在をいちはやく確認している。 そして、彼は知らない。 かつて自分を殺害した仇敵が、この場では当面殺し合いに乗っていないことを。 次に、沢村史郎。 彼はこのゲームの主催者、鳴海清隆と直接の面識があり、彼の人間性もある程度は看破している。 また、高町亮子から“ブレード・チルドレン”の存在を聞かされており、この会場にいるチルドレンの危険性もそれなりに把握している。 そして、彼は知らない。 主催者の鳴海清隆が、自分の知る時間軸の鳴海清隆ではないことを。 そして、彼が探している雨苗雪音もまた、彼にその正体と目的を偽っていることを。 そして、この場にいるただ一人の少女。ブルー。 彼女は“魔女図鑑”を支給されたことで、“魔女のくちづけ”の“魔女”が何を意味するのか、それに繋がる手がかりを手に入れている。 そして、彼女は知らない。 彼女が持っている『魔女図鑑』の『魔女』と『魔女の杖ケリュケイオン』の『魔女』は、意味が異なるということを。 さて、この三人の会合がどのような化学反応をもたらすのか。 その結果が出るには、今少しの時が流れなければならない。 【E-5/学校/一日目深夜】 【沢村史郎@スパイラル・アライヴ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:雨苗雪音を救う。 1・扉の向こうにいる人物との接触。 2・仲間を探す(高町亮子を優先)。 3・この状況を打開する為の情報を集める。 ※アライヴ5巻、雨苗と再会する直前からの参戦です。 ※当たり前のことですが、鳴海清隆、高町亮子を、『アライヴ』(二年前)時点の二人だと思っています。 ※この『実験』がブレード・チルドレンに関わるものではないかと推測しています。 【三村信司@バトルロワイアル】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:ゲームには乗らない 1・扉の向こうにいる人物との接触 2・桐山和雄には最大限の警戒 3・七原秋也との合流 4・この状況を打開する為の情報を集める。 ※死亡後からの参戦です。 ※ネット空間の掲示板に気が付きました。 【ブルー@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]健康 [装備]麻酔銃(6/6)@スパイラル~推理の絆~ [道具]基本支給品一式、魔女図鑑@魔法少女まどか☆マギカ ケリュケイオン@よくわかる現代魔法 [思考] 1・レッド、シルバーとの合流(シルバー優先) 2・仮面の男に最大限の警戒 3・この状況を打開する為の情報を集める。 ※参戦時期は、シルバーをテレポートさせてからウバメの森に向かうまでのどこかです。 【麻酔銃@スパイラル~推理の絆~】 カノン・ヒルベルト戦で使用された麻酔銃。 作中の描写を見る限りかなり強力な麻酔が使われており、被弾して十秒以内には意識を奪うことが可能。 【魔女図鑑@魔法少女まどか☆マギカ】 見滝原市に出没した魔女の姿を図入りで紹介した冊子。 内容は、まどか公式サイトの魔女図鑑とほぼ同じもの。 ……メタアイテム? 非リレーだしってことで、勘弁してください。 【ケリュケイオン@よくわかる現代魔法】 一ノ瀬弓子が曽祖父から引き継いだ魔法の杖。 魔女のライブラリ(ジギタリスが創り出した6万5千の魔法コード及び、魔女ジギタリスの全記憶)が封印されている。 封印が解けると炎の魔女ジギタリスが復活すると言われている。 魔女のライブラリの他に、弓子の曽祖父が使っていた魔法コードも記憶しているので、 魔法の素質があれば杖が記憶した術を使うことは可能と思われる。 某機動六課の幼女が使ってるデバイスじゃないよ。 |Back:017[[祈りから始まって、呪いで終わる]]|投下順で読む|Next:019[[「家探しの話(問題編)」―Life goes on―]]| |&color(cyan){GAME START}|沢村史郎|Next:| |&color(cyan){GAME START}|ブルー|Next:| |&color(cyan){GAME START}|三村信司|Next:|
【沢村史郎の場合】 沢村史郎は、鳴海清隆の思惑をはかりかねていた。 いや、この状況で主催者の思惑が即座に理解できる者などいるはずもない。 しかし、鳴海清隆という人間を知っている沢村史郎には、だからこそこの状況がいっそう不可解だった。 「鳴海清隆は……ミカナギファイルを手に入れる計画の途中だったんじゃないのか?」 こんなことをしている暇はないはずだ。 だいいち、鳴海清隆という男は冷酷だが殺戮を好みはしはない。 仮にも警視庁の刑事なのである。 それがどうして、こんな『実験』を開催することになるのか。 恐怖するよりもまず、途方にくれた、というのが正直な感想だった。 まるで、沢村だけをおいて時間が何年も進んでしまったかのような。 周囲から取り残されたような、あてどもない不安に満たされる。 けれど、彼は即座にその孤独から立ち直った。 参加者名簿には、沢村が救いたかった雨苗雪音の名前も書かれていた。 そう、周りがどうなろうと、誰が何を企んでいようと、沢村のすることは変わらないのだ。 「たとえ殺人ゲームの最中だろうと、俺のすることは変わらない。雨苗を探して、救う。それだけだ」 黒髪の、過去に救えなかった女性を思い出させる、儚げな雨苗雪音。 両親の仇を探す為に、犯罪に手を染めてしまった雨苗雪音。 沢村の探していた彼女は、両親と妹を殺した犯人に復讐することを考えていたらしい。 そんな中、復讐を成就させんとする直前にこんなところに呼ばれているのだ。 雨苗雪音は、理性的な少女でもある。 あの得体の知れない鳴海清隆から、復讐と無関係な、ましてブレード・チルドレンですらない人を殺せと言われて、あっさり言うことを聞いたりしないだろう。 しかし今の彼女は精神的に相当に追い詰められているはずだ。 そんな余裕をなくした状態で、こんな形で復讐を邪魔されたりしたら、焦ってどんな危険を冒すか分からない。 彼女は、ますます罪をかさねてしまうかもしてない。 それ以前に、すぐに殺されてしまうかもしれない。 だから沢村もまた、行動しなければならない。 必要なのは、他者との合流だ。 とにかく、ある程度信頼できて、情報も持っている仲間。 最も信頼できるのは、一連の事件でパートナー関係にあった高町亮子。 そして、彼女ら以外で知っているのが関口伊万里。 彼女と最後に会ったのは、雨苗雪音が逮捕された直後だった。 それ以来出会っていないし、鳴海清隆からすれば『逮捕した少女の知り合い』程度の部外者のはずだ。 そんな彼女までこの場にいることが少しひっかかる。 (実際は、関口伊万里は以降もずっと雨苗の事件に関わり続けていたのだが、沢村はそのことを知らない) そして、見せしめにされた少女の言っていたことも気になる。 ――だって清隆様は、私たちも救ってくれるって…… 鳴海清隆は、あの少女とその仲間を救おうとしていたらしい。 鳴海清隆に救われるはずだった子どもたち。 確証はないが、それはもしかして、“あの子どもたち”のことかもしれない。 ブレード・チルドレン とはいえ、沢村も高町亮子から簡単に聞いただけで、どういう子どもたちなのかはよく知らない。 大人になるとスイッチが入って、殺人鬼になってしまう子どもたち。 だからこそ、命を狙われたり、それが原因で既にスイッチが入ってしまった子どももいる、という程度だ。 そして鳴海清隆は、そのブレード・チルドレン計画に何かしら関わっていたらしく、子どもたちの間では名の知れた人物らしい。 「だとしたら、今回のこともブレード・チルドレンに関する何らかの実験か……?」 かといって、断定するのも危険だ。 とにかく、あの場には少女の知り合いらしい人間もいた。 彼らと話すことができれば、より詳しい事情が分かるだろう。 学校の廊下をこうしてうろついているのも、そういう協力し合える参加者を探す為である。 学校のような施設に向かうのは、殺し合いに乗らず、ひとまず身を隠したいような参加者が多いはずだ。 廊下を端まで歩いて、沢村はコンピュータルームに灯りがついているのを見とがめた。 わずかな灯りだった。 おそらく、用心のため部屋の灯りをつけずに、PCの電源を入れているのだろう。 (殺し合いに乗った人かもしれないけど……接触しなきゃ何も始まらないよな) 沢村史郎は、決して馬鹿ではない。 むしろ、歳の割には頭が回り、かつ、柔軟な考えを持っているといっていい。 しかし、平然とリスキーなことをしてしまう癖があった。 年下の高町亮子からも『危うい』『無茶』と心配されるほど、身の危険に鈍いのだ。 そして、その無茶な性癖を本人はあまり自覚していない。 何故なら彼は自分の利益の為ではなく、他人――この場合雨苗雪音――を守る為にそうするので、その誰かを守ることで頭がいっぱいになっているからだ。 だから沢村は、コンピュータルームの扉を無警戒に堂々とノックした。 【三村信史の場合】 「夢でも見てるのか……?」 三村信史は現実を疑った。 何をすべきか当惑した。 目を覚ますなり“あなたは大東亜共和国の六十八番プログラムに呼ばれました”と言われて、 担任教師の射殺死体を見せられても、ここまで動揺しなかっただろう。 実際、彼は現実にそれが起こった時も冷静に行動してみせた。 そう、彼は覚えていたのだ。 「俺は死んだはず……だよな?」 “戦闘実験第六十八番プログラム”の参加者としてクラスメイトともども瀬戸内の小島に運ばれたこと。 そのゲームの中で、友人の瀬戸豊と共に政府の作戦本部を爆破しようとしたこと。 その目論みを桐山和雄に邪魔されて瀬戸豊を殺されたこと。 桐山和雄相手に最後まで戦ったものの、マシンガンの銃撃を受けて死亡したこと。 銃弾を受けた時の熱も、痛みも、気が遠くなる『死』の実感も、確かに彼は記憶していた。 「飯島を殺したから地獄に落ちた……なんてことはないか。桐山や相馬はともかく、七原までここにいるんだからな。 いくら地獄でも、死んでからもプログラムをやらされるような目には遭わないだろうし、おまけに呪いだの魔女だの言われるし。 ……うあああああ! 深く考えるのは止めだ! 情報がないんだから判断しようがない!」 コンピュータルームの回転椅子に座ってグルグルと回り、三村は開き直った。 「どっちにしろ、今回もゲームに乗る選択肢は無しだな。 幸い――っていう言い方はおかしいけど、一度死んでるんだ。今更怖いものなんてないさ」 前回よりも気負わずに気楽に、反抗しようと決断した。 一度目のプログラムの時は、失敗は許されないという気負いがあった。 しかし、それは失敗した。 未練はあったが、三村なりに全力を尽くした終わりかただった。 だからこそ、再びの生と言われてもピンと来ないし、その現実感のなさから逆に落ちつくことができたのだ。 死んだからこそ、死んだことによる混乱を乗り越えられたのもある意味皮肉だが。 さて、そして今いるのが、学校のコンピュータルームである。 そこを訪れたのには、深い意図はない。 ただ、彼のスタート地点が学校だったから一応寄ってみた、というだけのことだ。 これが前回の殺し合いだったら、PCのネットワークが繋がっているのかを確認し、しかるのちに政府のコンピュータに侵入。 ハッキングで首輪を外そうと試みただろう。 しかし、今回の殺し合いで三村たちの命を握っているのは、“魔女の口づけ”とかいう謎のオカルトだ。 『“呪い”が実はコンビュータ制御でした』ということでもない限り、ハッキングという手段は今回のプログラムを解決できない。 それでも、会場に電気は通っているのだから少なくともPCの電源を入れることはできるはずだ。 ネットが自由に使えるなら外部と連絡を取り放題になってしまうし、主催者がそれを見逃すはずもないだろう。 しかし最低限、何が出来て何が出来ないのかだけでも確認したい。 回転椅子に座り、PCを立ち上げる。 三村の知らない、windowsとかいうOSが表示される。 ネットワークの状態を確認。 ローカルネットワークだが、確かに繋がっていた。 驚くが、ここでぬか喜びしてはならない。 デスクトップにあるインターネットのアイコンをクリック。 そのPCの「ホームページ」として登録された最初の画面に、三村は目を丸くした。 そこには、黒地の画面に赤いゴシック体で、こう書かれていた。 「【バトルロワイアル@WIKI】 バトルロワイアル@wikiにようこそ メニュー ・ウィキはみんなで自由にホームページ編集できるツールです。 ・このページは自由に編集することができます。 ・メールで送られてきた(ry」  ( ゚д゚)  「バトルロワイアル@wiki……?」 _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄     ( つд⊂ ) ゴシゴシ _ (_/ ̄ ̄ ̄/_    \/    /     ̄ ̄ ̄    ( ゚д゚)  _(__つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄   ( ゚д゚ ) _ (_つ/ ̄ ̄ ̄/_     \/    /      ̄ ̄ ̄   え? 『こっちみんな』? 失礼。 どうやらそれは、レンタル形式の情報まとめサイトらしい。 管理者は、このゲームの主催者とみていいだろう。 メニューにある項目を、三村はひとつひとつ確かめた。 参加者名簿…名簿と同じ名前が表示されている。 参加者名簿(死者表示)…上に同じ。ただし「※放送ごとに更新予定」と書かれている。 また全員の名前の下に「残り70人」と赤文字で表示。脱落者の名前が、放送で名前が呼ばれるごとに更新されていくのだろう。 死亡者リスト…特に何も無い。ただし、上に同じく「※放送ごとに更新」と書かれている。 地図…配布された地図に同じ 地下鉄…地下鉄のダイヤが書かれている。 資料室…今のところ何も無い。「支給品の情報、施設情報など、皆の役に立つ情報を書き込んでいく場所です。編集は自由」と書かれている。 必要な情報ではあるが、今のところ目新しい情報はないようだ。 少なくとも、今のところは。 ただ、誰でも自由に編集が可能らしいということが気にかかる。 そして、「資料室」の項目。 今は閲覧者も三村以外にいないようだが、いずれ多くの参加者がこのシステムに気づくだろう。 そうなれば、この@wikiが信憑性も不確かな情報で更新されていくことは必至。 このゲームは、情報戦の様相を呈してくるはずだ。 情報戦、ともなれば三村信史の得意分野だと言える。 しかし、だからと言って判断力の過信は禁物。 ましてや“魔女”“呪い”などといったオカルトめいた単語も飛び交っていたのだ。 提供された情報の真偽を判断することは、いっそう難しくなるだろう。 そして、三村は『メニュー』の下に表示された、二つの『リンク』に気づく。 したらば チャット まぁ、まとめサイトにはよくある機能だ。 チャットに飛ぶ。 何の変哲もないチャットルーム。今のところ、閲覧者は三村だけのようだ。 したらばに飛ぶ。 「1.バトルロワイアル・連絡・雑談用スレ(1) 1:管理人★(sage) 投稿日:一日目 深夜 ID:Kiyotaka0 この実験を『生きる』ための情報交換スレだ。 交流の場として旧交を温めるも良し、偽証をして陥れるも良し。 各自に合ったやり方で有効に活用してくれたまえ。」 「……ご親切なことで」 どうやらこのゲームの主催者は、単純な戦いではなく情報戦や心理戦を好む向きにあるらしい。 そのゲーム感覚のようなやり方は気に入らないものの、利用できるものは利用させてもらおう。 とりあえず、三村の知っていることを書きこませてもらう。 「2:迷える子羊な名無しさん(sage) 投稿日:一日目 深夜 ID:SdQ12kazz 桐山和雄には気をつけろ。中背の中学三年生だ。こいつは間違いなくゲームに乗る。 ここに来る前のプログラム(外国の人にも分かるように説明すると、今回と同じような殺し合いゲームだ。 魔法は出てこなかったけどな)で、こいつは積極的にゲームに乗った。 何の躊躇もなくクラスメートを殺して回った。 殺人マシーンみたいなやつだ。 中学生だからといって侮るな。運動能力も頭の良さも規格外だし、生命力も悪運も悪魔みたいに強い」 『外国の人にも』と前置きを入れたのは、あきらかに大東亜共和国出身者とは思えない名前がちらほらあったからだ。 最低限の情報は伝えた。嘘だと思われる可能性もあるが、少なくとも桐山にはそれなりの警戒をしてもらえるだろう。 そして、三村個人にたどり着かれる情報は話していない。しいて言えば、プログラムに参加したことから中学生だと類推できる程度だ。 何故なら、この書きこみが偽証と思われる可能性もあるからだ。 名前を出せば、逆に『三村信司』という参加者を警戒される可能性もあり、迂闊に個人情報を出すことはできない。 それに少なくとも、七原ならこれを見れば消去法で三村信司が書いたと分かってくれるだろう。 相馬も三村が書いたものだと見当をつけるかもしれないが、アイツに関しては情報が少ないので判断を保留。 また、書きこみをしたことでPCを特定されてすぐに学校が狙われるリスクも低い。 こんな序盤から三村以外にPCを確保し、かつ、その者が充分なプログラミング能力を持ち、その上でそいつが学校近辺にいる確率は限りなく低いといっていい。 なので、しばらくはこのPCの活用法をじっくり考えさせてもらうとしよう。 ひととおり@wikiを確認した三村は、次に他のサイトにアクセスできないかを試みる。 @wikiのレンタル元となるホームページは覚えのないサーバーを使っていた。 知っているアドレスを手当たり次第に入れてみたが全て接続不可能。 どうやら、この会場限定のローカルネットワークらしい。ずいぶんと手間のかかることをする。 ならばキャッシュに他のアドレスが残されていないかを見てみよう。 その時だった。 コンピュータルームのドアがノックされたのは。 【ブルーの場合】 鉄筋コンクリートの後者に背中を預けて、ブルーはディパックを開けていた。 その手には、参加者名簿。その顔には、自分以外の誰かを心配する表情。 「シルバーも早く見つけてあげたいけど……その為には情報が必要よね。 シルバーの居場所だけじゃなくて、危険人物の情報も含めて。特にあの“仮面の男”は危険だわ」 仮面の男が“最終目的”を果たさんとある場所に向かっていたことを、ブルーは知っていた。 そこを“実験”などに連れて来られたのだ。おそらくあの男は怒りを覚えているだろう。 もしくは、“何でも願いを叶える”という褒美につられて、殺し合いに乗ってしまう可能性も高い。 何百、何千もの観客が集まったポケモンリーグ会場を、丸ごと破壊するような男だ。 人を犠牲にすることに躊躇いはないだろう。 ブルーと同じ様にポケモンを没収されているはずとはいえ、あの男には得体の知れない謎の能力もある。 シルバーはおろか、あのレッドでさえ単独で相対することは危険なのだ。 「でも……あの子ならきっと向かって行くでしょうね。それに、また私を守ろうとして無茶をするかもしれない」 シルバーをこれ以上戦わせたくないが為に、ブルーは敢えてシルバーを遠ざけた。 それなのに、名簿を見る限り彼もまたこの場に呼ばれている。 シルバーならきっと殺し合いに乗ったりはしない。けれど、ブルーを守ろうと何らかの無茶をしかねない。 両親の行方も知れないブルーにとって、シルバーは今いる唯一の家族といっていい存在だ。 そのことを思うと、胸がしめつけられる。 一刻も早く、探し出さなければならない。 その為にも、まずはブルー自身の装備を確認しようと、ランダム支給品を取りだした。 まず出て来たのは、小型の麻酔銃。 銃を撃ったことはないが、相手を即座に無力化でき、かつ殺害する恐れがないという点で、かなりの当たり支給品だろう。 少し安心して、次のものを取りだす。 しかし、次なるの支給品は意表をつくものだった。 薄い色つきの冊子だった。 タイトルが、ブルーの興味を引く。 【魔女図鑑】 「魔女、ねぇ……」 そこに描かれていた絵本のようなイラストに、眉をひそめる。 薔薇園の魔女。お菓子の魔女。ハコの魔女。委員長の魔女……。 「ポケモン……じゃ、ないわよね。どう見ても」 ブルーとて全ポケモンの外見を知っているわけではないが、その『図鑑』に描かれたものは、生物として何かが逸脱した、異端な様相をしていた。 ピンクのぬいぐるみのように愛らしい生き物もいたが、残りの大半は気持ち悪い見た目のものばかりだった。 巨大植物の突然変異のようだったり、無数の触手が生えた真っ黒い影だったり、本来足が生えるべき場所に手が生えていたり。 白スーツの男が言っていた“魔女の口づけ”という言葉がなければ、趣味の悪い絵本だと、そのまま二度と読まなかっただろう。 「あの主催者の協力者に、こんな感じの“魔女”がいるってことなのかしら……?」 疑問に思いつつも、取りだした三つめの武器は、さらに不可思議なものだった。 銀色の丈夫そうな杖だ。先端に、双頭の蛇を模した飾りがついている。 説明書もついていた。 【ケリュケイオンの魔杖】 古典魔法使いカルル・クリストバルドの愛用していた杖。 無数の魔法自動実行コードが記録されている。 大魔女ジギタリスの遺産である「魔女のライブラリ」が封印されている。 さっぱり分からない……。 「ジギタリス……っていうのも、この魔女の一種なのかしら?」 魔女図鑑には描かれていないが、大昔の魔女だというから収録されなかっただけかもしれない。 この杖の用法も分からない。使える人間になら使えるのかもしれないが、“魔女”でなければ使えないのか。 使い方を知っていればブルーにも使えるのか。 使い方と言えば、魔女図鑑にしてもそうだ。 武器としては期待できないし、ハズレ支給品にしても、だいぶ意味深だ。 まるで、何かのヒントを与えているように。 「たどり着けるものならたどり着いてみなさい、ってこと? ずいぶんと余裕じゃない」 人の命をもてあそぶような主催者の態度には怒りを覚えるが、しかし手がかりがあるならそれはそれで活用させてもらう。 ブルーは、したたかなのだから。 考えごとに没頭していたブルーは、その時になってやっと気づく。 背中を預けていた校舎の、いちばん奥手の窓に、明かりがついていたのだ。 部屋の灯りではない、こっそり懐中電灯をつけたような小さな明かりが、カーテンの向こうからぼんやりと浮かんでいる。 つまり、そこに誰かがいるということ。 カーテンは閉まっている。 ブルーは、せめて立ち聞きでもできないかとそろそろ歩み寄った。 ※  ※ さて、ここに集まった三人、いずれも当面は『脱出』を目ざす人間たちである。 そして、三人とも、自らの握っている“秘密”に、“思い違い”を抱えている。 まず、三村信史。 彼は一度、このバトルロワイアルと酷似した“実験”に参加した経験を持っており、そのゲームの中で死亡した記憶を持っている。 また、学校のPCからネットに接続したことにより、会場限定の掲示板の存在をいちはやく確認している。 そして、彼は知らない。 かつて自分を殺害した仇敵が、この場では当面殺し合いに乗っていないことを。 次に、沢村史郎。 彼はこのゲームの主催者、鳴海清隆と直接の面識があり、彼の人間性もある程度は看破している。 また、高町亮子から“ブレード・チルドレン”の存在を聞かされており、この会場にいるチルドレンの危険性もそれなりに把握している。 そして、彼は知らない。 主催者の鳴海清隆が、自分の知る時間軸の鳴海清隆ではないことを。 そして、彼が探している雨苗雪音もまた、彼にその正体と目的を偽っていることを。 そして、この場にいるただ一人の少女。ブルー。 彼女は“魔女図鑑”を支給されたことで、“魔女のくちづけ”の“魔女”が何を意味するのか、それに繋がる手がかりを手に入れている。 そして、彼女は知らない。 彼女が持っている『魔女図鑑』の『魔女』と『魔女の杖ケリュケイオン』の『魔女』は、意味が異なるということを。 さて、この三人の会合がどのような化学反応をもたらすのか。 その結果が出るには、今少しの時が流れなければならない。 【E-5/学校/一日目深夜】 【沢村史郎@スパイラル・アライヴ】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:雨苗雪音を救う。 1・扉の向こうにいる人物との接触。 2・仲間を探す(高町亮子を優先)。 3・この状況を打開する為の情報を集める。 ※アライヴ5巻、雨苗と再会する直前からの参戦です。 ※当たり前のことですが、鳴海清隆、高町亮子を、『アライヴ』(二年前)時点の二人だと思っています。 ※この『実験』がブレード・チルドレンに関わるものではないかと推測しています。 【三村信史@バトルロワイアル】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み) [思考]基本:ゲームには乗らない 1・扉の向こうにいる人物との接触 2・桐山和雄には最大限の警戒 3・七原秋也との合流 4・この状況を打開する為の情報を集める。 ※死亡後からの参戦です。 ※ネット空間の掲示板に気が付きました。 【ブルー@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]健康 [装備]麻酔銃(6/6)@スパイラル~推理の絆~ [道具]基本支給品一式、魔女図鑑@魔法少女まどか☆マギカ ケリュケイオン@よくわかる現代魔法 [思考] 1・レッド、シルバーとの合流(シルバー優先) 2・仮面の男に最大限の警戒 3・この状況を打開する為の情報を集める。 ※参戦時期は、シルバーをテレポートさせてからウバメの森に向かうまでのどこかです。 【麻酔銃@スパイラル~推理の絆~】 カノン・ヒルベルト戦で使用された麻酔銃。 作中の描写を見る限りかなり強力な麻酔が使われており、被弾して十秒以内には意識を奪うことが可能。 【魔女図鑑@魔法少女まどか☆マギカ】 見滝原市に出没した魔女の姿を図入りで紹介した冊子。 内容は、まどか公式サイトの魔女図鑑とほぼ同じもの。 ……メタアイテム? 非リレーだしってことで、勘弁してください。 【ケリュケイオン@よくわかる現代魔法】 一ノ瀬弓子が曽祖父から引き継いだ魔法の杖。 魔女のライブラリ(ジギタリスが創り出した6万5千の魔法コード及び、魔女ジギタリスの全記憶)が封印されている。 封印が解けると炎の魔女ジギタリスが復活すると言われている。 魔女のライブラリの他に、弓子の曽祖父が使っていた魔法コードも記憶しているので、 魔法の素質があれば杖が記憶した術を使うことは可能と思われる。 某機動六課の幼女が使ってるデバイスじゃないよ。 |Back:017[[祈りから始まって、呪いで終わる]]|投下順で読む|Next:019[[「家探しの話(問題編)」―Life goes on―]]| |&color(cyan){GAME START}|沢村史郎|Next:| |&color(cyan){GAME START}|ブルー|Next:| |&color(cyan){GAME START}|三村信史|Next:|

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