復讐鬼、再始動

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「何故……何故俺は生きているんだ……?」 漆黒の闇から解き放たれた後に、彼が意識を取り戻したのは夜の闇の中。 だが、そこは殺し合いの舞台には不似合いなほどに爽やかなそよ風が吹き抜け、柔らかな月の光に照らされた砂浜であった。 うちよせるさざ波の音は、これから浜辺で一杯やりながら天体ショーを楽しむにはうってつけのように思えた。 ある意味で楽園とは、天国とはこういうところなのかもしれない、そう思わせるほどの静かな場所。 それを振り払うのは自分の首に感じる、ひんやりとした金属の感触。 そして、こうして視覚で月光を捉え、嗅覚で磯の匂いを感じ、聴覚で吹き抜ける風の音を聞き、触覚で金属の無機質さを知る。 五感で生を感じるということが、屍と化したはずの彼、笹塚衛士にとっては最早あり得ないことだったのに。 無意識に彼は自分の上着の、そしてズボンのポケットを探っていた。 そして、愛用の煙草が無いことに気づき、その気だるそうな表情を崩さぬままに小さく舌打ちしてみせる。 そのまま、砂浜にどっかと腰を下ろし、闇と同じ色に染まり何も見えない海を眺めながらしばし思索に耽った。 笹塚衛士は、自分の両親と妹を"シックス"の手によって永遠に喪った男である。 その日を境に彼は、自らの生を仇敵への復讐の為に費やし続けた。 一時的に友と決別し、闇の世界に飛び込んで完璧な破壊技術を身に着け、裏の世界に人脈を築いてその機会を執念深く待ち続けた。 そしてついに巡ってきたその好機……計画は完璧で、奴の首に手がかかりかけていたはずだった。 だが、その行動全てが憎むべき男の掌の上の出来事であると気づかされた時、彼はターゲットとの格の違いを痛感させられた。 怨嗟、憎悪、憤怒、そうした負の感情が霧散していった最後に、彼が目にしたのはいつしか自分の内に深く入り込んできた一人の女子高生。 憑きものから解き放たれた彼は、無意識のうちにその顔に微笑みを湛え……そして散ったはずだったのだ。 「あの時の俺は……どんな表情をしていたんだろうな」 そのことを省みながら笹塚は思う。 自分の中でそれほどまでに彼女の存在が大きかったのだろうか。 あるいは巻き込んでしまって申し訳ないとでも半ば自嘲していたのだろうか。 当の本人ですら、もうそれは分かっていなかった。 「……信じられんが、どうやら俺は"また"生かされたのかもな」 吐き捨てるようにつぶやく。 復讐の念に憑りつかれた彼の半生が、全て"シックス"の計画通りであることを知った今、この生もまた奴に与えられたものなのかもしれないと笹塚は考えた。 大方、新しい血族が使うという強化細胞とやらで、その命を繋ぎ止めさせられたのだろう。 奴らにとって自分は余興にうってつけの玩具か、はたまた何かの実験にうってつけのモルモットか。 いずれにせよ、以前と同じく奴の掌で踊るだけしかできないのか、彼はそこまで考えて一つ大きくふぅっと息をついた。 わざわざ与えられたこの機会を、もう一度復讐の為に充てるのか? それとも実験生物は実験生物らしく、大人しくその命に従うべきなのか? 笹塚は考えあぐねていた。 死の直前にその復讐心は大半を削ぎ落とされてしまった。 かと言って、ハイそうですかとあっさり屈服するほど彼は芯の弱い人間でもなかった。 今の自分は宙ぶらりんの存在、そもそもが黄泉の国から強引に連れ戻されたような、いわばこの世の理から縛られていない存在だ。 明確な行動指針を定められないまま、彼はおもむろに傍らに転がっていた袋をあさってみる。 「ある程度予想はしていたが……まさかこれほどとはな」 中に入っていた名簿に連なる見知った名前の羅列に、思わず笹塚は頭を抱えそうになった。 「"人外"であるあの男はともかくとして、だ……弥子ちゃんに、探偵事務所のチンピラ、それに石垣までか……」 最後におまけのようにして自分の概ね不出来な部下を付け加え、さらに嘆息する。 収監されているはずの犯罪者が数名と、自分と同じく命を落としたはずの者の名前も確認した。 そして、自分の命を一度は奪ったはずの怪盗Xの名を目にし、彼は首をかしげた。 記憶が確かなら、奴の名は今や"X"ではなく"XI"であったはず。 それとも、かつて奴をサポートした女と同じく、分かりやすいように知れ渡った通名で載せているだけか……? 笹塚は結論に至らない思考を一旦脇に押しやり、ついでに名簿も袋に押し込んだ。 次に"シックス"たちが授けたという武器とやらを探り……彼は二度目の生では初めてその顔に微かな笑みを貼り付けた。 その笑みは、端的に言ってしまえば"苦笑"と称するような代物である。 「おーおー。こいつはまた随分と懐かしいもんじゃないか」 笹塚が手にしたのは白地のマスク。その額と顎の部分にはいくつかの小さな穴が開けられていた。 まだ彼の暮らしが平穏そのものだった頃、TVで偶々やっていたホラー映画で見る者に強烈なインパクトを残した一品だ。 「復讐に堕ちた自分に、復讐鬼のマスクか。おあつらえ向きとでも言った方がいいかね」 適当な穴に指を通してマスクをクルクルと回し、そして仰向けになって空を見上げて一人ごちる。 「さて……どうしたもんか」 【A-4 浜辺 一日目深夜】 【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】 [状態] 健康 [装備] 自分の私服 [所持品] 支給品一式、ジェイソンマスク [思考・状況] 1.再び復讐の為に動くか、大人しく殺し合いに乗るかを考えあぐねている |Back:[[闇>闇(推理キャラロワ)]]|時系列順で読む|Next:[[]]| |Back:[[闇>闇(推理キャラロワ)]]|投下順で読む|Next:[[]]| ||笹塚 衛士|Next:[[]]| ----
「何故……何故俺は生きているんだ……?」 漆黒の闇から解き放たれた後に、彼が意識を取り戻したのは夜の闇の中。 だが、そこは殺し合いの舞台には不似合いなほどに爽やかなそよ風が吹き抜け、柔らかな月の光に照らされた砂浜であった。 うちよせるさざ波の音は、これから浜辺で一杯やりながら天体ショーを楽しむにはうってつけのように思えた。 ある意味で楽園とは、天国とはこういうところなのかもしれない、そう思わせるほどの静かな場所。 それを振り払うのは自分の首に感じる、ひんやりとした金属の感触。 そして、こうして視覚で月光を捉え、嗅覚で磯の匂いを感じ、聴覚で吹き抜ける風の音を聞き、触覚で金属の無機質さを知る。 五感で生を感じるということが、屍と化したはずの彼、笹塚衛士にとっては最早あり得ないことだったのに。 無意識に彼は自分の上着の、そしてズボンのポケットを探っていた。 そして、愛用の煙草が無いことに気づき、その気だるそうな表情を崩さぬままに小さく舌打ちしてみせる。 そのまま、砂浜にどっかと腰を下ろし、闇と同じ色に染まり何も見えない海を眺めながらしばし思索に耽った。 笹塚衛士は、自分の両親と妹を"シックス"の手によって永遠に喪った男である。 その日を境に彼は、自らの生を仇敵への復讐の為に費やし続けた。 一時的に友と決別し、闇の世界に飛び込んで完璧な破壊技術を身に着け、裏の世界に人脈を築いてその機会を執念深く待ち続けた。 そしてついに巡ってきたその好機……計画は完璧で、奴の首に手がかかりかけていたはずだった。 だが、その行動全てが憎むべき男の掌の上の出来事であると気づかされた時、彼はターゲットとの格の違いを痛感させられた。 怨嗟、憎悪、憤怒、そうした負の感情が霧散していった最後に、彼が目にしたのはいつしか自分の内に深く入り込んできた一人の女子高生。 憑きものから解き放たれた彼は、無意識のうちにその顔に微笑みを湛え……そして散ったはずだったのだ。 「あの時の俺は……どんな表情をしていたんだろうな」 そのことを省みながら笹塚は思う。 自分の中でそれほどまでに彼女の存在が大きかったのだろうか。 あるいは巻き込んでしまって申し訳ないとでも半ば自嘲していたのだろうか。 当の本人ですら、もうそれは分かっていなかった。 「……信じられんが、どうやら俺は"また"生かされたのかもな」 吐き捨てるようにつぶやく。 復讐の念に憑りつかれた彼の半生が、全て"シックス"の計画通りであることを知った今、この生もまた奴に与えられたものなのかもしれないと笹塚は考えた。 大方、新しい血族が使うという強化細胞とやらで、その命を繋ぎ止めさせられたのだろう。 奴らにとって自分は余興にうってつけの玩具か、はたまた何かの実験にうってつけのモルモットか。 いずれにせよ、以前と同じく奴の掌で踊るだけしかできないのか、彼はそこまで考えて一つ大きくふぅっと息をついた。 わざわざ与えられたこの機会を、もう一度復讐の為に充てるのか? それとも実験生物は実験生物らしく、大人しくその命に従うべきなのか? 笹塚は考えあぐねていた。 死の直前にその復讐心は大半を削ぎ落とされてしまった。 かと言って、ハイそうですかとあっさり屈服するほど彼は芯の弱い人間でもなかった。 今の自分は宙ぶらりんの存在、そもそもが黄泉の国から強引に連れ戻されたような、いわばこの世の理から縛られていない存在だ。 明確な行動指針を定められないまま、彼はおもむろに傍らに転がっていた袋をあさってみる。 「ある程度予想はしていたが……まさかこれほどとはな」 中に入っていた名簿に連なる見知った名前の羅列に、思わず笹塚は頭を抱えそうになった。 「"人外"であるあの男はともかくとして、だ……弥子ちゃんに、探偵事務所のチンピラ、それに石垣までか……」 最後におまけのようにして自分の概ね不出来な部下を付け加え、さらに嘆息する。 収監されているはずの犯罪者が数名と、自分と同じく命を落としたはずの者の名前も確認した。 そして、自分の命を一度は奪ったはずの怪盗Xの名を目にし、彼は首をかしげた。 記憶が確かなら、奴の名は今や"X"ではなく"XI"であったはず。 それとも、かつて奴をサポートした女と同じく、分かりやすいように知れ渡った通名で載せているだけか……? 笹塚は結論に至らない思考を一旦脇に押しやり、ついでに名簿も袋に押し込んだ。 次に"シックス"たちが授けたという武器とやらを探り……彼は二度目の生では初めてその顔に微かな笑みを貼り付けた。 その笑みは、端的に言ってしまえば"苦笑"と称するような代物である。 「おーおー。こいつはまた随分と懐かしいもんじゃないか」 笹塚が手にしたのは白地のマスク。その額と顎の部分にはいくつかの小さな穴が開けられていた。 まだ彼の暮らしが平穏そのものだった頃、TVで偶々やっていたホラー映画で見る者に強烈なインパクトを残した一品だ。 「復讐に堕ちた自分に、復讐鬼のマスクか。おあつらえ向きとでも言った方がいいかね」 適当な穴に指を通してマスクをクルクルと回し、そして仰向けになって空を見上げて一人ごちる。 「さて……どうしたもんか」 【A-4 浜辺 一日目深夜】 【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】 [状態] 健康 [装備] 自分の私服 [所持品] 支給品一式、ジェイソンマスク [思考・状況] 1.再び復讐の為に動くか、大人しく殺し合いに乗るかを考えあぐねている |Back:[[闇>闇(推理キャラロワ)]]|時系列順で読む|Next:[[捲土重来]]| |Back:[[闇>闇(推理キャラロワ)]]|投下順で読む|Next:[[捲土重来]]| ||笹塚 衛士|Next:[[]]| ----

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