ログの樹海 経験の羅列

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「武器や防具は持ってるだけじゃ意味ないぞ。ちゃんと装備しないとな」 「刀を持つのと刀を装備するのはどう違うんですか?」 「分からないなら、分からないでいい」 「はぁ」 ◆   ◆ というわけで、支給品の確認である。 ゲームをスタートしたら、まずスタートボタンをプッシュしてメニューを開き、「どうぐ」を確認。 どんなゲームで、どこへ向かい、どういう行動をするにせよ、その確認作業は欠かせない。 そういうわけで、坂崎嘉穂と瀬田宗次郎は互いの支給品を見せ合う作業をしていた。 果たして、嘉穂のディパックから出て来た支給品は三つあった。 「本と、テニスボールと、変な金属」 支給品としては小粒なそれらを、二人はひとつずつ取り上げて検分する。 「すべすべした書物ですねえ」 宗次郎はその本を手に取り、ハードカバーのつやつやした表紙をすべすべと撫でている。 いつもにこにこしているから感情の判別は至難だが、どうやら気に入ったらしい。 嘉穂は、宗次郎が満足するのを待ってから言った。 「瀬田。見せれ」 「はい」 宗次郎が表紙を上にして、両手で持って差し出す。嘉穂は受け取った。 『文学少女』 上品なHGP行書体で印字されたタイトルがまず目に入る。 長い三つ編みの少女の後ろ姿が描かれた表紙が目を引く。 若年層に売り込むことを配慮したのか明るい装丁だが、三つ編みの少女の雰囲気と淡い色調は、可愛らしさよりも清楚さが勝る。 そして帯には、『五百万部突破』とすごいことが書かれている。 出版社の名前は『薫風社』。著者の名前は『井上ミウ』。 「聞いたことのない出版社だ」 「ぼくも聞いたことがありません」 「いや、瀬田が知ってたらむしろおかしいから」 集○社も○談社もない、まだ明六社ができたばかりの時代だ。 「坂崎さんは出版のことに詳しいんですか?」 「いや、それほどでもないけど。でも大手出版社の数は限られているし、五百万部も売れていたら、誰でも聞いたことがあるはずかと」 「この本が『学問のすすめ』の十倍近くも売れてるんですか……すごいなぁ」 「人口や購買層が大きく違うから一概には比べられない」 しかし五百万部とはとんでもない。 日本で一番売れている漫画だって初版発行部数が380万部だというのに。 嘉穂は裏表紙を開いた。 「どこを見ているんですか?」 「この本の奥付。発刊日が数年後になってる」 「印刷の誤植ですか?」 「その可能性もゼロではないけれど……瀬田が明治の時代から来たように、この本も未来の出版物かもしれないということ」 「なるほど。でも何で未来の本を支給品にしたんでしょう」 嘉穂は参加者名簿を取りだした。 「名簿に、井上……しんよう? このは? そういう名前がある。 もしかしたら、この井上ミウという名前は、その参加者のペンネームなのかもしれない」 「つまり、坂崎さんが未来から来ているように、嘉穂さんの時代より未来から来ている人もいるかもしれないと」 「可能性としては。それに、もし参加者の執筆した本なら、何らかの情報はあるかもしれない。 腰を落ちつける場所と時間があれば読んでみようかと」 「奥付の著者紹介を読む限りは、女性のようですが……女性でも本を出せる時代になったんですね」 「まぁ『ミウ』という名前なら女性かと……そう言えば瀬田、名簿は読みにくくなかった?  明治初期と平成じゃ、活字の形も文字の形も全然違うはずだけど」 「そうなんですか? いつも読み書きに使ってるのと同じ、普通の字でしたよ?」 「…………普通に読めた? 例えばこの手塚国光って名前の『国』の字は?」 「こういう字でしたけど」 宗次郎は地面に旧字体の『國』の字を書いた。 「そうくるかよ」 嘉穂は額に指をあてる。 「坂崎さんにはどう見えたんですか」 「あたしの時代ではこういう書き方をする」 嘉穂は新字体の『国』の字を書いた。 「これは森下から聞いたまた聞きの話だけど……美鎖さんの曽祖父が使っていた魔法コードに、 『広告を呼んだ人間が、誰でも意味を理解できるように判読させる紙』というのがあった。 その広告を読めば、漢字の読めない幼児には宣伝がひらがなで書かれてるように見えるし、 江戸時代の難しい書体で書かれた字でも、明朝体で書かれているように見えるらしい。 もしかしたら、この名簿とルールブックにもそういったコードが組まれているのかもしれない。 あたしにはコードを感知する能力がないから何とも言えないけど」 「うーん……そこはぼくも『魔法』を知らないのでよく分からないのですけど」 「名簿を見る限り、明らかに日本人じゃない参加者も多数いる。 日本語に慣れない参加者の為にも、誰でも読める名簿を配った方が便利かと」 「つまり、その『コード』とやらを使えば、外国人にも日本語が通じるんですか。 便利な時代になったんですねぇ」 宗次郎はにこにことしたまま感心している。 これら全ては推測の域を出ないわけだが、一冊の本から分かることはこれぐらいだろう。 嘉穂は『文学少女』をディパックにしまった。 宗次郎が、今度はテニスボールの入った缶を持ち上げ、ひっくり返したりしている。 「テニス……っていうのは、庭球のことですか。変わった形の球を使うんだなぁ」 「いや、ボールが入ってるのはその缶の中だから」 嘉穂は密封された缶の蓋を開けた。テニスボールが3個転がり出てくる。 「球に毛が生えてる……庭球はやったことがないけど、こんな形の球を使うんですね!」 「たぶん、瀬田の時代は違う形のボールが使われていたかと」 嘉穂もそれほど雑学があるわけではないが、明治時代のボールの材質が現代と違うだろうぐらいは分かる。 嘉穂はボールを缶の中に戻し、これもまたディパックに入れた。 この支給品は主催者の言っていた『かわいいハズレ』だろう。 いや、嘉穂は『現代魔法』以外の能力を使う参加者がいると考察しているのだから、 もしかしたら、参加者の中には、テニスラケットとテニスボールで恐竜の群れをも倒せる参加者がいるのかもしれない。 しかし、少なくともそういう用法を使えない嘉穂と宗次郎にとっては完全に『ハズレ』と言える支給品だ。 しかし捨てる理由もない。 そして最後に残ったのは、問題の支給品。 「何だかずっしりした金属ですね。鈍器ですか?」 ローマ数字が刻印された六角形の金属が、宗次郎の手のひらの上にある。 「いや、核金というらしい。説明書がついてる」 嘉穂は説明書を黙読し、宗次郎の手から核金をもらった。 「とりあえず、使用法は叫ぶだけらしい……『武装錬金』!」 ダークブルーの発光と共に、金属の姿が一瞬にして変形した。 嘉穂の手に、六角形の小型の盾がバンドで装着されている。 盾の表面にはダークブルーの液晶画面が埋め込まれ、そこに表示された六角形の網目が座標を形作る。 右手にはいつのまに出現したのか、カラオケの選曲で使うようなタッチペンを握っていた。 「『ヘルメス ドライブ』、という名前のレーダーらしい……」 不思議なことに対する耐性が強い嘉穂でも、これには常識が覆るものを感じざるをえない。 なんせ、瞬間的に変形する金属、そして自動探知レーダーと、指定位置への人間ワープまでこなせるとか。 さすがの宗次郎もこれは驚くかと思いきや、 「『れーだー』ってなんですか……?」 ……そう言えば、最初にレーダーが実用化されたのは二十世紀初頭だったか。 「電気を使って物の居場所を探知する機械のことで……」 『コンピュータ』について教えた時と同様、なるべく分かる範囲で説明した。 ただ、その『仕組み』自体は、説明する内に飲み込むことができた。 二十一世紀初頭の日本に人間をワープさせる技術はない。 魔法使いの美鎖だって急いでいる時も箒を使うぐらいだから、瞬間移動の魔法はないか、あったとしてもとてつもなく高度な魔法だろう。 ……まぁ、既に嘉穂たちはスタート時点でワープを体験しているのだから、今更の話だけれど。 しかし、この『ヘルメス ドライブ』がレーダー、つまり『電気』によって動いているならば、その仕組みは分からなくても、原理は納得できる。 魔法を生みだす仕組み、すなわち『コード』も、平たく言えば『電流』なのだ。 魔法プログラムの組みこまれたコンピュータは電気回線に電流を流すことで魔法を行使し、魔法使いは人体の生態電流を利用して魔法コードを流す。 つまり、電気を介して動く機械――高度なコンピュータが搭載されていればなお良い――は、『魔法』を発動させる基盤たりえるのだ。 この『核金』が嘉穂の知る魔法体系と違うものである可能性は高いが、少なくとも嘉穂の魔法体系でも説明すること自体は可能だろう。 と、説明しながら嘉穂はそこまで理屈づけて理解する。 「つまりこれは、会いたい相手の位置を探してくれるだけでなく、その場所まで瞬間移動させてくれるハイスペックなレーダーらしい」 「はー、便利な時代になったんですねぇ……」 「いや、あたしの時代にもこんなのは普及してないから」 とんでもない超常現象に驚くかと思いきや、宗次郎は本やテニスボールを見た時と大差ない反応だった。 珍しいものを見たというリアクションだが、それが『ありえないものだ』という認識に達していない。 「それ以前に瀬田は、瞬間移動なんてありえないとか思わないわけ?」 「……それは不思議だと思いますけど。でも今までだって、自分で考えて魔法まで使う『こんぴゅーた』とか、特殊な素材の書物とか、不思議なものはいっぱい見ましたよ」 意外な答えだった。 しかし、考えてみれば納得できる答えでもある。 『発達した科学は、既に魔法と区別がつかない』というのはクラーク第三の法則だったか。 嘉穂の時代には当たり前のようにある、コンピュータやインターネットだって、宗次郎の時代の人間からすれば、魔法を使っているようにしか見えないだろう。 その時代の人間の理屈ではありえないものなのだから。 宗次郎にとっては『すべすべした装丁の本』も『人間ワープを可能にする超常の合金』も、どちらも等しく『不思議なもの』なのだ。 そう考えると、宗次郎には見るもの見るもの全てが『理解できないもの』に見えているわけで、もしかして平然と会話ができている彼はすごく大物なのかもしれない。 「移動の距離、回数は創造者の能力、精神力に比例するとある。 能力というのが、単純に戦闘力を差すのか、魔法的素質を差すのかは分からないけれど、一般人には負担がかかる仕様っぽい。 消耗度がどの程度か分からない以上、ひとまずは温存しておくべきかと」 「でも、人の居場所が分かってその場所まで飛べるなら、坂崎さんの知り合いと合流できるか試した方がいいのでは」 「そうしたいのは山々だけど、制限がある。 『実験開始以降に知り合った人間の居場所にしか座標を設定できない』と」 つまり、元からの知り合い――嘉穂の場合のこよみや弓子――の元へ飛ぶことはできないということだ。 「なんでそんな制限をつくったんでしょうね。どのみち他の参加者の居場所へ飛べるなら、便利なことに変わりないのに。 暗殺と襲撃には持ってこいの能力ですよ」 「すぐ質問ができるのは長所だけど、少しは自分で考えてもいいと思われ。そう難しい理由じゃない」 いまいち鈍い割に、すぐにさま『襲撃』のことに考えが及ぶあたり、こんなのでも元暗殺者なんだなぁと思う。 宗次郎はむぅ、と考え、考え、数十秒たってから言った。 「元々の知り合いと強固な仲間を組まれると、戦力のバランスを欠いて、殺し合いには不向きだから、ですか?」 宗次郎が認識できる限界量の角度で、嘉穂は頷いた。 「たいへんよろしい」 「ところで、瀬田の支給品は刀だけ?」 「いいえ、三つもあったんですけど、あとの二つは使い方が分からないんです」 宗次郎はディパックを開けて、ごそごそと中身を取り出した。 まず取り出されたのは、どこにでもあるような『デジタルカメラ』で、そりゃあ使い方は分かるまいと嘉穂は納得し、 続けて、『赤』が、ディパックの中から現れた。 正確に言えば、2リットルペットボトルに入った、毒々しい赤色の液体であった。 そう、それは決して『飲料』ではなく、『液体』と表現すべき、危険信号の『赤』 赤ピーマン? トマト? タバスコ? この世のありとあらゆる『赤』を混合して作り上げたような、混じりけのない危険信号。 そう、その液体の名前は…………………。 ………………『ペナル茶(ティー)』 「――という名前の飲み物らしいことは分かったんですが、どうやって開封すればいいんでしょう」 宗次郎はにこにこしながらも困り顔という器用な表情をした。 つまり、明治時代出身の宗次郎はペットボトルの仕組みが分からずに、四苦八苦したらしい。 「こうやって開ければいい」 嘉穂がネジのようにフタを回す開け方を実演すると、宗次郎は『盲点だった』という顔をした。 「なるほどー。どんな飲み物なんだろう」 どうやら不思議なものを見た宗次郎は、早くも異文化に対する学びの姿勢を持ち始めたようだ。 開封されたペットボトルを受け取り、飲料の匂いをかいで、少し顔をしかめる。 付属の紙コップではなくペットボトルのふたを取り、お猪口に注ぐように、ほんの少しだけ注いだ。 フタを傾け、くぴっと、一口だけ飲む。 ――にこにこ笑顔のまま、ぱたりと倒れた。 「瀬田?」 ――明治最強の暗殺集団の筆頭が、一介の中学生(が作った兵器)に負けた瞬間だった。 嘉穂は青ざめて倒れた宗次郎をしげしげと観察。 ふむ、と一考。 宗次郎を昏倒させた飲料を持ち、ふんふんと子犬のように匂いをかぐ。 無表情な瞳が、微かに熱をもってきらめいた。 なんと、紙コップを取り出し、赤い液体をなみなみとふちまで注ぐ。 そして、起き上がり制止しようとした宗次郎を無視して、 一気飲みでごくっ、ごくっと飲みはじめた。 完全に紙コップを傾け、すなわち完飲すると、「ぷは」と気持ちの良さそうな吐息をして、 「ん。なかなか」 無表情で、しかし、かなりの高評価を述べた。 ――数少ない乾汁愛飲者が、また一人現れた瞬間だった。 宗次郎はしばらくぽかんとしていたが、やがて、嘉穂と地面のペットボトルを見比べ、 「どうぞ」 フタをしめたペットボトルを捧げ持ち、巫女にお神酒を捧げる一般人のように、恭しい手つきで嘉穂に謙譲した。 「ん」 嘉穂は頷き、下賜された飲料をディパックにしまった。 ◆   ◆ 「それで坂崎さん、まずはどこに向かいましょう?」 「あたしたちの元の目的は、『魔法』関係の技術者を探すこと」 「そうでしたね」 「だから、まずは病院。割と近い施設で、人が集まりそうな場所」 「人が集まりそうと言えば、南にある大きな街もそうですよ。街も病院と同じくらい近いです」 「街は『人が訪れそう』なのであって『人が集まりそう』ではないと思われ」 宗次郎は小首をかしげた。 「仮にこの地図の川から北を北部、南側を南部としよう。面積は北部が会場全体の約三分の一、南部が三分の二。 参加者が無作為かつランダムな位置からスタートしたなら、参加者も同じぐらいの割合で北と南に散っていることになる」 「そうですね」 「そして、その南エリアの約半分を街が占めている。街の中には、警察署、公園、デパートなど施設も多い。 だからこそ、南側スタートの参加者は、目指す場所が散ってしまう可能性がある。 逆に、北の施設でめぼしいものは旅館と研究所と病院とコンビニ。 北は森が多いから、北側スタートだとこの中のどれかの施設を当てに進む可能性が高い。 この施設の中だと、病院が休息、治療、物資調達、籠城など多機能に対応している。 わざわざ南の『診療所』と区別しているから、設備豊富で広さもかなりあると思われ。 北から出発した参加者が『集まる』可能性は最も高い」 「なるほど……色々と考えがあるんですね」 「そういうこと。じゃあ、出発しよう」 嘉穂は地図をしまい、代りに核金をディパックから取り出した。 「これは瀬田が持ってて。あたしは戦闘に関しては専門外だから」 「いいんですか? ぼくが寝返った場合、坂崎さんは逃走手段を失いますよ」 「あたしを殺す予定はある?」 「……いえ、少なくとも今のぼくには、坂崎さんは必要な人だと思います」 「よろしい」 「…………でも」 「どうした?」 核金になかなか手を伸ばさない宗次郎に、嘉穂は尋ねた。 「こうやって話を聞いていて、坂崎さんはすごく色んなことを知っていて、頭も良いんだなと思いました」 「それだけが取り柄だから」 「それだけじゃなくて、この殺し合いでは、ずいぶん便利な技術もたくさんあることが分かりました」 「ん」 宗次郎なりに、未知の文明を見て思うところはあったらしい。 ゆっくりと、呟くように話した。 「例えばぼくの『縮地』も、誰でも『瞬間移動』ができるなら、不要な能力になってしまうかもって思ったんです」 『縮地』は武術ではなく仙術の類ではなかったっけ。まぁいいか。 どうやら宗次郎には、かなり己の自信に関わることをつかれたらしい。 「邪魔だった?」 「そうじゃないんです。ぼくは、今まで『強いものだけが生き残れる』と教わって、実際に生きる為に人を殺してきました。 でも、この世界では、強い人間でも、できることは少ないかもしれないと思ったんです。 ……だから、出来ることを探すという目的が、ますます遠くなったような、そんな風に思いました」 こと戦闘に関して無力な嘉穂から言えば、宗次郎の方が十二分に自衛の術に長けているのだが、しかしここでその点を指摘するのも少し違う気がした。 そして、思う。 どうやらこの青年は、戦闘面では頼もしいけれど、精神面ではまだまだ頼りないようだ。 しかし、頼りないからといって手を放そうという気は起こらなかった。 だからかもしれない。『核金』という、逃走手段(生命線)を預けることがあっさりとできたのは。 頭の回転の鈍い森下こよみのように、生温かい目を送りたくはなるが、嘉穂が嫌いなものではない。 「あたしは、さっき瀬田から説明された程度にしか瀬田の人生を知らないから、断定はできないけど……」 嘉穂は逡巡する宗次郎の手に、核金を握らせた。 「厳しいことを言うなら、瀬田はむしろ今まで考えなさすぎたんじゃないかと思われ。 だから、ここで色々と悩むことが増えたのは、逆に良いことなんじゃないかと」 そう、必要な答えは、嘉穂が教えるべきことではなく、宗次郎自身が考えて、体験して決めることだ。 宗次郎は手の中の核金を見つめた。 「緋村さんみたいなことを言いますね」 「あたしの時代は確かに便利な道具が増えたけど、道具を使うのは人間だし、その分人間のスキルが要求される。 そして、スキルを身につける早道は実際に使って慣れること。まずは慣れ」 「はい」 宗次郎はにこにこしたまま、しかし、しっかりと嘉穂の目を見て、核金を握りしめた。 ◆   ◆ 「使い方と言えば」 嘉穂は閃いて、ディパックからデジカメを取り出す。 「瀬田、こっち来て。あたしの隣」 「何をするんですか?」 瀬田は行儀よく、嘉穂に指示された位置――すなわち嘉穂のすぐ隣――に正座した。 「デジカメは一件ハズレ支給品だけど、証拠写真として使うことはできる。 こうやって写真として残しておけば、例えば私たちが離散しても、お互いの知り合いに会った時に話を通しやすくなるかと」 「なるほど!」 嘉穂は、デジカメを星の見える頭上へかかげる。 デジカメのレンズの中に、異なる時代から来た二人の顔が並んだ。 「はい、チーズ」 きゅいん、と電子音の唸り声がシャッターを切った。 【E―4/森の中/一日目深夜】 【坂崎嘉穂@よくわかる現代魔法】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、『文学少女』@“文学少女”シリーズ、テニスボール@テニスの王子様 ペナル茶(残り1800ml)@テニスの王子様、そうじろうのデジカメ@らき☆すた [思考]基本:自分なりの方法で殺し合いに反抗する 1.他の参加者と接触するために病院に向かう。 2.宗次郎と行動を共にする。(少なくとも自分に危害は加えないと判断) 3.一ノ瀬弓子、森下こよみ、姉原聡史郎との合流 4.ゲーリー・ホアン、志々雄真実を警戒。 ※参戦時期は、少なくとも高校二年生時。 ※坂崎嘉穂の考察……“魔女の口づけ”には、自分たちの知る“魔法”と異なる体系の“魔法”が関わっている 【瀬田宗次郎@るろうに剣心】 [状態]健康、舌に刺激臭 [装備]シズの刀@キノの旅 核金No.95 [道具]基本支給品一式 [思考]基本:自分に何ができるのかを探す 1・坂崎さんを手伝う 2・状況次第では緋村さんとも協力 3・志々雄さんに会ったら、どうしようかな… ※京都編終了後からの参戦です。 【核金No.95@武装錬金】 レーダーの武装錬金『ヘルメス ドライブ』。 能力は限定条件下における索敵+瞬間移動で、移動容量は約100キログラム(小柄な人間二人分)。 本編では使われていないが、打撃武器や盾としての用途も兼ね備えている。 このロワでは『元の知り合いの場所へは飛べない』という制限つき。 また、移動距離は使用者の能力に比例する為、一般人には操作が難しくなっている可能性が高い。 【『文学少女』@“文学少女”シリーズ】 現役女子高生作家井上ミウ(井上心葉)の、二作目にして復帰後の第一作品。 厭世的になっていた少年が、“文学少女”を自称する女性と出会い、そして別れるまでの物語。 ヒロインである“文学少女”のモデルは……言わずもがな。 【ペナル茶(ティー)@テニスの王子様】 乾貞治が、ランニングでタイムオーバーした部員への罰ゲームとして考案した特製ドリンク第二弾。 部員想いの乾は疲労回復の効果がある材料ばかりを使っているので……要するにとてつもなく辛い。 実物は↓を参照。 ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm3634153 ちなみに、不二周助の大好物。 |Back:026[[VSキラ―レイビー]]|投下順で読む|Next:028[[Gun with Wing]]| |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|坂崎嘉穂|Next:[[]]| |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|瀬田宗次郎|Next:[[]]|
「武器や防具は持ってるだけじゃ意味ないぞ。ちゃんと装備しないとな」 「刀を持つのと刀を装備するのはどう違うんですか?」 「分からないなら、分からないでいい」 「はぁ」 ◆   ◆ というわけで、支給品の確認である。 ゲームをスタートしたら、まずスタートボタンをプッシュしてメニューを開き、「どうぐ」を確認。 どんなゲームで、どこへ向かい、どういう行動をするにせよ、その確認作業は欠かせない。 そういうわけで、坂崎嘉穂と瀬田宗次郎は互いの支給品を見せ合う作業をしていた。 果たして、嘉穂のディパックから出て来た支給品は三つあった。 「本と、テニスボールと、変な金属」 支給品としては小粒なそれらを、二人はひとつずつ取り上げて検分する。 「すべすべした書物ですねえ」 宗次郎はその本を手に取り、ハードカバーのつやつやした表紙をすべすべと撫でている。 いつもにこにこしているから感情の判別は至難だが、どうやら気に入ったらしい。 嘉穂は、宗次郎が満足するのを待ってから言った。 「瀬田。見せれ」 「はい」 宗次郎が表紙を上にして、両手で持って差し出す。嘉穂は受け取った。 『文学少女』 上品なHGP行書体で印字されたタイトルがまず目に入る。 長い三つ編みの少女の後ろ姿が描かれた表紙が目を引く。 若年層に売り込むことを配慮したのか明るい装丁だが、三つ編みの少女の雰囲気と淡い色調は、可愛らしさよりも清楚さが勝る。 そして帯には、『五百万部突破』とすごいことが書かれている。 出版社の名前は『薫風社』。著者の名前は『井上ミウ』。 「聞いたことのない出版社だ」 「ぼくも聞いたことがありません」 「いや、瀬田が知ってたらむしろおかしいから」 集○社も○談社もない、まだ明六社ができたばかりの時代だ。 「坂崎さんは出版のことに詳しいんですか?」 「いや、それほどでもないけど。でも大手出版社の数は限られているし、五百万部も売れていたら、誰でも聞いたことがあるはずかと」 「この本が『学問のすすめ』の十倍近くも売れてるんですか……すごいなぁ」 「人口や購買層が大きく違うから一概には比べられない」 しかし五百万部とはとんでもない。 日本で一番売れている漫画だって初版発行部数が380万部だというのに。 嘉穂は裏表紙を開いた。 「どこを見ているんですか?」 「この本の奥付。発刊日が数年後になってる」 「印刷の誤植ですか?」 「その可能性もゼロではないけれど……瀬田が明治の時代から来たように、この本も未来の出版物かもしれないということ」 「なるほど。でも何で未来の本を支給品にしたんでしょう」 嘉穂は参加者名簿を取りだした。 「名簿に、井上……しんよう? このは? そういう名前がある。 もしかしたら、この井上ミウという名前は、その参加者のペンネームなのかもしれない」 「つまり、坂崎さんが未来から来ているように、嘉穂さんの時代より未来から来ている人もいるかもしれないと」 「可能性としては。それに、もし参加者の執筆した本なら、何らかの情報はあるかもしれない。 腰を落ちつける場所と時間があれば読んでみようかと」 「奥付の著者紹介を読む限りは、女性のようですが……女性でも本を出せる時代になったんですね」 「まぁ『ミウ』という名前なら女性かと……そう言えば瀬田、名簿は読みにくくなかった?  明治初期と平成じゃ、活字の形も文字の形も全然違うはずだけど」 「そうなんですか? いつも読み書きに使ってるのと同じ、普通の字でしたよ?」 「…………普通に読めた? 例えばこの手塚国光って名前の『国』の字は?」 「こういう字でしたけど」 宗次郎は地面に旧字体の『國』の字を書いた。 「そうくるかよ」 嘉穂は額に指をあてる。 「坂崎さんにはどう見えたんですか」 「あたしの時代ではこういう書き方をする」 嘉穂は新字体の『国』の字を書いた。 「これは森下から聞いたまた聞きの話だけど……美鎖さんの曽祖父が使っていた魔法コードに、 『広告を呼んだ人間が、誰でも意味を理解できるように判読させる紙』というのがあった。 その広告を読めば、漢字の読めない幼児には宣伝がひらがなで書かれてるように見えるし、 江戸時代の難しい書体で書かれた字でも、明朝体で書かれているように見えるらしい。 もしかしたら、この名簿とルールブックにもそういったコードが組まれているのかもしれない。 あたしにはコードを感知する能力がないから何とも言えないけど」 「うーん……そこはぼくも『魔法』を知らないのでよく分からないのですけど」 「名簿を見る限り、明らかに日本人じゃない参加者も多数いる。 日本語に慣れない参加者の為にも、誰でも読める名簿を配った方が便利かと」 「つまり、その『コード』とやらを使えば、外国人にも日本語が通じるんですか。 便利な時代になったんですねぇ」 宗次郎はにこにことしたまま感心している。 これら全ては推測の域を出ないわけだが、一冊の本から分かることはこれぐらいだろう。 嘉穂は『文学少女』をディパックにしまった。 宗次郎が、今度はテニスボールの入った缶を持ち上げ、ひっくり返したりしている。 「テニス……っていうのは、庭球のことですか。変わった形の球を使うんだなぁ」 「いや、ボールが入ってるのはその缶の中だから」 嘉穂は密封された缶の蓋を開けた。テニスボールが3個転がり出てくる。 「球に毛が生えてる……庭球はやったことがないけど、こんな形の球を使うんですね!」 「たぶん、瀬田の時代は違う形のボールが使われていたかと」 嘉穂もそれほど雑学があるわけではないが、明治時代のボールの材質が現代と違うだろうぐらいは分かる。 嘉穂はボールを缶の中に戻し、これもまたディパックに入れた。 この支給品は主催者の言っていた『かわいいハズレ』だろう。 いや、嘉穂は『現代魔法』以外の能力を使う参加者がいると考察しているのだから、 もしかしたら、参加者の中には、テニスラケットとテニスボールで恐竜の群れをも倒せる参加者がいるのかもしれない。 しかし、少なくともそういう用法を使えない嘉穂と宗次郎にとっては完全に『ハズレ』と言える支給品だ。 しかし捨てる理由もない。 そして最後に残ったのは、問題の支給品。 「何だかずっしりした金属ですね。鈍器ですか?」 ローマ数字が刻印された六角形の金属が、宗次郎の手のひらの上にある。 「いや、核金というらしい。説明書がついてる」 嘉穂は説明書を黙読し、宗次郎の手から核金をもらった。 「とりあえず、使用法は叫ぶだけらしい……『武装錬金』!」 ダークブルーの発光と共に、金属の姿が一瞬にして変形した。 嘉穂の手に、六角形の小型の盾がバンドで装着されている。 盾の表面にはダークブルーの液晶画面が埋め込まれ、そこに表示された六角形の網目が座標を形作る。 右手にはいつのまに出現したのか、カラオケの選曲で使うようなタッチペンを握っていた。 「『ヘルメス ドライブ』、という名前のレーダーらしい……」 不思議なことに対する耐性が強い嘉穂でも、これには常識が覆るものを感じざるをえない。 なんせ、瞬間的に変形する金属、そして自動探知レーダーと、指定位置への人間ワープまでこなせるとか。 さすがの宗次郎もこれは驚くかと思いきや、 「『れーだー』ってなんですか……?」 ……そう言えば、最初にレーダーが実用化されたのは二十世紀初頭だったか。 「電気を使って物の居場所を探知する機械のことで……」 『コンピュータ』について教えた時と同様、なるべく分かる範囲で説明した。 ただ、その『仕組み』自体は、説明する内に飲み込むことができた。 二十一世紀初頭の日本に人間をワープさせる技術はない。 魔法使いの美鎖だって急いでいる時も箒を使うぐらいだから、瞬間移動の魔法はないか、あったとしてもとてつもなく高度な魔法だろう。 ……まぁ、既に嘉穂たちはスタート時点でワープを体験しているのだから、今更の話だけれど。 しかし、この『ヘルメス ドライブ』がレーダー、つまり『電気』によって動いているならば、その仕組みは分からなくても、原理は納得できる。 魔法を生みだす仕組み、すなわち『コード』も、平たく言えば『電流』なのだ。 魔法プログラムの組みこまれたコンピュータは電気回線に電流を流すことで魔法を行使し、魔法使いは人体の生態電流を利用して魔法コードを流す。 つまり、電気を介して動く機械――高度なコンピュータが搭載されていればなお良い――は、『魔法』を発動させる基盤たりえるのだ。 この『核金』が嘉穂の知る魔法体系と違うものである可能性は高いが、少なくとも嘉穂の魔法体系でも説明すること自体は可能だろう。 と、説明しながら嘉穂はそこまで理屈づけて理解する。 「つまりこれは、会いたい相手の位置を探してくれるだけでなく、その場所まで瞬間移動させてくれるハイスペックなレーダーらしい」 「はー、便利な時代になったんですねぇ……」 「いや、あたしの時代にもこんなのは普及してないから」 とんでもない超常現象に驚くかと思いきや、宗次郎は本やテニスボールを見た時と大差ない反応だった。 珍しいものを見たというリアクションだが、それが『ありえないものだ』という認識に達していない。 「それ以前に瀬田は、瞬間移動なんてありえないとか思わないわけ?」 「……それは不思議だと思いますけど。でも今までだって、自分で考えて魔法まで使う『こんぴゅーた』とか、特殊な素材の書物とか、不思議なものはいっぱい見ましたよ」 意外な答えだった。 しかし、考えてみれば納得できる答えでもある。 『発達した科学は、既に魔法と区別がつかない』というのはクラーク第三の法則だったか。 嘉穂の時代には当たり前のようにある、コンピュータやインターネットだって、宗次郎の時代の人間からすれば、魔法を使っているようにしか見えないだろう。 その時代の人間の理屈ではありえないものなのだから。 宗次郎にとっては『すべすべした装丁の本』も『人間ワープを可能にする超常の合金』も、どちらも等しく『不思議なもの』なのだ。 そう考えると、宗次郎には見るもの見るもの全てが『理解できないもの』に見えているわけで、もしかして平然と会話ができている彼はすごく大物なのかもしれない。 「移動の距離、回数は創造者の能力、精神力に比例するとある。 能力というのが、単純に戦闘力を差すのか、魔法的素質を差すのかは分からないけれど、一般人には負担がかかる仕様っぽい。 消耗度がどの程度か分からない以上、ひとまずは温存しておくべきかと」 「でも、人の居場所が分かってその場所まで飛べるなら、坂崎さんの知り合いと合流できるか試した方がいいのでは」 「そうしたいのは山々だけど、制限がある。 『実験開始以降に知り合った人間の居場所にしか座標を設定できない』と」 つまり、元からの知り合い――嘉穂の場合のこよみや弓子――の元へ飛ぶことはできないということだ。 「なんでそんな制限をつくったんでしょうね。どのみち他の参加者の居場所へ飛べるなら、便利なことに変わりないのに。 暗殺と襲撃には持ってこいの能力ですよ」 「すぐ質問ができるのは長所だけど、少しは自分で考えてもいいと思われ。そう難しい理由じゃない」 いまいち鈍い割に、すぐにさま『襲撃』のことに考えが及ぶあたり、こんなのでも元暗殺者なんだなぁと思う。 宗次郎はむぅ、と考え、考え、数十秒たってから言った。 「元々の知り合いと強固な仲間を組まれると、戦力のバランスを欠いて、殺し合いには不向きだから、ですか?」 宗次郎が認識できる限界量の角度で、嘉穂は頷いた。 「たいへんよろしい」 「ところで、瀬田の支給品は刀だけ?」 「いいえ、三つもあったんですけど、あとの二つは使い方が分からないんです」 宗次郎はディパックを開けて、ごそごそと中身を取り出した。 まず取り出されたのは、どこにでもあるような『デジタルカメラ』で、そりゃあ使い方は分かるまいと嘉穂は納得し、 続けて、『赤』が、ディパックの中から現れた。 正確に言えば、2リットルペットボトルに入った、毒々しい赤色の液体であった。 そう、それは決して『飲料』ではなく、『液体』と表現すべき、危険信号の『赤』 赤ピーマン? トマト? タバスコ? この世のありとあらゆる『赤』を混合して作り上げたような、混じりけのない危険信号。 そう、その液体の名前は…………………。 ………………『ペナル茶(ティー)』 「――という名前の飲み物らしいことは分かったんですが、どうやって開封すればいいんでしょう」 宗次郎はにこにこしながらも困り顔という器用な表情をした。 つまり、明治時代出身の宗次郎はペットボトルの仕組みが分からずに、四苦八苦したらしい。 「こうやって開ければいい」 嘉穂がネジのようにフタを回す開け方を実演すると、宗次郎は『盲点だった』という顔をした。 「なるほどー。どんな飲み物なんだろう」 どうやら不思議なものを見た宗次郎は、早くも異文化に対する学びの姿勢を持ち始めたようだ。 開封されたペットボトルを受け取り、飲料の匂いをかいで、少し顔をしかめる。 付属の紙コップではなくペットボトルのふたを取り、お猪口に注ぐように、ほんの少しだけ注いだ。 フタを傾け、くぴっと、一口だけ飲む。 ――にこにこ笑顔のまま、ぱたりと倒れた。 「瀬田?」 ――明治最強の暗殺集団の筆頭が、一介の中学生(が作った兵器)に負けた瞬間だった。 嘉穂は青ざめて倒れた宗次郎をしげしげと観察。 ふむ、と一考。 宗次郎を昏倒させた飲料を持ち、ふんふんと子犬のように匂いをかぐ。 無表情な瞳が、微かに熱をもってきらめいた。 なんと、紙コップを取り出し、赤い液体をなみなみとふちまで注ぐ。 そして、起き上がり制止しようとした宗次郎を無視して、 一気飲みでごくっ、ごくっと飲みはじめた。 完全に紙コップを傾け、すなわち完飲すると、「ぷは」と気持ちの良さそうな吐息をして、 「ん。なかなか」 無表情で、しかし、かなりの高評価を述べた。 ――数少ない乾汁愛飲者が、また一人現れた瞬間だった。 宗次郎はしばらくぽかんとしていたが、やがて、嘉穂と地面のペットボトルを見比べ、 「どうぞ」 フタをしめたペットボトルを捧げ持ち、巫女にお神酒を捧げる一般人のように、恭しい手つきで嘉穂に謙譲した。 「ん」 嘉穂は頷き、下賜された飲料をディパックにしまった。 ◆   ◆ 「それで坂崎さん、まずはどこに向かいましょう?」 「あたしたちの元の目的は、『魔法』関係の技術者を探すこと」 「そうでしたね」 「だから、まずは病院。割と近い施設で、人が集まりそうな場所」 「人が集まりそうと言えば、南にある大きな街もそうですよ。街も病院と同じくらい近いです」 「街は『人が訪れそう』なのであって『人が集まりそう』ではないと思われ」 宗次郎は小首をかしげた。 「仮にこの地図の川から北を北部、南側を南部としよう。面積は北部が会場全体の約三分の一、南部が三分の二。 参加者が無作為かつランダムな位置からスタートしたなら、参加者も同じぐらいの割合で北と南に散っていることになる」 「そうですね」 「そして、その南エリアの約半分を街が占めている。街の中には、警察署、公園、デパートなど施設も多い。 だからこそ、南側スタートの参加者は、目指す場所が散ってしまう可能性がある。 逆に、北の施設でめぼしいものは旅館と研究所と病院とコンビニ。 北は森が多いから、北側スタートだとこの中のどれかの施設を当てに進む可能性が高い。 この施設の中だと、病院が休息、治療、物資調達、籠城など多機能に対応している。 わざわざ南の『診療所』と区別しているから、設備豊富で広さもかなりあると思われ。 北から出発した参加者が『集まる』可能性は最も高い」 「なるほど……色々と考えがあるんですね」 「そういうこと。じゃあ、出発しよう」 嘉穂は地図をしまい、代りに核金をディパックから取り出した。 「これは瀬田が持ってて。あたしは戦闘に関しては専門外だから」 「いいんですか? ぼくが寝返った場合、坂崎さんは逃走手段を失いますよ」 「あたしを殺す予定はある?」 「……いえ、少なくとも今のぼくには、坂崎さんは必要な人だと思います」 「よろしい」 「…………でも」 「どうした?」 核金になかなか手を伸ばさない宗次郎に、嘉穂は尋ねた。 「こうやって話を聞いていて、坂崎さんはすごく色んなことを知っていて、頭も良いんだなと思いました」 「それだけが取り柄だから」 「それだけじゃなくて、この殺し合いでは、ずいぶん便利な技術もたくさんあることが分かりました」 「ん」 宗次郎なりに、未知の文明を見て思うところはあったらしい。 ゆっくりと、呟くように話した。 「例えばぼくの『縮地』も、誰でも『瞬間移動』ができるなら、不要な能力になってしまうかもって思ったんです」 『縮地』は武術ではなく仙術の類ではなかったっけ。まぁいいか。 どうやら宗次郎には、かなり己の自信に関わることをつかれたらしい。 「邪魔だった?」 「そうじゃないんです。ぼくは、今まで『強いものだけが生き残れる』と教わって、実際に生きる為に人を殺してきました。 でも、この世界では、強い人間でも、できることは少ないかもしれないと思ったんです。 ……だから、出来ることを探すという目的が、ますます遠くなったような、そんな風に思いました」 こと戦闘に関して無力な嘉穂から言えば、宗次郎の方が十二分に自衛の術に長けているのだが、しかしここでその点を指摘するのも少し違う気がした。 そして、思う。 どうやらこの青年は、戦闘面では頼もしいけれど、精神面ではまだまだ頼りないようだ。 しかし、頼りないからといって手を放そうという気は起こらなかった。 だからかもしれない。『核金』という、逃走手段(生命線)を預けることがあっさりとできたのは。 頭の回転の鈍い森下こよみのように、生温かい目を送りたくはなるが、嘉穂が嫌いなものではない。 「あたしは、さっき瀬田から説明された程度にしか瀬田の人生を知らないから、断定はできないけど……」 嘉穂は逡巡する宗次郎の手に、核金を握らせた。 「厳しいことを言うなら、瀬田はむしろ今まで考えなさすぎたんじゃないかと思われ。 だから、ここで色々と悩むことが増えたのは、逆に良いことなんじゃないかと」 そう、必要な答えは、嘉穂が教えるべきことではなく、宗次郎自身が考えて、体験して決めることだ。 宗次郎は手の中の核金を見つめた。 「緋村さんみたいなことを言いますね」 「あたしの時代は確かに便利な道具が増えたけど、道具を使うのは人間だし、その分人間のスキルが要求される。 そして、スキルを身につける早道は実際に使って慣れること。まずは慣れ」 「はい」 宗次郎はにこにこしたまま、しかし、しっかりと嘉穂の目を見て、核金を握りしめた。 ◆   ◆ 「使い方と言えば」 嘉穂は閃いて、ディパックからデジカメを取り出す。 「瀬田、こっち来て。あたしの隣」 「何をするんですか?」 瀬田は行儀よく、嘉穂に指示された位置――すなわち嘉穂のすぐ隣――に正座した。 「デジカメは一件ハズレ支給品だけど、証拠写真として使うことはできる。 こうやって写真として残しておけば、例えば私たちが離散しても、お互いの知り合いに会った時に話を通しやすくなるかと」 「なるほど!」 嘉穂は、デジカメを星の見える頭上へかかげる。 デジカメのレンズの中に、異なる時代から来た二人の顔が並んだ。 「はい、チーズ」 きゅいん、と電子音の唸り声がシャッターを切った。 【E―4/森の中/一日目深夜】 【坂崎嘉穂@よくわかる現代魔法】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、『文学少女』@“文学少女”シリーズ、テニスボール@テニスの王子様 ペナル茶(残り1800ml)@テニスの王子様、そうじろうのデジカメ@らき☆すた [思考]基本:自分なりの方法で殺し合いに反抗する 1.他の参加者と接触するために病院に向かう。 2.宗次郎と行動を共にする。(少なくとも自分に危害は加えないと判断) 3.一ノ瀬弓子、森下こよみ、姉原聡史郎との合流 4.ゲーリー・ホアン、志々雄真実を警戒。 ※参戦時期は、少なくとも高校二年生時。 ※坂崎嘉穂の考察……“魔女の口づけ”には、自分たちの知る“魔法”と異なる体系の“魔法”が関わっている 【瀬田宗次郎@るろうに剣心】 [状態]健康、舌に刺激臭 [装備]シズの刀@キノの旅 核金No.95 [道具]基本支給品一式 [思考]基本:自分に何ができるのかを探す 1・坂崎さんを手伝う 2・状況次第では緋村さんとも協力 3・志々雄さんに会ったら、どうしようかな… ※京都編終了後からの参戦です。 【核金No.95@武装錬金】 レーダーの武装錬金『ヘルメス ドライブ』。 能力は限定条件下における索敵+瞬間移動で、移動容量は約100キログラム(小柄な人間二人分)。 本編では使われていないが、打撃武器や盾としての用途も兼ね備えている。 このロワでは『元の知り合いの場所へは飛べない』という制限つき。 また、移動距離は使用者の能力に比例する為、一般人には操作が難しくなっている可能性が高い。 【『文学少女』@“文学少女”シリーズ】 現役女子高生作家井上ミウ(井上心葉)の、二作目にして復帰後の第一作品。 厭世的になっていた少年が、“文学少女”を自称する女性と出会い、そして別れるまでの物語。 ヒロインである“文学少女”のモデルは……言わずもがな。 【ペナル茶(ティー)@テニスの王子様】 乾貞治が、ランニングでタイムオーバーした部員への罰ゲームとして考案した特製ドリンク第二弾。 部員想いの乾は疲労回復の効果がある材料ばかりを使っているので……要するにとてつもなく辛い。 実物は↓を参照。 ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm3634153 ちなみに、不二周助の大好物。 |Back:026[[VSキラ―レイビー]]|投下順で読む|Next:028[[Gun with Wing]]| |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|坂崎嘉穂|Next:[[Open Death Trap]]| |Back:011[[あなたならどうしますか?]]|瀬田宗次郎|Next:[[Open Death Trap]]|

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