暗い海上を、クルーザーでゆっくり進んでいく。
運転手は無免の素人、スピードを出し過ぎるのは怖い。
第一、スピードを出し過ぎてエリアから飛び出ても困る。
「クルーザーの運転なんてよく出来るわね…」
「いや、免許も何も無いけど?なんとなくで操縦してる」
「…え?」
「何だよ、そこまで露骨に嫌そうな声出す事ねえだろ」
誰だって、運転手が無免許だと分かれば途端に怖くなる。
例え、本人が大丈夫だと言っていても、だ。
「なんだか、急に空恐ろしくなってきたわ」
「…だ、大丈夫だよ!今んとこ上手く行ってるし」
確かに今の所は上手く行っている…。
今の所は。
だが、いつ事故を起こしたり故障したりするか分からない。
しかし、自分もクルーザーの操縦なんてできない。
今は、剛に任せるしか無い。
(…そういえば、あのガラクタの中に、「爆弾」とか言うのがあったわね…)
ガラクタ袋の中から、小さなジュラルミンのケースを取り出す。
ケースの隅に、「爆弾」と掘られている。
…怪しい。
ケースを開けてみるが、中にあるのは日用品と小さな紙。
どう見ても、爆弾にはなりそうにない。
「やっぱりガラクタ…でも、一応組み立ててみても良いわね」
◇
「よし、ここにでも停めるか…」
「…あそこにあるのは病院みたいね」
病院近くの小さな岸にクルーザーを停泊させる。
あくまでただの岸なので、停泊用のスペースなんてない。
仕方無く、ちょっと沖合に停める事になってしまった。
「…おい、行かないのか?」
「ちょっと待って…もう少しで出来るから」
「何作ってるんだ?呑気に工作なんてやってる場合じゃないだろ」
「…よし、できた。でも、こんな物が本当に爆発するのかしら」
試しに、起動させた後にビニール袋に入れて、沖の方に放り投げる。
綺麗な放物線を描きながら、袋に入った「爆弾」が飛んで行く。
「結構遠くまで行ったな」
心の中で10カウント数える。
5…4…3…2…1…。
カウントが0になると同時に、爆弾の落下した当たりに爆発が起こる。
眩い閃光と、大きな爆音。
「…おいおいおいおい!本物じゃねえか!マジかよ!!」
「作った私自身びっくりよ。あのケースに入ってたのって、ただの日用品だったし」
「本当に日用品だったのか…?」
クルーザー内に入り、机に出しっ放しのケースを見る。
…間違いなく、普通に店などで買えるような日用品だ。
一体、どうやれば爆弾になるのか、見当も付かない。
「…訳分からん。まあ、武器になるならいいか…」
◇
ドーン…と爆発音がどこかから聞こえてくる。
すかさず窓の外を見る。
…西の方で爆発があったようだ。
とは言え、ここから西と言うと海に繋がっている川があるはず。
川の上で爆発があったのか…?
「…確認する必要があるわね」
辺りを警戒しながら病室を出て、階段を降りる。
1階に降りると、血の臭いがまた鼻をつく。
自分からすると、さして珍しい物でもないが。
「さて…西の方だったわね…」
入り口は北と、西の方に急患用の入り口がある。
やはり、西を調べるなら西から出た方が都合がいい。
「…さて、西に何があるのかしら?」
◇
「…結局材料を使い切って、3つ爆弾ができた訳で」
「3つも作って、どうするのよ」
「何かの役には立つだろう、さてどうする?上陸して、病院を見て回るか?」
「いいわね、役に立つ物もありそうだし」
甲板に出て、病院に入るかどうか話し合う。
足元に、手製の爆弾を転がしたまま。
起動させてはいないので、爆発しないが。
「水ん中通っていくしかないな、濡れるけど我慢しろよ」
「仕方無いわね、我慢するわ」
水上に降りようとした時。
病院方面から、女が近づいてくる。
手には、何かを握っている。
「おい、そこにいるのはだれだ?ゲームに乗ってるなら、それ以上近づいてこないでくれよ」
「わざわざ聞かなくても、懐中電灯を使えばいいじゃない」
そう言ってデイパックから懐中電灯を取り出し、ライトを付けて相手に向ける。
右肩辺りに包帯を巻いている。
負傷したのだろう。
そして…手には、サバイバルナイフらしき物を握っている。
「…やっぱりゲームに乗ってるっぽいな。船を出して逃げよう」
「分かったわ!」
運転席に飛び込む。その間にも、敵はこちらに近づいてくる。
水中を歩いているお陰でスピードが遅いのが救いか。
「くっ…早く、早くかかれ!」
焦っているせいか、エンジンがなかなかかからない。
(早く早く早く!早く!)
いくら焦ってもキーは空回りするだけだ。
落ち着こうにも、そんな暇は無い。
「きゃあっ!」
甲板で、忍の悲鳴が聞こえる。
「!!」
反射的に運転席を飛び出し、甲板へ出る。
そのまま上がってくる女を体当たりで水中に叩き落とす。
勢いが付き過ぎて自分も一緒に落下する。
「ゴボッ…よくもやってくれたわね」
「へっ、よく言うぜ。俺達を殺す気でこっちに来たんだろ?」
「仲よくするために近づいたとでも思って――!?」
言い終わる前に、剛の拳が女の顔面にヒットしていた。
鼻の骨が折れたようで、鼻血を出しながら倒れた。
「質問に質問で返せって、誰が言った!!」
(えっ、怒るのはそっち!?)
妙な方向に怒ることに心の中でツッコミを入れる。
…今はそんな事を言っている場合では無い。
殴り倒された女が、憤怒の表情を浮かべ起き上がってくる。
「よくも…やってくれたわね…」
「元はと言えばそっちが悪いんだろ、正当防衛とでも言っておくか」
「絶対…許さないわよ…」
殺気を剥き出しにし、こちらを睨み付けてくる。
「うっ…」
思わず体が委縮する。
その視線が、まさしく獣のそれだったからだ。
「…隙だらけよ!」
水中を歩いているにも関わらず、素早い動きで剛に襲い掛かる。
未だ眼光にビビって、身動きがとれない。
「あぐっ…」
ナイフが、柄の部分まで腹に突き刺さった。
刺さった部分が、焼けるように熱い。
まるで、傷口に焼けた鉄棒でも突っ込まれているようだ。
汗が滝のように流れる。
「…クソッタレが!!」
僅かな力を振り絞り、女の首に手をかけ、絞め上げる。
自分でも驚くほどの力で絞め上げている。
これが、火事場のバカ力とか言う物だろうか?
「苦…し…放し…」
何か言っているが、耳に入って来ない。
そして、掌に厭な感覚が伝わってきた後、女は力無く崩れ落ちた。
絞め過ぎて首の骨が折れたのだろう。
首が異常な方向に捻じ曲がっている。
「まさか、この俺が人を殺めるとはな…流石に、過剰防衛か?」
再度腹の痛みが襲ってくる。
見る所出血は致死量ギリギリか…。
周りの水が、血で染まっている。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
「流石に、もう無理だから。こう言うのは自分が良く分かるんだよ」
もう、忍の顔も良く見えない。
こんな下らねえ場所で死ぬなんて不本意すぎるが、仕方が無い。
これも、きっと運命だったのだろう。
「…お前の…事…ゴリラなんて…言って…悪…か…た…」
思いを最後まで伝える事無く、剛は力尽きた。
その顔は、苦しみとは無縁の表情だった。
◇
「…。」
剛の遺体を陸にあげ、草地の上に安置する。
今は、ゆっくり墓を作ってあげることもできない。
(もし、私が生きて帰れたなら…きっと、貴方を弔う)
涙をぬぐい、決意の籠る目をして、クルーザーへ戻って行った。
【一日目・深夜/C-4:岸】
【大岩忍@
オリジナル】
[状態]:健康
[所持品]:支給品一式、ガラクタ袋@ロアシリーズ、日用品爆弾×3
[思考・行動]
基本:必ず、このゲームから脱出する。
1:…。
【緑川美紗子@オリジナル 死亡】
死因:頸椎骨折
【白川剛@オリジナル 死亡】
死因:失血死
最終更新:2011年06月27日 23:04