フェンスの外

突然爆発したハムスターの首が宙を舞う。説明を受けている途中でなんとなく予想できた事ではあったが、
やはり、実際にハムスターが自らを犠牲にしてまでルール説明に徹するというのは、なかなかショッキングな映像である。
マイケルは顔を歪め、口を抑える。このハムスターは、このゲームは、異常、狂っている。

マイケルは吐き気を抑えつつ、腹立ちまぎれに地面に落ちていた石ころを思い切り蹴飛ばした。
刑務所を脱獄し、第二の計画に則り、警察やFBIから逃げ切り、兄と共に漸く自由と平和を手にする。
あともう一歩のところだった。それがいつの間にやら、知らない間に、こんな得体の知れないテーマパークで寝かされて──


マイケルは頭を掻き毟り、思考を切り替える。爆発があったのはここだけではない。
20の参加者、全てに同じような説明役がつき、全てが爆死したのだろう。
近くからも爆発音は聞こえてきた。と、いう事は、自分の説明役が放った爆音も何者かに聞かれているという事だ。
一時的であるとはいえ、互いが互いの居場所をおぼろげながら把握している、というのが今の状況。
殺し合いに乗る殺戮者が一人も出ないとは考えにくい。他の参加者とは慎重に接触するべきだろう。
このままでは間違いなくまずい。

マイケルはデイパックを背負い、ハムスターの死体から離れるため、駆け出す。
最低限の注意を払いつつ、近くにある植え込みの陰に隠れる。
背後にはコンクリートの壁があり、さらにその上にはフェンスが張り巡らされていた。
どうやらここは遊園地の端らしい。説明によると、あのフェンスには高圧電流が流されていて、脱出できないらしいが……

「……クソッ! 兄貴まで……!」

デイパックから取り出した名簿を見て、マイケルはさらなる怒りを覚えた。
自分のみならず、兄、リンカーン・バローズまでこの殺し合いに参加させられている。
知り合いは兄だけではなかった。刑務所でのマイケルの同房者、フェルナンド・スクレ、凶悪なレイプ魔殺人鬼ティーバック
『チクリ』のトゥイナー、傲慢で性質の悪い看守長ブラッド・ベリック、
二、三度顔を合わせただけで頭が切れる、という以外にどんな人物かは分からないが、FBIのマホーン捜査官までいる。
19人中7人がマイケルと接点がある者達……

思い出せ……何故、どうしてこんな事に巻き込まれてしまった?
兄貴と逃亡している間、いつ、どこで……誰かに攫われてしまったのか?

何故、いつ、どこで、どのように拉致られたか。どうしてこんな事に巻き込まれたのか。
いくら考えても分からない。思い当たる節などマイケルにはなかった。
気づいたらこの趣味の悪いテーマパークに寝かされていたのである。

思考を切り替え、マイケルは現在地を把握するため、地図を注視する。
少し離れたところに、のっぺりとした壁の、特徴の薄い建物が見えた。
地図に照らし合わせて見たところ、あれは催し物館だ。
すぐそばにフェンスがあるから、自分は『館』のエリアの西の端に居るという事になる。

次にデイパックからランダム支給品とやらを取り出してみる。
出てきたのは充分に人を殺傷出来るであろうサバイバルナイフ、そして2個の手榴弾だった。
これは当たりの部類に入るのだろうか……
マイケルはナイフをズボンのポケットに装備し、手榴弾1個をもう片方のポケットに突っ込んだ。

まず……何よりも優先すべきは、兄貴と合流する事だ。
そして、ここから脱出。フォックスリバー刑務所の時とは違い、俺はこのテーマパークがどんな風に隔離されているかまるで知らない。
説明役の警告から考えて、あくまで客観的に見れば────このテーマパークから脱出出来るはずがない。
殺し合いを強要するような連中だ。何から何までがんじがらめに固めてきているはずだろう。
だが、だが『脱出できない』で済まされるわけがない。パナマの海で兄貴とサーフィンの店を開くまで、俺は死ぬわけにはいかない。

マイケルは植え込みの陰から立ち上がり、慎重にフェンスを目指し歩行する。
コンクリートの壁はそれほど高くはない。フェンスから外を覗くのは十分、可能だ。
覗くくらいで首輪を爆発させられるとは思えない。説明役の様子から推測して、連中はこのゲームが盛り上がる事を願っている節がある。
なるべく、首輪は爆破したくないはず。フェンスから覗くくらいなら……まだまだ許容範囲だ。

唯一、唯一運がいいのは、このスタート地点である。テーマパークの外の様子が見られるマップの端。
ここがスタート地点というのは僥倖。

目を凝らし、背伸びをしてフェンスから外を覗く。周りへの警戒は怠らない。
勿論、フェンスの外から何かが飛んでくるか分からないので、そちらへの警戒も忘れない。

「…………!」

フェンスの外は完全な闇だった……数メートル先は何も見えない。
どうする?懐中電灯で照らすか?そうすれば外の様子が分かるが、しかし、リスクもでかい。
懐中電灯を使う事は、他の参加者に自分の居場所を教えるようなものだ。朝にまたここに来るか?
……駄目だ。いつ死ぬかもわからないゲーム……リスクの先送りは命に関わる……。
それに朝になると何かの障害物をフェンスの前に置かれるかもしれない。
フェンスの外を調べられるのはゲーム主催者にとって、やはりどちらかというと気分がいいものではないだろう……

「…………よし……!」

デイパックから懐中電灯を取り出す。光が拡散しないように、デイパックでせめてもの壁を作る。

この殺し合い……リスクを恐れていては何も始まらない。
次の瞬間には死んでいるかもしれない戦い……やらなくてはならない事は、出来る時にやっておかなければならない。
リスクの先送りは……死だ……!!

マイケルは懐中電灯のスイッチを入れる。フェンスの外に向かって光が放たれ、明るく照らす。

「…………これは……」

『外』の様子を見た瞬間、マイケルの表情は歪んだ。

おぼろげだが、テーマパーク内へ拡散する懐中電灯の光。
情報を得るために払ったリスクは、マイケルの命を奪うほどの重さなのだろうか……

【『館』の西方/0時~1時】
【マイケル・スコフィールド@プリズンブレイク】
[状態]:健康、動揺
[装備]:サバイバルナイフ、手榴弾1個
[デイパックの中身]:支給品一式、手榴弾1個
[思考・状況]
1、兄貴(リンカーン・バローズ)と合流したい。出来ればスクレとも
2、遊園地から脱出する
※フェンスから何かを見た

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最終更新:2011年07月26日 21:18
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