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失うことから全てが始まる

「……あいつが……」
「……くっ」

放送が終わっても、愕然とした気持ちが抜けない。
まさか、後輩が殺されるとは……自分のお守りで、ノコギリ男に殺されずに済んだと言うのに。
こんな、下らない実験なんかで、命を落としてしまうなんて。一体、何故こんなことに?
どうして、何の罪も無い人間が、殺されなければならないのだろうか。

(……なおさら、この実験を壊す気になってきたぜ)

良く知る人間の死。
その事実は、自分の主催者への怒りの炎を大きくするには、十分すぎるほどだった。
しかし、ここで我を忘れる程怒るのは、何の意味も持たない。そこまで、自分は愚かではない。
どれだけ悲しんでも悔やんでも、死んでしまった人間は、もう生き返らない。こればかりは、どうしようもない。
しかし、悲しい気持ちだけはどうしようもない。こればかりは、いくら自分でも、割り切る事は出来ない。

(……表情から察するに、もう1人の俺も同じようなことを考えているようだな)

やっぱり、自分が考えつきそうな事は、もう1人の俺も考えると言う事なのだろうか?
2人に増えたとはいえ、やはり自分は自分。同じ人物なのだから、考えが似てくるのも不思議では無い。

(後輩……お前の無念、俺は無駄にはしない……)

これ以上、落ち込んでいて2人に迷惑をかけても、いいことは1つもないだろう。
自分がやるべき事は、1秒でも早くこの実験を壊す事だ。こんな下らない物のせいで命を落とした、後輩のためにも。


……しかし、現時点では、実験を壊すに至る力や奴の所に辿り着く方法が、何一つないのだ。
特に、自身の首に取り付けられている、忌わしい首輪をどうにかしなければ。これがある限り、どうしようもない。
あの最初の実演で、遠隔操作でこの首輪を爆破する事ができる、と言う事だけが、唯一分かっている事実だ。
つまり、あっち側にとって都合の悪いことが起こると、すぐに参加者を殺害することが出来ると言う訳だ。


(待てよ……?こっちの動きが分かると言う事は、奴らには、こちらを監視する手段があると言う事だ……)


こちらの動きが分かるような物。隠しカメラや、小型マイクのような物なのだろうか?それとも、何か別の物?
その「何か」が一体何なのか分からないが、こちらの動きを知ることのできる物が仕掛けられているのだろう。
やはり、首輪を外すことは必須だ。実験を破壊するには、避けては通れない。


しかし、前にも言ったが、現時点では首輪を解除することはできない。それを言葉にするだけでも危険だ。
紙に書いて伝える方法もあるが、もしカメラのような物があったら、このことを奴らに知られてしまう。
伝えたいのに、伝える事ができない。このもどかしさ、どうすればいいのだろうか?

(こればかりは、もう1人の俺も考えついているかどうか……俺と違う結論を出しているかもしれないが)
「……Tさん、大丈夫ですか?さっきから、ずっと黙ったままですけど」
「あ……ああ、別に何でも……道具も手に入れたし、そろそろ病院を出るか」
「ああ、そうしよう」

道具を入れたデイパックを背負い、全員が立ち上がったのを確認してナースステーションから出る。
通路は、来た時と同じくひんやりとしていて人気がない。所々、非常灯が辺りを照らしているだけだ。
病院独特の薬品のような臭いと、ひんやりとした空気が、鼻をつく。やはり、病院は何となく妙な感じだ。
しかし、出ようとは言ったものの、何処に行くかなんて決めていなかった。我ながら、無責任だと思う。

(ま、ここでじっとしているよりいいか……)

その時、僅かだが殺気を感じた。どこから発せられているのか確かめようにも、よく分からない。
とにかく、殺気を感じた以上、一瞬たりとも油断はできない。いつ、どこから敵が飛び出してくるか分からないのだ。
廊下の曲がり角の影から飛び出してくるかもしれないし、近くの病室から飛び出してくる可能性もある。

(……感じてるか?お前も)
(ああ……どこか分からないが)
(え?感じてるって、何を……)

やはり、今の状況をイマイチ把握出来ていないようだ。何の変哲も無い普通の一般人なのだ、無理もない。
ここは、無理に自分たちの傍にいさせるより、隠れさせといた方がいいかもしれない。

(ナースステーションに隠れていろ。俺達がいいと言うまで、出てくるんじゃない)
(……分かりました)

xzがちゃんと隠れたのを確認した後、もう1人の俺と背中合わせになって臨戦体勢を取る。
自分が非常口の方向、もう1人の俺が階段方面。こうすれば、何処から来ても必ずどちらかが迎撃出来る。
もし気づくのが遅れても、もう片方がカバーすることだって出来る。無論、絶対ではないが。

(どこから来るんだ……罠、ってことはないだろうが)
(ああ……殺意を出す罠なんて、聞いたことがない)

しかし、いくら待っても、敵は一向に現れない。
このまま待っていても、埒があかないのではないか……。そう思いだした所だった。
こちらの方を向き直して、もう1人の俺が話しかけてきた。

「……どうする?このままじゃ、埒があかないぞ」
「ああ……やはり、注意しながら非常口を通って外に……」

その時だった。
階段方面……つまり、もう1人の俺がさっきまで向いていた方。
その曲がり角から、人が飛び出してきた。……銃らしき物を、構えながら。

「……危ねえ!!」
「うおっ!?」

反射的にもう1人の俺を壁方面に突き飛ばし、自身は相手に向けて光弾を撃つ。
……光弾が、相手の持つ銃を弾き飛ばしたのと同時に、自身の体を何か熱い物が貫通して行く。
間違い無い――銃弾を、モロに食らってしまったようだ。銃弾が発射される前に、銃を弾き飛ばせなかった。

「うぐっ……」
「大丈夫かっ!?」
「俺の事はいい!あいつを……」
「あいつはお前の光弾にビビって逃げた!しっかりしろ!」
「ああ……そうか……」

敵は逃げ出した。
それなら、もう大丈夫だ。もう、襲われることはない……。

「何があったんですか……!!」
「……出て来るなと言っただろう!!」

2人の声が、何だか聞き取りづらい。意識が、確実に遠のいている。このままでは、死ぬだろう。
だが、自分の傷を今の状況で治療するのは、不可能だろう。設備はあるが、技術がないからだ。
もう1人の自分も、xzにも、医術の心得はないだろう。あったとしても、もう間に合いそうにない。
全身にある銃創からは、既に大量の血が失われている。傷も、多分酷い物だろう。

「…………うぐ」
「動くんじゃない、出血が酷くなるだろ!」
「いいや……もう、無理だ……」

どこにどれくらいのダメージを負っているのかまでは分からないが、到底治療出来ない程の傷を負っている。
前にも思ったとおり、2人では治せないだろう。

「……最期に、1つ……首輪に、は……」
「首輪……?首輪が、どうしたんだ!?」

どうせ死ぬなら、と思い首輪の事を話そうにも、もう声を出す力も残っていない。もう少しなのに……。
「首輪には爆発物以外の何かがある」と、伝えておきたいのに。
意識の最後のひと欠片に、必死でしがみついてはいるが、もう掴まっていられそうにない。

(……………親父……………俺……………何も、出来ずに…………)

そして、かろうじて掴まっていた意識も、塵となって消えた。

【Tさん@オカルト(Tさんシリーズ) 死亡】
死因:射殺






吹原和彦は、走っていた。暗い病院の1Fを、ただ走って逃げていた。
双子みたいな男の片方を倒したと思ったら、もう片方が妙な物を当てて来て、銃を落としてしまった。
銃を回収してから逃げたかったが、そんなことをしていたら今度はあの光の弾を直接当てられてしまう。
あれが一体何なのかは分からないが、とにかく当たるとマズいと言うことだけは分かった。

(前に殺した男の銃を回収しておいてよかった……)

今度の銃は、さっきとは違って拳銃のような形状をしている。
さっきの物とは違って、連射が効かないタイプだろう。連射が効かないのは気に入らないが仕方無い。
それでも、武器があるだけ、まだいい。武器が無かったら、自分は終わりだ。
参加者を全員殺す。それが、自分の目標だからだ。そのためにも、武器は失えない。

(……絶対に、生き残るんだ。そして、来美子さんを救うんだ)


【一日目・黎明/E-6:病院・1F】
【吹原和彦@クロノス・ジョウンターの伝説】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP99(15/15)
[所持品]:支給品一式、不明支給品×1、イングラムのマガジン×3、P99マガジン×3
      ボロボロのお守り@オカルト(Tさんシリーズ)
[思考・行動]
基本:最後まで生き残って、来美子さんを救う。
1:今は、病院から離れる
2:絶対に、来美子さんを救うんだ








「おい……しっかりしろ!おい!」

もう1人のTさんが必死に呼びかけてはいるが、もう顔からは生気が全く感じられない。
――目の前が、真っ暗になっていく……Tさんが、死んだ。
何故、Tさんが殺されなければならないのか?
どうして、Tさんが死ななければならないのか?
一体、何でこんなことになっているのか?

「……くそっ!!」
(――どうして、こんなことに)

頭の中で、いろんな事がぐるぐる回転している。思考が、全く定まらない。正常な思考が、できない。
しかし、そんな中、ある1つの考えが頭の中に浮かんでくる。とても恐ろしく、狂気じみた考え。

「俺が、油断していなければ……俺が……!」
(いや、これなら……別に……いけるかもしれない……)

――今からでも、ゲームに乗って、願い事でTさんを蘇生する。自分にそれができるかは分からないが。
しかし、できるかどうかはやってみない事には分からない。成功する可能性もあるし、失敗する可能性もある。
もしかしたら、自分は壊れてしまったのかもしれない。いきなり、こんなことを思いつくなんて。

(別に壊れたっていいんだ……自分は)

例え自分が壊れようと、必ずやり遂げてみせる。参加者全員を、敵に回したとしても。しかし、焦りは禁物だ。
上手く立ち回らなければ、必ずやられてしまう。人目に付き過ぎると、警戒されてしまう。
とはいえ、奥手に回っても、強者が残ってしまう可能性もある。そんな相手は、倒せそうにない。

(やってやる………でも、もう1人のTさんだけは……殺せない)

やはり、もう1人のTさんは殺せない。こっちも、また本物のTさんなのだ。
とはいえ、最後に残れるのは1人だけ……いつかは、Tさんを殺めなければならなくなってしまうだろう。
「Tさん」を助けるために、「Tさん」を犠牲にする……自分に出来るかどうかは分からない。

「遺体をこのままにはしておけないな……もう1人の俺の持ってた物は、俺のデイパックに入れて持って行こう」
「……Tさん、申し訳ありませんが、今から僕1人で行動させてもらいます」
「何を言ってるんだ、危険だぞ!」
「分かってますよ、それくらい。それでは……」
「あっ、おい待て!」

Tさんの制止を振り切り、非常口から外に出た。
追いかけてくるであろうTさんを振り切るために早足で非常階段を駆け降り、一気に下まで降りる。
そして後ろを振り返るが、Tさんは追いかけて来ていなかった。心の底から、ほっとする。
自分の考えを話したら、絶対制止させられるのが目に見えていた。だから、あえて単独行動を取った。

(ごめんなさい、「Tさん」。自分は……もう、Tさんの傍にいることはできません……)

自分でも気づかぬ内に、心の中を闇と狂気が満たして行く。
その中にはもう――光は存在していなかった。


【一日目・黎明/E-6:病院・非常階段付近】
【◆xzYb/YHTdI@非リレー書き手】
[状態]:健康?
[装備]:ウージー(25/25)、ネコ耳@絶体絶命都市2
[所持品]:支給品一式、鼻ヒゲメガネ@絶体絶命都市2、ウージーマガジン×3
[思考・行動]
基本:ゲームに乗り、優勝してTさんを蘇生する
1:……ごめんなさい、Tさん
2:書き手さん達も……倒すしかない。Tさんも……いつか……






「あっ、おい待て!……行っちまった」

止める間もなく、xzは非常口から外に飛び出して行った。最初は、引きずってでも連れてこようかとも思っていた。
だが、あいつの目を見た瞬間、やる気が無くなってしまった――あの襲撃してきた奴と、同じ物を感じたからだ。
これは推測でしか無いが、おそらくもう1人の俺を生き返らせでもしたいのかもしれない。

(……そんな事しても、もう1人の俺は喜ばない。絶対にな)

今頃、この病院を離れどこかに向かっているのだろう……参加者を探しに。
誰かを殺めてしまう前に、光弾を撃ち込んででも止めたい。だが、何処にいるかが分からなくなってしまった。

(誰も、殺めずにいてくれればいいんだが……)

xzの事も気になるが、もう1人の俺が最期に言い残した言葉も、気になる。
―――『……最期に、1つ……首輪に、は……』
首輪に、何があるんだろうか。もしかして、もう1人の俺は、自分が気づかなかった何かに気づいていたのか?
しかし、それを最後まで言えずに、もう1人の俺は、力尽きてしまった。

(何があるんだ、首輪に……分からない……)

せめて、首輪を外せれば。
首輪を外してしまえば、中身を調べられるだろうに。

(しかし、自分には首輪は外せない……遺体も、このままにはしておけないしな)

もし霊安室があるなら、そこにもう1人の俺の遺体を安置しておきたい。そこなら、遺体を荒らされる心配も少ない。
……まあ、全く安全と言う訳でも無いが。こんな状況だからこそ、誰かが遺体を荒らす可能性もある。

(……自分で自分の遺体を背負うなんてな……こんな所でなんだが、安らかに眠れよ)

【1日目・黎明/E-6:病院・2F】
【Tさん@途中参加者】
[状態]:健康、血濡れ
[装備]:なし
[所持品]:支給品一式、不明支給品×2、Anabiotics@S.T.A.L.K.E.R.×5
[思考・行動]
基本:この実験とやらを壊す。
1:……もう1人の俺を、霊安室まで持って行く
2:xzが心配だが……首輪のことも気になる
※病院2FにイングラムM10が落ちていて、Tさんの血の海が広がっています

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最終更新:2011年09月25日 23:32
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