「………何とか………逃げ切れたっぽいですね………」
「…………はぁ………はぁ………そう、だな…………」
自分も速水さんも、お互いに息を切らしている。無理もない、ずっと走り続けていたのだから……。
正確な距離は分からないが、かなりの距離があったはずだ。
その上、速水さんはWYG氏を背負って走っていたのだから、自分以上に疲れているだろう。
長時間の休憩を挟みでもしないと、今後の行動に支障が出てしまう可能性が出てきてしまう。
「………中、入りませんか?外より、良いと思います」
「そうしよう……」
ふらつく足をなんとか動かし、建物の中に入っていく……と同時に、鼻をつく異臭。
生で嗅いだことはあまりないが、これは間違い無く血の臭い。
もしかしなくても、この中で誰かが殺されてしまったのは間違い無い。その人が、誰かは分からないけれど……。
しかし、もしその人を見つけた所で、自分にはどうすることもできない。せいぜい、冥福を祈る事しかできない。
ただでさえマイナスな方向に気分は向いていると言うのに……さらに、気分は沈んで行く。
(………私、なんでこんな所にいるんだろ………)
不意に、そんな思いが頭の中に浮かび上がってくる。
昨日、眠りにつく前までは、平和な日常を送っていたのに、今はいつ死んでもおかしくない状況の中にいる。
そう考えると、何とも言い表せない悲しみがこみあげて来て、ついつい涙がこぼれてしまう。
……自分も、書き手としてキャラクターの死を書いたことはあるが、それはあくまで創作だ。
現実に死を目の当たりにするのとは、天と地程の差がある。
(………)
デイパックから水を取り出し、少し飲む。少々ぬるいが、そんなことを気にする余裕なんてない。
本当は、何も口にする気にはなれないのだが、走ったおかげでかなり汗をかいている。
失った水分くらいは、ちゃんと補給しておかないといけないだろう……。
できれば、汗で濡れた服も着替えておいた方が、動きやすくていいのだろうが、生憎着替えなんてない。
病院内を探せば、入院患者の服やらは見つかるだろうが、探しに行ける気力は持ち合わせていない。
「………この人、まだ起きないな。そろそろ目覚めてもいいころなんだが」
「そうですね………でも、いつか目覚めますよ」
自然に目覚めるのを待って、起きてからあそこで何が起こったのか、今まで何をしていたのか聞けばいい。
そうすれば、何故あんな事になっていたのかも分かるし、これからどうするかも決めることができる。
――このままだと、当分目覚めそうにはないが……気絶しているとはいえ、結構度胸があるんだなあ、と思った。
まあ、WYG氏だって好きで眠っている訳では無い。ただ、気絶しているだけだ。
もしかしたら、とんでもない悪夢にうなされているかもしれない。表面上は、何の変化もないが。
……どんな悪夢であろうと、この過酷な現実より、いくらかはマシだとは思うが。
そんな物があるなら、一度お目にかかりたいくらいだ……だからと言って、別に見てみたいと言う訳ではないけれど。
(……いつか目覚めるとはいえ、できるだけ早く起きてくれるといいんですが)
◆
ひんやりとした空気。静まり返った空間。そして、どこか霊的な物を感じる部屋……霊安室。
中央にある机のような場所に、「自分」の遺体を乗せ、その上から布をかけて、手を合わせる。
「………すまないな……俺」
出来ることなら、手厚く弔いたい所だが、生憎今はそんなことできそうにない。
今出来ることと言えば、せめて遺体が荒らされそうに無い場所に移して、冥福を祈ることくらいだ。
……自分の無力さに、腹が立つ。
自分は今まで、何のために親父に従事していたのか。
何のために、自分は異能の力を持っているのか。
「くっ……」
拳を強く握りしめ、爪が掌に食い込む。
皮膚が切れ、血が流れ出てくるが、もう1人の自分が感じた苦痛に比べれば、屁でもないだろう。
しかし、いくら悔やんでもいくら悲しんでも、失われた命は絶対に戻ってはこない。絶対に……。
大事な物は、失ってから分かると良く言うが、今の状況がまさにその通りだった。
もう1人の自分は命を落とし、xzはどこかへ行ってしまった……。
一体、どうしてこんなことに……。3人で、このゲームを破壊しようと思っていたのに……。
でも、自分は諦めない。例え、両腕を砕かれようが、生きている限り何度でも立ち上がってやる。
絶対に、負けてなるものか。絶対に、負けない。こんな下らない物に、負けてたまるか――!
(……行くか)
こんな所で悪いが、少し待っていてくれ、もう1人の俺。
必ず、このゲームを破壊して、お前を弔うから……少し、少しだけここで待っていてくれ。
志を心に強く刻み、霊安室を後にした。
(しかし……どうするかな。全く、ゲーム破壊の目途も立たないし)
地下から1階に上がり、ロビーに向かう通路を警戒しつつ歩く。
人の気配は感じられないが、用心するに越したことはない。なにしろ、自分は今丸腰なのだ。
多少の敵なら、光弾で応戦することも出来るだろうが、さっきも見たように銃を携行している奴も、ここにいる。
銃相手では、流石に光弾では速度で勝てない。それに、殺傷力でも銃の方が上回る。
(この力は、人を殺すための物じゃない……だから、対人殺傷力はあまりない……)
相手が、霊やそれに準ずる物なら、かなりのダメージを与えることも出来るかもしれない。
だが、前にも分かったように、今自分には何らかの制限が課せられている。
つまり、力の上限が強制的に下げられている、と言う事だ。これがどういうことかは、もはや説明するまでもない。
「……首輪……やっぱり、これに何かが……?」
自分の首に巻き付いている忌わしき首輪。
もう1人の俺は、首輪についてなんらかの仮説を立てていたようだったが……その仮説を知ることは、もうできない。
しかし。
首輪に仕掛けがあるのは間違い無い。もう1人の俺の遺言から、それだけは何とか予想できた。
しかし、肝心の仕掛け本体については、何も分からない(……もう1人の俺を責めるつもりはない)。
「…………っ!?」
不意に、何かに足を取られて転んでしまう。
一体何だ、と思い引っかかったであろう場所を見てみると……デイパックが、1つ転がっている。
誰かが落とした物か、それともこれが放送で言っていたデイパックなのか、それは分からない。
どちらにしても、自分にとって役に立つ物が出てくるかどうかなんて、開けるまでは判断しかねる。
一応開けている時に襲い掛かられたりしないように、近くの診察室に入る。
(出来るだけ、いい物ならいいけれど)
そう思って取り出したのは、1枚のDVD。タイトルは、「3rdダイジェストムービー」とか言うらしい。
一体これは何なのだろうか?この3rdとは一体何を指しているのだろうか……。
何かの映画の総集編のような物なのだろうか。映画だとしても、映画のタイトルが書かれていないのはおかしい。
……とにかく、内容は現時点では確認しようがない。どこかでDVDを再生できればいいのだが。
そう思って、DVDを自分のデイパックの中に仕舞った時、
(……気配か)
病院内に何者かの気配を感じた。位置まではわからないが、そう遠くはないだろう。
気配を気取られないように、誰の物か分からない気配の元へ忍び寄る。
……相手が自分以上の手練れなら、気配を少し消したところで気づかれてしまうだろう。
だが、感じるのは気配のみで殺気は感じられない。少々楽観的だが、おそらくゲームに乗っていないのだろう。
(乗っていないなら、首輪の事を話すこともできる。信じてくれるかは分からないが……)
流石にこんな突拍子もない話を、すんなり信じてくれる人はいないだろう。
それでも、話してみる価値はあるかもしれない。もしかしたら、新たな可能性も開けるかもしれない。
「………この人、まだ起きないな。そろそろ目覚めてもいいころなんだが」
「そうですね………でも、いつか目覚めますよ」
話し声が、不意に耳に入ってくる。声色からして、男女のペアだろうか?
さらに、声から結構な疲れを感じる。長い間歩き続けて、ここに辿り着いたと言った所だろう。
……これ以上、隠れて様子を伺う必要もないだろう。そろそろ、向こう側に行ってみるか……。
「……ちょっといいか?俺は怪しい奴じゃない……」
◇
「……ちょっといいか?俺は怪しい奴じゃない……」
突然、自分達に声をかけてきた人。
顔を見てみたものの見覚えはない。一体、この人は誰なのだろうか?だが、どこかで見た気もする……。
一体、どこで見たのだろうか?そこら辺の記憶があいまいで、良く思い出せない。
……名前を聞いてみようか。そう思って聞こうとした矢先に、
「名乗った方がいいか……俺は……Tさんだ」
と、相手の方から名乗られてしまった。
相手が名乗ったなら、こちらも名乗った方がいいと思って、こちらも名前を名乗った。
「……◆8nn53GQqtY、です」
「速水祐司です」
自分の名前に、いささか違和感を感じたようだったが、すぐにその表情は消えた。
それよりも気になる事は……この人が、今確かに自分のことを「Tさん」だと言った。
……この人が、本当にあのTさんなのか?もしかして、名前を騙る偽物である可能性もある。
しかし、今の段階ではこの「Tさん」が本物か偽物か、自分には確かめる術はない。
いくら聞いたところで、相手は自由に言い逃れができるし、際限無く嘘をつくことだって可能なのだ。
「それで、Tさんはここで何を?探し物でも……?」
「……本当は、俺以外にも2人いたんだ。でも、1人は殺されて………」
「!!」
と言う事は、病院に入って臭っていた血の臭いは、その殺された人の物だったのか……。
「もう1人は、その時に別れてな……」
「そうですか……失礼かもしれませんが、その2人の名前を教えていただけませんか……?」
長い長い沈黙。
これを聞くのが、Tさんにとって辛いことだと言うのは十分理解している。
だが、気になるのだ。
もし、殺された人が、自分の親しい人だったら。もし自分の知り合いなら、放送で死を知るよりこちらの方が……。
「殺されたのは…………もう1人の俺、だ」
「……え?」
思わず、おかしなトーンで聞き返してしまう。もう1人の俺、とは一体何なのだろうか?
言葉通り考えるとするなら、もう1人の俺とは「Tさん」と言うことになるが……とても信じられない。
……疑問をぶつけるのは、「別れた方の仲間」が誰か聞いてからにすることにした。
「それで……別れた仲間は……?」
「ああ……◆xzYb/YHTdI……だ」
「……xz氏……!?」
xz氏はTさんと共に行動していたのか……。
でも、何故別れてしまったのだろうか?Tさんの強さがあれば、1人でいるよりよほど安全なはずなのに。
考えたところで、その時のxz氏の気持ちを知ることは出来ない。殺されてなければいいのだが……。
知人が死ぬなんて、考えたくもない。
「知り合いなのか?」
「ええ……大丈夫でしょうか……」
「分からない、だが危険かもしれない……もう1人の俺の死に、かなり動揺していたからな」
なんだか、胸騒ぎがする。
もしかして、xz氏がとんでもないことをしてしまうのではないか……例えば、ゲームに乗ってしまう、とか。
もしそうだとしたら、できるだけ阻止したい。知り合いが人を殺めるなんて、見過ごす事はできない。
……あくまで胸騒ぎがするだけで、乗ってしまったかは分からないが、それでも心配なのは変わらない。
「……さっき殺されたもう1人の俺、って一体……」
「うう………」
さっきの事を聞こうとした時に、うめき声が。
……どうやら、やっとWYG氏が目覚めたようだ。これで、作戦や計画を立てることができる。
それに、さっきの事を聞いてみたい。あの時、何がどうなってあんな状況になってしまったのかも気になる。
本人にとってはつらい事かもしれないが、時間をかけてでも聞きだしたい。
「……大丈夫ですか?」
「心配しなくても大丈夫だ、もう普通に動けるよ……ところで、これは8n氏のデイパックか?」
「ええ、そうですけど」
「そうか……よし……」
そう言うとWYG氏は自分のデイパックから素早くロケットランチャーを取り出し、構えたまま後ずさりしていく。
一体どうしたのだろうか……。まさか、持ち逃げでもするつもりなのだろうか?
まあ、さっきまでWYG氏は丸腰だったのだ、武器を手に入れたいと言う気持ちは分からないでも無いが。
「それじゃ、さよなら」
「えっ?」
その瞬間、轟音と共に、自分の方向に、ロケットランチャーの弾が高速で向かって来ていた。
……自分は走馬灯のようなものを見た。今まで自分の人生であったことが、めまぐるしく駆け巡って行く。
懐かしい子供の頃。いろんな体験をした学生時代。そして、今の自分……。それらが、一斉に……。
ああ、自分はここで死んでしまうのか。何も成し遂げられずに、ここで倒れるのだろうか?
あれほどのスピードで飛んでくる弾頭をいまさらかわすなんてことは、とてもできない。
それに、もしかわせたとしてそれがTさんか速水さんか、どちらかに当たってしまったらどうする?
……弾頭は目と鼻の先。もう、決断している暇もない。
「WYG氏―――――」
◇
「―――――」
爆音とともに、8n氏のいた場所から火と衝撃波が撒き散らされる。
この爆発では(確認するまでもないだろうし、確認する術もないが)まず生きてはいないだろう。
それよりも今気にすべきことは、今の爆発でいろんな場所に炎が燃え移ってしまったと言う事だ。
幸い、自分の今いる場所は病院のすぐ近くなので逃げるのには苦労しないが、あの2人はどうするだろうか?
出口がここだけではない以上、他の場所から外に出るだろうが……その後、自分を追って来るだろう。
「8nさん!……くそっ!!」
「この炎じゃどうしようもない……一旦外に!」
相手が遠回りしている間に、自分は悠々と病院から逃げ出す。
こうしている内にも、炎はどんどん勢いを増して、辺りにある物に燃え移って、どんどん燃やして行く。
……これほどの火事なら、消防車でも持ってこないと鎮火するのは難しいだろう。
現に、さっきからスプリンクラーが懸命に消火活動をしてはいるが、焼け石に水。全く火の勢いは衰えていない。
(……病院がなくなるのは痛いが、仕方無い。これも必要な犠牲として考えるか)
【一日目・黎明/E-6:病院】
【◆WYGPiuknm2@非リレー書き手】
[状態]:健康、精神ダメージ(小)、罪悪感
[装備]:ロケットランチャー@コマンドー
[所持品]:支給品一式、予備弾
[思考・行動]
基本:やはりゲームに乗る
1:今の内にここを離れる
【◆8nn53GQqtY@非リレー書き手 死亡】
死因:爆死
「8nさん!……くそっ!!」
「この炎じゃどうしようもない……一旦外に!」
Tさんと名乗った男に促されるまま、ロビーから走って離れていく。
8nさんのことが気にならない訳ではない。だが、あの爆発では、とても助からないだろう……。
それに、もし助かったとしても、治療できないほどの傷を負うのは目に見えている。
そんな状態では、いたずらに8nさんを苦しませるだけだろう。
「他の出口は……」
「確かこっちに急患用の入り口があった筈だ!こっちから出るぞ!」
「分かった!」
Tさんに誘導されるがまま、急患用の入り口から外に飛び出す。
そのまま病院の外壁に沿って、走って正面の入り口の方まで向かう。
(もし、相手がこうやって追って来るのを想定して待ち構えていたらどうしよう……)
その時は……どうしよう。あれだけ強い武器を持っているのだ、使わない訳が無い。
またこちらに向かって撃ち込まれたら?今度は病院内と違って屋外なので、外れる可能性も上がるかもしれない。
それでも、かなりの脅威なのには変わりが無い――。そんな事を考えながら、一気に表に踊り出る、が。
「…………誰もいない」
「逃げられたようだな………」
……既に人の気配は無く、あるのは病院内に渦巻く炎の音と非常ベルの音くらい。
そんな中、自分ができることと言えば、地面に膝をつきただただ項垂れることだけだ……。
【一日目・黎明/E-6:病院:正面玄関付近】
【速水祐司@絶体絶命都市2】
[状態]:健康、肉体疲労(中)、悲しみ
[装備]:組長のバット@龍が如く2
[所持品]:支給品一式、不明支給品(確認済み)
[思考・行動]
基本:何故こんなことになっているのか調べる。
1:8nさん……
【Tさん@途中参加者】
[状態]:健康、血濡れ、悲しみ
[装備]:なし
[所持品]:支給品一式、不明支給品×2、Anabiotics@S.T.A.L.K.E.R.×5、3rdダイジェストムービー@その他
[思考・行動]
基本:この実験とやらを壊す。
1:……くそ……
2:xzが心配だが……首輪のことも気になる
※病院2FにイングラムM10が落ちていて、Tさんの血の海が広がっています
※病院が火事になりました。
≪支給品紹介≫
【3rdダイジェストムービー@その他】
Tさんが病院内で見つけたデイパックに入っていたDVD。詳細不明。
最終更新:2011年11月14日 21:00